「グローバルリーダーを育てる課外活動の価値」 ―プリンストン大学の取り組みから― 講師:アリソン・リッチ氏(プリンストン大学学生生活部体育局副局長) こんにちは、ありがとうございます。 私をお招きいただき、また、今週はプリンストン大学フットボール部のためにプログラムを 催していただき御礼申し上げます。私たちは、プリンストン大学のチームのために、このすば らしい日本への遠征を計画し、また本日のシンポジウムを企画するために費やされたすべての 努力と時間に敬意を表します。 関西学院大学とプリンストン大学という、名誉ある 2 大学には多くの共通点があります。私 たちは共には学生が、グローバル社会での市民・指導者になるべく、全人教育を行うことに力 を注いでいます。 歴史と共通の背景 関西学院は日本で最も名誉ある私立大学の 1 つです。1889 年に医学博士でもあった、アメ リカ人牧師ウォルター・ラッセル・ランバス先生によって設立されました。長い歴史の中で規 模、教育分野、そして目標を拡充してきました。日本のすべての大学の中でトップクラスのレ ベルの大学のひとつです。 プリンストン大学は、1746 年という今日とはアメリカも異なった国だった時代に設立され、 4 番目に古い大学で、現在、アメリカ最高ランクの大学です。[植民地時代にニュージャージー 州で一番、大きな建物を持っていたので]独立直後にキャンパスが合衆国の首都として機能した こともあります。 そして長い間に、 われわれの社会とプリンストン大学も変化し、学生数は 5200 人を超えるまでになり、最も重要なことに 1969 年からは男女共学になりました。しかし、学 生の教育を重視し秀逸さを目指すという核となる理念は揺るぎません。 私たちの使命とモットーは両校共通の理念と中心となる価値観を反映しています。関西学院 は、キリスト教主義に基づいた学びのコミュニティであり、学生が人生を通して担うべき使命 を見出し、創造的で、情熱と高潔さをもって社会を変革することによって、「奉仕のための練 達」というモットーを実現できる世界市民になれるよう教育しています。 プリンストン大学は、クリストファー・アイスグルバー学長は次のように言っています。 「わ れわれの少し強欲だが心から求める目標は、世界有数の研究大学でありなおかつ優秀な[学部生 に実学ではなく教養を深める教育を行う]リベラルアーツカレッジでもあることだ。そのように 成ったとき本学は特別かつ多様な場となるであろう。しかし、プリンストン大学の中核は勉強 に熱心で才能あふれる学生、卒業生、教員、職員、支援者など、この大学を何よりも愛してく れる人々である。彼らは排他的でない寛容なコミュニティをまずこのキャンパスに築くが、そ れを国中にそして世界中に拡大し、大学のインフォーマルなモットーである『プリンストンは アメリカ合衆国だけでなく世界にも貢献する』を実践しようと努める。」 関西学院の宮原明理事長は「21 世紀では、情報、知識、知恵から生み出される『ソフトパワ ー』が人類の進歩に大きな価値を持ってくる。もし継続した社会発展が求められるならば、洗 練された知性がこれからますます求められる。関西学院のような、高等教育・研究機関の役割 はきわめて重要になるであろう」と述べておられます。 ですから、私たちは地球の反対側にいますが、共通の価値観、使命、目標を持っています。 そのことを知ったことで私は大変勇気づけられ感銘を受けています。そして、将来の協力関係 の扉が開くことを希望しています。 両校のフットボールのチームは優秀な学生かつ優れた選手から構成されていますが、2001 年に対戦しています。現在のアシスタントコーチは当時、スタッフとして来日しています。彼 は、すばらしい文化・教育経験であり、楽しい思い出だったと語っています。今回の訪日も今 日までのスケジュールで同じことを与えてくれています。 そして、 本日のシンポジウムと楽しくもまた興奮するフットボールの試合で、関西学院の 125 周年の記念事業をお手伝いできることは光栄に存じます。私たちは関西学院の歓迎に感謝する とともに、記念事業に参加させていただいたことをありがたく存じます。そして、土曜日の試 合を楽しみにしています。 その試合は両校が共有する競争心とスポーツマン精神の理念を示すものになるでしょう。こ れらの理念と両校のチームがグランド内外でのふるまいは、両校の目指す使命全体を映し出し たものです。 グローバル化 私が 1990 年代初めに大学を卒業して以来、世界はずっと小さくなったように思います。私は 初めて自分の電子メールのアカウントを持ったときのことをよく覚えています。コンピュータ で手紙を書いて、送信し、指定した受取人のところに届くことの感動は忘れられません。メー ルは郵便局経由の手紙よりずっと早く相手に届きますから、あまりに遅い通常の郵便は「カタ ツムリメール」と呼ばれるようになりました。 しかし、電子メールをこのようなものにした、また今でも進歩させているのは、インターネ ットです。インターネットによって、通信は瞬間的にかつ世界的なものになりました。私には 東京で働いていた友人がいましたが、インターネットのおかげで、時差を気にして夜中・早朝 など不便な時間に電話をかける必要がなくなりました。しかし、インターネットは遠くにいる 友人・家族との結びつきを維持したい人にもすばらしいものですが、事業・産業への応用はと てつもないインパクトでした。 世界全体が瞬時にアクセス可能になりました。ビジネスは世界視野で行われるようになりま した。同僚や顧客と今までになかったようなやり方で一瞬で連絡がとれます。ビジネスの顧客 や取り扱い分野が広がることに加えて、インターネットは情報のアクセスの仕方を変えました。 突然、大量の情報が私たちの手の届くところに来たのです。 「ググる」という動詞ができる まえに私たちは何をしていたでしょうか。私はほとんど覚えていません。今日、私が何か調べ たいと思ったら、コンピュータかスマホを使ってネット上で答を見つけます。 このことはすべてのことが可視化される[ネットを通して不特定多数の他人に見られる]ので、 実業家、政治家などは透明性、説明責任、に敏感でなければならないということも意味します。 人々は自宅を出ることなく、会話したり交流したりできます。このような変化は単に継続する だけなく加速します。本学のスポーツ選手の 4 年生は私に、「新入生と 4 年生の違いは、新入 生はラインや SNS を物心ついた時から使っているが、4 年生はいつ導入されたか覚えている」 と言いました。この違いは私たちに年取ったと思わせませんか。 もう1つの興味深い事例を紹介しましょう。私たちが日本に到着して関西学院の関係者とス ケジュールの最終確認を始めた時、選手も互いに自己紹介できたら良いのにと話していました。 しかし、実際には選手同士は数ヵ月も前からフェイスブックを通して交流していました。彼ら を私たちより数ヵ月も先行していたのです。 学生が情報化社会に自ら対応しているとはいえ、教育者として私たちは彼らが単に新しい職 業に就けるようにするだけでなく世界市民・指導者になるために必要なツールを身につけるこ とを手助けしなければなりません。 関西学院のルース・グルーベル院長は「世界市民は自分の行動が世界の人々や環境に与える 影響力を認識している。彼らは地球と人間社会を理解し、世界をよりよいものにする責任を担 う」と言われています。これらのことは学生が在学中に私たちとともに学んでほしいことです。 このシンポジウムは学生が責任ある世界市民・指導者となるために教育する重要性を認識し、 また両校がそのために行っていることの重要な方策について議論するために企画されました。 私の見解は過去 20 年の高等教育の管理・法務・政策担当者としてのさまざまな大学ならび に全米大学スポーツ協会(National Collegiate Athletic Association, NCAA)での経験をもと にしています。ただ、本日、私はプリンストン大学で行われていることを中心にお話しします。 世界最高峰の大学に、私は卒業生としてまた職員として関われたことを誇りに思っています。 プリンストン大学 プリンストン大学の教育における使命は、学生が有意義な人生を送り、将来の挑戦への準備 をできるようにすることです。この使命は教室の授業だけで達成できるものではありません。 学生は教室の外で、通説に挑む、自分自身・自分の周りのコミュニティや世界を理解する、こ れらから学んだ知識をすべての市民に明るい将来をもたらすために利用するために課外活動 に参加しなければなりません。 スポーツはプリンストン大学において伝統的に主要な課外活動でした。多くの方がご存じの ように、1869 年 11 月 6 日に最初のアメリカンフットボールの試合がプリンストン大学とラト ガース大学との間で行われました。1896 年、最初の近代オリンピックにおいて、プリンスト ン大学の学生だったロバート・ガレット(1897 年卒)は円盤投げと砲丸投げで金メダル、幅 跳びで銀メダル、高跳びで銅メダルを獲得しました。これらの選手は質・量ともに充実した練 習やチームワークの重要性を学ぶとともに、学士号に向かって勉学にも励みました。 この時代から、プリンストン大学はスポーツで大変優秀な成績を収めるとともに、スポーツ を大学のコミュニティに一体化することに成功してきました。体育会は、1972 年以来今日ま で 43 年間、毎年少なくとも 1 つの種目で全米選手権優勝を果たしてきました。プリンストン 大学では現在、38 種目のチームで 1100 人以上の学生がプレーしています。これは全学部生の 22%に相当します。何人かはプロになりますが、多くはスポーツでの経験を他の分野で成功す るための努力の過程の中で活かしています。スポーツの課外活動に参加することを通して学ん だ経験、磨かれた技能、築かれた人間関係は世界の産業界の指導者としてまた社会の改革者と しても大いに役立つものです。 教育哲学 プリンストン大学は「発見と知識の伝搬と理解において卓越した秀逸さを持つ世界的に著名 な研究大学」ですが、これは教育、学習、研究を含みます。しかし、プリンストン大学が特別 なのは、質の高い学部生教育への取り組みです。先ほどアイスグルーバー学長の引用を紹介し ましたが、プリンストン大学は主要な研究大学の強みを傑出したリベラルアーツ教育に結びつ けています。 プリンストン大学の教育哲学をご理解いただく時にぜひ注目していただきたいのは、プリン ストン大学の教育は講義と少人数指導から成り立っていることです。主にオックスフォード大 学やケンブリッジ大学の個人指導を参考にしたものですが、学生の学習に主体性を持たせるた めに 1905 年に当時のウッドロー・ウィルソン学長によって導入されました。少人数指導は特 定の授業についての話題や関連書物について深く掘り下げて、少人数クラスで毎週、討論しま す。この方式で、学生は講義を通して与えられる、現在 12 人のノーベル賞受賞者を擁するプ リンストン大学教員の専門知識の理解を深めるとともに、自分自身の理解、考え方、意見を少 人数の仲間と討論して互いの意見を戦わす機会を得ます。批判的思考、コミュニケーション能 力の向上を高めるとともに、教授からの重要な授業内容が講義として発信されたら、それをた だ受動的でなく自分自身で学ぶことで理解することができます。自分自身の考えを吟味して議 論して、それを既存の文献、歴史的事例、政治的理論などと関連づけることによって、学生は 自信をつけコミュニケーション能力を向上させます。 プリンストン大学はまた学生が自分自身の教育目的の向上を助けるために、個人研究を重視 しています。プリンストン大学の学生は皆、3 年生のときレポート 2 本、4 年生の時は博士論 文のようなしばしば 100 ページを超える卒業論文を 1 年かけて作成し、プリンストン大学での 教育の総仕上げをします。卒論作成は学生が自分の選んだテーマについて、指導教授から 1 対 1 で指導を受け、オリジナルな研究を行う機会を与えてくれます。同時にこの経験は学生にと って将来の創造性を発揮し、知的に活動し、精神的にも強靭に研究を行い、新しい挑戦を克服 する能力を養ってくれます。私自身も学部生とときの経験がまずロースクールでさらに博士論 文の作成で大いに役立ちました。 個人研究は批判的思考力、論理的推論力、問題発見能力を養ってくれます。また、仮説や理 論を考え、それを証明または反証することへの自信も身につきます。多くのプリンストン大学 の学生は大学院に進学して、医学、法律、経営学などなどの特殊な分野でのスキルを高めます。 これらのスキルは学生の就職に役立ちます。雇用者はプリンストンの学生は「即戦力だ[Plug and Play:電源を入れたらすぐに使える]」と言ってくれています。従業員に株取引の仕方は教 えられますが、いかに考え、いかに学ぶかを教えるのは難しいです。プリンストン大学の学生 はそれを身につけているので、就職のときに高く評価されています。 グローバル化 プリンストン大学はグローバル化の重要性を理解し、秀逸な教育と社会貢献という他の使命 に劣らぬほどの努力を持って学生が模範的な世界市民や指導者になることを助けます。 学生に世界的視野を持たせる最も有効な方法は、海外で勉学、仕事、旅行をする機会を与え ることです。入学してくるプリンストン大学の学生は、 「橋渡しの学年(bridge year) 」という のを持つことができます。1 年生としての勉強開始を延期して、国際的な奉仕活動や文化交流 に時間を使うことができます。 学部生としてプリンストン大学の学生は様々な国への留学、個人研究や専攻科目での課題と しての海外での研究への参加、提供されている 21 もの外国語の履修、国際的なテーマの授業 の履修、キャンパスでの知的活動への参加を経験します。卒業する際には、プリンストン大学 の学生は大学の関係する国際的奉仕活動、インターンシップ、交流に参加することができます。 多くのスポーツ選手もキャンパスを離れオリンピック大会など国際的な競技大会に出場す ることでグローバル化しています。2012 年のロンドンオリンピックでは 18 人のプリンストン 大学出身者が 4 つの国の代表として参加しました。彼らは合わせて 7 つのメダルを獲得してい ます。もしプリンストン大学が1つの国ならば、メダル獲得数は 204 の参加国の中で 31 位に なります。これらのスポーツ選手は自分自身と大学のためにプレーしています。他人に敬意を 払い、世界市民の意味についてより実践的な学びを経験します。 正規カリキュラムと課外カリキュラム プリンストン大学は教室の外での活動や勉学の機会に参加するよう学生に促しています。文 化、教育、社交、奉仕、スポーツなどの多彩な活動分野がプリンストンの学生そして教職員に 提供されています。このことによって学生がプリンストン大学のコミュニティの一部となり、 個々人の大学での経験が彼ら自身が教室内外で必要とするものに統合されるよう、大学は手助 けします。プリンストン大学はキャンパスでの生活を、大学の統治構造の中で教育の使命と別 ものとして扱うのではなく、教育モデルの中に組み込みます。このことによってプリンストン 大学は、[通常の教室での授業である]正規カリキュラムと[スポーツ・音楽のクラブ活動やボラ ンティア奉仕活動など]課外カリキュラムの間のすべての側面の橋渡しと、指導力、市民性、個 人としての成長、知的・文化的多様性への敬意を養う機会を与えてくれる教育コミュニティづ くりを支援します。 キャンパスでは正規カリキュラムと課外カリキュラム活動との間には多くの関係がありま す。プリンストン大学は学生、教員が参加する学際的な教育、研究、ならびにプロジェクトを 実行するさまざまな検討会、研究所、センターがあります。これらに参加することで学生はさ まざまな専門知識を学びながら、勉学での関心を自身の価値観や奉仕プロジェクト、その他の 自分以外の外部世界への関心と連携して追い求めることを可能にします。 毎年、プリンストン大学は卒業直前の学生にアンケートをします。昨年、1200 人の 4 年生 を対象にした調査では、90%が在学中に少なくともひとつの課外カリキュラムに参加したこと がありました。しかし、多くの学生が 2 つ以上の課外カリキュラム(音楽、演劇・ダンス、自 治会、スポーツ、新聞・文芸出版、宗教活動、提言委員会などなど)に参加しています。それ は回答数が全学で 5000 人強なのに 6000 にものぼる肯定的な解答が得られたことからも明ら かです。 プリンストン大学は教育の使命の1つとして芸術教育にも力を入れています。ルイス芸術セ ンターは最近完成した学術施設で、創造的著作、ダンス、演劇、映像美術のプログラムを1つ の屋根の下で行っています。このセンターの学際プログラムは学生が本職の芸術家と協働する ことも可能にしています。 他の多くの学科は芸術の批評と新作の作品の創造によって行っています。学生は創造的芸術 作品を作成することで卒論の代わりとすることができます。中でも建築学科・芸術学科・考古 学科は歴史的・理論的な視点を提供します。さらに、多くの分野や言語学科では芸術を文化の 議論に取り入れます、さらに芸術の知識、少なくとも芸術への関心はバランスの取れた人生に 重要な役割を果たします。 いくつもの課外カリキュラムに参加している学生にとっての相乗効果について、最近の週末 に起こった事例を紹介します。スポーツ選手だった学生は音楽クラブにも所属していました。 土曜日にキャンパスから 3 時間離れたところで試合がありました。金曜日の夜に音楽クラブの コンサートで出演しました。それから、夜に 3 時間運転してホテルに着き、土曜日の午後には スポーツの試合で大活躍します。それから運転してキャンパスに戻り土曜日の夜と日曜日の午 後のコンサートに出演しました。彼がスポーツの監督にコンサートにも出演させてくれたこと のお礼を言いに行ったところ、監督は「選手というのは自分が幸せなときにプレーも優れてい る[だから音楽活動も許したのだ]」と言ったそうです。このようなことはプリンストン大学で は例外的ではありません。プリンストン大学での教育の成果で私たちがもっともしばしば言及 することは、学生はバランスの取れた「全人」であり、教室、グランド、舞台で活躍する文武 芸すべてに秀いでているということです。 寮の生活 キャンパスにおける正規カリキュラムの環境と課外カリキュラムの環境との関係は、寮生活 に観ることができます。プリンストン大学は寮のコミュニティと学業を密接に統合する点にお いてユニークです。学部生の 98%以上がキャンパスに住んでいます。これはアメリカの大学の 中でも特に高く、私が以前に勤めた大学では学生は近隣の賃貸アパートに住み、彼らのキャン パスでの大学の文化・課外活動とは関係がありませんでした。 プリンストン大学では寝起きを共にする 6 つのカレッジがあります。カレッジは学部生の生 活を豊かにするため勉学だけでなく社会的プログラムを提供します。各カレッジは寮、食堂、 共同スペース、学習スペース、芸術・芸能のプログラムから成り立っています。カレッジは大 学の行事や学内スポーツで互いに交流しています。コミュニティとしてカレッジはプリンスト ン大学の生活を定義づけてくれます。多くの大学の寮とは異なり、プリンストンのカッレジの 寮はさまざまなバックグラウンド[出身階層・国、宗教、人種、経歴、育った環境]を持つ多様 な学生に満たされた密接なコミュティになっています。 各カレッジには、総責任者、寮長、教務担当、学生担当の教員がいます。1、2 年生の教学ア ドバイスはカレッジにおいて行います。3、4 年生は専攻科目のことは学科のアドバイザーに相 談しますが、それ以外のプログラムについては卒業までカレッジのアドバイザーに尋ねます。 学部生は寮のアドバイザー(先輩学部生)と大学院生のアドバイザーからアドバイスを受けま す。 カレッジはまた多くの社会貢献(奉仕活動)プログラムを提供します。これは、プリンストン 大学の教育における社会貢献、学生が身近なコミュニティとそれ越えた広いコミュニティに貢 献できる生産的な世界市民になるための準備をする機会という議論につながりますので、お話 しましょう。 社会貢献 プリンストン大学には、公式ではありませんがモットーとして、「プリンストン大学はアメ リカ合衆国だけでなく世界にも貢献する」というのがあります。 毎年、学生はプリンストン大学内や近隣のコミュニティのためのボランティア活動に参加し ます。自分の地元のコミュニティや海外で活動する学生もいます。学部生、大学院生、教職員、 卒業生、プリンストン大学のすべての構成員は自分たちの地域、国、世界に市民として関わり 貢献することを奨励されています。 プリンストンの公式ではないモットーを大学のすべての構成員が実行できるようにするた めに、ペース市民活動センター(Pace Center for Civic Engagement)があり、キャンパスに おける市民活動の中心になっています。 教室の外で学んだことは学生に強烈な印象を与えますし、それぞれが相乗効果を持ちます。 コミュニティの組織、地元の若者、仲間と協力することで、学生は新しい見方をできるように なりますし、視野を広げます。彼らは異なる環境で育った人々と交流し一緒に働き、多様性と いうのは肌の色や出身国のことだけでないことを理解します。ペースセンターによれば、学生 は他人の意見を聴き、敬意を払い、協力することを学び、この経験を通して世界の中の自分自 身の立場を理解するようになります。多くの学生は海外に行き、彼らの能力を本当に必要とし ているコミュニティで活動することで、これらの学びを経験します。 体育会所属の学生が最近参加したプロジェクトの例としては、ケニヤでの女性零細企業向け の融資活動、サンフランシスコでのホームレス支援(この学生は現地の人と協力してホームレ スについて卒論を書きました)、ガーナでの蚊屋の普及・啓蒙活動や現地の病院を支援する活 動、[知的発達障害者向け]スペシャルオリンピックの選手を支援・指導する活動、学食で残っ た食事を集めて、地元で貧困者向けに食事を提供してくれる施設に寄付をする活動、命にかか わる病気と闘っている子供を支援し、彼らと友達になるチームプロジェクトなどなどあります。 スポーツ プリンストン大学における正規カリキュラムと課外カリキュラムの統合を最も如実に表し ているのが、体育会活動でしょう。私たちの公式なモットーは「スポーツを通しての教育 (Education through Athletics)」です。この言葉は私たちのすべての活動中で最優先されま す。私たちの核となる哲学は、大学対抗スポーツは大学の教育使命の延長であり、学生選手に とってプリンストン大学で大学対抗スポーツに参加するということは、本当に課外カリキュラ ムであり、教室での学びの延長であり、それを補完、強化にあることを意味します。 私たちの前体育部長は自分自身も選手として活躍した人ですが、スポーツは「最も汗をかく リベラルアーツ科目だ」と言っています。 競争的なスポーツプログラムは、学生の学びと成長に大いに貢献します。私たちのすべての スポーツプログラムは、プリンストン大学の基本的な教育目的を支援し強化するよう作られて います。私たちのプログラムは学生、教職員、卒業生、校友など大学の構成員全員の間に愛校 心を共有、穣成することにも貢献します。これらの理由から、他の多くの大学は 16 から 22 種 目の競技で参加していますが、プリンストンは 38 種目にチームを持ち 1100 人以上の学生が参 加しています。正規の大学対抗戦のレベルですべての学生がプレーできるわけでないので、37 以上の同好会レベルの大学対抗戦チームもあり、 (そこにも 1000 人以上が参加しています)、 それとは別に約 500 の学内スポーツ同好会があり、さらに体育の授業とリクリエーションプロ グラムもあり、大学コミュニティの全員が自分の関心と実力に合ったレベルでスポーツを楽し めることができるようになっています。プリンストン大学はスポーツにおいて男子にも女子に も同等の機会を与えるとともに、誰に対しても開かれたスポーツの環境を維持し、参加者全員 が自分のレベルで成功するように努めています。 スポーツ競技に参加する個々の学生にとって、プリンストン大学の目的は、彼らは本当の意 味で「学生選手(student‐athletes) 」であり、ハイフォンの両側の「学生(student)」と「選 手(athlete)」とが同じ重みを持つということです。プリンストン大学は選手は一般学生の代表 であるとみなし、特別扱いせず、彼らの健康、学業成績、人間としての成長について他の学生 と同じように見守っています。 プリンストン大学のスポーツプログラムへの参加は、学生が秀逸さ、仲間への尊敬、フェア プレー、チームワーク、指導力、忍耐力、高潔さをさらに追い求めることを可能にすると私た ちは願っています。スポーツは学生が人間的、体力的、知的なスキルを向上させる機会を与え ます。これらのスキルはすべて、選手が秀逸な学生、市民、指導者になることに寄与し、卒業 後の人生がどのようなものであり応用できるものです。 一般学生向けと別の、プリンストン大学の学生選手にとっての目標は、簡潔に申せば「目標 を達成すること、社会に貢献すること、リーダーシップを身につけること」です。これら3つ のすべてが学生選手の教室での学びをコミュニティやもっと広い世界での生活に結び付ける ことを手助けします。 目標達成:学生選手は教室でもグランドでもコートでもプールでもどこでも、そして人生でも 一生懸命努力すべきです。私たちは勉強に真面目な学生を入学させ、教室でも成功するための アドバイスを与えます。そしてもちろん私たちは選手が勝つことも期待しています。勝利への 情熱、秀逸であることへの欲望は、プリンストン大学の卒業生が地域や世界の市民・指導者と なっている大学以外の世界でも役に立ちます。 社会貢献:学生選手は常に社会貢献の重要性を認識すべきです。私たちの学生選手はキャンパ ス、地元のコミュニティや自分の出身地のコミュニティやもっと広いコミュニティに関わり貢 献しています。 授業、宿題、練習、トレーニング、試合、個人的時間など、学生選手は大変忙しいです。学 生選手の中には、先ほど申しましたペースセンターを通して社会貢献活動をしている人もいま す。しかし、多くの活動は、競技シーズン中の週末や練習時間のあいまで行われています。た とえば、プリンストンスポーツクラブ(Princeton Varsity Club, PVC)は社会貢献に関心のあ る学生選手向けのプログラムを提供しています。第 1 は、[大量破壊兵器ならぬ]「大量建設兵 器」というプログラムです。これは、サンディ・ハリケーンの後の清掃や再建活動で、都市部 での花壇の修復、建物の塗装、さらに子供たちへのスポーツ教室での指導です。PVC はまた 「Reading with the Tigers[プリンストン大学のスポーツチームのニックネーム]」という選手 が出張して子供たちに本の読み聞かせを行うプログラムも支援しています。このようなプロジ ェクトに参加した学生選手はいつも、自分たちが助けた人々だけでなく自分自身の人生にも大 きな影響を与えてくれたと語っています。 昨年、多くの学生選手が「学生選手奉仕サークル」を結成しました。このグループは PVC とも協力して、既存の適当なコミュニティ支援のプロジェクトや支援の機会を調査・研究して、 仲間の学生選手に対して、選手の関心に合致して、練習時間ともぶつからないで寄与できる活 動を紹介してあげています。学生選手は信じられないくらい忙しいのですが、彼らは常に時間 を見つけてコミュニティに感謝して還元してくれます。 リーダーシップ:キャンパスにおける学生選手の持つ影響力と与えられた舞台を鑑みて、私た ちは彼らに健全なキャンパス文化を発展・維持させることを期待します。これは自治会など正 式な指導的立場に就くことだけでなく、インフォーマルな形で模範を示す形で日々の学生生活 中でも実行可能です。このリーダーシップの経験は卒業後の人生でも重要になります。 学生選手が就ける正式な指導者的立場があります。第 1 はキャプテン会議です。各チームに は規模によりますが、何人かのキャプテンがいます。監督が決める場合もありますし、選手の 互選のこともあります。私たちはさまざまなチーム(種目)のキャプテンが集まり、意見やチー ム運営・練習の方法を交換する場としてキャプテン会議を創設しました。大学体育部もこの会 議を使って、選手のスポーツ活動で持つ関心や問題点の所在を知り、諸問題での選手側の意見 をくみ上げています。この会議はまた、下級生が 4 年生になった時により良いキャプテンにな れるためのリーダーシップの経験とスキルを身につける手助けもしています。 第 2 の学生選手諮問委員会(Varsity Student-Athlete Advisory Committee, VSAAC) は監督が推薦し体育部が承認した 15 人の選手代表から成り、体育部への諮問する権限を持ち ます。この委員会は定期的に開催され、学生選手の厚生や選手生活を経験していく上での重要 な問題を議論します。VSAAC はまた、学部生自治会などキャンパスの重要な委員会にも代表 を送りキャンパスでの指導者の役割にも貢献します。 第 3 の学生選手厚生指導者(Student-Athlete Wellness Leaders, SAWLs)は、モデルにな るヘルパー役の学生選手が、他の選手に健全な学生生活を送るよう支援を行うものです。選ば れた学生選手は、サポートの必要な選手を見つけて対応することができる模範的選手となるよ う訓練を受けます。これらの学生選手は、チームメイトから親身な支援の相談を持ちかけられ、 また大学にどのような支援プログラムがあるかも知っている信頼できるリーダーとして大学 に貢献します。SAWL になっている学生の中には医学や精神医療に関心がある者がいます。チ ームメイトを助けチームを強くするために大学にあるさまざまな支援プログラムのことを知 っておきたいので、SAWL になることにした者もいます。SAWL のプログラムはプリンストン 大学の体育部と保健センターが共同で予算を出しています。 機会 プリンストン大学の監督が入部したい学生に言うのは、4 年間でなく 40 年間の投資として 考えなさい、ということです。学生はプリンストン大学で単に 4 年間プレーして卒業するので なく、スポーツとともに教室やコミュニティでも学び、人生全体に影響を与える機会を与えら れます。 学生選手が教室の外で持つ重要な教育的機会の1つが、4 年に 1 度の海外遠征です。フット ボールは[こちらの人数が多いのと、海外での対戦相手があまりないので]それほど頻繁に海外 遠征はできません。しかし、この 2 度目の日本遠征で見られますように、他の大学のフットボ ールに比べればプリンストン大学は海外遠征しています。(NCAA は「海外ツアー」と言いま すが)海外遠征は海外のチームと競技する機会を与えてくれますが、それ以上のものがありま す。学生は他の国を訪れ文化を経験して多くのことを学びます。選手は自分たちとチームのた めに遠征しますが、大学の代表でもあります。 これらの海外遠征の間、地域での社会貢献の要素(先ほど述べました達成、社会貢献、リー ダーシップの1つ)も存在します。遠征や訪問国ごとで異なりますが、現地の青少年向けスポ ーツ教室、訪問先が用意してくれたコミュニティへの社会貢献プロジェクトがあります。今回 の遠征では、京都の南禅寺の訪問、座禅と清掃を体験しました。他の遠征について言えば、陸 上ホッケーは現在、南アフリカにいます、バレーボールは 1 月にニカラグアに遠征しました。 これは世界市民育成のいまひとつの取り組みです。 私たちの学生選手は一般学生と同様、1つのセメスターを海外で学ぶ機会を持っています。 あいにくレベルの高い選手はしばしば練習期間が 1 年中です。そして、今回、私たちが幸運に も機会を持てたように、フットボールにおいては通常でない春のゲームもあります。海外に行 きたい学生選手の多くは夏休み中に行きます。彼らは夏休みの海外研修プログラムやインター ンシップ、研究や社会貢献に参加します。 学生選手が参加するもう1つのプログラムが Coach for College です。学生選手が 3 週間の ベトナムの地方の子供たちにスポーツと英語を教える機会に志願します。2 人の派遣から始ま りましたが、参加者は毎年増えて今年は 8 人を派遣し、1 人はディレクターとして再び現地に 戻りました。このプログラムで得た経験は大変貴重です。彼らは異なる文化を知り、素晴らし い人々に出会い、新たな言語を習得し、現地の子供たちがスポーツと教育でスキルと自信を得 ることの手助けをします。 プリンストン大学は、世界中に熱心で献身的な多くの同窓生を持っています。今週の土曜日 の試合には 40 人以上の卒業生がタイガースの応援に来てくれます。東京や遠くはハワイやタ イからも来てくれます。多くの熱心な同窓生を持つことの最大の利点の1つは、彼らが現役学 生にアドバイスや人的ネットワークを提供してくれることです。多くのスポーツチームの同窓 生はアドバイスのためのネットワークを形成し、現役学生の書いた履歴書を見てくれたり、面 接の練習をしてくれたり、人生設計の相談に乗ってくれたり、国際的に活躍する機会を紹介し てくれたり、就職を世話してくれたりしています。私たちの同窓生は世界中にいて、学生選手 が世界的指導者になれるように、思慮深いアドバイスやチャンスを与えくれます。 これらのプログラム、校有資源、機会すべてが組み合わさることによって、プリンストン大 学のスポーツは、教室での学びを延長し、補完して強化して、卒業生を模範的世界市民にする、 真の課外カリキュラムになっています。 プリンストン大学における、正規カリキュラムと課外カリキュラムのバランスを学生がとれる ようにすることを助けるプログラム: 想像していただけますように、プリンストン大学の学習環境は学生にとって挑戦的で厳しい ものです。私たちの入学生は勉強でもスポーツでも単に彼らが行ってきたすべての事柄でも、 常に成功してきた学生です。大学が、履修科目の予習復習などをこなす時間管理を工夫するの を助けるアドバイスや制度・施設を学生に提供することは、課外カリキュラムとの両立を目指 す学生にとって重要です。 プリンストン大学は在学中も卒業後も役立つ価値観やスキルの教育や指導のために包括的 な取り組みを行っています。この目的のために、プリンストン大学は支援、施設、アドバイス を提供して、学生が、厳しい授業の正規カリキュラムと課外カリキュラムや人間形成とのバラ ンスをとれることを手助けしています。これらは勉学支援や時間管理法のアドバイスなどを含 みます。マックグロー教育学習センターは、キャンパスでの貴重な施設です。このセンターは、 講習会や個人相談など、学生が大学在学中並びに卒業後の学習に適応できるようになることを 支援する専門知識と設備を、充実して統合した形で揃えています。センターのスタッフは学生 が自分自身の学習方法を認識して吟味することを通して、いわゆる初学者から専門家・学者に 知的に成長していくことを支援します。 学習方法のアドバイスに加えて、マックグローセンターは勉学そのものの相談にも乗ります。 これらの相談はスタッフや学部生があたり、時間の使い方のバランスをうまくとることで、同 じ努力でも成果が上がるようにして、他のことをおろそかにしないで必要な勉学をこなせるよ うになるべく学生を支援します。 これらのスキルは教室での授業のためだけでなく、課外カリキュラム経験を管理しバランス をとるためにも学生にとって有用です。諺が言うように「人に魚を与えれば 1 に日で食べてし まってそれまでだが、釣りの仕方を教えれば一生食って行ける」のです。プリンストン大学は 学生が授業で良い成績を収めるだけでなく、生涯を通して自分と他人の生計を支えられるよう に、成功できるように、アドバイスや施設を提供しています。 プリンストン大学では、午後 4 時半から 7 時半までの枠では授業は開講されません。スポー ツでは、この時間帯に監督が選手を集めて練習やミーティングを行います。学生は練習のため に授業を休まなくてもすみます。「学生」と「選手」の両方を重視する大学にとって、スポー ツでの秀逸さを求める機会をきちんと提供することは重要です。前述の学生選手諮問委員会は 大学当局との交渉の窓口になり、時間割の問題について数年前から検討し、彼らのリーダーシ ップとコミュニケーション能力のおかげで、改善すべき点を明らかにして解決策を見つけるこ とができました。学生が正規カリキュラムと課外カリキュラムのバランスをとれるようにする ことの手助けのもう1つの方法が、優先順位と価値観をはっきり伝えることです。先ほど申し ましたが、「スポーツを通しての教育」という文言はすべての建物の壁や大学の便箋や電子メ ールの署名欄や T シャツにまで書かれています。しかし、これは単なるスローガンではありま せん。人それぞれに異なった意味を持ちますが、スポーツに参加することは学生が学ぶすべて のことにつながっていきます。それはまた生き方にも言及します。私たちは学生に一生懸命努 力し新しく難しい挑戦を受け入れ、そして成功してほしいと思っています。学生は両立に困っ た時には助けを求めてもよいですが、自分自身でスポーツから一歩引いて、自分の授業を優先 することができます。今のアメフトのスレイス監督も含めて、すべての監督が学生選手が授業 での重要なレポートやプロジェクトを仕上げるために練習やチームでの活動を欠席するとい う多くの例を経験しています。 1つの事実として、今回の日本遠征にフットボール部の 4 年生が参加していないのは、彼ら は締め切り間際の卒業論文に取り組むため、春休みが終わったらすぐにキャンパスに戻らなく てはならないからです。時間管理のスキルという言葉にも関わらず、バランスをとるというの は一つこと優先させ、もう一つを後回しにするということも意味します。 スポーツ活動で学生選手がスポーツ参加と学業での義務とのバランスをとることを支援す る最も優れたプログラムの1つが、学生選手フェロープログラムです。フェローとは、大学の 教育的使命を強化しながら、学生選手の理想像を追い求め、強化しようと思っている教員やス ポーツチームのスタッフです。個々のフェローはチームや監督と関わりがありますが、フェロ ー全体ではすべての学生選手のために貢献します。 フェロープログラムは学生選手が教員やスタッフと関係を築くことを手助けするため、同時 に教員やスタッフに学生選手がプリンストン大学のような大学で文武両道を実現するための 課題だけでなく彼らが大学全体にもたらせる素晴らしい効果についても理解してもらうため に設けられました。 昨年、私は体育委員会に任命されたものの、それまでスポーツについてあまり知らなかった 教員と、最初の委員会で話をする機会がありました。彼はバランスを取った時間管理をすると いうことに関して、学生選手も一般学生も同じような挑戦に直面していると強く信じていまし た。そして、学生選手に対して特別な支援も柔軟な対応も必要ないと思っていました。彼はそ のあと男子水球の午後の練習を見学し、学生選手が練習の後、夜には部屋に帰って授業に備え て勉強しなければならないのに、肉体的にも精神的にも激しい練習をしていることに驚嘆しま した。彼は科学者でしたから、肉体的・精神的能力を相対的にどう分配して駆使するかについ て方程式で考えて、自分の認識は間違っており、学生選手には正規カリキュラムと課外カリキ ュラムをバランスをとる上で多くの一般学生とは異なった課題があると認識しました。彼は水 球チームのフェローになり、今では多くの学生選手のアドバイザーとなり、教員側でのスポー ツの理解者となり、フェロープログラムの熱心な支援者となりました。彼は学生選手がチーム での責任を考慮して自分の希望する専攻をあきらめて楽な専攻を選んでしまうことを防ぐこ とについての議論の主要な参加者です。 教員の支持は学生が正規カリキュラムと課外カリキュラムの関心と義務についてのバラン スをうまく取れるようにするため非常に重要です。コミュニケーションがカギです。先ほどの 教員は以前は学生選手が抱える文武両道を目指す際の問題を認識していなかったのですが、私 が説明して現場を見せたことによって、熱心な支持者になりました。このことがまさに、学生 選手はキャンパスのコミュニティと統合されていることが重要な理由です。学生選手はコミュ ニティを強力にするとともに自分自身もより強力に、より成功できるようになっていくのです。 プリンストン大学が学生を正規と課外のカリキュラムに参加させることを促すことによって、 学生に身につけてほしいと考える特定のコンピテンシー[成果を生みだす望ましい行動特性]の タイプ: 学生を完全に大学コミュニティに統合して正規と課外のカリキュラムで成果を上げるよう 促すことによって、学生が発展することができる特定のコンピテンシーがあります。これらは 世界的市民・指導者として成功するための中核的コンピテンシーで、すべての学生にとっても 重要ですが、ここではスポーツをしている学生にとってのコンピテンシーをお話します。 リーダーシップ:これはフォーマルなものとインフォーマルなものと含みます。学生選手は権 力とリーダーシップの違いを学びます。権力とは人々が強制されて従うものです。リーダーシ ップは人々が従いたいと思って従うものです。指導者は隠し事をせず自ら手本となることが 人々の支持を集めるために重要だと学びます。私たちは学生選手に正しいことを行い、大局的 にものを見て、目先のことにとらわれないことを教えています。これは将来、企業経営者にな ろうと政治リーダーになろうと、単に同僚と働くのであろうと、人生にとって重要なことにな るでしょう。 人前で話す能力:人前で話すことは多くの人にとって何よりも、時には死ぬことより、嫌なこ との1つです。これは自分への自信と内容が満足できるものかにかかっています。学生選手は まずチームメイトの前で、それから同窓生や校友の前で話す機会を与えられます。コミュニケ ーション能力は将来、実業界、学会、公共部門での成功に不可欠ですので、学生は今日、私が 直面しているような多くの聴衆であるか、少ない聴衆であるかに関わらず、人前でいかに話す かを学びます。 多様性の理解と受容:学生選手はさまざまなバックグラウンドを持つ者同士が協力する、統合 の恩恵を受けます。学生選手は自分自身と異なる外見、考え方、行動様式の人と協力すること を学びます。このことは、協力の成功への過程の中に立ちはだかる多くの誤解を取り除いてく れます。学生は問題に取り組む時に人々の異なる背景や見方を結合させることができればより 包括的で柔軟性のある解決策を見つけることができます。時には、元々の意見の相違があった 方が、個人個人が問題を完全に議論することでき、互いに同意できる解決策に到達できた場合 には、チームを一層強くします。 チームワークと他人との協働:チームというのは個々の合計です。すべての構成員は自分自身 のことはまずしっかりこなしますが、ときにはある人が他のメンバーより強く、また、困難な 時にチーム全体を引っ張ります。ここで使われるたとえが拳です。個々の指はいろいろと素晴 らしいことができますが、拳としてまとまるともっと強くなります。 バランス:学生選手は時間管理の仕方と、優先順位を評価・設定していつ何に集中するかを理 解することで目標を達成する仕方を学びます。時には天秤のように、均衡に至るまでにバラン スが一方に偏ったり他方に偏ったりすることはあります。全体としてのバランスが重要なので す。私たちは皆、日々の生活の中でバランスをとることに苦労しています。バランスの達成は 計画をたてることが必要で、魔法のように実現されるものではないと理解することは重要です。 自分の限界・現在のレベルの突破:学生は、自分自身を超えること、新しいことに挑戦するこ と、今の心地よい状態を打破することは難しいが、究極的には新しく見出されたスキルと力、 またはすでに存在していたのに活かされていなかった力を獲得できることを学びます。彼らは、 強さというのは、新しいこと、難しいことに挑戦することを恐れないことだと学びます。私た ちのフットボール選手の多くはこの遠征で、一歩踏み出して彼らにとって全くの未知の新しい 食べ物や経験に挑戦しています。マクドナルドで食事することのほうが簡単ですが、簡単なこ とが最高とは限りません! 成功に安住しない継続的な学習、成長、前進:シェイクスピアの『ヘンリー四世』の中で王様 が、 「王冠をかぶった頭の中は[王の地位を守られるかの]不安でいっぱいだ」と述べました。す べてのスポーツ選手は誰もがチャンピオンを倒したいです。ですから、チャンピオンはその座 を守りたいのならば、その地位に安住することなく進歩し成長し続けなければなりません。 これと同じ意味ですが感傷的でない響きで、関西学院大学も村田治学長は、「世界で急速な 変化が起きている。大学で学んだことはすぐに陳腐化する。学生諸君は新しい知識と情報を獲 得し続けることを常に心がけるべきである」と述べておられます。 すべてを知っている人はいません。最も成功している人は進歩し続けるために、このことを 意識して人生に活かしています。学生選手は進歩し続けるためには、学び続けなければならな いことを理解します。最高のスポーツ選手は、過去を学び、学んだことを将来の革新、成功を 達成することに活用できる、という意味でスポーツ界での本当の学生なのです。学び続けるこ とをやめた人は取り残されます。 指導する仕方、指導される仕方:学生選手は指導を受ける仕方とそれを強くなるために活かす 方法を学びます。彼らはまた他人を指導する仕方も学びます。ある人が選手として成功してい ることと、彼や彼女が同じことを他人に教えることができるということとは同じではありませ ん。人々が学び、支援や批判を受ける方法にはさまざまなものがあるということの理解が、指 導者が他人の進歩を助けることができるようになるために重要です。これはプロ選手にとって も、次世代の世界市民の育成を支援しようとしている人にとっても有用です。 失敗の克服:学生選手は失敗がどのようなことか知っています。彼らはしばしば失敗を公衆の 面前で経験します。彼らはその失敗からいかに前進するのか、次回の進歩や成功につなげるの かを学びます。先ほどお話したインターネットの議論[世界が可視化されてきた話]の議論に戻 りますが、今日、私たちはスポーツのハイライトシーンが敗北や審判の判定に対して態度の悪 い選手の映像が流れるとそれを観て笑っています。負けるということはスポーツにとって楽し いことではありませんが、評判というのは極めて重要で、いかに個人、政府、企業がミスや失 敗に対処するかは、将来の成功にとって重要です。いつも何かから学ぶことがあると認識する ことで、人々はそれでも失敗を嫌い避けようとしますが、それを肯定的に受け入れ次の成功の ために活かすこともできるようになります。 人生のすべての局面で大変有用ですが、これらの中核となるコンピテンシーは学生が将来、 献身的で生産的な世界市民・指導者として成功するためには重要です。 結論 世界が変化する中、変化についていく唯一の方法は、私たちの学生が卒業と就職に準備する だけでなく、責任ある世界市民・指導者に必要なツールを身につけるようにすることです。 私が説明してきましたように、高い評価を頂いている私たち2大学は多くの共通点がありま す。私たちは学生が全人として、成功する世界市民・指導者になる準備をできるよう学生の包 括的な成長のために努力する強い決意を共有しています。 私たちは教育哲学を通してのその決意、正規カリキュラムと課外カリキュラムの関係、いか にその2つが多くの極めて優秀な卒業生を生み出すか、学生がこの2つのカリキュラムを両立 させることを支援するプログラム、そして学生をこの 2 つの活動にとりくませることでプリン ストン大学が養おうとしている中核的なコンピテンシーなどについて議論してきました。 私は本日のパネリストの皆さんや尊敬を集めている司会者の方との議論を行い、そこからこ れまでにないどんなアイディアが生まれてくるかをみることを楽しみにしています。ご清聴あ りがとうございました。 翻訳 関西学院大学 国際学部教授 (なお、文中の( 宮田由紀夫 )はリッチ氏から頂戴した原稿にあった注、[ ]は訳注である)
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