完成度(3/5) ILCOR-CoSTR 第4部 成人の二次救命処置 (Part 4: Advanced Life Support) 目次 ■はじめに ■原因と予防(causes and prevention) ■気道と換気(airway and ventilation) ■心停止に対する薬剤と輸液(drugs and fluids for cardiac arrest) ■心停止中の循環のモニタリングと循環の補助(monitoring and assisting the circulation) ■周心停止期の不整脈(periarrest arrhythmia) ■特殊な環境での心停止(cardiac arrest in special circumstances) ■蘇生後の治療(postresuscitation care) ■予後の予測(prognostication) ■はじめに ILCOR の Advanced Life Support の項の作成タスクは、次のようにグループ分けされ た。(1)原因と予防、(2)気道と換気、(3)心停止中に投与される薬剤と輸液、(4)循環動態をモ ニターし、補助する手技と装置、(5)心停止前後の不整脈、(6)特殊な状況での心停止、(7) 蘇生後のケア、(8)予後である。除細動に関する事項は Part 3 で検討される。 ILCOR が前回、2000 年に検討して以来、最も重要な進歩には次のようなものが含まれ ている。 ・病院内の心停止を予防するための METs(medical emergency team)の出現 ・心停止に対するバソプレッシンの使用に関して追加された臨床データ ・CPR 中に循環を補助するために使用されるいくつかの新しい装置 ・VF による心停止後の神経学的な予後を改善するための治療的低体温療法 ・心停止後の血糖のコントロールの潜在的な重要性 治療において確固とした推奨をおこなうためには、なお、多くの項目に関してデータが 不十分であった。下記についてはさらなる研究が特に求められるものである。 ・心停止における METs 構築のインパクト ・もっとも適切な気道確保の器具を明らかにするための転帰データ ・心停止において昇圧剤がプラセボに比較して何らかの効果があるということであれば、 もっとも効果のある昇圧剤を同定するためのエビデンス - 1 - ・CPR 中に循環を補助するいくつかの新しい装置に関する RCT ・換気、鎮静、あるいは血糖のコントロールなど蘇生後のケアに関する RCT ・治療的低体温の正確な役割と実施法:すなわち患者の選択、体外からの冷却か体内か らの冷却か、至適温度、低体温療法の持続時間などである。 ■原因と予防 救助者は心停止を引き起こしたいくつかの非心原性の原因については、同定することが 可能で、 (これにより)一連の蘇生の処置の流れを構築することができると考えられる。 病 院内で心停止が持続するほとんどの患者では、心停止の数時間前に悪化している徴候がみ られるものである。こうしたハイリスクの患者を早期に同定して、すぐに MET(救急チー ム。米国では Rapid Response Team として知られている)が到着すれば心停止を防止する ことに役立つことになる。多くの国の病院で、こうした METs などの早期警戒システムを 導入しつつある。 心停止の病因の同定 W119A,W120,W121 科学的コンセンサス 心停止の病因について直接言及しているデータはきわめて少ない。ひとつの前向き研究 で(LOE3)1、それからひとつの後ろ向き研究で(LOE 4)2、いくつかの非心原性の原因 については、救助者が同定できるものであることが示唆されている。 推奨される治療 身体的な状況、病歴、いままでにおこったエピソードなどは救助者が、非心原性の心停止 の原因を判断することを可能にする。こうした状況下では救助者は、想定される非心原性 の原因にもとづいて介入(治療)をおこなうべきである。 MET のインパクト W128A, W128B, W129A, W129B, W130A, W130B, W195A, W195B, W195C, W195D, W195E ここで検討された MET とは、一般的に重症治療のトレーニングを受けており、いつでも呼 ぶことができて、もしコールされたら直ちにこれに答えてくれる医師や看護師で構成され ており、そして特異的で、きちんとしたコールの基準があるものをさしている。この MET システムは正規には(本来は)病棟のスタッフが重症化する病態を早期に認識できるよう になるための教育戦略も含んでいる。MET システムのバリエーションとしては、critical care outreach team や patient-at-risk team(といった名称のチームシステム)が含まれ る。こうしたチームでは、すべて重篤な病態となる、あるいは心停止になりそうな患者を 示してくれる重症化早期評価システム(early warning scoring system: EWS)を使ってい る。 - 2 - 科学的コンセンサス MET の導入前後で検討された二つの単一施設での研究が MET 導入に支持的であり、MET 導入により有意に心停止の発生率は低下し、心停止後の成績(救命率、ICU 滞在期間など) も向上したと報告している(LOE3)3,4。ある cluster RCT(クラスタ・ランダム化比較試 験)によると、MET システムを導入した 12 病院と、導入せず通常の状態で機能している 11 病院で比較検討したところ、心停止、予期せぬ死亡、計画されていなかった ICU 入室な どを合成したプライマリー・アウトカム (primary outcome)においては、関して有意な差 異は認めなかった(LOE2)5。この研究では、しかし MET システムの導入により救急チ ームをコールする率は上昇した。2つの中立的な立場でおこなわれた検討によれば、成人 の病院内心停止の発生率と、全体としての(overall の)死亡率が(LOE3)6、および計画さ れていなかった ICU 入室が減少する傾向にあることが(LOE3)7 報告されている。また、小 児病院において MET システムを導入した報告によれば、導入の前後で小児の心停止と死亡 が減少したという報告がある。しかし、統計的に有意なレベルまでいたらなかった。 EWS システム(重症化早期評価システム)の導入によってその前後で、計画されなかっ た ICU 入室の患者における死亡率が減少したことが2つの研究で示されている(LOE3) 9,10。状態が悪化するリスクのある成人の病院内の患者に対し EWS システムが、リスクを 同定し治療するために使用されたが、心停止の発生率、計画されていない ICU 入室率が有 意には変化しなかったという別の報告もある。(LOE3)11 推奨される治療 成人を扱う病院においては院内の患者に対し、以下のような点に十分配慮された MET シス テムの導入が考慮されるべきである。すなわち、チームの構成や有用性、コールの基準、 病院スタッフに対する教育や啓蒙、そしてチームを起動する方策などである。EWS システ ム(重症化早期評価システム)の導入も考慮されるべきである。 気道と換気 コンセンサスカンファレンスのトピックとしては、気道(確保)と換気のマネージメント に関連しており、次のように分類される。(1)basic airway devices (基本的な気道管理の 器具) (2)advanced airway devices (よりすすんだ気道確保のための器具) (3)より すすんだ気道確保におけるチューブ位置の確認 (4)よりすすんだ気道確保を確かなも のにするための戦略(5)換気の戦略 基本的な気道管理の器具 (Basic Airway Devices) 鼻咽頭エアウェイ(経鼻エアウェイ)W45,W46A 科学的コンセンサス 麻酔科医によって鼻咽頭エアウェイは頻繁にしかも有効に使用されているにもかかわら - 3 - ず、CPR 中における使用に関するデータはない。麻酔を受けている患者に対する検討であ るが、鼻咽頭エアウェイを看護師が挿入しても麻酔科医が挿入するのと同様に鼻咽頭損傷 を起こしにくかったという報告がひとつある(LOE7)12。LOE5 の研究 13 であるが、患 者の小指あるいは前鼻腔のサイズをもとにエアウェイのサイズを決める伝統的な方法が気 道の解剖と関連しておらず、信頼できないことを示している。鼻咽頭エアウェイの挿入が 気道のどこかに出血を 30%の症例で引き起こしているという報告がひとつある(LOE7) 14。頭蓋底骨折の患者に対する不注意な挿入で、鼻咽頭エアウェイが頭蓋内に迷入した二 つの症例報告がある(LOE7)15,16。 推奨される治療 頭蓋底骨折の患者、あるいは疑われる患者では経口エアウェイが好ましい。しかし、こ れが経口エアウェイの挿入が無理で、やはり気道の閉塞が見られるときは、愛護的に鼻咽 頭エアウェイを挿入することが救命につながることになる。すなわち利得がリスクをはる かに上回っているのである。 高度なエアウェイのための器具 (Advanced Airway Devices) 気管チューブ(による気道確保)は一般的に心停止においては、気道を管理する上で理 想的な方法とみなされてきた。ところが適切なトレーニングと経験がなければ、気づかれ ないまま食道に誤挿菅されるといった、気管挿菅にともなう合併症の頻度が、容認できな いほど高いというエビデンスがある。バッグバルブマスクとかラリンジアルマスク(LMA) とかコンビチューブといった CPR 中、気管チューブに代わる気道確保の方法が検討されて きた。しかし心停止中、気道を管理するために、どのようなアプローチがルーチンに使用 できるかどうかをサポートするデータはない。もっともすぐれた手技というものは、心停 止のまさに状況と、救助者のコンピテンシー(目に見える形で実際に遂行できる能力)に 依存している。 気管挿菅 VS バッグバルブマスク W57 科学的コンセンサス 成人の心停止において、気管挿菅もふくむ(高度な)気道確保と、バッグバルブマスク (BVM: Bag valve mask)のみの場合で、気道管理の効果を評価した RCT はない。 小児の病院外において気道管理を必要とした患者において、気管挿菅と BVM による換気を 比較した RCT が確認されたのみであった(LOE7)17。この検討では、生存退院の率には 有意な差異はなかったが、この小児の知見が成人の蘇生に対しても適応できるかどうかは さだかではない。この研究には、重要なところでいくつか限界がある。すなわち、(もとも との能力に加えて)たった 6 時間しか気管挿菅のトレーニングをしなかったり、気管挿菅 をおこなう機会が限られていたり、搬送の時間も短いなどの点で(バイアスがかかってい る可能性がある)。成人の病院外心停止において、EMT によって治療を受けたか、パラメ - 4 - ディックによって治療を受けたかで、転帰を比較した二つの研究がある(LOE3 18、 LOE4 19)。パラメディックによる手技は気管挿菅や静脈確保 18,19 と薬剤投与 19 が含まれてい るが、両者の間に生存退院に関して差異を認めなかった。 気づかないまま気管チューブが誤挿入されていた頻度は、6%(LOE 5)20-22 から 14%(LOE 5)23 と報告されている。これに加えて、器具の種類に関わらず、挿入を試みることにより、 心臓マッサージが途絶えることも問題となる。 推奨される治療 成人において気道を確保して換気を行うためのどの特異的な手段も、それを使用するこ とを支持する、あるいはその使用に反対する十分なエビデンスというものはない。プレホ スピタルのケアを行う者が、CPR の中で、バッグバルブマスクだけを使用するか、あるい は気管挿菅とコンビネーションで用いるかについては、両者とも是認できるのである。救 助者は挿菅のリスクと利得と、効果的な胸部圧迫を行うことの必要性を勘案しなければな らない。というのは、挿菅を試みることは、胸部圧迫を遮断することになるが、しかし一 旦、器具が挿入されると換気は胸部圧迫を遮断することなくできるし、換気のために胸部 圧迫が途切れることもなくなる。胸部圧迫を実質的に遮断することを避けるために、挿菅 を心拍再開までひきのばすことは差し支えない。コンピテンス(目に見える形で業務を遂 行できる能力)を確実なものにするために、器具を使用することを進めている医療システ ムでは、適切なトレーニングや経験、質の担保(quality assurance)といったファクター について取り組むべきである。医療者はチューブの位置について確認をするとともに、チ ューブが適切に固定されていることも確認しなければならない(以下を参照)。 気管挿菅 vs コンビチューブ/ラリンジアルマスク W42A,W42B,W43A,W43B,W44A,W44B 科学的コンセンサス 地域によっては気管挿菅が許可されていなかったり、十分、挿菅の技能を学んだりその 技能を維持したりすることができなかったりする。こうした状況下では、気づかないうち に食道挿菅になっていたり自然抜去になっていたりする頻度が高いことがいくつかの研究 で示されている。気管挿菅を時間をかけて試みることは有害である。この間、胸部圧迫を 中断することは、冠血流や脳血流を損なうことになる。CPR 中の気道確保に関して、いく つかの代替の器具が考えられ検討されてきた。コンビチューブとラリンジアルマスクは CPR 中に特に使用するために研究されてきた唯一の器具である。CPR 中、ラリンジアルマ スクとコンビチューブがプライマリーエンドポイント、すなわち生存率にどのような影響 を与えるかは十分、精力的に検討した研究はない。が、多くの研究者はその挿入や換気の 成功率に関して検討している。 コンビチューブ - 5 - 蘇生を受けている成人の患者に対して5つの RCT が(LOE 2)24-28、加えて麻酔下の患者 に対する3つの RCT が行われており(LOE 7)29-31、気管挿菅に比較してコンビチューブに おいては、挿入が容易で換気も容認できるレベルであることを報告している。経験の深い、 あるいは浅い、いずれの医療者でも、病院内の患者に対して、あるいは病院外の患者に対 して利得があることが報告されている。 CPR 中にコンビチューブを使用することは、6つの別な研究でも支持されている(LOE 332, LOE 433, LOE 534-37)。CPR 中にコンビチューブを用いれば 78.9%から 98%の患者 で換気が成功する(LOE 226,27,38, LOE 332, LOE 433, LOE 534-35) 。 ラリンゲアルマスク (LMA) 麻酔患者に対して LMA と気管挿菅の比較をした7つの RCT があり(LOE 7)39-45、その 他に7つの RCT が LMA と他の器具あるいは換気手技との比較を行っている(LOE 7)46-52。 これらの研究では経験をつんだ者でも、経験が十分でない者でも器具を挿入でき、気管挿 菅に比較して、あるいは他の気道管理や換気のための器具に比較して高い率でうまく換気 が行えることを示唆している。 プレホスピタルの状況で蘇生を受けている成人に対してコンビチューブと LMA を比較 したあるランダム化クロスオーバー研究 (randomized crossover study)では、LMA は多く の患者で挿入でき、換気が得られたということが示されている。 (LOE 2) 38。 病院内でも病院外でも経験の浅い医療者によって高率に挿入することができたことが、 (いくつかの)非ランダム化研究 (nonrandomized study)によって示されている(LOE 353-55, LOE 433, LOE 556-61)。これらの非ランダム化研究において合併症はきわめて低 かった (LOE 358, LOE 453, LOE 556)。 CPR 中に LMA もちいて、きちんと換気ができた率は、71.5%から 98%の症例であった (LOE 238, LOE 354, LOE 433,LOE 556,58-60)。 追加的な気道管理器具 CPR 中にラリンジアルチューブを使用した報告は、LOE 5 の2つの研究 62,63 と、LOE 8 のひとつの論文 64 を含めてわずか 2-3 例でしかない。ラリンジアルチューブが LMA よ り好ましいことを、麻酔患者で示した4つの RCT はあるものの(LOE 7)65-68、ラリンジア ルチューブと気管挿菅チューブを比較した研究は、どのような患者に関してもない。 その他の器具としては、ProSeal LMA, 挿菅型 LMA, airway management device, pharyngeal airway express などがある。これらの器具については、CPR 中での使用に関 するデータは報告されていない。 推奨される治療 心停止において気道管理のために気管挿菅チューブのかわりに、コンビチューブや LMA を 専門的な医療者が使用することは容認できることである。 - 6 - 高度なエアウエイの位置確認 気がつかないまま食道に誤挿入されている状態というものは、気管挿菅のもっとも深刻 な合併症である。気管チューブの位置のルーチン確認は、このリスクを減少させる。(しか し)心停止の際にチューブ位置確認をおこなう理想的な方法というものは確定していない。 すべての(確認のための)器具は、他の確認手段を相補するものとみなされるべきである。 一旦、挿入された後にチューブ位置をモニターするこれらの器具の能力を定量化したデー タというものはない。 呼気 CO2 W47,W50 科学的コンセンサス 成人を対象にした一つのメタアナリシス(LOE 1)69 と、一つの前向きコホート研究(LOE 3)70、ケースシリーズ(LOE 5)71-79、動物モデル(LOE 6)80,81 において、呼気 CO2 検出 器(波形によるもの、色によるもの、デジタルのもの)が心停止において気管チューブの 位置確認に有用であることが示されている。これらの記載の入った 14 の参考文献のうち、 10 は色変化を評価したものであり 69,71-76,79, 81,82 、4 はデジタルに 69-71,77、また 4 は波形 69,70,78,80 について関連している。心停止においては何らかの手技についてかくた る推奨ができるようなデータは不十分である。論文からえられた結果の範囲は、以下のよ うなものである。 ・気管に入っていることを検出できた率は、33%から 100% ・食道に入っていることを検出できた率は、97%から 100% ・テストが陽性(呼気に CO2 が検出された)のときに気管に入っている確率は、100% ・テストが陰性(呼気から CO2 が検出されない)ときに食道に入っている確率は 20%か ら 100% 成人を対象としたあるケースシリーズ(LOE5)82 では、循環のあるリズムの下ではあるが、 呼気 CO2 は、搬送中に気管チューブの位置をモニターするために使用できることを示して いる。ヒトの心停止で、コンビチューブや LMA の位置を確認するために、呼気 CO2 を直 接評価した研究はない。 推奨される治療 医療従事者は呼気 CO2 の評価というものは、気管チューブの正しい位置を確認するため に、特に心停止患者に対しては、決して絶対確実なものではないということを認識すべき である。呼気 CO2 は、気管チューブの位置を確認するためにいくつか独立にある方法のう ちの一つであるということを念頭におかなければならない。持続的に評価するカプノメト リーは搬送中に気管チューブの脱落を早期に検出するのに役に立つことが考えられる。 - 7 - 食道挿菅検知器 EDD:Esophageal Detector Device W48A,W51A,W51B 科学的コンセンサス 少なくとも質のよいものでは8つの研究が、シリンジタイプのあるいは自己膨張タイプ の EDD の正確さについて評価している。しかし、多くは対象数が少なく、コントロールグ ループを欠いている(LOE 3 21,77,83, LOE 584, LOE 7(心停止ではないセッティン グ)85-88)。 EDD は食道への誤挿入に対してはきわめて感度が高かった(LOE 584; LOE 785-88)。心 停止患者に対する2つの研究(LOE 3)77,83 では、EDD は気管内にあることを確認するため には、感度が低かった。これらの研究では、EDD が食道に入っていることを示唆したがた めに、本来正しく挿入されていたはずの 30%のチューブが抜去されたことを報告されてい る(LOE 3)78。 EDD は 1 歳を下回る年齢の 20 人の乳児では、手術室において感度も特異度も低かった (LOE 2)89。 推奨される治療 EDD の使用も、気管チューブのいくつかある確認方法の一つとして考慮すべきである。 器具を固定するための手法 気管チューブの事故抜去はどのような時でも起こりえるが、蘇生中や搬送中は特に起こ りやすいと考えられる。気管チューブを確実に固定する最も効果的な方法というものは確 定していない。 気管チューブの固定 W49A,W49B 科学的コンセンサス CPR 中の気管チューブの異なる固定の戦略を比較検討した研究はない。ICU では、気管 チューブを固定するために商品化された固定具、バックボード(背板)、頚椎カラー、ある いはその他の方法はテープを使用した従来の固定と比較して、事故抜去に関しては同等で あったと2つの研究が報告している(LOE 7)90,91。 推奨される治療 市販されている気管チューブホルダーか、従来型のテープや紐のいずれかが、気管チュ ーブを固定するのに使用されるべきである。 換気の手法 ALS(二次救命処置)において換気に関して特に視点をもって検討をした研究というも のは、きわめて少ない。最近、心停止患者に対して医療者が換気をおこなう換気数に関し て 3 つの観察研究の結果が報告されている(LOE5)92-94。うち 2 つの研究 92,93 では、 (実 際に治療者が換気する)換気数が、2000 年の CPR と ECC の国際ガイドラインで推奨され - 8 - ているより、はるかに多いことを示している(文献)。搬送用自動人工呼吸器 ATV(Automatic transport ventilators)を使えば、適切な換気数を与えることができるかもしれない。が、 バッグバルブマスクよりすぐれているとはっきり示すデータはない。 心停止における換気の中断 W54A,W54B 科学的コンセンサス 蘇生行為を中止したら予期せぬ心拍再開が起こったことが(しかもいくつかのケースで は良好な神経学的長期予後も得られている)、31 のケース 95-112 が関連した 8 つの LOE 5 の論文で報告されている。一つのケースシリーズでは、これが閉塞性呼吸器疾患の患者に 起こっている(LOE 5)100。4 つの研究では蘇生をやめて予期せぬ心拍再開がおこった 6 例 を報告し、(これらの症例では)換気により空気のトラップがおこり、その結果、循環動態 が損なわれたことが示されている(LOE 5)100,108-110。これらの研究の筆者は皆、PEA に 対する蘇生において換気(装置)から切り離す時間を作ることが(肺への)空気のトラッ プを防ぐ意味で有用であると示唆している。 搬送用自動ベンチレータ(ATV: Automatic Transport Ventilators)W55,W152A 科学的コンセンサス 心停止をシミュレートした人形を用いた研究によると、手動で(換気を)トリガーした、 送気量が規定された、酸素圧駆動のレサシテータによる換気が、バッグバルブマスクによ る換気に比較してガスによる胃の膨満が有意に少なかった(LOE 6)113。心停止ではない が、気道が確保されていない麻酔患者において消防士が換気を行った場合も、バッグバル ブマスクでの換気に比較して、手動で(換気を)トリガーした、送気量が規定された、酸 素圧駆動のレサシテータによる換気が、ガスによる胃の膨満が有意に少なかった(LOE 5) 114。挿菅患者に対する前向きのコホート研究では、これらの患者はほとんど心停止で、郊 外の病院外の設定であるが、血液ガスの値に関しては ATV で換気された患者でも、バッグ バルブマスクで換気された患者でも、有意な差異は認めなかった(LOE 4)115。気道が確 保されていない成人の心停止の患者で CPR 中に ATV は安全で効果的なマスク換気につな がることが2つの実験研究で示されている(LOE6)116,117。 推奨される治療 心停止で、器具を用いた気道確保がなされている成人の患者では、手動で(換気を)ト リガーし、送気量が規定されたレサシテータや、ATV の使用(専門の医療者の手による) が合理的である。こうした気道確保がおこなわれていない成人の患者に対する ATV の使用 については、part 2 で論ずる。 ■心停止に対する薬剤と輸液 - 9 - 心停止中の薬剤の使用に関する質問に関して 2005 コンセンサスカンファレンスでは、次 のように分類する。(1)昇圧薬、(2)抗不整脈薬、(3)その他の薬剤と輸液、(4)投与の代替ルー ト(静脈路に対する代替)。 昇圧薬 蘇生中にエピネフリン/アドレナリンを使用することは広くおこなわれており、またバソ プレッシンに関してもいくつかの検討がなされているにもかかわらず、心停止のどの段階 にせよ、どの昇圧剤にせよ、心停止の患者に対しルーチンに昇圧剤を使用することが生存、 あるいは生存退院を増加させるかどうかに関してプラセボと比較したコントロール研究は ない。どんな薬剤に関しても、あるいはどんな薬剤のシリーズに関しても、ルーチン使用 に関しては支持するにしても反対するにしても、現在のエビデンスは不十分である。ヒト に関するデータは欠けているにしても、しかし、昇圧剤をルーチンに使用することを(現 在行われているように)続けることは合理的である。 エピネフリンとバソプレッシン W83B,W83E,W83F,W83G,W83H,W84A,W84B,W84D,W85A,W85B, W85C,W112 科学的コンセンサス 有望ではあるが低い(エビデンス)レベルのデータ(LOE2118,LOE5119-121)、周到に行 われた多数の動物実験研究(LOE6)、成人の病院外心停止に対して行われた2つの大規模 RCT(LOE1)122,123 で、最初に使用する昇圧剤として、バソプレッシン(40U、一つの研 究ではこの量で繰り返し投与)を使った場合の生存率は、エピネフリン(1mg を繰り返し 投与)投与と比較して、いずれも増加させることができなかった。すべての(心電図)リ ズムを含む病院外心停止に関する、ひとつの大規模多施設研究によれば、心静止のサブグ ループの患者に対して(これは後から計画して分析したものであるが post hoc analysis)、 バソプレッシン(40U、必要なら繰り返し投与)を使った場合の生存率は、エピネフリン(1mg、 必要なら繰り返し投与)を使った場合と比較して、生存退院率が増加した(LOE1)123。た だし神経学的に完全な患者の生存は増加したわけではなかった。5つの RCT のメタアナリ シスでは(LOE1)124、バソプレッシンとエピネフリンの間に、心拍再開、24 時間以内の死 亡、退院までの死亡に関して有意な差異は見られなかった。初期調律にもとづく層別分析 でも、退院までの死亡率に関して統計的に有意な差異は認めなかった(LOE1)124。 推奨される治療 プラセボと比較した検討はないが、心停止に関してはエピネフリンは標準的な昇圧剤で ある。いかなる心停止のリズムに関しても、バソプレッシンがエピネフリンの代替として、 あるいは併用薬として使用できるかどうかをサポートするあるいは反対するエビデンスは いずれも不十分である。 - 10 - α―メチルノルエピネフリン W83B 科学的コンセンサス 予備的な動物での研究ではあるが(LOE6)125-127、動物の VF モデルでα―メチルエピネ フリンの使用が、潜在的な、短時間の利得をもたらすことが示唆されている。現在のとこ ろ、ヒトに関する研究は公表されていない。 エンドセリン W83D,W83I 科学的コンセンサス 動物の心停止に関する 5 つの研究からのエビデンスでは(LOE6)128-132、エンドセリン ー1により冠灌流圧の改善が一貫して報告されているが、これはしかし、心筋の血流の改 善までは至らなかった。ヒトに関する研究では公表されたものはない。 抗不整脈薬 ヒトの心停止においてルーチンに投与して、生存退院率を向上させるというエビデンス はいかなる抗不整脈薬についてもえられていない。電気的除細動に抵抗して反復する VF に 対して、アミオダロンはプラセボおよびリドカインと比較して、入院までの短期的な予後 を改善する。ヒトに対する長期的な予後データはかけているが、(現在と同様に)抗不整脈 薬をルーチンに使い続けることは合理的である。 アミオダロン W83A,W83I 科学的コンセンサス 成人に対するマスクされた2つの RCT において、病院外心停止の難治性 VF あるいは無 脈性 VT の患者において、パラメディックによるアミオダロンの投与は(300mg133、 5mg/Kg134)プラセボ 133 あるいはリドカインの投与(1.5mg/Kg)134 に比較して、入院率 を上昇させて生存率を改善した(LOE1)133,134。さらに、別の研究では(LOE7)135-139 ア ミオダロンを VF または、血行動態的に不安定な VT のヒトまたは動物に投与した場合、電 気的除細動へのレスポンスが改善されたと報告している。 推奨される治療 短期的ではあるが生存率の向上を考慮するとアミオダロンは難治性 VF/VT に対して考慮 すべきである。 その他の薬剤および輸液 ヒトの心停止においてその他の薬剤(すなわちバッファー、アミノフィリン、アトロピン、 カルシウム、マグネシウム)をルーチンで使用することが生存退院の率を上昇させるとい うエビデンスはない。特に心停止が肺塞栓で引き起こされている場合には、血栓溶解薬が 心停止に奏功するといういくつかの報告がある。 - 11 - アミノフィリン W98A,W98B 科学的コンセンサス ひとつのケースシリーズ(LOE5)140 と3つの小規模の RCT(LOE2)141-143 で、アミノフ ィリンを徐脈―心静止に使用したが心拍再開率を上昇させなかったと報告している。生存 退院率にアミノフィリンが効果を及ぼすことを示した研究はなかった。また、徐脈―心静 止に際してアミノフィリンを使用したが害を及ぼすというエビデンスもなかった (LOE2141-143, LOE5140)。 アトロピン W97A,W97B 科学的コンセンサス 成 人 に 対 す る 5 つ の prospective controlled nonrandomized cohort 研 究 で (LOE3)19,144-147、またひとつの LOE4 の研究 148 で、病院内あるいは病院外の心停止に 対するアトロピン投与が、一貫した利得と結びつくことはなかった。 バッファーW34,W100A,W100B 科学的コンセンサス CPR 中の重炭酸ナトリウム(bicarbonate)の使用については、LOE1,2,3 の研究は公表さ れたものの中にはなかった。LOE2 研究 149 が一つあって、tribonate がプラセボ(中性) に比較して特に利得があるとはいえなかったとしている。また、重炭酸ナトリウムに対し て行われた、 (使用量等が)コンロトールされていない後ろ向きの分析研究が 5 つあるが、 結果はきちんと結論づけられたものではない(LOE4)150-154。EMS システムにおいて、 重炭酸ナトリウムを早期に頻回に使用した場合、心拍再開と生存退院の率が高くなり、長 期的な神経学的予後も良かったという LOE4 研究 155 が一つある。 動物を用いた研究の結果は互いに矛盾しており、確定的ではない。三環系抗鬱剤やその他 の即効性のナトリウムチャンネルブロッカー重炭酸ナトリウムによる(“薬剤過量投与と中 毒”の項参照)低血圧や不整脈などの心毒性の治療に、重炭酸ナトリウムは効果があった。 (心停止については、)LOE5 の論文 156 が、ひとつだけあり、三環系あるいは四環系抗鬱 剤による VF に奏功したことが報告されている。 推奨される治療 心停止に対する CPR(特に病院外心停止において)あるいは、心拍再開後にルーチンと して重炭酸ナトリウムを投与することは推奨しない。重炭酸ナトリウムは致死的な高カリ ウム血症や高カリウム血症をともなう心停止や、代謝性アシドーシスがあらかじめ存在す る場合や、三環系抗不鬱剤の過量投与の場合に考慮してよい。 マグネシウム W83K,W101A,W101B - 12 - 科学的コンセンサス 成人に対する病院内および病院外での研究(LOE2157-160, LOE3161, LOE7162)、 動物 を用いた研究(LOE6)163-166 では、CPR 中にマグネシウムを用いても心拍再開率は増加し ないことが示されている。5 人の患者に対する小規模のケースシリーズがひとつあり (LOE5)167、この結果では、電気的除細動抵抗性の、またエピネフリン/リドカイン抵抗性 の VF では、利得があることが示されている。 推奨される治療 マグネシウムは、低マグネシウム血症とトルサード型心室頻拍に対して投与されるべき であるが、心停止に対するルーチンの投与は推奨するにはデータが不十分である。 CPR における血栓溶解薬 W96A,W96B,W96C 科学的コンセンサス 急性の肺血栓塞栓症、あるいはその他の(血栓溶解剤の適応となる)心原性心停止が心 停止の原因と考えられる心停止では、標準的な CPR が最初におこなわれて不成功だった成 人に対して、血栓溶解剤の投与によって蘇生が奏功するということが報告されてきた (LOE3168, LOE4169-171,LOE5172-176)。病院外心停止の患者で、最初の蘇生処置に反 応しなかった PEA に対して、鑑別を行うことなくすべて血栓溶解剤を投与した、大規模 RCT がひとつ報告されているが、有意な効果を示すことはできなかった(LOE2)177。4 つ の臨床研究(LOE3168,LOE4169-171)と5つのケースシリーズ研究が(LOE5)172-176、非 外傷性の心停止に対し、CPR 中に血栓溶解剤を投与しても血栓溶解にともなう合併症は憎 悪しなかったと報告している(LOE3168,LOE4169-171)。動物実験の報告が2つあり (LOE6)178,179、CPR 中に血栓溶解剤を投与して脳の灌流に対して効果があったことが報 告されている。 推奨される治療 血栓溶解剤は、肺血栓塞栓症が証明されている、あるいは疑われる成人の患者に対して 考慮されるべきである。その他の心停止については、血栓溶解剤の投与に関しては、サポ ートするするデータも、反対するデータも不十分である。 輸液 W105 科学的コンセンサス 正常血液量(normovolemia)の心停止に対して輸液をしたかしないかをヒトに関して比較 検討した研究は公表された研究の中にはない。動物実験では(LOE6)180-183、実験で人為 的に作成された VF で、輸液をルーチンに行うことに対しては4つの報告があるが、サポー トすることも、反対することもしていない。輸液は、 (従って)循環血液量減少(hypovolemia) が疑われる場合に行われるべきである。 - 13 - 薬剤投与の代替ルート もし、経静脈的ルートが確保できないとき、蘇生用薬剤の骨髄投与が適切な血漿の濃度 を得ることができる。蘇生用薬剤はまた、気管チューブを経由して投与することもできる。 しかし同じ薬剤を経静脈的にあるいは骨髄を経由して投与した場合より、血漿濃度は低く、 また不安定である。 骨髄内ルート W29 科学的コンセンサス 成人と、小児でおこなわれた二つの前向き研究と(LOE3)184,185、別な6つの研究 (LOE4186,LOE5187-189,LOE7190,191)で、骨髄ルートは、輸液による蘇生においても、 薬剤投与においても、検査(ラボデータ)においても安全で効果的であること、またどの 年代にも使えることを報告している。 気管チューブからの薬剤投与 W32,W108 科学的コンセンサス アトロピンとエピネフリン 成人でおこなわれた歴史対照による非ランダム化コホート(historic nonrandomized cohort)研究で(LOE4)192、心拍再開率、生存退院率は、(アトロピンとエピネフリンの) 経静脈的投与を受けたグループの方が、気管チューブから投与を受けたグループよりよか ったという報告が1つある(心拍再開;27% vs. 15%, P<0.01 生存退院;20% vs. 9% P<0.01)。経静脈的に投与を受けたグループでは生存退院は 5%であったが、気管チューブ から投与を受けたグループで生存退院した患者はいなかった。 エピネフリン CPR 中のエピネフリン投与に関して経静脈的な投与量と同等な気管支内投与の量は、経 静脈的投与量のおよそ 3 倍から 10 倍となる(LOE5193,LOE6194)。気管支内投与のエピ ネフリン(2mg から 3mg)は、5ml から 10ml の 0.9%NaCl で希釈されて、治療レベルに 達する(LOE5)193。この気管支内投与は、0.9%NaCl のかわりに水で希釈すると血漿濃 度はもっと上昇する(LOE6)195。 CPR 中、肺への血液灌流は正常の 10%から 30%しかないので、肺にエピネフリンが蓄積 する。多量のエピネフリン投与が気管内におこなわれた後、もし、心拍出量が回復した場 合、肺から肺循環に多量のエピネフリンが遅れて吸収されることになり、高血圧や悪性の 不整脈や VF の再発をおこすことが考えられる(LOE6)194。 リドカイン (報告されている)すべての研究は、血行動態が安定した心停止に陥っていない患者に - 14 - ついてである。気管チューブから投与された患者ではリドカインの血漿濃度は治療域まで 得られているが(LOE5)196,197、LMA を挿入した患者では 40%までしか得られなかった (LOE5)197,198。麻酔された健康な成人においては、気管内投与ではリドカインの血漿濃 度 が 上 昇 す る ま で に は 時 間 を 要 し た (LOE2)199 。 こ れ ら の 検 討 の す べ て で は な い が (LOE2199,LOE5196)、いくつかの検討によれば(LOE5)198,200、カテーテルを使用して リドカインを気管支深く投与した場合は、気管チューブから直接投与した場合より、血中 濃度は低かった??(要確認)。0.9%NaCl のかわりに水を用いた場合、気管支内投与は高 い血漿濃度を得るとともに、PO2 の低下も少なかった(LOE5)201。 バソプレッシン バソプレッシンの気管支内投与は、同等量をエピネフリンで気管支内に投与するより、 拡張期血圧の上昇に関してすぐれた効果があった(LOE6)202。小規模の動物実験ではある が、バソプレッシンの気管支内投与はプラセボに比較して、CPR 中の冠灌流圧を上昇させ て生存率を改善した(LOE6)203。 推奨される治療 もし、静脈路(IV)の確保が遅れるか、できない場合は、骨髄からの投与(IO)を考慮すべき である。IV または IO のルートの確保が遅れるかできない場合は気管チューブから薬剤を 投与する。気管支内への投与については、気管チューブからの投与に比較して利得が認め られない。0.9%NaCl で希釈して投与するより水で希釈して投与する方が薬剤の吸収がよい かも知れない。 ■心停止中の循環モニタリングと循環補助 手技や器具の使用に関して関連した質問として、(1)心停止に対する CPR の 効果 (performance)をモニターする、(2)心停止の際に循環を補助する(標準的な心肺蘇生の 代替として) 、(3)が 2005 コンセンサスカンファレンスで議論された。 これらは下記のようである。 CPR の効果(performance)のモニター 呼気 CO2 は心拍再開の指標として使える。血液ガス分析は治療をガイドするために役に たつかもしれない。冠血流の測定も役に立つかもしれないが、技術的に測定が難しいため にルーチンには使えない。 心停止中に治療をガイドするための呼気 CO2 モニタリング W92A,W92B 科学的コンセンサス 直接にこのトピックに取り組んだ研究というものはない。過去 5 年間に公表された研究 - 15 - はそれ以前の文献の結果と一貫しており、CPR 中、呼気 CO2 の値が高いと、心拍再開しや すいということを示している。(LOE5)204-207 実験モデルでは、CPR 中の呼気終末 CO2 は心拍出量、冠灌流圧、そして蘇生率に関連して いることが示されている(LOE6)208-214。8 つのケースシリーズが、心停止から蘇生に 成功した患者では呼気終末 CO2 が蘇生できなかった患者に比較して有意に高いことを示し ている(LOE5)73,204-207,215-217。カプノメトリ(呼気 CO2 測定)はまた、心拍再開 を早期に捉える指標としても使用される(LOE5218,219;LOE6220)。 合計 744 の患者のケースシリーズでは、心停止で挿菅されている成人の患者で、たとえ CPR が理想的に行われても、最大の呼気終末 CO2 が 10mmHg に達しない患者では、転帰は不 良であると報告されている(LOE5)204,205,217,221-223 。この予後指標(prognostic indicator)は、CPR を開始してすぐには信頼性がないと考えられることが2つの研究で報告 されている(LOE5)217,223。 加えて2つの研究(LOE5)221,222 が、心拍再開した 5 人 の患者においては、最初の呼気終末 CO2 が 10mmHg に達していなかったことを報告して いる(うち一人は生存した)。 推奨される治療 呼気終末 CO2 モニターは、CPR 中の心拍出量の安全な、効果的で非侵襲的な指標であり、 さらに挿菅患者では早期に心拍再開したことを把握できる指標でもある。 心停止中の血液ガスモニタリング W93A,W93B 科学的コンセンサス 一つの LOE5224 の研究と、10 個の LOE7225-234 の研究によるエビデンスによれば、 動脈血ガスの値は、病院内および病院外の心停止あるいは CPR においては、組織のアシド ーシスを評価するのには不正確な指標である。同じ研究において、動脈血および混合静脈 血のガス分析がアシドーシスの程度を把握するために必要であることを示している。 動 脈 血 ガ ス 分 析 は 、 そ れ だ け で 低 酸 素 血 症 の 程 度 を 明 ら か に す る (LOE5235 ; LOE6236,237;LOE7225,227,231,238-240)。動脈血ガス分析は代謝性アシドーシスの程度 をはっきりさせることもできる(LOE5241;LOE6236;LOE7225,227,230,231,238,239)。 動脈血 CO2 は CPR 中の換気が適切かどうかの指標である(LOE2242;LOE5235; LOE6236;LOE792,227,239,243)。もし、換気が一定の条件でおこなわれていれば、PCO2 の上昇は(組織の)灌流が CPR 中改善されたことの潜在的なマーカーでもある(LOE5244; LOE6209,245;LOE7246)。 推奨される治療 心停止中の動脈血ガス分析は、CPR 中の低酸素血症の程度や換気の適切さを推測するこ とを可能にする。しかし、組織のアシドーシスの程度を知るためには信頼できる指標では ない。 - 16 - 蘇生をガイドするための冠灌流圧 W95A,W95C 科学的コンセンサス 冠灌流圧(CPP:coronary perfusion pressure)は、CPR 中の大動脈の弛緩期(拡張期) 圧から右房の弛緩期の血圧を引いたものであるが、心筋血流と心拍再開と関連している (LOE3)247,248。15mmHg 以上は心拍再開の予測因子となる。CPP の上昇は、動物実験で、 24 時間生存と関連しており、また、エピネフリン、バソプレッシン、アンギオテンシンⅡ を用いた研究によれば(LOE6)249-251、CPP の上昇は、心筋血流の改善、心拍再開の改善 と関連している(LOE6)249。 推奨される治療 CPP は心停止において治療をガイドしえる。ICU においては、直接、動脈圧を測定し、 CVP をモニターすることによりこの CPP を算出することがしばしば(潜在的に)有用であ る。ICU 以外のところでは、こうした侵襲的なモニタリングが技術的に難しいために心停 止中、ルーチンに CPP を算出することは困難である。 心停止中の循環補助とその装置 標準的な CPR を補助するいくつかの手技や器具が検討されており、これに関連したデー タが広く調べられている。多施設研究の報告がひとつあり(LOE2)94、病院外の CPR で胸 部圧迫がしばしば遮断され、その質はよくないことが示されている。新しい手技や器具を 用いた CPR が現行の標準的な CPR よりすぐれているかもしれないということが、いくつ かのグループの手による検討で、報告されている。しかし、どの手技もその成功の秘密は、 救助者への教育やトレーニングあるいは、(人的資源も含めた)適応できる資源によるので ある。ただし、これらの手技や器具に関する情報は、およそ限られており、また一貫して おらず錯綜しており、あるいはその効果が短期の転帰に限ってサポートされるものであっ たりするため、ルーチンとしての使用を支持する、あるいは反対するといった推奨はでき る段階にない。 心静止に対する経皮的ペーシング W104 科学的コンセンサス 3 つ の RCT(LOE2)252-254 と 、 さ ら に 別 な 研 究 の 報 告 に よ れ ば (LOE3255 ; LOE5256-259;LOE6260;LOE7261)、心静止の患者に対し、パラメディックや医師が病 院外あるいは病院内(救急外来で)で、ペーシングを試みても、入院率や生存退院率には 改善は認められなかったと報告されている。 推奨される治療 心静止の患者に対しペーシングは推奨しない。 - 17 - CPR プロンプト W190A,W190B 科学的コンセンサス 蘇生をガイドする装置を使っていない CPR の質がよくないことが、病院外あるいは病院 内での成人患者に関する2つの研究(LOE5)93,94 で示されている。成人においてひとつの 研 究 が (LOE3)262 、 小 児 に お い て ひ と つ の 研 究 が (LOE3)263 、 さ ら に 動 物 実 験 (LOE6)264,265、マネキンを用いた研究が(LOE6)266-272、CPR をガイドする装置を用い た時に、呼気 CO2 あるいは CPR の質、あるいはその両者が継続的に改善することが示さ れている。マネキンを用いたある研究によれば(LOE6)270、CPR をガイドする器具を救助 者の手根部と犠牲者の胸に用いた場合、95%の救助者が手と手首に違和感を覚えたことが報 告されている。しかし、長期的な意味での障害は認められなかった。すでに CPR のトレー ニングを受けたパラメディックの学生におけるクロスオーバー研究では、オーディオによ るフィードバックを受けた CPR は、換気の速度や、胸骨圧迫心マッサージの深さや、圧迫 の時間を適正にした(LOE6)268。同様の研究が看護学生でもおこなわれていて、換気や圧 迫の深さを適正化したことが示されている(LOE6)272。 推奨される治療 CPR をガイドする器具は、CPR の質を高めるかもしれない。Part 8 も参照のこと。 IAC-CPR W73A,W73B(Interposed Abdominal Compression CPR: 間欠的腹部圧迫 CPR) 科学的コンセンサス 病院内の心停止に関する2つの RCT では(LOE1273;LOE2274)、トレーニングされた 救助者が IAC-CPR を適応した場合、心拍再開率とその原因からの生存率が改善することが 示されている。このうちひとつの研究では、生存退院率まで改善することが示されている (LOE1)273。このデータとひとつのクロスオーバー研究(LOE3)275 のデータはメタアナリ シスとして結合されている(このメタアナリシスの報告は 2 つあり)(LOE1)276,277。病 院外心停止に関して、この手技をトレーニングされた救助者が IAC-CPR を使用しても、生 存に関していかなる利得も得られなかったという一つの RCT の結果が報告されている (LOE2)278。ある有害事象がひとりの子供について報告されている(LOE5)279。わずかな 割合の患者に対してしか死後の調査をしていないが、考慮すべき有害事象が引き起こされ るというエビデンスはない。 高頻度 CPRW74,W163H 科学的コンセンサス 9 症例での臨床研究であるが(LOE4)280、高頻度 CPR(120/分の胸部圧迫)は、標準の CPR に比較して循環動態を改善したという。報告されている 3 つ実験研究によれば、高頻 度 CPR(120/分から 150/分)は外傷を増加させることなく循環動態を改善したという (LOE6)281-283。しかし、別な1つの実験研究によれば、高頻度 CPR は標準の CPR に比 - 18 - 較して循環動態を改善しなかったということである(LOE6)284。 ACD-CPR (Active Compression-Decompression)CPRW75A,W75B,W163J 科学的コンセンサス 短期間な生存率を上昇させ(LOE2)285,286、神経学的に完全な生存の率さえ改善する (LOE1)287 という当初の有力な報告にもかかわらず、10 の研究をまとめたコクラン メタ アナリシス(LOE1)288(4162 例が含まれる)では標準の CPR と比較して ACD-CPR は短 期的な生存率、あるいは生存退院率を有意に増加させるということは示されなかった。標 準的な CPR と ACD-CPR を病院内の心停止に関して比較した 2 つの研究(826 例の患者) をまとめたメタアナリシスでは(LOE1)288、短期的な生存率あるいは生存退院率において、 ACD-CPR による有意な上昇を見出すことができなかった。ひとつの小規模な研究では (LOE4)289、標準的な CPR だけで蘇生した場合と比較して ACD-CPR グループでは、胸骨 骨折の頻度が上昇したと報告しているが、大規模なメタアナリシスでは 288、標準の CPR に比較して ACD-CPR でいかなる合併症も増加したということはなかった。 LDB-CPR (Load Distributing Band) CPRW76A,W76B,W163F 科学的コンセンサス LBD というのは、空気で締めるバンドと背板からなり胸部を環状に圧迫する装置である。 病院外の心停止に対し、きちんとトレーニングされた救助者によって救急室で LBD-CPR を行ったところ、生存率が改善したという 162 例の成人に対するケースコントロール研究 がある(LOE4)290。LDB-CPR は循環動態を改善したということが、末期患者に対しておこ なった病院内の研究で1つ(LOE3)291、また2つの実験研究で(LOE6)292,293 報告されて いる。 機械による CPR(ピストン CPR)W77A,W77B,W163B,W163E 科学的コンセンサス 成人に対するもので、前向きのランダム研究がひとつ、前向きのクロスオーバーランダ ム研究が 2 つあり、病院内あるいは病院外で医師とパラメディックによって実施された自 動化された機械による CPR では、呼気 CO2 と平均血圧が改善したことが示されている (LOE2) 294-296。いくつかの動物実験では、機械による CPR により、呼気終末 CO2、心 拍出量、脳血流量、平均血圧、そして短期的な神経学的な予後が改善したという (LOE6)297-300。 LUCAS-CPR (ルンド大学心停止システムによる CPR)W77B,W163D 科学的コンセンサス LUCAS とは、ガス駆動で胸骨を圧迫する装置に、陰圧をくわえるカップが合体したもの - 19 - である。標準的な CPR に対して LUCAS-CPR の効果をランダム化比較した臨床(ヒトに 関する)臨床研究は存在しない。VF とした豚に対する検討では、LUCAS-CPR は標準的な CPR に対して、循環動態を改善し、短期的な生存率を改善したことが報告されている (LOE6)299。また、LUCAS は 20 例の患者に対しても使用されたが、転帰に関するデータ は十分とはいえないことが報告されている(LOE6)299。 PTACD-CPR (Phased Thoracic-Abdominal Compression-Decompression CPR) W78B,W163C,W168 科学的コンセンサス PTACD-CPR は、IAC-CPR と ACD-CPR の概念を合体したものである。 ひとつのモデ ル(での)研究(LOE7)301 およびひとつの実験研究(LOE6)302 で、PTACD-CPR が循環動 態を改善することを示している。病院内あるいは病院外において、二次救命処置中に循環 補助のためにこの PTACD を検証した成人に対するランダム化研究があり、生存率に改善 は 認 め ら れ な か っ た と 報 告 し て い る (LOE2)301 。 ま た 、 別 の 実 験 研 究 で も (LOE6302,302;LOE7304)、同様の報告がある。PTACD は、正しく使用されれば、実質的 に CPR の開始を遅らせるものではなく、有意な不利益や有害事象もなかったという。 MIDCM(Minimally Invasive Direct Cardiac Massage)W79A,W79B 科学的コンセンサス MIDCM( 小さな侵襲で実施する直接的な心マッサージ)とはピストンのような装置を、 小さく切開した胸壁から挿入して心臓を直接圧迫できるようにした“小さな侵襲で実施す る直接的な心マッサージ”である。MIDCM は、あるひとつの実験研究では、標準的な CPR に比較して、心拍再開率と冠灌流圧を改善すると報告されている(LOE6)305。また、別の 2 つの実験研究では、MIDCM は開胸心マッサージと同様に、全身の血流量、心筋血流量、 脳血流量を増加するという(LOE6)306,307。MIDCM 装置を病院外心停止の患者に設置し たところ血圧が標準的な CPR より、上昇したとする一つの臨床研究もある(LOE3)308。し かし、この研究では、1 例で MIDCM 装置が心破裂を引き起こしている。体外式除細動器 を用いた場合、MIDCM は除細動の閾値を上昇させるが、もし、MIDCM を電極の一つと して使用すると閾値を下げるとひとつの実験研究が報告している(LOE6)309。 ITD (Impedance Threshold Device)W80,W163A,W163I 科学的コンセンサス ITD とは胸の再挙上と胸部圧迫の間に空気が肺に入るのを制限するバルブのことである。 これは、胸腔内圧を減少させ心臓への静脈還流を上昇させることをねらったものである。 230 人の成人を対象としたランダム化研究では、病院外の心停止で PEA に限った心停止に おいて標準的な CPR に加えて ITD を使用した場合、ICU への入室と 24 時間生存率が上昇 - 20 - したと報告している(LOE2)310。さらに 5 つの実験研究(LOE6)311-315 と、1つの臨床研 究(LOE2)316 が ITD を使用することにより、循環動態を改善すると報告している。 400 人の成人に対するランダム化試験が、病院外心停止において ITD を ACD-CPR と一 緒に使用した場合、心拍再開と 24 時間生存率が上昇したことを示している(LOE1)317。ITD は、ACD-CPR に加えて使用することにより循環動態を改善することが、これとは別の1つ の実験研究(LOE6)318 と、1つの臨床研究(LOE2)319 で示されている。しかし、ACD-CPR 中に ITD を使用したが循環動態が改善しなかった実験研究がひとつある(LOE6)314。標準 的な CPR と比較すると、ITD を ACD-CPR に加えて使用した場合、心拍再開と 24 時間生 存 が 上 昇 す る こ と を 210 人 の 病 院 外 の 患 者 に 対 す る ラ ン ダ ム 化 試 験 が 示 し て い る (LOE1)320、また循環動態が改善することを 2 つの実験研究が示している(LOE6)312,322。 体外(循環)手技と侵襲的還流装置 W28,W82 科学的コンセンサス 成人のデータだけが 3 つのケースシリーズで得られている(LOE5)323-325。うち一つの 検討で 323 体外循環 CPR(ECPR)が心臓切開後の患者においては、その他の原因で心停 止になった患者に比較して、より奏功することを示している。その他の 2 つの研究 324,325 では、ECPR は低体温や薬剤中毒による心停止という例外を除けば、救急外来での患者へ の処置としては利得がないことが示唆されている。 開胸 CPRW81B 科学的コンセンサス 蘇生における開胸 CPR の前向きランダム化研究は、論文として公表されていない。ここ では、関連する 4 つの研究を検討した。 2 つは心臓手術後のものであり(LOE4326;LOE5327)、 残りの 2 つは病院外心停止後のものである(LOE4328;LOE5329)。開胸心マッサージに関 して観察された利得とは、冠還流圧 329 と心拍再開率 328 の改善である。動物実験からの エビデンスは(LOE6)330-344、開胸心マッサージは、生存率、灌流圧、および臓器血流量 を閉胸心マッサージより増加させることを示している。 推奨される治療 開胸心マッサージは心臓胸郭手術の術後早期に起こった心停止やすでに開胸、あるいは開 腹されている時に考慮されるべきである。 ■死に至る危険性のある不整脈 QRS 幅の狭い頻脈 心停止を来しそうな状況での QRS 幅の広い頻脈の治療には4つの選択肢がある:電気的 - 21 - コンバージョン、身体的手技、薬物によるコンバージョン、心拍数のコントロールである。 これらは患者とリズムの安定度に応じて選択される。血行動態的に不安定な患者では電気 的カルディオバージョンが最もよい治療である。 心房細動に対する薬物療法 W86 科学的コンセンサス 一つの成人での RCT と他3つの研究において、心室性頻脈反応を来した心房細動の患者 に対し、医師、看護師、救命士が院外(LOE3)349、院内でマグネシウム(LOE3)345、 ヘルベッサー(LOE2)346、β遮断薬(LOE2)347,348 を投与して脈拍数が改善したこと を報告している。349 成人での RCT2つ(LOE2)350,351 と他のいくつかの研究において、院内で心房細動を 来した患者に医師や看護師がイブチリド、ジゴキシン、クロニジン、マグネシウム、アミ オダロンを投与し調律が改善したことを報告している推奨される治療 マグネシウム、ジルチアゼム、β遮断薬は心室性頻脈反応を来した心房細動に対し心拍 数のコントロールに使用されるだろう。アミオダロン、イブチリド、プロパフェノン、フ レカイニド、ジゴキシン、クロニジン、マグネシウムは心房細動に対する調律のコントロ ールに使用されるであろう。 通常の幅の狭い QRS 波形の頻脈に対する薬物療法 W87 科学的コンセンサス 一つのランダム化研究が、救急外来で PSVT を来した患者に対し、頸動脈洞マッサージ またはヴァルサルバ手技を行い、148 人中 41 人(28%)が洞調律に戻ったと報告している (LOE2)352。ある研究では安定している PSVT を来した若年者に対し迷走神経刺激手技 をまず行ったが 80%が失敗に終わったと報告している(LOE4)353。 五つのランダム化されていない前向きコーホート研究(LOE2354、LOE3355-358)では、 アデノシンが院内、院外において PSVT を洞調律に戻すには安全で効果的であると報告し ている。二つのランダム化臨床研究(LOE2)355,359 では PSVT の治療にアデノシンとカ ルシウム受容体遮断薬との間に有意な差はなかったが、アデノシンが効果が早く、副作用 はベラパミルが重篤であったと報告している。あるランダム化試験(LOE2)360 では、救 急外来での PSVT の治療にベラパミル(99%)とジルチアゼム(96%)に有意な差はなか ったと報告している。またあるランダム化臨床試験ではエスモロール(25%)に比較してジ ルチアゼム(100%)は PSVT の心拍数のコントロールに有意差を持って効果があったと報 告している。ある電気生理学的な研究(LOE6)362 ではアミオダロンは持続するリエント リー性 PSVT の抑制に 100%の効果があったと報告している。 推奨される治療 安定している幅の狭い QRS 波形の頻脈(心房細動、心房粗動を除く)はまず迷走神経刺 激手技(老年者に対する頸動脈洞マッサージは避ける)で対処すべきである。この手技は - 22 - 20%程度の PSVT を洞調律に戻すであろう。迷走神経刺激手技を行わなかった場合や、失 敗した場合、アデノシンを投与する。 カルシウム受容体遮断薬(ベラパミルやジルチアゼム)の点滴やアミオダロンの投与は アデノシンの効果が見られなかった患者のうち 10 から 15%に二番目の治療として有用かも 知れない。不安定な PSVT では電気的カルディオバージョンが選択される治療である。即 座に電気的カルディオバージョンが行えないような状況ではアデノシンの急速静注を試す ことが出来る。 幅の広い QRS 波形の頻脈 患者が安定しているかどうかが幅の広い QRS 波形をともなった頻脈の治療を決める。不 安定な幅の広い QRS 波形の頻脈に対しては電気的カルディオバージョンが選択すべき治療 である。 安定している心室頻拍の薬物療法 W35 W88 科学的コンセンサス 3つの観察的研究(LOE5)363-365 では、電気ショック抵抗性、または薬物抵抗性 VT に対する治療にアミオダロンが有効であると示されている。あるランダム化平行研究 (LOE2)138 は水溶性アミオダロンが電気ショック抵抗性 VT の治療にリドカインより効 果的であると示している。またあるランダム化試験(LOE2)366 は自発的に生じた VT の 治療にリドカインより優れていると示している。3つの後ろ向き分析(LOE5)367-369 で は急性心筋梗塞の有無にかかわらず、リドカインが VT を止める確率は低いと示された。あ る RCT(LOE1)370 では急性の持続する VT の治療にリドカインよりソタロールの方が有 意に効果的であると示している。あるメタアナリシス(LOE1)367 では1回のソタロール の投与された患者がトルサーデ型心室頻拍(torsades de pointes)を起こす危険性はおよそ 0.1%であると示されている。 推奨される治療 安定している持続する VT の治療にはアミオダロン、プロカインアミド、ソタロールが有 効である。 多形性 VT の薬物治療 W89 科学的コンセンサス ある観察研究(LOE5)371 ではマグネシウムの静注は、QT 間隔が正常の多形性 VT(TdP を除く)を治療できないことが示された。リドカインは効果がないが、アミオダロンはあ るかも知れない(LOE4)372。 推奨される治療 電気的治療が適応でない、または無効であった場合、血行動態的に安定した多形性 VT に - 23 - 対してはアミオダロンが有効であろう。 トルサーデ型心室頻拍(Torsades de Pointes)の治療 W90 科学的コンセンサス 2つの観察研究(LOE5)371,373 では QT 間隔の延長したトルサーデ型心室頻拍 (torsades de pointes)の治療にマグネシウムの静注が有効であると示している。ある成人 のケースシリーズ(LOE5)374 では徐脈や薬剤性 QT 間隔延長をともなった TdP の治療に イソプロテレノールや心室ペーシングが有効であったと報告されている。 推奨される治療 マグネシウム、イソプロテレノールや心室ペーシングがトルサーデ型心室頻拍(torsades de pointes)に治療に使用される。 徐脈 心停止を来しそうな状況では、救助者は徐脈を引き起こしそうな治療しうる原因を検索 し、対処すべきである。治療しうる原因がない場合は、依然アトロピンが急性の症候性徐 脈の治療の第一選択である。アトロピンに反応しない場合は、ドパミンやエピネフリン、 イソプロテレノール、テオフィリンといった第2選択薬が有効かも知れないが、通常経皮 的ペーシングが必要となる。電気的ペースメーカーが来るまでの間、拳によるペーシング が試みられることもある。 症候性徐脈の薬物療法 W91 科学的コンセンサス 一つの成人でのランダム化臨床試験(LOE2)375 と一つの成人の歴史対照によるコーホ ート研究とその追加報告(LOE4)376-379 においてアトロピンの静注により心拍数、徐脈 に基づく症状や兆候が改善している。初期投与量 0.5mg と必要に応じ 1.5mg までの追加投 与は院内でも院外でも症候性徐脈の治療に有効であった。 二つの入院している成人に対する前向き非ランダム化コーホート研究(LOE4)376,380 ではテオフィリンの静注によりアトロピンに反応しなかった徐脈での心拍数、症状、兆候 が改善したことを報告している。 一つの症例報告(LOE5)379 では、アトロピンに反応しなかった薬剤性症候性徐脈に対 し、グルカゴンの静注(まず 3mg 静注し、必要に応じ 3mg/h で持続点滴静注する)により 心拍数、症状、兆候が改善したことを示している。 10 人の健康成人のボランティアでの研究(LOE7)381 では 3mg のアトロピン投与によ り安静時心拍数が最大限に上昇したと報告している。ある研究(LOE5)382 では心臓移植 を受けた患者ではアトロピンにより逆に高度 AV ブロックを生じるかも知れないことが報 告されている。 - 24 - 推奨される治療 症候性徐脈に対しては、0.5 から 1mg のアトロピンを 3∼5 分おきに総量 3mg になるま で、繰り返し投与する。アトロピンに反応しない患者では経皮的ペーシングを即座に開始 できるよう準備する必要がある(もしこのような決定的治療が遅れることがなければ、第 2選択薬を使用してもよい)。ペーシングは重篤な症状を呈している患者、特に伝導ブロッ クがヒス-プルキンエ線維や、その上部で生じている場合もまた推奨される。症候性徐脈の 第2選択薬にはドパミン、エピネフリン、イソプロテレノールやテオフィリンが含まれる。 β遮断薬やカルシウム受容体遮断薬が徐脈の原因と考えられる場合にはグルカゴンを考慮 する。心臓移植を受けた患者ではアトロピンを使用すべきではない。 心停止に対する拳でのペーシング W58 科学的コンセンサス 3つのケースシリーズが、拳によるペーシングが有効であると示している。そのうち大 きな2つの研究は 100 名の患者(LOE5)383 と 50 名の患者(LOE5)384 を対象に行わ れている。残り一つの研究(LOE5)385 は拳によるペーシングと2種類の電気モード(訳 者註:恐らく経皮的、経静脈的)を同じ患者で比較し、3つの方法で差がなかったと報告 している。上記のケースシリーズの報告では最も効果的な方法は、閉じた拳で、胸骨の左 下端を1分間に 50∼70 回の生理的なスピードで、連続したリズミカルな叩打を加えること であると報告している(LOE5)383,384。拳によるペーシングに関する病院前での症例報 告はない。実質的に拳によるペーシングについて出版されている論文は全て、完全房室ブ ロックは潜在的な徐脈性不整脈であるとしている。 推奨される治療 拳によるペーシングは電気的ペーシング(経皮的であれ、経静脈的であれ)が使用可能 となるまで、血行動態的に不安定な徐脈性不整脈に対し考慮してよい。 ■特殊な環境での心停止 ある環境では疾病者の蘇生の機会を最大限に引き出すために、標準の心肺蘇生手技に修 正を加える必要がある。このような特殊な環境では生命に危機が迫っていることを認識す ることが、心停止に陥るのを避けるための治療を早く行うことができる。コンセンサスを 作る過程で吟味された特殊な環境とは環境(低体温、溺水、電撃症) 、妊娠、喘息、薬物中 毒である。 環境 低体温 W131 W162A W162B 科学的コンセンサス - 25 - 脈のある低体温患者の場合:ある RCT(LOE1)386 では偶発低体温の実験モデルにお いて、金属ホイルで全身を覆うより体表を積極的に加温する方が効果的であったと報告し ている。2つの研究(LOE4)387,388 では体表から強制的に送風したり、温かい輸液によ り積極的に復温することに成功している。 心停止に陥った低体温患者の場合:2つの研究(LOE4)389,390 では CPR を継続し、 (体 外循環や人工心肺を用いた)侵襲的な復温を行って蘇生に成功したと報告している。(強制 送風や温めた輸液)積極的な非侵襲的な復温を用いて、低体温を来している心停止患者の 蘇生を成功させたと報告されている(LOE4)389。窒息を起こしていると推測される低体 温心停止より、窒息を起こしていない低体温心停止患者の方が予後がよかった(LOE4)389。 雪崩の被害者も小さなエアポケットがあれば、窒息による心停止は免れるかも知れない (LOE5)391。 推奨される治療 循環が保たれた患者、心停止が先行しない低体温患者では、積極的(非侵襲的)体表加 温(電気毛布や温風、温かい輸液)を考慮すべきである。心停止に陥った重症低体温患者 では侵襲的加温(人工心肺や体外補助循環)が役立つかも知れない。 溺水 W132 W160 W161 第2章「成人の一次救命処置」の「溺水」を参照のこと 科学的コンセンサス ある研究(LOE4)392 では重症外傷の症状がなければ、溺水患者の頚椎損傷の可能性は 低いと報告している。3つの症例報告(LOE5)393-395 によれば、真水による重症呼吸促 迫症候群に対し、外因性界面活性剤を使用し、2名が生存したと報告している。また別の 症例報告(LOE5)396 では2名の溺水患者に非侵襲的陽圧換気を用いたと報告している。 ステロイド(LOE5)397、一酸化窒素(LOE5)398、心拍再開後の ECMO による復温 (LOE5)389、心拍再開後の低体温療法(LOE5)399、バゾプレッシン(LOE5)400 の 使用を支持、または否定するエビデンスはない。幼い子供の浸水後の重症低体温での ECMO の使用報告はいくつかある(LOE5)401,402。推奨される治療 浸水した患者は水から引き上げ、最も早い手段で蘇生すべきである。リスクファクター のある(飛び込み後、ウォータースライド使用、外傷、飲酒後の)患者や損傷の臨床症状、 局所的な神経症状のある患者のみ頚椎損傷の可能性があるものとして頚椎、胸椎を固定し、 取り扱うべきである。 電撃症 W135 科学的コンセンサス 幾つかの症例報告(LOE5)403-412 によれば、早期の一次救命処置、二次救命処置が電 撃症、雷撃症の患者を救命し、短期、長期の心臓の後遺症、神経学的後遺症を減らすかも - 26 - 知れない。電撃症、雷撃症患者の症例研究では多発外傷合併の可能性と最初の救助者の安 全を確保することの重要性を強調している。助かった人も永久的な神経学的、心臓の後遺 症を残す可能性がある。 妊娠 妊娠中の心停止の病因 W119C W134 科学(的なエビデンス)にもとづいたコンセンサス ある大規模なケースシリーズ研究(LOE5)413 では、治療可能な心停止の原因を系統立 てて考慮することで、熟練した救助者は院内での妊娠中の心停止の病因を明らかにする事 が出来るであろうと示された。 心停止を来しそうな状況での蘇生シナリオ(LOE7)414,415 から推定されるエビデンスは 熟練した救助者による超音波検査は院内での妊娠中心停止の原因として腹腔内出血を鑑別 するのに有用であろうという事である。 推奨される治療 救助者は蘇生治療中、妊娠中に心停止を来す一般的で治療可能な原因の鑑別に努めるべ きである。妊娠の検索と妊娠中の心停止の原因を検索するために、熟練した人間により腹 部超音波検査は行うべきであるが、このことで他の治療を遅らせるべきではない。 W134 妊娠中の蘇生手技 科学的コンセンサス あ る 大 規 模 な ケ ー ス シ リ ー ズ 研 究 ( LOE5 ) 413 と 多 数 の 症 例 報 告 ( LOE7417 、 LOE8418-421)では、院内で熟練した救助者による初期の蘇生治療が失敗した場合には、 心停止の5分以内に分娩を行えば母体、と新生児の生存社会復帰率を改善させたことを示 している。 麻酔中の推測(LOE7)422 とマネキンを用いた研究(LOE6)423 によれば、15度左 側臥位にすることで妊娠女性の多くに見られる下大静脈圧迫を解除し、胸部圧迫を効果的 にすることが出来るであろう。 健常成人での研究(LOE7)424 では妊娠中も経胸腔インピーダンスには変化がないこと を示した。妊娠中の心停止で除細動を行う場合は標準的な推奨エネルギー数で行うべきで ある。 推奨される治療 初期の蘇生治療が失敗した場合には、母体、または胎児の生存率を上げるために胎児の 帝王切開による分娩を心停止の5分以内に行うべきである。15度左側臥位にすることで 妊娠女性の多くに見られる下大静脈圧迫を解除することが出来る。成人に用いられる除細 動のエネルギー数は妊娠中においても同等である。 - 27 - 喘息 W119B W133 喘息の際の除細動 科学的コンセンサス 健常成人での研究(LOE7)425 では PEEP が上昇するにつれて経胸腔インピーダンスが 上昇し、臨床現場では喘息による心停止の患者に初期除細動が失敗した場合には、より高 いエネルギー数が必要かも知れないことが示唆された。 推奨される治療 喘息と心室細動を呈した患者で初期除細動に失敗した場合にはより高いエネルギー数で の除細動を考慮すべきである。 喘息での換気 W119B 科学的コンセンサス 非心停止患者の体系的レビュー(LOE7)426 から推測されるエビデンスでは、院内心停 止を来した喘息患者にヘリウムと酸素の混合ガスで換気すると動的過膨張(auto-PEEP) を減らせることが示唆された。 3つの非心停止の症例報告(LOE7)427-429 から推測されるエビデンスでは、喘息患者 は心停止中、特に推奨される量以上の一回換気量と回数で換気された場合、gas trapping を起こす危険性があることが示唆された。二つの小さなケースシリーズ(LOE5)430,431 と症例報告(LOE8)432 では、喘息による心停止患者において、いかなる臨床現場で、gas trapping を解除するために胸部圧迫の後に無呼吸の時間を置く方法に一定した利点を見い だせなかった。(上述した「心停止での断続的換気」を参照のこと。) 非心停止のケースシリーズ報告(LOE7)428 から推測されるエビデンスでは喘息による 心停止患者に熟練した救助者が気管挿管を早期に行えば、換気を改善し、胃の膨満を減ら すことが出来ることを示している。二つの非心停止の症例報告(LOE7433、LOE8434)か らは喘息による心停止において開胸での換気と心臓マッサージの有効性を支持することも、 否定することも出来ない。 推奨される治療 喘息に関連した心停止でヘリウム-酸素混合ガスの有効性を支持、または否定する十分な データはない。動的過膨張が生じた際、胸部圧迫や無呼吸期は gas trapping を解除させる かも知れない。喘息に関連した心停止では換気を改善し、胃の膨満の危険性を軽減するた めに、早期に気管挿管すべきである。 薬物の過量投与と薬物中毒 W198 中毒に対する重炭酸ナトリウム投与と電解質異常 W197A W197B W197C W197D W197E 科学的コンセンサス 致死量のニフェジピンを投与されたという二人の子供での、Ca チャネルブロッカー過剰 - 28 - 投与に対する重炭酸ナトリウムの使用経験(LOE5)435 から得られたエビデンスでは、Ca チャネルブロッカー過剰投与に対する重炭酸ナトリウムの使用価値は支持も否定もされな い。三環系抗鬱薬の多量投与による不整脈や低血圧に対する重炭酸ナトリウムの使用につ いての成人での調整試験はない。しかし症例報告(LOE5)436,437 や動物実験(LOE6) 438-447 や in vitro での研究(LOE6445,448,449、LOE7450,451)から得られたエビデン スでは、三環系抗鬱薬による不整脈や低血圧に対して重炭酸ナトリウムの投与は有効であ るとされる。 推奨される治療 三環系抗鬱薬による不整脈や低血圧の治療に重炭酸ナトリウムの投与は推奨される。重 炭酸治療による至適 pH について調べた研究はないが、7.45∼7.55 が一般的に受け入れや すく、合理的に見える。 麻薬過量投与に対するナロキソン投与に先立つ換気 W18 W106 科学的コンセンサス 成人のケースシリーズ研究(LOE5)452-454 や LOE7455,456、LOE8457 の論文からの 推測では、EMS 隊員が病院前で麻薬多量摂取患者にナロキソン投与前に換気を補助するこ とにより、危険な事象が起きる頻度を低くできることを示している。 ■蘇生後の治療 心拍再開は心停止からの完全復帰という目標への最初の一歩である。蘇生後の時期に処 置を行うことは最終的な結果に大いに影響を与えるであろうが、この時期に関するデータ は比較的少ない。確固たるガイドラインがないので、蘇生後の治療に対するアプローチは 一定していない。蘇生後の治療は以下の4つに分類される。 (1)換気、 (2)体温調節(治 療的低体温と高体温を防ぎ、治療する)、 (3)痙攣への対処と鎮静、 (4)他の対処療法(血 糖コントロール、凝固系のコントロール、予防的抗不整脈療法) 心停止からの生存者の中には、治療的低体温により神経学的予後が改善したという者も おり、高体温は害があるようである。血糖コントロールをキョウコに行うことで不特定の 重症患者の予後を改善するが、蘇生後での効果は不明である。昏睡状態にある心停止から の生存者の予後を予想することはまだ問題が多い。心停止 72 時間後に正中神経で体性感覚 刺激電位を測定することは役に立つかも知れないが、複数の血清マーカーの分析でも決定 的ではなかった。 換気 動脈血二酸化炭素濃度の調節 W114B 科学的コンセンサス 5つの成人での研究(LOE2458,459、LOE3460、LOE5461、LOE7462)と多数の動物 - 29 - 実験(LOE6)463-465 では心停止後の低二酸化炭素血症は害があることが示された。二つ の研究(LOE5466、LOE6467)では害も益もなかった。推奨される治療 心停止からの蘇生後に特定の PaCO2 を目標とすることを支持するデータはない。しかし、 脳損傷患者のデータから推測すると、正常の二酸化炭素分圧が適切であろう。ルーチンの 過換気は有害であり、避けるべきである。 体温調節 治療としての低体温 W109A W109B 科学的コンセンサス 二つのランダム化臨床試験(LOE1468、LOE2469)によれば、病院外 VF 心停止から早 期に蘇生し、心拍再開後数分から数時間以内に体温を下げた場合、意識障害が持続する成 人での予後を改善した。これらの研究では患者は 33℃468、または 32℃から 34℃の範囲で 469、12 から 24 時間冷却された。HACA(Hypothermia After Cardiac Arrest)試験 468 では院内心停止患者も少数含まれている。 ある研究(LOE2)470 では、初期調律が PEA または心静止で、院外心停止から心拍再 開した意識障害患者を、心拍再開後に体温冷却すると、代謝のエンドポイント(乳酸値、 酸素摂取)が改善することが示された。小規模の研究(LOE4)471 では VF でない心停止 後、昏睡状態にある生存者に対する治療的低体温が有用であることを示した。 体表または体内冷却技術が数分から数時間以内の初期冷却に用いられる(LOE1468、 LOE2469,470、LOE5472-475)。心停止後の治療的低体温が予後を改善したことを示して いる研究のみが体表冷却法を用いている(LOE1468、LOE2469,470)。4℃に冷却した 30mg/kg の生理食塩水を点滴することで中枢温を約 1.5℃下げることが出来た(LOE5) 472,473,475。心停止患者での研究一つ(LOE5)474 とその他3つの研究(LOE7)476-478 では血管内冷却により体表冷却より、より正確に中枢温の調節が出来たと示している。 心停止後の治療的低体温により予後が改善したことを示している研究では持続的な体温 測定を行っている(LOE1468、LOE2469,470)。 動物での複数の研究(LOE6)479-484 では出来る限り早期の冷却開始と適切な冷却期間 (例えば 12∼24 時間)が重要であると示している。冷却開始時期、冷却の程度、期間など も含めた最適なパラメータは不明である。 心停止からの生存者では痙攣やミオクローヌスが起きる(LOE5474,485-487)。シバリン グが起きたら、鎮静や間歇的または持続的な筋弛緩剤の投与が必要となる。持続的な筋弛 緩剤の使用は痙攣活動を隠してしまうことがある。 推奨される治療 院外心配停止から心拍再開したが意識のない成人患者では初期調律が VF であれば、12 ∼24 時間、32∼34℃に冷却すべきである。12∼24 時間、32∼34℃に冷却することはその - 30 - 他の波形の院外心肺停止、または院内心肺停止から心拍再開した意識障害患者には考慮し てもよい。 高体温の予防と治療 W110 科学的コンセンサス 蘇生後の高体温は通常心停止後 48 時間以内に起こる(LOE4)488-490。心停止後の高 体温を予防するために解熱剤(または生理的冷却機器)の臨床的効果を調べた前向き比較 試験はない。 37℃から 1℃上昇する毎に好まざる神経学的予後の危険性が上昇した(LOE3)491。高 体温は脳卒中後の患者の罹患率と死亡率の上昇に関与していた(LOE7)492。脳卒中後の 高体温はアセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱剤では効果的に治療できなかっ た(LOE7)493,494 が、全脳虚血の動物モデルでは解熱剤や身体冷却が梗塞サイズ減少に 関連していた(LOE7)495,496。 推奨される治療 心停止後の高体温は避けるべきである。 痙攣のコントロールと鎮静 痙攣の予防とコントロール W11A W11B 科学(的なエビデンス)にもとづいたコンセンサス 成人の心肺停止後の予防的な抗痙攣剤の使用について直接調べた研究はない。痙攣によ り心停止(LOE4497,498、LOE5486,499-501、LOE8501)や呼吸停止(LOE5)502 が誘 発されることもある。 推奨される治療 痙攣は脳の酸素需要を増やし、命を脅かす不整脈や呼吸停止を引き起こす可能性がある。 そのため心停止後の痙攣は直ちに効果的に治療されるべきである。抗痙攣維持療法は、潜 在的誘発因子(例えば頭蓋内出血や電解質異常)が除去されたら、最初の発作時から開始 すべきである。 鎮静と薬物による体動抑制 W113 科学的コンセンサス 心停止後ある一定期間換気、鎮静、筋弛緩を行うことを支持するデータも、また否定す るデータもない。成人でのある観察研究(LOE5)503 は病院前、または院内心停止後 48 時間以上鎮静を行った場合、肺炎の危険性が上昇したことを示している。 その他の補助療法 血糖値コントロール W115A W115B - 31 - 科学的コンセンサス インスリンを用いて厳格に血糖値をコントロールする(80∼110mg/dl または 4.4∼ 6.1mmol/l)ことは重症患者の病院死亡率を減少させる(LOE1504、LOE4505)が、心停 止後の患者では認められない。いくつかの人間での研究(LOE4506、LOE5507-513)では 心停止蘇生後の高血糖と低い神経学的予後とは強い関連があることが示されている。脳卒 中後の高血糖持続は神経学的予後の悪化と関連があるとするよいエビデンスはあった (LOE7)514-517。 重症患者における至適血糖値はまだ分かっていない。昏睡患者では低血糖が認識されな いという危険性があり、その危険性は目標血糖値が低いほど増す(LOE8)。ラットの研究 ではグルコースとインスリンの投与により窒息性心停止後の神経学的予後を改善したこと が示された(LOE6)518。治療的低体温は高血糖の関連している(LOE2)469。 推奨される治療 心停止後は頻回に血糖値を測定し、高血糖はインスリンにより治療すべきであるが、低 血糖は防ぐべきである。 凝固系の制御 W116 科学的コンセンサス 心拍再開後の予後の改善に対する抗凝固療法単独の効果を評価した研究はない。人間で の遷延する心停止後にヘパリンと血栓溶解剤を用いた3つの実験報告(LOE4168、 LOE5519、LOE6179)では、心拍再開率は有意に改善したが、24 時間生存率は改善しな かった。 予防的抗不整脈療法 W118A W118B 科学的コンセンサス 心停止蘇生直後から抗不整脈薬を予防的に開始することについて特別に、また直接に調 べた研究はない。6つの研究(LOE5)520-525 で、あらゆる原因による心停止からの生存 者に予防的に抗不整脈薬を投与し、長期生存率の改善は一定していないことが示された。 6つの研究(LOE1526-528、LOE2529,530、LOE3531)で、心停止からの生存者に抗不 整脈薬を投与するよりも ICD(埋め込み型除細動器)が生存率を改善することが示された。 推奨される治療 病因にかかわらず、心停止からの生存者に予防的に抗不整脈薬を投与することは推奨も、 否定もされない。しかし、蘇生中に調律を安定させた抗不整脈薬をそのまま継続して点滴 投与することは理にかなっているかも知れない。 ■予後予測 心停止中の予後予測 - 32 - 予後予測における神経学的評価の価値 W112A W112B W112C 科学的コンセンサス 5つの研究(LOE4532,533、LOE5534-536)で心停止中に取られた神経学的検査により 予後を予測できるかも知れないと示唆されたが、この評価を臨床的に用いても予後不良と 判断するには不十分である。 推奨される治療 心停止中に神経学的検査を行い、予後を予測することは推奨されないし、そうすべきで もない。 蘇生後の予後予測 予後予測における標準的な検査データの価値 W12B 科学的コンセンサス 8つのヒトでの前向き研究(LOE3537、538、LOE4534-536)では、心停止からの予後 予測に対する生化学的マーカーの価値を調べているが、急性期に予後予測する上で臨床的 に有用なものはなかった。1つのヒトでの後ろ向き研究(LOE4)539 では、クレアチン・ キナーゼ-MB(CK-MB)が単独で、生存の予測因子として用いられることが示唆されたが、 測定値の確定に時間がかかるため、臨床的には役立たないであろう。 幾つかの動物での研究(LOE6)544-556 では乳酸値と塩基過剰値(BE)が予後不良と 関与している傾向が見られた。これらの研究はいずれも結果的に、妥当な予後予測を出す 生化学的マーカーを明らかにする予測モデルを作ることは出来なかった。 神経特異性エノラーゼ(NSE)と s-100b 蛋白 W126 科学的コンセンサス 一つの RCT(LOE2)557 と4つの前向き対照試験(LOE3)558-561、11 のケースシリ ーズ研究・コーホート研究(LOE4506,539,562-564、LOE5512,513,565-568)では NSE と S-100b 蛋白が心停止後の予後予測に役立つかも知れないことが示唆された。しかしこの 研究での 95%信頼区間は広く、多くの研究で意識の回復(機能レベルに関するコメントは なし)は予後「良好」とされた。 このトピックについての唯一のメタ解析では、5%の偽陽性率で 95%信頼区間を得るには およそ 600 名の被験者が必要であると推測された(LOE1)569。このように大きな研究は なされていない。 推奨される治療 心停止後の予後を予測するための信頼できる検査データ(NSE、S-100b、塩基欠乏、血 糖、水溶性 P-セクレチン)はない 体性感覚誘発電位 W124A W124B - 33 - 科学的コンセンサス 18 の前向き研究(LOE3)568,570-586 と1つのメタ解析(LOE1)587 では、心停止後 少なくとも 72 時間以上昏睡状態にある、正常体温の患者で、正中神経を用いた体性感覚誘 発電位により 100%の特異度で予後不良を予測したことが示された。低酸素-無酸素が原因 で昏睡状態にある患者では、両側性に誘発電位の N20 成分が消失していれば、一様に致死 的である。 推奨される治療 心停止 72 時間後に測定された正中神経での体性感覚誘発電位は、低酸素-無酸素性昏睡の 患者の致死的な予後を予測するのに有用である。 脳波 科学的コンセンサス 心停止後、少なくとも 24∼48 時間後に測定された脳波(EEG)の有用性が、ヒトでの症 例累積報告(LOE5)578,585,588-598、動物での報告(LOE6)599-601 で評価された。修 正 Hockaday スケールではグレードⅠ(θ−δ波をともなった正常α波)、グレードⅣ(α 波昏睡、棘波、鋭波、ベースラインの活動が非常に乏しい徐波)とグレードⅤ(極めて平 坦、等電位)は予後予測に最も有用だった。しかしグレードⅡとⅢの脳波では予測できな かった。 推奨される治療 心停止後、少なくとも 24∼48 時間後に測定された脳波検査はグレードⅠ、Ⅳ、Ⅴの患者 の予後予測に役立つ。 文献 省略 翻訳担当 代表者 日本救急医学会救命救急法検討委員会(代表 平出敦(京都大学医学研究科 堀進悟) 医学教育推進センター) 野田英一郎(九州大学病院救急・集中治療部) 監修 日本救急医学会救命救急法検討委員会(代表 - 34 - 堀進悟)
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