コーヒーショップにおけるマシンのコーヒー抽出量の変更タイミングの評価

コーヒーショップにおけるマシンのコーヒー抽出量の変更タイミングの評価モデル
09D8104017G 金子 美咲
中央大学理工学部情報工学科 田口研究室
2013 年 3 月
あらまし:本研究では,コーヒーショップに設置
されたマシンのコーヒーを抽出する作業に対し
て,購買客の待ち時間と作りすぎによる廃棄が適
切な値となる抽出量とその量の変更タイミング
を求める.販売量は過去の売上データを重回帰分
析で求め,販売と抽出による在庫の推移を求める.
キーワード:重回帰分析,評価関数,状態推移
1
はじめに
コーヒーショップはホットコーヒーを主力商
品として扱っている.しかし,温かい飲み物は季
節や気温によって売上に大きな変化がある.した
がって売上の変化に対応してコーヒーの抽出量
を変更している.今回対象とする店舗では,コー
ヒーの抽出にマシンを使用している.このマシン
は一度に数杯分のコーヒーを抽出して保存する
ことができ,購買客の注文に応じて商品を提供す
る.今回,過去の売上データをもとに売上パター
ンの分類をおこなった.そして,そのパターンご
とにどの時間にどのような抽出量にしたら,在庫
不足による商品を提供するときの購買客の待ち
時間と,作りすぎによる在庫の廃棄量の両方が適
切な値になるかを求める.
2
コーヒーマシンについて
対象店舗でコーヒーを抽出するために使用し
ているマシンは,コーヒーを数杯分抽出して保存
し,購買客の注文に応じて提供する.このマシン
には図 1 のようにコーヒーを保存するタンクが 2
つ存在し,交互に使う.このマシンで作る商品は
2 種類で,ブレンドコーヒー(以下,ブレンドと
する)とアメリカンコーヒー(以下,アメリカン
とする)である.ブレンドとアメリカンはサイズ
が同じであれば,抽出されるコーヒーの種類と量
は同じである.
このコーヒーマシンでは図 2 のように 2 種類
の設定をおこなうことができる.1 つ目は 1 回に
抽出する量である.2 つ目は設定残量である.抽
出残量とは,マシン内のタンクを,使用中タンク
と予備タンクとしたとき,使用中タンクに設定で
き,予備タンクに新しくコーヒーを抽出するため
の合図となる残量のことである.
図 1 マシン
図 2 マシン内のタンク
本研究では,抽出量のみを変更可能とし,設定
残量は一定として抽出量の変更タイミングを求
める.このマシンには自動廃棄機能がある.これ
は,コーヒーの鮮度を保つために抽出後 30 分経
過したコーヒーは自動的に廃棄する機能である.
したがって,大量にコーヒーを抽出すれば,待ち
時間が発生することは少なくなるが,多くのコー
ヒーが廃棄されてしまう.
3
重回帰分析
重回帰分析とは目的変数yに対してその原因と
なる説明変数x1 , x2 , … , x p の関係を求めるための
統計処理のことである.その関係は重回帰式とよ
ばれる一次式で表される.
y = b1 x1 + b2 x2 + ⋯ + bp xp + b0
重回帰分析では説明変数として量的変数しか
扱わないので,質的変数を量的変数に置き換える
ためにダミー変数を用いる.
本研究では,ステップワイズ法を用いて説明変
数の選択を行い,重回帰式の評価には自由度補正
2
̂ を用いる.
済み決定係数𝑅
4 売上データの分析
4.1 使用するデータ
本研究では,コーヒーショップの売上データと
気象庁の気象データを用いる.対象期間は 2011
年 10 月 1 日(土)から 2012 年 9 月 30 日(日)
までの 1 年間である.
4.2 売上データの補正
今回使用した売上データに対して 2 つの補正を
行う.1 つ目はサイズの補正である.これは S サ
イズに対して M サイズは 1.5 倍,L サイズは 2 倍
の量であることを考慮して,すべて S サイズの個
数として計算できるようにする.2 つ目は 1 時間
ごとの販売個数の修正である.ブレンドの売上の
みレジへ入力する時間と実際の販売時間が異な
ることを修正するためにアメリカンの 1 時間ごと
の売上推移をもとに,ブレンドの売上推移を再構
築した.
4.3 売上に対する重回帰分析
ステップワイズ法で採用された説明変数は「平
均気温」,
「平日」,
「祝日」,
「春」
,
「夏」,
「秋」,
「湖
水量」の 7 個であり,回帰式の切片および各係数
は表 1 の通りである.
表 1 切片と回帰係数
切片
240.814
春
21.654
季節
夏
33.157
秋
62.119
平日
56.651
曜日
日曜祝日
-18.686
気温
平均気温
-6.743
降水
降水量
-0.338
̂2は
この回帰式の自由度補正済み決定係数𝑅
0.694 である.
5 抽出量の変更タイミングの評価モデル
5.1 変更タイミングの選択
営業開始から 10 分ごとに抽出を変更するかど
うかについての決定をおこない,その際の損失が
どのように変化するのかをみて,もっとも損失の
少ないタイミングで抽出量を変更することを目
標とする.抽出のタイミングは 1 回のみで 600 ㏄
から 0 ㏄へとし,抽出残量は 0 ㏄とする.表 2
の通りにモデルの設定をおこなった.
表 2 変更タイミングの評価モデル
段階 1 段階を営業開始から 10 分ごととする
状態 コーヒーの在庫と抽出からの経過時間
変数 の要素
決定 抽出をするかしないか
変数
抽出の決定と販売の両方による状態の
移り方
状態
推移
表 4
評価
関数
5.2 実際のデータに基づく計算結果
重回帰分析によって求められた説明変数をも
とに,24 通りの売上需要パターンを作成した.そ
の内訳は表 3 の通りである.
N:番号,A:曜日,B:季節,C:降水
表 3 需要パターンとその要素
N
A
B
C
A
B
C
N
A
B
C
1
平
秋
無
N
9
土
秋
無
17
日
秋
無
2
平
秋
有
10
土
秋
有
18
日
秋
有
3
平
夏
無
11
土
夏
無
19
日
夏
無
4
平
夏
有
12
土
夏
有
20
日
夏
有
5
平
春
無
13
土
春
無
21
日
春
無
6
平
春
有
14
土
春
有
22
日
春
有
7
平
冬
無
15
土
冬
無
23
日
冬
無
8
平
冬
有
16
土
冬
有
24
日
冬
有
需要パターンごとの評価関数の値が最大とな
る変更タイミングは表 4 の通りである.
タイミング
N
タイミング
N
タイミング
1
17:20~17:40
9
18:10
17
17:40
2
17:30~17:40
10
18:10~18:20
18
16:40
3
16:30~16:40
11
11:30~11:40
19
13:00,15:50
4
16:30~16:50
12
16:50,18:10
20
16:40
5
17:00~17:20
13
17:30~17:40
21
17:40
6
16:30~16:50
14
16:40
22
18:10~18:20
7
17:30~17:50
15
16:50
23
16:40
8
17:30~17:50
16
16:40~16:50
24
17:00
5.3 現状との比較
現状では,対象とする店舗では,毎日 17:00 か
ら 18:00 の間で抽出量を変更している.今回の 24
種類の需要パターンのうち,14 種類が当てはまっ
ている.当てはまっていない 10 種類は現状の時
間帯との損失の差が最大 21 となり,そのうち 3
つのパターンに対しては変更することが望まし
いと考えた.以下 3 つは需要パターンと変更によ
る損失の差である.

段落
損失
N
16:50,

決定をしたときの段階の損失,単位は
[個]
損失 X:
(販売注文個数が作りおきコー
ヒー個数を超えた回数)×(-1)
損失 Y:(コーヒーの廃棄個数)×(-1)
営業開始から終了までその 1 日に得られ
る損失の総数
需要パターンと変更タイミング

需要パターン 11(夏,土曜,降水無)
タイミング:11:30~11:40
損失の変化:-43→-24
需要パターン 19(夏,日曜,降水無)
タイミング:13:00 または 15:50
損失の変化:-38→-17
需要パターン 22(春,日曜,降水有)
タイミング:18:10~18:20
損失の変化:-16→0
6
おわりに
本研究では,まず売上データの補正をおこない,
実際の販売時間に近づけた.そして 1 年を通して
変化する,気象や曜日などが売上に与える影響を
調べ,1 日の売上金額を予測した.抽出量の変更
による 1 日ごとの損失を評価するモデルをつくり,
現状より損失の少なくなる抽出タイミングを求
めた.
今回は,損失の単位を販売 1 個分としてすべて
を計算したが,これより実態に合った単位を設定
することで,より現実的な評価モデルになる.抽
出量の変更タイミングを 1 か所だけと決定して実
験を行ったが,複数に増やすとさらに損失の少な
い結果が得られると考える.
参考文献
[1] 森雅夫,宮沢政清,生田誠三,山田善靖,オ
ペレーションズ・リサーチⅡ,経営工学ライ
ブラリー,朝倉書店,東京,1989.
[2] 柳井春夫,緒方裕光,SPSS による統計デー
タ解析,現代数学社,東京,2006.