第5回 自立循環型住宅奨励賞 【地域の気候条件等を活かした自立循環住宅部門】/市区町村名:東京都国分寺市 国分寺の家 [設計者] アーキ・ナッツ建築設計事務所 松留菜津子/〒 185-0022 東京都国分寺市東元町 1-12-7 / TEL 042-316-8039 [施工者] 峯岸常人 【住宅設計の趣旨および設計の特徴】 築 32 年(改修時)の在来木造2 階建を中古で購入し、入居前に大規 模リフォーム(南側のみ一部増築) を行った。布基礎・柱・梁等の構造 部分、及び、外壁下地・仕上げ材と 屋根下地材を残し、他は全て撤去し た。断熱改修は、外壁は外張り断熱 工法、床は大引間に断熱材充填、天 リフォーム前 井は小屋裏に断熱材吹き込み、窓は 木製及び樹脂サッシ(+ Low-E ペア ガラス)取り替えとした。設備は、 高性能エアコン、エコキュート、1 種熱交換型セントラル換気システム とした。耐震改修としては、金物補 強や構造用合板補強等により耐震等 級3相当を確保した。内装は、壁面 松留邸外観(夏季)。屋根及び外壁は、 を施主等による珪藻土塗り、天井は 薄い断熱材付きのガルバリウムで、夏 珪藻土吹き付け、床はカラマツ無垢 の遮熱のためにシルバー色とした。 材+蜜蝋仕上げとし、基本的に自然 素材とした。 【基本スペック】 ○竣工年:2007 年 12 月 ○面積:敷地面積 137.17 ㎡/建築面積 55.48 ㎡/延べ床面積 97.72 ㎡ ○構造:木造 ○家族構成:夫婦、子供 1 人 ○次世代省エネ基準地域区分:Ⅳb地域 ○自立循環型住宅の設計要件 ①自然エネルギー利用の可能性 ・自然風の利用:容易/ ・太陽光の利用:容易/太陽熱の利用:容易 ・総合的な立地のポテンシャル:都市型立地 ②ライフスタイルの指向 ・自然へのこだわり度:高い ・不快感を排除した安定した室内環境へのこだわり度:高い ○自立循環型住宅の目標像 ■自然生活指向(自然を活用しながら省エネルギー設備利用と両立させる) 【採用した要素技術(自然エネルギー活用技術)】 ○自然風の利用 ■自然風の利用を採用する。 ■立地3:自然風の利用が容易な郊外型の立地 ・場所は都市部ではあるが、東側と北側は道路、西側は空地、南側の 隣家はやや離れているなど敷地条件に恵まれており、ここでは「自 然風の利用が容易な郊外型の立地」とした。 ■手法1 直接的な自然風取り込み手法 ・改修前住宅での通風は十分であることが確認できていたため、窓の 位置は踏襲した。ドレーキップという、通風を確保し比較的防犯に も強い窓を多用し、留守中や就寝中の通風を確保した。寝室(子供室) 以外の居室は、全て、二面以上に開口部があり、十分な通風が期待 できる。 ■手法3 屋根面を利用した自然風取り込み手法 ・東側妻面に頂側窓として内開き窓を設置した。(改修前はFIX窓) 階段室にあるため、2mほどの長さの専用具で開閉する。 ■手法5 室内通風性能向上手法 ・内部建具は、可能な限り引き戸とした。主寝室、寝室(子供室)は 平面計画上ドアとなったが、ドアストッパーを使用して通風を確保 している。 ○昼光利用 ■昼光利用を採用する。 ■立地2:太陽光の利用に工夫が必要な過密型の立地 ・南側にやや離れて隣家があり、2階は常に太陽がさすものの1階は 冬季に南隣家の日陰となるために、ここでは「太陽光の利用に工夫 が必要な過密型の立地」とした。 ■手法1 直接的な昼光利用手法 ・玄関、居間・食堂・台所、和室、主寝室、寝室(子供室)の、全ての居室。 ■手法2 間接的な昼光利用手法 ・北向きの居室を作らなかった。寝室(日中は不在の子供室)以外の 居室は、全て、二面採光にした。2階トイレ以外の非居室は一面採 光としている。1階の玄関、居間・食堂・台所、洗面所、和室では 基本的に戸を開け放しており、採光的にも大きなワンルールとなっ ている。 ○日射熱の利用 ■日射熱の利用をする。 ■に地域:日射量が多い地域 ■立地2:日照障害の影響が少なく日射熱利用が可能な立地 ・建物の方位(集熱面となる開口部の方位) 居間 居間・台所 ■方位1:真南±15° ■手法1 開口部の断熱手法(開口部断熱性の向上) ・開口部の建具およびガラスの仕様、熱貫流率 ①東側、北側、西側の全ての窓 樹脂サッシ+遮熱 Low-E 複層(A12)ガラスで、 熱貫流率2.33(W/ ㎡ K) ②南側大開口部の窓 木製サッシ+遮熱 Low-E 複層(A12)ガラスで、 熱貫流率2.91(W/ ㎡ K) ■手法2 開口部からの集熱手法(集熱開口部面積の増加) ・真南±30°の方位に面する集熱面となる得る開口部の位置、開口 部の面積 位置:居間・食堂、和室、主寝室、寝室(子供室)の全ての居室。 面積(合計):19.6(㎡) ■手法3 蓄熱手法(蓄熱材の使用) ・断熱気密層に対して、室内側に既存モルタル壁が残してある。既存 モルタル壁は、厚さが薄いものの、新たに施工した珪藻土や 15 ㎜ 厚の床無垢材とともに、室内側の室温を一定に保つための蓄熱材と して、幾分かは貢献していると思われる。 食堂テーブル上は、ミニクリプトン球×2台、調光スイッチにして、 こまめな調光を行っている。主寝室及び寝室もダクトレールを採用 して多灯分散型とし、シーンに応じて照度を調整している。また可 能な限り電球型蛍光ランプにして省エネを心がけている。 ○高効率家電機器の導入 略 ○水と生ゴミの処理と効率的利用 ■水と生ゴミの処理と効率的利用を採用する。 ■手法1 節水型機器の利用 ■2004年代市販レベル 【住まい手のコメント】 冬は、1階リビングの日当たりが悪いので、エアコンは寝る前に 16℃ に設定し朝起きたら 20℃に上げて 24 時間運転をしている。2階寝室は、 昼間には南側開口部より陽射しが入って 18 ~ 22℃程度まで暖まるので暖 房は不要である。ただし、就寝時には、オイルのパネルヒーターを微弱運 転して室温を 20℃程度に保つようにしている。冬でも全室が寒くないので、 朝起きて裸足で洗面所やバストイレに気楽に入ることができる。洗面所や 便所にパネルヒーター用のコンセントを設置しているが、全く使用してい ない。この家に来た人は、皆、何も説明しなくても断熱気密工事がしっか りとなされている住宅の心地よさを感じるようである。先日も妻の友人た ちが遊びに来たが、「この家はどうなっているの」と、にわかに現場見学 【採用した要素技術(建物外皮の熱遮断技術)】 会になり、足元から暖かいので「床暖房なの」と言う人もいたほどである。 ○断熱外皮計画 ■平成11年省エネルギー基準を超える断熱水準(熱損失係数 2.1W/ ㎡ K 以下) 夏も過ごしやすい。基本的には、浴室と洗面室のドレーキップ窓を夏中 ○日射遮蔽手法 開けたままにして、寝るまではキッチンやトイレの窓も開けて自然通風に ■日射遮蔽手法を採用する。 て対応しようと考えている。しかし、今年の真夏のような猛暑期には、さ ・主開口部の方位 すがにそうはいかない。そのような猛暑期には、1階のクーラーは 29℃ ■南 設定にて 24 時間の微弱運転をおこなっている。2階主寝室のクーラーは、 ・主開口部について方位および庇の有無 家族全員が留守になる昼間は 29℃設定にて微弱運転しているが、就寝時 ■日射遮蔽に有効な庇等があり、開口部が真南±30°の以内の方位である には基本的には窓を開放してクーラーを止めている。結果として、どの部 ・開口部のガラスの仕様および日射遮蔽部材の種類 屋でも常に適切な快適さの室内環境が確保されている。 ガラスの仕様:遮熱 Low-E 複層(A12)ガラス また、夏場の日射はなるべく家の外側で遮蔽したかったので、東西北に 日射遮蔽部材の仕様: おける窓外での簾による遮蔽は当然のこと、2階南側のベランダに軒先か ①居間・食堂では、断熱気密サッシの内側に紙障子 ら手摺りまで日除けシートを斜めに張った。これでベランダの床からの照 ②和室では、南側は同じく内側に紙障子、西側は内側の紙障子に加え り返しも防げるので、夜に窓を開けると涼しい風が入ってくる。 て外側にすだれ式日よけシェード(商品名クールブラインド) 反省点としては、1階の北側外壁部分の床近くに、通風用の小窓を設置 ③玄関・洗面室・浴室では、外側にすだれ式日よけシェード すれば良かったいうことである。そうすれば、1階床部分の小窓から2階 ④主寝室では、南側は内側の紙障子に加えて外側にベランダ全体を覆 のドレーキップ窓に風の道が自然とでき、もっと通風が楽に取れたはずで う日よけシェード、西側は外側にすだれ式日よけシェード ある。 ⑤寝室(子供室)では、内側の内付ブラインドに加えて外側にベラン 外部と室内との熱移動が極端に小さいので、結果として電気使用量を節 ダ全体を覆う日よけシェード 約できるし、なにより省エネで環境にやさしい住宅になっている。エコ ⑥階段室では、内側にすだれ(外側に日よけシェードを設置予定) キュートにて給湯をおこなうオール電化住宅であり、月々の光熱費であ ・クールブラインド及びベランダ日よけシェードは、夏季のみ使用し る電気代(暖冷房、給湯、照明、その他)は親子3人で平均1万 4000 ~ ている。夏期の日射に対する他の工夫として、垂木下全面に遮熱シー 5000 円程度である。以前は温熱環境に配慮のないRC造の集合住宅最上 トを張り上げている。軒天より取り入れられた空気は、屋根の垂木 階に住んでいたので単純には比較はできないが、1平米あたりの光熱費が 間を上昇して換気棟より排出される。夏期の太陽日射による小屋裏 半分近くにはなっている。かなりの節約であり、CO 2 排出量も減らせて の温度上昇を抑えている。 いるという満足感がある。 施主としては、大変に快適な家であり大いに満足している。仕事を早く 【採用した要素技術(省エネルギー設備技術)】 終えて家に帰りたい、出張からも早く家に帰りたいという気持ちにさせら ○暖冷房設備計画 れるほど、気に入っている。 ■エアコンで暖冷房を行う。(方法1) 【つくり手のコメント】 (方法1 エアコン暖冷房による個別方式) 中古住宅のリフォームということで、新築とは違ういくつもの問題点が生 ■ COP(エネルギー効率)4.0 未満 冷房 4.34 じた。床の断熱は当初布基礎の外側で行い、床下は居住空間と同じ環境にす ■ COP(エネルギー効率)5.0 以上 暖房 5.15 る予定だった。しかし既存土台の防蟻剤の臭いがきつく、そのやり方はあき ○換気設備計画 らめて床下大引間での充填断熱とした。 ■手法1 ダクト式換気システムの適正化手法 外壁に外張り断熱をする際にも、既存モルタル壁の不陸に悩まされた。あ ・端末ダクトサイズ 100 ㎜として圧力損失を低減した。 まりのでこぼこさに、外壁下地材もそれなり合わせることさえ考えた。これ 本体を1階天井内に設置し、2階吹き出し端末は、床吹き出しとし は棟梁が頑張ってきちんと平面、直角の揃った下地を施工してくれた。しか てダクト長さを短くし・曲がりも少なくした。 し、その下地材とモルタルの間に隙間が不均衡に生じたため、グラスウール ・熱交換型換気システム(商品名:三菱ロスナイセントラル換気ユニッ を裂いて既存モルタル壁と下地材との隙間を埋める作業に時間がかかった。 ト)のフィルターボックスを別途、洗面室壁面に H=1500 ~ 1800 設計者は、現場監督であり、断熱・気密工事施工者でもあった。毎日現場 の高さに設置し、日常の清掃を容易にした。 に通ったが、内部しつらえが出来上がるに従い、設計の不具合も分かってき ■手法2 高効率機器の導入 てその場その場で変更を行った。例としては、主寝室用の納戸部分を取りや ・一般ダクト式の標準比消費電力は 0.7W/ ㎥ /h だが、最新高効率 めて、広い一室とした。結果として、三方に窓のある空間が、広々と大変に AC モーター(0.47 W/ ㎥ /h)の機器を使用した。 気持ち良く仕上がった。 ○給湯設備計画 本工事には、実際の施工者以外にも大勢の方々の力添えがあったことを申 ■手法3 高効率給湯機の導入 し添えたい。その方々に感謝しつつ、本住宅を「自立循環型住宅」として、 ■手法4 給湯設備各部の省エネルギー設計・工夫等 胸を張って応募する次第である。 ・すべての水洗金具にシングルレバーを採用した。台所と2階洗面所 の水洗を、シャワー水洗とした。 ○照明設備計画 ■照明設備計画による省エネルギー手法を採用する。 ■手法1 機器による手法 ■電球蛍光ランプ ■手法2 運転・制御による手法 ■調光スイッチ ■リモコン ■手法3 設計による手法 ・居間・食堂は二本のダクトレールを設置し、多灯分散照明を採用した。 遮 熱 シ ェ ー ド の ベ ラ ン ダ。 ベ ラ ン ダ に反射して入る日射を遮蔽するため に、夏期に、ベランダを覆う形の遮熱 シェードを設置している。 外壁の断熱気密施工。既存モルタル壁 の外側に、新たに外壁(気密シート+ グラスウールボード 32K60 ㎜+透湿防 水シート+通気層+ガルバニウム鋼板) を施工し、外張り断熱気密工法とした。 居間多灯分散照明。二本のダクトレー ルにそれぞれ2個の照明器具を取り付 け、調光や消灯でシーンに合わせてい る。 ドレーキップ窓。中間期はドレーキッ プ窓をいつも内倒し状態で開けてい る。ちょっとの雨や防犯にも安心。
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