マンガ ライフサイエンス・第 29 回 生命の秘密 その その1 1. 細胞が体重でつぶれないのはなぜ? 萩原 清文*作 多田 富雄**監修 ◆すべての生きものは細胞でできている.細胞といっても,大腸菌からガチョウの卵まで,その大きさは実 にさまざまであるが,私たちヒトの細胞の大きさは,平均にして1mm の100 分の1 程度でしかない.また, 細胞を包む膜の厚さは1mm の10 万分の1 もない.このようにやわらかくて小さな細胞が,私たちの体重 によって押しつぶされてしまわないのは,なぜだろうか. ◆細胞が,私たちの体重によってつぶれない秘密の一つは, 「細胞骨格」という構造物が握っている.細胞骨 格は,中間径フィラメント,微小管,そしてアクチンフィラメントという繊維状のタンパク質でできた網目状 の構造物で,細胞を中から支える“縁の下の力持ち”である. たとえば,中間径フィラメント(径 10 nm)は,引き延ばす力から細胞を守る.また,アクチンフィラメント (径 7 nm)は細胞膜を裏打ちする他に,細胞をしなやかに運動させたり変形させる. 「細胞骨格」は,名前か らは「骨」のような硬いイメージを持たれそうであるが,実際は柔軟に動いたり,刻々と作られては壊される ダイナミックな構造物なのである. ルン ルン ♪ ぴたっ あ∼れ∼ そう おいし 細胞内や細胞膜の内面に は細胞骨格がはりめぐらされ ているので簡単にはつぶれ ない 136(284)医薬の門 2003 年 細胞骨格の中でも細くてしなやかな アクチンフィラメントが動くことによっ て細胞は動くことができる − 生命のダイナミズム− *日本赤十字社医療センター内科 **東京大学名誉教授 ◆細胞が体重によってつぶれない秘密のもう一つは, 「細胞外マトリックス」という構造物が握っている.細 胞外マトリックスは細胞と細胞の間を埋める構造物で,レーズンパンの“レーズン”を細胞とすれば, “パン” に相当するものが細胞外マトリックスといえる. しかし,細胞外マトリックスの働きは,パンよりも“鉄筋コンクリート”に例えると,より理解しやすくな る.たとえば,私たちの骨はタイプ1コラーゲン繊維(鉄筋に相当)とリン酸カルシウムの結晶(セメントに相 当)でできている.また,私たちの軟骨はタイプ2コラーゲン繊維(鉄筋に相当)とプロテオグリカン(セメント に相当)でできている.鉄筋コンクリートにおいて,鉄筋が引っ張りの力に耐え,セメントが圧力に耐える ように,細胞外マトリックスを構成するコラーゲン繊維は引っ張りの力に耐え,コラーゲン繊維の間を埋め 尽くす成分(ヒドロキシアパタイトやプロテオグリカンなど)は,数十 kg 以上もの圧力に耐えるのである.細 胞がゾウほどの体重にも耐えうるのは,細胞骨格と細胞外マトリックスのお蔭にほかならない. コラーゲン繊維(鉄筋) コラーゲン繊維の間を埋める 充填物質(骨ならばヒドロキシ アパタイト) 繊維芽細胞はコラーゲンを 分泌する 細胞の外はコラーゲン繊維 と充填物で埋められている 細胞外のコラーゲン繊維にか かった力は… コラーゲン繊維 フィブロネクチン インテグリン 細胞膜 アクチンフィラメント フィブロネクチンやインテグリン などのタンパク質を介して 細胞骨格(アクチンフィラメント) に伝えられる VOL. 43 NO.2 137(285)
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