医療のための有機−無機ハイブリッド新素 材 医療のための有機−無機

N A IST
医療のための有機−無機ハイブリッド新素材
医療のための有機−無機ハイブリッド新素材
奈良先端科学技術大学院大学
物質創成科学研究科 生体適合性物質科学講座
スタッフ: 教授 谷原正夫,助教授 大槻主税,助手 尾形信一,宮崎敏樹
ホームページ: http://mswebs.aist-nara.ac.jp/LABs/tanihara/index-j.html
N A IST
1. 連 続 微 細 気 孔 を 持 つ セ ラ ミ ッ ク 多 孔 体 の 製 造 法
生理活性を持つペプチドを坦持させる生体吸収性セラミックスを天然有機高分子を用
いた製造法で簡便に合成する。
(人工骨,再生医療用素材,その他のセラミックス多孔体の製造にも応用可能)
生体吸収性セラミックスとして,リン酸カルシウム(CaO-P2O5系化合物)を用いる。この出発原料粉末を種々の
天然多糖類と水を所定量添加して,スラリーを合成する。このスラリーを多孔質の人工有機高分子に坦持させて乾燥
後,1000℃および1400℃で焼成した。その結果,特定の多糖類を用いることで,図2に示すような直径10µm程度の
微細な連続孔を持つ多孔体の合成に成功した。得られたガラスを粉砕・成形した後,加熱処理により焼結と結晶化さ
せる。人工有機高分子に坦持させるスラリー量を減らすことで,直径10µm程度の気孔を持つ骨格が,150µm以上の
大きな気孔を構成するヒエラルキー多孔体の開発も可能となった。
骨組織を支援する人工骨の
マイクロ構造モデル
リン酸カルシウム系
結晶化ガラス系
体内で表面に骨の無機成分に
類似したアパタイトを形成す
る生体活性セラミックス。
骨組織の再生に合わせて吸収
される成分で設計。
骨組織を形成する細胞が増殖
するための気孔。
骨組織の再生を促すペプチド
や生体高分子を導入。
結晶化ガラス系では大きな気孔の多孔体
さらに体液環境下で水酸アパタイト(骨の無機質)と複合化
生体内で吸収される
多孔質セラミックス
新生骨の形成を助け
る足場
体液環境下でのアパ
タイト複合化
アパタイト
生体活性な
結晶化ガラス
100 µm
微細な孔を持つ生体吸収性セラミックス
500 µm
大きな孔を持つ生体活性セラミックス
3 µm
生体活性セラミックスは体液や擬似体液中
で表面にアパタイトを形成する
2. 感温硬化性有機−無機ハイブリッドゲルの製造法
生体吸収性の無機材料表面を有機高分子で修飾することにより,体温で暖められると
可逆的に硬化と流動化の転位を起こすゲルにする。
(骨セメントや骨充填材,その他のセラミックス微粉末に温度応答性を付与する技術
として応用可能)
主原料:リン酸カルシウムセラミックス粉末,ゲル形成用有機高分子,水
骨の構成成分と同じリン酸カルシウ
ムの微粉末を有機高分子とハイブ
リッド化して,
温度という刺激に応答する
「インテリジェント性」を付与しま
す。
室温付近
暖めると硬化します。
冷やすと流動化します。
体温付近
体外では形を変えることができ,骨
に埋入されると固まるような
「形を変えることのできる人工骨」
への応用が考えられます。
医療用新素材の開発
新しい生体適合性材料の開発
無機材料
セラミ ック
ス の特徴
硬い
耐熱 性が大
有機材料
有 機−無機
ハイ ブリッ ド
新しい治療方法
新しい人工臓器
新しい医薬
有機ポ リマ
ー の特徴
柔ら かい
加工 が容
易
生体適合性機構の解明
生体と材料の相互作用
■ 講座概要
生体と材料の相互作用を分子レベルで解析して,
生体適合性機構を解明し,これを基に新しい生体適
合性材料の設計と創成を行います。さらに,新しい
人工血管,人工骨,人工皮膚等の人工臓器,新しい
治療方法,新しい医薬やDDS等への応用につながる
研究を行い,その結果得られた情報を生体適合性機
構の解明や新材料の設計にフィードバックします。
これらを本講座の教育・研究方針の3本柱とし,医療
の質やQOLの向上につながる有用な材料の創成を目
指します。
■ 主な研究分野
(1) 生体適合性機構の解明
生体(遺伝子,蛋白質,細胞,組織,個体)と材
料の相互作用を分子レベルで解析して,生体適合性
機構の解明と新材料設計に必要な知見を得ます。
(2) 新しい生体適合性材料の設計と創成
有機ポリマーやセラミックス,ペプチドを用い
て,生体親和性が良いだけでなく,生体組織と情報
交換が可能なインテリジェントマテリアルの創成を
目指しています。さらに,従来の有機ポリマーやセ
ラミックスが単独では得られない機能性材料を,有
機ー無機ハイブリッドにより設計します。例えば,
生体内で表面に自発的にアパタイト(骨組織の無機成
分)を形成して異物反応を起こさず生体組織と結合で
きる生体活性セラミックスの基礎となる化学成分を
有機修飾した有機−無機ハイブリッドを合成し,生
体親和性と種々の機能を併せ持つ組織置換材料を創
成します。また免疫反応や炎症反応を司る情報伝達
や組織再生に対して特異な活性を持つペプチドを設
計します。これらを,組織修復材に複合化すれば,
抗炎症剤や骨粗鬆症の予防などの薬理機能や組織再
生を促す機能を持つ材料になると期待されます。
体 液
P(V)
Ca (II)
H
Ca (II)
アパタイト
アパタイト
H
H
Si
O
O
O
O
H
O-
Ca2+
-O
Si
O
Si
有機高分子鎖
体内で表面にアパタイトを析出する生体活性な有
機-無機ハイブリッドの設計概念図
■ 研究設備
高速液体クロマトグラフ,蛍光・吸光プレート
リーダー,ペプチド合成装置,生体試料用S E M,
D N Aシークエンサー,紫外可視分光解析システ
ム,超高速昇温電気炉,遊星型ボールミル,硬組
織用薄切標本作成システム,熱分析(TG-DTA)シス
テム,デジタル万能材料試験機,共焦点レーザー
顕微鏡
■ 共同研究・社会活動など
・高分子学会,日本化学会,日本免疫学会,日
本人工臓器学会,日本セラミックス協会,日
本バイオマテリアル学会等
・京都大学医学部形成外科学教室,岡山大学工
学部・医学部,聖マリアンナ医科大学難病治
療研究センター,ポルト大学医療工学研究所
(ポルトガル)等
■ 最近の話題
・谷原正夫教授と日本メディコ(株)の共同研究が,科学技術振興事業団の
平成12年度 独創的研究成果育成事業に採択される
採択されたテーマは,「インテリジェント癒着防止剤」で,外科 手術後の癒着を防止する材料です。外科手術後,
傷口と他の組織や臓器との間で癒着が起こると,回復中から回復後の長期にわたり種々の合併症の原因となり,しば
しば再手術が必要となるなどの問題を生じます。特に,内臓手術では70%以上の頻度で癒着が発生すると言われてお
り,臨床現場のニーズが非常に強いにもかかわらず,十分な性能を持つものが無いためほとんど使用されていませ
ん。そこで,多糖類と温度感応性 分子のグラフト体が室温から体温への温度変化でゲル状の被膜を形成す るという
発見に基づき,傷口付近に液体で適用すると正常組織との間に被膜を形成して癒着を防止し,治癒完了後には安全に
分解消失する機能 を持ち,内視鏡手術にも対応できるインテリジェント癒着防止剤を試作しようとするものです。
・大槻主税 助教授が「2000年度バイオマテリアル科学奨励賞」受賞
日本バイオマテリアル学会は,生体に使用する材料およびその応用に関する科学・技術の発展・向上を目的とし,
医学,歯学,工学,理学,薬学,生物学など幅広い分野の研究者で構成されている。バイオマテリアル科学奨励賞
は,この学際領域で優れ た研究論文を発表している40才未満の研究者に対して授与される。受賞課題は「生体活性
セラミックスの表面におけるアパタイト層の形成機構」。