次世代のスタンダード・スポーツバイクの創造 排気量600〜800ccのアッパーミドルクラスはヨーロッパにおける“スタンダード”カデゴリーであり、幅広い キャリアのライダーに支持されています。そしてライバルメーカーの参入も多く、激しいシェア争いが繰り広 げられている重要なカデゴリーでもあります。近年はバイクを取り巻く環境が変化し、それに合わせるように ライダーの指向も進化しているといえるでしょう。そのなかで⼆輪市場における“スタンダード”カデゴリーに 対する注目度は、年を追う毎に⾼まっているのです。 そこでこのクラスに対し、新しい価値を持ったヤマハらしいスポーツバイクが必要だと考えました。それが 『MT-09』の開発のスタートでした。 スタンダードバイクを造り上げるのは、じつはとても難しいのです。理由は、多⽤途性にあります。週末のス ポーツライディングや休日のロングツーリングと言ったレジャーとしてのバイクの姿と、通勤通学の足として 使う日常生活の中にあるバイクの姿。そのふたつの姿を、ひとつのバイクで表現しなければならないからで す。もちろんそこに、ヤマハらしいエキサイトメントが加味されていなければなりません。 そこで導き出したのが「Synchronized Performance Bike/シンクロナイズド・パフォーマンス・バイク」と いうコンセプトでした。 日本はもちろんのこと、ここ最近は欧州でもエンジン性能や最⾼速度、レースにおける成績などが焦点になっ ていた“スーパースポーツ”指向から、市街地⾛⾏などでの楽しさを重視した“スポーツ”指向へとライダーの好 みが変化してきています。そのなかで、バイクの魅⼒を最⼤化するには、街中や移動の最中であっても退屈さ せない、その普段使いのシチュエーションのなかですら楽しみを感じさせるようなキャラクターを造り上げる べきだと考えたのです。そのためにはライダーの意思とバイクが“シンクロナイズ”し、ライダーの思うままに ライディングできることが重要。それを実現するためのコンセプトが「Synchronized Performance Bike/ シンクロナイズド・パフォーマンス・バイク」なのです。 バイクを普段使いするなかで感じる“楽しさ”とは何か。私たちは、それを議論し考え抜きました。そしてそれ は、安⼼感であるという結論に⾄りました。ライダーがバイクを意のままに操ることができる、またはできる と感じたときに生まれる安⼼感は、ライディングのイメージをかき⽴てます。どこにでも⾏ける気がするし、 何でもできるような気持ちになる。そのためにライダーの意思とバイクがシンクロナイズする、今まで以上に バイクのコントロール性を⾼める必要があるという結論に⾄ったのです。 新設計3気筒エンジンが受け継ぐクロスプレーンコンセプト MT-09は新設計の⽔冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブエンジンを採⽤しています。しかしこの3気筒エ ンジンありきで開発が進んだ訳ではありません。「Synchronized Performance Bike/シンクロナイズド・パ フォーマンス・バイク」のコンセプトに合致するベストなエンジンは何か?あらゆるエンジン形態を検証しま した。 そのなかで3気筒エンジンは、等間隔爆発で滑らかなトルク特性と⾼回転での伸びを得られると同時に、軽量 スリムでコンパクトなサイズが特徴。なによりエンジン内でクランクシャフトが回転するときに生まれる慣性 トルクの変動が少なく、その結果スロットル操作に対してリニアなトラクションフィーリングが得られるので 慣性トルクが少なく、燃焼室のみで生み出される燃焼トルクだけを効率良く引き出す設計思想を、私たちヤマ ハでは「クロスプレーンコンセプト」と呼び、MotoGPマシンの「YZR-M1」やスーパースポーツマシン 「YZF-R1」に採⽤しているクロスプレーン型クランクシャフトエンジンも、その設計思想によって誕生した ものです。バイクのリニアリティの向上、エンジンのコントロール性の向上に⼤きく影響を及ぼしています。 そしてサーキットにおけるコントロール性の向上も、街中の移動におけるコントロール性の向上も、その速度 は違いますが、目的は同じ。MT-09がクロスプレーンコンセプトを採⽤した理由はここにあるのです。 直列3気筒エンジンは、その目的に対しベストな選択でした。もちろんYZF-R1での経験を活かし、600ccや 800ccのクロスプレーン型直列4気筒エンジンも検証しました。しかし私たちが目指すパフォーマンスに対 し、どうしてもエンジン幅が広く、また重量も重くなってしまうのです。その点3気筒エンジンはエンジン幅 が狭く、また軽量に仕上げることが可能です。事実MT-09のエンジンは、排気量850ccながら直列4気筒 600ccエンジン並みのサイズと重量を実現しています。 また「Synchronized Performance Bike/シンクロナイズド・パフォーマンス・バイク」というコンセプト を解きほぐして⾏くと、それはリニアリティの追求であるという解釈に⾄りました。リニアリティとは「ライ ダーの意思」「スロットル操作」に対して「バイクの動き」が1対1になること。スロットル操作に対して加 速のテンポが遅れたり、逆に過敏だったりせず、イメージした通りのタイミングで加速されることです。 具体的には、追い越し加速などで右⼿⾸を捻ると同時に前に進み出しているフィーリング。ライダーがアクセ ルを開けている最中にも⾞体は前に進み、ライダーがイメージしたアクセル開度になったときには、イメージ した位置にまで進んでいる。そんなダイレクトなフィーリングがリニアリティなのです。 新開発したMT-09の直列3気筒エンジンは、スノーモビルやマリンジェットの3気筒エンジンを開発したエン ジニアや、1970年代半ばに3気筒エンジンを搭載した市販⾞「GX750」の開発者とも情報を共有し、ノウハ ウや最新技術を検証しながら、3気筒エンジンならではのメリットを磨きこみました。そのために補器類のレ イアウトを⼀から⾒直し、クランクケースを可能な限りコンパクトに設計することで低重⼼化を追求。⼀次減 速⽐を⼤きく設定し、トルクを効率よく駆動⼒に変換しつつ軸間距離を詰めるという、おもにオフロードマシ ンなどに⽤いる技術を応⽤するなど、既成概念に囚われない開発をしました。 1台のMT-09で、スキルに応じてステップアップできるD-MODE MT-09はD-MODE(⾛⾏モード切替システム)を採⽤しています。右側のハンドルスイッチを操作すれば、 「STDモード」「Aモード」「Bモード」の3つのモードを選ぶことができます。3気筒エンジンのリニアで鮮 明なトルク感とスムーズな⾛⾏フィーリングを全域にわたって体感できる「STDモード」をベースに、元気が 良い「Aモード」、落ち着いた「Bモード」というイメージです。 STDモードとAモードは最⾼出⼒こそ同じですが、Aモードの⽅がアクセル開度に対するエンジンレスポンス が早く、アグレッシブなエンジン特性となっており、ベテランライダーが乗っても満足いただけるパフォーマ ンスを与えています。 穏やかなBモードは最⾼出⼒もエンジンレスポンスも抑え、⾬天⾛⾏時や初⼼者ライダーに選んでいただく と、より安⼼したライディングが可能になるでしょう。 このようにD-MODEはライダーの意思により異なる3つの⾛⾏モードを使い分けることが可能であり、またラ イダーのスキルに合わせて、1台のマシンでステップアップしていくことも可能なのです。 スーパーモタードのDNAを感じる、リニアリティを追求した⾞体 MT-09はネイキッドマシンとスーパーモタードマシンの「異種交配造形」にチャレンジしています。スー パーモタードマシンの“マスフォワード”と“マスの集中化”を追求したカタチは、⾞体を⾃由に操れる軽快感を 表現し、ネイキッドマシンと組み合わせることでスタンダードでありながら新しい、ヤマハらしいバイクが表 現できると考えたからです。 しかし開発当初、この“スーパーモタード”というキーワードが開発陣を悩ませました。「異種交配」を頭の中 で創造したとき、選択するべき要素とその配合率について個⼈のイメージが合致せず、開発陣のなかで完成型 のイメージが共有できなかったのです。これについてはデザイナー、設計、実験がクレー作業と議論を繰り返 す事によって形にしていきました。 更に前段で述べたバイクの楽しさを感じるための「安⼼感」がある乗⾞感を実現させる要素を議論したとき、 私たちのなかでスーパーモタードと言うキーワードは、トレールバイクに置き換えられました。じつはヤマハ の社員の多くは、通勤にトレールバイクを使っています。その理由は、軽量コンパクトでスリムなボディがも たらす絶大な安⼼感、リラックスでき、且つ視界が広くとれるポジション、そしてオフロードツーリングもこ なすスポーツ性とそれをコントロールする悦びがあるからです。軸足こそネイキッドバイクにありますが、こ れこそMT-09が目指す世界なのです。 MT-09の⾞体には、そういったスーパーモタード=トレールバイク的要素をふんだんに取り⼊れました。こ の発想もヤマハらしさかもしれません。 軽量コンパクトな3気筒エンジンを⼿に入れたことで⾞幅を抑えることができ、またそれによりシート前⽅を グッと絞り込み、ライダーに安⼼感を与えるスリムな⾞体と⾼い足つき性を実現。同時にスーパーモタードマ シンの様なフラットシートと幅広のバーハンドルを採⽤することでアップライトなライディングポジションを 実現するとともに、ガソリンタンクの前後⻑を短くしライダーが前後左右に動けるキャパシティを持たせるこ とで、ライダーがより積極的にマシンをコントロールできるようになりました。 また従来のネイキッドスポーツバイクに⽐べ、より低い位置にマスを集中させている⼀⽅、ステアリングヘッ ド位置を⾼い位置に設定することにより、⾛⾏安定性を⾼めながら、軽快な操縦性が得られる特性としていま す。⻑めに設定されたサスストロークと相まって、何気ない操作でも狙った⾛⾏ラインをトレースすることが 可能です。 ⾃由度の⾼いシートポジションは、これまでのロードバイクしか経験が無いライダーにとっては 違和感があるかも知れませんが、ライダーが動くことでコントロール性とキャパシティが上がり、ライダーの 動きに合わせて⾞体も運動性能を⾼めていく。この感覚は、今までのロードバイクにはないかもしれません。 マスの集中化と同時に徹底した軽量化によってサイドスタンドを上げた瞬間から⾞体の軽さが感じられるは ず。その⾞体に、中低回転域から強いトルクが出る3気筒エンジンを搭載しています。街中を⾛る時の常⽤回 転域ですぐに使えるエンジントルクを取り出せる。⾞体においても⾛る、曲がる、⽌まるというバイクの基本 的なパフォーマンスにリニアリティを追求した結果です。 ⾃由度の⾼いライディングポジションから生まれるカタチ ネイキッドマシンとスーパーモタードマシンを掛け合わせた「異種交配造形」というチャレンジは、⾞体の前 側と後ろ側に異なるイメージを与えるという新たな試みによって実現しました。 マスフォワードと軽快さ、エンジンを鷲掴みにするフレームとフラットシート、スリムさを追求するため絞り 込まれたタンクは容量確保と迫⼒を求めて抑揚が生まれ、ライダーの⾃由度を追求したフラットシートは薄く 短くシェイプされる。この相反する要素をつねに背中合わせでならべ、その境目を丁寧に合わせていくこと で、ネイキッドらしく、それでいてスーパーモタードらしさが際⽴ってくるのです。 スイングアームがフレーム後端を挟み込む構造を採⽤していることで、エンジンを鷲掴みにするフレームの存 在が強調され、エンジンの存在感を⾼めるエキゾーストパイプは、最も美しいカタチを求め、何度もレイアウ トを変えて作り直しました。スイングアームとバンク角の関係で“ここしかない”という位置に出したサイレン サーは、3気筒を表す三角形にしました。 また横⻑のヘッドライトは、多くのネイキッドマシンがより低く配置することでスポーツ性を演出するのに対 し、MT-09ではスーパーモタード的な軽快感を演出するため、あえて⾼い位置にヘッドライトを配置。ヘッド ライトとフロントタイヤとの間にストローク領域を感じることで、アクティブなイメージを演出しています。 そのほかアルミテーパーハンドルのマウント⽅法や、視認性を確保しながら可能な限りコンパクト化したス ピードメーター、その光り⽅にもこだわったポジションライトやテールライトなど、ほとんどのパーツをMT09⽤に新作し、デザイン性と質感の向上にもこだわりました。 MT-09に求めた新しいスポーツ性とそれを実現するディテール、そして“性能の可視化”というヤマハ独⾃のデ ザインアプローチによってMT-09はじつにヤマハらしい個性的なマシンに仕上がりました。 いつもの道で、ご堪能下さい。 欧州への輸出モデルとして開発がスタートしたMT-09でしたが、そのコンセプトを深く掘り下げながら、同時 に⼤きく変わりつつある世界の⼆輪市場を注意深く⾒渡した結果、“日常”で如何にバイクを楽しむかという テーマが、日本を含めた世界の共通テーマであることがわかりました。 そして私たちMT-09の開発チームが追い求めたものは、そんなバイクの根源的な楽しみ⽅であったと思いま 国内仕様⾞は日本での使⽤シーンでの楽しみを最⼤化する味付けはおこなっておりますが、開発の舞台となっ た欧州仕様⾞とほぼ共通の仕様、同じ乗⾞感でお楽しみいただけます。 MT-09は、バイクの基本的な楽しみを徹底的に追求しながら、同時にヤマハのエキサイトメントをしっかりと 織り込みました。そのエキサイトメントを、いつもの道でぜひ堪能してみて下さい。
© Copyright 2024 Paperzz