第 1 回定例会 2013 年 6 月 7 日(金) 14:00~17:00 会場:早稲田奉仕園 日本キリスト教会館 6ABC 号室 「アフリカ開発から学ぶ、企業と NGO の連携の実態と課題」 Ⅰ.はじめに (25 分) 14:00~14:25 開会あいさつ 事務局 参加者全員の簡単な自己紹介 [進行]連携ネットコアメンバー 植木美穂氏 Ⅱ.今年度の連携ネットの枠組みとスケジュール(10 分) 14:25~14:35 ・今年度の連携ネット活動枠組み 事務局 ・スケジュール ・コメント、質疑応答 Ⅲ.講演(30 分) 14:35~15:05 ・講演「TICAD の成果と課題」 動く→動かす 事務局長 稲場 雅紀氏 ・質疑応答 休憩(10 分) Ⅳ.パネルディスカッション (100 分) 15:15~16:55 ・パネルディスカッション.「アフリカ開発から学ぶ、企業と NGO の [コーディネーター] 連携の実態と課題」(80 分) (特活)ハンガー・フリー・ワールド 事務局長 渡邉 清孝氏 ・フロア(参加メンバー)からのコメント・質疑応答(20 分) [パネリスト] 味の素株式会社 北村 聡氏 動く→動かす 事務局長 稲場 雅紀氏 (特活)オックスファム・ジャパン 事務局長 米良 彰子氏 Ⅴ.おわりに(5 分) 16:55~17:00 ・メンバーからの報告等 事務局 ・事務連絡 1 開催レポート Ⅲ.講演(30 分) 「TICAD の成果と課題」 動く→動かす 事務局長 稲場 雅紀氏 TICAD における NGO の取り組み 本日は、TICADⅤがどういうものだったのか、また NGO から TICAD がどう見えたのかを中心にお話しする。NGO とし ては、2008 年に行われたTICADⅣでフォローアップメカニズムが作られ、毎年アフリカで閣僚会議を行い、TICADで約 束された行動計画の進捗をレビューすることが決まった。またこの閣僚会議は市民社会が参加する権利が与えられてお り、それによって毎年閣僚会議に出席してアフリカ側の NGO と一緒に提言を作ったり、スピーチをしたり、といった活動を 行ってきた。このプロセスは、マスコミにはあまり注目されてはいなかったが、実際にはこのように毎年会議を行う体制が 出来ており、今後も継続していく予定である。 昨年の 11 月から始まった TICADⅤの公式の準備プロセスにおいては、2012 年 6 月からアフリカに関心を持つ日本の NGO 47 団体が参加する「TICADⅤコンタクト・グループ」を結成し、TICADⅤに関する外務省・NGO の対話を実施してき た。 TICADⅤの成果 今回、TICADⅤの参加元首数が前回の 41 人から 39 人に減少しているが、参加者数は 3,000 人から 4,500 人へとかな り伸びている。今回大々的に公式サイドイベントが行われたこともあり、市民社会が TICAD についての理解を広める努 力を最大限行ったことも大きく寄与していると思われる。 成果文書として「横浜宣言 2013-2017」と「横浜行動計画 2013-2017」が採択されたが、実際のメディア報道では成果 文書よりも安倍総理の演説の方が大きく取り上げられた。NGO は成果文書についてのさまざまなアドボカシーに取り組 んできたため、それについては少し残念だという印象は残る。 安倍総理演説の目玉として「3.2 兆円の支援」が強調されたが、その中身は明らかになっていない。その内容を分析す ると、基本的には ODA 現状維持にプラス円借款を行うということであり、必ずしもハードルが高いものではない。この数 字は、日本はできることしか約束しないということであり、すなわち、現行の ODA 額が増えなくても円借款を増やして達成 できる金額である。 今回の TICAD で、「これまでアフリカは貧困と援助の大陸であった」、「今後は、日本は本格的にアフリカに経済進出す るし、すべきだ。それを安倍政権が進めていく」という印象を受けたと思うが、必ずしもそうではない。そのような世論をつ くるという点では、政府は成功したのではないかと思うが、NGO からみて今回の TICAD で求めていたものはこの結果な のかと考えると、必ずしもそうではない。 これまでの TICAD と今回の TICAD の違い、TICAD で必要だったこと “新興国の経済的な拡大と、先進国の比重の低下“という文脈の中で、TICAD をめぐるアフリカの政治地図が大きく変 わった。アフリカの経済的重要性が高まり、アフリカ自身、また世界中もそれを意識するようになったことで、アフリカが売 り手市場になった。また、2010 年にアフリカ連合の行政部門である「アフリカ連合委員会」が TICAD 共催者になったこと で、TICAD は日本・アフリカのバイ(二者間)の会議へと変貌し、日本とアフリカ連合との間に緊張関係が生まれた。だか らこそ、今回日本はアフリカ諸国と真正面から包括的にしっかりした関係を作ることが問われた。 特に TICAD に関しては、やり取りは日本とアフリカの政府間で行われる。今回の TICAD は経済重視であったが、第 3 の柱としての市民連携に関しては、ほとんど無視されることになってしまった。しかし、日本とアフリカの関係においては、 非営利セクターとの連携は非常に重要である。実際、アフリカと日本の連携は、ほかの領域よりも、研究や知的交流、文 2 化・芸術面での交流が最も進んでいると言える。しかし、それをどう活用し、連携をとっていけるかという踏み込んだ議論 はなかった。 今回やるべきことは、形だけのプレッジではなく、今ある様々なアフリカとの関係を活用し、より幅広い包括的な外交関 係をいかに築いていくかということが重要であったが、今回の成果文書にはそれが反映されなかった。この成果文書に おいて、持続的かつ強固な社会をどうつくるかという長期的な視点が問われていたにも関わらず、目先の経済的な利益、 アフリカへの企業進出に関してのみ焦点があてられ残念であった。モザンビークの「プロサバンナ事業」でみられるように、 これからは「批判」を含めた NGO の役割が重要であり、全員参加型の連携が日本を強くしていく。日本は質の高い包括 的な外交によって新たな日本・アフリカ間の関係を構築していく必要があり、また文化交流をさらに推進していくことが求 められる。 Ⅳ.パネルディスカッション (100 分) 「アフリカ開発から学ぶ、企業と NGO の連携の実態と課題」 目的 ・BOP ビジネスの成果と課題の要素について、味の素のガーナ栄養改善プロジェクトにおける現場の取組み事例から 知る。 ・経済政策立案のプロセスにおける企業と NGO の役割について、オックスファムの事例、経団連の TICAD に向けた提言 文書から知る。 事例発表① 「ガーナ栄養改善プロジェクト 現場での取り組み」 味の素株式会社 北村 聡氏 本日は、味の素が行う「ガーナ栄養改善プロジェクト」の概要と実際にどんなことをしているかを現場の立場からお話し する。ガーナは、GDP が 3 兆円であり、まだまだ貧困度は高い国である。なぜガーナを選んだかというと、政治が安定し ており、国連機関や国際 NGO が多く活動しているためパートナーシップを組んでソーシャルビジネスのモデルを作るには 最適な場所であったからである。 生活:人の考え方 ガーナ人とパートナーシップを結び仕事をすることは、それなりに大変である。もちろん全員がそうではないが、あまり 計画性がないという国民性もあり、お願いごとは 1 つにするなどシンプルに伝えることが大切である。 途上国における深刻な社会課題としての栄養不足の問題 栄養不足、特にたんぱく質が足らない子どもの数は、月齢 6 か月~24 か月の子どもが一番多い。これをなんとか解決 できないかということで、食品とアミノ酸でこれまで培ってきたノウハウを使ったビジネスに取り組んでいる。1 社単独で問 題解決するのは困難であるため、できるだけ多くのパートナーと Win-Win の関係を築きたいと考えている。やらなければ ならないこととしては、「栄養改善を実現できる製品の開発」、「販売マーケティング、流通方法の確立」、「栄養について 理解を深める啓発活動」が挙げられる。これらすべてにおいて弊社単独での実現は困難なため、パートナーシップが重 要な鍵になる。 プロジェクト全体像 現在は、生産立ち上げ、栄養効果試験、2 つの流通モデル構築試験の取組みを行っている。JICA から支援をいただ いたことも関係づくりに大きな影響を与えた。現在、プロジェクトを実施するにあたり、様々なノウハウを有するパートナー 3 に協力いただいている。 パートナーシップの意義と難しさ 栄養改善が最大のミッションだが、それぞれのパートナーで収入向上や栄養教育、流通モデルの構築など異なる思惑 があり、各パートナーとの合意形成が大変である。ソーシャルビジネスを立ち上げるとき、「開発」「生産」「ロジ」「栄養教 育」「プロモーション」「店頭・販売員の教育」など、やらなければならないことがたくさんあるが、もともと自社になかったも のが多く、少しずつ取り組み立ち上げてきた。自社で徐々に構築していく方法と、パートナーと組んでギャップを埋めてい く方法があるが、味の素は後者を選んだ。 長い合意形成までの過程 多くのパートナーとの議論は各論に近づけば近づくほど白熱・紛糾していくが、各人が知恵を絞り議論を深めることで ようやく合意形成を取り付けることができる。また、他組織の現場の方への指示の出し方を含め、いかに気持ちよく動い てもらうかが非常に難しい。そして時に、複数のパートナーが絡んでいる場合は、感情的な不平不満がでてくることも多く、 それらにいち早く気付き対応するコーディネーション力が非常に必要である。今でもこのようなコーディネーションに6~7 割程度の時間を割いているが、現場のコーディネーション次第でパートナーシップの質は左右されると思う。 開発・生産 この事業は、中下層の 100 万人の方をターゲットとしている。大豆とアミノ酸の効果でタンパク質を理想的に接種できる よう、市場調査や味覚試験を実施して製品を開発していった。生産において、味の素の基準は非常に厳しく、現地の人 にその品質の理解を得てもらうまでが大変であった。生産においては、試験期間の為、生産量が限られるのと機械が壊 れるリスクを避けて製造・包装はできるだけ人の手で行っており、労働市場の流動性が高いガーナでは、人材育成が課 題となっている。 栄養効果試験 実際にサプリメントを無償で住民に渡し、その経過を見る「栄養効果試験」は、対象となる人数も多く、タイムマネジメン トや取りまとめが非常に大変であるが、良い結果を出して販売促進に繋げていきたいと考えている。 流通試験 流通試験は、CARE と協働で進めている。CARE と活動を行っている地域は特に貧困度が高く、人口密度や識字率が 低いなど難しい状況であるが、CARE の女性自立支援である「Village Saving and Loan Association」などの協力を得て行 っている。プロモーションと栄養教育は非常に重要であると考え、CARE に栄養教育に関するドラマを作っていただいた。 このドラマは住民が出演していてコメディーチックに作られており、観客も楽しみながら栄養について知ることで住民への 理解促進が進んでいる。まずは栄養について理解していただかないとなにも始まらないので、製品だけでなく、「栄養に ついて伝えること」によりフォーカスするようにしている。 ロジ構築 流通のロジ構築として、販売員が毎週来るマーケット近くにハブを 2 カ所作り、既存の小売店に扱いを依頼している。 中継点では CARE に協力いただいている。初めての販売は、目標の倍以上のペースで好調な滑り出しであった。このよ うな好調な売れ行きの理由として、実際に購入した母親が 2 週間くらいで製品の効果を実感してくれたことが大きい。大 事なのはこれからであるが、今後の売れる環境作りにむけて、「なぜ売れているのかを理解する」、「お母さんたちにどう 4 いうメッセージが届いているのかを理解する」、「素晴らしい販売員の方のスキルを把握し、皆で共有する」など、各活動 のレビューとブラッシュアップ、つまり基本的活動の徹底が大切である。また、現在南部では、ブランドアンバサダーなど を活用した口コミマーケティングに向けて準備を進めている。 まとめ パートナーシップの関係性の変化としては、①期待:お互い好印象、期待感が高まり、②落胆:現実が見え、話し合い をすればするほど溝が深まる、が、③我慢:徐々にやるべきことが整理され、④信頼:それぞれの能力を活用し、現場で 様々な創意工夫がされていく、という段階があると感じている。CARE、Plan とは出会ってから 3 年ほど経ち、③の我慢の 時期が長いと正直感じることもあるが、少しずつ成果も出てきている。こうしたプロセスを経て、栄養改善という共通の目 的を全員が共有し、マルチで Win-Win の関係を作ること、そしてガーナの特性にあった活動を創り上げるよう取り組んで いきたいと思っている。最後に、成功に導くために心がけていることを紹介したい。それは、「タフネス」-100%の力で取り 組む活力・忍耐力を整えること、「ポジティブ」-いろいろ大変なことはあるがポジティブに楽しむ・自分の権限を活動の限 界にせず思いを伝えて信頼すること、「シンプル」-複雑なこともしたたかに戦略を練り、わかりやすくすることである。これ からもこれらの要素を大切にし、「やればできる!」をモットーに取り組んでいきたい。 Q&A Q:パートナーシップの関係性の変化において、それぞれの期間、特に我慢の時期はどのくらいあったのか。 A:我慢の時期は、1~2 年くらいあったかと記憶している。相互にやろうとしていることの本質を理解する、実施計画を作 る、実際のパーツ(現場)に落とし込んでいく、各種契約等・・、どれも創造性、忍耐、信頼、そして、時間が必要である。 事例発表② 「TICAD の成果と課題」 (特活)オックスファム・ジャパン 米良 彰子氏 今回の TICAD について 今回の TICAD には、「経済成長」という言葉が何度も出ていた。「援助から投資へ」、つまり、最後のフロンティアといわ れているアフリカの豊かな天然資源を確保するために、日本企業による投資を後押ししようということが非常に明確に打 ち出されていた会議であった。これは中国・韓国に対する出遅れをかなり意識していたように感じるが、NGO の立場とし ては、経済成長の連呼に対して、若干違和感を覚えたというのが正直なところである。 経済成長の裏で加速する土地・農地の争奪 2007 年、2008 年の食料価格の高騰の影響によって、2008 年から土地収奪の規模・件数がかなり加速している。土地 の使用権の移行をデータベース化した Land Matrix を見ても、アフリカの土地の売買、取引は非常に活発に行われてい ることがわかる。しかし、アフリカは土地収奪の対象国でもあると同時に、栄養不良の人口が 10%を占めるなどの課題を 抱えている。 モザンビークの場合 「プロサバンナ事業」は土地収奪に関する事例である。モザンビーク北部の 3 つの州にまたがる農業開発のプロジェク トで、日本の耕作面積の 3 倍にあたる 1,400 万ヘクタールの農地がプロジェクト対象となっている。農業開発を切り口に、 港の改修計画や、内陸部と港を結ぶ鉄道などのインフラ整備の開発も進められている。これは政府だけでなく、官民連 携の一環(PPP)によるもので、かなり早い段階から取組みが進んでいた。こういった農地でできた大豆が日本の商社に 5 よって買い取られ、日本の食卓にも並んでいる。これは ODA 案件になっており、モザンビークの貧困削減と小規模農家 の支援にも資すると言われているが、私たち NGO が現地の市民社会から話を聞くと、政府が発表している内容と現状に かなり違いがあった。このプロサバンナ事業が貧困削減や小規模農家の支援にもなかなか繋がらないという我々NGO の声が届いているのか疑問がある。 モザンビークは非常に貧しい国である。過去 10 年にわたり、7%の経済成長を遂げていることが注目されている一方 で、最新の人間開発指数では世界ワースト 3 位であり、経済成長の裏で取り残されている人々がいることを我々は忘れ てはいけない。実際、こういったことがモザンビークだけでなく、さまざまなところでも問題となっており、地元住民と土地を 取得した企業との衝突やデモ活動が起きている現状がある。そのため、NGO はいろいろな情報を収集し、それを踏まえ た上での企業との対話やアドボカシー活動を行うことが大切となってくる。 フィリピンバナナの事例 我々の生活の身近にあるフィリピンのドールバナナの事例を紹介する。日本にもかなりの数が輸入されているが、オッ クスファム・ニュージーランドが現地の人権団体と一緒に報告書をまとめた。その報告書の中で、バナナの収穫の際の人 権侵害や健康被害が非常に多く発生しているにも関わらず、バナナには「Ethical choice」というラベルがずっと貼られて いるという問題を提起した。今年に入ってからドール社と対話を行い、ニュージーランドに入っているバナナに関しては、 そのラベルを取ることが合意された。この事例では、日本、フィリピン、ニュージーランドなどを絡め、調査報告をベースに 対話を続けた結果、「Ethical choice」ではないということを認めていただいたものの、次のステップである生活改善に向 け取り組まなければならないと考えている。アドボカシー活動としては、国際会議の場で声をあげることだけではなく、こ のバナナの事例のように、調査の実施や改善に向けて企業と一緒に取り組んでいくことも必要ではないか。 最後に、非営利団体「Business Human Rights Resource Centre 」が集めたデータベースを紹介する。このデータベー スは、人権という点に焦点を当てて、5,000 社以上、180 カ国以上で実施した調査データを公開しており、さまざまな情報 を見ることができる。また「OECD Watch」のリンクでは多国籍企業のガイドラインを見ることができる。こういった情報を見 て世界はどういったものに注目しているのかを頭に入れつつ、今後も活動していきたいと思う。 ■パネルディスカッション 今回のパネルディスカッションでは、経団連の TICAD に向けた提言「サブサハラ・アフリカの持続可能な成長に貢献す るために」からどういったことが読み取れるのかを考えていく。 渡邉氏:経団連の提言文書の中で、これは課題である、社会開発において脅威になるという点はあるか。 米良氏:課題としては、提言の中にある「農業開発への貢献」の内容が挙げられる。全体を通して言えることだが、この 提言を見る限り、当事者の顔が全然見えてこない。日本からの支援と書かれているが、一番影響を受ける現地の人々 の視点が抜けているのではないかというのが懸念事項である。実際に農業開発についていうと、現在地域の農家との間 でステークホルダーミーティングが開催されたのは、あれだけ大きな事業であるにも関わらずたった1回のみであったと 聞いている。今、現地では、「クイック インパクト プロジェクト」と称していくつかのプロジェクトが立ち上がっており、プロ サバンナに移るまでの実績づくりの動きがみられ、対象になっている地域の対立なども起きていると聞く。実際にアセス メントが終わっていない段階で、こいうった大規模プロジェクトに踏み切ることの危険性を感じる。 稲場氏:経団連の提言は、NGO 側との提言と全く違う。まず、いい点としては、「TICAD 会議の予算を設ける」という部分 があげられる。現実には、TICAD を行ったからといって TICAD 予算枠が設けられるわけではないため、TICAD を行うた 6 めの予算枠を設けてしっかり行うべきと提言している点は良いと思う。問題点としては、全体的に植民地主義的な要素が 拭えないという点である。日本にとって「消費市場」であるアフリカ、「資源の供給地」であるアフリカという観点しか出てき ていない。つまり、アフリカで我々がつくったものを売る、アフリカで我々が商品を作るための資源を買うということだけが 書かれており、アフリカ自身の開発・発展のあるべき姿についての視点が欠けている。だから、アフリカ自身の民族資本 が育つのをどのように助け、、連携するかという視点が抜けてしまう。また、インフラ整備に関して「内陸国と沿岸国との 連結性を念頭に」という部分について、これは植民地時代と同じ発想であり、アフリカ自体の成長についての発想が全く 入っていない。一方、経済同友会の提言は、「東部・南部・西部といった『地域経済共同体』のまとまりを強めて、地域レ ベルの経済を作り、育てていくことが重要である」と書かれており、経団連の内容と異なっている。 北村氏:現場にいて思うのは、経済は非常に成長しているということである。それ自体はいいことであり、人々の生活が 物質的に豊かになっていることは間違いないが、アフリカにとって今大切なのは「正しい成長」ではないかと思う。ガーナ はとても良い国であるが、富の配分がうまくできておらず、突然格差が生まれたりするなど若干正しい成長がぶれている のではないかと感じている。政府のキャパシティーや人材育成、民主主義について、誰かがしっかりと伝えて国の文化と して進めていかないと、この先、経済成長をすればするほど大変になるのではないかと思う。また、企業にとって一番大 切なのは「安定している」点である。そういった意味では、企業としてもそこに住んでいる人たち、従業員が幸せになる、 そのためにどうしたらよいかと考えることが必要であり、それに向けた連携が求められるのではないか。 渡邉氏:それぞれみなさんから挙げられた提言文書の課題を克服するために、企業と NGO の連携に向け何が必要かキ ーワードを発表いただきたい。 北村氏:キーワード 「広い視野」 どうしても自分のところにいると、自分の仕事や組織が大切になる。しかし、現場に行き、そこの人々に会って交流す ると教えられることが多々ある。まず視野を広げたいと思い、みんなで考えていく、その積み重ねが大切だと思う。 稲場氏:キーワード 「公正さ」 アフリカで日本企業が儲からない理由は、アフリカが日本にとって公正な場ではないからである。その背景には、歴史 的に植民地時代に構築されたアフリカと欧米との不公正な関係と、それによって作られた利権の関係がある。これから は、その不公正さを変えていくことが必要。より公正、透明な関係をアフリカと世界が築くことで、アフリカが我々にとって も共存共栄できる場になると思う。そのために、アフリカの人々が自ら繁栄できるようにしていくことを、日本としても政策 として追求していくことが重要であり、そのための提言が必要である。 米良氏:キーワード 「不平等につながらないこと」 間違った開発が不平等につながらないように、そして、現地の人々が声をあげることができるような体制をつくり、聞く 方も声を吸い上げる体制が必要だと思う。 渡邉氏:どれも企業とNGOの連携において必要な要素であり、本ネットワークでもできることに取り組んでいきたい。 Q&A Q:北村さんへお聞きしたい。事業を展開されているが、最終的なあるべき姿は何か。 A(北村氏):「あるべき姿」という視点で考えると、現在作っている製品が必要ではなくなる社会が求められるかと思うが、 7 そういってしまうとビジネスが成り立たない。基本的には、この事業は社内ではソーシャルビジネスとして位置づけてお り、ビジネスとして成り立つかまだ探り始めた部分なので、今後分析を行い数値として目標を立てていく。 Q:引き続き、北村氏にお聞きしたい。企業としてインプットするリソース・投資があるかと思うが、ソーシャルビジネスとし て分析中ということだが、どの事業にどのくらいかけて、落としどころはどのようにして進めているかを教えていただき たい。 A(北村氏):味の素はまずブランドを作る会社であり、それには時間がかかる。基本的に会社も、ブランド化は長く大変な ことであると認識してくれている。海外の場合は非常に長いスパン(長いところで 20 年くらいのところもある)が必要で あり、何より人を育てることが本当に大変である。そして、雇用の問題もあり、途中で抜けることができない状況もある。 企業マインドとして、あきらめなければ成功するというものがあり、長期的なプランで取り組んでいく。 Q:プロサバンナのことで、現地の NGO も農家の人と声を上げたとおっしゃっていたが、その結果として現在どのような状 況にあるのか、またそれに対する対応について教えてほしい。 A(米良氏):今回、プロサバンナの件が TICAD でも取り上げられていた。経済成長や農業支援ということは全面的に出 ているが、若干のブレーキや問いかけはできたと思う。一方で、メディアでは日本企業の成功事例として取り上げられ ており、引き続き、企業や政府へアドボカシーとして、渦中にいる人々の声を聞いてもらう場を作り、声を届けていく事 が重要であると考えている。 A(稲場氏):プロサバンナ的なモデル、つまり自給的な農業から商業的、輸出型農業への誘導を推進するという方向性 は、単に一案件というだけでなく、TICAD 全体の方針として出てきている。これは実際に、アフリカにとっての食料安全 保障を改善・実践するためのものとはいえないため、今後どのようにアフリカが食料安全保障を実践できるようにして いくのかを全体として考えていかなければならない。 以上 8
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