SPS 測定解説シリーズ

【SPS 測定解説シリーズ】
横浜市スポーツ医科学センターでは、スポーツプログラムサービス(以下 SPS と略)事業を実
施しています。この事業は、医科学的検査と体力測定をセットで行うもので、一般の健康診断や
人間ドックでは行われない運動負荷試験や各種体力測定を行うのが特徴です。
本シリーズでは、SPS の中で行われている各種測定項目を「なぜ行うのか」
「どのように測定し
ているのか」などについて、SPS 参加者のデータを参考にしながら解説していきます。
1)脚伸展パワーの測定意義と目的
「SPS 測定シリーズ・脚筋力」で、
「日常生活において脚筋力(大腿四頭筋、ハムストリングス)
は、膝関節の安定や自分の体重を支える重要な役割を担っている」と記述しました。日常生活動
作やスポーツ活動時では、自分の体重を十分に支えるために必要なことから、脚筋力と共に安定
した状態で筋力発揮することができる下半身の総合力が重要となります。
脚伸展パワー測定は、自重負荷における複合関節(ここでは股関節+膝関節+足関節)動作の協
調的な筋力発揮能力を測定することで、体重支持能力や瞬発的パワーなどを評価します。
2)脚伸展パワーが低下すると?
脚伸展パワーの維持が高齢期の QOL※維持に大変重要であるといわれています。その脚伸展パワ
ーが低下してくると、椅子からの立ち上がりや階段の上り下りがきつくなります。また、下半身
を伴う身の回りの動作や掃除、庭の手入れなどの家事動作もしづらくなり、さらには歩行速度の
低下にもつながります。
脚伸展パワーの維持・向上には、一日の運動量や筋力トレーニング実施の有無が大きく関わり
ます。生涯スポーツ活動の充実や、広い範囲での自立行動ができる生活を送れるよう、普段から
積極的に体を動かしましょう。
※ QOL(クオリティ・オブ・ライフ)
「生活の質」と訳されます。人がどれだけ人間らしい望み通りの生活を送ることができるか、
ということを評価する概念です。
横浜市スポーツ医科学センターで実施されている、スポーツ版人間ドック(SPS)では以下のよ
うに測定します。
測定方法は以下の写真の測定機器を使用します。椅子に腰をかけ、膝を曲げた状態から自分の
体重に相当する負荷がかかったフットプレートを両足で蹴り出します。体重分のフットプレート
をどれだけすばやく蹴り出せるかを評価します。
フットプレート
横浜市スポーツ医科学センターで実施されている、スポーツ版人間ドック(SPS: Sports
Program Service )の受診者(一般、高齢者コースのみ)を年代別に集計し、その平均値と標準
偏差を示しました。使用データは平成 18 年度から平成 22 年度までのものです。
● 年代別の推移
脚伸展パワー体重比(w/kg)
30.0
男性
女性
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
10
20
30
40
50
年齢(歳)
60
70
80
n=男性 1805 女性 2415
上のグラフは脚伸展パワーの絶対値を体重で割った値です。
男性、女性とも、加齢とともに体重当たりの脚伸展パワーが低下していることが分かります。
特に、女性は緩やかに低下しているのに対し、男性は 30 歳あたりから急激に低下していることが
分かります。また、どの年代で比較しても男性の方が女性より体重当たりの脚伸展パワーが強い
ことが分かります。
過去の研究では、自立した生活を送るためには、男性で約 7~10W/kg で、女性で約 7W/kg と
いわれています。横浜市スポーツ医科学センターでの実測値では、80 歳近くで、男性が 11.4(±
3.7)で女性が 8.0(±2.5)という結果でした。
● 脚筋力の 5 段階評価表
次に、脚伸展パワーの平均値と標準偏差を元に 5 段階評価表を作成しました。ご自身の評価に
お役立てください。
脚伸展パワーの体重比(w/kg)
男性
年齢
18~22
23~27
28~32
33~37
38~42
43~47
48~52
53~57
58~62
63~67
68~72
73~77
78~
女性
年齢
18~22
23~27
28~32
33~37
38~42
43~47
48~52
53~57
58~62
63~67
68~72
73~77
78~
平均
23.5
24.3
23.5
21.4
21.7
19.7
19.8
17.7
16.5
14.9
14.0
13.1
11.4
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
1
17.7
18.6
17.1
14.5
15.8
13.9
14.5
12.8
11.1
9.7
8.9
7.5
5.8
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
1
10.0
9.5
8.7
8.5
8.9
7.7
7.1
7.0
6.0
5.5
5.2
4.8
4.2
17.8
18.7
17.2
14.6
15.9
14.0
14.6
12.9
11.2
9.8
9.0
7.6
5.9
2
~
~
~
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~
~
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~
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10.1
9.6
8.8
8.6
9.0
7.8
7.2
7.1
6.1
5.6
5.3
4.9
4.3
2
~
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~
21.5
22.3
21.3
19.1
19.7
17.7
18.0
16.0
14.7
13.1
12.2
11.2
9.5
21.6
22.4
21.4
19.2
19.8
17.8
18.1
16.1
14.8
13.2
12.3
11.3
9.6
評価
3
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
25.3
26.2
25.6
23.7
23.7
21.6
21.5
19.3
18.3
16.6
15.7
14.9
13.2
13.0
12.5
12.3
11.8
11.8
11.1
10.0
10.0
9.0
8.3
7.9
7.6
6.8
評価
3
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
15.9
15.4
15.8
14.9
14.6
14.3
12.8
12.8
11.9
11.1
10.5
10.3
9.2
平均
14.5
13.9
14.1
13.3
13.2
12.7
11.4
11.4
10.5
9.7
9.2
9.0
8.0
12.9
12.4
12.2
11.7
11.7
11.0
9.9
9.9
8.9
8.2
7.8
7.5
6.7
25.4
26.3
25.7
23.8
23.8
21.7
21.6
19.4
18.4
16.7
15.8
15.0
13.3
4
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
16.0
15.5
15.9
15.0
14.7
14.4
12.9
12.9
12.0
11.2
10.6
10.4
9.3
4
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
~
29.1
29.9
29.8
28.3
27.5
25.4
25.0
22.5
21.8
20.0
19.1
18.6
16.9
5
29.2
30.0
29.9
28.4
27.6
25.5
25.1
22.6
21.9
20.1
19.2
18.7
17.0
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
18.9
18.3
19.3
18.1
17.4
17.6
15.6
15.7
14.8
13.9
13.2
13.1
11.7
5
19.0
18.4
19.4
18.2
17.5
17.7
15.7
15.8
14.9
14.0
13.3
13.2
11.8
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
≦
(注) 現在の SPS 評価基準は、平成 18 年度から平成 22 年度までのデータを元に作成したものを使用し
ています。
● 脚伸展パワーの参考値
伸展パワーの参考値
脚伸展パワー絶対値(w)の年代別推移
1900
男性
女性
1700
脚伸展パワー(w)
1500
1300
1100
900
700
500
300
100
10
20
30
40
50
年齢(歳)
60
70
80
n=男性 1812 女性 2436
上のグラフは脚伸展パワーの絶対値です。体重比とは違い、体重で除していない値です。
参考までにご覧ください。
横浜市スポーツ医科学センター スポーツ科学部 健康科学課
科学員 溝渕 絵里
科学員 小野 宣喜