国際協力銀行が毎年行っている、『海外投資先 アンケート』 2006年度分が発表されました。 結果【表1】によれば、投資先として、依然魅 力のある中国、新たな投資先として期待される ベトナムやインドが上位であることがわかりま す。一方で、注目されるのは、タイの関心度の 高さです。 日系企業の場合、生産拠点を海外に移転する 動きは、1985年のプラザ合意以降に起きた急激 な円高の対応策として始まりました。自動車や 家電産業を中心とする多くの日系企業は、タイ に生産拠点を移しました。日系企業の海外進出 先としては中国よりも歴史が古いことになります。 今回は、中国一極集中のリスクを分散させる 『中国プラスワン』 の投資先として、前回 (春 号) のベトナムに続き、現在も注目を集めるタイの現状についてレポートします。 1.タイとは タイは 『微笑みの国』 と呼ばれます。 プーケット島やアユタヤ遺跡などの観光資源を多く有し、アジア各国のみならず、世界 中から多くの旅行者を迎えています。 日本人旅行者・海外駐在者にとって、首都バンコクは、特に人気の場所です。仕事等で 日本大使館に在留届を出している邦人居留者は4万人を超え、日本からの旅行者(年間約 100万人) と合わせると、常時7∼8万人以上の日本人がバンコクに滞在しているといわれ ています。 ● 7● 2.進出先としてのタイの魅力と課題 【魅力】 ○他のアジア各地よりもコストが低い 賃金:ベトナムには劣るものの、上記【表2】のとおり、一般に労働力が安価とされて いる中国本土 (沿岸部) よりさらに安い。 事務所・社宅:高騰傾向にあるものの、他の地域に比べると依然として安い。ベトナム の場合、賃金は低いが、事務所・社宅費用が高い。 ○良好な対日感情 アジア諸国ではベトナムとともに数少ない親日国。 ○裾野産業の充実 中国沿岸部の産業集積地と同様、部品メーカーから組立メーカーまで、各種産業が すでに進出しており、部品の現地調達が可能。 ○免税措置 上記各都市と同様、各種免税措置がとられている。 ○経済の好調さ 【表3】のとおり、経済成長は順調であり、一人当たりのGDPも中国・ベトナムと比較 して高い。 【課題】 ○労働力不足 自動車産業の過度な集積により、技術者や管理職層の人員が不足。 ○首都バンコクへの労働人口一極集中 上記の労働力不足と関連するが、より安い労働力を求めて郊外へ進出しても人が集ま らない。 ○今後の通貨 (バーツ) の行方 経済規模の小さい東南アジア各国の通貨は、外部から為替の影響を受けやすい。なお、 現在の急激なバーツ高は、タイの産業の中心である輸出業者にとって、問題となって ● 8● いる。【表4】 ○外国企業への対応 外資誘致を積極的に行ってきたタクシン前政権に対して、クーデターを行った暫定政 府は外資導入に対して 『外国人事業法』(詳細は下記) の改正を行い規制強化。物流・商 業などの規制業種では今後の行方が懸念される。 3.『外国人事業法』 について 外国人がタイでビジネスを行う場合、 適用される法律は 『外国人事業法』 とよば れるものです。 外資企業にとっての、最近の大きな出 来事の一つに、この 『外国人事業法』 の改 正があります。 『外国人事業法』 外国人の定義 ・タイ国籍を持たない個人、 タイで登記されていない法人等。 ・法人資本の半分以上が、外国人または外国法人によって保有されている法人。 主な制限カテゴリー 《リスト1》マスコミ活動、農林水産業、土地取引等 《リスト2》天然資源等の環境への影響が配慮される産業⇒鉱業、木材加工業等 《リスト3》タイ国内企業の競争力に配慮した産業⇒商業、金融、観光、広告業等 ※外国人事業法の定義により 「外国人」 とみなされる事業運営者は、タイでビジネスを 営む上でこの法律の制限に従う必要がある。 ※『外国人事業法』で規制されている以外の、「商品製造」 等ビジネスは、ビジネスラ イセンス申請の必要はない。 ● 9● 改正の影響 既存の進出日系企業の多くは、 《リスト1と2》 に属する企業ではないため、法改正に よる大きな影響は受けないとみられています。そのためこの改正自体が、企業の撤 退に直接繋がるようなものではないと思われます。 しかし、「小売・卸売業への規制」に該当する企業の新規投資については、タイより経 済の自由度が高く、企業の積極誘致を行うベトナム、ミャンマーなどの近隣諸国に 流れる可能性もあるとみられています。 4.最後に 上記で述べたように、『外国人事業法』 の改正が、今後のタイへの新規投資に与える影響 は決して小さくはないと思われます。 しかしながら、【魅力】の項で述べたように、他の地域と比べてタイが、さまざまな点で 優位な条件を持つ国であることは間違いありません。 近年のマスコミ報道により、注目を集めるベトナムの影に隠れたようにみえるタイです が、そのベトナムにとっても、今後の経済発展を望む上で、タイとの協調は不可避なもの だと思われます。 また、タイは『中国プラスワン』としてベトナムとともに語られることが多いのですが、 ポスト中国の受け皿としてだけではなく、タイ自体が充分に魅力的な生産地・市場である ことを忘れてはいけません。今年の経済成長率は3.8%になると見られており、次回行わ れる総選挙で新政権が誕生し信頼回復につなげることが出来れば、成長率は更に増加する ともいわれています。 最後に、投資と直接は関係ないかもし れませんが、タイの魅力のひとつとして、 生活環境の充実さがあげられます。首都バ ンコクの街には日本食店が溢れ、日系スー パー・デパートも進出し、日本人駐在者に とっては他の地域にはない最適な環境が 整っています。 日本人に好意的である 『微笑みの国』 タイ は、アンケートで多くの経営者が期待して いるとおり、今後も、海外展開先の大きな タイ・バンコク市内の街並み 候補地として、発展を続けるでしょう。 ● 10 ●
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