数学科 山本 正 Ⅰ.コンピュータの歴史 まず,私の人生において

数学科 山本 正
Ⅰ.コンピュータの歴史
まず,私の人生においてコンピュータとの関わりを述べながら,私なりのコンピュータ
文化論を論じたい。
第 1 世代 専門家が操作するコンピュータ(プロフェッショナルユース,~1975 年頃)
企業や研究所などで,コンピュータが使われるようになったが,高価で大型であり,一般市民
にとってはほとんど本体にお目にかかることはなかった。
1970 年頃コンピュータとの出会いは大学の計算機の演習であった。パンチカードに入力し,棚に置いておくと係の人がコン
ピュータに読み込ませ,計算結果を紙に出力したものを棚に出しておいてくれる。次の日それを受け取りに行くと,error と書
いてあった。プログラムに不備があったのであろう。コンピュータの本体を見ずして,私の計算機実習はめでたく終わった。
(単位はいただいたのでめでたし)
第 2 世代 個人で所有できるコンピュータ(ホビーユース,1980 年頃~)
パーソナルコンピュータの登場により,個人での所有が可能になった。しかし,実用のアプリ
ケーションが十分でなく,プログラミング言語により操作することが主で,専門家でないと使え
ないものであった。
1980 年頃,キーボードと一体になった CPU クロック4MHzの8ビットのコンピュータを買った。個人で所有しているので,
コンピュータとのやりとりが自由にできるようになった。はじめてプログラミング言語により,コンピュータを動かしたと言
う意義は大きい。 このコンピュータは BASIC の実習用としての役割が大きかった。数列の和・整数問題・描画などができた。
数学が実験(シミュレーション)により検証できるようになった。仕事への利用としては,ソート(順番に並べる)をして,
成績処理に使ったりする程度であったが,自分で並べるより格段に早く正確にできた。
第3世代 アプリケーションの充実(ビジネスユース,1985 年頃~)
ワープロソフトや表計算ソフトなどアプリケーションが開発され,プログラミングができない
人にも操作ができるようになり,ビジネスでの利用が伸びた。初期はアプリケーションをフロ
ッピーデスクに保存していたので,始まるまでにすごく時間がかかった。
第4世代 インターネットの充実・動画ができるコンピュータ(ホームユース,2000 年頃~)
さらに高性能化・低価格化が進んだ。WINDOWS の登場により,インターネットが簡単にできる
ようになり,高性能化により動画出力が可能となり,一般家庭に普及し家電のひとつになった。
理系志望の高校生にとって一番の人気はバイオ関係の学科に移ってきたが,情報関係も
根強い人気がある。よく,コンピュータを毎日のように使い,大学の情報科に進学を考え
ているという高校生に出会う。しかし,聞いてみると毎日インターネットをして遊んでい
るにすぎなかったりする。コンピュータのハード・ソフト両面の知識がきわめて乏しい場
合がある。つまり,現在ではコンピュータがうまく使えることと HDD ビデオをうまく使え
ることのレベルはあまり変わらない。もはやコンピュータが使える ことは理系学生の十分
条件ではない。
しかし,われわれ大人は,コンピュータと聞くと先に書いた第 1 世代,第 2 世代のコン
ピュータのイメージが残っており,コンピュータが使える=理系の適正ありと勘違いして
しまう。今後の進路指導において注意が必要であろう。
Ⅱ
EXCEL で行うカオス実験
数学へのコンピュータの利用の一例として,EXCEL を使ったカオスの実験を紹介したい。
これは,中学生向けのオープンキャンパスの数学講座で行ったものである。
夏休みに行われる中学生向けオープンキャンパスで,数学講座を 3 年間行ってきた。高
校数学の紹介と本校の設備を見てもらうことが目的である。視覚にうったえるべくコンピ
ュータを利用した展開とした。
はじめの 2 年間は,フリーソフトの GRAPES を使ってグラフを書いた。1 次関数や y  x
のグラフを書いた後, y  sin x などの高校で習うグラフを紹介した。GRAPES は数学の知
識が無くても数式を入力すればグラフが書けるので,中学生でも入りやすい。
2
3 年目は,尐し趣を変えて,EXCEL を使って,カオスの紹介をした。次のステップで展
開した。
① 関数 y  x について  1≦ x ≦1 において, x が 0.01 刻みでの数値を代入し,グラフ
を書く。
2
② y  x を y  x に変える。
③ y  x(1  x) について, x に 0  x  1 の値を入れ,それにより求められた y の値を再
び x に代入し,手計算により計算を2~3回繰り返す。漸化式 X n1  X n (1  X n ) を
体験的に理解させることが目的である。
④ EXCEL で作った漸化式 X n1  aX n (1  X n ) の計算とその関数値をグラフ化をするも
の(下図黄色のセル)に, a の値と x の初期値を入力する。いろいろ値を変えて,
グラフの変化を観察する。
結果
[図 1] a =2.9, x の初期値(初項)0.6 のとき・・・・・収束する。
[図2] a =3.0, x の初期値(初項)0.6 のとき
ある程度計算回数が進むと二つの値(約 0.65 と 0.68)を繰り返す。
a=3のとき
0.74
0.72
0.7
0.68
0.66
0.64
0.62
0.6
0.58
0.56
0.54
1
12
23
34
45
56
67
78
89
100
111
122
133
144
155
166
177
188
199
系列1
[図3] a =3.8, x の初期値(初項)0.6 のとき
規則性のない値を 0  y  1 でとる。これがカオスである。
a=3.8のとき
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
193
205
169
181
145
157
121
133
97
109
73
85
49
61
25
37
1
13
系列1
考察
数学が得意な中学生向けの講座を考えていたが,他の講座から溢れて回ってきた者が多く,グ
ラフがよくわかっていない者もかなりいた。なにかよくわからないがすごいことをしているなと
いうぐらいのとらえだったと思う。
計算=数学ではないが,「綿密に計算された」とか「計算づく」のように数学はすべてきちん
とした学問のようにとらえられがちであるが,カオスのように混沌とした曖昧なものも最近の研
究対象となっている。このレポートがその紹介の一助になれば良いと思う。
EXCEL は漸化式の数値計算が得意である。本格的なプログラムを組まなくても,手軽に繰り返
し計算をさせることができる。数列の各項の値を見ることで一般項を類推することができる。ま
た数列以外にも数学の解法の補助として EXCEL は便利である。今後レポートをまとめたい。
参考資料:オープンキャンパス
数学講座「コンピュータでやる数楽」テキスト
1.グラフを書こう
① EXCELファイル「グラフを書こう」を
立ち上げる。
② 関数のSHEETを開ける。
③ B4のセルにカーソル(四角)を
持って行き,F2(訂正)を押す。
④ 「=A4」を「=A4*A4」に変える。
ENTERを押す。
A4は x の値であり,
これは, y  x を計算することになる。
2
⑤ グラフを確認する。
⑥ 同様に「=A4*A4」を
「=A4*(1-A4)に変え,
ENTERを押す。
⑦ グラフを確認する。
★
関数で出た値を x に再び入れる。
問1
y  x(1  x) ・・・① に
最初に x  0.5 (この値を x1 とする)を
代入する。(この最初の値を初期値という)
このとき y 
問2
(この値を x2 とする)
x2 を関数①の x に入れて再び計算する。
このとき y 
(この値を x3 とする)
・ ・・繰りかえす。
x 4 , x5 , x6 ・・・・・・(こういうのを数列という)と次々と値が求まる。
同様のことを, y  2 x(1  x) ではどうか。 y  3x(1  x) ではどうか。
EXCELファイル「カオス」で調べてみよう。
つまり, y  ax(1  x) の a の所へ,いろいろな数字を入れて数列を調べていこう。また,初期
値 x1 をいろいろ変えるとどうなるだろう。( x1 は0より大きく1より小さい値を入れること)
2.カオス
数学的意味でのカオス
カオスの定義(カオスとはこういうものだ)は、研究者ごとに違い、統一的な見解は得られ
ていないが、およそ以下の性質を持つものとされている。
1. 周期性を持たない
2 自己相似
3 単純な数式から、ランダムに見える複雑な振る舞いが発生する
4 初期値(最初の値)のごくわずかなずれが、将来の結果に甚大な差を生み出す(バタフラ
イ効果)
5 過去の観測データから将来の長期予測が困難となる
自然界において観察できるシステム(大気、プレートテクトニクス)や、社会的なシステム(経
済、人口増加)などは、カオス的振る舞いを示すものが多い。カオスの例(ローレンツカオス)
ロジスティック写像
二次方程式を用いた写像
X n1  aX n (1  X n ) : 0 ≦ a ≦4,0≦ X 0 ≦1
をロジスティック写像と呼ぶ。もともとロジスティック方程式という連続時間の微分方程式と
して、19 世紀から知られていたが、写像として時間を離散的にすることで、極めて複雑な振舞い
をすることが 1976 年ロバート・メイによって明らかにされた。
横軸はaを、縦軸はXn収束する値を表している。a=3で2値の振動へと
分岐し、更に分岐を繰り返していくことが分かる。
・ 実際の個体数の変動
a=3 の場合。2 つの値の振動に収束する。
a=3.9 の場合。規則性のない変動となる。
(これがカオスである)
参考・出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』