大腸がんについて 小樽掖済会病院 外科医長 田山 誠 はじめに 日本人の

大腸がんについて
小樽掖済会病院
外科医長
田山
誠
はじめに
日本人の死因の第一位は悪性新生物です。悪性新生物による死亡数は年々増加
し て お り 、 2012 年 の 調 査 で は 全 体 の 28.5% と お よ そ 3 人 に 1 人 が が ん で 亡 く な
っています。悪性新生物の発生部位としては、男性では肺がんが最も多く、次い
で胃がん、大腸がんの順であり、女性では大腸がんが第一位を占めています(図
1)。ま た 、男 女 共 に 大 腸 が ん は 増 加 傾 向 に あ り 、大 腸 が ん の 罹 患 数 ( 新 た に 大 腸
が ん に な っ た 患 者 数 ) は 毎 年 10 万 人 を 超 え て い ま す 。
大腸がん増加の原因としては、平均寿命の高齢化や食習慣の欧米化によると考
えられています。
図1
大腸がんの発生
大 腸 が ん は 肛 門 に 近 い 大 腸 に 発 生 し や す く S 状 結 腸 、直 腸 の 順 に 多 く 約 7 割 を
占 め て い ま す( 図 2)。大 腸 が ん は 大 腸 表 面 の 粘 膜 か ら 発 生 し ま す 。粘 膜 か ら 直 接
がんが発生する場合もありますが、多くは腺腫(ポリープ)の一部にがんが発生
し増大していきます。がんは増殖を続け、粘膜下層、さらに筋層へと広がってい
き ま す( 図 3)。粘 膜 下 層 ま で に と ど ま る も の が 早 期 が ん 、筋 層 よ り 深 く ま で 広 が
ったものが進行がんです。更に進行が進むと周囲のリンパ節への転移や肝臓や肺
などの他臓器への転移、がん細胞がお腹の中に散らばる腹膜播種などを起こしま
す。
図2
図3
大腸がんの症状
早期の大腸がんでは症状はほとんどありません。便潜血検査などの検診で結果
が 陽 性 と な り 、そ の 後 の 精 密 検 査 に よ っ て 偶 然 に 発 見 さ れ る こ と が 多 い も の で す 。
一方、進行がんになるとがん表面からの出血による下血や黒色便、がんによって
大腸内が狭くなってしまい便が細くなったりお腹が張ってきたりといった症状を
起こすこともあります。また、がんが増大し腹部にしこりを触れたり、栄養障害
による体重減少も起こします。
大腸がんの治療
大腸がんの治療は切除が基本となります。早期がんでは内視鏡的切除も可能な
場合があります。内視鏡での切除が困難な場合や進行がんの場合は手術となりま
す。抗がん剤治療は手術の補助として用いられますが、抗がん剤のみで完治する
ことは困難です。
大腸がんの手術
手術ではがんを含めて腸管とその周囲にあるリンパ節を同時に切り取ります。
お な か を 15cm 前 後 切 開 し て 腹 腔 内 を 開 放 し 、 腸 管 に 直 接 触 れ な が ら 操 作 を 行 い
ま す 。こ れ を 開 腹 手 術 と い い ま す が 、が ん の ひ ろ が り を 直 に 確 か め る こ と が で き 、
血管の処理や剥離を確実に行うことができます。
最近では炭酸ガスでおなかを膨らませ、小さな創からカメラを入れてモニター
で腹腔内を観察しながら、特別な器具を操作して血管の処理や剥離を行う手術法
が 増 え て き て い ま す 。 こ れ を 腹 腔 鏡 手 術 と い い ま す が 、 こ の 方 法 が 1990 年 代 か
ら大腸がん手術に取り入れられ、広く行われるようになってきました。
開腹手術と腹腔鏡手術とで一番違う点は、おなかの創の長さです。
腹 腔 鏡 手 術 で は 、1cm 程 度 の 切 開 を 数 箇 所 に お く だ け で 腹 腔 内 の 処 置 を 行 う こ
と が で き ま す 。腸 管 を 体 外 に 出 す た め に 最 終 的 に は 4~5cm の 小 切 開 は 必 要 で す が 、
開 腹 手 術 に 比 べ て 創 が 目 立 た な く 、術 後 の 痛 み も 軽 く 、腸 管 運 動 の 回 復 も 早 く て 、
長 期 的 に み て も 創 が 短 い 分 、 癒 着 を 起 こ し に く い と 考 え ら れ て い ま す ( 図 4)。
図4
腹腔鏡手術の問題点としては、腹腔鏡手術が開腹手術に比べて難易度が高いと
い う こ と で す 。 時 間 も 開 腹 手 術 と く ら べ て 、 1~ 2 時 間 ほ ど 長 く か か り ま す 。
全ての大腸がん患者に腹腔鏡手術が可能なわけではありません。拡張した腸管
のため手術するスペースを確保できない腸閉塞の場合や腹膜炎などで緊急的な手
術が必要となる場合、腹腔鏡手術による手術時間の延長に耐えられないと予想さ
れる心肺機能が悪い患者などは基本的に開腹手術になります。
また、大腸がんの場所や周りの臓器への浸潤で腹腔鏡手術が困難と予想される
場合、以前に何度も手術をして癒着が強い場合などでは途中で腹腔鏡手術から開
腹手術へ移行することがあります。
大腸がんの予後
大 腸 が ん は 肉 眼 的 に が ん を 全 て 取 り 除 い た と 考 え る 根 治 度 A 手 術 を 90%近 く の
患者に対して行うことができます。根治度 A 手術を受けた患者の 5 年生存率は
80% 以 上 と 他 の が ん に 比 べ 良 好 な 結 果 が 得 ら れ て い ま す 。大 腸 が ん は 早 期 に 発 見
すれば、内視鏡的切除や外科手術により完全に治すことができます。従って、定
期的な大腸がん検診が有効です。
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