児童期における教師とのアタッチメントが社会性発達に及ぼす効果 学校教育専攻 学校臨床研究コース 齊藤 亜紀 1. 問題と目的 に作成された日本語版 STRS15 項目と,本多(2002) Bowlby が提唱したアタッチメント理論は,生涯発達 が開発した児童用母親に対する愛着尺度を参考に作成 理論として,現在,その連続性について実証的に問われ された教師に対する愛着尺度 15 項目を材料とした。日 ている(遠藤,2010) 。児童期においては,主要なアタッ 本語版 STRS は,各児童の行動や関係性について担任 チ メ ン ト 対 象 は 養 育 者 で あ る と い う 知 見 ( e.g. 教師に尋ね,教師に対する愛着尺度は,担任教師へのア Kerns,2008 ) が あ る 一 方 , Howes, Hamilton & タッチメント意識について児童に回答を求めた。 Philipsen(1998)は,教師とのアタッチメントが養育 (3) 結果と考察 者とは独立して存在する可能性を示している。また, 因子分析の結果,STRS,教師に対する愛着尺度とも Mitchell-Copeland, Denham & DeMulder(1997)は, に,先行研究と同様の 2 因子が抽出された。STRS は, 教師とのアタッチメントが親子の不安定な関係を部分 教師が子どもとの関係をネガティブ,葛藤的だと認知す 的に補うことを示唆している。児童期のアタッチメント る“葛藤性”因子 7 項目,情愛や温かさを経験する“親 を考える上で,アタッチメント対象者として,養育者だ 密性”因子 8 項目から構成された。教師に対する愛着尺 けではなく,教師にも着目すべきではないだろうか。 度は,教師からの回避を表す“回避性”因子 8 項目,教 本研究では,これまでのアタッチメント研究でほとん ど行われていない児童と教師間のアタッチメントを,児 師へのとらわれ,不安を表す“両価性”因子 7 項目から 構成された。 童・教師それぞれの視点から検討する。また,教師との その後,STRS と教師に対する愛着尺度のそれぞれの アタッチメントが,児童の社会性発達に対して効果をも 下位尺度得点について,3 要因(子どもの性別×学年× たらすことができるかについても検討する。 担任が持ち上がりかどうか)の分散分析を行った。その 2. 研究 1 結果,教師に対する愛着尺度の“両価性”において,学 (1) 目的 年の主効果,学年と担任の交互作用,学年と性別の交互 教師・児童の両視点からアタッチメントを測定し,そ れぞれのアタッチメント認知が一致するかどうかを検 討する。 (2) 方法 作用が,STRS の“親密性”について学年の主効果が認 められた。 続いて,教師に対する愛着尺度の下位尺度得点を中央 値で 2 群に分け,群間で STRS の下位尺度得点の差を 調査対象者は,N 県内の 2 つの小学校教師 7 名と両 比較する 2 要因の分散分析も行った。その結果, “親密 校の 2・3 年生児童 197 名であった。質問紙による調査 性”得点において“回避性”による主効果が認められた。 を 行 い , Pianta ( 1992, 2001 ) が 開 発 し た また, “親密性”と“葛藤性”から算出された“安定性” Student-Teacher Relationship Scale(STRS)を参考 (全体的にポジティブ,効果的だと認知する程度)得点 においても“回避性”の主効果が認められた。どちらも, 重回帰分析を行った。その結果,STRS の“葛藤性”及 回避性低群の方が高群よりも有意に高かった。 び教師に対する愛着尺度の“回避性”から“社会コンピ これらの結果から,児童の教師に対する“回避性”が, テンス”に負のパスが示された。また,教師に対する愛 教師が認知する“親密性”や“安定性”と一致すること 着尺度の“両価性”から“自己価値”に正のパスが示さ が明らかとなり,教師は児童のアタッチメント意識の一 れた。さらに, “回避性”及び“両価性”から“不安の 部を認知できることが示された。しかし,その全てを把 感じにくさ”に負のパスが示された。 握できるわけではないことから,児童期におけるアタッ 最後に,教師に対する愛着尺度の“両価性”及び“回 チメント測定は,実際のアタッチメント行動にも配慮し 避性”が,社会性の“自己価値”や“不安の感じにくさ” ながら,児童自身のアタッチメント意識を注視していく を介して, “社会コンピテンス”に影響を与える構造方 必要がある。 程式モデリングを構成した。その結果,モデルのパスは 3. 研究 2 全て有意となった。 (1) 目的 これらの結果から,教師とのかかわり方が友だちとの 教師とのアタッチメントが,児童自身が認知している 付き合い方にも般化されており,教師とのアタッチメン 社会的コンピテンスや自己価値という社会性発達につ トが“社会的コンピテンス”に効果をもたらしていると いて効果的な影響を与えているかどうかを検討する。 考えられる。また,アタッチメントの効用としての安心 (2) 方法 感が, “不安の感じにくさ”に対して効果的に働いてい 調査対象者は,研究 1 と同様であった。材料は,研究 ることも推測できる。さらに,教師とのアタッチメント 1 で用いた STRS と教師に対する愛着尺度に加え,桜井 が“自己価値”や“不安の感じにくさ”を高め,ひいて (1983, 1992)が開発した児童用コンピテンス尺度を参 は“社会コンピテンス”の向上につながるという可能性 考に作成された社会性尺度 15 項目を用いた。社会性尺 も示唆された。 度は,友人に対する自分の相互交渉能力などについて児 4. 全体考察 童に尋ねた。 (3) 結果と考察 児童のアタッチメント意識を検討すると,教師とのア タッチメントが成立していると思われる児童は存在し, 社会性尺度の 14 項目に対して,因子分析を行い,3 教師はそのアタッチメント意識の一部を認知できるこ 因子を抽出した。3 因子の構成は,自分自身に価値を感 とが明らかとなった。また,教師とのアタッチメントが じている“自己価値”因子 5 項目,友人と効果的な相互 児童の社会性発達の一部に寄与していることも示され 交渉ができていると認知している“社会コンピテンス” た。特に,クラスメイトといった限られた友人関係にお 因子 5 項目,不安を感じにくい特性をもっている“不安 ける“社会コンピテンス”は,学級担任とのアタッチメ の感じにくさ”因子 4 項目であった。 ントの効果が最大限に発揮されることが期待できる。 その後,社会性尺度の下位尺度得点について,3 要因 (子どもの性別×学年×担任が持ち上がりかどうか)の 分散分析を行った。その結果, “社会コンピテンス”に おいて性別の主効果が, “自己価値”において学年の主 効果が認められた。 続いて,STRS と教師に対する愛着尺度の下位尺度を 独立変数とし,社会性尺度の下位尺度を従属変数とした 指 導 森口 佑介
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