先導的デジタルコンテンツの創成 - 九州大学|芸術工学研究院・芸術工学

先導的デジタルコンテンツの創成
九州大学感性融合デザインセンター コンテンツ創成科学部門
九州大学大学院芸術工学研究院教授・コンテンツクリエーティブデザイン部門
源田悦夫
■背景:我が国のコンテンツ創成に関する戦略
自然科学と人文科学の融合分野とともに国際性や知的
我が国はコンテンツを今後主要な産業としていくた
財産の知識を持つ人材育成が必要であることがしめさ
めに 2002 年 7 月に知的財産戦略大綱を示し,知的財産
れており我々の目指しているコンテンツ教育の理念も
戦略会議においてその方針を示した.戦略分野のコン
これに沿ったものである.
テンツ創出の推進 として放送コンテンツや教育用コ
ンテンツなどの制作・流通を促進ネットワーク時代に
■コンテンツクリエーター教育の実践
対応したコンテンツの創出を支援するとともに,コン
私は,感性融合デザインセンターの前身である感性
テンツ制作基盤ツールの開発,コンテンツ制作に対す
融合創造センターの時代から行コンピュータテクノロ
る支援,産学協力等を通じたコンテンツクリエイタの
ジーを背景とした感性お研究,や芸術表現を実施して
育成等の施策を総合的に推進することをあげた.また
おりコンテンツ国家戦略の先駆的な考え方と実践を行
メディア芸術の振興にも力を入れ総合芸術として,映
ってきた.さらに,国家戦略に基づいた,人材育成事業
画をはじめアニメーションやコンピュータ・グラフィ
として,平成17 年度から平成21 年度において科学振興
ックス等のメディア芸術の一層の振興を図ることを述
調整費新興分野人材育成事業「先導的デジタルコンテ
べている.2004 年には,コンテンツの創造,保護及び活
ンツ創成支援ユニット」の代表者として高次のコンテ
用の促進に関する法律を定めた.コンテンツ推進法で
ンツクリエータ育成のための教育実践カリキュラムを
は,コンテンツの定義として,映画,音楽,演劇,文芸,写
作成し,数学や物理学,コンピュータプログラミング等
真,漫画,アニメーション,コンピュータゲームその他
の論理的思考を基盤としながら豊かな芸術的感性を生
の文字,図形,色彩,音声,動作若しくは映像若しくはこ
かした人材育成事事業に従事した.ここには,人材育成
れらを組み合わせたもの又はこれらに係る情報を電子
とともに,コンテンツ創成や,エンターテイメントを科
計算機を介して提供するためのプログラム人間の創造
学的な視点でとらえ,メディア技術や通信技術の理解
的活動により生み出されるもののうち,教養又は娯楽
とともに.コンテンツの作成,さらに人間の側における
の範囲に属するものをコンテンツとすることが示され
感性評価や社会的効果までを含んだ
た.さらに,高等教育を行う機関コンテンツ制作等に関
領域を含んだとして,これらをとらえる視点が必要で
する教育の振興先端的な技術に関する研究の推進や人
あると考えている.
材育成が必要であるとされているとしている.また先
導的な技術を理解する高次のクリエータとして具体的
には,2008 年の知的財産推進計画にはコンテンツ等の
現在,人材育成の実践とともにこれらの教育の基盤
となる標準テキストの作成に取り組んでいる.
■各種コンテンツに適応する仮想身体の研究
仮想環境で使用するための人体モデルを実測値をも
とに,芸術的,美術解剖学視点からとらえ各種分野で適
応できるコミュニケーションのためのデジタルヒュー
マンアトラスの作成を行っている.たとえば,医学教育
用コンテンツ,アニメーションのための基礎データ,人
間の行動の測定と再現,の作成,デジタルアーカイブス
への人間計測の応用などへの利用を行っている.また
連続した時系列データとして身体各部位の 3 次元位置
情報や筋電,圧力分布などの人体にかかわる,生理およ
図1デジタルサムルノリ
び物理データの取得も行い目的に従った利用を行って
アジアの感性世界の研究として歌舞伎や,カンボジアのアプサラ
いる.
ダンス,韓国のサムルノリなどの伝統民俗芸能などを,デジタル
アーカイブし文化の継承とともに新たな創造活動に生かす.
<源田悦夫略歴>
<©Genda Lab SAMURUNORI 2005>
東京生まれ,70 年代からコンピュータやメディアテク
ノロジの成果を生かした芸術,デザイン活動に興味を
持ち現在に至る.現在クリエータとしてコンテンツデ
ザインの企画・制作をおこなうとともにメディアアー
ト・デザイン分野における教育方法について研究をお
こなう.武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業.東京芸
術大学大学院修了.東海大学助教授を経て平成4年よ
り九州芸術工科大学助教授.同教授.統合により平成 15
年統九州大学大学院芸術工学研究院教授.
・平成 19 年度文化庁文化交流使
図2ライブエンターテイメントの実践
・NPO 法人映像産業機構(VIPO)理事
サウンドデータをもとに映像の演奏によりライブパフォーマン
・財団法人画像情報教育振興協会(CG-ART 協会)理事
ス
・日本デジタルゲーム学会理事等
<IMAGERAMA 2010>
・アジアデジタルアート大賞実行委員会事務局長
・情報技術による知的支援システムの構築(2002-2006,
代表者:源田悦夫,文部科学省特定領域研究「文部科学
省特定領域研究江戸のものづくり」)
・科学振興調整費振興分野人材育成事業先導的デジタ
ルコンテンツ創成支援ユニット代表者(平成 17-21年
度)
図 3 モーションキャプチャと連動したパフォーマとの共演.身体
図 5 仮想身体モデルの作成には,美術解剖学や美的感性に基づい
およびジャグに付けられたマーカーを20台の赤外線カメラで
たデータが使用される
位置を計測し,リアルタイムで画像イメージに反映させ,人と映
<©2002 GENDA Lab + General Asahi>
像との共演を行うデジタル大道芸.
<©デジジャグ Genda Lab+Y.Mochizuki 2010>
図6 カンボジアの伝統芸能アプサラダンスと使用する装身具のデ
図4 仮想身体の作成
人体の3D スキャナーによる形状測定データをもとに,芸術的な視
点から身体の特徴をつかみ,データの強調省略を行い各種分野に
適応できる良好な仮想身体データを作成する
ジタルアーカイブス.カンボジアの内乱で伝統芸の伝承者が僅か
となり,歴史的にもさまざまな手法によるデジタル記録が必要で
ある.
<©APSARA –天女乃舞 Genda Lab 2007>