研究者にとっての NSF メリットレビュー:NSF メリットレビュー調査報告1 遠藤 悟 国立科学財団(NSF)は、毎年メリットレビュープロセス報告書(Report to the National Science Board on the National Science Foundation’s Merit Review Process)を発表しているが、2016 年 8 月に刊行 された 2015 年度版においては、従来の内容に加え、2015 年に実施されたメリットレビュー調査(Merit Review Survey)の結果を報告している。以下においては、この調査結果について紹介するものである。 なお、本稿においては、NSF が実施する「事前申請」 、 「ワン‐プラス(One Plus) 」と名付けた試行的な プログラムに関する調査結果を中心に一部の内容については除外した。 1.調査の概略 ・調査対象者:2012 年以降に NSF のプログラムに関する申請を行った者と審査(レビュー)を行った 者 ・調査への回答者数:34,835 人(内訳は、申請を行いレビューは行わなかった者:26%、申請は行った が審査は行わなかった者:27%、申請とレビューの双方を行った者:47%) ・自身の研究が NSF のいずれかの局等に関連があると回答した者:96.5% ・ 「ソフトマネーによる研究者か否か」の問いに回答した者の割合:88%(うち 11%がソフトマネーによ る研究者であったと回答) 注: 「ソフトマネーによる研究者」とは研究者としての年間の給与の 75%以上が雇用主ではなく、グラ ントの資金による者と定義されている。 ) ・高等教育機関に所属しているかという質問に回答した者の割合:90%(うち、高等教育機関に所属して いると回答した者の割合:87%) ・高等教育機関に所属していると回答した者のうち、テニュアを付与されているかについて回答した者 の割合:98%(テニュアを付与されている者の割合:64%) ・高等教育機関に所属していると回答した者のうち、学術面の地位について回答した者の割合:98%(教 授と回答した者:41%、准教授と回答した者:25%、助教授と回答した者:20%、ポストドクター研究 者と回答した者:4%、他の職と回答した者:10%) ・性別について回答した者の割合:85%(うち女性と回答した者:31%) ・人種について回答した者の割合:81%、民族について回答した者の割合:78%(米国インディアン・ア ラスカ先住民と回答した者:1%、黒人・アフリカ系米国人と回答した者:3%、ヒスパニックと回答し た者:6%、アジア系と回答した者:15%、白人と回答した者:81%、ハワイ先住民・太平洋諸島(1% 未満)※注:人種と民族が区分された記述とはなっていないため、合計が 100%を超えている) 2.レビュアーの観点 ◯ 負担 ・2012 年以降に行った NSF のレビューの件数: 1「米国の科学政策」ホームページ 2016 年 11 月 13 日掲載 1 ‐国際科学工学、人材、工学の研究者:40~42%が 10 件以上、20~21%が 20 件以上と回答 ‐社会行動経済科学の研究者:15%が 10 件以上、9%が 20 件以上と回答 ‐地球科学の研究者:20%が 10 件以上、8%が 20 件以上と回答 ‐数学物理科学の研究者:27%が 10 件以上、10%が 20 件以上と回答 ・1 年間に参加する意思があるパネルの回数:6.9 回 ・過去 12 か月において追加的なレビューやパネルを求められたが対応しなかった者の割合:24,000 人 余りの回答者のうち 16%がアドホックレビューに対応せず、18%が対面のパネルに対応せず、10%が ヴァーチャルパネルに対応しなかった。 ・最近行ったレビューにおける申請書を読み、文書にして送付するために要した時間:平均 3.9 時間 ・レビューの一部または全部を通常の勤務時間外に行ったと回答した者の割合:24,100 弱の回答者の 89% ◯ 創造性および学際性 ・2012 年初頭の以前および以後に申請書のレビューを行ったレビュアーの、申請書における創造性とリ スクに関する変化に対する考え:80%が変化なしまたは上昇と回答し、20%が減少と回答 ・2012 年初頭以降に学際研究の申請と単一分野研究の申請の双方のレビューを行った 10,000 人強のレ ビュアーによる知識の発展の潜在性に対する考え:学際研究の方が潜在性があると考える者:54%、単 一分野の方が潜在性があると考える者:39%、双方とも潜在性に変わりがないと考える者:8% ◯ 評価基準 ・ 「知的メリット」評価基準に関し評価を行う際の要因の重みづけ(非常に低い:0 ~ 非常に高い:5) ‐研究における疑問の独創性:3.4 ‐当該プロジェクトの、重要な既存の科学的、工学的概念の理解の潜在的な変換:3.4 ‐提案された手法の適切性:3.3 ‐当該研究の、現在の理解に対するチャレンジの度合い:3.1 ‐研究計画を実施する研究代表者や共同研究者の資質:3.0 ‐提案されたプロジェクトの成功裏に完了する見込み:2.9 ‐研究が科学工学において新たな分野を開く程度:2.8 ‐プロジェクトの進展を評価(assess)するメカニズムの存在:2.1 ‐データマネジメント計画の質:1.6 ‐予算規模:1.5 ・ 「より幅広いインパクト」評価基準に関し評価を行う際の要因の重みづけ(非常に低い:0 ~ 非常に高 い:5) ‐潜在的な「より幅広いインパクト」の大きさ:3.0 ‐当該申請の「より幅広いインパクト」の説明の明白さ、詳細さ:2.9 ‐当該プロジェクトの研究へのより幅広い参加への潜在的な貢献:2.7 ‐研究代表者および共同研究者の過去の記録(記載のある場合):2.6 ‐プロジェクトにおける研究と教育の統合:2.5 2 ‐「より幅広いインパクト」の性格の独創性:2.5 ‐提案された研究の成果の広報周知計画:2.5 ‐当該プロジェクトの、未来の研究を支援する地域、地方、全国の基盤を向上させる潜在的な貢献:2.3 ‐データマネジメント計画の質:1.5 ‐予算規模:1.4 3.研究代表者の観点 ◯ 研究申請書提出を動機づける要因 ・研究者が申請を行った 7 つの動機についての 3 段階(0:全く該当しない~3:大きく該当)による約 23,500 人からの回答の平均スコア ‐研究に学生・生徒(大学院、学部、高等学校)を参加させることを可能とする:2.5 ‐現在自身とともに研究を行っている学生(大学院、学部)の給付金を継続支給できる:2.2 ‐自身の雇用主機関の研究の地位や評価の向上への貢献:1.8 ‐アカデミックテニュアや昇進のために申請書提出の記録の保持:1.7 ‐自身とともに研究を行っている専門性を持つ職員(ポストドクター研究員、テクニシャン、ラボマネ ージャー)の給与を継続支給できる:1.6 ‐研究室の機器、計装の取得、開発、維持、運用に支出する:1.6 ‐自身の給与を確保するための資金とする:1.1% ・近年、NSF への申請書の提出に影響を及ぼした 11 の要因についての約 23,200 人の回答の平均スコア ‐NSF が自身の研究分野の主要な資金配分源であるから:2.2 ‐共同研究に対する資金配分機会:1.9 ‐分野を越えた、分野横断的な、あるいは複数分野の資金配分機会:1.7 ‐新たな資金配分機会への興味や関連性:1.6 ‐テニュアや昇進のために「グラントを獲得」する必要性があったから:1.4 ‐研究施設、センター、プログラムを構築、維持する必要があったから:1.3 ‐テニュアや昇進のために「申請書を提出」する必要があったから:1.2 ‐他の機関よりも NSF の方が資金配分を受ける機会が大きかったから:1.0 ‐利用可能な他の資金源の減少:1.0 ‐NSF スタッフの勧め:0.8 ‐自身の研究分野の NSF 予算の増額:0.4 ・近年申請を行った際に見込んだ当該プログラムの採択率:52%が 10%以下であると回答(実際の採択 率は 22%であるため、申請者の多くは悲観的であるとの説明あり) ・採択率により、申請する意欲が削がれるとする研究者の割合:採択率が 30%を超え 40%以下の場合と する者は 1%(の研究者が申請する意欲が削がれる) 、採択率が 20%を超え 30%以下の場合とする者は 3%、採択率が 10%を超え 20%以下の場合とする者は 9%、採択率が 5%を超え 10%以下の場合とする 者は 20%、採択率 5%以下の場合とする者は 20%(常に意欲が削がれると回答した者は 47%) ・研究グラント申請採択の厳しさに関する NSF と他の連邦政府機関との比較:18,000 人の回答者にお いて、約 52%が NSF の方が厳しい競争にあるとし、44%が概ね同様の競争の厳しさであると回答し、 3 4%が NSF の方が厳しい競争ではないと回答 ・2012 年初頭の以前と以後におけるレビュー手順の以下の点における変化(+2 から-2 までの 5 点法 (O は変化なし)により表示されたグラフから本稿筆者が目視で推定した値) ‐書面レビューに関する全般的なフィードバックの質:-0.2 前後 ‐NSF スタッフによる全般的なフィードバックの質:0~-0.1 ‐採否決定の適時性:-0.1~-0.2 ‐質問に対する NSF スタッフの対応の適時性:0~+0.1 ‐NSF スタッフとのやり取りの質:+0.1 前後 ・NSF の平均的な年間資金配分予算、資金配分期間、採択率が相互依存的な関係にあるとした場合の、 以下の 5 つの場合の優先順位付け(最も好ましいとした各選択肢の割合) 1. 年間平均配分予算の増、平均資金配分期間の短縮、採択率の維持:値の記載なし(8%と 34%の間) 2. 年間平均配分予算の減、平均資金配分期間の延長、採択率の維持:値の記載なし(8%と 34%の間) 3. 年間平均配分予算の増、平均資金配分期間の延長、採択率の低下:8% 4. 年間平均配分予算の減、平均資金配分期間の短縮、採択率の向上:35% 5. 年間平均配分予算、平均資金配分期間、採択率のいずれについても現状を維持:34% ◯ 創造性と学際性 ・2012 年初頭の以前および以後に申請を行った研究代表者の、申請書における創造性とリスクに関する 変化に対する考え:57%が変化なしと回答、34%が上昇と回答、8%が減少と回答 ・約 23,400 人の回答者のうち、2012 年初頭以降に学際研究の申請を行った者の割合:55%(27%は学際 研究と単一分野研究の双方に申請) ・上記の学際研究に申請を行った研究代表者に対する、1 件または複数の自由な(unsolicited)公募に対 応して申請を行った者と、1 件または複数の目標が絞られた公募(targeted solicitations)に申請を行 った者の割合:自由な(unsolicited)公募に対応して申請を行った者 58%、目標が絞られた公募 (targeted solicitations)に申請を行った者 57% ◯ 申請手順の満足度 ・研究代表者の申請書提出手順に関し回答のあった 23,100 人の以下の点に関する満足度 ‐NSF が提供する情報の質に対する満足度:ある程度満足または非常に満足した者の割合 57%、ある 程度不満足または非常に不満足とした者の割合 15% ‐NSF スタッフとのやり取りに関する満足度:ある程度満足または非常に満足した者の割合 58%、あ る程度不満足または非常に不満足とした者の割合 15% ‐資金配分または不採択の決定の適時性:ある程度満足または非常に満足した者の割合 34%、ある程 度不満足または非常に不満足とした者の割合 38% ・NSF のプログラムと他の連邦政府機関のプログラムに申請書を提出するために要した労力に関する質 問に対し回答のあった 19,100 人の研究代表者の回答内容:NSF への申請の労力の方が大きい 37%、 NSF への申請の労力の方が小さい 11%、同程度の労力である 53% 4 ◯ 負担 ・研究代表者が最近の申請において申請準備(申請文書作成、フォーマット化、申請書提出)に要した総 時間数:84.5 時間(最少は社会・行動・経済科学分野の 80 時間、最大は生物学分野の 91 時間) ◯ レビュー手順の質 ・レビュー手順の質に関する研究代表者の以下の項目に関する同意、不同意(かっこ内の数字は回答数) ‐申請を行った研究者に対し公正な対応がなされている:同意 76%、不同意 24%(20,231) ‐書面レビューは完成度が高かった:同意 55%、不同意 45%(22,394) ‐書面レビューは技術的な面において健全性が保たれている:同意 63%、不同意 37%(22,274) ‐パネルの要約は高い質であった:同意 69%、不同意 31%(20,422) ‐FastLane を通した見たプログラムオフィサーのコメントは、自身の申請の不採択または資金配分の 決定の理解の助けとなった:同意 61%、不同意 39%(21,912) ‐プログラムオフィサーとの間の対話(e メール、電話、対面)は、自身の申請に関し助けとなるフィ ードバックを提供した:同意 70%、不同意 30%(22,257) ‐メリットレビュー手順は、自身の今後の申請の改善に利用することができるフィードバックを提供 した:同意 59%、不同意 41%(20,800) ◯ 申請書提出期限の影響 ・NSF の多くのプログラムは申請書の提出期限を設定しているが、いくつかのプログラムにおいては、 随時申請が受け付けられレビューが行われている。申請書提出期限のないプログラムに申請を行ったと 回答した約 2,800 人を対象に行われた採否決定に関する適時性についての質問に対する満足度の割合: 満足した者の割合 44%、満足も不満足のいずれでもない者の割合 30%、不満足とした者の割合 26%(申 請したプログラムの提出期限の有無に関わらず全研究代表者から得られた満足度の割合は以下のとお り:満足した者の割合 34%、満足も不満足のいずれでもない者の割合 28%、不満足とした者の割合 38%) 5
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