PETがん検診による癌発見率と リスク因子との相関 柴田幸司*1 新井正美*3 松浦正明*4 吉田輝彦*5 宇野公一*1 百瀬敏光*2 大友邦*2 *1 *2 *3 *4 *5 西台クリニック画像診断センター 東京大学医学系大学院 放射線医学教室 癌研究会有明病院 遺伝子診療センター (財)癌研究会 ゲノムセンター情報解析 国立がんセンター研究所 腫瘍ゲノム解析・情報研究部 研究の背景 PETがん検診の費用対効果は、 癌の高リスクグループに対してより重点的に実施す ることにより、 向上が期待される。 PETがん検診ガイドライン(2007年)には、 「がんの家族歴、喫煙等のリスク因子を有するものを 重点的に受診を勧める。」と記載されている 。 しかし、この記述に関する十分なエビデンスは 存在しない。 どのようなリスク因子を有する症例に重点的にPET 検診受診を推奨していくべきか、科学的データに基 づき明らかにすることが望まれる。 研究の目的 西台クリニックでのPETがん検診データを用い、 家族歴、喫煙歴、飲酒状況の3つのリスク因子と PET検診での癌発見率との相関について検討を行い PETがん検診が特に有用な症例群を 抽出可能であるかどうかを検討する。 研究の対象・方法 2000年10月∼2006年1月の間の西台クリニックで のPETがん検診受診者数は約19189例であるが、 そのうち、224例のPET陽性癌が発見されている。 (うち159例が、甲状腺癌・肺癌・乳癌・大腸癌 であった。) 西台クリニックでの上記のデーターを用い、 多変量ロジスティック解析により、 年齢、性別および家族歴の有無と、PET検査での これら4癌種の発見率との相関を検証した。 癌腫別 癌発見症例数(2000/10-2006/1までのデータ) 子宮体癌 10 PET+ 肝内胆管癌 10 PET- 精巣癌01 上顎癌 10 重複癌 11 食道癌 20 子宮頸癌 21 30 卵巣癌 21 膵癌 2 2 肝細胞癌0 7 7 胃癌 3 11 膀胱癌 1 腎癌 6 前立腺癌 9 悪性リンパ腫 乳癌 乳癌 大腸癌 大腸癌 肺癌 肺癌 甲状腺癌 甲状腺癌 0 10 25 31 9 39 36 5 14 83 20 21 22 84 40 60 80 100 120 解析方法 年齢階層 (5階級にコード化、30未満:1、40代:2、50代:3、60台:4、70以上:5 ) 家族歴有無 (第1度近親者まで) (有:1 無:0) 飲酒歴: 飲酒歴なし;0 飲酒歴あり;1 喫煙歴 喫煙歴なし;0 ( 吸わないorほとんど吸わない) 喫煙歴あり;1 (それ以外) について、それぞれコード化し、 ロジスティック解析を用いて、それぞれの係数を推定し、 95%信頼区間(CI)および、p-レベルを求めた。 (性別によって、対象となる癌種が異なるため、別々の解析とした) 結果:男性受診者 ( n=9863 ) ※年齢階層と、PETでの発見率との間に有意な相関 女性受診者 ( n=9824 ) ※喫煙、飲酒、家族歴において、逆の相関が見られる Subgroup解析:男性肺癌発見例 ※喫煙と、肺癌家族歴が、PETでの肺癌発見率との間に有意な相関 Subgroup解析:前立腺癌発見例 ※前立腺癌家族歴が、 PETでの前立腺癌発見率 との間に有意な相関 考察 男性受診者では、リスク因子と癌発見率との間に 有意な相関を認めず、 女性受診者では、 家族歴のリスク因子の無い受診者群で、 むしろPET陽性癌の発見率が高くなる傾向が見られ ている。 →この結果は、PETがん検診受診者群のバイアスによ り生じていると推察される。 (高リスク受診者は他の健診をすでに受診している?) 選択バイアス(他施設での検診受診) の検討 西台クリニックでのPETがん検診受診者のうち、 ①癌家族歴、飲酒歴、喫煙歴いずれも有しない 受診者群 ②癌家族歴、飲酒歴、喫煙歴いずれも有する 受診者群 の2群から、年齢、性別をMatchさせた各200例の 症例を無作為に抽出。 問診票を元に他施設で検診を受診しているか 調査し、Case-Control studyを行った。 Results of Case-Control Study Examinees with no Risk factors Examinees with All 3 Risk factors Prior screening (+) Prior screening (−) Prior screening (+) 14 67 Prior screening (−) 28 91 2.39 1.54 3.72 Odds Ratio= 95%CI p−レベルは0.01未満であり、 リスク因子保有者群は、リスク因子を有しない群 に比べて(1%水準で)有意に、すでに他で検診を 受診していることが示されている。 結論 今回の検討では、PET検診での癌発見率と リスク因子との間に有意な相関は 観察されなかった。 高リスク群の受診行動による選択バイアス にその原因があると推定され、 リスク因子を有しない受診者群に対しても PETがん検診での癌発見率は高い水準に あると考えられた。
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