第72回地方会一般演題11

PETがん検診による癌発見率と
リスク因子との相関
柴田幸司*1 新井正美*3 松浦正明*4
吉田輝彦*5 宇野公一*1 百瀬敏光*2 大友邦*2
*1
*2
*3
*4
*5
西台クリニック画像診断センター
東京大学医学系大学院 放射線医学教室
癌研究会有明病院 遺伝子診療センター
(財)癌研究会 ゲノムセンター情報解析
国立がんセンター研究所
腫瘍ゲノム解析・情報研究部
研究の背景
Š PETがん検診の費用対効果は、
癌の高リスクグループに対してより重点的に実施す
ることにより、 向上が期待される。
Š PETがん検診ガイドライン(2007年)には、
「がんの家族歴、喫煙等のリスク因子を有するものを
重点的に受診を勧める。」と記載されている 。
Š しかし、この記述に関する十分なエビデンスは
存在しない。
Š どのようなリスク因子を有する症例に重点的にPET
検診受診を推奨していくべきか、科学的データに基
づき明らかにすることが望まれる。
研究の目的
西台クリニックでのPETがん検診データを用い、
家族歴、喫煙歴、飲酒状況の3つのリスク因子と
PET検診での癌発見率との相関について検討を行い
PETがん検診が特に有用な症例群を
抽出可能であるかどうかを検討する。
研究の対象・方法
Š 2000年10月∼2006年1月の間の西台クリニックで
のPETがん検診受診者数は約19189例であるが、
そのうち、224例のPET陽性癌が発見されている。
(うち159例が、甲状腺癌・肺癌・乳癌・大腸癌
であった。)
Š 西台クリニックでの上記のデーターを用い、
多変量ロジスティック解析により、
年齢、性別および家族歴の有無と、PET検査での
これら4癌種の発見率との相関を検証した。
癌腫別 癌発見症例数(2000/10-2006/1までのデータ)
子宮体癌 10
PET+
肝内胆管癌 10
PET-
精巣癌01
上顎癌 10
重複癌 11
食道癌 20
子宮頸癌 21
30
卵巣癌 21
膵癌 2 2
肝細胞癌0 7
7
胃癌 3
11
膀胱癌 1
腎癌 6
前立腺癌
9
悪性リンパ腫
乳癌
乳癌
大腸癌
大腸癌
肺癌
肺癌
甲状腺癌
甲状腺癌
0
10
25
31
9
39
36
5
14
83
20
21
22
84
40
60
80
100
120
解析方法
年齢階層
(5階級にコード化、30未満:1、40代:2、50代:3、60台:4、70以上:5 )
家族歴有無 (第1度近親者まで) (有:1 無:0)
飲酒歴: 飲酒歴なし;0 飲酒歴あり;1
喫煙歴 喫煙歴なし;0 ( 吸わないorほとんど吸わない)
喫煙歴あり;1 (それ以外)
について、それぞれコード化し、
ロジスティック解析を用いて、それぞれの係数を推定し、
95%信頼区間(CI)および、p-レベルを求めた。
(性別によって、対象となる癌種が異なるため、別々の解析とした)
結果:男性受診者
( n=9863 )
※年齢階層と、PETでの発見率との間に有意な相関
女性受診者
( n=9824 )
※喫煙、飲酒、家族歴において、逆の相関が見られる
Subgroup解析:男性肺癌発見例
※喫煙と、肺癌家族歴が、PETでの肺癌発見率との間に有意な相関
Subgroup解析:前立腺癌発見例
※前立腺癌家族歴が、
PETでの前立腺癌発見率
との間に有意な相関
考察
男性受診者では、リスク因子と癌発見率との間に
有意な相関を認めず、
女性受診者では、
家族歴のリスク因子の無い受診者群で、
むしろPET陽性癌の発見率が高くなる傾向が見られ
ている。
→この結果は、PETがん検診受診者群のバイアスによ
り生じていると推察される。
(高リスク受診者は他の健診をすでに受診している?)
選択バイアス(他施設での検診受診)
の検討
西台クリニックでのPETがん検診受診者のうち、
①癌家族歴、飲酒歴、喫煙歴いずれも有しない
受診者群
②癌家族歴、飲酒歴、喫煙歴いずれも有する
受診者群
の2群から、年齢、性別をMatchさせた各200例の
症例を無作為に抽出。
問診票を元に他施設で検診を受診しているか
調査し、Case-Control studyを行った。
Results of Case-Control Study
Examinees with no Risk factors
Examinees with
All 3 Risk factors
Prior screening
(+)
Prior screening
(−)
Prior screening
(+)
14
67
Prior screening
(−)
28
91
2.39
1.54
3.72
Odds Ratio=
95%CI
p−レベルは0.01未満であり、
リスク因子保有者群は、リスク因子を有しない群
に比べて(1%水準で)有意に、すでに他で検診を
受診していることが示されている。
結論
今回の検討では、PET検診での癌発見率と
リスク因子との間に有意な相関は
観察されなかった。
高リスク群の受診行動による選択バイアス
にその原因があると推定され、
リスク因子を有しない受診者群に対しても
PETがん検診での癌発見率は高い水準に
あると考えられた。