一般事業主の視点で見た 厚生年金基金 2014年2月18日 兵庫年金問題研究会にて 城戸社会保険労務士事務所 西神戸オフィス 城戸 信幸 2014/2/17 厚生年金基金とは • 厚生年金保険の業務の一部を民間(但し公法人)に 移して、職場の特殊性を活かしながら運営し、厚生年 金保険よりも手厚い年金を支給する目的で作られた 制度 厚生年金基金の組織と法人格 • 厚生年金保険法第107条、108条 • 基金は、適用事業所の事業主及びその適用事業所に使用 される被保険者をもって組織される。 • 基金は法人とする。 基金の住所は、その主たる事務所の所在地にあるものとす る。 厚生年金基金の目的 • 厚生年金保険法第106条 • 厚生年金基金(以下、「基金」という)は、加入員の老齢につ いて給付を行い、もって加入員の生活の安定と福祉の向上 を図ることを目的とする。 厚生年金基金の沿革 • 1966 年(昭和 41 年)に経済界からの要望により創設された。日本の企業年 金制度のひとつで、いわゆる、3 階建ての年金構造のうち、国民年金(1 階 部分)、厚生年金(2 階部分)に上乗せした給付(3 階部分)である。 • 厚生年金保険料の一部を厚生年金基金(以下、基金)の掛金とし、基金独 自の給付に充てる掛金と合わせて運用し、支給する「代行部分」が設けられ、 基金は老齢厚生年金(報酬比例部分)の代行給付を行う。 • そして基金の加入員である被保険者の厚生年金保険料率は、所定の保険 料率から免除保険料率(2.4%~5.0%)が控除される。 • これは、基金加入員期間については、政府は老齢厚生年金(報酬比例部 分)のうちの再評価分(賃金・物価スライド分)しか支給しないため、その見 返りとして基金加入員の保険料率は低く設定されるのである。 2014/2/17 厚生年金と厚生年金基金 仕組みの違い 厚生年金基金からの給付 厚生年金保険法第130条 基金の業務 老齢に関する年金たる給付 法定事業 脱退に関する一時金たる給付 基金の業務 死亡または障害に関する年金 たる給付又は一時金たる給付 任意事業 福祉施設 • 基金は規約に定めることで、定額部分相当額の老齢年金給付を60歳から始めることができる。 老齢年金給付の水準 厚生年金保険法第132条2項・3項 ① 老齢年金給付の額は、代行部分の額を超えるものでなければ ならない。 ②基金は、その支給する老齢年金給付の水準が、代行部分の額に 3.23を乗じて得た額に相当する水準に達するよう努めるものと されている。 代行部分が存在する理由 • 企業の立場からすれば、3 階部分だけの運用では資産が 小さく、規模のメリットが出ないことから、代行部分と併せて 運用することによりスケールメリットが生かせる。代行部分 を予定(当時5.5%)を上回る成績で運用できた場合、上回っ た運用益を3 階部分に上乗せして支給できる。 2014/2/17 厚生年金基金の運用利回りの推移 基金の代行部分返上 • 従来、基金が代行部分を国へ返上するには、解散するしか 方法はなかったが、2002 年4 月の確定給付企業年金法の 施行に伴い、代行部分は国へ返上し、上乗せ部分のみで 企業年金を継続することが可能になった。 • 代行返上は、二段階で行われる。まず、将来分の代行返上 (停止)を行い、基金と国のデータを突合後に、過去分の代 行返上を行う。将来分の返上は2002 年4 月から認可され ているが、過去分の返上は2003 年9 月からの認可となる。 過去分を返上すると、基金は確定給付企業年金(規約型ま たは基金型)に移行する 厚生年金基金が代行返上する理由 • 代行部分を返上すると、厚生年金保険法改正(ほぼ5 年に一度) の影響を受けなくなることや有期年金が設定できるなど、制度設 計の自由度が高まる。また、企業会計上、代行部分に係わる退 職給付債務が消滅し、基金の運営が企業収益に与える影響が抑 制される。 • 確定給付企業年金に移行した場合、給付に必要な掛金を年金数 理計算により算出し、計画的に積み立てて運用するが、運用利回 りの低下や成熟度(受給者数/加入者数)の上昇により、年金財 政が悪化し、多くの確定給付企業基金では積立不足が発生して いる。積立不足は、企業が掛金を追加拠出して補填する必要が あるが、これは代行部分についても同様である。 代行返上認可基金の推移 2014/2/17 代行返上に対する問題点 厚生年金基金の型 設立主体により次の3 通りがある。 • 単独型:会社が単独で基金を設立して運営。常時1000 人以上の被保 険者を使用する事業主が対象(例:「ウィキペディア株式会社厚生年金基 金」)。 • 連合型:主力企業を中心に、関連会社(グループ会社)が集まり、共同で 基金を設立して運営。グループ全体で常時1000 人以上の被保険者を使 用する事業主が対象(例:「ウィキペディア・ホールディング厚生年金基 金」)。 • 総合型:同業種であることなど、一定のルールの下に同一業界の会社 が集まり、共同で基金を設立して運営。合算して常時5000 人以上の被保 険者を使用する事業主が対象(例:「中小電子機器製造業協会厚生年金 基金」)。 企業にとっての厚生年金基金 脱退と解散 労働基準法、労働契約法よりみて • 内枠方式 退職金制度の中に厚生年金基金を位置付ける方式 ⇒ 事業主が従業員に対し就業規則の定める退職金額を支払う という内容の労働契約が成立 ⇒ 基金の解散に伴い規定額の支払いができなかった場合に、 事業主に残額を支払う義務が発生 • 外枠方式 退職金制度との調整は行わず、別建てで外部積み立ての設立事 業所年金を位置付ける方式 ⇒ 就業規則の定める規定は、別規定の存在を労使で確認する という意味を持つにすぎない。 ⇒ 基金の解散に伴い規定額の支払いができなかった場合でも、 事業主が残額を支払う義務はない。 特別掛金 上乗せ給付 脱退 上乗せ+代行 存続 解散 代行のみ 残余財産を分配 日経平均 代行割れ基金 代行割れ額 12,000円 183 6,100億円 10,000円 236 8,000億円 8,000円 301 10,800億円 特別掛金:過去勤務債務の解消(償却)のための掛け金 狭義には、過去勤務期間の算入(通算)により生じる債務 2014/2/17 厚生年金基金加入リスク 1. 連座制とスーパー連座制 連座制とは「一人の犯罪について特定範囲の数人が連帯責任を 負って罰せられること。」 2. 掛金の引上げ 【収支相等の原則】 掛金+利回り=給付 3. 特別掛金の納付 4. 出口戦略の制限(株式譲渡できない) 5. 退職金資金の消失(内枠方式の場合) 連座制とスーパー連座制 • 代行部分の返上 最低準備金 = 代行部分を支払うための最低限の資金 特別掛金 = 最低準備金 - 実際に残っていた資金 国税滞納処分の例で徴収できる • 連座制 基金の解散時に、特別掛金が、基金の加入企業に課せられるが、 分割納付を選択した場合、確実な調達のため、分割納付を選択した ある企業が支払い不能となった時、その分を他の分割納付を選択し た企業に分担させる。 • スーパー連座制 年金確保支援法(2011年8月)成立、特別掛金の納付は解散時の全 加入事業所が連帯責任を負う。 注 : スーパー連座制は、野中健次特定社会保険労務士の造語 脱退時の特別掛金の例 連座制による倒産事例 • 兵庫県乗用自動車厚生年金基金の場合 ⇒ 最低準備金の不足額約75億円 加入企業50社で穴埋め 2005年 厚生年金保険法改正 3年間の時限付措置 最長10年間の分割納付も可能に ⇒ 一括支払い不可能な29社がこの特例措置を利用 ⇒ 三宮自動車交通の負担金 約1億8千万円 売上3億円の会社 ⇒ 2007年8月 倒産 ⇒ 連座制適用 他の分割納入を選択した会社にこの負担金が 上乗せ ⇒ 分割納入を選択した会社29社中14社が倒産 • この状況は、スーパー連座制だとさらに悪化する。 会社名 厚生年金基金名 脱退年月 特別掛金 (株)キングジム 東京文具工業 2009年1月 サンワテクノス(株) 東京都電設工業 2009年2月 6億円 太陽インキ製造(株) 東京文具工業 2009年2月 10億円 ソーダニッカ(株) 東京薬業 2009年3月 3億円 (株)タムロン 埼玉機械工業 2009年5月 23億円 60億円 15億円 理想科学工業(株) 東京文具工業 2009年9月 ナガイレーベン(株) 東日本ニット工業 2009年9月 11億円 アイダエンジニアリング(株) 日本工作機械関連 2010年2月 20億円 1億円 アストマックス(株) 全国商品取引業 2010年4月 (株)ティー・ワイ・オー 東京都報道事業 2010年6月 2億円 (株)エンプラス 日本金型工業 2010年9月 5億円 (株)プロネクサス 東京印刷工業 2010年9月 23億円 (株)ファインシンター 日本自動車部品 2010年9月 5億円 2014/2/17 指定基金 指定基金の例 厚生年金保険法第178条の2 • 年金給付等積立金の額が最低積立基準額を著しく下回る基金で あって、政令で定める要件に該当するものとして、厚生労働大臣の 指定を受けた基金。 健全化計画の策定(5か年間の計画) 最低積立基準額 厚生年金基金令39条の3第2項 以下の1.と2.の合計額 1. 上乗せ部分に関し、給付に要する費用予想額の現価として厚生労働大臣の定めるところにより 計算した額 2. 代行部分に関する責任準備金に相当する額 (兵庫県) 平成22年度指定 平成23年度指定 尼崎機械金属 神戸機械金属 兵庫印刷工業 播州金物 兵庫県トラック運輸 兵庫県石油 兵庫ゴム工業 政令で定める要件 厚生年金基金令55条の5 以下のいずれかに該当すること。 ア 直近3年間に終了した各事業年度の末日において、年金給付等積立金の額が、責任準備金 相当額に10分の9を乗じて得た額を下回っていること。 イ 直近に終了した事業年度の末日における年金給付等積立金の額が、責任準備金相当額に 10分の8を乗じて得た額を下回っていること。 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚 生年金保険法等の一部を改正する法律 • 1.厚⽣年⾦基⾦制度の⾒直し(厚⽣年⾦保険法等の⼀部改正) • (1)施⾏⽇以後は厚⽣年⾦基⾦の新設は認めない。 • (2)施⾏⽇から5年間の時限措置として特例解散制度を⾒直し、分割納 付における事業所間の連帯債務を外すなど、基⾦の解散時に国に納付する 最低責任準備⾦の納付期限・納付⽅法の特例を設ける。 • (3)施⾏⽇から5年後以降は、代⾏資産保全の観点から設定した基準を 満たさない基⾦については、厚⽣労働⼤⾂が第三者委員会の意⾒を聴いて、 解散命令を発動できる。 • (4)上乗せ給付の受給権保全を⽀援するため、厚⽣年⾦基⾦から他の企 業年⾦等への積⽴⾦の移⾏について特例を設ける。 • 公布⽇(平成25年6⽉26⽇)から1年を超えない範囲で政令で定める⽇ 厚生年金基金制度改革の基本構造 2014/2/17 総合型厚生年金基金の移行の基本的パターン 厚生年金保険法の改正内容 存続基準 特例解散 移行支援 • 基金の新設は認めない • 特例解散の見直し(施行日から5年間のみ) • 5年経過後、存続基準を満たしていない基金に対して解散命令 • 最低責任準備金の精緻化 ⇒ 責任準備金が下がる可能性がある。 • DB,DC,中退共への移行支援 確定給付企業年金(DB) 従業員にとって 確定拠出年金(企業型DC) 会社にとって メリット ● 資産運用を会社が行うため、資産管 理に気を使わずにすむ。 ● 年金の受取り見込額がわかりやすい ため、老後の生活設計が立てやすい。 (デメリットも参照) ● 年金受取りを前提に設計されている ため、老後の安定的な収入源となる。 ● 給付額が約束された企業年金制度を有 していることで人材獲得、従業員のロイヤ リティ向上につながる。 ● 自己都合退職者や懲戒解雇者に対して 減額支給が可能。 ● 掛金拠出に税制優遇措置が講じられて いるため、退職一時金より効率的に資金準 備ができる。 デメリット ● 勤続年数にかかわらず給付減額の可 能性がある(受給者も同様)。 ● 積立不足の償却負担が重い場合、業 績が圧迫されて給料などに悪影響を及ぼ すことがある。 ● 今自分が獲得している受給権がわか りにくい。 ● 退職給付会計の対象となるため積立不 足を会社の債務として認識しなくてはなら ない。 ● 資産運用の責任を負う ● 積立不足が生じる可能性があるため、 将来の掛金負担が不確定である ● 現役世代の労働インセンティブにあま り寄与していない 従業員にとって メリット デメリット 会社にとって ● 今いくら残高があるか確認できる ● 積立不足が生じないため、将来の掛金 受給権が確立しており、勤続3年以上で 負担が安定的になる。 あればどのような理由でも減額されない。 ● 退職給付会計の対象外となるため、退 ● 自身のDC資産のみ管理・運用すれば 職給付債務が生じない 。 よく、現役世代やOBの資産の運用リスク ● 他社の企業型DCから資産の受け入れが を負うことはない。 可能となるため、有力な人材の確保につな がる。 ● 従業員に退職給付の「見える化」が期 待できる。 ● 資産運用を自ら行わなければならな い。(自己責任) ● 価格変動が生じるため、60歳時点で の受取額が見込みでしか計算できない。 ● 原則として60歳まで受給できないた め、中途退職時の生活費や独立資金とし ては用いることができない 。 ● DCでも制度の運営は会社が担うため、 DB同様、事務コストが発生する。 ● 継続的な投資教育の実施義務がある。 ● 勤続3年以上の自己都合退職者や懲戒解 雇者について減額支給できなくなる。 ● DC資産は持ち運びができるため、人材 引き留めの効果がなくなる。 2014/2/17 中小企業退職金共済制度 掛金は全額 事業主負担 特例解散 (自主解散・清算型解散) 【分割納付の特例】 • 連座制は適用されない。(5年後には復活) • 利息の固定化 • 納付期間最大15年→30年 【納付額の特例】 ・ 通常計算額と本体実績利回りの低い方 ● 新しく中退共制度に加入する事業主や、掛金月額を増額する事業主に、掛金の一部を国が助成 * 代行割れ基金であれば必ず認められるわけではない。 相当な努力が求められる。 ● 掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費として、全額非課税 存続基準 • 純資産(時価)≧代行部分の債務×1.5 又は • 純資産(時価)≧決算日までの加入期間に見合う 「代行部分+上乗せ」の債務 厚生年金基金に加入されている事業主の方 への提案 • 加入されている基金の実情を把握 ⇒ 必要な資料の取り寄せ • 存続可能性の検討 • 存続が危うい場合は、DB,DC,中退共への移行を検討 ⇒ 平成26年4月以降解散を 全設立事業所の事業主の3分の2以上の同意 加入員総数の3分の2以上の同意 代議員定数の3分の2以上で代議員会で議決 ※ ・ 全受給者に対して、解散理由等に係る説明を文章又は口頭で 行っていること。 ・ 加入員の3分の1以上で組織する労働組合がある場合は、当該 労働組合の同意。 ・ 母体設立事業所の経営悪化等の理由要件は廃止。 厚生年金基金制度改革の基本構造
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