パンデミック・インフルエンザに関する5つの嘘

5 Myths About Pandemic Panic
Washington Post (米国、ワシントンポスト) パンデ
ミック・インフルエンザに関する5つの嘘
2009/3/15
By Philip Alcabes
professor of urban public health at Hunter College of the City University
of New York (ニューヨーク大学ハンター校都市公衆衛生学講座教授)
冬は既に去ろうとしている。そして我々はパンデミック・インフルエンザを経験すること無し
に、新たなインフルエンザシーズンに備えることになる。
近年、SARS、鳥インフルエンザ、そしてWHOの、次のパンデミックはいつ起きるか分か
らないというおきまりの警告により発生してきた、パンデミックに対するヒステリーを顧みると、
何事もなくインフルエンザ・シーズンを終えることは、奇蹟のようにすら思える。
しかしながら、真実は、脅威が誇張されすぎたと言うことなのである。
これまで5つの嘘が語られてきた。
1.感染症は、過去の時代に比較して急速に世界中に拡大する?
WHOはこのような説明を2007年の報告で行った。しかし、航空機の発達以前から感染症
は容易に世界各地に拡大していた。1490年代に、梅毒は大西洋を数週間で越え、ヨーロッパ
からアジアへ広がった。1820年代には軍艦や商船がコレラをインドから中東、アフリカ、そ
してヨーロッパへ広げた。そして第一次世界大戦の終わり頃、
”スペインインフルエンザ”ウイ
ルスが軍艦により大西洋を越えて(米国からヨーロッパに渡って)、大戦中の軍隊を破滅させた。
そしてその後ウイルスは世界中に拡大し、1918年のパンデミックが発生した。死者数は40
00万人を超えた。
2003年、SARSが勃発し、航空機がウイルスを発生地から新規地域へ拡大はさせたが、
それは必ずしも感染症を抑制不能状態にはしなかった。その理由として、公衆衛生当局が、機内
で感染した人々によりもたらされた、いくつかのSARS発生を速やかに地域で封じ込めたこと
が上がられる。その結果SARSの死亡者は中国、台湾、香港、シンガポール、およびカナダに
限定された。
結核も抑制可能な空気感染する感染症である。いくつかの研究によると、機内で結核が感染す
ることは、極めて希とされる。
(2007年に薬剤耐性結核菌を排菌していた患者が、アトラン
タからパリまで航空機に搭乗していたが、感染した搭乗者は1人もいなかった。
このように結核菌は航空機で運ばれはするが、感染症が以前よりも速やかに世界中で発生し出
しているという事実はない。 現在、我々は、結核感染者を綿密にモニターすることと薬剤を迅
速に配布することで、ほとんどの結核感染の拡大を抑え込むことが出来る-何年間、または世紀
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を超えた警戒体制が敷かれてる。
2.過去の経験からパンデミック予防を学ぶ?
我々は最後に経験したパンデミックを想定して、対策を講じているように思える。しかし、最
悪の感染症の勃発は予期出来なく、また内容も想像出来ない。
黒死病(ペスト)は1340年代にヨーロッパで発生し、少なくとも人口の四分の一の人々を
犠牲にしているが、それ以前数世紀の間、発生したことはなかった。1830年代と1840年
代には、それまで西欧で発生したことのなかったコレラが流行し、英国と米国のいくつかの都市
で、2,3週間のうちに人口の1%を失った。1918年のインフルエンザに関して言えば、同
様のインフルエンザは、それ以前にも、以後にも発生しているようには思えない。その代わり、
その後は、それまで聞いたことのない感染症が起きている:エイズ。このように、次にやってく
る殺人的パンデミックは、我々が想像していないものであるし、または準備していないものであ
る。
3.我々は次のスペイン・インフルエンザに対して警戒すべきである?
幸運な事に、世界はスペインインフルエンザ並のインフルエンザをその後経験していない。第
一次世界大戦の間、軍隊や避難民の移動が、ウイルスの増殖にとり、特殊な環境を提供する結果
になり、多分、それがより毒性の強い株への変異を促したものと考えられる。発病者達の多くは
若く、前世紀に流行ったインフルエンザでの免疫を持っていなかった。
また最近の研究では、多くの死亡は、インフルエンザにより弱まった呼吸器系統に対する細菌
感染症であることが分かっている。そうしたことから考えると、今、このようなインフルエンザ
が発生した場合、抗生物質が多くの命を救うと考えられる。
スペインインフルエンザのようなインフルエンザの繰り返しよりも、発生する可能性のあるも
のとして、鳥インフルエンザが上げられる。もっとも鳥から人への感染症であり、人から人への
感染はないから、危険性は遙かに低い。鳥インフルエンザは数百万羽の鳥を殺してきたが、人へ
の感染は2003年以来、わずかに411人に過ぎない。公衆衛生当局は、新規スペインインフ
ルエンザ並のパンデミック発生と警告し、パニックを引き起こようなことをせずに、鳥の間での
ウイルスの蔓延から人へ拡大してくることの防止にもっと時間を割くべきである。
4.季節性インフルエンザ以上に、パンデミック・インフルエンザの毒性が高いということで
はない
対策を強化するために”パンデミック”という言葉が用いられている。しかし、このようなイ
ンフルエンザウイルス、すなわち、人が抵抗力を獲得していないウイルスが必ずしも、冬に毎年
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経験する季節性インフルエンザウイルスよりも毒性が高いと言うことではない。
1918年以来、わずか2回のインフルエンザ・パンデミックしか世界は経験していない。一
つは1957年に、他の一つは1968年に起こった。両パンデミックとも世界的死亡率は、1
918年のそれに比較すると僅かであり、さらに米国においては、最近の研究によると、通常の
季節性インフルエンザ以上に高くはなかったとされる。
5.過剰に準備されることによる弊害
実際問題として、我々の行動は、パンデミックへの過剰反応から、社会的利益よりも不利益(害)
をもたらす危険性がある。
1976年、
1918年のインフルエンザに類似した株であるブタインフルエンザが Fort Dix,
N.J の兵士達の間で発生した。1人が死亡している。それに対して医学専門家達は、米国がスペ
インインフルエンザ並のパンデミックに直面していると警告を発した。時のフォード大統領は大
量予防注射接種を決定し、4500万人(人口の20%)が接種された。
しかし、計画は中断された。体内の神経系に障害を及ぼすギラン・バレ症候群が、接種を受け
た人々の間に発生しだしたからだ。約500人が発症し、32人が死亡した。政府は数百万ドル
を費やした計画を終えた。結果的に、ブタインフルエンザのパンデミックは発生せず、発病者は
ほんの少数で終わった。
フィリップ・アルカベス氏は、ニューヨーク大学ハンター校都市公衆衛生学講座教授で、近く
発刊予定の”恐怖:不安と幻想が流行病を増幅させた-黒死病から鳥インフルエンザ”の著者で
ある。
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