3 - 大分大学教育福祉科学部の旧ホームページ

天文学診断テスト�その3
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
�
仲野���誠
���こんにちは。暑さも盛りを過ぎていよいよ秋ですね。今回は天文学というよりも物理学の問題に
なってしまいました。 天文協会の中で天文学も物理学も両方とも好きだ、おもしろい、という方は
どのくらいいらっしゃるのでしょう。高校、大学では物理は理科の中での人気があまりありません。
しかし、天体もそれが宇宙空間にあるというだけで、物質であることには変わりませんから、天文
学を本当に理解しようと思ったら物理学は避けて通る訳にはいきません。
���日本の学校教育では天文学は「地学」の一部という位置づけになっていますが、外国では物理
学の一部になっている場合が普通です。そもそも「地学」という名前自体は地球の科学ということ
でしょうから、昔は教員養成系の大学では地質学/鉱物学が幅をきかせていて、天文学はやや
仲間はずれといった感がありました。小規模の学部にもかかわらず、教員養成系大学の地学分野
に私のような者がいるのは珍しい方でしょうね。しかし、最近は地球科学も薄っぺらな表層の地殻
だけを扱う学問ではなく、地球深部を探ったり、地球の形成、地球の進化、地球環境というものま
でまともに扱えるように進歩してきました。その手法も多彩です。さらに対象も地球だけにとどまら
ず、金星や火星、木星、小惑星、果ては太陽系の外にある惑星までもその範疇にはいりつつあり、
ますます天文学との境目があいまいになってきています。
���一方物理学の世界では以前から天文学との境目がありませんでしたが、最近は一層その感が
強くなってきています。日本の大学のうちで天文学の名前をつけた学科は2つしかありません(東
大と東北大)が、天体物理学、宇宙物理学といった名前のついたところは、随分増えてきました。
研究室単位ではそれこそ60以上あります(http://www.phyas.aichi-edu.ac.jp/~sawa/
2001_1.html�参照)。最先端の物理学は今や2つの流れに分かれてきているといっても良いので
はないでしょうか?�究極的に基本的な部分(こちらはわれわれの生活には直接関係はしません
が)と、逆にきわめて複雑で予測しがたい部分とにです。�後者には気象や生命現象などの我々の
身近で観察できる自然現象が含まれ、複雑系などとも呼ばれています。天文学はどちらにも関係
します。宇宙論なんかは前者、天体の運動や光度変化などは後者でしょうか。診断テストの問題
とも関係しますが、この100年程度の間に色んな物理学的な方法による天体の観測が進んでき
て、それまで「あり得なーい」と思われていた「へんちくりん」な天体が続々と発見されてきました。
このことが、このような天文学の豊穣さと大きな関係があるでしょう。地球上の実験室では到底実
現できないような究極の物質の状態(質量、温度、密度)や性質を知ることが、まさに物理学の問
題としてふりかかってきたのです。...ちょっと話がそれてきましたね。本題に戻りましょう。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------4. あなたは同じサイズでつるつるのボールを2つもっており、空気の抵抗はないものとします。1
つは重く、もう一つはかなり軽いとします。それぞれを手にもって同じ高さにかかげます。そしてそ
れを同時に放した場合、何が起こりますか?
A.重い方が先に地上に落ちる�
B.同じ速度で落ちる������C.軽い方が先に地上に落ちる
--------------------------------------------------------------------------------------------------------
���これはそれまでアリストテレスの「重いものほど速く落ちるに決まってるじゃん」、という哲学的な
考えに反して、あのガリレオ・ガリレイが実験によって発見したといわれる法則ですね。彼が生ま
れたイタリアのピサには世界遺産にも登録されている有名なピサの斜塔があります。彼はここで落
体の実験を行ったという逸話がありますが、これは伝説にすぎ
ないようです。実際には空気による抵抗があるので、正確に実
験するには周囲を真空にする必要があります。で、答えはBで
すね。この問題は有名な問題で、良く知っている人も多く、正
答率の高かった(約80%)問題の1つです。
���右は大分に工場もある某カメラメーカーがインターネットで
型紙を提供している有名な建築構造物のペーパークラフトの1
つです(http://bj.canon.co.jp/japan/papercraft/building/
pisa.htmlより)。
�さて、お次は
-------------------------------------------------------------------------------------------------------5. 電波の速度と光の速度を比べると?
A.電波の方がかなり遅い� B.電波の方がかなり速い� C.両方とも同じ速度
-------------------------------------------------------------------------------------------------------���すでに述べたように色んな物理学的な方法というものの大部分を占めるのが、電磁波による天
体観測です。可視光も電磁波の仲間ですから、人類は誕生してから、宇宙をほとんどを肉眼、可
視光でしか見ていなかったことになります。通信で使う電波も、レントゲンでおなじみのX線も、恐
ろしい放射能に含まれるガンマ線も可視光の仲間なのです。天体から可視光以外の電磁波が来
ることを確認したのは18世紀のイギリスの天文学者ウィリアム・ハーシェルです。彼は太陽からの
光には赤外線が含まれていることを発見しました。ただ、測定に使ったのは温度計だったので、
太陽以外の天体からも赤外線がやって来ていることは調べたくてもできなかったことでしょう。現
在は赤外線は最先端の天文学では特に脚光を浴びています。光では見えないような暖かい(数
十度から数百度)世界を見るには赤外線による観測が最も有効です。具体的には星のできかけ
ているところや惑星や塵の世界をのぞくことができるのです。また宇宙の果てに近いような遠くの
銀河を調べるのも、やはり赤外線が得意としているところです。
���でも、太陽系以外からやってきた可視光以外の電磁波を発見する栄誉に輝いたのはアメリカの
通信技師、カール・ジャンスキーです。彼は無線通信のじゃまになる雷の測定をしていて、偶然銀
河系の中心部から放射される電波を見つけたのです!�人類は電波という宇宙を調べる新たな手
段を発見することによって、宇宙は星だけでできているのではないことを突き止めました。いわゆ
る星間物質の発見です。また星よりも遙かに高いエネルギーを出しているモンスター、クエー
サーや電波銀河なども見つけることができたのです。このように宇宙を新しい目で見ることによ
り、星だけが宇宙に永遠に静かに浮かんでいるという宇宙観が完全にひっくり返されたのです。
���さて、この問題の正答率は1つめの落体の問題と正反対で、かなり低いものの1つでした。�...
はい、答えはCです。�なぜか光に比べて電波は遅い、といった不当なイメージを持たれている(な
んと答えの80%がこれでした!)ようです。では、また。