来年のポンド:大英帝国の逆襲 - プレビデンティア・ストラテジー

PRAEVIDENTIA STRATEGY
PRAEVIDENTIA WEEKLY(12 月 13 日)
来年のポンド:大英帝国の逆襲
<要約>
今年は低調に留まったポンドだが、来年は、先行して上昇しているドル、NZ ドル、ユーロの上昇が一服に向
かう中、住宅市場に牽引された英国の相対的な景気堅調や金融政策の緩和縮小に向けた動きをまだ十分に織り
込んでいないことから、主要通貨の中でアウトパフォームする可能性が高いだろう。長期的なバリュエーショ
ンの面でもポンドは割安の領域にあり、またこれまでのポンド安でも殆ど輸出が改善しなかったことを考慮す
ると通貨高の悪影響が出にくい経済構造で通貨高を気にする必要がない。インフレも依然として高めでポンド
高はインフレ抑制に繋がる。ポンドは来年、対ユーロで 0.78 ポンド、対ドルで 1.72 ドル、対円で 180 円へ上
昇するとみられる。
今年は振るわなかったポンド
最近までの主要通貨の動きを年初来変化率でみると、円の下落が貿易加重平均ベース(-15%)でも対ドル、対
ユーロなどの通貨ペアでも顕著だった一方、強い通貨はユーロ、NZ ドル、米ドルとなっている(図表 1、2)
。
NZ ドルと米ドルのアウトパフォーマンスの背景は比較的明瞭で、いずれも金融緩和の縮小期待が背景にある。
NZ では景気が全般的に回復基調となる中、低金利長期化の影響で住宅価格上昇が顕著で、RBNZ は来年の利
上げ開始の必要性を繰り返し強調し、主要国の中で最も利上げが早い国としての認識が広がっている。続いて
米国も、予想外の緩和縮小見送りや政府機関の一時閉鎖などの紆余曲折を経ながらも、雇用増・景気回復を背
景とした量的緩和縮小開始期待がドルの押し上げ材料となっている。但し FF 金利引上げは 2015 年以降とみら
れることから NZ ドルほどの買い意欲には繋がらなかった。
図表 1:主要通貨の実効相場の年初来変化率
7.5
図表 2:主要通貨の対 G3 通貨の年初来変化率
主要通貨の貿易加重平均ベースの年初来変化率(10月迄)
%
25
5.0
15
0.0
10
-2.5
5
0
-5.0
-5
-7.5
-12.5
-15.0
主要通貨の対G3通貨の年初来変化率(11月迄)
%
20
2.5
-10.0
30
-10
対ドル
名目
-15
-20
対ユーロ
実質
EUR
-25
NZD
USD
CHF
GBP
CAD
AUD
JPY
対円
EUR
CHF
GBP
NZD
CAD
AUD
JPY
USD
(出所)BIS データ等よりプレビデンティア・ストラテジー作成
他方、釈然としないのはユーロ高とポンド安だ。ユーロは、確かに景況感が大きく改善し、スペインやイタリ
アなどの経済規模が大きい国の債務問題への市場の懸念が一服していることはプラスだが、後でみるように対
英国では見劣りするほか、ECB が利下げに踏み切るなど英米と金融政策の方向性が逆にであるにも拘らず堅調
を維持している。ユーロ高の背景としてよく挙げられるのはマネタリーベース(中銀の資金供給量の指標)と
フローで、前者は ECB が量的緩和に踏み切らなかったことによる相対的なマネー供給量の少なさがユーロ高
に繋がるというもので、確かにそうした面はある。後者のフローは主にユーロ圏の経常黒字(対ユーロ圏資金
流入を意味する)の継続がユーロ高の一因というものだ。国際収支統計に含まれる各種のクロスボーダーフロ
ーには為替に影響があるもの、ないもの玉石混交だが、よく用いられるのは経常収支、直投収支および証券投
資収支を合計したもので、これで黒字が継続していると資金流入が継続していることを示し、通貨高の一因と
いえる(図表 3)
。長期的傾向をみるために累積ベースでみると、ユーロ圏の場合、基本的に証券投資は流入、
1
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直接投資は流出、経常収支は横ばい、という傾向があったが、昨年以降では、証券投資流入と直接投資流出が
相殺し合う一方、経常黒字が継続していることがユーロ高の一因となっている可能性が示唆される。
ポンドは逆に、円安主導のポンド/円の大幅上昇を除けば、相対的な景気回復の強さや BoE のハト派色の薄さ
にも拘らず、上昇が限定的だった。ユーロ圏と同様の分析方法で英国の資金フローをみても(図表 4)
、確かに
2010 年末以降、昨年までは証券投資の流出を主因とした英国からの資金流出が大きかったが、その間ポンドは
特に下落しておらず、また足許(直近計数は 4-6 月期まで)は流出が一服しているなど、ポンド相場との相関
性はつかみにくい。
図表 3:ユーロ圏の累積資金フローとユーロ
ユーロ圏の累積資金フローとユーロ相場
2,000
ユーロ相場
10億ユーロ
1,500
対ユーロ圏資金流入
ユーロ高
1,000
図表 4:英国の累積資金フローとポンド
180
1,000
160
800
140
500
120
0
100
-500
80
-1,000
経常収支
-1,500
直投収支
証投収支
-2,000
Jan-99
合計
ユーロ名目実効
Jan-01
Jan-03
Jan-05
Jan-07
Jan-09
Jan-11
英国の累積資金フローとポンド相場
180
160
対英資金流入
ポンド高
600
140
400
120
200
100
0
80
-200
60
-400
40
-600
Mar-99
Jan-13
ポンド相場
10億ポンド
経常収支
証投収支
ポンド名目実効
Mar-01
Mar-03
直投収支
合計
60
40
Mar-05
Mar-07
Mar-09
Mar-11
Mar-13
(注)累積はユーロ発足後の 1999 年以降。
(出所)Eurostat、英国家統計局データ等よりプレビデンティア・ストラテジー作成
ポンド:逆襲の 5 つの理由
当社は以下の 5 つの理由から、来年にかけてポンドが最も上昇の可能性が高い通貨だとみている。特に対ユー
ロでコントラストが出易く、ユーロ/ポンドは年央にかけて 0.75 ポンドへ下落するとみている。対ドルでは今
後コントラストがより明確化する可能性は低いが、年末にかけて 1.72 ドルへ続伸するとみている。対円ではド
ル/円の 3 月前後のピークに合わせ 180 円の可能性も出てきた。
① 相対的に景況感がよく、当面継続するとみられるにも拘らず、相対的な英国の景況感での優位にポンドが
出遅れていること。特に対ユーロ圏、対米国で英国の相対的優位とポンドの出遅れが顕著となっている(図
表 5、6)
。
図表 5:欧英景況感格差とユーロ/ポンド
6
ユーロ圏と英国のPMI格差とユーロ/ポンド相場
ポンド/ユーロ
格差
図表 6:英米景況感格差とポンド/ドル相場
0.95
0.90
2
0.85
-2
-12
Jan-10
ドル/ポンド
0.80
英国優位
ポンド高
0.75
欧英製造業格差
欧英サービス業格差
欧英総合格差
EUR/GBP
Jan-11
Jan-12
1.70
2
1.65
-2
1.60
-4
1.55
-6
-8
0.70
Jan-13
1.80
1.75
英国優位
ポンド高
0
-4
-10
6
4
0
-8
英国と米国のPMI-ISM格差とポンド/ドル相場
格差
8
4
-6
10
-10
Jan-10
英米製造業格差
英米サービス業格差
1.50
英米総合格差
GBP/USD
1.45
Jan-11
Jan-12
Jan-13
(注)「総合」は製造業と非製造業(サービス業)の平均。英国分は建設業も含む。
(出所)プレビデンティア・ストラテジー作成
② 住宅市場が堅調で、既に BoE は金融緩和策の縮小に動いており、来年中も縮小が継続し現在はあまり議論
されていない量的緩和縮小も始まる可能性すらあること(詳細は当社ウィークリーレポート「来年のマク
ロテーマ(2)ポリシーミックスのバランスが崩れる時」も参照)。英国の住宅価格は各種指標でみて前年
比伸び率が全体的に高まってきているほか、住宅価格前年比のピーク・ボトムに半年から 1 年程度先行す
2
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る不動産業者の価格見通しである RICS サーベイは上昇が続いていることから、今後来年中は住宅価格前
円比の伸びが更に高まる可能性が示唆されている(図表 7、8)
。このため、BoE が金融安定報告で示した
更なる住宅市場過熱抑止のための措置が取られていく可能性が高く、それでも効果がない場合の金融政策
面での対応期待に繋がってこよう。
図表 7:英国の住宅価格
15
図表 8:住宅価格の先行指標
英国の各種住宅価格指標(前年比)
前年比%
15
10
10
5
5
0
0
-5
-5
住宅価格(ホームトラック)
-10
住宅価格(ハリファクス)
住宅価格(ライトムーブ)
-15
前年比%
英国の住宅価格(前年比)とRICSサーベイ
Jan-07
Jan-08
Jan-09
Jan-10
Jan-11
Jan-12
Jan-13
60
40
20
0
-20
-40
-10
-60
住宅価格(ハリファクス)
-15
住宅価格(国家統計局)
-20
Jan-06
80
RICS
-20
Jan-06
-80
RICS
Jan-07
Jan-08
Jan-09
Jan-10
Jan-11
-100
Jan-12
Jan-13
(出所)プレビデンティア・ストラテジー作成
③ 一般インフレ率も相対的に高く、ポンド高はインフレ抑制に繋がり好ましい面もあること。現在の総合イ
ンフレ率は前年比+2.2%で、今年 6 月の高値である+2.9%からは低下したものの依然として BoE のインフ
レ目標の中心値である+2.0%を上回っている。
④ 長期的にみてポンドはどちらかというと割安圏内にあり、上昇余地が大きいこと(図表 9、10)
。
⑤ 政府・中銀からポンド高牽制が行われる可能性が他国に比べて低いこと。
図表 9:主要通貨のバリュエーション
3.0
図表 10:ポンド実質実効相場の推移
主要通貨の実質実効相場の長期平均からの乖離
4
標準偏差
2.5
割高
2.0
3
1.0
1
0.5
0
0.0
-1
-0.5
-1.5
割高
2
1.5
-1.0
ポンド実質実効相場の長期平均からの乖離
標準偏差
-2
割安
NZD
CHF
EUR
AUD
CAD
JPY
USD
GBP
-3
Jan-70
割安
Jan-75
GBP
Jan-80
Jan-85
Jan-90
Jan-95
Jan-00
Jan-05
Jan-10
(注)長期平均がゼロ、標準偏差で 1 以上、ゼロから乖離すると行き過ぎの可能性が示唆される。
(出所)BIS 統計を基にプレビデンティア・ストラテジー作成
ディスクレイマー
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