別紙エ ` 論 文 審査 の 要 旨

論文審査の要旨
別紙 1
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報告番号 甲 第 刈 号 | 氏 名
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酒井拓郎
主査歯科麻酔科学飯島毅彦教授
論文審査担当者
副査歯周病学
山本松男教授
国l
査口腔生理学
井上富雄教授
(論文審査の要旨)
学位申請論文 f
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.
J について,上記の主査l
名,副査2名が個別に審査を行った
[目的]睡眠時ブラキシズム( SB)にクロナゼパムとクロニジンが抑制効果を示すことが報告されて
いる.しかし,両薬剤の SBの抑制効果と睡眠構造や自律神経機能への影響は明らかではない 本研究
では,プラセボ二重盲検法を用いて両薬剤を同一被験者に無作為に投与し,睡眠ポリグラフィ σSG)
を
用いてSBの抑制効果と睡眠構造・自律神経機能の変化を比較検討した.
[方法 JI
. 被験者:睡眠同伴者により,過去6
カ月以内に週3
回以上の歯ぎしり音を指摘され,象牙質
1
:.&ぶ佼耗が3歯以上に確認された健康成人20名(男性9名,女性 1
1名,平均年鈴2
6
.
5
士2
.
5
才)を選択した.
2
. PSGの測定・ランダム化.佼筋筋電図を含むPSG
検査を5夜実施し, 1
夜目は順応のため, 2夜目を
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eとし SBの確定診断を行った'
3
夜回以降の3夜にクロナゼパム( l.Omg),クロニジン(0.15mg
),プ
ラセボの3種の薬剤をラテン方格法によりランダムに割り付けた.服薬間隔は2週間以上とレた 3
.睡
眠構造の解析.睡眠構造の解析はAmericanAcademyofS
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のガイドライン(2007)に準拠して
行った. 4
. SBの筋活動の解析:投薬による効果は, b
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eの1
時間当たりの SBエピソード発生頻度
(RMMAi
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)を指標に評価した.なお, SBの確定診断に至らなかった 1
名は除外した.
5
. 心電図の
解析:自律神経活動は心電図のR-R間隔を指標に評価した安静時の睡眠ステージ2
,3
, Rの各3分間の
R-R
間関を算出した.さらに,睡眠ステージ2
のエピソード発生70秒前から発生までのR-R間隔の秒数を
1
0
秒ごと算出し,その経時変化を調べ,自律神経活動の評価に用いた. 6
. 統計方法:薬剤投与による
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,
睡眠構造, SBの筋活動,心電図および起床時の血圧についてプラセボ投与時とb
)ならびに薬剤問(分散分析法と多重比較法)の差を有意水準5%で検定した
Wilcoxons
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eと比較して有意に減少した それらの減少率(対
[結果] RMMAindexは3種類の薬剤すべてでb
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e比)を比較すると,クロニジン投与時が最大であり(56%
),クロナゼパム(20%)とプラセボ(28%)
のいずれより有意に大きく減少した 陸線構造への影響は,クロニジン投与時に睡眠ステージ阻Mが
有意に減少したが他では認められなかった 自律神経活動への影響は,いずれの薬剤でも SBエピソー
ド直前に R-R間隔が有意に短縮し交感神経活動が充進する傾向が認められた.しかし,クロニジン投与
時のR-R間隔はプラセボおよびクロナゼパムと比較して有意に長く,交感神経活動の抑制が認められ
た
.
[結論] SBに対して服薬によるプラセボ効果が存在する可能性が示唆された.また,クロナゼパムの
SB抑制効果はプラセボ効果と同等であったが,クロニジンにはより強い SB抑制効果が認められ,その
効果発現には交感神経活動の抑制が関連している可能性が示唆された
,.
本論文の審査にあたり副査から多くの質問があり,その一部と回答を以下に示す
井上委員の質問とそれに対する回答:
!
. 睡眠ステージ I
, J
IにSBの発生が多いのはどのような理由が考えられるか
睡眠は一定ではなくノンレム睡眠,レム睡眠を交互に繰り返す睡眠周期からなり,その周期は通
常ノンレム睡眠ステージ I
から始まり,次第に深度を増してノンレム睡眠ステージ Eに達し,レム
睡眠へと至る.また,睡眠時ブラキシズムが生じるときに脳波や自律神経系活動などの活動性に以
下に述べる一連のカスケードを認める.交感神経系の活動が冗進し,副交感神経の活動が抑制され,
さらに脳波活動によって,完全な覚醒状態ではない微小覚醒といった現象の後に発生することが分
かっている(KatoTe
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.2
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1).微小覚醒によって,睡眠段階は浅くなることから SBの発
生は睡眠段階が浅い睡眠ステージ I
.J
Iに多く発生すると考えられる
2
. クロニジンはどの部位に作用したと考えられるか.
クロニジンはα2
受容体作動薬で,青斑核のα2
受容体からのノルエビネフリン放出に有意に影響を
与え,さらに前頭皮質におけるノルエビネフリンの放出を減少させ,さらに交感神経抑制作用があ
る中枢神経系のイミダゾリン l
受容体を活性化し,交感神経系,血圧,心拍数,ノルエビネフリン血
中濃度を抑制する.さらに,青斑核のノルエビネフリン分泌抑制によって線条体のドーパミン合成
を抑制し,二次的にオレキシン活性と関口筋活動を抑制する(Huyr由 Ne
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6
).
山本委員の質問とそれに対する回答:
!.クロニジンに対する個人差がなぜついたのか.分子生物学的にどのように解釈されるか述べよ
SB抑制効果に代表される,本研究結果の薬物反応性の個人差には,生理的な要因が多岐にわたると
考えられますが,薬物代謝酵素やトランスポーターをコードする遺伝子多型が,薬物の効果や副作用に
影響を及ぼすことが報告されています(Ma四 hSPharmacogenomics2008, BrockmollerJe
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.EurJC
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l2008).クロニジンに対する影響を分子生物学的観点から解明することは現段階では未解明だ
が,今後, Responder, Nonresponderの SNP解析を行うことで新たな知見を得る可能性がある
2
. 歯周組織の破壊と睡眠時ブラキシズムの関連性について
SBによる力 (
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e)によって歯根膜感覚の変化(OnoYeta
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o2008)や歯の動揺度お
よび歯根膜腔の拡大等の歯周組織に影響を与えることが報告されています( J
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).
両委員共通の質問とそれに対する回答:
!.クロナゼパムはなぜ効果がなかったのか
先行研究(S
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.EurArchP
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i2010
)により,レストレスレッグズ症候群,
睡眠時無呼吸症候群などの陸眠疾患を合併する患者では,クロナゼパムがプラセボと比較して, SB
を約40%減少させることが示されてる しかしながら,本研究では,合併する睡眠障害を有さない
被験者において,クロナゼパムが, SBに対してプラセボを超える抑制効果を示さず,睡眠構築にも
影響がなかった.すなわち,クロナゼパムは,睡眠調節機構や運動調節機構に何らかの異常によっ
て生じた二次性の SBに対してのみ抑制効果を示すものと考えられる
これらの試問に対する回答は,適切かつ明解であった.また,飯島委員は主査の立場から,
両副査の質問に対する回答の妥当性を確認した.
以上の審査結果から,本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判定した