カヤネズミの飲水量はどの位か?

石若・増田(2012b)
カヤネズミの飲水量はどの位か?
石若礼子・増田泰久(久住 牧野の博物館)
2012・07・18
カヤネズミは一日にどの位飲水するのか、飲水をどのようにして得るのか、などは、生息環境と
の関連で非常に興味のある点である。雨水、露、植物の溢水あるいは水分含量の多い植物を採食す
るなど、多様な方法で飲水を獲得しているのであろうと推測される。本試験では、飼育個体を用い
植物種子を給餌している場合の飲水量を求めると共に、植物の茎葉を摂取することにより飲水量が
影響を受けるかどうかを検討した。
方法
2012 年 5 月 23 日から 30 日まで、白米(以下コメ)、アサ果実(以下アサの実)、ヒマワリ種子
およびエンバク種子の 4 種植物飼料を給与し、それらの風乾物摂取量と飲水量を測定した。用いた
試験装置は増田・石若(2012a)の報告によるもので、4 つの試験室(サテライト)にそれぞれ 1
種類の供試飼料を毎日ランダムに配置し、中央の居住室に飲水ボトルを設置した。毎日一定時刻に
飼料給与と残飼料の回収を行った。回収した残飼料はペーパータオルで表面水分を吸い取り、3日
間放置して風乾物重を求めた。
試験装置は室内に置き、気温および日
長はほぼ自然状態で、制御は行ってい
ない。
後半の4日間は前半と同じ4飼料の他
に当日採取した穂孕み期のイタリアン
ライグラス(Lolium multiflorum)生草
コメ
アサの実
ヒマワリ種子
エンバク種子
(以下イタリアン)約 8g を、ランダム
に選択した試験室で、供試 4 種飼料の一つと併せて給与した。
イタリアンおよび供試飼料の水分含量は電子レンジによる簡易測定法で求めた。
試験飼料とは別に、固形飼料を自由摂取としたが、採食量は測定していない。
供試個体は、体重 10.40g の未経産雌である。
試験中の室内温度は、18~25℃であった。
飼料風乾物摂取量および飲水量がイタリアン給与期間と非給与期間との間で異なるかどうかを知
るために t 検定を行った。
結果
供試飼料の水分含有率は次のように推定された。
イタリアン 78.2%
コメ 6.0%
アサの実(果皮を除く) 5.9%
ヒマワリ種子(種皮を除く) 5.7%
エンバク種子 11.2%
給与試験飼料および飲水量を表1に示した。
久住 牧野の博物館
表1 飼料風乾物摂取量(g/日)および飲水量(g/日)
コメ
アサの実:*
ヒマワリ種子**
エンバク種子
イタリアン給与なし
1.06±0.44
0.24±0.09
0.32±0.07
0.33±0.12
イタリアン給与あり
0.93±0.24
0.20±0.15
0.19±0.08
0.27±0.20
合計飼料摂取量
飲水量
(代謝体重当たり)
(代謝体重当たり)
1.95±0.54
1.54±0.11
0.75
(0.34g/W
)
1.59±0.35
0.75
(0.27/W
)
(0.27/W0.75)
1.62±0.37
(0.28/W0.75)
*アサの実の果皮を除いた部分の採食量は、×0.54 で得られる(実測値)。
**ヒマワリ種子の種皮を除いた採食量は、×0.50 で得られる(実測値)。
試験に用いた未経産雌個体は、コメを最も多く、次いでエンバク種子を多く採食した。別に試験
を行った雄個体の結果では、エンバク種子が最も多く、コメは最も少ない採食量であった(未発表)。
イタリアン生草を給与した場合、カヤネズミは茎葉を採食することが確認された。カヤネズミが
生育するイタリアンを採食することは野外における飼育試験でも確認している(未発表)。イタリ
アン給与によりヒマワリ種子の摂取量が有意に低下し(P<0.05)、合計摂取量も有意ではないが低
下する傾向があった。また、イタリアン給与 2 日目には、給与したイタリアンを用いて試験室内で
半球状の巣を造った。巣を造った日の飼料摂取量は、前日の 1.89g/日および翌日の 1.87g/日と比
較して少なく、1.18g/日であった。
イタリアン生草給与の有無で、飲水量に有意な差はなかった。
マウス(Mus musculus domesticus)では、飲水がない場合でも採食する餌の水分で生存に必要な
水を賄うことができるとされている(例えば http://www.baytool.info/html/mae_biologie.htm)が、今
回の試験ではイタリアン茎葉の採食による飲水効果は認められず、カヤネズミにおける同様の可能
性を示唆する結果を得ることができなかった。
Bachmanov et al.(2002)は、体重 12.0 ± 0.2 g から 33.2 ± 1.0 g のマウス 28 系統(平均 23.5 ± 0.9 g)
を用いた試験で、1 日当たり飼料摂取量(市販固形飼料)として平均 5.7 ± 0.2 g/30 g 体重、1 日当
たり飲水量として、3.9 ± 0.2 ml/頭から 8.2 ± 0.3 ml/頭、平均 5.8 ± 0.2 ml/頭の値を報告してい
る。この平均飼料摂取量を代謝体重当たりに換算すると、0.44g、平均飲水量を代謝体重当たりに
換算すると、0.54ml という値が得られる。本試験の結果から、カヤネズミの飲水要求量はマウスと
比較すると、著しく低いことが示唆された。
試験の課題
飼料摂取量および飲水量は、運動量、環境温度や湿度、さらには日長などの影響を受けることが
知られていることから、詳細な試験は環境制御室を用いて行う必要がある。
カヤネズミは、飼料の一部を居住室に持ち込んで、直ちに採食したり、しばらく時間を経て採食
したりすることがあるが、本試験では居住室からの供試飼料の回収は行わなかった。飼料全量を居
住室から回収することは、居住室に造られた巣を崩すことになる。本試験でも見られたように、カ
ヤネズミの営巣中は飼料摂取量が低下するため、回収作業を行うことは飼料摂取量に影響する可能
性が高い。また、供試飼料を尿で汚すため、より正確な摂取量の測定は乾燥操作を経て乾物で求め
る必要があろう。
久住 牧野の博物館
文献
増 田 泰 久 ・ 石 若 礼 子 ( 2012a ) 4 室 の サ テ ラ イ ト を も つ カ ヤ ネ ズ ミ の 実 験 用 飼 育 装 置 の 製 作 .
http://www.kuju-ecomuseum.org/kaya.html
Bachmanov, A. A., D. R. Reed, G. K. Beauchamp and M. G. Tordoff (2002) Food intake, water intake, and
drinking spout side preference of 28 mouse strains. Behav Genet. 32 (6): 435–443.
久住 牧野の博物館