心室頻拍持続要因としての迷走神経活動

265
聖マリアンナ医科大学雑誌
Vol. 30, pp.265–273, 2002
原 著
心室頻拍持続要因としての迷走神経活動
りゅう
龍
しょうのすけ
なかざわ
祥之助 1
中沢
たか ぎ
木
きよし
潔1
あきひこ
さくらい
つねはる
明彦 1
桜井
庸晴 2
なん け
としひこ
南家
俊彦 1
み やけ
三宅
ふみひこ
良彦 1
(受付:平成 14 年 8 月 20 日)
抄 録
目的:重症心室不整脈の持続機序への自律神経緊張の関与を知るために,同じ起源と思われる
心室期外収縮(PVC)と 5 連発以上の心室頻拍(NSVT)の発現 1 分前 15 拍および直前 15 拍の
RR 間隔変動を検討した。対象:対象は Holter 心電図を施行し,NSVT を捕らえることのできた
13 人である。方法: PVC の直前 1 分間のうち,最初の 15 拍と最後の 15 拍の RR 間隔を計測して
その標準偏差を求めた。結果と結論: NSVT 直前に,基質的心疾患例(陳旧性心筋梗塞,肥大型
心筋症,拡張型心筋症)では迷走神経緊張の低下が,心疾患のない特発性 QT 延長症候群と特発
性心室細動では迷走神経緊張の亢進があった。PVC 直前にはこの変化がなかったことから,迷走
神経活動が心室不整脈の持続機構に関連している可能性が推測できた。
索引用語
心室頻拍,心拍変動,迷走神経
頻度の高い不整脈である。連発する PVC は心室頻拍
はじめに
と呼ばれる。心室不整脈の QRS 波形が同じであるこ
不整脈の発現に自律神経緊張が関与していること
とは心室内の起源が同じであることを意味するが,同
は,交感神経 β 遮断薬が心筋梗塞後の心臓突然死を減
じ波型であっても PVC で留まる場合と心室頻拍とな
少させる,迷走神経緊張低下例に心臓突然死が多いと
る場合がある。この背景に自律神経的要因が関係して
いった知見 1~3)や,臨床の電気生理検査などで交感神
いるかどうかを検討した。
経刺激薬である isoproterenol を用いると持続性不整脈
方 法
が誘発されやすくなるなどの事実から信じられてい
る。しかし,不整脈の発現に自律神経緊張がどのよう
1.患者と検討した不整脈
に関わりあっているかは不明な部分が多い。
対象は聖マリアンナ医科大学病院で Holter 心電図を
施行し,5 拍以上の心室頻拍(以下, NSVT)を捕らえ
本研究は重症心室不整脈の発現に,自律神経緊張が
る こ と の で き た 13 人 で あ る 。 NSVT は 5 連 発 以 上
どのように関わり合っているかを知るために計画され
(5 ∼ 42 拍,平均 22.6 拍)持続し心拍数が 150 /分以
た。
上のものと定義し,それ以下の連発数(1 ∼ 2 拍,平
心室期外収縮(以下, PVC)は心電図検査において
均 1.3 拍)を PVC と定義した。PVC は Holter 心電図
の 2 誘導記録を参考に,NSVT の最初の波形と類似し
1 聖マリアンナ医科大学 内科学教室(循環器内科)
2 聖マリアンナ医科大学病院 臨床検査部
たものを起源が同じものと判定し選択した(Fig. 1)。
43
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龍祥之助 中沢潔 ら
性 1 人, 平均年齢 65 ± 12 歳);陳旧性心筋梗塞 4 人(6
回の PVC, 4 回の NSVT),肥大型心筋症 1 人(5 回の
PVC, 5 回の NSVT),拡張型心筋症 1 人(2 回の PVC,
1 回の NSVT),催不整脈性右室心筋症 1 人(10 回の
PVC, 10 回の NSVT),基質的心疾患のない例(以下,
非心疾患群)は 6 人(男性 3 人, 女性 3 人, 平均年齢
54 ± 14 歳);特発性 QT 延長症候群 2 人(15 回の PVC,
18 回の NSVT),特発性心室細動 4 人(15 回の PVC,
20 回の NSVT)であった。心疾患は循環器内科に入
院し,心電図,胸部レントゲン写真,通常の血液検査,
心エコー図法,心臓カテーテル検査,および電気生理
検査により診断された。ただし,催不整脈性右室心筋
症の 1 人,特発性 QT 延長症候群の 1 人,特発性心室
細動の 1 人では心臓カテーテル検査と電気生理検査を
行ってない。前 1 人は承諾を得られなかったためで,
後 2 人は不整脈発作による脳障害が残存したためであ
る。
Holter 心電図記録中の投薬は,心疾患群ではアン
ジオテンシン変換酵素阻害薬が全例に,硝酸薬が 4
例に,利尿薬が 6 例に,amiodarone が催不整脈性右
室心筋症の 1 例に投与されており,非心疾患群では
mexiletine が 1 例に投与されていた。両群とも自律神
経作動薬の投与例はなかった。
2.計測
PVC または NSVT 発現前 1 分間の心拍のうち,最
初の 15 拍および最後の 15 拍(Fig. 2)の RR 間隔を計
測した。RR 間隔は msec で計測し,最初の 15 拍と最
Fig. 1 Actual electrocardiography. Premature ventricular
contraction (PVC) and non sustained ventricular tachycardia
(NSVT) in which initial beat exhibited the same morphology
as the PVC. Upper panel: example of previous myocardial
infarction, and lower panel: example of idiopathic long QT
syndrome.
後の 15 拍でそれぞれの標準偏差を求めた。標準偏差
を RR 間隔の変動と考え,それぞれの値を疾患別に比
較した。統計には t 検定を用い,p value < 0.05 を有意
と判定した。
結 果
1.PVC と NSVT の 1 分前と直前の RR 間隔変動
また,PVC および NSVT 直前 1 分間の心電図記録が
PVC と NSVT の 1 分前と直前の RR 間隔を Table 1
安定しており,他の不整脈が混入していないものを選
に示した。心疾患群および非心疾患群である特発性
択した。6 人が心停止蘇生例で NSVT 出現時に失神と
QT 延長症候群,特発性心室細動のいずれにおいても
失神前兆を認めた。4 人に動悸を認め,3 人は無症状
1 分前と直前の RR 間隔の比較に差がみられず,また
であった。原因心疾患と前述の条件にあった PVC お
1 分前,直前における PVC と NSVT の比較にも差が
よび NSVT の数は以下のごとくであった。総計 53 の
みられなかった。すなわち,PVC と NSVT 出現前 1
PVC と 58 の NSVT が検討の対象となった。基質的心
分間では心疾患の有無に関わらず心拍数の急激な変化
疾患のある例(以下, 心疾患群)は 7 人(男性 6 人, 女
はみられなかった。
44
心室頻拍持続要因としての迷走神経活動
267
Fig. 2 How to select heart beats used measurements. 15 heart beats 1 minute before arrhythmia (premature ventricular
contraction or non sustained ventricular tachycardia) and 15 heart beats immediately before arrhythmia were selected for
measurements of the standard deviations of the RR interval.
Table 1 Comparison with RR intervals
では 1 分前(14.1 ± 3.9 msec)と直前(15.2 ± 4.3 msec)
2.PVC と NSVT の 1 分前と直前の RR 間隔標準
に差がなく,NSVT では 1 分前(12.1 ± 3.1 msec)より
偏差
直前(16.8 ± 4.9 msec)で増加した(p<0.01)
。
心疾患群全例および非心疾患群全例の RR 間隔標準
上記結果を疾患別にしたものを Table 2 に示した。
偏差の平均値における 1 分前と直前の比較を Fig. 3 に
示した。心疾患群の PVC では 1 分前(16.1 ± 5.5 msec)
心疾患群では疾患別に比較しても,PVC の 1 分前と
と直前(15.8 ± 5.6 msec)に差がなかったが,NSVT
直前で RR 間隔標準偏差の平均値に有意差がなかっ
では 1 分前(17.5 ± 3.1 msec)より直前(11.5 ± 3.1 msec)
た。NSVT では陳旧性心筋梗塞および肥大型心筋症で
で減少した(p<0.05)。非心疾患群においては,PVC
1 分前より直前で有意に減少(いずれも p<0.05)し,
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龍祥之助 中沢潔 ら
Fig. 3 There were no difference between the standard deviations of the RR interval (SD-RR) at 1 minute before premature
ventricular contraction (PVC) and that at immediately before PVC in both groups. But the SD-RR at immediately before
non sustained ventricular tachycardia (NSVT) was significantly decreased in a patient with heart disease, and was significantly increased in a patient without heart disease.
拡張型心筋症でも減少傾向を認めた。しかし,催不整
考 察
脈性右室心筋症では有意差を認めなかった。非心疾患
群においては,特発性 QT 延長症候群,特発性心室細
1.自律神経緊張と重症不整脈の関連
動ともに PVC では 1 分前と直前で RR 間隔標準偏差の
Holter 心電図記録中に内因性突然死した 157 例の検
平均値に差がなく,NSVT では 1 分前より直前で増加
討では,心室頻拍から心室細動への移行,心室細動,
(いずれも p<0.01)した。
および torsades de pointes の重症心室不整脈が 83.5% を
占め,残りの 16.5% が徐脈であったことが報告されて
いる 4)。本研究で扱った NSVT は,心電図波型からは
46
心室頻拍持続要因としての迷走神経活動
269
Table 2 Comparison with the standard deviations of RR interval
促進的に作用することが報告されている 8)9)。
心室細動との鑑別が困難な多形性心室頻拍で,持続す
れば突然死に至る重症不整脈である。このような重症
2.本研究の結果
不整脈と自律神経緊張の関連は,陳旧性心筋梗塞例を
本研究から得られた結果は以下のごとくである。
中心に検討された心電図の RR 間隔変動の検討から推
(1)単発から 2 拍までの PVC 直前および NSVT 直前
測できる。すなわち,陳旧性心筋梗塞例では RR 間隔
には,1 分前と比較して,急激な心拍数変化はなかっ
変動が低下している迷走神経緊張低下例に心臓突然死
た。心筋に対する迷走神経緊張の影響は,交感神経に
が多い 1~3)ことから,迷走神経緊張低下は心室の重症
よる相対的なものと直接的な作用との両者がある。重
不整脈発現に促進的に影響すると考えられる。従来,
症不整脈発現と関連したものでは,急性心筋虚血時に
5)
交感神経緊張亢進は心室細動閾値を低下させ ,迷走
みられた心室細動閾値の低下を迷走神経刺激により心
神経緊張亢進はそれを抑制する 6)7) と考えられてき
拍数変化とは関係なく上昇させたとの報告 10) があ
た。RR 間隔変動の解析から提唱されている迷走神経
る。本研究では心拍数の変化を伴わなかったことか
緊張低下が相対的な交感神経緊張亢進を意味するかど
ら,RR 変動における自律神経効果は心筋に対する直
うかは不明であるが,少なくともそこから心室不整脈
接的な効果によるものと考えられた。(2)NSVT 発現
の抑制が減弱している病態であるかどうかの推測はで
前の RR 間隔の標準偏差すなわち RR 間隔変動の変化
きる。一方,心疾患のない致死的不整脈疾患である特
は 3 つのパターンがあった。すなわち,減少,変化な
発性心室細動では,迷走神経緊張亢進が不整脈発現に
し,増加であったが,陳旧性心筋梗塞,肥大型心筋症,
47
270
龍祥之助 中沢潔 ら
および拡張型心筋症は減少,催不整脈性右室心筋症は
心筋症においても同様の RR 間隔変動の変化が観察さ
変化なし,基質的心疾患のない特発性 QT 延長症候群
れたが,不整脈や突然死の発現と RR 間隔変動の関連
と特発性心室細動は増加であった。これらの RR 間隔
は不明である。肥大型心筋症にみられる細胞肥大,心
変動の変化から自律神経緊張の変化を推測すると,陳
筋の錯綜配列,線維化および細胞間結合異常や拡張型
旧性心筋梗塞,肥大型心筋症,および拡張型心筋症で
心筋症にみられる心筋の線維化,細胞間結合異常およ
は,迷走神経緊張が抑制(心拍数の変化がないので,
び心筋肥大は心筋梗塞巣と同様に不整脈の基質とな
相対的交感神経緊張亢進もない)
されたと考えられる。
り,連発する PVC や NSVT が生命予後不良の兆候で
催不整脈性右室心筋症では変化がなかったが,1 例の
あることも良く知られている。それぞれ 1 例のみの検
みの結果であり,また amiodarone 100 mg が投与され
討であったので,今後症例を集積し検討することが必
ていた。amiodarone は心筋の K チャネル遮断薬とし
要と考えられた。
て用いられる薬剤であるが,交感神経 β 遮断薬効果も
特発性心室細動の代表例である Brugada 症候群の多
有する薬剤であるため RR 間隔変動に影響した可能性
形性心室頻拍の機序は SCN5A 遺伝子異常が背景にあ
も否定できない。このようなことから,基質的心疾患
り,右室における心外膜側と心内膜側の心筋活動電位
例では NSVT 発現直前に迷走神経緊張の低下が起こ
再分極相の差によってリエントリ回路が形成されると
る可能性が考えられた。
考えられており,迷走神経刺激はこの活動電位の差を
同じ基質的心疾患例でも PVC ではこの変化が認め
増強するとされている 9)。いくつかの臨床例の報告で
られなかったことから,迷走神経緊張低下は心室不整
も不整脈発作直前に迷走神経緊張亢進があった例が報
脈が連発するための要因とも考えられた。持続性不整
告されており 8),trigger となり得ることが示唆されて
脈の多くはリエントリ機序であることが知られてお
いる。著者らは Brugada 症候群以外の特発性心室細動
り,リエントリ成立のためには不応期の差による一方
も 含 め て , Holter 心 電 図 の RR 間 隔 変 動 お よ び QT
向性ブロックが不可欠の要因である。交感神経緊張亢
dispersion の変化を指標に自律神経の関与を検討して
進/低下あるいは迷走神経緊張亢進/低下により不応
きた 13~16)。Holter 心電図の解析では発作から数日間
期の変化した心筋が不均一に存在することがリエント
迷走神経の亢進した時期があり,約 3 週間後にはその
リ基質となり得ることは容易に想像できる。
亢進は回復していることがわかった。また,QT dis-
一 方 , 基 質 的 心 疾 患 の な い 群 で も NSVT 直 前 に
persion の検討では発作から 2 ∼ 5 日間 QT dispersion
PVC に は な か っ た RR 間 隔 変 動 の 増 加 が み ら れ ,
の延長があり,その後回復することがわかった。すな
NSVT と関連する可能性のある迷走神経緊張の亢進が
わち,発作直後に一時的な迷走神経緊張亢進と心室再
考えられた。この変化も心拍数の変化を伴わないこと
分極の不均一性の増加が確認できたわけである。この
から,交感神経緊張の低下ではないと考えられた。迷
変化が直前にも起きている変化かどうかが疑問であっ
走神経緊張亢進による不均一な伝導性低下(不応期延
た。本研究の結果から NSVT の直前に迷走神経緊張
長)が存在することが考えられ,リエントリ基質の形
亢進があることがわかった。この緊張亢進は PVC の
成が想像された。
直前には認められなかったことから,心室不整脈の発
3.本研究結果の意義
現性よりもそれを持続させる機序として関与している
陳旧性心筋梗塞例の心臓突然死や重症不整脈発現に
可能性が考えられた。
QT 延長症候群 17~21) は遺伝子異常を背景とした心
迷走神経緊張低下がみられることが報告されてい
る
1~3)
。また,心筋梗塞例の baroreceptor 反射の低下
が不整脈発現に関連している
11)12)
筋膜電位の異常が原因である。いくつかの遺伝子異常
が明らかになっており,臨床像との対比が行われてい
ことも知られてい
る。本研究では不整脈発現の 1 分前と直前の 15 拍に
る。従来,左右の交感神経緊張の差が原因の病態で,
ついての比較であり,反射性の変化かどうかは明確で
交感神経緊張亢進が致死的不整脈発現の trigger であ
ないが,陳旧性心筋梗塞例の NSVT 直前の RR 間隔変
ることが最も注目されていた臨床像である。この臨床
動低下は反射性迷走神経機能の低下をみている可能性
像に合うものは KvLQT1 遺伝子と HERG 遺伝子異常
が高いと考えている。本研究の肥大型心筋症と拡張型
によるもので,それぞれ心筋膜の異なる K 電流を障
48
271
心室頻拍持続要因としての迷走神経活動
害し,LQT1, LQT2 と呼ばれている。さらに注目され
とであったが,12 誘導心電図など多誘導での比較で
ていた臨床像は,徐脈傾向と安静時や夜間睡眠中に
はないので限界があると思われる。
NSVT 中の自律神経機能は検討できないので直前の
torsades de pointes の発症する例があることであった。
この特徴は SCN5A 遺伝子異常(Na チャネルの不活性
状態を検討した。それが PVC 発現時も継続している
化障害)で LQT3 と呼ばれるものに合う臨床像であ
ことを前提として,本研究の考察を行った。
る。LQT1 の発作頻度は少ないが致死的な発作が多い
不整脈発現前に安定した 1 分間の心電図記録が得ら
とされ,LQT3 の発作頻度は多いが自然停止すること
れる例の集積は困難で,少数例の検討となってしまっ
が多いとされている。LQT1, 2 の治療には交感神経 β
た。また,直前の変化を捕らえるのに 1 分間の経過で
遮断薬が有効であるが,LQT3 は Na チャネル遮断薬
よかったのか,15 拍の計測でよかったのかどうかは
である mexiletine が有効である。この薬剤効果は心電
不明である。RR 間隔変動は主に呼吸性変動を捕らえ
図の QT 間隔の計測で判定できることから,臨床的に
ている指標である。15 拍は呼吸性変動を捕らえるの
遺伝子異常を推定する方法となっている。本研究の対
に最低限必要な拍数と言われていることによるもの
象となった特発性 QT 延長症候群は発作が夜間に頻発
で,いずれも明確な根拠のない時間と計測心拍数の設
していたことと,mexiletine 投与により QT 間隔が短
定である。また,限られた 15 拍を計測するために,
縮したことから LQT3 に属する例と推定している患者
通常使用されているコンピュ−タ自動解析は使用でき
であった 22)。LQT3 は前述の Brugada 症候群と同じ
なかった。今後の解析方法を検討する必要もある。
SCN5A 遺伝子異常であるが,心筋膜電位的には Na 電
以上のごとく問題の多い検討方法と思われたが,す
流の不活性化が抑制されるもので,Brugada 症候群の
でに情報のある Brugada 症候群では納得できる結果を
活性化抑制とは逆である。しかし,安静時や睡眠中に
得た。すなわち,発作をたまたま捕らえた少数の報告
発作が多いことや徐脈傾向があることなど迷走神経緊
でみられる直前の RR 間隔変動の増加と同じ変化を捕
張亢進を疑う臨床像も認められる。本研究では発作直
らえており,発作後数日持続することが客観的方法で
前の迷走神経緊張亢進がみられたが,2 例という限ら
検討されていることを考え合わせると,NSVT 中も同
れた例での結果であり今後の検討が必要と考えられ
様の自律神経緊張状態にあったことが推測できる。ま
た。
た,迷走神経機能が低下し baroreceptor 反射が低下し
QT 延長症候群の NSVT は torsades de pointes と呼ば
ていることが知られている致死的心室不整脈を起こし
れる特殊な波形を呈する NSVT である。この発現機
得る陳旧性心筋梗塞患者では,NSVT 直前に RR 間隔
序は撃発活動と考えられており,交感神経緊張亢進が
変動が低下した。これらの結果は本研究の方法の妥当
促進的に作用する。本研究では NSVT 直前に迷走神
性を支持していると考えられた。
経緊張亢進がみられたが,PVC 直前にはみられな
結 論
かった。この結果から,迷走神経緊張亢進は torsades
de pointes の発現機序より持続機構に関連あるものと
23)
PVC と NSVT 発現 1 分前および直前における RR 間
は quinidine に よ り 誘 発 さ れ た
隔と RR 間隔変動の差を比較検討した。NSVT 直前に
torsades de pointes のマッピングから,維持機構として
基質的心疾患例では迷走神経緊張の低下が,心疾患の
は複数のランダムリエントリが関与していることを証
ない特発性 QT 延長症候群と特発性心室細動では迷走
疑われた。坂東
明した。迷走神経緊張亢進による不均一な伝導遅延,
神経緊張の亢進があった。PVC 直前にはこの変化が
不応期延長はリエントリ回路を形成する一要因となり
なかったことから,迷走神経活動が心室不整脈の持続
得ることが考えられた。
機構に関連している可能性が推測できた。
4.本研究の限界
文 献
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心室不整脈の持続機序に自律神経緊張が関与するか
どうかを知るために,同じ起源から出ている PVC と
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Abstract
Vagal Activity Increase and Decrease, as a Contributing Factor
in Maintaining Ventricular Tachycardia
Syonosuke Ryu1, Kiyoshi Nakazawa1, Toshihiko Nanke1, Akihiko Takagi1,
Tsuneharu Sakurai2, and Fumihiko Miyake1
PURPOSE: In order to investigate the effect of autonomic nervous tone on maintaining ventricular tachycardia,
we compared the RR interval variability (RRV) 1 minute before and immediately before premature ventricular
contraction (PVC, 1–2 beats), and that before non sustained ventricular tachycardia (NSVT, >5 beats). SUBJECTS
and METHODS: The subjects consisted of 13 patients with PVCs (mean 1.3 beats) and NSVT (5–42 beats, mean
22.6 beats) on Holter monitoring. PVCs which exhibited the same morphology as the initial beat of the NSVT
were selected. Therefore, 53 PVCs and 58 NSVTs were used for the analysis. The RRV was estimated as the standard
deviation of the RR interval over 15 beats. RESULTS and CONCLUSION: In patients with structural heart
disease (previous myocardial infarction, hypertrophic cardiomyopathy, and dilated cardiomyopathy), the vagal
activity was decreased immediately before the NSVT, however it was increased in patients without obvious heart
disease (long QT syndrome and idiopathic ventricular fibrillation). Because these changes in the autonomic
nervous tone were not exhibited immediately before PVCs, these changes were suspected to be related to the maintenance of the NSVT. (St. Marianna Med. J., 30: 265–273, 2002)
1 Division of Cardiology, Department of Internal Medicine
St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan
2 Division of Laboratory Medicine, St. Marianna Univesity Hospital
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