西洋中世学会第 7 回大会 ポスター・セッション、報告要旨(氏名の五十音

西洋中世学会第 7 回大会
ポスター・セッション、報告要旨(氏名の五十音順)
(6 月 14 日(日)9:00~10:45、8 号館 7 階・125 周年記念ホール)
1. 石田 隆太(筑波大学大学院/日本学術振興会特別研究員)
偽アウグスティヌス『精気と魂について(De spiritu et anima)』の思想的意義――
トマス・アクィナスの場合――
アウグスティヌスの偽書とされる『精気と魂について(De spiritu et anima)』という書物につ
いて、トマス・アクィナス研究の立場から、その書物が有する思想史的意義を剔抉することが本
発表の目的である。第一に『精気と魂について』に関する概括的な説明を加え、第二にこの書物
に対する評価を述べているトマス・アクィナスの言説を整理した上で、トマスにおける同書の受
容がどのようなものであるのかを明らかにする。
2. 伊藤 麻衣(東北大学大学院)
ルーカス・クラーナハ(父)の作品にみられるメランコリーの変容――1520 年代以降
の寓意画・教訓画における女性表象を中心に――
本報告では、ルーカス・クラーナハ(父)(1472-1553)の《メランコリー》4 点 に焦点をあ
てる。作品の制作背景として、宗教改革や聖像破壊運動のような社会的変革と、人文主義者を中
心とする宮廷文化の成熟が挙げられる。この状況下に おいて、クラーナハは新たな女性主題の作
品を追求し、後期宮廷様式とされる新境地に到達した。《メランコリー》連作もまた、転換期に
制作された作品の一つ として位置づけられる。ここでは、同時期に制作された寓意画や教訓画と
の比較によって、作品を分析してゆくことを試みる。
3. 小澤 雄太郎(一橋大学大学院)
9世紀カロリング国王における皇帝権問題――なぜ西フランク王がこの地位についた
のか――
本報告では、9世紀カロリング王国における皇帝権の問題を扱う。いわゆる「皇帝」の地位に
ついた人物は、シャルル2世(在位 875-877)、カール3世(在位 881-887)を除けばいずれも東
フランク、ないし中部フランクの国王であった。このことは、西フランク王が「皇帝」になるこ
とが極めて稀であったことを示している。では、なぜシャルル2世とカール3世は帝位についた
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のか。この背景にはときの教皇ヨハネス8世(在位 872-882)との関係があった。これについて
議論する。
4. 加藤 旭光(前橋工科大学大学院)
The Sarum Use の記述を建築的に解釈する試み
The Sarum Use は、イングランド南西部に位置するソールズベリィ司教区で 11 世紀以降に用
いられた典礼規定書である。ミサ典書、聖務日課書、儀式の手引書がまとめられた典礼規定書は、
様々な儀礼を定める条文から成る。本報告は、儀式に関する条文を中心に、Ostium や Gradus
もしくは Claustrum といった建築的に解釈可能な記述から、可能な限りの教会堂平面の復元を試
みる。さらに、新旧大聖堂平面との比較を通して、大聖堂の平面構成と使われ方について考察を
試みる。
5. 加藤 政夫(学習院高等科)
高等学校の世界史における西洋中世史――その可能性と限界――:事例⑤高校歴史教
育のあり方を考える
2014 年 6 月、日本学術会議(史学委員会・高校歴史教育に関する分科会)によって「再び高校
歴史教育のあり方について」という提言が出された。この日本学術会議による提言は、高校の世
界史教育のあり方を大きく変える可能性をもつものであり、
「西洋中世」を研究や教育の専門のフ
ィールドとする者にとっては、今後の自身の立場を大きく変えかねない重要な問題を含むもので
ある。本報告は、「西洋中世」を研究や教育の専門のフィールドとする者が日本学術会議の提言
をどのように考えるのか、という問題提起を試みるものである。
6. 川合 恵生(東京女子大学大学院)
アリストテレス魂論の伝来――キリシタン宣教師が見た日本人の魂観――
日本におけるキリスト教布教活動の最初期において、イエズス会宣教師たちは日本人との魂観
の違い、すなわち死後の魂の可滅性をめぐる問題に直面した。彼らはアリストテレスの『デ・ア
ニマ(魂について)』に由来する西洋的魂観を日本人に説いたが、その具体的な内容や方法は如何
なるものであったのか。宣教師らの教養の背景や問題意識に着目しつつ、本発表では A.ヴァリニ
ャーノの『日本のカテキズモ』を中心に、上記の問について明らかにすることを試みる。
7. 北舘 佳史(中央大学(非常勤))
13 世紀後半のポンティニー修道院の書簡コミュニケーション
本報告はシトー会ポンティニー修道院の書簡の範例集(BnF, lat. ms. 11384)を利用して 13 世紀
後半の修道院のあり方を検討することを目的とする。前回の報告では世俗社会との関係を中心に
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扱ったが、本報告ではシトー会やポンティニーの系列組織の内部統制や外部の教会組織との間の
コミュニケーションに注目し、そこにおいて書簡が果たした役割について考察する。
8. 窪
信一(東京大学大学院)
14 世紀ビザンツにおける天文学の状況:メリテニオテスによる系譜とその位置づけ
アダム、セトの子孫からゾロアスター、アブラハム、ヘルメス・トリスメギストスを経てピュ
タゴラス、プラトン、そしてプトレマイオスへ。14 世紀半ばに書かれたテオドロス・メリテニオ
テスの天文学書『トリビブロス』の冒頭では、それまでの天文学書に見られない奇妙な系譜が論
じられる。本報告では、ヘシュカズムを巡る神学論争による天文学の不安定な状況と論争におけ
るメリテニオテスの立ち位置から、その位置づけを試みる。
9. 佐野 大起(東京大学大学院)
テオドロス・メトキテスの 2 つの皇帝賛美演説の作成年代について
ビザンツ帝国後期の知識人テオドロス・メトキテス (1270-1332) の手による、皇帝アンドロニ
コス 2 世 (r. 1282-1328) を称揚する 2 つの演説は、その作成年代について複数の異なる見解が示
されているものの、いずれも問題を包含している。本報告では、特にメトキテスの演説に言及し
ている同時代の一通の書簡を手掛かりとしながら両演説の内容を分析し、これらの諸仮説の妥当
性を検証する。
10. 関沼 耕平(東京大学大学院)
教皇インノケンティウス3世と「政治的十字軍」――第四ラテラン公会議決議文にお
ける十字軍理念――
教皇インノケンティウス3世による「政治的十字軍 Political Crusades」の創出についてはいくつ
かの見解がある。Norman Housley は、十字軍理念には常に「政治的十字軍」の概念が包含され、発
展し、1215 年の第四ラテラン公会議において総合されたと考える。一方、Christopher Tyerman は、
インノケンティウス 3 世治世前の十字軍理念の曖昧さを指摘し、同公会議の革新性を主張する。今回
の報告では、
「政治的十字軍」に関する研究史を整理し、同公会議の決議文の十字軍史における意義を
再考する。
11. 柴田 隆功(東京大学大学院)
オットー大帝期の法的な認識と実践
中世ドイツ法制史は主にカロリング期とシュタウフェン期を観察対象とし、10-11 世紀はひと
括りにされた上、法的な史料に根ざした調査に乏しい。その穴は、叙述史料中の紛争関連の記述
から導き出されたルールによって埋められたように見えるが、しかし、これらはそれぞれ同時代
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的な法的認識の表出である。そこで本報告では、オットー大帝期の国王証書の分析から法の活用
に現れる同時代的認識を検討し、両分野における法的なものの統合的理解への端緒を開く。
12. 高橋
優(東京大学大学院)
カール宮廷の教会伝統との対峙――『一般訓令』前半部の再検討を通じて――
フランク王カールの治世(768~814 年)における比較的長大なカピトゥラリアとして知られる
『一般訓令』
(789 年)は大きく分けて前半部と後半部からなり、その前半部は過去に開催された
公会議・教会会議の決議文や教皇令などを典拠とした教会法の集成をなしている。この前半部の
形式と内容を再検討することを通じて、カール宮廷がいかに従前の教会伝統と対峙したのかを解
明し、カール宮廷の王国統治プログラムの教会的バックボーンを浮き彫りにする。
13. 田辺 めぐみ(帝塚山学院大学(非常勤))
「見えないもの」の痕跡――異文化教育としての写本彩飾――
時間、音、声、権力、聖性、夢、想い、信仰、祈念…この世にあまたある「見えないもの」は
いかに可視化されていたのか。本発表では、フランス中世末期の写本彩飾において、それらの様々
な「かたち」がいかなる歴史的・文化的背景に基づいて生成されているかを解明していく。かか
る試みが、異文化を捉えるために必要な方法や視座を学ぶ好機となる事を具体的な成果と共に報
告したい。
14. 津澤 真代(早稲田大学大学院)・濱野 敦史
14 世紀イタリア都市と皇帝――ラニエリ・サルド『ピサ年代記』を読む――
14 世紀の法学者バルトロ・ダ・サッソフェラートによれば、イタリア都市のコムーネは上位者
を認めない存在であった。しかし都市は皇帝の影響力から完全に逃れていたわけではない。ピサ
のラニエリ・サルドは、カール 4 世のピサ到来に触発されて年代記の執筆に着手した。本報告で
は、彼の記述からピサや他の都市が 1355 年の皇帝の来訪にどのように対処したのかを読み解き、
14 世紀における皇帝とイタリア都市の関係を検証してゆきたい。
15. 永井 裕子(東京大学大学院/ローマ大学)
ピントリッキオ作『授乳の聖母』における中世の図像――アーニョロ・ガッディの祈
念画からピントリッキオの祈念画へ――
本報告はベルナルディーノ・ピントリッキオ(1456 頃-1513)が描いた《授乳の聖母》(Sarah
Campbell Blaffer Foundation, U.S.A.)の図像について考察を行う。本作品のような《謙譲の聖母》
として描かれた《授乳の聖母》は 15 世紀半ばまでイタリア各地で頻繁に描かれた図像であるが、
本作品制作時の世紀末には時代錯誤的な図像となっていた。図像選択の理由として、ピントリッ
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キオの故郷ペルージャ大聖堂に置かれていた 14 世紀末の聖母子像が本作品の図像モデルとなっ
た可能性を指摘する。
16. 中西 恭子(東京大学研究員/明治学院大学(非常勤))
ユリアヌスの信仰世界
その構造と宗教史的意義
紀元後 4 世紀のローマ皇帝ユリアヌス(331/2-363 年、単独統治 361-363 年)は、伯父コンス
タンティヌス一世以来のローマ帝国における親キリスト教政策を放棄し、イアンブリコス派新プ
ラトン主義を援用して「父祖伝来の宗教」を称揚する独自の宗教政策を行ったことで知られてい
る。彼の理想とした哲人統治国家の宗教とは何であったのか。本報告では、現存するユリアヌス
の著作から再構成可能な彼の信仰世界の特徴と、その宗教史上の意義を紹介する。
17. 松原
文(東京大学大学院)
ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハ『パルチヴァール』に描かれた triuwe(誠)
13 世紀初頭に中高ドイツ語で書かれたヴォルフラムの『パルチヴァール』を扱う。プロローグ
において triuwe(誠)が作品のテーマだと言われている通り、この語は随所に現れる。アーサー
王騎士の持つべき様々な美徳の根幹に位置するとされる triuwe だが、ヴォルフラムはその負の作
用をも描き出した。本発表ではヴォルフラムの原典であるクレティアン・ド・トロワの作品と比
較しつつ、『パルチヴァール』における triuwe の諸側面を指摘したい。
18. 龍
真未(東京藝術大学大学院)
カロリング期黙示録写本における図像変遷をめぐる一考察――《ヴァランシエンヌ黙
示録》の「最後の審判」を中心に――
本報告は、
9 世紀第 1 四半期に制作された《ヴァランシエンヌ黙示録》(Valenciennes, Bibl. Mun.,
Ms. 99)の挿絵表現を考察対象とする。ほぼ同時期に制作されたトリーア本(Trier, Stadtbibl., Ms.
31)と比べると、本作品は黙示録テクストの物語・説話的描写が極端に省かれているとわかるが、
インスラー
このような図像表現は 島 嶼 写本の影響下で制作されたことに起因すると考えられる。本報告では
「最後の審判」図像の比較を通じてカロリング期黙示録写本の図像変遷の解明を目指す。
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