平方根の近似値を筆算で求める 中卒レベルの数学からのスタート 1.41

4-②(第4部会)
平方根の近似値を筆算で求める
―課題研究の例としてー
春日部高等学校 石渡勇人
SSHの課題研究基礎(1 単位科目)において,1 年生 21 名は,平方根の近似値を求める 4 通りの
方法を学んだ後,それぞれが課題を設定し筆算で近似値を求める活動をおこなった.その結果,
近似値を求める方法のよさがわかり,近似値の有効数字への関心も高まった.解法を学び,入試
問題が解けるようになるための数学とは異質の数学に出会い,数学に対する見方を広げることが
できたと思われる.
中卒レベルの数学からのスタート
このように,1 辺
の長さが 1 10 ずつ
高校1年生の4月の段階で知っている
2
に関する知識は貧弱である. 1.41 = 1.9881 ,
1.422 = 2.0164 であるから, 2 ≒ 1.41L と
小さくなる正方形
説明できる程度である.
面積が 2 に近づく
2
を L 字型に並べて,
筆算による速算法と近似値を求める4つの
ように正方形を構
方法を紹介した.4つの方法はいずれも速くて
成していく.
確実で正確な方法であるので,
「は・か・せの
近似値はつねに
方法」と呼ぶことにした.生徒自身が筆算をお
2 より小さく,小数第 n 位
n
までの近似値の誤差は 1 10 より小さい.
こない,これらの方法がたしかに「は・か・せ
開平法の実際の計算のはじめの部分を示す.
の方法」であると実感することを目指した,
近似値を求める「は・か・せの方法」
1
(1)開平法
1
開平法は, a に ( a + a + b ) × b すなわち
2 4
2
2
2ab + b 2 を加えると ( a + b ) となることを用
4
2 8 1
いる.
1
2 を開平法で求める.
(1)
1.
4
1
4
2 0 0 0 0 0 0
2 8 2 4
1 辺の長さ1の正方形 A 1 を 1 個置く.
4
(2) 正方形 A 1 の隣り合う 2 辺の周りに 1 辺
の長さが 1 10 の正方形 A 2 を L 字型に
(10 + 10 + 4 ) × 4 = 96 個並べて, A 1 より
大きい面積の正方形 A′ を作る.
(3) 正方形 A′ の隣り合う 2 辺の周りに 1 辺
の長さが 1 100 の正方形 A 3 を L 字型に
( 280 + 1) ×1 個並べて.A′ より大きい面積
の正方形 A′′ を作る.
1
1 0 0
9 6
4
2
1
1
0
8
1
1
0
1
9 0 0
2 9 6
■開平法は生徒の誰も知らなかった.説明は 1
4-②-1
回だけにとどめ,説明を理解できた生徒が他
の生徒に教えることで.ほどなく,開平法は
全員ができるようになった.
1.4142135623 7309504880 1688724209
6980L
(生徒 F は小数第 34 位まで求めた.)
(2)ニュートン法
■直線が放物線に接するための条件は判別式
直線 y = mx + b ・・・①が
(
で表せる.しかも,ニュートン法は図があれ
)
放物線 y = x − 2 ・・・②と点 a, a − 2 で
2
接するための条件は
(
2
用して近似値を求める方法があることに驚
)
(1) 直線①が点 a, a − 2 を通る.
2
ば,生徒も納得しやすい.生徒は,接線を利
いていた.
(2) ①と②から y を消去して得られる x の
■漸化式は初出である.このため,説明はゆっ
2 次方程式 x − mx − ( b + 2 ) = 0 が重解
をもつ.
くりと丁寧にしたが,⑤を理解することはや
2
が同時に成り立つことである.
法を実際に自分で用いてやっと漸化式⑤の
(1),(2)より, m = 2a , b = − a − 2
2
(
意味がわかるようになった.
)
ゆえに,点 a, a − 2 で放物線②に接する直
2
はり生徒には難しい.③から④を繰り返す方
線の式は y = 2ax − ( a 2 + 2 ) ・・・③である.
直線③と直線 y = 0 ( x 軸)の交点の x 座標は
■漸化式⑤を利用して, a 5 を求める計算の場
合, a4 の分母・分子がともに 6 桁の数であ
るから,6 桁の数どうしの乗法を 3 回行う.
a 2 + 2 ( 665857 470832 ) + 2
a5 = 4
=
2 a4
2 × ( 665857 470832 )
2
a2 + 2
・・・④である.
x=
2a
以上のことから,次の漸化式を得る.
a n+1 =
an + 2
2an
665857 2 + 2 × 4708322
=
2 × 665857 × 470832
2
・・・⑤
a5 の分母・分子は 12 桁の数になる.ほとん
ど生徒が a 4 まで求めて,計算を諦めている.
■ a n を小数展開したときの有効数字は a n+1
を小数展開して初めてわかる. a 4 を小数展
3
a1 = = 1.5 とすると,漸化式⑤により,
2
次のような 2 の近似値を得る.
17
a2 =
= 1.416L
12
開したときの有効数字を求めるために,生徒
(有効数字は小数第 2 位まで)
は開平法の結果を参照した.(生徒 F は a 6 を
577
a3 =
= 1.41421 5L
408
小数第 34 位まで求めた.)
(有効数字は小数第 5 位まで)
(3)ヘロンの方法
665857
a4 =
= 1.41421 35623 74L
470832
2つの正の数 a, b について,算術平均,幾何
平均,調和平均をそれぞれ
(有効数字は小数第 11 位まで)
a+b
, G ( a, b ) = ab ,
2
1
2ab
H ( a, b ) =
=
とすると,
1⎛ 1 1⎞ a+b
⎜ + ⎟
2⎝a b⎠
H ( a, b ) < G ( a, b ) < A ( a, b ) が成り立つ.
A ( a, b ) =
886731088897
a5 =
627013566048
= 1.41421 35623 73095 04880
1689L
(有効数字は小数第 23 位まで)
1572584048032918633353217
1111984844349868137938112
=1.41421 35623 73095 04880
a6 =
16887 24209 69807 85696
71875 377
(有効数字は小数第 47 位までカルキングによる)
ab = 2 となるように a, b を定めると,
2ab
2
=
G ( a , b ) = 2 , H ( a, b ) =
a + b A ( a, b )
2
a > 2 とすると, b = < 2
a
4-②-2
a + b 2a
<
=a
2
2
2
2
よって, H ( a, b ) =
> =b
A ( a, b ) a
よって, A ( a, b ) =
a 0 , a 1 , a 2 , a 3 ,L , a n
= a0 +
1
a1 +
ゆえに, b < H ( a, b ) < 2 < A ( a, b ) < a
これを利用して,次の結果を得る.
n
( a, b )
1
( 2,1)
⎛3 4⎞
2 ⎜ , ⎟
⎝2 3⎠
⎛ 17 24 ⎞
3 ⎜ , ⎟
⎝ 12 17 ⎠
4
(
577 816
,
408 577
)
1
a2 +
1
a3 +
a n−1 +
An
Hn
3
2
17
12
577
408
4
= 1,33L
3
24
= 1.4117L
17
816
= 1.414211L
577
665857
941664
470832
665857
c n = a 0 , a 1, a 2 ,L , a n とし, c n の分子を
p n ,分母を q n とすると.次の式が成り立つ.
= 1.4142 35623 71L
a1 = 1.5 としてニュートン法で求めた値 a n
⎧⎪ p n = a n p n −1 + p n−2
⎨
⎪⎩ q n = a n q n −1 + qn−2
ただし, c 0 = a0 1 p −1 = 1 , q −1 = 0
p0 = a0 , q0 =1
2 のとき, x = 1, 2, 2,L = 1, 2
a0
3
7
41
= 1 ,c1 = ,c 2 = ,c 3 =
,
1
2
5
29
99
239
, c5 =
c4 =
70
169
c0 =
徒は皆無であった.筆算をおこなって,初め
てそのことに気がついた.
しかし,その理由を説明できた生徒はいな
を求める筆算だけでも大変という体験をし
x=
例
に等しい.このことに初めから気がついた生
かった.n = 1, 2, 3, 4 のときの A n や H n の値
1
an
次に, n = 1, 2, 3,L について,
■ A1 = 1.5 としたので, A n ( n = 1, 2, 3,L )は,
小数になおすと,次の関係が推測できる.
c2 < c4 < c6 <L <
2 < L < c 5 < c 3 < c1
■連分数はその表記や実際の計算の手順など,
た様子である.
■算術平均,幾何平均,調和平均の大小関係を
利用する場面に接することができ,生徒の学
生徒にとって驚きの連続であった. 2 から
24 までの連分数展開を得るのも大変という
生徒が多かった.
習意欲が高まった.
2=
3=
5=
6=
7=
8=
(4)連分数による近似
実数 x に対して, x を越えない最大の整数
を [ x ] で表す.
実数 x ≠ 0 に対して, x 0 = x , a 0 = ⎡⎣ x 0 ⎤⎦
とする. i = 1, 2,3,L について,
1
= x i −1 − a i −1
xi
1
L
a i = ⎡⎣ x i ⎤⎦
1, 2
1,1, 2
2, 4
2, 2, 4
2,1,1,1, 4
2,1, 4
10 =
11 =
12 =
13 =
14 =
15 =
3, 6
3,3, 6
3, 2, 6
3,1,1,1,1, 6
3,1, 2,1, 6
3,1, 6
■ニュートン法で近似値を求めた体験から,生
〔実数 x i −1 に対して,その整数部分を a i −1 ,
〕
小数部分の逆数を x i とする.
さらに,連分数展開を次のように定義する.
徒は漸化式を使えるようになった.
■平方根の連分数表示に見られる規則性を見
つける活動では全員が「このときは数学が面
白いと思った」と感想を述べている.
{ }
■数列 c n において奇数番目の項の列は単調
4-②-3
減少し,偶数番目の項の列は単調増加するこ
■生徒に4つの方法を実際に用いて近似値を
とで 2 の近似値を求めていくことができ
求める課題を自分で考え,課題レポートとす
ることに生徒は新鮮な感動があった.
るように指示した.筆算で具体的に近似値を
求める活動も貴重な体験であると指導し,そ
4つの方法の特徴
の活動を通して得た実感を大切にするよう
開平法:カメのように進みは遅い.筆算は見た
目ほど大変ではなく,着実に近似値が求まる.
に促した.通常,課題研究ではテーマの設定
に苦労するが,今回は時間がかからなかった.
ニュートン法:うさぎのように進みは速い.し
筆算に挑戦した多くの生徒の感想
かし,有効数字を求めるためにはもう1回計
・筆算は意外と面白いことがわかった.
算が必要であり,その計算は,桁数が 2 倍に
増える数どうしの乗法を 3 回する必要があ
・近似していく様子が確かめられた.
近似する方法を発展させた生徒もいた.
り,計算量がすぐに膨大になる.
・ニュートン法によって立方根を求める.
ヘロンの方法:
(算術平均)>(調和平均)を
・ブリックスの方法で log10 2 を求める.
利用することで,近似値を求めるたびに有効
・近似値と誤差の範囲の関係を調べる.
・(Excel を利用) x が小さい数ならば,
数字を確実に決定できる.
連分数近似の方法:連分数近似を求められるよ
2
x
4
4
2
4
2 + x の近似式は 4 2 +
x
8
2 + x の近似式は 2 +
うにするまでの準備に時間がかかる.漸化式
の扱いにも慣れる必要がある.
生徒は,平方根の近似値を筆算で実際に求め
近似値を筆算で求める活動を指導してわ
かったこと
てみる体験によって初めて,それらが「は・か・
■12 桁の数の 2 乗を求めるとなると,筆算で
せの方法」であることが実感できた.また,
「役
はなく電卓を使いたくなるが,巷の電卓では
に立つ式とはどういう式のことか」や「値を求
そのままの計算はできない.8 桁の電卓を利
める方法がわかっても,実際に答えを得ようと
用する場合,4けたずつ3つの数にまとめ,
すると計算が膨大になることがある.」などを
分割して計算し,それらを後で,位取りに注
学んだ.筆算で平方根の近似値を求める活動を
意しながら足し合わせる.
通して,数学という学問の一端に触れることが
できたと考えられる.
この工夫を見つけた生徒も現れた.
■一般に,桁数が大きくなると,数字を正しい
位置に書き並べること自体が難しくなる.
今後の課題
2 の近似値を 1..41421356 と覚えていて
5 ミリの方眼紙を利用すれば,この問題を
も,小数第 9 位の値を求められる高校生はきわ
解決できることがわかった.
■4 つの方法のうち,開平法が最もわかりやす
く,その次に,ニュートン法,ヘロンの方法
めて少ない.
高校数学では平方根,立方根, sin1° ,
と続く.連分数近似は連分数そのものを理解
log10 2 , π , e など,さまざまな無理数が登
することに時間がかかり,どの生徒も一番難
場するが,多くの高校生がその近似値を求める
しいという感想である.
方法を学び,実際にその方法が「は・か・せの
しかし,連分数は互除法やペル方程式など
とも関連し,高校数学の内容として扱える.
方法」であると実感できるような指導法の開発
が求められている.
4-②-4