有機物施用が及ぼす農地土壌への炭素蓄積効果を全国推定

主要成果
15
有機物施用が及ぼす農地土壌への炭素蓄積効果を全国推定
[要約]
土壌中の炭素動態を計算するローザムステッド・カーボン・モデル(RothC)を日本の全
農地に 1km 解像度で適用することにより、堆肥の施用や二毛作による作物残渣すき込み
が及ぼす土壌への炭素蓄積効果を、全国レベルで推定しました。
[背景と目的]
農地管理の工夫により土壌炭素量を増加させると、大気中の CO2 を吸収した勘定になり
地球温暖化の緩和に役立つため、各国はその効果を全国規模で把握することが求められ
ています。そこで、土壌炭素の蓄積・分解を計算する RothC モデル(図 1)を 1km メ
ッシュ単位で全国の農地に適用し、堆肥や作物残渣の土壌への投入量を増やす仮想的な
シナリオに基づき、土壌への炭素蓄積効果を推定しました。
[成果の内容]
農地が含まれる各 1km メッシュを、メッシュ内で最大面積を占める土壌統(土壌の分
類単位)で代表し、0-30cm の単位面積当たり土壌炭素量(tC ha-1)の変化を、1990 年を
初期値として4つの仮想的シナリオに基づき RothC で 25 年間計算するシステムを開発し、
各メッシュの農地面積をかけて土壌炭素量(tC)を全国集計しました(図2)。
シナリオは、A(有機物未投入シナリオ:最低限の作物残渣である根と刈株だけを投入)、
B(堆肥投入シナリオ:堆肥としてすべての水田に 1.0 tC ha-1 年-1、水田以外の農地に 1.5
tC ha-1 年-1 を投入)、C(水田二毛作シナリオ:現在の水田がすべて水稲単作と仮定した
うえで、全ての水田で裏作に麦を作付し、麦の残渣として 0.7 tC ha-1 年-1 を投入)、D(B
と C の両方を実施)の4つを使いました(図3)。
その結果、A シナリオと、B~D シナリオとの土壌炭素量の差を、B~D の活動が及ぼす
土壌への炭素蓄積効果とした時、全国規模の総量は 25 年間でそれぞれ 32、11、43 MtC
となりました(図4)。
これを単位面積・1 年あたりの量でみると、B ~D シナリオは 25 年平均でそれぞれ 0.30、
0.10、0.41 tC ha-1 年-1 で、IPCC 第 4 次報告書など既往の報告による農地管理が及ぼす土
壌への炭素蓄積効果(0.14~0.24 tC ha-1 年 -1)と類似の値となりました。
このように、RothC モデルと土壌の空間的分布データを結びつけた本システムは、日本
の農地において有機物施用が及ぼす土壌への炭素蓄積効果を見積もるのに有効です。
本研究は農林水産省委託プロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響の評価と緩和及
び適応技術の開発」による成果です。
リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト
研究担当者:農業環境インベントリーセンター
白戸康人、大倉利明、大気環境研究領域
幸、米村正一郎、生態系計測研究領域
横沢正
坂本利弘、中井信(元(独)農業環境技術研
究所)
発表論文:Yokozawa et al., Soil Science and Plant Nutrition, 56: 168-176 (2010)
70
入力データ
気象:気温、降水量、水面蒸発量
土壌:粘土含量、作土深、初期の炭素含有率・仮比重
管理:植物遺体・堆肥からの炭素投入量、植被の有無
土壌炭素量 (tC ha‐1)
RothC
モデル
出力データ:毎月の土壌炭素量
モデル性能の検証例
-1 ‐1
土壌炭素
(t ha
SOC (t ha
))
30
メッシュ内で最大面積の土壌統
のデータでそのメッシュを代表
60
点:実測値
20
50
40
30
1990年の土壌
炭素量(0‐30 cm)を初期値。
平衡を仮定。
20
10
10
熊谷: -N
線:モデル
0
1975
1977
1979
1981
0
1970
1983
シナリオ
堆肥を現物で水田に10t ha‐1、畑に15t ha‐1施
用。現物のC含有率を10%として計算。
水田
A.有機物未投入
畑
作物残渣
堆肥
作物残渣
堆肥
0.46
0
0.41
0
B.堆肥
0.46
1.0
0.41
1.5
C.水田二毛作
0.46 + 0.70
0
0.41
0
1.0
0.41
1.5
D.堆肥+水田二毛作 0.46 + 0.70
水稲の
根+刈株
麦の根+刈株
1990
2010
年
図2 1km 解像度全国計算の方法
1km メッシュごとに、水田用、黒ボク土畑
用、非黒ボク土畑用の3つの RothC モデル
を使い分けて上記の計算を行い、全国集計
しました。
図1 RothC モデルの概要と検証例
少ない入力情報で、毎月の土壌炭素量
を計算するモデルです。日本の農耕地
でも性能が検証されています。
炭素投入量(tC ha-1 年-1)
4つの仮想
的シナリオ
で25年間
計算
麦・大豆の
根+刈株
根+刈株のC量:全国平均収量、作物体の部位別乾物重比、乾物のC濃度40%から計算
収量(t ha‐1)
(根+刈株)/収量
根+刈株(tC ha‐1)
水稲
5.0
0.230
0.46
麦
3.7
0.473
0.70
大豆
1.7
0.162
0.11
平均0.41tC ha‐1
図3 推定に使った 4 つ
の仮想的なシナリオ
作物残渣(根+刈株)の
みすき込む有機物未投
入シナリオ(A)との比
較により、堆肥(B)や
水田二毛作による作物
残渣すき込み(C)が土
壌炭素をどのくらい増
加させるのかを評価し
ました。
50
土壌炭素
蓄積効果
未投入シナリオとの差(M t C)
45
40
35
30
堆肥+二毛作
25
20
堆肥
15
10
水田二毛作
5
0
1990
1995
2000
2005
2010
2015
25年間の土壌炭素蓄積効果(未投入との差、MtC)
水田
畑
合計
18
14
32
水田二毛作(全水田に麦の根+刈株投入) 11
‐
11
堆肥+水田二毛作
14
43
堆肥(水田1t、畑1.5t)
29
図4 堆肥・水田二毛
作が及ぼす土壌への
炭素蓄積効果
例えば、堆肥シナリオ
の場合、有機物未投入
の場合よりも、25 年間
で 3200 万トンの炭素
が余分に蓄積される
計算になります。