情 報 教 育 と その評 価 小学校におけるカリキュラムと評価2 輪之内町の情報教育カリキュラム 岩 田 諦 慧 抄 録 である。そのため,学校ごとに作成されるカリキュラム 輪之内町においては,平成2年度から小中一貫したコ は,その内容に大きな差が出てくるのは避けられない状 ンピュータリテラシー段階表を作成し,数回の改訂を経 況である。そのため,各小学校における児童の情報リテ て現在の情報活用能力段階表に至った。 ラシーの力,すなわち情報活用能力に差が生じてくるこ 情報活用能力段階表は,発達段階の達成目標として位 置づけられ,その評価は学校独自に行われている。 情報教育のカリキュラムは,総合的な学習の時間等を 中心に展開され,観察による評価,作品による評価,自 とになる。この小学生はすべて同一の中学校に進学する。 小学校における,個々の情報リテラシーの差,すなわち 情報活用能力の差がそのまま中学校に引き継がれること になる。 由記述による評価等の方法で行われている。 <キーワード> 情報活用能力,小中一貫,情報教育,情報リテラシー 1 はじめに 輪之内町においては,文部省の指導要領の内容の早期 実現と町の第2次総合計画の中の一つの柱の「心豊かな 人づくり事業」の一環として,昭和 63(1989)年に情報 教育を町の重点事業に掲げ,取り組みが始められた。研 修期間をおいて,平成2年度から本格的に情報教育をス タートさせた。その後,マルチメディアの教育利用の研 図1 情報活用能力段階表 (http://www.tanpopo.ne.jp/~itr/dankai/dankai.pdf) 究・実践,さらには,インターネットの教育的利用,校 内LAN・地域LAN(町内LAN)の教育的利用の試 行・実践へと研究を深めてきた。 2 小中一貫した情報活用能力の育成 情報教育のカリキュラムは,「生きる力」を育成する 構成要素の一つであるため,教科や総合的な学習のカリ キュラムとリンクする中で,その有効性と実効性が期待 できるものである。そのため,情報リテラシーの達成目 標の一覧としての「情報活用能力段階表」や,教師の指 図2 情報活用能力指導表 (http://www.tanpopo.ne.jp/~itr/dankai/sidou.pdf) 導内容一覧としての「情報活用能力指導表」を,さらに 小中一貫の情報教育のカリキュラムを構成し実施する 具体的な学習活動の内容までに踏み込んだものとするカ ためには,各小学校間における情報活用能力の差,すな リキュラムが必要となる。輪之内町では,このレベルで わち,情報リテラシーの差をなくすことが重要になる。 のカリキュラムは各学校の裁量に任されているのが現状 小学校段階での情報リテラシーの差は,そのまま中学校 IWATA Taiei:輪之内町教育委員会(岐阜県安八郡輪之内町中郷新田 1495) - 23 岩田諦慧:小学校におけるカリキュラムと評価2 における情報リテラシーの差となり,中学校段階におけ とに,町内の小中学校担任は教科学習や総合的な学習の る情報リテラシーの定着を阻害する要因となる。そのた 時間,学級活動などの時間で情報活用能力の育成を実践 め,小学校段階での情報リテラシーを,発達段階におけ している。 る達成目標まで到達させることが重要なことになる。た 実践するにあたっては,どの時間を活用して,どのよ だ,ITの急速な発展に伴い,「情報活用能力段階表」 うな方法(形態)で行うのかが問題となってくる。教科 も数回の改訂を行い現在のものに至っている。 学習・総合的な学習の時間・学級活動等,それぞれの場 現在の段階表は平成 11~12 年度に輪之内町情報活用 面で適切に行う必要性が考えられる。しかし現在の教科 部会で検討・改訂したもので,平成 12 年 10 月末に公開 学習カリキュラムの現状から考えると,その大部分は学 したものである。 級活動や総合的な学習の時間に実践されてる。 3 総合的な学習の時間(ふるさと学習) 総合的な学習の時間は,町内の各小・中学校において, 独自にカリキュラムを作成し,実践されている。ここで は,大藪小学校の実践をもとに実践を紹介する。 図3 メディアに関するスキル指導表 (http://www.tanpopo.ne.jp/~itr/dankai/media.pdf) 図5 図4 情報モラル指導表 (http://www.tanpopo.ne.jp/~itr/dankai/moral.pdf) 図 1 は「情報活用能力段階表」である。この表では情 報活用能力を次の4項目に分けて発達段階(A・B・C ・D)に応じて到達目標を記述している。 発達段階は「A:小学校低学年」「B:小学校中学年」 「C:小学校高学年」「D:中学校」を目安として設定 している。 図 2 は「情報活用能力指導表」,図 3 は「メディアに (1) 第3学年 ① 活動名 ふるさと学習 地域・情報 ◇大薮小の○○名人を探せ,◇大薮の○○名人を探せ ② 目標 ・自分の周りにいる○○の得意な子○○の上手な子を探 し,名人として校内に紹介する方法を考え,自分たち で取材活動を進めて全校に紹介することができる。 ・大薮小の○○名人を取材し,紹介するためのデジカメ, ラジカセ,パソコン(ロ-マ字でのワ-プロ打ち)の 方法が分かる。 関するスキル指導表」,図 4 は「情報モラル指導表」で ・大薮の○○名人を取材したり,名人の技を体験したり ある。これら3つの指導表は「情報活用能力段階表」を して,分かったことや感じたことをまとめることがで 受けて,実際の指導の際,どのような内容を基準にして きる。 指導していくのかを示している。この3つの指導表をも - 24 学習情報研究 2004.7 ・校区の○○名人について調べたり,体験したりしたこ とを,学習発表会で全校の子に自分の感想を入れて, 分かりやすく発表することができる。 ③ 育てたい力 ・願いをもとに立案した計画に沿って,調べ学習を織り 交ぜながら課題を追究していく力 ・取材対象を決め,情報収集の方法を考えて,相手に分 かりやすいように取材する力 ・取材したことから,自分の感じたことを周りの人に書 いたり,話したりして伝える力 ・デジカメ,ラジカセ,ビデオなどの情報機器を使うこ とで,それらの良さが分かる力 ・取材対象を決め,自分の調べたいことを相手から取材 ・輪中の様子や治水工事の内容,桝屋伊兵衛さんについ て,相手に伝える力 ・水屋,歴史民俗資料館,木曽三川公園で調べたいこと をはっきりさせ,見学への意欲を高める力 ・調べたいことを計画に沿って,追究する力 ・9・12水害について調べたいことをはっきりさせ, それについて課題をつくる力 ・発表会で自分の課題に沿って追究したことを分かりや する力 ・集めた情報から,分かったことや自分の感じたことを すく,家族や友達に伝える力 ④ 表現する力 ・取材活動を通して自分の集めた情報や自分の感じたこと を情報機器を使って周囲の人に分かりやすく伝える力 ④ 作る力 教科・領域等の連携 教科・領域等の連携 国語 ・伝えたいことをはっきりさせて書こう ・調べたことをほう告しよう 国語 ・電話で約束 ・知らせたいことを,分かりやすく書こう ・伝えよう,わたしたちの心 ・調べたことを発表しよう 社会 ・たしかめながら話す・聞く ・きょうどに伝わる ・「伝える」ということを考えよう 道徳 ・郷土愛 社会 道徳 (3) 第5学年 ① 活動名 ・郷土愛 ◇大槫川を知ろう,◇大槫川をよみがえらせよう,◇大 ・わたしたちのまちみんなのまち (2) 第4学年 ① 活動名 地域・情報 ◇桝屋伊兵衛さんの人柱,◇水とのたたかい今・昔, ◇安八町9・12水害 ② 目標 ・水害に苦しんできた人々の暮らしぶりや治水工事につ いて知る。 ・桝屋伊兵衛さんがなぜ人柱になったかを理解し,分か ったことを交流会で発表できるようにする。 ・輪中で暮らす人々は,今までどんな苦労をし,そのた めにどんな工夫をしてきたかを知ることができる。 ・地域の人から話を聞いたり,建物や土地の利用につい て見学することを通して低地のくらしを理解すること ができる。 ・9.12水害について,水害の様子や人々の気持ちを 調べることができる。 環境・情報 槫川をきれいにしよう ② 目標 ・自分たちの地域を流れる大槫川に興味・関心をもち, どのような川なのかを知ることができる。 ・大槫川をよみがえらせるために,自分にどんなことが できるかを考えることができる。 ・大槫川をきれいにするために考えた活動(生ゴミ処理, グラウンドワ-ク,油のリサイクルなど)を実践する ことができる。 ・実践から分かったこと(学んだこと)を,効果的に(多 様な方法で)表現し,伝えることができる。 ・環境にかかわる意識を高め,自分の学んだことを家庭 や地域にも広げることができる。。 ③ 育てたい力 ・自分たちの地域の環境にかかわる疑問,興味・関心, 体験等から,課題を設定する力 ・調べたいことを新聞にまとめ,発表することができる。 ・調べる方法を考え,計画を立てる力 ③ ・計画に基づいて,自分の考えをもって実践する力 育てたい力 ・一人ひとりがふるさと輪中の歴史や治水工事について 調べてみたいという願いを持ち,それをもとに課題を ・分かったことを,効果的に工夫して表現する力 ・まとめたことを多様な表現方法で発表する力 - 25 岩田諦慧:小学校におけるカリキュラムと評価2 ④ 教科・領域等の連携 べる」→「まとめる」→「伝える」のサイクルでを繰り 国語 返し行うことで、育てたい力が順次達成していけるよう ・調べたことを整理して書こう に構成される。 ・体験したことを分かりやすく伝えよう 「調べる・まとめる」段階では,活動ごとに「分かっ ・インタビュー名人になろう たこと,自分の考え,思ったこと」などを記述させ,一 ・伝え方を選んで,ニュースを発信しよう 人ひとりの実態を把握しながら進めていくことで,学習 社会 の評価が行われる。 ・わたしたちの生活と環境 (4) 第6学年 ① 活動名 福祉・情報 ◇出会い,◇ふれあい,◇共に生きる ② 目標 ・地域には,どんな人たちが住んでみえるのか,また, どんな公共施設があるのかを知ることができる。 ・地域に住んでいるお年寄りとふれあう中で,思いやり の気持ちを持って接することができる。 ・お年寄りに喜んでもらえるようにするために,自分た ちができることを考え,実践できる。 ・今まで実践し,学んできたことをまとめ,みんなに伝 えることができる。 ③ 写1 河川の清掃 育てたい力 ・興味,関心,共通体験や仲間との交流から追究したい 課題を見つける力 ・計画を立てるために,調べる方法を考え実践し,自分 の考えに従って活動を進める力 ・計画に従って,知識・技能・態度などを踏まえ,実践 する力 ・仲間と協力して実践する力 ・実践を通して,気づいたことや分かったことを,今後 の活動に生かす力 ・今まで活動してきたことを,自分なりにまとめる力 ・自分の学んだことを,仲間に伝える力 ④ 教科・領域等の連携 写2 発表風景 国語 ・効果を考えて書こう また,「伝える」段階では,調べたこと・分かったこ ・話し合って考えを深め,意見文にまとめよう と・感想の区別やつながり,話し方(声の大きさ・スピ ・目的に応じて書こう ード・アイコンタクト)などを観点にチェックシートを ・わたしの六年間 利用して,自己評価,相互評価で行われている。 ・伝えたい「何か」を見つけよう 社会 ・みんなの願いを実現する政治 これらの評価は,授業者が観察による評価,作品によ る評価,自由記述による評価等が実際に行われている。 評価については,試行錯誤している段階であり,教科 学習・総合的な学習の時間・学級活動等,達成目標と情 4 評価について このような体験的・問題解決的な学習活動では,「調 - 26 学習情報研究 2004.7 報教育の達成目標を目指すためにも,それぞれの教育目 標を明確にするとともに,それぞれの関係を整理し学習 指導の中に位置づけておく必要があると考えられる。
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