日本経済学会 A-6 財政収支と年金財政の計量分析 ・セッション名:財政収支と年金財政の計量分析 ・報告論文タイトル:「世代別将来可処分所得の機械的推計に関する研究」 ・報告者氏名:河口洋行 ・所属:国際医療福祉大学大学院 現在政府は、社会保障制度の一体的な改革が必要として、様々な形での検討を行ってい る。社会保障制度の一体改革を行う上で、国民に対して社会保障制度の将来像を示し、ど のような形で負担と給付を担うのかを説明する必要がある。しかし、これまでに行われて いる推計は、国民負担率などの、マクロ経済的な指標を利用している。しかし、国民にと ってはミクロ面での家計から見た指標でなければ、適切な理解は困難であるのが実情であ る。本稿では、社会保障制度が国民の将来に及ぼす影響を、賃金プロファイル別の可処分 所得の水準を機械的に推計することによって提示するものである。この推計結果から、社 会保障制度改革の議論に資する科学的根拠の一つを示したいと考える。 本研究では、政府の「負担と給付の見通し」と同様の経済前提条件及び社会保障負担を 設定し、大卒サラリーマンの賃金プロファイルから個々の家計の「個人可処分所得」にま で演繹してその水準を示し、世代間の格差を可処分所得の違いで比較した機械的推計であ る。推計方法としては、まず基礎となる経済条件を厚生労働省の「社会保障制度の負担と 給付の見通し(平成16年5月推計)」に準じて設定し、大卒サラリーマンを想定した3通 りの賃金プロファイルを設定した。当該給与所得から、社会保険料負担・直接税(所得税・ 住民税)負担、消費税負担を差引いて購買力から見た可処分所得を推計した。 世代間比較を行う場合には、現在(2005年)の35歳(便宜的に団塊ジュニア世代 と設定)が20年後(2025年)の55歳時点での実質的な可処分所得水準を算出し、 現在の55歳(便宜的に団塊世代と設定)と比較した。 推計の結果、団塊ジュニア世代が親世代である団塊世代と同等程度の生活水準を達成 できるのは、実質賃金上昇率が1.1%と置いたケースでは55歳時点で年収1100万 円の場合であった。一方で、賃金上昇率が0%で55歳時点の年収が800万円の場合に は、2025年の実質的な可処分所得は、2005年の水準に比して約3万円しか増加せ ず、給与所得の上昇分がほとんど公的負担の増加で吸収されるという厳しい結果となった。 このような機械的推計は、様々な制約条件を持つものの、家計単位の可処分所得の水 準を示すことにより、国民に分かりやすい指標を提示することができた。また推計で示さ れた将来的な家計の公的負担の水準は、更なる精査が必要なものの社会保障制度の将来負 担面での一定の目安になるものと考える。 以 上 キーワード:将来推計、機械的推計、可処分所得 1
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