第 28 号(2011 年 5 月 15 日発行) Q:合併で消滅する会社に所属している労働者の労働契約の内容はどうなるのでしょうか。 A:合併は吸収合併及び新設合併の2種類がありますが、いずれの場合であっても、消滅 会社の権利義務を包括的に存続会社または新設会社が承継することになります。従って、 労働契約の内容につきましても、消滅会社の権利義務を存続会社または新設会社が包括的 に承継することになります。 1.新設合併と吸収合併 会社法では、合併について、吸収合併と新設合併について規定しています。 吸収合併とは合併をなす会社の一方が合併後存続する場合をいいます。一方、新設合併 とは合併により会社を設立する場合をいいます。 実務上は手続の簡便さ等から吸収合併の場合が多くなっています。 2.権利義務の承継 そして、会社法では、 「吸収合併存続株式会社は、効力発生日に、吸収合併消滅会社の権 利義務を承継する。 」 (会社法第 750 条第 1 項) 、「新設合併設立株式会社は、その成立の日 に、新設合併消滅会社の権利義務を承継する。 」 (会社法第 754 条第1項)と定めています。 このように吸収合併、新設合併いずれも消滅会社の権利義務を包括的に承継する旨を規 定しています。すなわち、全ての権利義務を承継することになりますので、労働契約につ いても承継されることになります。 3.労働条件の統一 吸収合併の場合を例にしますと、合併により、存続会社でもともと勤務していた労働者 と消滅会社で勤務していた労働者が混在することになります。従って、合併した結果、存 続会社と消滅会社の労働条件が併存することがあります。例えば、労働時間が、存続会社 では8時間であるのに対して、消滅会社では7時間 30 分ということです。 このように労働条件が併存することは、企業の労務管理上煩雑となりますので、例えば 有利な方に労働条件を合わせたり、不利な内容に変更する場合は個別同意の対応等を通じ て、労働条件の統一を図ることが有効になります。 ― 就業規則は、坂本直紀 社会保険労務士法人にお任せ下さい。 1 ― 1.R社事件(東京地裁平 22.10.27 労判 1021‐39) (1)事件の概要 被告X社の営業本部長であったAが労基法 41 条 2 号の管理監督者に当たらないと主張し て時間外労働手当等の未払い賃金等を請求、また、事業場外みなし制度を適用されていた Bが同制度は適用されないと主張し、時間外労働手当等の未払い賃金等を請求した事件で す。そこで、今回はAの管理監督者とBの事業場外みなし労働時間制を取上げます。 (2)裁判のポイント-1.管理監督者問題 1.行政解釈の内容をも踏まえると、管理監督者に該当するかどうかについては、①その 職務内容、権限及び責任がどのように企業の事業経営に関与するものであるのか(例えば、 その職務内容が、ある部門全体の統括的なものであるかなど)、②企業の労務管理にどのよ うに関与しているのか(例えば、部下に対する労務管理上の決定等についてー定の裁量権 を有していたり、部下の人事考課 機密事項等に接したりしているかなど) 、③その勤務態 様が労働時間等に対する規制になじまないものであるか(例えば、出退勤を規制されてお らず、自ら決定し得る権限があるかなど)、④管理職手当等の特別手当が支給されており、 管理監督者にふさわしい待遇がされているか(例えば、同手当の金額が想定できる時間外労 働に対する手当と遜色がないものであるかなど)といった視点から、個別具体的な検討を行 い、これら事情を総合考慮して判断するのが相当である。 2.Aは、X社において「営業本部長」という肩書は有しているものの、その業務内容は、 基本的には営業活動であり、 (宅地建物取引主任者の資格を活用する点、より重い営業ノル マ等を課されている点は別論として、)他の一般社員(営業担当社員)と異なるところはな かったものと解される。 (中略)以上によれば、Aの業務内容から経営者と一体的な立場に あるとの評価をすることは困難であるといわざるを得ない。 3.Aが、責任者として位置づけられていたとは考え難い。少なくともAが部下の査定に 実質的に関与していたと認めることはできす、その他これを認めるに足りる証拠はない。 4.認定事実からは、Aは勤務時間(出退勤)について自由裁量はなかったものと強く推認 されるといわざるを得ない。 5.Aについては、役付手当 15 万円が支給されているが、基本給が 23 万円であり、他の 従業員と比較してもさほど変わらず、X社の従業員における水準は高かったものと認めら れるものの、このこと自体から管理監督該当性を認めることはできない。 6.前記検討を総合考慮すると、Aはその業務内容等に照らし、労基法の定める労働時間 規制を超えて活動することが、その重要な職務と責任から求められる者であると解し難い といわざるを得ず、その他Aの管理監督者性を認めるに足りる証拠はない。そうである以 上、Aについては労基法に基づく労働時間、休憩、休日の規制が及ぶというべきである。 2 (3)裁判のポイント-2.事業場外みなし労働時間制 1.事業場外みなし制度は、事業場外における労働について、使用者による直接的な指揮 監督が及ばず、労働時間の把握が困難であり、労働時間の算定に支障が生じる場合がある ことから、便宜的な労働時間の算定方法を創設(許容)したものであると解される。そし て、使用者は、本来、労働時間を把握・算定すべき義務を負っているのであるから、本件み なし制度が適用されるためには、例えば、使用者が通常合理的に期待できる方法を尽くす こともせずに、労働時間を把握・算定できないと認識するだけでは足りず、具体的事情にお いて、社会通念上労働時間を算定し難い場合であるといえることを要する。 また、労働基準法は、事業場外労働の性質にかんがみて、本件みなし制度によって、使 用者が労働時間を把握・算定する義務を一部免除したものにすぎないのであるから、本件 みなし制度の適用結果(みなし労働時間)が 現実の労働時間と大きく乖離しないことを 予定(想定)しているものと解される。 したがって、例えば ある業務の遂行に通常所定労働時間を超えて労働することが必要 となる場合であるにもかかわらず(本来、労働基準法 38 条の2第1項但書が適用されるべ き場合であるにもかかわらず) 、労働基準法 38 条の2第1項本文の「通常所定労働時間」 働いたものとみなされるなどと主張して、時間外労働を問題としないなどということは、 本末転倒であるというべきである。 2.Bが従事した業務の一部又は全部が事業場外労働であったことは認められるものの、 Bは、原則として、X社に出社してから営業活動を行うのが通常であって、出退勤におい てタイムカードを打刻しており、営業活動についても訪問先や帰社予定時刻等を被告に報 告し、営業活動中もその状況を携帯電話等によって報告していたという事情にかんがみる と、Bの業務について社会通念上、労働時間を算定し難い場合であるとは認められない。 3.Bは、営業活動を終えてX社に帰社した後においても、残務整理やチラシ作成等の業 務を行うなどしており、タイムカードによって把握される始業時間・終業時間による限り、 所定労働時間(8時間)を超えて勤務することが恒常的であったと認められるところ、この ような事実関係において、本件みなし制度を適用し、所定労働時間以上の労働実態を当然 に賃金算定の対象としないことは、本件みなし制度の趣旨にも反するというべきである。 4.なお、X社は、営業担当者は、営業成績をあげれば問題はなく、営業外勤手当や報奨 金によって待遇しているなどと主張するが、営業成績の有無・多寡にかかわらず、実際の 労働時間に対する賃金が支払われるべきことは至極当然であって、X社の前記主張は、本 件みなし制度の適用の有無に関係しない事情を指摘するものにすぎない。 5.以上によれば、Bの業務については本件みなし制度は適用されないというべきである。 (4)裁判から学ぶこと 管理監督者と事業場外みなし労働時間制ですが、概ねこれまでの裁判の流れを踏襲する 判決でした。この2つは、残業手当のトラブルリスク上、課題を抱える企業が多いと思わ れます。こうした問題にならないように、自社の状況をご確認されることをお勧めします。 ― 残業対策は、坂本直紀 社会保険労務士法人にお任せ下さい。 3 ― <社内風土・業務改善の提案 -⑤金の卵を産むガチョウ-> イソップ寓話の一つに、ガチョウと黄金の卵があります。あらすじは、以下の通りです。 あるところに、一羽のガチョウを飼っている貧しい農夫がいました。 そして、ある日のこと、このガチョウが金の卵を一つうみました。 ガチョウは次の日も次の日も金の卵をうみ続けました。 そして、貧しかった男は、新しい家に住むことができ、おいしいものを食べ、きれいな服 も着ることができました。 しかし、男は欲張りでした。 「あのガチョウの腹の中には金の固まりがあるにちがいない。 それを取り出せば、もっと金持ちになれるぞ」 男はそう思って、ガチョウのお腹を切り開きました。 でも、金の固まりなど出てきませんでした。 ガチョウは死んでしまい、すぐにお金がなくなって、また貧乏になりました。 これは、欲張りすぎは良くない結果をもたらすことを教える物語です。研修でもよく使 用されているようです。例えば、 「農夫はどうすればよかったのだろう」という意見を出し 合います。例えば、 「ガチョウを大切に育てて、後継を産み育てる。」が考えられますね。 また、ここでのガチョウは何を示唆し、農夫は何を示唆するのだろうと考えてもいいで すね。例えば、農夫を自分と置き換えて、ガチョウは部下と置き換えてみましょう。あま り欲張って、部下に厳しいノルマを与えたり、残業を強要すると、突然退職するかもしれ ませんね。農夫のような愚行をしないため、たまに農夫を自分に置き換えて振り返り、時 には自省することも、自己の成長・発展につながります。 <坂本直紀 社会保険労務士法人のミッション> ○会社と社員の間に愛と感動の架け橋を創造するコンサルティング業務の中心的な存 在になる。 ○企業の人事労務トラブルを防止できる体制を確立し、経営者、人事担当者等が本来行 うべき業務に集中できる環境を生み出すコンサルティング業務の中心的な存在になる。 ○クライアントの社員のスキルアップを図ることで、社員の職業能力を高め、社員のモ チベーションを向上させる人財育成事業の中心的な存在になる。 坂本直紀 社会保険労務士法人 代表社員 坂本直紀 住所:〒154-0012 東京都世田谷区駒沢 1-17-13 木城ビル3階 Tel:03-5431-3836 Fax:03-3413-5355 E-Mail:[email protected] URL:http://www.sakamoto-jinji.com/ 4
© Copyright 2024 Paperzz