都市と農村における家庭用エネルギー消費量の要因分析 ∼夏季の調査

都市と農村における家庭用エネルギー消費量の要因分析
∼夏季の調査結果によるケーススタディ∼
1. 研究
研究の
の目的と
目的と方法
現在、地球温暖化が国際的な環境問題となっている。
温暖化を防止するためには民生部門の CO2排出量を削
減することが必要不可欠であるが、農村部まで含めた家
庭エネルギー消費の正確な実態把握はされていない。全
国レベルで CO2を削減するには、農村部も含めた家庭に
おけるエネルギー消費の実態を把握する必要がある。
そこで、まずアメダス観測年報の気象データと家計調
査年報のエネルギー消費データを用いて気温とエネルギ
ー消費量の関係について把握し分析する。次にアンケー
ト調査をもとに、住居属性・家族属性・都市農村別にエ
ネルギー消費量の関係を分析する。本研究では、これら
の分析をもとに家庭エネルギー消費量の決定要因を明ら
かにすることを目的とする。
家庭における
におけるエネルギー
エネルギー消費量
消費量の
2. 家庭
における
エネルギー
消費量
の要因
気温と
エネルギー消費量
消費量の
2.1 気温
とエネルギー
消費量
の関係
気温と家庭におけるエネルギー消費量の間の関係を分
析した。図 1 は 1990∼2001 年までの全県庁所在市の 8
月の気温と電気代の関係を表したものである。全県庁所
在市の 8 月の気温と電気代の間の重相関係数は 0.63 で
あり、気温が高くなれば電気代も上がる傾向が明らかに
なった。8 月の気温と電気代の関係は、
R99061 松本 大輔
指導教員 中口 毅博
の関係をアンケート調査の結果を用いて分析した。表 1
はアンケート調査の概要である。このアンケート調査の
集計結果をもとに、住居属性・家族属性とエネルギー消
費量の関係を住宅形態・建築構造・延床面積・家族人数・
高齢者有無等のデータを用いて分析した。
表 1 アンケート調査概要
岩手県(盛岡市、水沢市、江刺市、胆沢町、金ヶ崎町、衣川町、前沢町)
調査場所 神奈川県(横浜市・平塚市・山北町)
鹿児島県(鹿児島市・指宿・上屋久町)
配布時期 2002年9月
岩手県477(盛岡市300、水沢市97、江刺市32、胆沢町8、
金ヶ崎町15、衣川町20、前沢町5)
調査対象
神奈川県900(横浜市・平塚市・山北町、各300)
鹿児島市570(鹿児島市250、指宿120、上屋久町200)
岩手県(盛岡市)・神奈川県 無作為抽出で郵送配布・郵送回収
岩手県(水沢市、江刺市、胆沢町、金ヶ崎町、衣川町、前沢町) モニター公募
配布方法
鹿児島市 市民環境委員会を通じ配布・郵送回収
上屋久町 婦人会を通じ配布・個別回収
岩手県215(盛岡市38、水沢市97、江刺市32、胆沢町8、金ヶ崎町15、
衣川町20、前沢町5)
回収枚数
神奈川県59(横浜市18、平塚市14、山北町27)
鹿児島県201(鹿児島市31、指宿56、上屋久町31)
家族構成(家族人数、年齢、外出日数等)、エネルギー使用量
調査項目
住宅状況(構造、形態、延床面等)、自動車保有・使用状況等
2.2.2 住居属性と
住居属性とエネルギー消費量
エネルギー消費量の
消費量の関係
表 2 に、住宅形態・建築構造・用途・延床面積別のエ
ネルギー消費量の総量の平均値を示す。住宅形態別にエ
ネルギー消費量を比較すると、電気・都市ガス、灯油に
関しては、戸建のほうが集合よりも高い結果となった。
建築構造別では、都市ガス・灯油がコンクリート住宅よ
りも木造住宅のほうが高い結果となったが、電気には差
Y=54X2 -2152X+28083
という回帰式で表すことができる。同様に 8 月の気温と はみられなかった。用途別では、住居専用と店舗等兼用
ガス代の関係を分析したが関係はみられなかった。
また、 住宅を比較すると電気・都市ガスに関しては、店舗等兼
1 月の気温に対する電気代とガス代の関係も分析したが 用住宅のほうが住居専用よりも大幅に高くなり、また住
居専用・店舗等兼用と農林漁家を比較すると、農林漁家
両方とも関係はみられなかった。
の灯油消費量が非常に高く大きな差がみられた。延床面
積でみると電気・都市ガス・灯油は、面積が増えるにつ
円
16000
れて消費量も増えていく結果となった。
14000
H13
H12
H11
H10
H9
H8
H7
H6
H5
H4
H3
H2
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
19
21
23
25
27
29
31 ℃
図 1 8 月の気温と電気代の関係
2.2 家族属性・
家族属性・住居属性と
住居属性とエネルギー消費量
エネルギー消費量の
消費量の関係
2.2.1 アンケート調査概要
アンケート調査概要
住居属性・家族属性と家庭におけるエネルギー消費量
表 2 住居属性とエネルギー消費量の関係
住居属性別
戸建
集合
木造
住宅構造
コンクリート
住居専用
用途 店舗等兼用
農林漁家
50㎡以下
51~100㎡
延床面積
101~150㎡
151㎡以上
住宅形態
電気
kwh サンプル数
421.7
298
297.0
44
409.0
285
408.5
59
376.3
402
597.7
15
386.3
14
337.6
19
358.1
93
392.6
120
495.3
84
都市ガス
3
m
サンプル数
19.9
221
9.9
40
18.5
207
14.3
55
16.9
404
26.0
15
14
6.8
18
14.9
83
19.5
84
21.8
50
プロパンガス
3
m
サンプル数
5.5
262
9.3
42
5.7
247
6.2
57
5.8
404
7.4
15
4.6
14
6.9
16
5.9
88
5.5
106
6.1
67
灯油
リットル
85.6
20.5
90.3
59.9
81.7
122.9
187.3
18.0
42.5
88.4
131.5
サンプル数
227
40
210
56
401
15
14
17
82
89
52
2.2.3 家族属性と
家族属性とエネルギー消費量
エネルギー消費量の
消費量の関係
表 3 は、家族人数・在宅時間・高齢者有無別にエネル
ギー消費量の平均値を表したものである。家族人数別に
4. 家庭用エネルギー
家庭用エネルギー消費量
エネルギー消費量の
消費量の決定要因
4.1 分析方法
3 章の分析結果から、 表 5 分析に用いた要素
都市と農村でエネルギ 建築構造(木造・コンクリート)、住
ー消費量の差はみられ 宅形態(戸建・集合)、用途(住居
専用・店舗等兼用・農林漁家)、延
なかったため、都市と 床面積、家族人数、高齢者有無、
農村以外のエネルギー 都市農村、ガスの調理用・給湯使
用、灯油ボイラー使用
表 3 家族属性とエネルギー消費量の関係
消費量の要因を把握す
電力
都市ガス
プロパンガス
灯油
るために、数量化Ⅰ類 表 6 電気消費量の要因
家族属性別平均値
kwh サンプル数 m
m
サンプル数
サンプル数 リットル サンプル数
1人
237.7
45
4.8
45
3.5
45
40.0
45
を用いて要因分析を行
平均 376.7kwh サンプル数 201
2人
325.3
100
16.8
100
5.7
100
61.3
100
電気
重相関係数 0.61
3人
376.7
76
25.2
76
4.8
76
93.9
75
家族人数
った。分析に用いた要
順位 要因
レンジ
4人
396.4
91
16.6
91
6.0
91
89.6
91
5人
440.3
53
12.0
53
7.0
53
92.9
51
1 用途
504.6
素を表 5 に示す。
6人以上
582.3
39
12.7
41
7.8
41 166.6
41
2 家族人数
330.8
10H未満
472.8
9
4.5
9 130.0
9
3 形態
184.5
4.2 電気消費量
電気消費量の
消費量の要因
10~15H未満 375.3
86
14.5
86
6.8
86 128.6
84
4 ガスの調理用、給湯使用
155.6
在宅時間
15~20H未満 393.5
233
16.4
234
5.9
234
78.4
233
5 在宅時間
151.0
20H以上
334.5
53
22.1
53
4.5
53
98.8
53
表 6 に、電気消費量
無
372.8
171
11.3
142
5.5
153
59.3
138
高齢者有無
有
440.4
179
22.0
124
6.1
157 120.7
133
に影響を与えている要 表 7 ガス消費量の要因
2.2.4 調理用
調理用・給湯エネルギー
給湯エネルギーの
エネルギーの使用パターン
使用パターン別比較
パターン別比較
素のうち上位 5 要素を
平均 142568kcal サンプル数163
ガス
重相関係数 0.55
次に、調理用・給湯に都市ガス、プロパンガス、灯
示した。電気消費量と 順位 要因
レンジ
1 ガスの調理用、給湯使用
211202
油のいずれかを使用している世帯と全く使用してい
これらの要素の間の重
2 家族人数
140323
3 用途
119500
ない世帯の比較を行った。その結果、表 4 のように使
相関係数は 0.61 であっ
4 灯油ボイラー使用
60402
5 形態
48544
用していない世帯のエネルギー消費量が使用してい
た。この分析結果から
る世帯に比べて少ないという結果が得られた。また、 電気消費量に最も影響 表 8 灯油消費量
調理用・給湯等にガス、灯油のいずれかを使用してい
を与えているのは用途
平均 87.5 サンプル数 68
灯油
重相関係数 0.68
る世帯は他のエネルギー消費量が平均値よりも少な
であり、次に家族人数、 順位 要因
レンジ
1 用途
135.4
いという結果が得られた。
住宅形態であるといえ
2 家族人数
104.7
3 ガスの調理用、給湯使用
68.1
表 4 調理用・給湯エネルギーが他のエネルギー消費量に及ぼす影響
る。
4 延床面積
60.2
みると電力・プロパンガス・灯油に関しては、人数が
増えるにしたがって消費量も概ね増えていく結果と
なった。在宅時間別に比較すると、都市ガスのみが在
宅時間が増えると使用量も増えるという結果となっ
た。高齢者有無別にみると、電気・都市ガス・プロパ
ンガス・灯油すべてにおいて高齢者有の世帯のほうが
消費量が多い結果となった。
3
使用エネルギー別比較
都市ガ
ス
プロパ
ンガス
灯油
未使用
調理用、給湯使用
未使用
調理用、給湯使用
未使用
灯油ボイラー使用
都市ガス
3
m
サンプル数
9.1
402
24.6
34
18.7
6.2
17.1
平均
295
40
475
3
プロパンガス
3
m
サンプル数
6.0
7.3
6.5
4.7
5.6
223
59
295
40
475
90.6
灯油
402
電気
kwh サンプル数
388.0
402
77.8
46.7
77.6
109.3
91.4
223
59
295
40
475
362.9
343.8
367.2
403.1
380.6
リットル
サンプル数
223
59
295
40
475
3. 都市と
都市と農村の
農村のエネルギー消費量
エネルギー消費量
3.1 都市と
都市と農村の
農村の家庭の
家庭のエネルギー消費量比較
エネルギー消費量比較
都市と農村でエネルギー消費量の差の有無を、電
気・ガス・灯油・ガソリンの 1 世帯あたりの8月の平
均消費量を県庁所在市とその他の市町村で比較する
ことによって分析した(図 2)
。
kcal
300
万
250
200
104
114
80
82
15
33
14
33
150
100
50
0
県庁所在市
ガソリン
灯油
ガス
電気
その他の市町村
地域
図 2 都市と農村のエネルギー消費量比較
平均値の差の検定を行った結果、電気・ガス・灯油・
ガソリンとも消費量の平均値の差に有意性はみられ
なかった。したがって都市と農村の間にエネルギー消
費量の顕著な差はみられないといえる。
5 在宅時間
52.6
4.3 ガス消費量
ガス消費量の
消費量の要因
表 7 に、ガス消費量に影響を与えている上位 5 要
素を示した。ガス消費量と分析に用いた要素の間の重
相関係数は 0.55 であった。この分析結果から、ガス
消費量に最も影響を与えているのは、調理用・給湯に
使用するガスの組み合わせであるといえる。次に家族
人数、用途であるといえる。
4.4 灯油消費量
灯油消費量の
消費量の要因
表 8 に、灯油消費量に影響を与えている上位 5 要
素を示した。灯油消費量と分析に用いた要素の間の重
相関係数は 0.68 であった。この分析結果から、灯油
消費量に最も影響を与えているのは用途であるとい
う結果となった。次に家族人数、調理用・給湯に使用
するガスの組み合わせであるといえる。
5. 結論
エネルギー消費量を決定する主な要因は、用途・家
族人数・調理用と給湯に使用するエネルギーの種類で
ある。都市と農村によるエネルギー消費量の差はなく、
地域の違いよりも住宅属性や家族属性などの要素に
よる差のほうが大きい。