上海・香港国際研修プロジェクト 報告書 - HMBA 一橋大学大学院 商学

一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース
金融プログラム 2009
上海・香港国際研修プロジェクト
報告書
2009年9月1日~9月10日
Sponsored by みずほ証券商学研究科研究教育助成金
目
■
次
研修概要
・参加者名簿
・プログラムカレンダー
・研修スケジュール
■
■
研修に寄せて
・商学研究科長
小川英治
・商学研究科教授
清水啓典
・商学研究科教授
三隅隆司
研修参加者レポート
・研修参加27名
■
企業視察レポート
・みずほ証券上海駐在員事務所
・信金中央金庫上海駐在員事務所
・エプソントヨコム
・SUNTECH POWER
・深圳テクノセンター・MORITEX
・東亜銀行
・みずほセキュリティーズアジア
・国際協力銀行香港駐在員事務所
■
写真集
参加者名簿
(学年・学籍番号順)
1
角井健一
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
2
小林亜紀子
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
3
杉田知世
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
4
園部誠
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
5
多森麦穂
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
6
幅啓典
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
7
王
陽洋
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
8
于
洋
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
9
沈
礼彬
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
10
李
明
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
11
岡山雅彦
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
12
平川俊輔
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
13
于
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース2年
14
五十嵐和也
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
15
井手飛人
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
16
今井裕介
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
17
岩元寿人
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
18
大内彰訓
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
19
窪田和行
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
20
郡司
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
21
宰務正
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
22
鈴木裕一郎
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
23
高橋秀成
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
24
田村賢一
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
25
村山二朗
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
26
スタンマウォン チャントゥナ
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
27
徐
一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース1年
天洋
亮
楨旻
プログラムカレンダー
日程
内容
講師
5月14日
募集説明会
商学研究科長 小川英治
毎日エデュケーション 鳥居透
6月10日
第一回オリエンテーション
「研修参加の心構え」
商学研究科教授 清水啓典
7月1日
第二回オリエンテーション
「アジアにおける上海と香港」
商学研究科教授 清水啓典
7月6日
第三回オリエンテーション
「Global Financial Crisis and Regional
Monetary System in Asia」
第四回オリエンテーション
「中国のビジネス環境」
商学研究科長 小川英治
7月13日
第五回オリエンテーション
「海外渡航時の危機管理について」
国際戦略本部総括ディレクター
服部誠
7月23日
第六回オリエンテーション
「出発前の諸注意」
毎日エデュケーション 鳥居透
9月1日~10日
研修期間
10月7日
総括ミーティング
7月9日
北京事務所長 志波幹雄
商学研究科教授 清水啓典
商学研究科教授 三隅隆司
2009HMBA金融プログラム上海・香港国際研修プロジェクト
随行
牛
前
昼
9月1日(火)
清水教授
成田発11:20
JL619
上海着13:30
9月2日(水)
清水教授
上海財経大学
9:00-11:30
Shanghai toward 21st century
王恵玲教授
機内食
学生交流・会食
上海財経大学学生
14:30-17:00
Analysis on Chinese Macro
Economy & Policy Implications
孫立堅教授(復旦大学)
各自
上海観光
環球金融中心
豫園・商場・老街、外灘(バンド)
牛
後
オリエンテーション夕食
海鮮料理
9月6日(日)
小川教授・三隅教授
夕
日付
随行
上海発10:00
MU505
香港着12:35
現地ガイド出迎え
牛
前
昼
機内食
14:30-17:00
香港観光
文武廟・アベニューオブスターズ
コンベンションセンター 牛
後
夕
18:30 BBVA社Economist
Ms.Alicia 潮州料理(自費)
9月3日(木)
清水教授
9:00-11:30
みずほ証券上海駐在員事務所
駐在員事務所長 三坂希一氏
みずほ総合研究所主席研究員
鈴木貴元氏
「中国経済と社会現状について」
昼食
14:00-16:00
信金中央金庫上海駐在員事務所
駐在員事務所長
丹羽弘之氏
各自
9月7日(月)
9月8日(火)
小川教授・三隅教授
三隅教授
6:30 ホテル発
10:30-12:00 東亜銀行
(朝食:車中)
1)中国・香港経済の見通しについて
9:00-14:00
Chief Economist Mr.Paul Tang
シンセンテクノセンター
2)香港ローカルバンクの中国市場における
佐藤総経理・立石総経理
ビジネス展開について Head of China Div.
Moritex Co., Ltd 石井会長
Ms.Wong Woon-ping
従業員食堂
昼食
15:30-17:30
13:30-15:30
人民大学シンセン研究院
みずほセキュリティーズアジア
「China in the Global Financial
エクイティリサーチ部長 小原篤次氏
Crisis-Analysis of Chinese
Economy in 2009」
16:00-18:00
JBIC(国際協力銀行)
陳健 教授
「金融危機以降のJBICの取り組みについて」
首席香港駐在員 行天健二氏
18:00~19:30
19:00 反省会夕食
陳健教授会食 十号公館
JUMBO
9月4日(金)
清水教授
9:30-11:30
無錫
エプソントヨコム
志野総経理
昼食
13:30-15:30
無錫
サンテックパワー
Kevin Yang 氏
19:30 如水会(自費)
上海環球金融中心Y's Tableダイニング
9月9日(水)
三隅教授
自由行動
各自
自由行動
各自
9月5日(土)
自由行動
各自
自由行動
各自
9月10日(木)
香港発10:45
JL736
成田着15:55
機内食
研修に寄せて
HMBA 上海・香港派遣
一橋大学大学院商学研究科
小川英治
一昨年の HMBA 北京派遣、そして、昨年のバンコク派遣に引き続き、一橋大学大学院商
学研究科経営学修士コース(HMBA)金融プログラムでは、今年もみずほ証券寄附講義の
ご支援を得て、HMBA の学生を上海と香港に派遣いたしました。今年の HMBA 上海・香
港派遣は、10 日間にわたって、上海財経大学と中国人民大学深圳研究院における中国経済
に関する講義を受講するとともに、企業訪問や現地エコノミストとの意見交換会、さらに
は、如水会上海支部との懇親会が企画されました。これまでの北京派遣及びバンコク派遣
の実績が評価されてきたこともあって、今年は、27 名の多数の学生がこの HMBA 上海・
香港派遣に参加しました。
今年の HMBA 上海・香港派遣においても、出発前の準備段階として、服部先生による危
機管理のレクチャーの他、清水教授、志波一橋大学北京事務所長そして、小川による中国
経済、中国のビジネス環境、通貨問題に関するレクチャーが参加者に対して行われました。
中国経済は、東アジアのみならず、今や世界経済のなかで中心的存在となりつつあること
から、昨年の ASEAN のタイ・バンコクの訪問に続いて、上海と香港を訪れることは、両
者の類似点と相違点を体感しながら、理解することができる、とても良い機会でした。
世界金融危機及び世界不況の中で、それまで世界の工場として 8%以上の高い経済成長率
を達成してきた中国経済も、世界不況のあおりを受けて、輸出が減少し、広東省を中心に
輸出企業の生産縮小に直面しています。一方、世界金融危機の直接的な影響を中国の金融
機関は受けていないものの、欧米の金融機関が活躍していた上海金融市場もその活気が失
われています。このような状況の中で、実際に、上海、無錫、香港、そして深圳で金融機
関や企業を訪問して、中国経済の現況を目にすることのできたことは、HMBA の学生にと
ってとても好い経験となったことと確信しています。
私自身は、HMBA 上海・香港派遣のスケジュールの一部(香港と深圳)にしか参加でき
ず、上海財経大学の講義や企業訪問さらには如水会上海支部との懇親会に付き添うことが
できなかったことは、残念ではありました。しかし、HMBA 上海・香港派遣の参加者の報
告書を一読すると、今年の HMBA 上海・香港派遣の盛りだくさんの企画の中で、すべての
参加者が意義深い経験をして、大きな満足をしていることがわかります。
最後に、HMBA 金融プログラム及び本 HMBA 上海・香港派遣を財政的にご支援いただ
いているみずほ証券を始め、HMBA 上海・香港派遣参加者の企業訪問を快くお引き受けい
ただき、アレンジを頂きました、各社の関係者の方々及び如水会関係者の方々には、心よ
りお礼申し上げます。また、上海財経大学王恵玲教授、復旦大学孫立堅教授、中国人民大
学陳健教授による上海と深圳における中国の大学教授からの講義及び学生交流のアレンジ
に感謝申し上げます。そして、休日の夜にも関わらず、中国経済のレクチャーをいただい
た BBVA シニア・エコノミストの Alicia Garcia-Herrero さんにも感謝いたします。
『自分を知る旅』
一橋大学大学院商学研究科教授
清水啓典
大学の持つ大きな特徴の一つは、普通に生活していたのではとても会う機会のない、
自分よりも優れた多数の人材に、若い時代に会い、話を聞き、議論し、自らの成長の糧を
得る場だという点にある。そうだとすれば、その場を変えた大学外における海外研修は大
学そのものである。と言うよりも、国内に居たり、単なる観光旅行ではとても会うことの
出来ない、より多様な人々に会い、話を聞き視野を広げて、自らの将来を考えると言う点
で、その最先端の活動に他ならない。もちろん、企業に入っても多くの優れた人達に会う
機会はあるが、往々にしてその業界内の人達に限られがちである。むしろ、企業に入った
後には会えない人達に会い、行けないところを見学できる点こそ、大学における海外研修
の意義である。
世界の成長センターとして最も高い成長を続けている上海・香港地域において、どのよ
うな人達が、どのように考えてどのような活動をしているのか。これを知る機会を出来る
だけ多くの H-MBA の学生に経験してもらおうとの意図に基づき、3回目となった今回の
海外研修は参加者人数も増えて丸10日間とかなり大規模なものとなった。
今回会うことのできた多数の人たちを通じて、中国人の人達はもちろんのこと、中国で
活躍されている日本人の人々が、如何に多くの困難に挑戦しつつ人生を掛けて、日中の経
済発展に貢献しておられるかをつぶさに知ることができたはずである。それらの人達に比
べて今の自分はどのような人間であり、どのような能力と考え方を持って、今後何をしよ
うとしているのか。今回の研修は、この問題を考える重要なヒントになったと思われる。
指導的な立場にある人だけではなく、全ての人達がそれぞれに人生を懸けてそれぞれの
立場で、様々な課題と闘いつつ日々行っている活動の結果が日本や中国の発展を支えてい
る。上海地区だけで既に日本の地方都市に匹敵する 7 万人の日本人が在住し、世界でも最
大規模な日本人学校がある。自分はこのような環境にどのように係わろうとしているのだ
ろうか。
今回お会いした全ての人達から無数の教訓を得たと思われるが、そこから何を学ぶかは
まさに自分次第である。自分一人では気付かなかった多数の点もあると思われるので、参
加者同士経験を反芻して、一生に何度も経験できないこの経験を最大限自らの成長に活か
す努力が重要である。帰国すれば研修は終わったわけではない。この経験に基づいて、自
分はどのような人間であるかを考え、自らを発見し、どのような人生を送るべきか、とい
う答えを探すのはこれからの課題である。この研修からどれだけ多くのものを引き出すか、
それは参加者個人個人に掛かっている。海外研修はそのための素材に過ぎない。
ジョセフ・シュンペーターは 1931 年 1 月に本学に来訪した際、貧弱な暖房設備しかない
寒い校舎での講演環境を詫びた本学教授に対して、「大学は建物ではない」という、有名な
言葉を遺した。今日、H-MBA の学生は世界の大学の中でも最も恵まれた設備の整った建物
で学んでいる。それに加えて、世界で最も成長している地域を、みずほ証券寄附講義の支
援で訪問するという海外研修で、つまり、いわば建物ではない大学で、普通では会えない
人達に会って最先端の教育を受ける機会に恵まれた。この恩恵をどのように社会に還元し
て行くのか。これをじっくり考え抜いて高い志と自分なりの哲学を持ってこそ、誇りと責
任感を備えた真の H-MBA 学生となるのである。
2009 年度 海外研修プログラムを終えて
一橋大学大学院
商学研究科
三隅隆司
みずほ証券寄附講義のご支援で行われてきた海外研修プログラムも平成 21 (2009) 年度で 3
年目を迎えました。本プログラムは、一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース(HMBA)金融
プログラムにおける柱の 1 つであり、学生諸君からの期待・評価も高いプログラムです。私は、今年
度初めて参加させていただきましたが、事前にうかがっていた通り、いやそれ以上に、質・量の両
面においてとても充実したプログラムであったと思います。
今回の研修では、中国の上海、無錫、深圳および香港といった諸都市の企業を訪問いたしまし
た。中国は、世界的な経済低迷が続いている中にあって、世界経済を牽引していく役割が期待さ
れている国の 1 つです。特に、今後の日本の企業社会にとって、中国という計り知れない可能性を
秘めた大市場の重要性はどんなに強調してもしすぎるということはありません。そのような中国経済
の現状を、企業訪問および現地の方々とのディスカッションを通じて直接見聞する機会を得たこと
は、参加した学生諸君にとってとても刺激的な経験となったことと思います。
私は、深圳および香港の企業訪問に同行しましたが、お会いさせていただいた方々は皆本当に
魅力的な方々でした。深圳では、テクノセンターおよびモリテックス香港の中国工場を訪問し、日本
企業の中国進出の現状についてお話を伺いました。香港では、東亜銀行、みずほ証券および国
際協力銀行の方々より、中国・香港経済の現状および各金融機関の取組みについて詳細なご説
明をいただきました。それぞれに、企業人としての経験の豊富さ・思考の深さを感じさせる興味深い
お話でした。さらに、BBVA シニア・エコノミストの Alicia Garcia-Herrero 氏および中国人民大学の
陳健教授のお二人から受けた中国経済に関するレクチャーは、それ自体が興味深いものであった
ことは言うまでもありませんが、各企業の方々の説明の背景情報としても有用なものでした。今回お
会いできた皆様はいずれも、第一線でご活躍されているエース級の方々であり、本当によい勉強
になったと思います。
参加した学生諸君の態度もすばらしいものでした。事前の勉強会をこなし、担当グループ単位
のミーティングを繰り返すなど、厳しい時間制約の中で事前準備を行うことはたいへんなことだった
と思いますが、努力は成果となって結実していました。事前の質問状は十分に考えられたものでし
た。さらに、企業訪問当日は、担当グループ以外の学生も、積極的に質問をし、予定の時間を超
過してしまうほどの熱気あふれる議論となりました。説明下さった企業の方々にも喜んでいただけた
ものと思います。そして私も、学生諸君の熱心な参加態度を見て、たいへんうれしく思いました。
研修旅行におけるすばらしい方々との出会いは、参加した学生諸君にとって貴重な資産になる
ものであると思います。ただ、いかなる資産も、そのままにしていたのでは収益は望めません。大き
な実りをもたらす可能性がある一方で、使い方を誤れば減価してしまうこともありえます。適切なタイ
ミングで、適切な使い方をしてはじめて、われわれの生活を(物心両面で)豊かにする収益資産と
なるのです。その意味では、今回の経験で得たさまざまな情報・知識を、自身のキャリアの中で繰り
返し思い出し、企業人としての実践の中でうまく利用していくことが重要です。私は、研修プログラ
ムに参加した HMBA の学生諸君が、今回の研修から得た経験という資産を、いつの日か大きな収
益を伴う成果として(どのような形であれ)実現してくれるものと期待しております。
研修旅行が成功裏に終わりましたのも、多くの方々のご支援のおかげです。海外研修プログラ
ムをはじめ、HMBA 金融プログラムの運営にさまざまな支援をして下さっているみずほ証券の関係
者の皆様には本当に感謝いたしております。また、お忙しい中、HMBA の海外研修プログラムにご
協力下さった各社の関係者の方々および如水会関係者の方々にも御礼申し上げます。さらに、国
際協力銀行(JBIC)の行天健二様には、JBIC のみならず東亜銀行の説明会に関して、アレンジメン
トの労をお取り下さったり、事前に詳細な情報提供をして下さるなど、本当にお世話になりました。
最後になりましたが、皆様のご支援に対し、心より御礼申し上げます。
研修参加者レポート
「上海・香港国際研修プロジェクト」研修報告書
CM080216
角井 健一
◆上海
【上海財経大学】
上海財経大学では、上海を中心とした中国経済の現況と今後の見通しについての講義を
受けた。日本を基軸にして中国経済について学ぶ機会はこれまでにも何度かあったが、中
国目線から中国経済について講義を受けることは大変有意な機会となった。特に、私が興
味深く感じたことは、中国経済を論じる上では中国政府について知ることが不可欠である
ということである。日本や欧米諸国と比較すると、中国は、政府が担う役割が非常に大き
く、またその影響力も大きいために、政府が経済に与える影響は大きい。今後、中国が発
展していく中で大きな課題となってくるだろう所得格差の問題について考える上でも、中
国政府がどのように対策を採っていくかを注視していくことが重要であると考える。
【企業訪問】
上海(無錫)での企業訪問については、みずほ証券上海駐在員事務所・信金中央金庫上
海駐在員事務所・エプソントヨコム・サンテックパワーの4社を訪問した。特に、エプソ
ントヨコムとサンテックパワーの2社については、工場内部の見学をさせていただくこと
ができ、大変有意義な機会となった。どちらの工場も整然としており、整理・整頓・清潔
が行き届いていた。日本企業が中国に生産拠点を移す場合、人件費の低さのメリットが強
調されることが多いが、日本で生産する場合と同等以上の品質レベルを保つことが可能で
あるからこそ中国を生産拠点とするのであり、工場の雰囲気からそのことを感じ取ること
ができた。また、エプソントヨコムでは、中国の特徴として、中国人労働者の離職率の高
さという問題点を聞くことができた。この問題点は、離職率が高い分人件費が割高になる
ということである。見た目の賃金以上のコストがかかるという点を認識していなかった企
業が、中国進出によって失敗するリスクが十分あると考える。
【その他】
上海中心部での超高層ビル群に圧倒された。地震が起きにくい地域事情を差し引いて考
えても、今の日本にはない中国のパワーを感じた。一方で、交通ルールを守らないなどの
市民のマナーの悪さが気になった。単なる文化の違いである可能性もあるが、発展のスピ
ードの速さがあまりに速いために、心の豊かさの成長と経済の発展のスピードにギャップ
が生じているのではないかと考える。それほどの勢いで成長する中国に対し、今後日本は
どのような立場で臨むべきであるか考えさせられるきっかけとなった。
◆香港
【企業訪問】
香港(深圳)での企業訪問については、シンセンテクノセンター・モリテックス・東亜
銀行・みずほセキュリティーズアジア・JBICの5社からお話を伺うことができた。香
港という特殊な地域性があることから、同じ中国であるにもかかわらず、企業にとって中
国本土に進出することと香港に進出することとは若干意味合いが違うということがわかっ
た。香港から中国本土に出入りする度に、我々外国人旅行者はパスポートが必要であるこ
とや、中国人であっても自由に香港に出入りすることができないということからも、中国
から見ると現在でも香港は外国に近いのかもしれない。そのため、香港企業は、自由に中
国本土での展開ができるわけではないものの、日本や欧米の外国企業と比べると地理的に
有利であり、中国政府からの許認可を得やすい立場にある。このような点を認識すること
によって、香港という地域が日本や欧米の外国企業にとって重要な地域であるとともに、
中国本土にとっても重要な地域であることを再認識した。
【その他】
上海が成長の真っ只中の都市であるとすると、香港は成熟した都市であるように感じた。
欧米人や日本人を多く見かけ、欧米や日本企業があちらこちらに見られた。ショップでも
日本語がしゃべれる店員が多く、同じ中国とは思えないほどであった。また、マナーにつ
いても上海のそれとは比べ物にならず、上海のような勢いやパワーを感じることはなかっ
たものの、成熟した都市の魅力を感じた。この香港という地域の特殊性は、香港の歴史的
経緯を勘案すれば明らかであるが、私自身わかっているつもりでその認識がしっかりとで
きていなかったと思う。だからこそ、香港という地域に対して、中国とは違う国であるよ
うな印象を受けたのだろう。今後、この香港という地域が、中国の中でどういった位置づ
けとなり、役割を担っていくことになるのか注視していきたい。
最後に、今回の研修を企画・運営してくださった、清水教授、小川教授、三隅教授、M
BAオフィスの大和田さんをはじめとする関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。本当
にありがとうございました。
上海・香港国際研修プロジェクトに参加して
CM080221 小林 亜紀子
<企業訪問>
今回の研修では無錫・深圳の企業と、上海・香港の金融機関にてお話を伺った。一般企
業とそれをサポートする金融機関などの企業の双方に伺えたことで、企業の中国進出だけ
を捉えても、様々なサポートが必要とされることが理解でき、興味深かった。訪中前は、
企業は独自にビジネスモデルや採算を考えると理解していたが、いかに現地でのサポート
を活用できるかは、企業の業績や打ち手をも左右するように思えた。サポート企業では、
いかに日本の常識が他国の常識でないかというだけでなく、企業の失敗事例やマーケット
についての情報、リスクを分散するノウハウなど広く蓄積しているからである。当然のよ
うにも思えるが、在職時に中国の提携企業を模索した際にはなかなか理解できなかった点
であり、実際に第一線で活躍されている方の話を伺えたことは貴重な機会であった。
無錫において、世界最大の生産能力をもつ太陽電池メーカー、Suntech を訪問した。直前
に訪問した EPSON TOYOCOM では、製造の現場を垣間見させていただいたとすると、Suntech
では製造工程の見学コースを見せていただいたようであった。太陽電池パネルを壁面いっ
ぱいに配したガラス張りの建物のエントランスをくぐると、池やステージまで有する、吹
き抜けのゆったりとしたロビー空間が広がる。そこから案内されるルートには、Suntech の
沿革や業績、製造技術の説明、表彰などの説明パネルがあちこちに配され、主な工程をガ
ラス越しに見られるようになっていた。ただ見学ルートを1周しても、製造の主要な技術
は決して見ていないという、やや物足りない感覚が残る。言わば、一企業の広報資料を見
たような印象なのである。展示パネルには中国の要人が工場を訪問した写真も含まれてい
たことから、中国は私企業といっても、政府による支援が競争優位性を左右すると言われ
ることを想起した。太陽電池は、技術進化により環境負荷の少ない電力資源として、世界
的に需要の高い重要な産業であること、世界最大の CO2 排出国として対応を求められてい
ることを考えれば、中国政府が Suntech に支援をする意味は大きい。こうした背景から、
中国の先進企業として多くの訪問者を受け入れ、中国をアピールする場としての機能も担
うべく立派な社屋なのかなど、短い見学の間にも考えさせられた。実際に日本の企業とは
異なることを目の当たりにすることで、中国を多角的に見させてもらえたように感じた。
<大学訪問>
上海財経大学と人民大学深圳研究院を訪問した。両校とも広大な敷地と立派な施設を有
しており、中国の人口の多さ、地域によらず教育に熱心な国であることを改めて実感した。
中国の経済成長とその課題について、先生方がそれぞれの視点から講義してくださったこ
とで、実務面から少し離れて全体像を把握する機会となった。今後いかに内陸部の経済成
長を促進するか、沿岸部も含め、いかに一般消費者の消費を拡大し、生活を豊かにしてい
くかというテーマは、単純に思えていた。だが講義が進むに連れて、広すぎるほどの国土
があるだけでなく、各地域にある程度の規模をもつ複数の所得階層が同居する中国では、
非常に複雑なテーマへと印象が変わっていった。講義を経て、中国からの留学生や、取引
企業という、自分の周辺だけを見て理解したつもりになっていたことがわかり、どんなテ
ーマでも複眼的な考察が重要だと改めて感じさせられた。
<最後に>
私はこれまで、サービス業に従事してきた。そのため、在職時に製造業の視点から効率
と競争力を上げた成功事例はあったものの、HMBA にて初めて製造業や金融業の強さや戦略
について考察するに至った。その過程で、製造業は日本の経済成長を支えてきただけに、
様々な競争力を有しており、それらをいかにサービス業に移転していくかはやはり重要な
課題と考えていた。また、サービス業の市場として成長しつつある訪日旅行客市場におい
て、中国は今後の最重要国の一つとなる。その中国を理解するためにも、製造業の強みを
正に活用し発展を遂げつつある現場を見る機会としても貴重な体験となると思い、研修に
参加させていただいた。この研修に参加して、中国の経済環境についてお話を伺えたこと
は貴重な機会であり、多くの示唆を得たように思う。
当初の想像以上に、私が興味深く考えさせられた点は3つあった。まず、中国からの留
学生と一緒に訪問できたことで、得られた視点である。普段のグループワークなどよりも
ずっと長い時間一緒にいることもあり、企業でも市中でも彼らから、多くの気づきや新た
な発見を得られた。次に、研修効果を最大限にすべく質問し、意見を述べるのを躊躇しな
いだけの、英語力の重要性である。英語だというだけで相手の話を理解できる割合が下が
った上で、敢えて自己の考えを述べる際に、どうしても聞きたいこと以外はやはり躊躇し
てしまうのは問題だと感じた。これまで英語力は必要最低限で済ませてきたが、今後は真
剣に取り組むべきだと感じた。最後に、一橋大学という繫がりと誇りである。入学以来、
先生方からは一橋大学の学生であることや、繫がりの重要性を話されていたが、実際に目
の当たりにして、ようやく認識したように思う。一橋の卒業生だというだけで、第一線で
活躍される方々が研修のために尽力してくださり、食事会を開催いただいたり、実務上の
お話を伺えたりしたことは、本当に貴重で、有り難かった。私自身も一橋大学の出身とし
て社会で活躍できるように、きちんとがんばらねばと思わされた。HMBA の卒業まで残りわ
ずかというところで、この研修によって普段とは異なる視点で考える機会をいただいたこ
と、今後の取り組みに向けた多くの指針を得たことを感謝したい。
2009 年度一橋大学大学院経営学修士コース金融プログラム
上海・香港国際研修プロジェクト
学籍番号
修士2年
cm080227
杉田知世
【謝意】
はじめに、今回の研修プログラムにご協力いただいたみずほ証券の関係諸氏、上海財経
大学や人民大学の関係諸氏、訪問先企業の関係諸氏、如水会の関係諸氏、清水教授、小川
教授、三隅教授、大和田さんをはじめとするMBAオフィス各位に感謝申し上げます。10
日間の有意義な研修を送ることができたのは、皆様のご協力があったからです。本当に有
難う御座います。
今回の研修プログラムは、大学での講義と企業訪問を中心に構成されていた。本レポー
トは、その概要と中国上海香港での 10 日間を通しての感想で構成する。
【上海財経大学・人民大学での講義について】
上海財経大学では、2 つの講義と学生との交流で構成された。孫教授の講義の内容は、現
在までの経済発展から中国政府の政策にまで多岐にわたるものであった。また、大国なら
ではの人口の問題(少子高齢化)や格差の問題、中央政府の施策の困難さなど、今後の中
国経済にとっての懸念事項が多く語られた。その教授が熱弁をふるう姿は、国民のひとり
ひとりが発展を信じ、自国を憂いているようで、心に響くものがあった。さらに、昼食の
時間を利用し、学生との交流をはかった。中国の学生達は、インターネットを通じ普段か
ら日本の文化に触れており、日本に対して強い関心を持っていた。また、中国では大学を
卒業しても就職できないという就職難が続いている現状も話してくれた。その中で、自分
の能力に見合う職を見つけるためにも、グローバルに活躍していこうとする意欲にみなぎ
った学生達と有意義な意見交換が出来たと思う。
人民大学では、陳健教授による講義が行われた。人民大学は、広大な土地に建てられ、
日本の大学教育とは違い、親元を離れ寮に入る制度であった。また、学生に軍事訓練を行
うことで規律をもたせようとしていた。そこに、恵まれた環境でゆとり教育を甘受してい
る日本の学生との感覚の違いを感じた。
【企業訪問について】
今回のプログラムでは日系企業7社と外資系企業2社を訪問した。
まず、上海滞在中は、金融2社と無錫の事業会社 2 社を訪問した。金融中心では、みずほ
証券と信金中央金庫を訪問した。世界の金融センターである上海ということで発展が見ら
れるのだろうと思っていた。しかし、想像していたほど上海の夜は明るいものではなかっ
た。明りのついていないビルがあちこちにあり、テナントの空きが目立った。上海は 2010
年に万博を開催する。政府による万博の広告や、明るい未来の設計図が至る所に貼りだし
てあったが、それが政府の計画通りに行くのか疑問である。サンテックでは、技術者が重
宝され、また彼らが技術を身につけて、積極的に転職を行うという実状に感心した。中国
のほうが、我が国よりも労働市場が流動的である。
香港滞在中は、JBIC や東亜銀行、みずほセキュリティーズアジアに訪問した。その中で
特に印象に残っているのは、シンセンテクノセンターである。工場で働く女子工員たちと
触れ合うことで、中国の工場労働者の実態を見ることが出来たと思う。内陸部出身者は最
低賃金で働き、香港から数時間の場所にも関わらず生活レベルが全く異なっていた。経済
特区であるシンセンは、近年急速に発展が進んでいるが、それでもまだ中央との格差は埋
まらないのだと実感した。上海と比較すると、香港は成熟しきった印象を受けた。外資系
企業が多く、その資金が流入してきたのだろう。金融危機以降、香港の成長は低迷してい
るようだが、今後は上海や北京のような都市と海外を結ぶ中継地点として成長を続けるの
ではないかと考えられた。
【研修を通しての感想】
中国を旅行して受けた印象は、「大きな政府の政策による急速な発展、それによって生じ
た経済格差」であった。確かに、中国は成長途中にあり、そのバイタリティを肌で感じる
ことができたが、実質的に発展したのかという疑問が湧き起こった。今後、国家全体の発
展が生じてきた時期に大きな歪みとなるだろう。また、私にとってアジア圏への旅行が初
めてだったので、研修前は中国に対する先入観に縛られていた。驚いたのは、想像してい
た以上に、日本製品が市場に溢れかえっていることだった。コンビニやスーパー、雑誌に
至るまで日常品は日本製品が多かった。そこから、今後の中国の製造拠点ではなく市場と
しての大きな可能性を垣間見た。
私は、MBA 取得後、資産運用業界に就職することが決まっている。そのため、金融セン
ターである香港・上海における今回の経験は大変役に立ったと感じた。特に、香港でのエ
コノミストとの会食は、将来自らが海外勤務になった場合の姿を想像させた。如水会では、
多くの OB・OG の方々にお集まり頂き、一橋大学卒業生が中国で活躍し、日本との架け橋
として貢献している姿を拝見でき、私も励まされた心持である。
以上
<上海・香港国際研修プロジェクト報告書>
学籍番号
氏名
1
cm080230
園部
誠
はじめに
昨年のタイのプロジェクトに続き、本プロジェクトでも、非常に有意義な経験をす
ることができた。上海財経大学での講義、上海・無錫・香港・深圳での企業訪問、人
民大学深圳研究院での講義、如水会の方々との交流など、すべてのイベントが非常に
貴重な体験であった。以下に本研修を通じて感じ、考察したことを記述する。
2
上海
私にとって、上海の訪問は5年ぶりであった。この5年間における上海の発展には
圧倒された。特に印象的であったのは次の三点である。第一に、地下鉄についてであ
る。5年前に買ったガイドブックを見てみると、地下鉄は1号線と2号線しかなかっ
た。現時点では、9号線まで営業しており、上海市内の主要な場所につながっている。
プラットホームには最新の安全装置が設置され、車両も最新のものが使用されていた。
乗車している人々の衣服なども以前よりレベルが向上しているようであった。地下鉄
に乗っている限りでは、日本にいるのと勘違いするぐらいである。上海万博までに、
13号線までが完成し、その後、18号線まで計画があるとのことであった。第二に、
浦東地区の発展である。森ビルが手掛けた金融中心、その展望台から眺めることがで
きる豪華なマンションの数々。以前に上海を訪れたときは、ジンマオタワーを見て上
海の勢いに圧倒されたものであるが、それを遥かに超える勢いで開発が進んでいた。
金融中心の中には、スターバックスや様々なレストランがあり、ここでも日本にいる
のではないかと錯覚するほどであった。第三に、中心街から少し離れた地域では、倒
産した中華レストランの店舗が目についたことである。滞在中、街を散策していても
あまり金融危機の影響を感じることがなかった。デパートや商店街へ行っても多くの
人が群がっており、レストランも多くの人で賑わっていた。そのような中で、中華レ
ストランが倒産に追い込まれている状況は印象的であった。
上海財経大学での講義では、多くのことを学ばせていただいた。特に次の四点が挙
げられる。第一に、市民権の問題である。人々が上海などの大都市に住む権利を得る
ことは容易ではない。その権利を得るために、人々は学歴を高めたり、収入を高めよ
うと努力していることは、日本では想像しがたいことである。第二に、高齢化の問題
である。飛躍的な経済発展を遂げている中で、中国では高齢化の問題が浮上してきて
いる。上海では、60歳以上の人々が住民の15%を占めるほどまで到達している。
中国政府はその問題を解決すべく、夫婦同志が一人っ子の場合、子供を二人持つこと
を許可しつつある。日本と異なり、中国では、十分な富が蓄積される前に、高齢化が
進んでしまうという懸念があるようだ。第三に、平均賃金の統計データについてであ
る。中国の統計で発表される平均賃金には、残業代や副業による収入が加味されてい
ないとのことであった。例えば、2008 年の上海の平均年収が 40,000 元(56 万円程度)
であったとしても、その年の貯金額は 60,000 元となっているということである。つま
り、基本給以外に、40,000~50,000 元程度の残業代や副収入があるということである。
このような状況を考えると、上海市民の平均年収は、統計データの約二倍、つまり、
112 万円程度にまで達していることになる。平均賃金の算定の仕方にこのような違いが
あるとは思わなかった。このことから、賃金の高騰問題が多くの企業で勃発している
ことも理解することができる。第四に、中国政府の補助金がかね余りの状況を招いて
いるということである。中国政府の景気刺激策によって、様々な企業が政府から一時
的に巨額の補助金を獲得したため、各企業のプロジェクトで使用しきれない資金が金
融市場に流れ、バブルのような状況を作り出しているとのことであった。
みずほ証券、信金中央金庫では、中国経済の現状や中国に進出している日本企業の
現状についてご説明いただいた。様々な企業、特に小売業や飲食業による中国内陸部
への出店ラッシュが起こっているとのことであった。
3
無錫
私は、5年前に無錫へも訪れたことがあった。今回の訪問では、無錫の中心街では
なく、多くの工場が立ち並ぶ特別区域へ訪れたため、中心街の発展について観察する
ことができず残念であったが、エプソントヨコムとサンテックパワーの企業訪問は非
常に貴重な体験であった。
エプソントヨコムで感じたことは次の二点である。第一に、従業員の離職の問題を
既に克服されていたことである。従業員が会社を辞めることを前提に、毎月継続的に
採用活動をしたり、職場のローテーションをしたりして、オペレーションに支障が出
ないように人材管理されていた。人事担当の方が、
「今日のような金融危機の時は、新
しく人を採用しなければ、従業員数が自然に減っていくので、むしろ管理しやすいで
すよ。」とおっしゃっていたことは、驚きであった。第二に、主力事業である水晶振動
子や発信機事業のビジネスモデルは非常に厳しいということである。製造装置のほと
んどが汎用品であり特別な技術がなく、原材料も容易に入手できるため、参入障壁が
非常に低くなっていた。また、製品自体も標準化が進んでいて差別化が非常に難しい
ため、過当競争に陥りやすい構造になっていた。実際に、中国ローカルのメーカーが
台頭してきているとのことであった。
サンテックでは、質疑応答の時間があまりとれなかったことは少し残念であった。
しかしながら、温家宝をはじめとした中国政府の要人とサンテック社長の写真などが
展示されていたことから、中国政府のサポートを強く受けていることを感じることが
できた。このことは、サンテックが飛躍的な発展を遂げている原因の一つであろう。
4
香港
香港の第一印象は、上海よりも洗練されている、一歩先に行っているということで
あった。ビルやレストランの建物を見ても、香港のそれらはおしゃれで清潔感がある
ように感じた。上海ではあまり見られなかったようなカフェやバーなどもあった。も
ちろん、上海にも、新天地のようにおしゃれなレストランがある場所はあったが、そ
れらは、いかにもその場所に造られている感じがした。しかし、香港では、町の中に
すでに溶け込んでいるようであった。
東亜銀行のセッションでは、次の二点が印象的であった。第一に、東亜銀行のパワ
ーである。中国の銀行というと、香港でいえば、HSBC、中国本土でいえば、4大
銀行が特に有名である。しかしながら、香港における東亜銀行の存在感は大きいもの
であった。特に印象的だったのは、様々な業務に対する中国政府からの許可の多くを
一番乗りで獲得していることである。人民元業務、インターネット業務、QDⅡ、中
国本土でのデビットカード・クレジットカード業務、そして、人民元建国債の販売業
務などの許可を最も早く獲得しているのである。総資産ではHSBCの半分程度であ
る本行がこのようなことを可能にしているのは、中国政府と非常に親密な関係が築か
れているからであろう。第二に、中国元の国際化が本格的にスタートしようとしてい
ることである。本プロジェクトの直前に、中国元建の国債の発行が香港でスタートす
るということが発表されていた。このことは、香港市場から人民元の国際決済業務を
徐々に推進していくということを意味する。人民元建国債を販売できる免許を与えら
れたのがHSBCと東亜銀行であった。東亜銀行は個人や企業への人民元建国債の販
売を通じて、人民元の国際的な流動性を高めるという重要な任務を中国政府から与え
られているのであろう。
みずほセキュリティーズアジアでのセッションは、講演していただいた小原様の人
柄のせいか、非常に緊迫したものであった。お話を伺うにつれ、小原様の中国及びア
ジアに対する思いや、それらの国々の企業が今後さらに飛躍的に成長していくであろ
うことを肌で感じることができた。日本人として、日本経済に対する危機感を改めて
実感することができた。
5
深圳
深圳では、テクノセンター内にあるモリテックス社の石井社長のキャラクターに圧
倒された。石井氏の非常にオープンマインドなところ、自分がやりたいことへの志の
強さとそれを実現するためのパワフルさ、本当にユニークな方であり、多くの刺激を
いただいた。
モリテックス社では、光ファイバーの製造工場を見学させていただいた。工場の設
備などは非常にシンプルで、製造現場で働く従業員は二人だけであった。しかも、彼
らの作業は製造された光ファイバーを巻き取る機械をチェックする程度であった。中
国の工場というと、労働集約的で多くの従業員が働いている場面が想像されるが、そ
のイメージとは全く異なるものであった。一方で、昼食時間に食堂へ行ってみると多
くの若い女性従業員が食事をとっていた。テクノセンターには、女性下着で有名な
Peach John の工場も入っているため、そのような工場は私がイメージする労働集約的
なものになっているのであろう。
シンセンテクノセンターのビジネスモデルのユニークさには非常に感銘を受けたが、
上述の Peach John の工場がそこにあったこともまた驚きであった。日本で電車に乗っ
ていると、時々、Peach John の広告が貼られていることがある。モデル達が商品を着
て非常に華やかな感じでポーズをとっているというものである。そのイメージと全く
異なったシンセンテクノセンターで商品が製造されていることに改めてビジネスの表
と裏を思い知ることができた。
人民大学シンセン研究院の陳先生には、中国のマクロ経済について講義していただ
いた。中国政府の景気刺激策は中国経済を支える上で重要な役割を担ったものの、今
後は、個人消費や民間投資を促進するような政策を採っていかなければならないとい
う危機感を抱いておられた。
6
研修全体を通じての考察
本研修を通じて感じたことは、中国を一つの国と考えず、地域ごとに戦略を構築し、
中国政府や地方政府と協力して事業展開することができれば、日本企業は中国市場に
おいて成功を収めることができるということである。
理由は次の三点である。第一に、中国は様々な個性ある地域の結合体であるからで
ある。今回、訪問した上海、無錫、香港、深圳の4都市は、それぞれが非常に特徴の
ある都市であった。ありふれた話ではあるが、まず言語が異なる。本プログラムに参
加した中国の留学生の反応が非常に印象的であった。彼らは、北京語が母国語である。
上海や無錫では北京語が通じるため、積極的に通訳などをしてくれたが、香港や深圳
の公用語は広東語であるため、彼らはほとんど理解できないと言っていた。みずほ総
合研究所の方は、
「ハルピンの気温が-30℃で、海南の気温が 20℃だと、地理や気候的
にも同じ法律を適用することが難しいんですよ。」とおっしゃっていた。エプソントヨ
コムの方は、
「華東地域の人材は、優秀な人材が多く、手先が器用なんですよ。泥人形
や竹細工の民芸品をみるとわかりますよ。」とおっしゃっていた。また、「従業員の定
着率も深圳よりいいですよ。」とコメントされていた。つまり、中国の各地域には非常
にユニークな特徴があるのである。
第二に、中国政府や地方政府の力が絶大なことである。上海の市民権の問題、東亜
銀行と中国政府との関係、無錫や深圳などの経済特区の存在、サンテックと中国政府
との関係、江南大学での軍隊による学生の訓練など、多くの場面で中国政府や地方政
府の存在を感じることができた。また、エプソントヨコムの方は、地方政府はビジネ
スに関して非常に積極的であり、行動が早いとおっしゃっていた。このように、中国
政府や地方政府のパワーが非常に大きいのである。
第三に、中国において、日本や日本企業のブランドは高品質のイメージをまだなん
とか維持していると感じたからである。上海の繁華街のレストランの看板を見てみる
と、高級食材として日本産の肉や野菜をアピールしているところが多くあった。少し
前に牛乳のメラミン混入事件があったが、現在でも、日本メーカー(アサヒ)の牛乳
がローカル製の牛乳の数倍の値段であるにもかかわらず、スーパーでは人気があるよ
うであった。内陸部では、日産の小型車が特に売れているとのことであった。小型車
のラインナップを他社よりも多く揃え、中国の内陸部の人々のニーズを掴んでいるよ
うである。
これらのことから、地域ごとの戦略を明確にし、中国政府や地方政府と協力してビ
ジネスを推進することができれば、日本企業は中国市場で活躍できる場が多くあると
思われる。
7
最後に
本プログラムをサポートしていただいたみずほ証券株式会社様に厚く御礼申し上げ
ます。また、本プログラムを取りまとめてくださった、清水教授、小川教授、三隅教
授、MBA オフィスの大和田さん、深圳・無錫のアレンジをしてくださった関教授、上
海財経大学の王教授、復旦大学の孫教授、人民大学シンセン研究院の陳教授、国際協
力銀行の行天様、中国の各企業・機関の皆様、如水会の皆様、毎日エデュケーション
の鳥居様、その他各関係者の皆様に心より感謝いたします。本当にありがとうござい
ました。
今回は、本プロジェクトのリーダーを務めさせていただき、貴重な体験をさせてい
ただきました。昨年に比べて人数が倍になったということで、プログラムの前は少し
心配しておりましたが、先生方、大和田さん、M1・M2 の皆様のおかげで、無事に本
プログラムを完遂でき本当にうれしく思います。また、みなさんと楽しい思い出を作
ることができ非常に有意義なプログラムでした。最後に、当プログラムが HMBA の名
物プログラムとして確立され、多くの HMBA 生が今後もこのような貴重な体験をする
ことができるよう願っております。
以上
HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト研修レポート
た も り ばく ほ
多森麦穂(CM080233)
はじめに、今回の研修プロジェクトをサポートしていただいたみずほ証券株式会社様と
訪問先企業・大学の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。また、本プログラムを取りま
とめてくださった、清水教授・小川教授・三隅教授・大和田さんをはじめとするMBAオ
フィスの皆様に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
本プロジェクトから得られた収穫を二点に集約すると次のようになる。まず、(1)中国
の存在感の大きさに対する理解を深めることができた。また、
(2)実際に現地で学んだと
いう財産を獲得することができた。以下、それぞれについて説明する。
(1)中国の存在感の大きさの理解
世界における中国の存在感が高まっていることは周知の事実である。例えば、まもなく
中国のGDPが日本を抜き、世界第二位に躍り出ることなどが、中国の存在感を私たちに
知らしめている。私も中国の存在感については理解しているつもりであったが、本プロジ
ェクトへの参加によって、より深くこの事実を理解することができた。理解を深めること
ができた理由は次の二点である。
第一に、訪問先の企業や大学で中国経済やそれを支える中国企業の成長についてお話を
伺うことができたからである。①現地の方の実感のあるお話を伺えたことと、②10日間
という短い間に、たくさんの方から一気にお話を伺えたことの二点が特に良かった。①現
地で実際にビジネスや研究にたずさわられている方のお話は極めて説得力があった。②短
期間で多くの方からのお話を伺えたことは、たくさんの異なる視点を一気に知れたことを
意味する。同じトピックでも、話し手によって、切り口が異なっていたり、あるいは見解
が異なっていたりして、おもしろかった。しかも短い期間で異なる観点を学べたため、理
解が新鮮なうちに、新しい別の視点を知ることができたので、一つ一つの話を有機的につ
なげることができた。
第二に、成長している都市を実際に見ることができたからである。高校のとき私は部活
動の遠征で上海を訪れたことがあった。その当時と比較すると、上海という都市は驚くほ
ど成長していた。例えば当時はなかったビルがいくつも高くそびえたっていた。中国の存
在感をまざまざと見せつけられた。
以上のようにして、中国の存在感を、頭と体で理解することができた。
(2)実際に現地で学んだという財産の獲得
HMBAは「深く考える」ことを標榜しているが、深く考える際の大きな武器となるの
が “リアルな現実”を知っていることだと私は考えている。HMBAにおいて新卒学
生の私は、社会人学生の方々が自らの経験を頭に置くことによって考えを深めている姿
を見て、リアルな現実を実感していることの意味を学んだ。
今後、私たちが国際的に活躍するビジネスパーソンになるためには、香港や上海とい
うアジアにおける金融・生産・流通ネットワークのハブを理解していることは必要不可
欠だと考えられる。そのため今後は常にアジアについて考えを深めていかなくてはなら
ない。その際に、実際に現地で学んだ経験を有するかどうか、リアルなイメージを持て
るかどうかが、思考を深めることができるかどうかの大きな岐路になると考えられる。
したがって、本プロジェクトでの経験は極めて大きな財産になると考えられる。
以上
上海・香港国際研修プロジェクト
研修レポート
CM080237
幅
啓典
1. はじめに
「上海・香港国際研修プロジェクト」は金融プログラムによる 3 回目の海外研修であり、
私自身は昨年度の「タイ・ASEAN ビジネス環境国際研修プロジェクト」に引き続いての参
加となった。この貴重な体験機会を通じて感じたことを報告申し上げる。
今回の海外研修も多くの方々の支えによって実行された。清水啓典先生、小川英治先生、
三隅隆司先生からは、どこまでも不肖な学生を決して見捨てることなくご指導を賜った。
大和田幸恵金融プログラムオフィサーをはじめとする MBA オフィスの方々には、海外研修
全般において企画・調整をして下さった。この場を借り、改めて感謝を申し上げたい。
2. 上海市
上海市では上海財経大学、みずほ証券上海駐在員事務所、信金中央金庫上海駐在員事務
所への訪問を通じ、上海市や中国全体の経済や金融状況の解説を受けた。
およそ 10 年前に私は香港に訪れたことがあったものの、中国本土への訪問は今回の海外
研修によるものが初めてであった。以前より上海市は 2,000 万人都市と聞いていた。JETRO
が作成した上海市概況に拠ると、戸籍人口 1,371.04 万人、常住人口 1,888.46 万人とある。
これら以外に、地方からの出稼ぎ労働者が 660 万人以上おり、総人口は 2,500 万人ほどと
もいわれる――人口に限らず所得などについても統計が曖昧であることを不思議に感じた。
上海市の戸籍の有無によって社会保障などの公共サービスにも違いがある。優秀人材には
上海市の戸籍が発給されるため、地方出身の学生においては勉学や研究のインセンティブ
となっているようである。
2010 年に万博を控えた上海市では、道路、地下鉄、高層ビルなど、いたるところで工事
や建設がおこなわれており、今なお発展途上の都市であると感じた。日本と比べて地震が
少ないこともあり、工事や建設がはじまればすぐに完成するようである。
驚いたことに、1 日目から交通事故を目撃した。都市は急速に発展しているのに対して、
市民のマナーやモラルの向上は進んでいないかも知れない。しかし、日本がそうであった
ように世界とのビジネスを通じて大きく改善していくのではないだろうか。
3. 無錫市
無錫市ではエプソントヨコムの現地法人とローカル企業であるサンテックパワー(無錫
尚徳太陽能電力有限公司)の工業見学をおこなった。
エプソントヨコムでは、訪問以前に想像していた通り、人材が課題であると感じた。中
国では 3 年で転職するものが多く、中でも日系企業で身に付けた技術をもとに他の企業に
転職する者が多い。そのため、福利厚生などのインセンティブを設けたり、離職者が出て
もその代わりが務まるように標準化をしたりと、離職に関する施策に苦慮しているようで
あった。中国での人件費は上昇しているものの、製造コストに占める割合は少なく、訪問
以前に思っていたほどの影響はないようであった。
今回の海外研修でも全ての訪問先企業に対して事前に質問状を送付していたにも関わら
ず、サンテックでは工場見学以外の時間がなくほとんど回答を頂く機会がなかった。中国
での商慣行の違いが原因かも知れない。あるいは訪問依頼が無錫市政府などを介しておこ
なわれため、こちらの意図が通じてなかったのかも知れない。いずれにせよ、海外でのア
レンジの難しさを感じる訪問となった。なお、サンテックは急激な発展を遂げている中国
の太陽電池メーカーであり、現在ではシャープを抜いて世界第 3 位のシェアを誇っている。
我々以外にも工場見学者がおり、非常に注目されている工場であることは間違いなかった。
4. 深圳市(しんせんし)
シンセンテクノセンター、Moritex、人民大学深圳研究院への訪問をおこなった。
深圳市は香港の新界と接し、経済特区に指定されている。中国では、香港、澳門(マカ
オ)に次いで所得が高い。1980 年、改革開放路線を採用した鄧小平の指示により深圳経済
特区が指定されると急速に発展した。元来は一集落に過ぎなかったものが、改革開放経済
の過程で外部より労働人口が流入して都市が形成された。アメリカとメキシコの国境沿い
のように、香港との間を行き来する労働者も多い。香港を経由してビジネスをおこなう日
系企業も多く、今後も注目すべき地域と思われる。
5. 香港
東亜銀行、みずほセキュリティーズアジア、JBIC(国際協力銀行)より講話を聞くこと
ができた。特に JBIC では豊富な資料を用いた熱心な説明により、日本企業の海外展開にお
ける JBIC の役割を実感することができた。
香港では英語が通じるため自由時間も比較的安心して行動することができた。香港で欧
米人のみならず韓国人なども見かけた理由は英語が通用することが一因であるように思う。
日本も英語が通用しないままでは、世界から相手にされなくなってしまうかも知れない。
国内の観光産業においても英語は必須のものと、改めて実感する訪問となった。
6. 最後に
実際に現地に赴き、企業訪問などを通じて現地の方々から話を聞くと、それまで抱いて
いたイメージを裏付けることもあれば、それを裏切ることもある。まさに、「百聞は一見に
如かず」であろう。この海外研修プログラムでは海外で活躍するビジネスパーソンと直接
話をする貴重な機会が提供されている。一社会人でこのような機会は誠に得難いものであ
る。海外研修プログラムが今後ますます充実されることを願いたい。
「上海・香港国際研修プロジェクト」を終えて
cm080246
王 陽洋
はじめに
金融業界の混乱が続いている現在、自分の母国である中国での企業はどうのように対
応しているのか、現場の生の声を聞きたくて、今回の「上海・香港国際研修プロジェクト」
に参加した。今回の研修プロジェクトを通して、普段見ることのできない現場(工場見学)
を見ることができた、普段聞くことのできない生の話もたくさん聞くことができたので、
本当に意義のある研修であったと思う。
今回の研修は本当にたくさんの企業と大学を訪問してきた。ここでは印象深いところの
三ヶ所を取り上げて、自分の感想を述べたいと思う。
● 上海財経大学
研修で最初に訪問したところは上海財経大学であった。財経大学の王恵玲先生は「2
1世紀の新上海」をテーマに歴史のある「老上海」から現代的な「新上海」まで詳しく
教えて頂いた。
自分は中国人とは言え、高校卒業してから、すぐに日本に留学したので、上海に行く
のも初めてだったし、上海の歴史と経済についてはあまり詳しくなかった。王恵玲先生
の話を聞いて、上海のことについて、たくさん勉強になったと感じた。
たとえば、上海の不動産産業について、王恵玲先生は自分自身の例を通して、上海の
不動産価格の伸び率を説明してくれたので、とても分かりやすいと感じたと同時に、上
海不動産価格の伸び率は不正常ではないかと思った。中国経済は急速に発展している反
面に、その尋常ではない一面も軽視してはいけないと思う。
● みずほ証券上海駐在員事務所
みずほ証券上海駐在員事務所での訪問は、上海経済をはじめ、中国全体の経済近況
を統計的に説明してくれた。
たとえば、説明の中で、サントリーの話が出た。サントリーは上海でのシェアは 50%
を占めているトップメーカーであるが、一方、中国全体のシェアは1%しかないのだ。
この巨大な差は中国市場開拓の難しさを示している。とくに、日本メーカーの場合は、
大都市から内陸(中部)まで進出戦略を立てる会社が多い。しかし、大都市で何とか
成功させるのが精一杯で、内陸までの進出はなかなか進まないのだ。
店舗拡大の重大難関は三つである。それは、マニュアル作成、人材育成と宣伝であ
る。
まず、マニュアルについては、中国は広いので、この地域のマニュアルはほかの地
域でも適用できるとは限らないので、新しいマニュアルを作成するために時間がかか
ってしまう。
次に、人材育成に関して、中国で職員の転職は激しく、対応するのは非常に頭を悩
ませている状態が現実である。
最後に、宣伝については、中国でたんなるテレビ、雑誌の宣伝ではうまく行かない。
お客さんに触れる宣伝をするのが大切である。特に、中国でのテレビコマーシャル費
は決して安くない。中国を代表する国営チャンネル CCTV でコマーシャルを出すとした
ら、コストは日本よりも高くなる。さらに、中国では60以上のチャンネルが存在す
るので、10%の視聴率を満たすのはかなり難しいことである。
ほかにも、急速に発展している中国の強いところと問題点を指摘してくれた。
中国の強いところは、社会は不安定だからこそ絶対に経済を崩さないという自信で
ある。国民は政府に対する信頼感が強い上に、政府の意志は想像以上に国民に伝わる
ことが出来るのだ。
一方、資源、財政の浪費は問題である。たとえばインフラの面では、5 年も経ってな
い道やビルを壊して、建て直すことはしばしばある。無駄な工事をすることで、いく
ら造っても、豊かにならないのだ。
これからの中国の課題はいかに非効率から効率へ変換し、いかにいいものをつくる
かである。その同時に省エネと環境問題も課題の中に入れなければならないのである。
● 東亜銀行
東亜銀行は自分が担当した会社なので、より力を入れて研究をしてきた。今回参加
人数の関係で、実際の東亜銀行に行けなくて、ちょっと残念なところもあったが、全
体的には非常に勉強になった。
たとえば、人民元建て貿易決済解禁のことや、中国が二つの金融センターを育成す
る計画などのことについて、とても興味深く勉強させて頂いた。これからの学習と仕
事にも大変役にたつと思う。
最後に、この研究プロジェクトの企画・運営をしてくださった、清水先生、小川先生、
三隅先生、関先生、MBAオフィスの大和田さんをはじめとするすべての方々に感謝の気
持ちを申し上げます。大変貴重な体験をすることが出来ました。本当にありがとうござい
ました。
金融プログラム
「 MBA 上海・香港国際研修プロジェクト」 于 洋(cm080256) 【はじめに】
本プロジェクトに参加する背景としては、私は中国出身で改革開放以降 30 年ぐらいを経
て中国の経済発展及びその抱える問題点に関する全体像を隣国である日本の金融機関の視点
から把握しようと考える。そのためには、客観的な目で見る必要があるから、今回、中国経
済にとって非常に高い存在感を持つ日本側の立場に立って、一体中国経済発展をどう見てい
くのかを知りたい。
【中国の都市観光について】
中国大陸では、上海、無錫とシンセンを訪れた。自分は大学時代に上海と無錫に何度も遊
びに行ったので、あまり強い印象を受けてない。但し、上海の世界第二の高さを持つ上海環
球金融センターの観光は非常に印象深い。これは 2020 年まで上海を中国経済に相応しい金
融センターに育成しようという政府からの政策が反映されるのではないかと考えた。シンセ
ンと香港は私にとって、初めて訪れた。シンセンは 1978 年鄧小平の改革解放の前線の都市
と言われても過言ではないので、正に非常に若い都市でビルもとても綺麗だし、若さに溢れ
る都市である。一方、殆どの人は若くて農村から金を稼ぐために来たので、平均年齢は 30
歳ぐらいである。このために、シンセンの治安はずっと問題となっている。香港はどちらか
と言うと、日本の街っぽく、非常に狭くて地価も高い印象を受けた。一方、中国大陸の人に
とって、世界のブランドが集って正に買い物の天国と言える。
【大学での講義】
大学での講義は上海財経大学と人民大学シンセン研究院で二回行われた。講義の主な内容
としては、中国経済についての現状分析で、表面上のよさと裏面の問題点を解明して頂いて
非常に勉強になった。2008 年の金融危機からの打撃を受けても、2009 年 8%の GDP 成長率を
確保できるという予測からこれから中国経済発展の堅調さを伺う一方、その GDP への貢献度
の割合を見ると、実際に、政府のインフラ投資(4 兆円の経済支援政策を打ち出した)が 8%
を牽引していることが分かる。GDP に対する貢献度は投資、消費と輸出といった三つのファ
クターからなるものである。ここ数年の中国 GDP の推移から見ると、投資は上昇をつづけ、
消費は減少を続け、輸出は 2007 年を契機に減少に転じている。現在の GDP=7.1 の割合で言
うと、投資、消費とネット輸出はそれぞれに大体 6.2%、3.8% と-2.9%となっている。投資
は特に政府投資が経済を牽引している。つまり、中国の経済構造は今非常に非合理的と言え
る。そのために、今後、消費と民間投資に力を入れるべきである。
【企業訪問】
上海ではみずほ証券、信金中央金庫、無錫ではエプソントヨコム、サンテック、シンセン
では、シンセンテクノセンター、香港では東亜銀行、みずほセキュリティーズアジア、JBIC
といった企業を訪問させて頂いた。日本金融機関(みずほ証券、信金中央金庫、みずほセキ
ュリティーズアジア、JBIC)を訪問した印象としては、特に、日本の高度成長期では、日本
製造業をサポートするために、金融機関も中国にも進出してきた。しかし、バブル期を経て
日本の金融機関は足元の問題(不良債権等)を解決するために、日本に集中し、中国におけ
るプレゼンスも他の外資金融機関に比べてだんだん低くなってきた。でも、これから中国は
2001 年の WTO 加盟を経て金融セクターにも全面的に開放される予定なので、チャンスをつ
かむために、日本の金融機関はこれからもっと努力する必要があると思われる。但し、良い
ところとしては、日本の金融機関の調査力は非常に高く、中国経済の動向を日々観察してお
り、中国のマーケットを分析して、常に日本企業が中国に進出することを考えていることは
非常に評価されるべきである。例えば、上海みずほ証券のレクチャーの時で印象深いところ
は、これから中国の内需消費に注力することにおいて、日本企業による内需狙いの中国参入
が現在ラッシュであるという点である。吉野家で言うと、211 店舗から 2010 年代半ば 1000
店舗に開店する勢いにびっくりした。日本製造業(エプソントヨコム、シンセンテクノセン
ター)を訪問した印象としては、一語と言うと中日経済の互恵である。つまり、日本にとっ
ては、安い尚且つ品質が良い商品が作れる一方、中国経済の輸出と地域経済発展に貢献して
いる。中国製造業(サンテック)を訪問した印象としては、民間企業の誇りとして、高い生
産力でコストダウンに成功し、世界的に活躍している一方、やはり太陽電池に関する技術の
面では日本企業の技術に負けているので、もっと、太陽電池に関わる人材を確保して、技術
が高くて付加価値の製品を作るように努力すべきだということである。中国銀行(東亜銀
行)を訪問した印象と言うと、香港の地場銀行としてこれから中国大陸の業務展開に更に力
を入れる一方、日本の金融機関に比べて、東亜銀行だけではなく中国銀行業を代表できる四
大銀行の海外展開は非常に遅いと感じた。その理由は主に二点ある。一つはそもそも中国銀
行自体の競争力が弱くて企業の融資審査力も低いことである。海外に出ても顧客を開拓する
能力が低い。もう一つは中国企業のグローバルなプレゼンスが低いため、その後ろで支える
銀行の存在も特に重要ではない。そのために、中国企業、特に、サンテックのような民間企
業を育成することと、銀行自体の競争力向上に注力すべきと思われる。
【如水会】
我々一橋大学が誇る如水会は中国では北京、上海、香港、広州、大連といった五つの支部
がある。今回は 1986 年に設立された上海如水会に訪れた。食事会では、上海で活躍してい
る OB 方々に会えて更に、有意義な話も聞いて非常に貴重な体験をした。特に、清水先生か
ら一橋如水会に熱い挨拶では、一橋大学キャッチフレーズ―“Captains of Industry”つまり、
国際的に通用する産業界のリーダーたり得る人材の育成― これが教育機関として一橋大学
が創設して以来、使命としてきたものということを再び強く感じた。 【最後に】
今回の研修を通じて本当に色々勉強させて頂いた。最後に、寄付を頂いたみずほ証券さん、
随行して頂いた清水先生、小川先生、三隅先生と我々のために心配りのあるプロジェクトを
提供いただいた大和田さんをはじめとした MBA オフィスの皆様に心よりお礼を申し上げた
い。
上海・香港国際研修プロジェクト
研修レポート
CM080257 沈礼彬
Ⅰ.総括
今回の研修では中国の二大経済・金融センターである上海と香港を訪れ、中国の著しい
経済発展および中国に進出する日本の金融機関や製造業者の活動を身近で感じた。大学で
の講義、企業訪問・見学、如水会のOBOGとの交流、都市の観光など内容たっぷりで、どの
場面においても中国の経済環境、金融・ビジネス事情に詳しい方々のお話を聞くことがで
き、視野を広げた。
Ⅱ.訪問内容
◆大学での講義
今回は上海財経大学と中国人民大学を訪れ、中国経済および金融政策を専攻する3人の
先生による講義を受けた。どちらも非常に充実した内容だったが、特に孫先生(復旦大学)
の「Analysis on Chinese Macro Economy & Policy Implications」についての講義が最も
印象深かった。大学時代にずっと日本で留学していたため、中国経済に関してこれほど詳
しい話を聞くのが初めてだったので、中国経済と社会の現状や問題点、金融危機の影響や
政府の対応などについて認識と理解を大変深めたと同時に、今まで中国人としての自分の
知識不足をも痛感した。
◆企業訪問
上海ではみずほ証券および信金中央金庫の上海駐在員事務所を訪問し、香港では東亜銀
行、みずほセキュリティアジア、JBICの代表者による講義を受けた。中国での業務展開、
日系企業への資金サポート、リスクマネジメントなどについて色々な詳しい話を聞き、ま
た金融業界を代表する様々な素敵な方に会えて、人生の中に恐らく1度しかない本当に貴
重な経験であった。
また、金融機関だけではなく、中国で最も代表的な経済開発区である「無錫経済新区」
と、数多くの日系企業の中国進出をサポートするシンセンテクノセンターをも訪れた。日
系中小企業から中国大手企業まで様々なタイプの企業の話を聞くことにより、中国におけ
るビジネスの取り組み方の相違や現地事業活動の難しさなどを学び、また普段ほとんど接
する機会のない製造現場や現地従業員の労働環境を見ることができ、大変貴重な経験とな
った。自分は無錫日系企業担当チームに所属するので、当初大手メーカーへの訪問を希望
したが、実際今まであまり馴染みのないエプソントヨコムやモリテックスへの訪問を通じ、
中国に進出する日系企業の中にも相当な割合を占める中小企業の活動実態を考察すること
にも非常に大きな意義を感じた。また、中国発多国籍企業の代表であるサンテックパワー
への訪問も印象深かった。高度な技術を持ち、新エネルギーの開発領域において世界をリ
ードする中国企業の発展や活躍を身近で見、中国人として非常に大きなプライドを感じた。
さらに自分にとって最も感心したのは、無錫市政府が積極的に外商投資を導入している
と同時に、海外留学経験を持つ優秀な人材の誘致や起業サポートにも力を入れる姿勢であ
る。訪問中に無錫対外貿易促進協会の代表者の方から、「留学後にぜひ無錫に来て活躍し
てください」みたいな話が何度もされた。無錫市政府が毎年海外留学中の中国人留学生向
けの起業説明会や現地見学ツアーを催行し、実際にサンテックも帰国留学生によってスタ
ートされたひとつの好例である。今後中国全土また地域の経済活性化のための、自分の価
値と責任を強く感じた。
◆上海如水会
上海訪問の最後のイベントは、上海如水会であった。予想以上に多くの上海在住の一橋
OB・OG の方々が温かく出迎えて下さり、和やかなムードで楽しい時を過ごさせていただい
た。日本国内のみならず、海外においても強い結束力を誇る如水会を目の当たりにし、そ
の凄さを改めて実感し、一橋生として大きな誇りを持っている。
Ⅲ.終わりに
今回のプロジェクトは事前に想像していたもの以上に充実しており内容の濃い10 日間
であった。特に長い時間日本で過ごしていた自分にとっては、非常に大きな意義を持って
いる。
最後に、当プロジェクトの企画・運営をして下さった、清水教授、小川教授、三隅教授、
MBA オフィス大和田さんをはじめとする全ての関係者の方々に厚く御礼申し上げます。あ
りがとうございました。
「HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト」参加レポート
CM080258 李明
母国中国のマクロ経済に対する理解を深め、中国の最新の様子・中国進出の日本企業の最新
状況を目で確かめたいというのが、この度「HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト」に参
加する目的であった。特に目的地の上海は私の出身地でもあるため、今回の研修は再発見の旅
とも言えよう。
現地に訪れた時の感想
9 月 1 日に 1 年半ぶりに上海に着いて、初めて上海の蒸し暑さを実感した。その日の午後、
環球金融センターに登って上海市街を俯瞰したとき、9 年前に東方明珠テレビ塔に登って上海
市街を俯瞰した時の様子を思い出して、光陰矢のごとしを実感させられた。街の中では、相変
わらず工事現場が多い。そのためか、道路両側の建物の多くがいつも土埃まみれである。
9 月 6 日、香港に初めて足を踏み入れた。香港の街は、やはり看板が目立つ。各商店が我先
に看板を道路の中央まで突き出している。セブンイレブンの店舗が香港の都心にこんなに密集
していることも正直びっくりした。香港のホテル・商店・公共施設などでは広東語、標準語、
英語のどちらも欠かせないものである。大陸から結構観光客が訪れている。日本人も少なくな
いようだ。
一橋のOB・OGと東亜銀行による講義
今回は上海と深セン、香港の三都市にて、中国経済のマクロコントロールや見通しに関する
講義を受けた。上海では、過去に一橋大学に留学し、今は復旦大学で教鞭を取っている復旦大
学の孫先生による講義だった。孫先生から、投資の拡大で投資の過剰問題を緩和する政策、内
陸国有企業を支援する方針へ転換した政策など、日本の新聞によく載っている評論と異なる見
地を直接に聞けるのは大変有益だった。深センでは、一橋大学で研究歴のある中国人民大学の
陳先生から講義を受けた。陳先生は中国経済の三大障害(対外依存度が高い、消費改善が遅い、
経済構造の転換が遅い)を示した上で、政府のマクロコントロールへの建言(安定した政策、
政府投資から社会投資への転換、研究開発を励ます、社会保障制度の充実など)を説明してく
れた。
香港では、東亜銀行のチーフエコノミストである Paul Tang さんから講義を受けた。Tang
さんは目下の中国では、急増した投資と与信で急落した輸出を補填しているかたちだが、資金
が不動産や証券市場に溢れるため、住宅価格と株価の上昇を引き起こし、バブルの懸念さえあ
ると指摘した。更に Tang さんは今後、中国の GDP は投資・輸出から消費へとバランスの取
る構造を形成するには、産業のアップグレード、つまりエネルギー消費型・高汚染型産業から
高付加価値・ハイテク産業への移行が重要であると訴えた。
日系金融機関訪問
上海では、環球金融センターに入居しているみずほ証券上海駐在員事務所と、日系企業の密
集地である虹橋地区にある信金中央金庫上海駐在員事務所を訪問し、両事務所の所長や中国経
済に詳しい研究員より中国のビジネス環境に関する講義を受けた。両事務所とも中国ビジネス
環境の情報収集と日系企業へのコンサルティング・支援活動を展開している。みずほ証券上海
駐在員事務所では、日系企業の弱みは販売網であり、今後の課題としては大都市から地方へと
マーケティングの全国展開であると指摘した。信金中央金庫上海駐在員事務所では、日系企業
の弱みは現地での意思決定権限が低いことであり、今後の課題としては日本の親会社からの権
限の移譲や中国企業からの売上債権の回収などであると指摘した。また、日系企業への貸出判
断がしにくい理由として、中国事業の成功性を評価するのが難しい点があると述べた。特に中
小企業の場合、きちんとした評価システムがまだできてないようである。
無錫企業と深センテクノセンター訪問
無錫のエプソントヨコムとシンセンテクノセンターでは、我々の質問は人事制度に集中した。
エプソントヨコムでは、工員にすぐ転職されてしまうことに困ってはいるが、対策として人員
の流動性を前提にした採用・教育制度を実施しているという。エプソントヨコム(無錫)の技術
部長や人事総務部長がこのような流動性を一方的に批判するのではなく、人材流動のシステム
が機能しているなど評価すべきところもあると仰ったことが印象的だった。深センテクノセン
ターでは、2008 年の 1 月から施行された労働契約法への対策について話してくれた。同法で
は、有期雇用の契約期間が満了したときに「経済補償金」を労働者に支払う義務と、勤続 10
年または有期雇用契約を 2 回連続して更新した場合などに「無固定期限の雇用契約」を労働者
と締結する義務があると規定されている。深センテクノセンターでは、それに対応して、今ま
での 1 年ごとの労働契約を一律に 3 年ごとに切り替えたそうだ。労働者保護に着眼した同法
の施行はこれまで中国で契約社員主義で労働者を確保してきた日系企業にとって、経営リスク
の拡大を招くことになるに違いない。ただし、シンセンテクノセンターでは、同法のもつ趣旨
や積極的な面も取り上げて、同法を客観的に評価した。
終わりに
日本に来てから、中国に関する情報はほとんど日本のマスメディアやビジネス誌に頼る私に
とって、今回の「HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト」に参加して、生の情報を確認で
きるのは実に意味ある研修だったと思う。中国全土の大きな市場を控えて、先物取引市場など
世界最先端のシステムが導入されている上海は今後いっそうアジア金融センターの地位へま
い進するだろう。一方、中国大陸と異なる体制の香港はこれからも中国と外国の交流の橋渡
し・窓口の役割を演じ、中国政府の各種経済政策の実験場になるだろうと確信した。もちろん、
今後中国経済の成長エンジンは内陸部にある。その中で、上海や香港を始めとする沿岸部都市
はどのような成長戦略を描くか、また中国内陸部は新たな生産拠点さらには販売拠点としてど
のような可能性を秘めているかについて、もっと注目していきたいと思う。
上海・香港研修に参加して
cm090285
岡山
雅彦
はじめに
HMBA 金融プログラムの上海・香港研修に参加し、普段では経験できない貴重な体験が
できた。このプログラムの実現に関わって下さった様々な皆様に感謝の気持ちを存じ上げ
たい。
概要
10 日間の研修の内容は大きく 4 つに分類できる。①企業訪問、②大学での講義、③会食・
観光である。
① 企業訪問
上海ではみずほ証券上海駐在員事務所様・信金中央金庫上海駐在員事務所様、無錫では
日系企業よりエプソントヨコム様、現地企業よりサンテック様、シンセンではシンセンテ
クノセンター様・モリテックス様、香港では東亜銀行様、みずほセキュリティーズアジア
様、JBIC 様を訪問させて頂いた。日常業務がお忙しいのにもかかわらず、訪問先企業様の
多くがその合間を縫って私たちの訪問を受け入れて下さった事に感謝致します。
日本の製造業にとって、これまでの中国は単なる製造拠点でしかなかったが、今後は消
費市場としてのポテンシャルが非常に大きく、成熟しきった日本市場よりも魅力的な地域
である。一方、安易な進出にも問題点がある。こうした点が日常から言われてきたが、生
の声を通して実感できたよい体験だった。企業訪問を通して感じたことは非常に多く、そ
の点に関しては後ほど述べたい。
② 大学での講義
上海財経大学にて王先生から上海の近況に関する講義を、孫先生から中国マクロ経済の
現状に関する講義をして頂いた。また、人民大学シンセン研究院にて陳健先生から金融危
機以降の中国経済と回復に対する処方箋に関する講義をして頂いた。これらの講義を通し
て中国のマクロ的な経済環境を理解することができた。企業行動にはマクロ的な要因も影
響する。企業訪問によってミクロの状況を理解するだけでなく、このような講義を通して
中国経済の全体像を把握できたことは非常に有益だった。
また、御三方とも第一線で活躍する一方、一橋で学ばれたことがあるそうで、私たちに
こうした優秀な先輩がいることに改めて誇りを感じると共に、自分も後輩から誇りを感じ
てもらえる人材になりたいと感じた。
③ 会食・観光
会食は、上海での上海如水会、香港での BBVA 銀行のアリシア様との会食、シンセンで
の陳健先生との会食の 3 回である。一橋の先輩方や東アジア経済の第一人者の方など、素
晴らしい方々との会食ができ、人生の面においても、中国事情の理解の面においても参考
になるお話をたくさんお聞きすることができた。
自由行動などで若干の観光もしたが、所謂有名観光地では日本人の姿が多く見られたり、
店員さんが日本語を話せたりして、異国の情緒を味わうには少し物足りなかったと言うの
が本心である。
しかし、無錫で江南大学に立ち寄った際に、大学生に対して軍事教練が行われているこ
とには驚いた。現地ガイドの方や中国人留学生が言うには、受験勉強で鈍った体と一人っ
子政策で甘やかされた根性を叩きなおすために大学に入学した 9 月の 1 ヶ月間ずっと軍隊
の訓練が行われるそうである。
研修を通して特に印象に残ったこと
企業訪問を通して、色々なことを感じた。概要では収まりきらないため、この項で改め
て述べたいと思う。
無錫のエプソントヨコム様とサンテック様、シンセンテクノセンターのモリテックス様
の工場設備を見学させて頂いた。ものづくりの現場を実際に観察し、優れた企業には優れ
たオペレーションを実行する様々な工夫や優れた技術が存在するのを感じた。特に、日系
企業のエプソントヨコム様やモリテックス様では、日本とは勝手の異なる中国での工場運
営における困難や、それに対する解決策をお聞きした。優れた事業運営のために、ソフト
面においても様々な心配りをしなくてはならない大変さを感じた。中国市場への進出は魅
力的な戦略である一方で、安易な進出には問題点もある。1 つは、日本人と中国人の気質の
違いである。これが顕著に現れる例として QC 活動への取り組みが挙げられる。日本人の
場合、勤務時間外でも熱心に取り組むケースが多い一方、中国人の場合には勤務時間外に
は取り組まないそうである。そこで、勤務時間内に QC 活動の枠を確保し、その成果につ
いても給料に反映しているそうである。
こうした気質の違いは他の面でも現れる。離職率が非常に高いために、労働者を教育し
たとしても一人前になると共に他の企業に転職してしまうケースが中国では多い。その結
果、従業員への教育という投資が無駄になったり、技術の蓄積が進まなかったりする。そ
れどころか、他社への技術流出が進んで自社の競争優位の源泉が消失する可能性もある。
加えて、中国進出に失敗した企業が設備を置いて夜逃げ同然で撤退した後、しばらくして
他企業が元の従業員と共にその設備を使って製品を市場に出し始めるというケースもある
ようである。
このように、製造業の現場を見学し、企業の方からお話を聞き、その後研修を振り返る
中で感じることがあった。「事件は会議室で起きているんじゃない、現場で起きてるんだ!」
という有名な映画の台詞がある。ビジネスの「現場」を経験せずに新卒で MBA に来た私には
非常に耳の痛い言葉である。社会人経験者と共に学ぶ中で、実際の「現場」に身を置いたか
らこその鋭い指摘を頂くことも多い。MBA では、戦略やら財務やら企業の「会議室」的な議
論に終始しがちだ。だが、私が学びを進める中で、実際重要なのはものづくりの「現場」で
はないかと考えるようになった。「現場」が上手くいかない限り、「会議室」の議論は無駄に
なる。「会議室」にフォーカスしがちな MBA で、「現場」を学ぶ機会があった点は非常に有意
義だったと感じている。
また、こうした機会を得られたのは、一橋大学という看板を背負って企業訪問を行った
からであろう。訪問企業の大部分は手厚く歓迎してくださり、よい面だけでなく悪い面ま
で私たちに教えて下さった。清水先生がおっしゃっていたが、これが一橋大学の力と言う
ものなのだろう。これを今日まで築いてきた根底にあるのは、卒業生や先生方の活躍の賜
物ではないかと私は思っている。半年後、私は新社会人としてビジネスの現場に身を置く
ことになる。そこで一橋大学の名を汚さぬよう、自分が HMBA の卒業生であることに誇り
を持って行動し、実績を残していきたいと改めて感じた。
一方で、現地企業の中には、工場のラインを簡単に見学した上でその場での簡単な質疑
応答に終始して訪問終了予定時刻より 1 時間半も早く終了したところがあった。確かに、
我々は外部からの視察者であり、景気もよくないので自社の手の内をあまり見せたがらな
いと言うのは理解できる。だが、一橋の学生ということで歓迎してくれる企業もあるわけ
なので、一橋大学の名前がまだ及ばない部分があると捉えることもできる。そこで、一橋
大学の評判がより幅広く知られるよう、より自己の研鑽をしたいと考えるようになった。
最後に
繰り返しになるが、研修を通してこのような貴重な経験をすることができたことに対し
て、このような機会を与えて下さり、研修の実現に尽力して下さった皆様にお礼を申し上
げたいと思います。
HMBA 上海・香港国際研修プロジェクトレポート
HMBA 修士2年
学籍番号:cm090290
氏名:平川俊輔
参加の目的
私が本プロジェクトに参加した目的は、高度経済発展を続ける中国を肌で感じることで
あり、中国に負けない日本を作る為にも、まずはあるがままの中国を知り、そして私がこ
れから何を学びどのような生き方をすれば良いのか示唆を得ることであった。私にとって
4度目の中国訪問の中で、その点を重点的に学ぼうと参加致した。
本プロジェクトで学んだこと
本プロジェクトに参加して多くの中国の実態を目の当たりにすることができた。改革開
放路線以後、高度経済発展を実現し、2010年度にはGDPで日本を凌駕すると予測さ
れる中国経済において、そこには様々な経済の特性があり、また、問題点が潜んでいるこ
とを知った。
その中でも特に、中国経済における投資の意味について私は考えさせられた。GDPと
は簡単に言えばその国で生産される財・サービスの総計であるといえる。中国経済では、
その投資の占める割合は高い。このこと自体は、日本でも統計資料を見れば分かることで
あるし、発展途上段階にある国であれば、潜在的な経済発展の投資機会が高く、投資が経
済成長に占める割合が高くなることは至極全うなことである。しかし、中国において実感
したことは、多くの設備・建物の劣化が凄まじく早いということである。これは、多額の
投資が政府を通し行われているものの、アセットとして社会経済に蓄積されていくスピー
ドが遅く、投資効率が悪いことを意味する。GDPには、減価償却的な概念は無く、アセ
ットが劣化していくことを考慮したものではない。その為、効率の悪い投資であっても、
投資はすればするほど投資としてのGDP成長への貢献は高まることとなる。このような、
投資効率の低さは、経済発展を続ける為にはさらに投資を続けなければならないという状
況を生んでおり、結果として経済発展の恩恵の国民への波及を阻害していると考える。雇
用の拡大による、社会の安定を第一義に考える中国においては、このようなフローを重視
する状況は大きな問題ではないのかもしれない。しかし今後、経済規模の発展から質の発
展へと中国経済が転換していく中で、大きな問題となると考える。また、良いもの長持ち
するものを作ることに長ける日本企業にとって、このような状況は大きなビジネスチャン
スとなるのではと考える。一方、このような中国における投資効率の低さという問題に、
正反対の考えも私に生じた。つまり、「どんなものでも使えればいいのであり、たとえ設備
が劣化したとしても人間が補完することで、設備を長持ちさせることができるのでは」と
いう考えである。これは、ある意味では、財・サービスの持つ本質的な意味が試される市
場であることを示唆していると考える。例えば、どんなに生産設備が劣化したとしても、
人間で補完できることは補完し、使いきることができる市場であるのかもしれない。これ
は、私がこれまで多くの新興国で目にしてきたものと同じことである。日本人の質に対す
るこだわりが実は過剰なのであり、その点で価格競争力を削いでいる可能性も指摘できる。
以上の中国経済における投資に関する知見は、今回現場に赴き自ら体感しなければ分から
ないことであり、非常に有用な経験となった。
謝辞
今回の HMBA 上海・香港国際研修プロジェクトでは、これからの人生における多くの示
唆を頂いたと感じています。このような、プロジェクトの立ち上げにご尽力頂いたみずほ
証券株式会社様、一橋大学商学研究科様、ならびに HMBA オフィスの皆様には大変感謝し
ております。今後とも、本プロジェクトを継続・発展させていくことで、より多くの後輩
方に私たちのような経験を与えていただけることを願います。
以上
上海・香港金融研修プログラムレポート
CM090293
于天洋
9月1日からの十日間で、上海と香港に研修を行い、主に金融業の企業を訪問してきま
した。さらに、上海と香港以外に、無錫とシンセンにも行き、製造業の企業を見学し、現
地の方々との交流も行いました。これらの訪問と見学を通して、私は以下の三点について
強く実感し、深い興味を持っています。それは、中国産業の分布構造と、上海と香港の比
較、どこが金融センターになるのかといった三点です。
中国産業の分布はますます進化しており、従来の産業分布の不合理性が徐々に解消され
ている。改革開放を行う前の中国において、アメリカやソ連などの想定された敵から自国
の産業、特に重工業と製造業を守るために、政府は輸出や消費を中心とした産業分布の合
理性を無視し、海から遠く安全である内陸部で点々として工業基地を建設したのです。そ
の結果、流通システムの不足を加え、内陸部で生産されたものを運び出すことが困難であ
り、時によって産地でものがあるのに、消費地でものがないといった深刻な状況になって
いました。特に、改革解放後、海外輸出やサービス産業の発展によって、このような産業
分布の不合理性がさらに注目されるようになりました。それを克服するために、東南沿岸
部において、シンセンを中心とした珠江デルタと上海を中心とする長江デルタを建設しま
した。今回の研修を通して、両方の経済圏において産業の分布がかなり進歩していること
がわかりました。両方とも大都市の金融などのサービス業が中心であり、その周りに無錫
やシンセンのような重軽工業を含む製造業や空運・海運を含む物流業を行う都市や町が発
展しています。
このような経済圏の中で、上海と香港は中心的な位置を占めています。とりわけ金融を
中心とするサービス業が発達しており、株式市場の設置や金融機関の集中などによって両
都市は金融センターの役割を果たしており、両都市の類似点も以下のいくつかがあります。
まず、都市の背後に巨大な生産基地が存在し、外資を始めたくさんの中国大手企業が集中
しています。次に、沿岸部に位置し、空港と港湾を持つ地域の中心都市であり、流通の面
で最も進んでる都市ともいえます。第三に、サービス業が盛んである上海と香港において、
世界から数多くの金融機関が集まり、特に香港はすでに金融センターになっており、上海
も金融センターになるという目標に向かって発展しているところです。
上記のように、将来に向けて上海の金融センターとなるインフラや市場が整備されてお
り、特に政策上上海が金融センターとして建設されています。一方で香港はすでに金融セ
ンターとして活躍しており、将来において上海と競争することが間違いないでしょう。こ
の中でどれが中国の主要な金融センターになれるのかについて、今回の研修の企業訪問に
おいて議論されていたが、両都市ともに優位性を持っているので、結論が出なかったです。
しかし、私から見ると、中長期的には上海が中国の主要な金融センターになる可能性が高
いと思います。その理由は、国の政策と、内陸部の発展による上海へのバックアップ、香
港文化の違いといった三つが挙げられます。特に、香港において国際化が進んでいるが、
中国の一部分であるという認識があまりないです。百年の分離によって、香港は自由であ
る一方で、内陸に対する理解が薄くなっており、背後の珠江デルタだけが支持になってい
ます。それに対して、上海は全国から人々が集まっているので、その結果、今後内陸の発
展から最も利益を享受できると思います。さらに、中国の自由化が進んでいけば、自由の
面における上海の劣位が改善され、従って上海の優位性がさらに高められるでしょう。以
上の理由を踏まえ、中国政府の支持を考えると、上海は主な金融センターになるでしょう。
今回の研修を通して、香港や上海のような経済が進んでいる地域を見てきましたが、そ
れ以外の中国において経済的に貧乏な地域が数多く存在することを無視できないです。最
近の中国政府は西部大開発や東北振興などの政策を打ち出し、これらの地域を発展させよ
うとしています。従って、今後注目するところはもはや上海や香港ではなく、このような
大都会の更なる発展を支える内陸部の発展に目を向けるべきでしょう。
HMBA 上海・香港国際研修プロジェクトを終えて
CM090201
五十嵐 和也
研修参加の背景と狙い
中国の経済成長は日本を凌駕する、という記事を目にすることが多くなってきた。GDPの急
速な増加や万博の開催、上昇志向の高い国民性といったように、中国に対する知識は様々な書物
を通じて理解できる。世界最大の人口をバックボーンとした存在感は、無視できないほど大きい。
このようなビッグスケールを背景に、中国企業の存在感が世界市場で高まっており、日本企業に
とって強力なライバルになってきている。その一方で、今後更なる成長を見込むことのできる中
国市場は、日本企業の成長機会となり得るであろう。このように、中国は日本企業にとって機会
にも脅威にもなると考えられる。そのため、中国の脅威を低減し、機会を上手に捉える能力は、
我々のような企業経営を志向する者にとって非常に重要な要素であろう。このような中、私は中
国を訪問した経験を持たず、中国の活用方法のための肌感覚を身につけていない。そこで、私は
本研修の狙いを、この目で実際に中国を見ることにより、①中国企業の脅威の実態を把握し、②
日本企業の中国活用機会の探索を行うこととした。
中国企業の脅威
中国企業の脅威は、事前に想像していた以上であったと言わざるを得ない。中国企業はこの不
況下でも成長を続けており、規模の経済を働かせてこれまで以上に日本企業の前に立ちはだかる
と考えられる。
ハードの面から、中国には膨大な超高層ビル群や建築中の建物が多く、中国企業の成長性を予
感させる十分なインパクトを持っていた。超高層ビルは日本の都心部にも見劣りせず、数多くの
建築工事は今後の更なる成長を示唆している。このような建築物の進歩は、企業の事業拡大ニー
ズを強く感じさせる十分な迫力を備えていた。
ソフト的な観点からは、中国人の貪欲性と自信を感じることができた。我々の訪問した無錫の
エプソントヨコム工場では、新入社員と部長との年収格差が約15倍に達するとのことであった。
日本では、同じ会社の中で15倍もの給与格差をつけることは、文化的に難しいであろう。この
ような経済的格差が、従業員の成長への貪欲さにつながっていると考えられる。また、太陽電池
のリーディングカンパニーであるサンテックの担当者から発せられた「サンテックの太陽光電池
を利用している企業は、融資を受けやすくなる」という発言から、中国企業の自信が感じられた。
このように、ソフトな面からも、今後の中国企業の成長を予感することができた。
機会としての中国市場
このような脅威の一方で、中国には機会も存在すると考えられる。結論を先に述べると、中国
を市場として捉え、高いホスピタリティレベルを活用することにより、日本企業は成長可能と考
える。これまでの中国は、世界的市場として見なされるよりも、むしろ世界の工場と見なされて
きた。そこで、各国の企業は中国の安い人件費を求めて、中国に生産拠点を設立してきたのであ
る。もちろん、工場としての中国の重要性は今後も変わらないであろう。しかしながら、中国の
安い人件費を生産拠点として利用することは、企業にとってもはや差別化要素となりえない。な
ぜなら、日系企業のみならず、欧米など他国の企業も同様に生産拠点を中国に構え、安い人件費
を利用しているためである。例えば、生産拠点として外資企業の進出の多い無錫では、日系以外
の外資企業も数多く進出していた。無錫で安い労働力を活用して生産を行うこと自体は、さほど
独自性のあるとは言えないのである。このように、中国を工場としてのみ見ていたのでは、中国
を利用して成長を遂げることはできないと考える。
それでは、日系企業にとって中国を活用する方法は何であろうか。私には、中国を市場として
活用することにその答えがあるように思える。もちろん、中国を市場として見なすというのは、
各国企業も考えているであろう。しかし、日本企業はその高いホスピタリティを活用して、中国
市場を開拓できると考える。なぜならば、日本企業は世界でも類を見ない細やかなホスピタリテ
ィを持つ一方で、中国企業のホスピタリティレベルは日本と比して低いためである。実際に、今
回の中国滞在中にいくつかのサービスを受ける機会があったものの、それらは日本に比べると満
足いく内容では無かった。中国のある小売店で陶器を土産物として購入した際のサービスが良い
例である。日本であれば、少なくとも紙に包むなど、割れないための配慮がなされるであろう。
しかし、明らかに私が旅行者であるにもかかわらず、その小売店では従業員が商品を包装せずに
私にそのまま手渡ししたのである。その後、私が細心の注意を払って陶器を日本に持ち帰ったの
は言うまでもない。こうした違いを単なる国民性の問題とかたづけるのではなく、ホスピタリテ
ィあふれるサービスを提供する力を組織能力として捉える必要があるように思う。上述の例の場
合、陶器を割れないようにする工夫を当たり前に行える組織能力は、重要な要素であろう。こう
したホスピタリティあふれるサービスを提供する組織的能力は、今後の中国市場において求めら
れると考える。日本の例を振り返ってみても、モノがあふれる時代からモノが選ばれる成熟の時
代へと変化するにつれ、高い付加価値のあるサービスは重要な競争要因となった。この変遷は、
中国でも今後起こりうるものと考えられる。もちろん、サービスだけではなく、中国人のニーズ
に合わせた製品開発など、中国市場を開拓するには様々な要素が必要である。とはいえ、このよ
うな要素は短期間のうちに中国企業に追い付かれるかもしれない。そのため、育成に時間がかか
り形式知化しにくいホスピタリティという資産は、日本企業の競争優位の源泉になりうるのであ
る。
今後に向けた私の課題
このように、中国企業を脅威と感じながらも、日本企業のホスピタリティを活かして中国市場
を機会として捉えるべきというのが、今回私の出した結論である。もちろん、中国市場に進出す
る際には、中国のことを深く理解できる人材が欠かせない。我々MBAの学生も、意識を一段高
く持ち、このような市場開拓を切り開く人材になるべく努力を重ねなければならないだろう。本
研修旅行の中で日系企業の中国駐在員の方とお話する機会を多く持つことができた。そのような
皆様から、「日本人の若者はこれまで以上に努力して他国を理解しなければ日本の明るい未来は
ない」という旨のお話をいただいた。中国の学生やビジネスマンと頻繁にお話しされている皆さ
んだからこそ、中国人の高いモチベーションや成長志向を肌で感じられ、日本の若者への危機感
を持たれているのかもしれない。皆様からの期待に応えられるような人材として、私は今後とも
中国を理解する努力を続けていきたい。
最後になったが、本研修旅行の企画・運営に尽力いただいた清水教授、小川教授、三隅教授、
大和田金融プログラムオフィサーには心より御礼申し上げたい。
以上
2009 年度 HMBA 海外研修プログラム
「上海・香港国際研修プロジェクト」
CM090204
井 手 飛 人
上海・香港研修に参加して
1.はじめに
私にとって 6 年ぶりの海外訪問、且つアジア圏への渡航は初であったため、大変良い経験
となった。今回の香港・上海研修の目的は、高成長を遂げる中国経済の実態を肌で感じる
ことにあった。日本にいて、ニュース、書籍、インターネットから入手できる情報には限
界があり、それらが我々の持つステレオタイプを大きく超えて吸収されることは非常に少
ない。一定のバイアスを持ったうえで、頭の中で自分なりのイメージを築き上げてしまう
からだ。中国について拙い知識しか持たなかった私にとって、今回の訪中は驚きの連続で
あったと言ってよい。
以下では、特に印象に残った訪問先、そして全体を通して得られた感想を述べたいと思う。
2.訪問先および講演について
多くの企業、大学を訪問させていただいたが、特に印象に残ったものについて記載したい。
(1)みずほ証券上海駐在員事務所
今後世界で更にプレゼンスを高めるであろう証券市場はどこかという議論に対し、所長の
三坂希一氏は香港と回答された。これには氏の中国ビジネスへの考え方が現れていた。三
坂氏は中国ビジネスを行うには中国語を使いこなし現地のインサイトへ食い込んでいくこ
とが必須であると強調された。これから上海、深圳の市場が伸びることは容易に想像でき
るが、そのための足掛かりに香港市場を押さえることが重要であると言う。特に地理的距
離から深圳と香港が今後一体化されていく流れは必然であり、GDP 成長率 8%の国の市場
に食い込む第一歩として香港は押さえやすい市場であるとのことであった。
(2)エプソントヨコム無錫工場
今回の研修日程において唯一の日系メーカー。水晶デバイスで世界シェア NO1 企業の無
錫工場を見学させていただいた。エプソントヨコム見学で一番感じたのは、結局一番大事
なのは「現地の人、現地ワーカーとの繋がりをどれだけ大事にできるか」であった。現地
の人とは具体的に言えば市政府関係者との繋がりである。工場進出は無錫市政府との契約
に基づいて行っているものであるから、企業の勝手な都合で撤退、工場規模の増減ができ
ない。従って、自社の生産計画を想定通りにこなすためには市政府の理解が必要となって
くる。今回のトヨコム訪問に際しては、研修アレンジの段階から市政府担当者が関与する
など、密接な関係強化が図られていることがうかがえた。また、現地ワーカーに対する教
育制度、研修制度の充実ぶりも感じられた。離職率の高いワーカーに対しても、時間のか
かる研修を施して現地労働者のレベルアップに貢献する気概を会社として負っており、土
着化の努力を感じることのできる訪問先であった。
(3)サンテック
中国の太陽電池メーカー。近代的な工場であり、日本の一流メーカーの工場を見学するの
と何ら遜色はない。ただ、応対面で言うと、社会見学コース的に一通りの説明を 20 分程度
で受け、エントランスであっけなく解散となるなど消化不良感が否めなかった。彼我の受
入体制の温度差や、海外企業の訪問アレンジが大変難しいことを学んだ。
(4)テクノセンター(深圳)
日系中小企業が中国進出を行うにあたり、その橋頭堡としての役割を担っているのがテク
ノセンターである。工場立地確保や、現地の法律に沿った労働規定の作成など、中小企業
にとってはサポート無しには非常に困難な現地進出をメイン業務としている。こちらの訪
問では、実際にワーカー寮の見学をさせていただいたり、ワーカーと同じ食事を摂らせて
いただくなど、一番生活感のある体験を行うことができた。特にワーカー食堂では、たま
に現地ワーカーでもお腹を壊すという 3 元(約 45 円)の食事を食べることができ、貴重な
経験となった(お腹は壊さず、美味しい昼食となったことを付け加えておく)。
3.感想
これだけ経済成長がすさまじい国であるにも関わらず、私は訪中前には自転車がいっぱい
などのステレオタイプを拭い切れていなかった。しかし、上海空港から市街地へのバス路
でその発想は一掃される。日本でもまだ実用化されていないリニアモーターカーが市街地
と空港を結んでいるのを目の当たりにしたのである。我々は西側諸国に組み込まれた国に
生活しているため、共産圏に対しあまりいい印象を持っていないことが多い。しかし、中
国にとって、改革開放以後、一番の武器は共産主義体制であると感じた。原則的に土地が
国家のものであるため、リニアのような交通インフラ、あるいは箱物を作ろうとした時の
土地接収が容易である。国がベクトルさえ示せば、一直線で物事が進む。これは共産党支
配体制下だから成せる技である。
また、中国の経済を外部から解説するのは難しいということも分った。例えば、昨年第 3
四半期の中国経済の落ち込みは、一般的には世界不況と同様リーマンショックに原因があ
ると考えられている。しかし、復旦大学・孫立堅教授によれば「中国の昨年第 3 四半期の
経済の落ち込みは、国有株 80%の市場放出に原因がある。
」とのことである。これは現地で
もあまり認識されていないということであった。こうした生の情報に触れることができた
のが、今回の海外研修の参加意義ではなかったかと思う。
上海、香港に滞在した 10 日間を通じて、一貫して考えていたのが「はたして、日本は国
際的競争力を維持できるのか?東京は魅力的な都市なのか?」ということである。金融市
場の自由度、税制、経済特区等優遇制度への取り組み、人材インフラ(語学に堪能な人材)
など、どれをとっても魅力を欠いている。ましてやハングリー精神など今の日本に望むべ
くもない。勢いもない。2008 年 IMF データによれば、中国は GDP 総額ベースで日本に次ぐ
3 位、購買力平価にいたっては日本を抜いて 2 位である。経済成長率 8%という中国の高度
経済成長の恩恵にあずかるだけではアジアの盟主の地位は保てない。将来的に中国経済が
落ち着いた後、日本には周到な出口戦略が必要である。こうした脅威を肌身に感じられる
ことも研修の醍醐味であった。
反省点があるとすれば、自分の語学力についてだ。上海財経大学学生との交流、BBVA
の Ms.アリシアとの会食、東亜銀行のポール・タン氏の講義など、自身の語学力の無さから
十分に学べなかったことは大変恥ずかしい。今後の課題である。
4.謝辞
最後に、以下の方々に特に御礼を申し上げたい。(順不同)
・志野英男氏(エプソントヨコム無錫工場 総経理兼董事:快く工場訪問を受け入れていた
だいた。また、こちらの稚拙な質問に丁寧に答えていただいた。)
・朱晋偉氏(江南大学国際教育学院副院長、教授:無錫工場見学のアレンジにご尽力いた
だいた。)
・蘇健氏(中国国際貿易促進委員会無錫市支会 国際連絡部部長:同上)
・張勝忠氏(上海現地ガイド:達者な日本語で終始われわれの旅を盛り上げてくださった。)
・鳥居さん(毎日エデュケーション:本団体研修の全般をアレンジいただいた。
)
・清水先生、小川先生、三隅先生(一橋大学教授:お忙しい中、引率の労を取っていただ
いた。)
・大和田さん(MBA オフィス 金融 PO:研修前の準備段階から引率、帰国後のアフターオ
ペレーションに至るまで、彼女なくして研修の成功は無かった。)
・園部さん(本研修学生団長:氏のお蔭で M1、M2 がまとまり一体感のある研修になった。)
もちろん、みずほ証券様のご厚意あっての海外研修であることは言うまでもない。改めて
感謝申し上げる。
以上
金融プログラム「上海・香港国際研修プロジェクト」報告書
CM090207 今井裕介
1.上海・香港の国際都市としての印象およびそれに対する東京
私にとって上海は二度目、香港は初めての訪問であった。上海は、昔ながらの中国の街
並みとランダムに縦に伸びる高層ビル群が同居している個性的な都市という印象が強く、
その点は前回訪れた時と大きく変わらなかったが、2010 年万博を控えて施設も住民も含め
た街全体が国際化に向かってより一層進展しているように映った。上海ヒルズ(上海環球
金融中心)のオフィス空室率は依然として高いようだが、街はその事実を意に介していな
いほどの勢いがあり、そこに上海の経済発展の自信の表れを感じる。
香港の街は大都市としての機能が一通り完成されているようであり、世界的企業の看板
を掲げた高層ビルが海岸沿いの狭隘な地域に群居していた。多くの場所で英語が通じ、上
海よりもさらに国際化が進んでいることを実感する。訪問前に抱いていた香港の印象はア
ジアの一大都市あるいは一大観光地でしかなかったが、本研修および夏学期の金融ビジネ
スの授業を通してそのような役割よりもむしろ国際金融センターとしての役割に目が向く
ようになった。
それに対して同じくアジアを代表する経済都市の東京は、文化の集積・治安の良さとい
う点においてグローバルスタンダードを作り続けてきたと個人的には信じていたが、言
語・立地・政策・規制においては閉鎖的でむしろスタンダードではない街だという認識に
改めざるを得なかった。たとえば、
「ガラパゴス現象」という言葉がある。日本のメーカー
がモノづくりで国内向けスペックを深化させていった結果、グローバルスタンダードから
乖離して逆に競争力を失うといった現象を指す言葉だが、問題点はむしろそのモノを作る
場所である日本という土壌自体が「ガラパゴス」化している点なのかもしれない。
2.中国における日本のモノづくりとそれを支える仕組み―無錫・シンセンの訪問から―
私はこの日本のモノづくりと、それをサポートする金融が上海・香港でどのような展開
を行っているかという観点で研修に臨んだ。とりわけ私にとって中国におけるモノづくり
は、前職の勤務先が食品メーカーであったこと、また杭州に現地法人が進出していたこと
から興味深いテーマであった。本研修では中国を代表する工業都市の無錫・シンセンの 2
か所を訪問した。無錫は上海から車で 3 時間程度の場所にある。シンセンは香港から 2 時
間程度の場所にあり、香港とは隣接しているものの入出国審査を受ける必要があり、一国
二制度を持つ地域の特殊性を垣間見ることができた。
無錫の日系企業エプソントヨコムでは、水晶デバイスの工場見学をさせていただいた。
整然とした工場内部および製造ラインは、そこが日本だと言われればそう思えるほどに違
和感がなく、日系企業ならではの美しさを中国に定着させることに成功しているように思
われた。それらは日本から出向している製造部・品質管理部・生産技術部など各部門長の
方々の指導と育成の賜物であろう。それと同時に、この工場では安堵感に似た感覚を受け
たのは、やはり自分の職業人としてのバックボーンがメーカーにあるということに由来す
るものだと思われる。
シンセンではテクノセンターを訪問し、日系中小企業の進出をサポートする枠組みにつ
いて説明をいただいた。大切な点は進出企業がモノづくりに専念できる仕組みを整えてい
る点であり、煩雑な事務手続きあるいは法制度対応をテクノセンターがその名義において
一括代行している点であった。まさに間接部門業務を代行するシェアードサービスセンタ
ーであり、それが有効に機能しているということであろう。その一方で、当初私が懸念し
ていた点は、テクノセンターのビジネスモデルでは進出企業自身の間接部門が発達しない
こと、特にこの場所を巣立つときに間接部門業務をどのように内部化したうえで出ていく
ことができるのかという点であった。しかし、話を伺えばこの点についてもそれをサポー
トする仕組みを構築しているということであり、少ない日本人スタッフによる大きな支え
が進出企業の成長にとって大きな役割を果たしていることが分かった。
往々にして日系企業が中国進出する際には、商社あるいは投資銀行等が大掛かりにサポ
ートし、そこには複数の企業の利権が絡むイメージを我々は持ちやすいが、このシンセン
テクノセンターではそうした印象を持つことは一切なかった。そこで感じたものは、どち
らかと言えば相互扶助の関係、助け合いの精神であった。もちろん、創業者の石井氏の人
柄による部分も大きいとは思う。たとえば、モリテックスを訪問するや否や卓球・バドミ
ントンが始まるというのは、石井氏ならではのおもてなしの表れであろう。我々が現地の
若い工員たちと溶け込んで一緒に楽しみながら汗を流すまでには、さほど時間はかからな
かった。
とはいえ、無錫のエプソントヨコム、シンセンのテクノセンターの両者の話を総合する
と、労使の関係自体はかなりドライな側面があることも事実であろう。工員(ワーカー)
と職員(スタッフ)の間には厳然とした賃金格差があることはその表れである。また、最
低賃金が労働者を繋ぎ止められるか否かのバロメーターになるという点は、日本の雇用形
態からは考えにくく、どの訪問先でも最低賃金の話題が上がりやすかったことは興味深か
った。その一方で企業は人材の教育・処遇、たとえば有能な工員は日本の工場で研修を受
ける機会を与えるといった施策にも余念がなく、中国人の国民性に理解を示しながら中国
の労働市場にフィットする付き合い方をしていることが感じられた。
3.金融機関の役割に対する再認識
金融機関については、みずほ証券に始まり、信金中央金庫、東亜銀行、国際協力銀行等
を訪問した。いずれも日本と中国、あるいはアジアと中国を結ぶネットワーク構築および
情報発信主体としての責務を担っている。何よりこれらの金融機関に共通して最も重要な
ことは、前述のメーカーをはじめとする事業会社を資金的にサポートすることが事業のコ
アであり、自らが金融技術を駆使してビジネスの主役に躍り出ようとしてはいないことで
ある。金融機関がエゴを出した瞬間、先般の世界金融危機のような事態が起きてしまうと
いうことを、今回のメーカーと金融機関の複合的な訪問研修を通して、実感を伴って理解
するに至った。
4.日本企業の選択の自由―まとめ―
我々は日本国籍であるが、企業活動を考えるとき国や市場は自由に選ぶことができると
いうことを学び、その現場を自分の目で確かめてきた。選ぶ基準は税率・インフラ・言語・
その他環境であったりする。すなわち、自らのビジネスの志向に合わせて土俵・主戦場を
自ら選ぶ自由を、我々は本来持っている。東京こそが日系企業にとっては唯一にして絶対
の市場であり、信頼のおける市場であるという考え方を、我々は官民ともに早々に捨て去
らなければならない。香港あるいは上海は不備もたくさんあるだろうが、各国企業の選択
の自由を十分理解したうえで成長を遂げていると考えられる。今後のビジネスを担う我々
は、東京市場に甘んじることなく香港・上海などアジアあるいは世界の金融・経済都市と
切磋琢磨しながら、自国経済の発展に貢献することを考えたい。
以上
上海・香港国際研修レポート
CM090209
岩元寿人
<はじめに>
今回の上海・香港の研修において、すべてのことが印象的であった。その中でも、私が
とても強烈な印象を受けた上海財経大学、みずほ証券上海駐在員事務所の 2 点について述
べ、その後、今回の研修の総括、今後の方向性を述べる。
<上海財経大学>
上海財経大学の研修では、一橋の OB である教授、並びに学生との交流会がプログラム
されていた。
前半は、近年の中国経済講義であった。講義内容は、中国経済の成長を様々な要因に分
析し、今後の成長のカギとなる部分の解決策であった。現在の中国は、積極的に政府資金
を注入することで成長している。しかし、このまま政府資金を増加させると財政破綻の恐
れがある。そのため、今後も経済を成長させるためには個人消費を伸ばすことがカギであ
る。その個人消費を伸ばすために、政府は社会保障や生命保険等の整備をしなければなら
ない。
後半は、学生との交流であった。自己紹介や食事を通して交流を深めていくと、以下の 2
点を気付かされた。1 点目は、財経大生の英語力の高さである。一般的な日本の大学生より
も発音、リスニング等が優れており、これらの能力を身につけていることはふつうである
と財経大生は答えていた。2 点目は、自分の語彙力のなさである。日常会話においては、彼
女らとコミュニケーションを取ることができた。しかし、近年の中国経済や日本経済の話
題に転換すると、私は全く理解できなかった。
<みずほ証券上海駐在員事務所>
みずほ証券上海駐在員事務所では、上海市場の現状を学ぶことができた。特に印象に残
ったことは、チャネルの重要さである。上海市場において、活躍している日本企業は主に
アサヒビール、吉野家、味千ラーメン等である。その一方で、他の企業はよい成果を残せ
ていないという現状もある。その原因として考えられることは、チャネル確保である。上
海のチャネルは、既に現地企業によって支配されている。そのため、日本企業が独自でチ
ャネルを確保することは困難である。この問題を解決するために、日本企業がチャネルを
すでに持っている現地企業を買収する策がある。
<総括>
今回の研修を通して、上海では 2 点、香港では 1 点、全体を通して 1 点感じたことがあ
る。上海の 1 点目は、街並みが発展段階ということである。日本のマスメディアでは、上
海は大規模に発展しており、中国を代表する都市のひとつだと報道している。実際に、高
層ビル・マンションは数多くあった。しかし、道路は平らではないため、車の移動では揺
れた状態が続いた。これに加えて、多数のビルやマンションは建設途中であった。上海の 2
点目は、格差の大きさである。自由行動の日に、蘇州を見学した。蘇州は、上海から 1 時
間程度しか離れていないのにもかかわらず、高層ビル・マンションもなく、物価も非常に
安く、トイレなどもよい状態ではなかった。香港で感じた点は、香港は欧米に近いという
ことである。繁華街では、高級ブランドの路面店が立ち並び、スターバックスやマクドナ
ルドなども多く存在した。また、上海では要求されなかったチップも払わなければならな
かった。
全体を通して気づいたことは、自分の目で確かめ実際に感じることの重要さである。学
部の授業やマスメディア等の情報などでは、理解しにくいことや真偽を確かめることは困
難である。そのため、現地に飛びこみ自分の目で見て感じることが 1 番理解しやすく、審
議を確かめることができると感じた。
<今後の方向性>
MBA に所属している間に今回興味を持った上海市場やみずほ証券等のリサーチ並びに
インタビューを続けていきたい。その経験を生かし、かつ知識を深めそれらの市場や企業
で価値を残せるような経営コンサルタントや金融マンになりたいと考えている。
一橋大学商学研究科 経営学修士コース金融プログラム
上海・香港国際研修プロジェクト
学籍番号:CM090212
大内彰訓
1.国際研修への参加背景
金融危機においても、中国は力強い成長を続けていることが GDP の伸び率によって確認
できる。今後、世界経済における中国のプレゼンスが高まることが予想され、したがって、
ビジネスの世界において中国に精通した人材の市場価値が高まると考えられる。就職して
からは、他の企業を訪問させてもらうような機会がないこと、長期の休暇が取りづらくな
るということを考え、このタイミングで中国へ行くことは大変有意義であると考えため、
今回の研修に応募するに到った。
目的は、中国の現状を実際に目で見て確認することで、広い視野に基づいた国際的な感
覚を少しでも身につけること、国内にいるだけでは気付くことができない自分なりの問題
意識を持つことであった。これらを早期から身につけることで、理解の深さ、モチベーシ
ョンの維持・向上にプラスの影響を与えられ、ひいては今後の自己の成長にレバレッジを
効かせられるという考えを有していた。
2.問題意識と今後の対策
10 日間にわたる日程の中、上海財経大学で講義を受け、企業訪問では国際協力銀行、み
ずほ証券、みずほセキュリティーズアジア、東亜銀行、信金中央金庫、サンテック、エプ
ソントヨコム、さらに中小企業の中国進出をサポートするシンセンテクノセンターを訪問
した。その過程で得られた問題意識が 3 つあり、これらについて焦点を絞り、述べたいと
思う。
まず第 1 に中国の文化を理解する必要性である。日本の常識とはかけ離れている点があ
り、この点をしっかりと理解していないとビジネスは成功させられないということが分か
った。特に印象に残った具体例を挙げると、借入金を返済しないのが有能な経理だと見な
されること、基本的にスキルアップして転職していくのが常識になっており、そのため、
離職率が極めて高くなっていること、中国にない産業は歓迎されるが、そうでない小売業
などは合弁企業にさせられるというような制限がかけられる、ということである。今回気
付くことができた文化の違いは当然ごく一部であろうから、さらに理解を進めてもっと視
野を広げる必要があるだろう。
第 2 に中国なまりの英語のリスニングである。中国人の話す英語を聞くのは今回が初め
てであり、聞き取るのが難しいと感じたため、ひとつの障壁となり得る可能性があること
が確認できた。これは、普段英語の学習に使用している教材に原因がある。例えば TOEIC
では、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、ニュージーランドの発音が導入さ
れているが、その他の国の発音は導入されていない。今後勉強するにあたっては中国で話
される英語は、もはや中国なまりの English というよりも Chiglish としてとらえて学んだ
ほうがいいのかもしれない。
第 3 に英語と中国語のスピーキング能力である。英語のスピーキングについては、日本
人よりも中国人のほうが、能力が高いと感じた。日本にいるときは英語を話す機会がなか
ったため、スピーキング能力を鍛えられなかった。だが、今回の英語での講義、現地学生
との交流をきっかけとして、今後は能動的に機会を自らつくるようにすることで、正確に
ツールとして使いこなせるようにしたい。
3.総括
2 で挙げた 3 つの問題意識については、本を読むことで、あるいは留学生に話を聞くこと
で解決できることがあり、それは日本にいるうちから実行可能なものである。自身の現在
の状況として、MBA に所属しているからこそ利用できるものもあり、自己の価値を最大化
するために身の回りのヒト、モノから極力多くを学んでいきたいという思いが強まった。
会社に就職する前にこのような貴重な経験ができ、問題意識をもつことができたため、今
回の海外研修は大変有意義であったと思う。
最後に、本プロジェクトを企画・運営してくださった全ての関係者方々にお礼を申し上
げたいと思います。本当にありがとうございました。
上海・香港国際研修プロジェクトに参加して
Cm090225
窪田和行
現在、中国に関するニュースは毎日の日経新聞の記事として定着している。GDP8%の成
長、工場としての中国から市場としての中国への変化、国慶節、上海万博開催等である。
これは、中国の日本企業に与える影響が大きくなってきていることの証左である。
その一方で、日本のビジネスマンは、「中国」に関してどれだけの知識を持っているのだ
ろうか。日経新聞やニュースを見ることで、
「中国」を理解した気になっていないだろうか。
これが、本研修プロジェクト参加に際し、自分自身に対して感じていた問題である。その
ため、「中国」を実際に見ることを目的に本研修プロジェクトに参加した。訪問の結果は、
6 年前に訪れた北京での記憶を大きく変えるものとなった。
以下において、研修プロジェクトを終えて感じたことを述べていきたい。
1.上海財経大学での講義
中国が GDP8%の成長を維持するためには、消費、外需を伸ばすことは困難であり、投資、
政府支出を増加させることが必要となる。実は、これらの政策は中国が今まで得意として
きたことである。中国政府は、最も避けたい社会危機を回避するために、その誘因となる
経済危機回避のための時間稼ぎを行うことになる。これに加えて、この時間稼ぎの間に市
場育成が急務である。これが現在の中国の置かれた状況である。実際に訪れた上海の環球
金融中心(通称、上海森ビル)の稼働率が 50%を割る状況下、近接地にさらに大きなビル
を建設中であった。上海万博が行われることを差し引いても、実需に見合わない政府支出
を目の当たりにすることができた。
2.中国の風景
上海から無錫、香港から深圳へのバス移動を経験した。一大消費地から工業団地までの
距離が非常に近距離であること、また非常に大きな格差があることを実感することができ
た。ここに沿岸部と内陸部の格差と言われている大国中国の縮図を垣間見ることができた。
また、休日に行った地場百貨店視察では、日本とほぼ変わらない商品ラインナップ(グ
ローバル企業のみならず、タカラトミー、HONEYS などの日本企業の商品も多数取り揃え
てあった)、日本と同程度の価格設定を確認することができた。これに加えて、高価格な商
品を購入する顧客が多数来店していたことも印象的であった。
2.きれい、かつ自動化された工場
私は仕事がら、日本の工場をいくつも見学してきた。今回の研修プロジェクトで視察さ
せて頂いた中国の工場は、日本のそれに比べて遜色のなく整備され、かつ自動化された工
場であった。モジュラー型アーキテクチャの比較優位に基づいた中国の工場を確認するこ
とができた。また、工場の壁には QC サークルの実績管理表も貼られおり、ここでも日本
の工場との類似点を確認することができた。
4.感想
日本企業における生産拠点の中国シフト、日本企業の中国への部品輸出、中国からの製
品輸入の増加から、中国が日本にとって最大の貿易相手国となって 4 年が経過している。
今後も日本企業にとって中国のインパクトは増大していく。日本と中国の関係において、
「日本海が川になる」段階に来ている。中国に対してのアンテナを高く持ち、今回の研修
プロジェクトの経験を最大限に今後に活かしていきたい。
最後に、今回の有意義な研修を企画・準備・運営いただいた一橋大学・MBA オフィス・みず
ほ証券の皆様方に改めて厚く御礼申し上げます。
以上
「上海・香港国際研修プロジェクトを終えて」
CM090227
郡司亮
参加目的
私は日本企業の国際競争力を担う人材となりたいと考え、HMBA の入学を決意した。本
研修では、世界の成長センターとして世界の生産・金融・流通のハブとなりつつある香港・
上海周辺地域を視察し、中国の産業、企業の特質に迫り、これからの日本企業が東アジア
の中で生き延びていく為に何が必要か、そして、将来自分が何を生みだせるのかを考える
べく研修に参加した。
本研修で得られた知見
○中国経済の今後と日本
中国経済はリーマンショック以降も堅調に経済成長している。しかし、成長著しい中国
には問題もある。2009 年第 2 四半期の実質 GDP 成長率は前年同期比+7.9%となっている
が、成長をけん引しているのは投資に依るところが大きく、持続的な成長には消費が必要
である。中国政府は、自動車や家電などの消費刺激策を行っているが、食品などの分野で
は節約志向が表れている。また、労働契約法の施行にともない、給与未払い・失業保険未
給付・労災の不払いを原因とする労働訴訟が増加しており、労働分配の低下も懸念される。
持続的な経済成長にリスクが内在する中国ではあるが、近い将来世界のリーディングカ
ントリーになるのは間違いなさそうである。個人的には、地上 101 階、高さ 492m の上海
環球中心に圧倒されるとともに感慨を覚えた。上海環球中心は森ビルのプロジェクトであ
り、中国を国際競争上の脅威というより、むしろ日本にとって共に成長できるパートナー
であることを象徴しているように感じた。
○中国進出における日本企業の課題
中国進出における日本企業の課題は以下の 3 点である。第一に、日本企業の組織上の問
題である。日本企業の現地法人に駐在する社員はいずれ日本に帰る人材である。ビジネス
展開を行ううえで地元政府との太いリレーションが求められる中国では、期限付きの社員
による対応では地元政府とのリレーションが希薄なものとなってしまうと考えられる。本
格的な中国進出には、中国に骨を埋めるくらいの気概ある人材が必要なのかもしれない。
第二の問題として、中国人が現地日経企業のトップに立てないことが挙げられる。長期間
務めるインセンティブに欠け、企業への忠誠心を失うと考えられる。現地で優秀な人材を
調達することも重要であるが、いかに現地法人及び現地人に権限を委譲し、本社が現地法
人をコントロールしていくかが重要になると考える。第三の問題は、労働者の定着率の低
さである。中国では労働力の需要は供給を超えており、労働者は自分の条件に合った雇用
先を常に探しているため、中国の労働市場は流動性が高いと言える。また、中国は日本以
上の競争社会でもある。日本企業は、労働環境を充実させると同時に成果に対してメリハ
リをつけた処遇を行わなければ、中国人を企業に引き留めることは難しいであろう。
○「点」での成功
日本でしか通用しない過度にハイスペックの製品を持つ日本企業は、ガラパゴス化し
ていると揶揄されることがあるが、上海におけるサントリーを見るに、見事に地元に浸透
したメーカーであると感じた。上海のレストランでビールを頼むと必ずと言っていいほど
ビールの銘柄がサントリーであるため、上海市民の中にはサントリーが地元企業であると
思っている市民がいるという話も聞いた。中国での携帯電話業界を見てみると、ハイスペ
ック携帯である iPhone が成功をしている。サントリーや iPhone の例から、競争上のボト
ルネックは必ずしも「ガラパゴス化」した製品ではないように思える。中国における市を
「点」とするのであれば、「面」(中国全土)を押さえるマーケティングの問題が大きいと
考えられる。中国に限定して言えば、マスメディアを使った販売促進と地元名士との繋が
りによる口コミを有機的に活用することがマーケティング上重要であると考える。地元名
士との繋がりを強固にするためにも、上記で述べた組織上の問題は解消される必要がある。
総括
本研修では、想像以上の中国の成長に驚くとともに今後の日本企業の競争力に私は一抹
の不安を覚えた。しかし、香港で見た燦然と輝く日本企業のネオン広告は、確かに彼らが
そこで活躍している証であり、まだまだ日本企業がグローバルマーケットの中国で飛躍す
る機会はあるはずである。
私にとって本研修での最も大きな成果は、失いかけた問題意識を呼び覚ますことができ
たことにある。私は小学 4 年から高校卒業まで海外で生活をしてきたが、大学入学後は、
「パ
ラダイス鎖国」日本にすっかり馴染み、いつの間にか海外の出来事及び海外で活躍する日
本企業への関心が失われつつあった。しかし、本研修での現地企業視察やインタビューを
通じて、自分の原体験に立ち返り、自身の将来について真剣に考え直すことができたと考
えている。
最後にこのような貴重な機会を与えていただいた一橋大学・みずほ証券及び国際協力銀
行の皆様、さらに、個人的なインタビューに快諾いただきました革陽香港有限公司董事長
の井澤文成様に厚く御礼申し上げます。
以上
上海・香港国際研修プロジェクトを終えて
学籍番号
氏名
1
CM090233
宰務
正
はじめに
本プロジェクトでは、中国がまさに今、急速な勢いで成長していることを実際に肌で感
じるという貴重な経験ができた。大都市である上海と香港の視察、上海財経大学や人民大
学での講義、企業訪問、如水会の方々との交流など、すべてのイベントが充実したもので
あり、一生の思い出に残るものであった。以下に本研修を通じて感じ、考察したことを記
述する。
2
上海・香港視察
上海に関して印象的だったことは、中国経済は今まさに成長しおり、これからも更なる
発展を遂げるということを象徴した街並みであった。林立する、または建設中の高層ビル
(上海環球金融中心は高さ 492m であった)、整備された 4 車線の高速道路、約 1900 万人
の人口など、上海の発展した様子は私の想像をはるかに超えていた。この都市が東京より
も大規模であることは明白であるように感じられた。その一方、市街地では未だ、道舗装
されておらず、デコボコな道路、少し古い型の自動車やバイク、失礼ではあるがあまり清
潔とはいえない住環境など上海の街が、ひいては中国という国がまだまだ発展する要素が
随所に垣間見られた。
香港の街では、世界を代表する経済都市であることが実感できた。HSBC を中心とする
金融機関が密集した中心街、またそこで働く欧米系の人々の多さ、観光客を受け入れるた
めに整備された街並み、日本と同レベルの物価水準など、香港という街がすでに大きな発
展を遂げていることが見て取れた。街を歩いていても、丸の内近辺の感覚で、海外に来て
いるという感じはしなかった。
3
上海財経大学での講義および学生との交流
上海財経大学での講義および学生との交流で印象的だったことは、次の 2 点である。
第 1 に、王恵玲先生の講義の中で、上海がどれほど発展したかを数値で捉えることがで
きた点である。上海市民の 1998 年における年間平均賃金は 12,059 元(16 万 8826 円)で
あり、これが 2008 年には 39,502 元(55 万 3028 円)となった。10 年間で年間平均賃金は
約 3.3 倍と大きく増えたことがわかる。また、増加する賃金に対し、上海の消費者物価指数
と貯蓄額はともに増加し、上海市民の購買力が高まり、生活もより豊かになっていること
がうかがい知れた。
第 2 に、孫立堅先生の講義での、中国政府がどのように中国沿岸部を発展させてきたの
か、また今後どのように内陸部を活性化していくのかという点である。これまでの中国経
済は、政府主導のもと沿岸部へ公共支出や設備投資を行うことによって発展してきた。大
都市をつくるために、建設業者などの政府系企業に投資し、インフラを中心に市場規模を
拡大してきたのである。このため、日本企業では建設機器を取り扱うコマツが成功してい
るとのことであった。製造に関しては、安価な労働力を利用し、主に欧米を対象に輸出を
中心として経済を発展させてきた。しかし、昨年の世界同時金融危機により、上海などの
大都市でも失業率が上昇し、内陸部や地方からの労働者が出身地に戻ることとなった。内
陸部の発展も目指していた政府は、地方でも雇用を確保できるように内陸部にもインフラ
などの公共事業を増やした。これにより、中国政府は内陸部の発展をさせることで、中国
経済を更に発展させようと考えているのである。
中国の抱える課題は次の 2 つがあると考える。1 つ目は、消費財の需要を高めることであ
る。これまでは公共政策や産業財によって発展してきたが、13 億人を超える人口の購買力
を向上させ、消費によって経済発展を成し遂げる方法を模索すべきである。2 つ目は、現在、
資金は企業のプロジェクトではなく、資本市場へと流れ込んでいる。これでは、将来経済
が大きく落ち込むことが考えられるので、企業が打ち出す成長へのプロジェクトなどへの
長期的視点にたった投資が求められていると考える。
4
企業訪問
本研修では、上海において、みずほ証券上海駐在員事務所、信金中央金庫上海駐在員事
務所、エプソントヨコム、サンテックパワーを、香港においてはシンセンテクノセンター、
Moritex Co., Ltd、東亜銀行、みずほセキュリティーズアジア、JBIC を訪問、またはお話
を聞かせていただいた。信金中央金庫では、日本企業が中国へ進出する際の情報提供とい
った業務内容などをお話しいただき、中国進出における成功・失敗事例を見た。エプソン
トヨコムでは、中国の方はある企業で働き、自分の市場価値を高め、転職していくことを
ご説明いただいた。また、原材料から完成まで、IC チップを製造している工場内を詳細な
説明とともに案内してくださった。サンテックパワーでは、太陽電池パネルの製造工程を、
順を追ってご説明いただいた。パネル製造のための高度な技術が随所に見られ、世界 No.1
シェア企業のすごさを見せつけられた。
香港に移動した日の夜は、BBVA 社のエコノミストであるアリシアさんと夕食をともに
する機会をいただいた。アリシアさんのお話では、中国が今後更なる成長を達成する主軸
は何かについて着目すべきだということが印象に残っている。シンセンテクノセンターで
は、現地の社員の方が普段食べている昼食を食べる機会があったことが忘れられない。
Moritex では、地方から働きに来ている 10 代の女性従業員の方々とバトミントンや卓球を
行い、汗を流した。また、工場内では、光ファイバーの製造工程を見学し、案内をしてく
ださった石井さんから、私たちに対する熱いメッセージもいただいた。東亜銀行では、中
国・香港経済の見通しと香港ローカルバンクの中国市場におけるビジネス展開について、
同社のトップエコノミストの方からお話を聞くことができた。みずほセキュリティーズア
ジアでは、新興市場と IPO の件数に関して詳しくお話しいただきました。
みずほ証券上海駐在員事務所、JBIC に関しては以下でもう少し詳細に記述する。
4.1 みずほ証券上海駐在員事務所
私がみずほ証券上海駐在員事務所で、三坂さんと鈴木さんからお聞きしたお話で最も興
味をもった内容は、日本の食品メーカーの中国市場進出である。
日本の食品メーカーが中国市場に進出する際、強みとなることは商品に関する質が高い
ことである。新潟県魚沼産のコシヒカリや日本で収穫された果物は、中国産のものに比べ、
数倍高い値段がつくにもかかわらず、売れ行きが好調であるとのことだ。日本食品の強み
と向上する中国人の購買力を利用して、伊藤忠商事や丸紅は食での中国ビジネス拡大を図
っている。その一方で、日本企業の弱みは中国での販売チャネルをもっていないことや、
中国人と日本人では味覚が異なることなどが挙げられる。現地での販売チャネルを確保し
ようと、中国企業との M&A を行う場合も、両国の文化や仕事に関する姿勢が異なるため、
双方の利益となるような M&A を実現させることも難しいという更なる問題も付きまとう。
また、大都市を押さえてから内陸部へ向かうのか、初めからそれぞれの都市に合った商品
を生産するのか、というように進出戦略も選択が難しい。
商品の認知を広げる方法も、中国と日本では異なる。中国では単なる CM では商品の認
知は広がらない。パブリシティを有効に利用することや、商品の展覧会で消費者とじかに
触れ合うこと、田舎の名士にアピールすること、住民と一緒にお酒を飲んで夢を語ること
などが中国では重要となるそうである。
これから急速に拡大することが確実な中国の消費財・小売市場に日本企業がどのように
アプローチしていくのかということに今後注目していきたい。また、私が中国で仕事をす
るようになった場合、どのように中国マーケットでシェアを獲得するのか、大変難しい問
題ではあるが、ぜひとも挑戦してみたいと思った。
4.2
JBIC
JBIC では、金融危機以後の JBIC の取組みに関してご説明いただいた。この中で私が感
動したことは、新興国におけるインフラ整備や海外における重要資源の開発など、世界中
の人々のために我々の見えないところで、これほど多くのプロジェクトが実行され、たく
さんの方々が尽力されているということであった。
日本企業の資源開発やインフラ整備事業では、急激な人口増加や化石燃料の枯渇に備え、
例えば電力や水の供給のために、日本のメガバンクがシンジケートを組み、また電力会社
などと協力して事業を行っている事例などを紹介していただいた。これはもちろんビジネ
スであるので利益を求めるが、現地の住民や我々日本人にとっても大変意義のあることだ
と私は感銘を受けた。気候変動問題や環境ビジネスの取組みも行われており、プロジェク
トを実行する際、温室効果ガス排出量抑制など、地球規模での温暖化防止へ貢献すること
も重視されていた。
講習会の最後に、首席香港駐在員である行天さんから、
「良い仲間と一緒に仕事をして良
かった、この人と仕事をして良かったと思える仕事をしてください」という熱いメッセー
ジを戴いた。この研修を通して、学んだことや感じたことを大事にし、1 年半後、社会に出
ていく私は、日本のために、世界のために一体何ができるのだろうか、何をなしていくべ
きなのだろうかという大きな宿題を戴いた気がした。
5
研修全体を通じての考察
本研修を終え、私は、中国は今後どのようにさらなる経済成長を実現させるべきなのか
を考えた。私の意見は次の 2 つである。
1 つ目は、中国は実体がともなった経済発展を遂げるべきである、ということである。世
界金融危機の後、中国は世界で最も早い景気回復を見せている。上海総合指数は、リーマ
ンショック後、2009 年 6 月の時点で 2007 年の最高値に比べて約半分回復している。しか
し、これは中国の実体経済は元気ではないのに、高いリターンが得られるという投資家の
期待から上海総合指数が上昇しているに過ぎない。資金は企業のプロジェクトに投資され
ているのではなく、資本市場に投資されているのである。これは言わば実体の伴わない虚
偽の経済回復であり、これでは将来再び経済が大きく落ち込む可能性がある。したがって、
中国は、長期的視点にたったプロジェクトや基礎技術の研究開発など将来にわたってまっ
とうに成長戦略を計画・実行している企業を評価し、それら企業によって更なる経済成長
が実現されるべきである。
2 つ目は、中国政府は内需を拡大し、消費によって経済を発展させるべきである。中国に
おいて未開発の市場として、7 億人の人が暮らす農村部の市場がある。中国では所得格差が
大きく、農村に住む方々の生活は厳しいという話をよく耳にする。しかし、現実は農村部
でも自家用車を買える余裕のある消費者が着実に増えているそうである。内モンゴル自治
区の武川県の農家 1 軒当たりの純収入は、2008 年に 3,834 元(約 5 万 3700 円)と前年比
24.5%も増加したというデータもある。したがって、中国政府にとって重要なことは、農村
部での潜在的需要をどうやって引き出すかにある。
この課題のカギは、マーケティングと販売戦略にあると考える。農村部全員に自動車を
売るのではなく、成功した農民企業家を対象にし、1 つの集落に 1 台ずつ販売することや人
の集まる日や場所で展示試乗会を催すなど、創意工夫で農村部の需要を消費財によって開
拓することができるのではないであろうか。また、自動車を買うことのできる消費者が農
村部にいるということは、家電を買うことのできる住民も多くいると考えられる。これら
の住民をターゲットとし、販売することが日本のエレクトロニクスメーカーにとってもさ
らなる成長に向けたカギとなると考える。
6
最後に
本研修プロジェクトでは、本当に貴重な体験をすることができました。上海・香港で体
験し、学んだことの多くは、私の世界観を広げてくれるものであり、これまでよりもグロ
ーバルに思考することが可能になったと思います。
末筆ではございますが、本プログラムをサポートしていただいたみずほ証券株式会社様
に厚く御礼申し上げます。また、本プログラムを取りまとめてくださった、清水先生、小
川先生、三隅先生、MBA オフィスの大和田さんと福井さん、上海財経大学の皆様、上海・
香港の各企業の皆様、如水会の皆様、その他各関係者の皆様に心より感謝いたします。本
当にありがとうございました。
以上
上海・香港国際研修プロジェクト 研修報告書
CM090239 鈴木 裕一郎
1.研修プロジェクト参加の目的
私が今般の研修プロジェクトに参加した最大の目的は、日本企業が今後中国においてビジ
ネスを成功させるポイントは何かを学ぶことであった。上海財経大学および人民大学シンセ
ン研究院、みずほ証券、信金中央金庫、東亜銀行における中国マクロ経済の講義において、
日本企業が中国ビジネスを成功させるための背景を我々は学ぶことができた。また、日系企
業であるエプソントヨコム、現地企業のサンテックパワー、日系企業の中国進出を支援する
シンセンテクノセンターにおいては、日本企業が中国ビジネスを成功させるための具体的な
方策を我々は学ぶことができた。以下、マクロ経済および中国ビジネスの成功ポイントにつ
いて、日本と中国との比較という観点から述べる。さらに今後の中国が発展するための課題
について考察する。
2.日本と中国の経済成長について(マクロ経済)
経済成長を維持するためには、マクロ経済をコントロールできるかどうかがポイントとな
る。また、食料不足や原油不足など、世界的に見てもさまざまな問題が生じている中で、中
国の物価上昇率は高く、国内消費の割合が低い。
それに加えて、中国では国内の物価が上昇している原因に、人件費の高騰や環境対策によ
る経費がかかるなど、他国より多くの懸念材料も抱えている。中国経済が持続的に成長する
には、インフレ防止と安定的な成長、さらに人民元為替レートを安定させることが必要不可
欠である。
中国政府は物価高騰を抑えるため、石油価格の値上げを見合わせてきた。また値上げする
産業においては許可を必要とするなどの対策を掲げた。しかし、石油会社では逆ザヤが発生
して大きな負担に至るなど、逆効果となっている。このように中国政府が物価をコントロー
ルできないのは、中国が市場経済に完全に推移していない中で、大きなマイナスである。そ
れでも大国である中国は、地方経済が成長するだけで国全体の GDP をかなり押し上げるこ
とに繋がる。また、農業改革によって 13 億の人口の多くがより豊かになれば、日本よりも
大きな経済成長に繋がるといえる。
先進国である日本の経済においては、近い将来労働力不足や資源不足に陥ることが確実視
されている。その一方、中国には生産できる資源が残されており、労働力も豊富にある。さ
らに地方では未だインフラ整備が不十分である。
中国においては、
未熟な市場が多いだけに、
成長の余地が残されているといえる。
3.日本企業が中国ビジネスで成功するポイント
日本企業が中国ビジネスで成功する重要なポイントは、資金回収を確実に行い、リスクを
未然に防ぐことである。中国では、細かいことまで全て契約書に書かなければ、常識の違い
によってミスが起きた場合に言い逃れをされることが多々ある。国土の広い中国では習慣の
地域差が多々あり、人的資源の開発も途中段階なのである。そのため契約書の内容や形式そ
のものも中国式を利用することが重要である。特に日本企業では、中国進出が失敗に終わっ
ているケースが多く、その大きな原因は資金の回収ができないことである。
中国では「中国の銀行から借金した場合、返済しないでも大丈夫」というのが合言葉にな
るほど、銀行に返済しない人の割合が非常に大きかった。そもそも中国で銀行から借金をす
る習慣ができたのは近年のことであり、それまでは親戚から資金を集めてマンションを購入
したり、起業したりしていた。そのため「金を返すのは儲けてからでいい」という感覚が流
通しているようである。しかし、これまでは甘かった資金回収会社の取り立てについて、中
国の銀行が不良債権の改善のため厳しく借金の返済を要求するようになってからは、個人の
返済回収率は回復傾向にある。
ビジネスでは契約したら先に金を払ってもらい、後に動き出すのが中国流である。成功し
ている日本企業においては、
発注を受けたら半分以上の金額を先にもらい、
途中経過で 2 割、
最終的に残金を貰ってから引き渡すという方法を採っているところが多い。
中国においては、倒産件数が増加して夜逃げする韓国企業が増えている一方で、日本企業
はお人よしなのかマナーを重視するのか、そのような例は少ない。資金回収あるいは前払い
を要求することが苦手な日本人の性格が、このようなところにも出ているのかもしれない。
4.今後の中国発展の課題
今後の中国発展の最大の課題は、民主化の推進である。これまで中国は、北京の天安門広
場で 2 度の民主抗議運動が起きている。1976 年の第一次天安門事件では、文化大革命に対
して批判的な民衆が抗議運動を起こした。1989 年の第二次天安門事件では、民主化運動を進
める学生や市民を軍および警察が武力で弾圧し、その政府の対応は世界中から非難された。
これ以来、国民は政府の力を思い知り、民主化を促進させたいという本心とは裏腹に、表面
的には政府に逆らわずに沈黙を守るしかなくなった。
その一方、2008 年 8 月に開催された北京五輪が成功し、世界中に注目されている中国政
府は、市場経済を浸透させ、民主化を進めていかなければならないことは十分に承知してい
る。マスコミの自由度が少しずつ増加しており、ニュースの報道番組で政策批判が行われる
ことも増えた。それでも政府を批判したためにリストラに遭うなど、言論の自由が大方許さ
れている日本とは大きく状況が異なる。
しかし、その根底となる共産党一党独裁も確実に崩れつつあり、将来は日本のような民主
主義体制になることも期待されている。なぜなら、国土が広く多民族国家である中国では、
寒暖の差や貧富の差が非常に激しく、現状のままでは 13 億人もの国民をひとまとめにでき
るかは疑問が残るからである。中国は 2009 年の今年、建国 60 周年を迎えた。これを機に、
中国が今後どのようにして益々の発展を成し遂げていくのか、さらに注目していきたい。
5.最後に
今般の研修プロジェクトは、私にとって何にも代えがたい貴重な経験を与えてくれたと思
う。このような有意義なプロジェクトを企画・運営いただいた一橋大学の先生方と、MBA
オフィスの皆様に心より御礼申し上げたい。中国は、前述の民主化問題や環境問題、都市部
と農村部の格差問題、さらには知的財産権問題など課題が山積している。しかし、飛躍的な
経済成長を続け、膨大な人口を抱える中国は、非常に魅力的なマーケットであることには相
違ない。私の中で、今後中国ビジネスに携わってみたいという意欲が湧いてきたのが実感で
ある。そのためには、中国に関するさらなる知識の習得、および語学研鑽が必要である。
以上
CM090240
高橋秀成
上海・香港国際研修プロジェクト
本プロジェクトでは様々な経験をすることができた。そもそも海外で事業を行うという
ことはどういうことなのか、成長は著しいが様々な規制が存在する中国市場での成功要因
は何かといった問題意識のもと、私は本プロジェクトに参加した。私にとって中国への訪
問は初めての経験であり、中でも 2010 年の万博開催を控えて発展が著しい上海への訪問は
非常に楽しみであった。
■上海訪問
上海では、上海財経大学、みずほ証券、信金中央金庫、および無錫のエプソントヨコム、
サンテックパワーの各社を訪問させていただいた。中国・上海に関する知識を持ち合わせ
なかった私にとって、初日に訪問した上海財経大学での王教授および復旦大学孫教授の講
義は非常に有意義なものであった。特に印象に残ったのが、上海の略称の1つが「申」で
あり、上海の高速道路が地図上でまさに「申」の字を描いているということである。政府
による計画策定はもちろんのこと、その実行力に驚かされた。このような都市計画の実現
性は、すべての土地を国が保有しているということと深く関連している。例えば上海では
万博開催を目指して都市整備を行っている最中であり、観光地で有名な外灘一体はもぬけ
の殻であった。市民の不満を生じさせずに大規模な計画を策定・実行する計画的な経済体
制の一端を垣間見ることができた。
また今回のプロジェクトでは、実際に上海でビジネスを行っている一橋大学OB・OG
(上海如水会員)の方々にお会いする機会を設けていただいた。この会は上海での企業訪
問をすべて終えた日に開催されたこともあり、企業訪問を通じて得た疑問点や、より突っ
込んだ中国事情を聞くことができた。その中で印象的だった話が2つある。1つ目がビジ
ネスをする際には相手にとって必要な存在になるということである。このことは、夏学期
に学習したところによれば、交渉力を高める上で重要な考え方である。しかし、中国にお
ける慣習、すなわち“借りた金を返さないのが良い担当者である”という概念に対処する
には、相手のビジネスに欠かせない存在となることが特に重要であるということであった。
印象に残ったもう1つの話は、中国人の特性についてである。実際のビジネスの場にお
いて、中国人は日本人よりも積極的であり、またお金に対して貪欲であるとのことであっ
た。中国人の積極性については私自身も上海財経大学の学生と話をした時に実感した。ま
た貪欲さについては、日系企業に訪問した際に伺った離職率の高さとその理由、すなわち
金銭面で少しでも良い条件の企業があれば、従業員はそちらに転職するという思考とも整
合していた。かつて日本でもハングリーさが高度経済成長の一端を担ったように、中国に
おいてこのハングリーさが機能すれば、アジアにおける日本の存在価値も危ぶまれる。そ
うであればこそ「Captains of Industry」を校是とし、MBAコースに在籍する我々に求
められるものは大きいと強く感じた。
■香港訪問
香港には地震が無いとのことで上海同様に高層建築物が多く、また香港島北部と九龍半
島南部に市街地が密集している。香港島北部では金融街と商業街が隣接していたこともあ
り、人の多さと併せて日本以上の活気を感じた。香港は上海と比較して欧米人も多く、イ
ギリスから返還される前までの実績を含め、グローバルな観点からの香港の存在価値を実
感した。
香港では、シンセンテクノセンター、モリテックス、中国人民大学、東亜銀行、みずほ
セキュリティーズアジア、国際協力銀行の各社を訪問させていただいた。中でも中国の経
済特区に指定されているシンセンでは、シンセンテクノセンターおよびモリテックス社に
おいて、日本の中堅・中小企業を支援する取り組みについて話を伺うことができた。また
実際の工員宿舎を見学し、工員の食事を頂くことができたのは貴重な体験であった。
企業訪問において担当させていただいた国際協力銀行(JBIC)では、事前に中身の濃い
資料を準備いただいたことにより、担当のチームメンバーとともに周辺分野の知識を学習
し、事前に打ち合わせを行うことなどを通じて理解を深めることができた。JBIC から出席
いただいた行天氏、井上氏、林氏のご厚意に深く感謝したい。講演時に説明いただいた内
容等については別途作成している「企業訪問レポート」に譲るが、世界金融危機以降の日
本の対応について政府系機関である JBIC という機能を通して説明いただいたことにより、
日本が果たすべき役割について考えさせられた。そして、講演の最後にいただいた“柔軟
に、元気良く、あきらめずに、適応していくこと”という言葉により、本プロジェクトを
通じて心に残っていた、国際社会の中で個人がいかに処していくかという問題に対する1
つの答えを得ることができた。
■最後に
中国は今後ますます発展する。これは大学の講義や企業訪問でも説明があったが、自由
行動日に訪問した上海城市規画展示館や上海市街の散策を通じて改めて実感した。上海城
市規画展示館では、上海における都市計画のビジョンとして大規模な立体模型が展示され
ており、その計画的な街並みは圧巻であった。そこでは現在世界2位の高さである「上海
環球金融中心」より 100m 以上も高い「上海中心」
(2014 年完成予定)の姿も確認すること
ができる。また、生活必需品や食品は非常に安く手に入れることができるが、海外製品は
日本と同程度の価格付けがなされている中で、後者を扱うデパートは非常に混雑していた。
今後の中国における経済成長の要因として、これまでの公共投資のみならず民間消費もま
すます活発になることが想定できる。我々が訪問した際には、高層ビルが立ち並ぶその裏
に昔ながらの路地が存在し、軒先で様々な商品が売買されていた。また豫園などの観光地
には途上国でよく見かける物売りもいた。こういった光景が計画的にどのように変わって
いくのか、万博の前後に再度上海を訪問してみたい。
なお、現地のことを少しでも多く知るためには語学力が必要である。英語はもちろんの
こと現地の言語を知っている方が打ち解けあえる。今回の研修において、たくさんの人と
出会い、コミュニケーションをとる中で、そのことを特に強く感じた。私自身の語学力と
いう観点でいえば、せっかく頂いた機会を活かしきれず、理解が十分に得られなかったと
ころもあった。これは素直に反省すべき点である。しかし、このような機会を頂けたから
こそ、語学の重要性を再認識し、また、本報告書の内容をはじめとして、語学力の有無に
左右されないたくさんのことを体験することができた。内容の濃い、充実した本プロジェ
クトに参加できたことは、私にとって非常に有意義であった。この経験を在学中および卒
業後に活かしていきたい。
最後に、本プロジェクトに御支援いただきましたみずほ証券様をはじめとして、訪問先
企業・大学の皆様、上海如水会員の皆様、清水教授、小川教授、三隅教授、MBAオフィ
スの大和田さん、福井さん、毎日エデュケーションの鳥居様他、本プロジェクトにご協力
をいただきました関係各位に感謝いたします。また、本プロジェクトに共に参加し、10
日間を一緒に過ごした個性溢れるメンバーには様々な場面で助けていただきました。この
場を借りて感謝します。どうもありがとうございました。
以
上
「上海・香港国際研修プロジェクト」
学籍番号:CM090243
氏
名
:田村
賢一
1.はじめに
私は、今回の国際研修プロジェクトで、初めて中国を訪問した。同じアジアという意味
では、タイやインドネシアに旅行で訪れた事はあったのだが、企業や大学への訪問という
経験は初めてであり、非常に楽しみであった。実際に中国を訪れると、企業の視察や上海
財経大学での講義、如水会の皆様との交流や研修メンバー同士での交流といった、すべて
のことが充実しており、かつ貴重な経験となった。以下に、今回の研修を通じて学んだこ
とや感じたことを記述していく。
2. 中国に対する印象
私が幼少のころ、中国に対して持っていた印象は、人民服を着て重そうな自転車に乗っ
ている人が町に溢れているというようなものであった。その後、中国は大きく発展を遂げ
たとテレビや新聞の報道などで見聞きしていたものの、実際に中国を訪れたことがないた
め、どのように中国が変貌していったのかということを実感できずにいた。
今回、最初の訪問地である上海を訪れてまず感じたことは、非常に洗練された街並みの
存在と、その規模の大きさであった。上海ワールドフィナンシャルセンター(上海環球金
融中心)の周辺には、超高層ビルが林立するビジネス街が存在し、その展望台から見た周
囲の街並みには多くの高層マンションが立ち並んでいた。繁華街には日本の東京と変わら
ない店がならび、多くの人々が街に溢れる非常にエネルギッシュな街だという印象を持っ
た。私の持っていた中国像は大きく修正され、中国が発展したということを肌で感じるこ
とができた。
また、非常に興味深かったのが、経済に対する中国政府の大きな関与と、あらためて中
国が社会主義国家であるということを実感することができた点である。中国財経大学で講
義を受けたなかで、中国は政府主導による公共支出と設備投資により経済回復を果たし、
今も政府は国有企業や中央企業に投資することにより、中国のGDP成長の大きな部分を
担っているという説明があった。日本でも、インフラ整備などの公共事業により政府の関
与はあるが、その関与の度合いが日本とは大きく異なっているということが感じられた。
中国では、政府が家や土地などの不動産について所有権を持っており、個人はその使用
権しか持っていない。そのため、大きなプロジェクトなどで土地が必要であれば、そこに
住む人々は移転せざるを得ないといった話を聞いた時、日本では絶対に不可能なことが社
会主義国家ではありうるという、知識としては分かっているが、普段は実感できないこと
を感じることができた。上海のような発展した町をみると、日本となんら変わらないよう
な印象を受けるが、そのような町も、中国の「社会主義」という本質のうえに成り立って
いるのだという事が分かり、非常に興味深かった。これは中国を旅行しただけであれば、
おそらく気付かないことであろう。
3.企業訪問
エプソントヨコムの工場を見学させてもらった際、真面目に働く中国人労働者の姿が印
象に残った。エプソントヨコムの説明でも、中国人は熱心に技術を修得しようとするとい
う話があり、日本製品が中国製品よりも優れているという認識が崩れる日が来るかもしれ
ないという危機感を持った。
しかも、中国人労働者の企業に対する意識は日本人のそれとは非常に異なっており、自
分の働く企業を技術習得の場ととらえ、技術を修得すると給料の高い会社に転職してしま
う。日本企業も中国に進出したのはよいが、中国人の技術修得の場として利用されるだけ
といった結果にならないように、人材の登用や人事制度について日本以上に考慮する必要
があることを痛感させられた。
4.その他
その他の事で気付いたのは、ホテルの危機管理についてである。私は香港で体調を崩し、
2 日間寝込んでしまった。幸い、大事には至らなかったのであるが、ホテルの客室で安静に
し、現地の医者に往診してもらった際、ツアーガイドの方や大和田さんとともに、マスク
をしたホテルの従業員が付き添ってきており、私の症状などをよく確認したうえで、ホテ
ルとしてどのように対応するのかを見極めていた。
中国を訪問する際、日本では、新型インフルエンザが中国で大流行しており、空港など
でも厳戒態勢が引かれているといった報道がなされていたため、日本からマスクを持参し
ていった。しかし、実際に上海に到着すると、マスクをしている人など殆どおらず、ニュ
ースでもインフルエンザに関するものを見かけなかったため、中国ではインフルエンザの
事を気にする人などいないのではないかと思ったものである。しかし、やはりインフルエ
ンザは存在しており、公共の場所としてホテルはきちんと危機管理を行っているのだとい
う印象を受けた。
5.終わりに
この研修プロジェクトの全体を通じて、街や人から中国の熱やパワーといったものを実
感したように思う。小さな問題は人の数でカバーすればよいといった、荒削りではあるが
成長している国の大きな力を感じた。高度経済成長期の日本も、やはりこのような感じだ
ったのではないだろうか。中国を訪問して、数々の貴重な経験を積むことができ、非常に
有意義な機会であったと思う。
最後に、今回の研修プロジェクトを企画・運営していただいた皆様に、お礼を申し上げ
ます。香港で迷惑をかけてしまった大和田さんには、特に感謝いたします。本当にありが
とうございました。
以上
上海・香港国際研修レポート
CM090263
村山
二朗
今回の中国研修は私にとって初めての中国であった。中国は戸籍問題や不良債権問題と
いった問題を抱える国であるが、その経済成長の高さから今後の世界経済の中心を担う存
在といわれている。今回の研修では中国の良い面と悪い面を見ることができ、一部ではあ
るが中国の実態を確かめることができた。結論から申し上げると、中国経済の成長はバブ
ル成長である。それ故、もうしばらくは世界の工場、また市場として成長を続けるであろ
うと考える。ただし、その成長の過程には様々な未解決の問題が存在するため、成長がい
つまで続くかがポイントとなる。現在の中国経済の規模を考えると、成長の終焉は今回の
金融危機以上のインパクトを世界経済に残すことが懸念される。以下、私が今回の研修の
中で関心を持った製造国としての中国の一面とマクロ経済学的に見た中国経済について説
明する。
1.
製造における中国の現状
製造業が中国に進出する上での利点はコストの面で二点ある。一つ目は人材費であり、
二つ目は原材料費である。中国の人件費は、州によって異なるが平均的には年間2万元前
後(約30万円)とされており、日本で作るよりも遥かにコストを抑えることができる。
また、原材料においても原価が低いため、調達路を確保すれば低コストでビジネスを行う
ことができる。ただし、人件費、原材料費、それぞれにおいて問題点は存在する。まず、
人材費に関しては2つの問題点があり、それらは賃金の増加と離職率の高さである。賃金
の増加率は中国経済の成長と共に上昇しており、昨年は12%を超える上昇を見せた。さ
らに、日系企業で働く中国人は最近では法設備がなされており、退職金を得る権利が生じ
始めたために企業にとって新たな課題が登場してきている。二つ目の問題点である離職率
についてだが、中国では採用人数の140%が年間に辞めていくため、技術を教え込むこ
とが非常に難しい。そのため、マニュアルを作成するが、そのマニュアルによって技術が
流出することもあり、企業は頭を悩ませている。
次に、原材料の調達であるが、地元の人の雇用なくしてそのラインを得ることが難しい
ということが一つの課題である。企業進出の成功例、失敗例を見る中で成功する確率が一
番高いのは地域一体化のビジネスモデルを作成したものであった。つまり、重要となるの
は現地でのマネジメントであると考える。
2.
マクロ経済の視点から見る中国経済
中国は金融危機の影響を大きく受けた国である。日本経済新聞などでは中国は金融危機
から立ち直り、成長を遂げていると記されているがそれは果たして真実であるのか。その
答えは疑わしい。確かに、中国は金融危機を世界で一番上手に活用した国である。消費が
停滞する中で商品券を発行する政策は、国民の心をつかんだ。この政策は国民が抱いてい
た政府への不安を払拭したという点で非常に重要であったといえる。マクロ的に中国経済
を見ると、今年の GDP 成長は、輸出と消費が減少する中で、政府支出を増加させることに
よって支えられている。では、その資金源はどこから来るのか。一つは、地方債券であり、
もう一つは、元建て債券である。元建て債券は、東亜銀行と HSBC にのみ販売権が与えら
れており、今後どのような展開をみせるかが非常に興味深い。海外からの資金注入を中国
が必要とした場合、多くの資金が流れるのであれば中国は計画通りに金融センターとして
活躍できるのであろうか。そこでのポイントは元のフェアバリューであると考える。現在
の価値から変更されることで他に与えるインパクトは非常に大きい。それ故、金融危機の
真の影響は今後見られるのではないかと思う。
3.
最後に
補足として、中国の駅についてお話したい。私は今回の旅の中で蘇州を訪れた。上海駅
から電車に乗る時に、蘇州から上海に向かう人々、またそれ以外の地域から上海についた
人々、多くの人が上海駅に集まっていた。当然のことであるが、中国には13億人の人が
いる。多くの人が賃金の高い仕事を求めて都市部に進出しようとしている。中国の最大の
弱みでもあり、最大の強みはこの人の多さである。インフラ整備、保険問題、教育制度の
見直しなど国内で様々な問題が残る現在であるが、彼らが世界の労働市場を支えていくこ
とは自明である。今後、我々にとって重要となるのは中国経済の成長の数字のみを見るの
でなく、資金の調達方法、貿易での販売先など様々な視点から中国経済の中でヒトとカネ
がどのように動いているのかを見ていくことであろう。
以上
2009 年度 一橋大学大学院経営学修士コース金融プログラム
上海・香港国際研修プロジェクト
学籍番号 : cm090269
氏名 : スタンマウォン チャントゥナ
Ⅰ はじめに
本研修に応募することを決意したのは、昨年度の研修報告書を拝見して、研修を通して
貴重な体験や経験を得たかったからである。大学の講義では、日本企業の中国での事業展
開の話が度々上がってきたので、その問題を現地で観察し、中国経済の発展を肌で感じた
かったからである。そして、現地で金融機関をはじめ、製造企業を訪問することで自分の
視野を広めていきたいと期待していた。研修を通して、中国経済の動向、問題の認識とそ
の対策、そして今後の政策への展望について観察し、理解することができた。そのほかに
は中国での事業展開の難しさを現地で感じることができた。
本報告書の構成は、上海と香港での視察や企業訪問を個別に記述し、研修の全体を通じ
て考察して、最後に感想を述べることにする。
Ⅱ 上海での研修
1 上海視察
中国に行ったのは初めてであったが、テレビの報道や新聞から得た情報以上に中国の発
展が急激な成長を遂げていると印象を受けた。街の中心部に行くと、たくさんの高層ビル
が建ち、描いていた中国のイメージとはとても離れている。上海は、2010 年の万博の開催
地でもあって、建設ラッシュが所々で行われている。日本で生活している以上、通行の面
では安心感を持っているが、中国での通行は恐怖感を感じた。これは住民の通行安全への
認識がまだ低いのである。
自動車産業は、その国の産業の発展を記すものでもある。上海では外国製の自動車より、
中国国産の自動車のほうが多く走っている。中国の産業の発展はとても早いと実感した。
日本では産業空洞化が社会問題になった。日本企業は 1980 年代に急速な円高の場面に直面
したため、安い労働力や土地を求めてアジア各国・地域に生産拠点を移していった。その
ため、日本国内の生産は縮小、雇用も減少していった。中国の現地での食事や交通費がと
ても安く、とくに人件費の低さが日本企業や外国企業にとっては魅力となって、中国に生
産拠点を置くようになった。また、外国企業に対する事業税(以前は 45%)の改善により
2008 年の 1 月から 25%までに軽減されたこともあって、中国への投資の魅力が高くなって
きた。
日本では、欧米人、中国人、韓国人の観光客が多いため、主要な都市や観光地では英語、
中国語、韓国語の説明が目立っている。一方の上海では、街全体での英語の表示がとても
少なかった。近年完成したばかりの地下鉄でも英語の表示があまり見られなかった。また、
タクシーの運転手や有名なレストランでも英語を話せる従業員が少ない。そのため、観光
地では外国の観光客を案内するガイド多く見られる。中国語を多少理解できないと旅行す
ることは不便さを感じるかもしれない。一方、中国のガイドの立場を考えると、仕事の機
会が増えてくる。日本に留学することがなく、中国で日本語を学んでガイドの仕事を目指
している人にとっては日本語を勉強するインセンティブが与えられる。
2 上海財経大学での講義
Dr. Wang Huiling (Shanhai toward 21st century) の講義では、上海に関する基礎知識
をはじめ、統計データから見た上海の成長過程と発展に必要な要素まで丁寧に説明してく
れた。そのほか、上海での現状の問題が取り上げられた。とくに印象に残ったのは戸籍の
問題であった。上海で戸籍を持つには、多くの条件をクリアする必要がある。上海の戸籍
を持つと社会保障のサービスを受けることができる。これは子供や孫の世代までにも続く。
一方、戸籍を持っていないと仕事や家を持つことは難しくなる。
Dr. Sun Lijian (Fudan University, Analysis on Chinese Macro Economy) の講義では、
中国経済をマクロの観点から分析し、政府の政策への期待と今後の展望について語られた。
3 上海と無錫企業訪問
上海での企業訪問は、主に金融機関であった。上海で情報収集としての役割を果たして
いる企業や事業展開を図っている企業であった。その際、中国での売上債権の回収が課題
とされる。また、中国で直面している問題や今後の中国での事業展開の戦略を伺うことが
できた。
無錫での企業訪問は、製造企業が主であって、日本企業と地元の企業を訪問した。日本
企業は低価格で競争し、付加価値の低い部品を生産するため、中国で生産をおこなってい
る企業が多い。それらの日本企業が抱えている問題は、離職率の高さである。従業員の出
入が激しいと仕事に慣れるまでの教育の時間と費用が無駄になるからである。一方の地元
企業では、外国企業の製品と競争するために、製品の量産より品質が求められることが最
大な課題となっている。
Ⅲ 香港での研修
1 香港視察
香港の人口は約 690 万人で、香港は資源に乏しい国にもかかわらず、ここまで発展でき
たのは、海外直接投資に関してきわめて魅力的な市場だからである。香港の直接投資の特徴と
して、タックスヘイブン 経済圏の非営業会社からの迂回投資といった側面が挙げられる。
香港は自由貿易港として内外無差別原則に基づき外資系企業を遇している。1997 年 10 月
以降、アジア通貨・経済危機に伴う景気低迷を受け、観光誘致、IT 振興、中小企業・ベン
チャー企業支援など競争力強化のための政策が実行に移されている。この一環として、サ
イバーポートへの外資系企業誘致が進められている。
香港と日本との物価があまり変わらないのと上海での物価に慣れかけた時に、香港と上
海との物価のギャップに驚いて香港で買い物するのは消極的になってしまった。街を散策
するとたくさんの国と地域のレストランが目立っていた。香港は働きやすい場所として多
くの国から働きに入って行ったからである。そのため、香港では移民問題を抱えている。
もっとも活気にあふれるのは夜となってからである。夜の市場ではたくさんの品物が並ぶ
が、その中には偽物もたくさん売られている。著作権に関しては、香港政府が防止対策を
取っているが、CD、DVD、ソフトウェアなどがまだオープンに売られている。
2 企業訪問
制限された時間と場所の下で企業訪問に関しては、資料の準備、質問応対の時にも丁寧
に対応してくださった。上海での研修につづき、香港での研修も主に日本語で行われたた
め、緊張感があまりなかった。唯一英語で行われたのは、東亞銀行の時の研修であった。
英語力にあまり自信がなかったが、緊張感を持って話を聴くことができた。また、BBVA の
エコノミストの Alicia Garcia Herrero さんとの食事会で中国経済の話や英語での各自の
自己紹介で和やかな雰囲気で食事を楽しむことができた。
Ⅳ 研修全体を通じての考察
中国経済において急速な成長を遂げているのは、中国全体ではなく、部分的である。と
くに主要都市に限られている。2008 年の金融危機から問題点が認識されたように、中国は
輸出に依存しているため経済成長への影響が大きい。そのため、内需拡大の政策が期待さ
れる。実際に、国内での消費はなかなか期待通りにならない。それは、中国の社会インフ
ラの基盤がまだ弱いからである。将来の生活への不安や、病気のときなどに備えるため、
消費に回すより貯蓄に回してしまう傾向が強い。この問題を中心に考慮し、今後の政策へ
の期待が高まってくるのではないかと思われる。
中国の典型的な経済発展であったのは低価格の量産である。しかし、近年の傾向では中
国製を外国市場で競争するには、品質向上の課題が取り上げられている。無錫で製造企業
訪問の時にも、“量“から”質”への課題が認識されていた。また、人材育成とくに教育の
問題や著作権の問題を解決することで、外国企業にとってはもっと魅力のある投資先につ
ながる。
Ⅴ 最後に
企業訪問に関しては、今回の企業訪問を通して、現場でしか発見できない問題点を多く
発見し理解することができた。中国経済の発展を肌で感じ、問題点とその対策を考えさせ
られたことが本研修での最も貴重な財産となる。これからの母国(ラオス)での発展を考
える際に、日本での留学から得た知識を活用することだけではなく、中国での研修から得
た経験をも参考にしていきたい。2010 年に開設される予定であるラオス証券取引所のあり
方を考えさせられる研修であった。とくに、どのようにして外国からの投資を誘致できる
かが課題となる。
上海如水会では、一橋大学から卒業されたOBの方々に会え、現地で幅広く活躍してい
るのを見て、とてもいい刺激になった。専門知識をもっと勉強し、語学力にも力を入れる
べきだと改めて実感した。
そして、最後に本研修に関わっていたすべての方々に感謝を申し上げたい。
以上
<上海・香港国際研修プロジェクト>
学籍番号: CM090276
氏
名:
徐 楨旻
はじめに
今回の国際研修プロジェクトでは、さまざまな貴重な経験をすることができた。中国で
最も経済が発展している上海と香港を始め、無錫とシンセンにある日系及び現地企業を訪
問した。また、上海財経大学と人民大学での講義を通じて中国経済と社会の現状を知る機
会もいただくことができ、とても充実した 10 日間の日程であった。
企業訪問
今回訪問した企業は、エプソントヨコム(日系)とサンテックパワー(中国)、シンセン
テクノセンター(日系)であった。我々は、各企業の関係者の方々から業務・組織・経営
の観点から盛り込まれた内容の丁寧なプレゼンテーションを受け、工場見学もさせていた
だいた。特に、日系企業の訪問では、現地の優秀な若者の採用と必要な技術と知識を計画
的に習得させる人材の教育・訓練への取り組みが積極的に行われており、地域に根差した
経営で現地の人々に信頼される企業として活躍していることが伝わってきた。
上海と香港に進出している日系の金融機関として、みずほ証券上海駐在員事務所と信金
中央金庫上海駐在員事務所を訪問した。また、東亜銀行やみずほセキュリティーズアジア、
国際協力銀行(JBIC)の各駐在員の方々からは、
「中国の経済と社会現状」、
「中国・香港経済
の見通しについて」、「香港ローカルバンクの中国市場におけるビジネス展開」、「金融危機
以降の JBIC の取り組み」をテーマとした有意義なレクチャーを受けることができた。
上海財経大学での講義
上海財経済大学では、
「21 世紀の上海」をテーマとした王恵玲教授の講義を受けた。この
講演では、上海の歴史を始め、産業、金融市場、社会の現状について詳しく学んだ。また、
復旦大学の孫立堅教授の講義では、中国の経済現状分析から見る中国政府の政策について
お話を聞いた。講義が終わった後は、上海財経済大学の学生との交流の場が設けられ、現
地の人々と多少コミュニケーションを取ることができた。自分の英語の語学力が足りず思
うように色々な話ができなかったことが残念なところであった。
おわりに
2010 年の万博開催を控えている上海の街は、既に高層ビルが密集している上海環球中心
一帯に加え、さらなる開発が進んでいる。そのダイナミックな経済発展現場の裏腹に、街
の所々に存在するまだ開発されていない貧しいダウンタウンは移動中のバスの中で見たも
う一つの上海の顔だった。今後中国が解決すべきであろう「貧富の格差」の現状を見るこ
とができたのも、現地企業訪問や大学での講義に加え今回の海外研修で得た貴重な収穫で
ある。今回の海外研修を機に、国際的で広い視野を持つ社会人として活躍できるよう、こ
れからも自分を高める努力をしていきたい。
最後に、このような貴重な経験の場として国際研修プログラムを企画・運営してくださ
った清水先生、小川先生、三隅先生、大和田さんを始めとしたMBAオフィスの皆様に御
礼を申し上げたい。
企業視察レポート
HMBA
上海・香港国際研修プロジェクト
企業訪問レポート
「みずほ証券上海駐在員事務所」
担当:于洋
訪問日時:2009 年 9 月 3 日(木)
岩元寿人
宰務正
9:00~11:30
訪問場所:みずほ証券上海駐在員事務所
1
中国経済の現状
中国経済の成長は著しい。これを数値で見ていくと、1978 年から 2008 年までの中国経
済の平均成長率は 9.9%であり、これまでの 30 年間、急速に成長してきたことがわかる。
また、2009 年 4~6 月期の実質 GDP 成長率は+7.9%(前期比+14.9%)である。その内
訳は、輸出:前年同月比▲23.4%、投資同+33.5%(1~6 月期)、消費同+15.0%であり、
国際金融危機のなか、高成長を維持している。
この高成長を支えているのが、政府の公共投資である。
「4 兆元の経済対策」や「10 大産
業振興調整政策」などを打ち出し、現在、鉄道関連投資や環境・新エネルギー関連投資な
どが活発化している。同時に、株式や不動産購入も急増しており、ややバブル的な様相も
呈している。
生産活動に関しては、伸び率の加速に一服感が出てきている。輸出は引き続き低迷して
いる。北京や天津など 9 都市では、テレビなど 5 品目を対象に購入額の 10%を補助する政
策を実施し、家電や自動車について 5,000 億元の消費誘発効果を期待している。
7~9 月期の実質 GDP 成長率は 8%台に乗せるとの見方が有力である。2009 年の成長率
は 8%を達成することが濃厚になっている。一方、2010 年は投資・消費の持続性と海外景
気の回復力に不透明感があり、更なる加速は見込みにくい状況である。
2
日本企業の中国市場参入
沿岸部の都市への公共投資によって発展してきた中国市場では、産業財を扱う企業が好
調である。日本企業では、KOMATSU や川崎重工業、新日鉄が中国市場に進出し、好業績
をあげている。この要因の 1 つは、中国政府が沿岸部・内陸部を問わず、各都市でのイン
フラ整備を積極的に進めており、旺盛な需要があるためである。これに対し、日本企業の
工作機械は高い技術力をもっており、中国で数多く陥られているのである。上海国際空港
から市街地に向かうバスの中から KOMATSU の大きな看板が複数掲げられていたことは、
同社が中国で成功している様子をうかがわせる。
その一方で、消費財メーカーにとって中国市場は不利な市場だと言える。食品産業を例
に挙げると、消費者の味覚は地域によって大きく異なり、メーカーはその地域に適した味
付けの食品をつくる必要がある。また、日本企業は中国市場に幅広いチャネルをもってお
らず、流通・販売に問題を抱えている。このような特色のある市場に進出している日本企
業は、伊藤忠商事や丸紅といった食を利用して進出している総合商社や、牛丼の吉野家、
味千ラーメン、大都市または小規模な都市に出店しているイトーヨーカドー、セブン・イ
レブン、イオン、流通業務では佐川急便やヤマト運輸がある。ライバル企業の進出が少な
いことは、消費財市場に関する大きな魅力であるが、多くの問題を前にし、いかにして市
場浸透を図るかが、日本企業が今後中国進出を成功させるための大きなカギとなる。
3
質問応答
みずほ証券上海の業務について
Q1:「私どもが調べましたところ、みずほ証券上海駐在員事務所では香港のみずほセキュリ
ティーズアジアを中心として、北京駐在員事務所や瑞穂投資諮詢(上海)有限公司な
と連携し、グレーターチャイナ地域での株式引受・販売などの投資銀行業務や情報提
供などの業務を行っていると大まかに把握しております。しかし、みずほ証券上海駐
在員事務所に関する情報が少なかったため、十分な理解には達しておりません。みず
ほ証券上海駐在員事務所での、事業内容や顧客、業績などお聞かせください。」
A1:みずほ証券上海駐在員事務所では、「ある日本企業がもつ特定の技術力が欲しい」とい
った上海企業のニーズなどを調査・発掘することを行っている。また、表面化したニ
ーズを、みずほセキュリティーズアジアや日本の本部へ報告している。本部では、報
告されたニーズをもとに M&A を行う。この際の資金は、みずほコーポレート銀行か
ら調達する。このように、みずほ FG 内で M&A を行うことで、長期的な視点に立って
企業とビジネスを行うことが可能となるのである。具体例を挙げると、ヤマト運輸の
上海への進出の援助がある。このケースでは、ヤマト運輸と現地法人が 50%ずつ出資
し、新しい企業を設立した。
中国経済について
Q2:最新版の統計によると、2009 年 7 月、中国への外国直接投資(FDI)は 08 年同期比
35.71%減少し、10 ヵ月連続のマイナス成長となりました。国家情報センター経済予測
部研究員の張永軍氏によると、原因は金融危機により企業投資の減少、また各国政府が
資金をできる限り自国内の経済刺激に使用しているうえ、投資先の産業にも新しい成長
ポイントがないとしています。では、今後中国はどの産業を中心に対内直接投資を増加
させることができると思いますか。
A2:基本的に、投資に関連する企業にとってはまだ有利な状況が続く。ただ、長い目で見れ
ば、やはり中国の国内商品に関連する企業に注目すべきである。特に、食品関連はと
ても魅力である。中国の方々にとって、食べることは非常に大事である。外食は多い
ので食費にかける割合は非常に多い。また、新築では全部自分で内装を行うので、住
宅 1 棟にかける金額が大きいため、住宅関連の企業や事業も大変魅力的である。
Q3:現在、中国の経済成長が目覚しいと思います。この経済成長によって中間所得層が増加
しており、その結果、食に対するニーズが高度化すると考えられます。その状況下で、
日本企業が製造する食品は世界的にも安全性が極めて高いと評判であるため、そのニー
ズを満たすことができるはずです。しかし、自動車メーカーの台頭の方が報道で大きく
取り上げています。実際、日本の食品メーカーは台頭していますか。また、台頭してい
ないのなら何が原因であると考えられますか。
A3:アサヒビールの牛乳、カップラーメン、日本風の豆腐などで価値を高めている。しかし、
はっきりと台頭しているとは言えない。原因は、2 点ある。
第 1 に、地域によってニーズの差が激しいことである。中国は、地区によってニーズ
が異なる。単一民族でニーズもさほど差がない日本市場で成長した日系企業は、この多
様なニーズに対応しきれていない。
第 2 に、チャネル確保が困難である。そのために、合弁企業を通じてチャンネル確保
を狙う。その時に、現地での販売網を確保することがポイントである。
上海のマーケットについて
Q4:2005 年非流通株改革の前に、上場企業による不祥事が相次ぎ、投資家の証券市場に対
する信頼は失われてしまった。その結果、経済の成長が続いているにも拘わらず、株
価が低迷を続けました。2005 年からのマーケットが暴騰した理由は、この非流通株改
革によるものですか?また、他にはどのような要因が考えられますか?特に、どの産
業がマーケットを牽引しましたか?
A4:非流通株改革は、2005 年からの期間で見ると、最も初期にマーケットに影響を与えた
と考えられる。非流通株改革よりも中国政府が景気の引き締めを遅らせたことがマー
ケット暴騰の最も大きな理由である。2004 年の時点で、バブル状態にあることが上海
とシンセンの地域を中心に指摘され、中国政府は引き締めの方向に動き出した。しか
し、それまでの二ケタ成長を維持する必要があったために、強い引き締めはできなか
った。更に 2005 年 7 月からの人民元改革、新興国ブームや貿易黒字により中国経済に
対する期待感が強くなったために、海外マネーが流入した。特に、2006 年から 2007
年までに金融、エネルギー等の大型企業の上場がマーケットをけん引した。
Q5:世界金融危機後、2009 年 6 月末の時点で上海綜合指数は既に 2007 年の最高値に比べて
約半分回復しました。我々は、この迅速な回復の要因を政府の支援と考えていますが、
鈴木さんはいかがお考えですか?また、今後、中国のマーケットはどのように推移す
ると予想されますか?
A5:迅速な回復は確かに四兆円の経済対策によるものである。但し、政府支援に関して中国
が他国と異なった点は、産業政策と地域振興政策を大々的に打ち出した点である。重大
産業の振興政策の中身はこの三年間が調整期間である。三年間の調整を行った後に中国
企業の勢いはもっと強くなると予想される。政府がその 3 年間に、M&A を繰り返して
世界レベルの企業を各重要産業分野で育て上げる宣言を行ったため、三年間の調整より
も三年後の発展に注目が集まっている。
現在、中国のマーケットは調整局面にある。今後は、中国政府はバブルを警戒して市
場はこれから微調整政策を行うと考えられる。2009 年の後半には、資本市場はあまり良
い状態にあるとは言えない。しかし、第四半期になれば資本市場の状態が良くなるかも
しれない。
今後のアジア市場の中心地について
Q6:現在のアジア市場の中心は東京です。しかし、今後、日本市場が縮小することや中国な
ど新興国の発展がめざましいことなどを考えると、アジアの中心市場が日本以外の他
国へ移行することが予想されます。その候補地として上海・香港・シンガポールが挙
げられます。3 つの都市のなかでも、私たちはシンガポールが有力ではないかと考えて
います。その理由は、上海は主要言語が中国語であること、香港はインフラの整備が
整っていないことがネックとなり、その一方でシンガポールの言語が英語であること、
政府の金融に対する支援があること、国の制度が整っているからです。今後のアジア
市場の中心地はどこに移るのか、また日本が今のままの地位を維持することができる
のか、いかがお考えですか?
A6:鈴木さんの観点:時期によって、見方は異なってくると思う。非常に長い目で見ると上
海は有力である。現在の総合力で言うと、上海では英語が通じるし、為替取引量も日
本より多きい。2000 年まで、製造業と IT 産業が伸びてきたシンガポールは 2000 年代
以降、政府は金融機関への誘致政策を優遇し、国際的な金融中心地を創り上げること
に成功した。香港は中国大陸に近いという意味で、中国に対するゲートウェウといえ
るが、アジアの中心地とは言い難い。今の順位付けを言うと、シンガポール、香港、
上海の順である。但し、将来的には、上海は魅力的である。上述のように、上海にお
いて普通のビジネスマンは二、三カ国の言語がしゃべれるので、言語力に問題はない。
また、2015 年までに中国の個人資産は日本の個人資産 1500 兆円を超える見込みがあ
るので、今後株式市場或いは不動産に流れるマネーは大きな額が見込まれる。更に、
生産をどこで行うかを考えると、シンガポールには大規模な生産を行う土地はないの
で、どうしても中継貿易地とならざるをえない。香港はすぐ隣に広東省があるが、や
はり広東小も生産活動を行う場所としては大きくない。上海の背後には中国全土が控
えており、上海では中継貿易を行う必要がない。従って、シンガポールと香港には金
融、物流などの企業が多い一方、上海はそれだけではなく、製造、販売など企業もた
くさんあるので、シンガポールと香港とを比べると、非常に懐は深い。また、上海の
先物取引場のシステムと物流倉庫は既に世界最先端のものである。
三坂さんの観点:香港にもまだまだ魅力がある。何故ならば、東南アジアに関する情
報を入手しやすいし、近い将来はシンセンと香港とが一緒になって更に競争力が増すと
考えられるからである。シンガポールはインドをカバーできていないので、アジアの中
心市場としてそれほどの魅了がない。何故ならば言語問題で上層のインド人は英語が通
じる一方、下層のインド人は通じないからである。但し、上海にも将来性はある。この
理由の一つは、上海では世界レベルの為替マーケットがあるからである。
中国進出について
Q7:日本の消費財メーカーは今後中国に進出する際、大きな都市を押さえてから内陸に行く
戦略をとる方が良いのか、それとも小さい都市を多くカバーして面を抑えるように各
地域にあった戦略をとる方が良いのか、どちらですか?
A7:実際にあった例で言うと、大都市を押さえてから内陸の中小都市に進出する戦略が日本
企業にとって典型的である。しかし、店舗展開の資本力、地方の流通業者のコネクシ
ョン、人材育成の問題があるので、現状では中小都市にあまり進出できていない。内
陸の中小都市に進出する際、物流センターを作る必要がある一方、米系ウォルマートの
ような資本力がないのでなかなか投資しにくいからである。また、流通チャンネルを確
保するためには、地方の流通業者のコネクションも重要である。更に、人材育成の点
では、米系のように、従業員に裁量権を認めて一度にたくさんの店舗を増やすことと
は異なり、日系企業のパターンは先ず大きな店舗で長い時間をかけて人材を育ててか
ら地方に行かせるので、店舗展開は比較的非効率な面がある。
4.最後に
末筆ではございますが、お忙しいなか、本研
修のために貴重なお時間割いて下さいました、
みずほ証券上海駐在員事務所長、三坂様とみず
ほ総合研究所主席研究員、鈴木様に改めて厚く
御礼申し上げます。また、本研修の実現にご尽
力下さいました、みずほ証券株式会社経営調査
室のみなさまにもこの場をお借りして、心より
感謝申し上げます。
写真:みずほ証券上海
上海環球金融センターにて
信金中央金庫
上海駐在員事務所
担当:窪田、岡山、天洋、徐
訪問日時:平成 21 年 9 月 3 日 14:00~16:00
訪問場所:上海国際貿易中心
先方ご担当者:丹羽
1.
会議室
弘之 様
企業概要
日本国内の信用金庫を、海外では信金中央金庫(以下、信金中金と呼ぶ)という。信金
中金は、信用金庫の国際業務機能を補完するため、海外に 4 つの拠点を設けていた(ニュ
ーヨーク、ロンドン、上海、香港)
。ニューヨーク、香港、ロンドンでは主に債券運用を行
っていた。しかし、信金中金のグローバルベースでの業務集約の流れを受け、現在では、
上海駐在員事務所のみが残っている。
上海駐在事務所においては日本企業への情報提供、海外進出アドバイス等を通じ(詳細
は後述2.上海駐在員事務所の業務内容を御参照)、日本の信用金庫の顧客への付加価値提
案をサポートしている。
2.
上海駐在員事務所の業務内容
(1) 進出を検討している日本の顧客に対して
① 訪中視察団の受け入れ
② 設立手続きの事前説明
③ 設立手続きのサポート(会計事務所、弁護士事務所、不動産業者、人材斡旋会社の紹
介)
④ 各種情報提供(投資環境情報、貿易関連情報 http://www.scbri.jp/asia.htm)
(2) 既に中国に進出している顧客に対して
① 各種情報提供
② セミナー開催(金利・為替動向、中国税制関係、貿易関連情報)
3.
当日のセミナーでの説明内容
(1) マクロ的に見た上海
① 長江デルタの概況
長江デルタは上海市と江蘇省、浙江省を含め、中国における経済が最も発展している
地域の一つである。3省市の面積は 210,741 平方キロメートルであり、中国全体の約 2.2%
を占め、日本の本州とほぼ同じである。1 億 4685 万人の人口を擁する長江デルタは日本
の全人口より多く、中国人口全体の 11%を占めている。中国の華南地域に位置する長江
デルタは東沿岸部の北緯 27~35 度にあるため、亜熱帯モンスーン気候に属し、四季がは
っきりしている。夏は高温で、冬は低温であり、年間平均気温が 15~18 度である長江デ
ルタの気候は東京と似ている。
経済面において、11%の人口を持つ長江デルタは中国の GDP の 22%である 65,185 億
元(2008 年)を生産しており、1978 年の改革開放政策以来、外資導入を梃子に中国の高
度経済成長の牽引車となっている。高成長を続けてきた長江デルタ地域の経済は 2008 年
の金融引き締め政策や金融危機によってスローダウンしたが、4兆元の景気刺激策によ
って 2009 年に入ってから回復している。さらに、一人当たり GDP も、2008 年に上海市
が 1 万ドルを突破し直轄市・省レベルでは 1 位となった。浙江省と江蘇省もまた、それ
ぞれ4位と5位の高水準を維持している。産業構造から見ると、地域に共通する特徴と
して、第一次産業の割合が低く第二・三次産業の割合が高いことと、外資系企業の進出
が多く輸出に占める割合が高いことが挙げられる。特に、海外からの直接投資に関して、
長江デルタ地域の外国投資は 2000 年まで中国の約 30%のシェアで推移していたが、2001
年には約 40%に上昇し 2008 年には 453 億ドル(実行ベース)に達し、中国全体の 49%
を占めている。
② 上海の概況
長江デルタの中でも、上海市は最も経済発展が進み、資本・技術・人材・情報量にお
ける優位性を持つ都市である。6,341 平方キロメートルの面積を持つ上海市の人口は
1,888 万人であり、人口密度は中国において最も高い 2,977 人/平方キロメートルである。
経済面において、2008 年上海市の GDP は 13,698 億元であり、その成長率が 9.7%で
1991 年以来 17 年ぶりに 1 桁成長となっていたが、依然として高いスピードで成長し続
けている。さらに、中国人口の 2%未満を占める上海は、全国の 4.5%の GDP を生産し、
一人当たり 72,536 元の高水準に達している。他の地域と同様に上海市も金融危機の衝撃
を受けた後、景気刺激策によって GDP の成長が回復しているが、輸出依存が非常に高い
ため、上海市では引き続き全国平均に比べ低い成長率となっている。
上海市において最も発展しているのは、地域内に3ヶ所の国家級開発区を擁する上海
浦東新区である。上海浦東新区は外高橋保税区、陸家嘴金融貿易地区、金橋輸出加工区、
張家江科技園区によって構成され、長江沿岸部の経済発展を牽引していこうとする「龍
頭戦略」の一環として開発されている。
(2) 中国の金融事情
①中国の金融機関の現状
(ⅰ)金融システム
中国の金融システムの特徴は、国の統制が大きいことである。特に、国務院の下に
ある中国銀行業監督管理委員会は中国の金融機関に対して最も大きい力を持っており、
銀行や非銀行金融機構、合作金融に対する監督・管理を行っている。
(ⅱ)主な金融機関
・政策銀行-中国農業発展銀行、国家開発銀行、中国輸出入銀行
・国有商業銀行-中国銀行、中国工商銀行、中国建設銀行、中国農業銀行、交通銀行
・株式制商業銀行-招商銀行、民生銀行、華夏銀行、興業銀行、上海浦東発展銀行
・その他-中国郵政儲蓄銀行、南京銀行、北京銀行、寧波銀行
(ⅲ)金融機関の構造
各営業拠点は本店直結ではなく、直轄市・省・自治区の分行(メインブランチ)を
核に傘型組織を形成している。
・業務範囲-貸出業務、外国為替業務、越境取引
・人民元による送金
・手形・小切手制度-商業手形(同地、隔地)、銀行手形(隔地)、銀行小切手(同地)、
小切手(同地)
(ⅳ)銀行業の対外開放スケジュール
~WTO 加盟時から、外資銀行に対する人民元業務拡大に関する約束事項
・WTO 加盟時から、従来の業務範囲に手形割引、代理受払、貸金庫業務を追加する。
・地理的制限の緩和
・1都市で人民元業務を認可されている外銀に対し、他の開放都市でも人民元業務を
認める。
・現段階では外資企業に限定される人民元業務の対象顧客に、中国企業(加盟後 2 年
以内)、中国人個人(加盟後 5 年以内)を順次加える。
※邦銀支店における人民元業務の取扱い
邦銀は 5 行が中国国内 11 都市に 25 の本支店を設置しており、人民元業務取扱店舗
として 11 都市の 22 店舗が認可されている。
②金融改革の状況(金融監督の強化)
・不良債権の銀行本体からの分離
・不良債権比率は改善
・銀行本体への資本注入
・市場経済への適合(WTO 加盟に伴う金融セクターの開放)
・信託投資公司の整理統合
③ 中国における資金繰りと調達リスク
(ⅰ)資金繰りのミスマッチの発生要因
・通常の資金繰り-設備資金、運転資金(仕入資金、売上の増加)
・予定外の事態による資金繰り-売掛金未回収、突発的な事象による損害、赤字決算
(ⅱ)総投資額と登録資本による制約
(ⅲ)金融機関の取引スタンス
外資系銀行の中国内支店
・信用リスクを簡単に取れない。
・外資系現地法人との取引スタンスは、親企業の信用が中心である。
・地場企業との取引スタンスは銀行によってかなり違う。
地場銀行
・国有企業に対する与信が大きい。
・中小企業に対する審査能力に問題がある。
・優良な貸出資産を増やしたい。
・外資系大手企業と取引したい。
(ⅳ)信用保証制度(中小企業促進法)
・中小企業融資の現状-国有商業銀行は、大都市・大企業に重点を置いているため、
300 万社の私営企業で銀行借り入れがあるのはわずか 10%程度
である。
・中小企業促進法(2003 年 1 月 1 日施行)による金融支援装置
-経済の不均衡を解消し長期的でバランスのとれた中国の経済成長のためには、中小
企業金融の最適制度つくりが必要である。この制度は、
「中央政府は中小企業発展支援
のための専用資金を設ける」、「地方政府は中小企業に対し資金支援を行い信用保証制
度の構築へ取り組む」、等の内容となっている。
(ⅴ)売掛債権回収サービス
現在中国に進出している日系企業が抱える問題の第一位に挙げられるのが、
「売掛債
権」の回収問題である。かつての中国社会制度であった「配給制度」の残滓や、中国
人特有の「自己防衛第一主義」からくる債権軽視の風潮がその背景にある。中国に進
出している企業が同国内での内販を拡大する中で、売掛債権の回収に係る金融サービ
スへのニーズが高まっている。
(3)上海万国博覧会の概要
項目
会期
テーマ
会場敷地面積
予想入場者数
内容
2010年5月1日~10月31日
「都市―より良い生活を」(Better City , Better Lige)
328ヘクタール(東京ドームの86倍)
7,000万人(1日当たり40万人)
建設費180億元(2,880億円相当)
会場建設・運営費
運営費107億元(1,710億円相当)
付随的投資需要 300億ドル(約3兆円)
・上海経済は2ケタ成長を続け、2010年の1人当たりのGDPは1万ドル超に増
経済効果
加。
・観光、商業、飲食、交通、メディア、デザイン、金融が急速に発展。
(4)信用金庫取引先の中国華東地域への進出情報
①中国全土に 848 社が進出。内、華東地域に 456 社(約 54%)が進出。
②省市別内訳:上海市 230 社(新規進出先の 32%)、江蘇省 164 社、浙江省 62 社。
③ 進出動機:日本国内市場への製品供給(56.7%)
低廉豊富な労働力の確保(50.0%)
中国国内市場が有望(48.3%)
④ 業種:機械(構成比 26%)、繊維(18.6%)、商業(16.4%)が集中。
4.
質疑応答
(1)華東地域における日本企業の進出に関して
a) 進出企業の成功要因
・ 進出目的が明確であったこと。
・ 合弁相手に恵まれたこと。
・ 優秀な現地経営者に裁量権を与えた上で、親会社による監視を行ったこと。
・ 売掛金回収の工夫(例:営業担当者の業績評価基準を売掛金の回収時点とする等)。
・ メリハリある労務管理(客観的評価基準での現地従業員へのドラスティックな処遇)。
b) 内陸部の発展に対して華東地域が進出先としての魅力を失わないためには?
以下の理由から、華東地域は進出先として魅力的であり続けると思われる。
上海は中央政府の意向から金融業の集積(日系では 3 メガの現法、信金中金、地銀、
住信の支店が進出)が進み、経済発展を牽引している。その結果、資本、技術、人材、
情報量における優位性が存在する。内陸地方への展開を視野に入れたとしても、その
ため、本部を置く環境として最適である。購買力のある富裕層も集積している。特に、
富裕層相手の製品を得意とする一方で価格競争力の弱い日本企業には魅力的と思われ
る。また、日本人駐在員の生活面での不安が少ない点も魅力である。
上海周辺の江蘇省・浙江省においては、上海に近接する地理的優位性にもかかわら
ず用地取得費や人件費が相対的に安いことや、大企業を頂点とした産業集積の存在と
いった優位性がある。
(2)中国における中小企業金融に関して
中国華東地域における邦銀の業務の中心となるのは、日系企業に対する与信である。
地場の銀行に比べて、日系企業に関する与信情報を多く持つため、邦銀に軍配が上が
る。他の外資系金融機関も同じである。対して、地場の銀行は現地法人に対する土地
を担保にした貸出を行っている。このように、外資系と内資系で主とする業務の棲み
分けがある。しかし、富裕層向けプライベートバンキングに進出する外銀(HSBC・東
亞・シティ等)も現れている。こうした状況に対して、信金中金は以下のようなサービ
スを提供している。
・信用保証協会のサポートによる融資
・海外投資セミナー
・中国ビジネス担当者要請セミナー
・信用金庫の研修生受け入れ
5.
最後に
企業訪問に先立ち担当班でのリサーチを試みたが、中国進出企業に対する具体的情報
は少なかった。特に個別企業の進出事例の情報が少なく、これこそが中国ビジネスのサ
ポートを行っている信金中金の優位性なのではないかと期待を抱き、企業訪問に臨んだ。
中国進出企業に対する我々の漠然とした質問に丁寧な資料とご説明を頂くことができた。
特に、中国進出事例集(実際の企業の進出・撤退について具体的に説明された資料。12
社分が掲載)は、実際に日本で入手できる抽象化された情報とは対極をなし、具体的な
説明に溢れ、我々が「中国進出」について漠然と抱いていた考えを、地に足の着いたも
のへと変えてくれた(個別事例の転記は行わないがトピックスは既述)
。また、HMBA か
らの初歩的な質問にも丁寧にご回答頂くことができた。
最後に、中国の信金中央金庫のビジネスを一手に手掛け、ご多忙の中ご説明を頂戴し
た丹羽様、この訪問の調整をしてくださいました信金中央金庫総合研究所の寺尾様に改
めて厚く御礼申し上げます。
以上
エプソントヨコム
担
無錫工場
当:(M2)幅啓典、沈礼彬、(M1)五十嵐和也、井手飛人
訪問日時:2009 年 9 月 4 日(金)
9:30~11:50(現地時間)
産業の米と呼ばれる半導体に対して、水晶デバイスは産業の塩とも呼ばれており、デジ
タル化の進む近年、その役割は重要性を増している。このような時勢の中、我々は水晶デ
バイス世界シェア№1 であるエプソントヨコム株式会社の無錫工場を訪問することができ
た。金融プログラムの学生がこのような優良メーカーを訪問することは、実体経済への理
解を深めることができたという点で、非常に良い経験であった。
1.企業・事業概要
エプソントヨコムの無錫工場を理解する上では、エプソン、エプソン中国、エプソント
ヨコム、無錫の各々を理解する必要がある。
(1) エプソン
エプソンは、社名に電子の子供という思いを込めており(エプ:電子、ソン:子供)、主
にプリンタ、プロジェクター、水晶デバイスの 3 つの事業を営んでいる。従業員の 6 割は
東南アジアで働いている。
(2) エプソン中国
エプソン中国では、グループ全体に占める生産の割合が 30%、販売は 6%(いずれも金
額ベース)となっている。また、グループ全体の従業員に占める中国人の割合は 30%であ
り、これらのことからエプソン全体におけるエプソン中国の重要性が伺える。拠点は生産
拠点が 10 箇所、販売拠点が 2 箇所となっており、北京と上海に R&D 拠点がある。
(3) エプソントヨコム
エプソントヨコムはエプソングループにおいて水晶事業を担当している。従業員はおよ
そ 1 万人であり、そのうち 8 千人は日本国外で働いている。また、拠点については国内が
生産 6 箇所と販売 3 箇所であり、海外は 6 箇所となっている。
同社は「QMEMS」という独自技術を強みとしており、この強みを活かして 3D 戦略を展
開している。3D 戦略とは、タイミングデバイス、センシングデバイス、オプトデバイスを
中核に水平、垂直展開していく戦略である。
(4) 無錫
無錫は、立地上の優位性と政府との関係性において、企業進出に優位である。立地の観
点から、無錫は上海から 150km、南京から 180km の距離にあり、国土の広大な中国にお
いて、都市部の郊外の位置づけと考えられる。無錫には、以下の特徴がある。
・高速道路が 3 本交差している。
・2010 年には北京~上海間、および南京~上海間の高速鉄道がともに開通予定である。
両高速鉄道ともに無錫を経由しており、無錫~上海間を 30~50 分で結ぶと言われてい
る。
・無錫空港までは 10 分ほどであり、香港や関西国際空港などへも直行便が出ている。
無錫市政府は企業誘致に積極的であり、無錫新区は経済特区となっている。無錫に対す
る日本からの投資は、全投資額の 3 分の 1 を占めて最も高い。これは、華東地域の中でも
高い割合となっている。
このようなバックグラウンドを持つ無錫工場は、2008 年の金融危機で若干の業績低迷を
経験したものの、2009 年度に入り業績回復を見せている。建物拡張を受けて、同工場は今
後、更なる成長を志向している。このような好調の背景には、人材管理面での工夫が存在
する。
無錫工場の人員構成は、スタッフが 12%、ラインのワーカーが 88%となっている。正社
員は 40%であり、派遣が 60%を占めている。無錫出身者は 18%に過ぎず、多くは各地域
から働きに来ている。日本人は 11 名のみであり、ほぼ中国人が占めており、この中国人の
管理が大きな課題である。主な悩みは定着率の低さであり、中国人の離職率は概して高い。
このような課題に対して、無錫工場ではモラルや安全などの各種委員会によって管理レ
ベルを高めるとともに、福利厚生を手厚くするなど、様々な工夫を凝らして対応している。
2.工場見学
今回の訪問プログラムの一環として、工場見学をさせていただいた。現場責任者の説明
を聞きながら、普段ほとんど接する機会のない製造現場や現地従業員の労働環境を見るこ
とができ、大変貴重な経験となった。
特に印象に残った点は下記の 2 つである。
(1) 生産現場
ここでは作業の工程のほとんどを機械が担っており、唯一人の手が加わるところといえ
ば、機械のコントロールと完成した部品のチェックくらいである。その多くはあまり高度
な技術や専門知識を要しない作業であるので、その作業に携わる人のほとんどが一般の出
稼ぎ労働者である。ただし、作業の中に一部高い精度が求められるものもある。特に、「生
産に使われる機械はどこでも大差ないため、製品の差別化を決める最大な要因とはやはり
研磨の角度・精度であり、そのためのセッティング作業が大事で難しい」と現場責任者よ
り説明があった。離職率の高さによる技術水準維持への影響を最小化するための工夫とし
ては、作業手順の標準化が徹底的に行われており、実際に各作業場ではマニュアルとおぼ
しきものが多く見られた。
また、振動子などは製品のダウンサイジングが進んでいるにもかかわらず、旧型の大き
い物の生産から撤退しないのがなぜかという疑問について、「中国国内ではまだ古い機材・
設備を使うお客様のリピート注文がたくさんあるので、そのニーズに応えるために簡単に
撤退できない」との回答を受けた。海外での事業活動においてやはり様々な環境ニーズを
満たさなければならないことを改めて深く感じた。
(2) 環境への取り組み
エプソントヨコムは「社会や環境の変化とニーズを鋭く感じ取り、素早く対応できる、
信頼された良い会社」という経営理念を実現するため、環境活動の計画を策定し活動を推
進している。実際に工場やオフィスの分別回収コーナーでは、不要物の種類ごとに徹底し
た分別回収が実施されており、社員食堂では、「食料を浪費しないこと」、「毎日生活廃
棄物の大量発生を抑えよう」という宣言チラシが壁に貼られているなど、環境保護への貢
献に努める姿勢も見られた。
3.Q&A
(1) 戦略面の質問
z
同業他社の生産拠点における中国進出先は、日本電波工業(蘇州)、京セラキンセキ(な
し)、大真空(天津、深圳)、東京電波(なし)となっている。東洋通信機時代の 2001
年 7 月段階で、無錫を生産拠点として選択された決め手は何だったのか。
⇒立地条件の評価として、労働の質と量、物流、電気・水・ガスをはじめとするインフラ、
政府の協力などがあげられ、それらの総合評価で決定した。江南地域は教育レベルが高
く、労働の質が高い。また無錫市政府は税制の優遇など誘致に積極的であったことも決
め手の 1 つである。
z
エプソントヨコムでは 3D(Device)戦略を打ち出している。3D のオプトデバイス、
タイミングデバイス、センシングデバイスのうち、無錫では前 2 者をメインで製造し
ていると聞いている。無錫の日系企業ではソニー、コニカミノルタ、ニコンなどデジ
カメに強い顧客を抱える中、センシングデバイスの 1 つであるジャイロセンサ(手振
れ補正に使用)も重要な供給部品と考えるが、無錫での生産は行わないのか。
⇒社内での棲み分けを図っている。商品ごとに生産拠点を決めており、無錫ではセンシン
グデバイスの生産は行わない。
z
蘇州に旧エプソンの製造拠点がある。こちらとの棲み分けはどのようにおこなってい
るのか。また、技術や人材の交流などはあるのか。
⇒無錫と蘇州とはグループ内の競争相手である。一方で、4 名は無錫と蘇州とで兼務して
おり、教育を一緒に行ったり、賃金体系を徐々に統合したりと一体経営も図っている。
ただし、無錫市政府と蘇州政府とでそれぞれの行政の契約があるため、無錫と蘇州統合
は難しいと考えている。
z
オートクレープによる人工水晶育成は、日本で行っているとのことだが、無錫での水
晶育成を行わないのは技術的な問題か。あるいは、本国での集中生産メリットなのか。
将来的に水晶育成~最終製品製造まで無錫での一貫生産などは検討しているのか。
⇒オートクレープによる人工水晶育成は日本およびアメリカで行っており、無錫では行っ
ていない。これらを用い QMEMS など品質の高い製品を日本で製造している。中国製
の人工水晶の品質も十分に高く、無錫では中国製の人工水晶も使用している。
(2) 業務面の質問
z
中国での業務オペレーションと日本でのオペレーションに、何か異なる点はあるか。
また、中国特有の留意点(商習慣など)はあるのか。
⇒中国ではローコストの物や技術的に確立した物を作っており、日本では R&D や付加価
値が高い物を作っている。中国固有の留意点としては、離職率の高さが挙げられる。こ
ちらでは、帰属意識が薄く、3 年単位で次の仕事を考える人が多い。よく「会社は私に
何をしてくれますか?」と聞かれる。日系企業で教育を受けたのち転職しようとする人
が多い。
z 無錫工場における管理指標はどのようになっているのか。
(リードタイム、品質など)
⇒売上、在庫回転率、歩留まり、DOT(Delivery On Time)、クレームの件数と内容、リー
ドタイム、TAT(Turn Around Time)、生産性などの指標を使用している。
z 外部(顧客や仕入先など)との情報共有に関して、顧客と情報システムを連携するなど
様々な方法が考えられる中で、無錫工場ではどのような情報共有手法を採用しているの
か。
⇒インターネットやテレビ会議などを用いることで、日本の拠点とほとんど変わらない情
報共有が可能である。
(3) 人材/組織面の質問
z 無錫工場では 2007 年頃から、現地大卒採用を本格化させ、具体的には南京大学、四川
大学、哈爾浜大学、西安交通大学、浙江大学などを中心にリクルーティングしていると
聞いている。これらの大学は中国有数の有力大学で、優良人材の獲得は熾烈を極めると
考えられる。採用においてこれら有力大学の学生にはどのようなアピールをしているの
か。
⇒ある程度「エプソン」というブランドで採用することが可能である。ただ、こちらの労
働者は住みやすさと賃金で職を選ぶ傾向にあるので、プレゼンをローカルで行って、気
に入ってもらったら面接に行くようにして採用を行っている。
z 年々上昇している現地スタッフの賃金について、どのような対応を行っているのか。
⇒課題として認識している。しかしながら、無錫市政府も景気と賃金・雇用の関係を考え
てくれていると思う。前々年 750 元であった最低賃金が前年 850 元に上昇したものの、
今年は据え置きとなっている。また、業績と連動させた賃金制度により、利益に見合っ
た対応ができている。賃金に関しては、むしろベトナムの方が上昇率は高いのではない
か。
z 現地人材を活かすための工夫は何があるか。(例えば、職長への登用など)
⇒職長クラスへの登用は勿論のこと、研修制度、福利厚生などの充実を図っている。処遇
のメリハリを日本以上につける必要があり、部長とワーカーの賃金は 15 倍ほどにもな
る。今後、上位ポストの現地化は間違いない。すでに台湾のトップはローカルが就任し
ている。ただし、優秀であっても日本側から認められないとトップにはなれないので、
日本との円滑なコミュニケーションに耐えうる人材であることが必須となる。
z 華東エリアの人材特性はどのようなものか。(他地域、あるいは日本との比較)
⇒一言でいえば優秀と言える。国際数学オリンピックで中国はほぼ毎年 1 位(註:1995
~2009 年のうち中国は 15 回中 11 回も 1 位を獲得)であり、中国代表は蘇州中学の出
身者ばかりである。田舎の人は特に純粋である。工場で唾を吐く、順番を守らないなど、
日本との違いでモラルの問題はある。中国は地域差も大きい。
z
離職率の高さに関する対応としてどのようなことを行っているのか。
⇒離職を前提とした対応としては、離職を見越して多めに採用する以外に、業務の標準化
に取り組んでいる。また、福利厚生の充実以外に離職を抑制する手段として、派遣工に
試験を課し、結果次第で正社員に登用することも行っている。派遣工は派遣会社から採
用しており、複数回にわたる面接等をしっかり行って採用している。なお、無錫の離職
率は深圳などよりは低いと思う。
z
過去と比べて人材の確保は難しくなっているのか。
⇒ワーカーのリクルーティングは 6 社の人材派遣会社を通して行っている。以前は無錫で
賄えたものの、現在は遠くから雇うことも多くなっている。また、金融危機以後に多く
の労働者が地方に戻り、その後 4 兆元(約 52 兆円)の財政出動等により地方でも仕事
が増えたため、地方の労働者を確保することも難しくなっている。
z
技術の伝承について取り組んでいることはあるか。
⇒日本から技術者を招いての指導などを行っている。特にキーパーソンには日本で研修を
行っている。また、技術認定協議会というものを設け、一定の技能を習得したと認めら
れた場合にはそれに対する報酬を支払うことでインセンティブを与えるように工夫し
ている。
(4) その他
z
中国では債権を支払わないことが経理担当の評価となると聞いているが、債権回収に
ついて何か対応をしているのか。
⇒当社はローカルの企業から買う側なので余り問題ではない。ただ、営業では間に必ず代
理店を入れることにより債権未収リスクを回避するよう努めている。
z
廃棄に関して特別な取り組みはあるか。
⇒こちらでもゼロ・エミッションに取り組んでいる。とくに廃液等は日本より環境基準が
高い場合もある。面白い話で、こちらでは出来るところに厳しくやらせる。具体的には
日系企業などには厳しく規制をかけてくる。ローカル企業では出来るとは限らないので、
そこまで厳しい規制はされない模様である。
4.所感
エプソントヨコム無錫工場を訪問して、我々は非常に根本的な疑問を抱くに至った。「結
局のところ、この会社の強みは何であろうか?」というものである。今回訪問したエプソ
ントヨコムの中核技術は、高度な水晶デバイスの製造である。しかし、聞くところによれ
ば水晶デバイス技術のうち分野によっては、ここ 10 年大きな技術進歩のないものもあると
いう。納入先企業においてデファクトスタンダードとなった仕様に沿ってデバイスが作成
されることなどが理由の 1 つに挙げられよう。また、デバイスの中核パーツである水晶の
育成についても、最高級のものは日本で育成しているとのことだったが、汎用レベルのも
のであれば現地調達で全く問題ないとのことである。即ち、日本社でなければならない技
術というものが希薄化しているのである。
こうした話の合間から、トヨコムの圧倒的優位性を見つけ出すのは容易ではない。水晶
デバイスを必要とする分野はデジカメ、携帯電話など日系メーカーの得意とする分野であ
ることもあり、幸いにも現時点では水晶デバイス市場は日本社が寡占状態である。その中
でもトヨコムは市場占有率 No.1 企業である。こうした市場ドミナンスを獲得したが故に、
労働集約的に大量ロットを安価に製造すること自体が更なる優位性を産む構造となってい
ることは想像がつく。
しかし、トヨコムが真にリーディングカンパニーたるポジションを確固たるものとして
いるのは、中国でのローコストオペレーションを行うにあたって、次の 2 点に腐心してい
るからであると我々は考えた。
(1).今後の中国発展に資する人材育成
中国では、国、省、市、郷とあらゆるレベルで経済特区を設け、外貨獲得に邁進してい
る。勿論、単に外貨を獲得すればよいという発想ではなく、技術の移転、人材の育成にも
主眼が置かれていることは言うまでもない。当然、中国に進出する外資にもその観点が求
められる。要は「中国にない技術を持った会社ですか?」
「あなたたちは中国にどんな技術
をもたらしてくれますか?」という観点である。これは、単に自社のことだけ考えた人材
育成がいかに歓迎されないか、ということを示している。勿論、企業にとっては企業特殊
熟練と呼ばれる企業内スキルを高度化させ、現地人材を自社現地法人の中核人材としたい
思惑を持つことはやむを得ない。しかし、優秀な人材が常にステップアップとして前向き
な転職を考えていること、日系企業の技術力・ビジネス力が他企業でも重宝されることを
考えると、寧ろ、「うちの会社がシッカリと育てたから、高額の給与でヘッドハンティング
されるのだ。」「うちの会社出身の人間が転職先で後ろ指差されないレベルに育成する」と
いう、非常に長い目で中国人材を育成しているという観点を持つ必要がある。トヨコムで
は、日本への中期出張研修、技能競技会など時間を掛けた人材育成に非常に力を入れてい
る。現地ワーカーの離職率が極めて高い状況でも敢えてそれを行っている。更に、上昇志
向(=転職志向)が極めて強い有力大学(西安交通大学、浙江大学など)の新卒生に対す
るリクルーティングも積極的に行っている。これは自社人材の育成に拘泥するのではなく、
長い目で中国ビジネス人材を育成しようという気概の証左であると考える。
(2).市政府との関係維持
もう 1 つが、無錫市政府との良好な関係維持にある。トヨコム訪問の当日、中国国際貿
易促進委員会無錫市支会の担当者が我々の研修に立ち会うなど、関係の維持・強化は外資
企業にとって最重要課題の一つであることが肌身に感じられた。トヨコム社からの企業紹
介プレゼンにおいても無錫市の PR があり、「無錫市の PR になってしまいますが…」とい
った類のジョークが貿易促進委員会担当者の前で飛び交うなど、トヨコムはかなり市政府
との良好な関係を構築していることがうかがえた。無錫進出は無錫市政府との契約に基づ
き行っているものであるから、勝手に拡張や撤退を行えるものではない。従って、日本の
ヘッドクォーターの意に沿ったスピーディな経営を行う際に、市政府との関係が悪ければ、
経営に重大な支障をきたす恐れもあるため、この点は非常に重要である。
この他にも、植樹活動や大学への奨学金供与など現地化を考慮した姿勢は枚挙に暇なく、
こうした姿勢を実直に貫いた結果が無錫進出を成功させ、ひいては世界のリーディングカ
ンパニーたる地位を確固たるものにしているのだと得心するところである。10 日間の上
海・香港研修中、唯一の日系メーカーであったため、学ぶところの非常に多い大変有意義
な訪問となった。
最後に、お忙しいなか訪問を快く引き受けてくださった志野英男氏(エプソントヨコム
董事兼総経理)、訪問日程・企業のアレンジにて多大なるお骨折りをいただいた、朱晋偉氏
(江南大学国際教育学院副院長、教授)、蘇健氏(中国国際貿易促進委員会無錫市支会 国
際連絡部部長)の各氏、および関満博教授(一橋大学商学研究科)には特にこの場を借り
て厚く御礼申し上げたい。
以上
HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト
「Suntech Power」
cm080221 小林 亜希子
cm080230 園部
誠
cm090212 大内 彰訓
cm090243 田村 賢一
1
太陽電池業界の概要
太陽電池の需要は、地球温暖化問題
太陽電池市場の予想
や原油高を背景に徐々に増加し、2004
240,000
220,000
200,000
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
0
年以降急拡大した。これは、ドイツや
スペインなどで太陽光発電による電力
を買い取る制度(フィード・イン・タ
リフ【FIT】)が導入され、エネルギー
価格の高騰を背景に太陽光発電が確実
なキャッシュフローを生み出すビジネ
06 07 08 09 10 11 12
15
(出所)野村證券金融経済研究所
20
30
スとして成立したためである。このた
め、投資マネーが流入して大規模な太
陽光発電事業が次々に立ち上がり、太陽電池の供給が追いつかない状況が続いた。太陽電
池は「作れば売れる」時代となり、世界の太陽電池市場は過去 4 年で 6 倍以上の急成長を
遂げ、その市場規模は約 2.5 兆円にまで拡大した。2009 年は金融危機の影響により大規模
プロジェクトが停滞し、供給過剰に陥っているため足踏みを余儀なくされるが、来年以降
は再び成長ベースに戻り、2030 年には 25 兆円市場になるという予測もある。
太陽電池のメーカー別シェア
2005年(1728メガワット)
2008年(6941メガワット)
Qセルズ(独)
8.2%
その他
35.4%
シャープ
24.8%
その他
46.1%
Qセルズ(独)
9.3%
サンテッ
クパワー
(中国)
4.6%
ショットソーラー
三菱電機
(独)
4.7%
5.8%
三洋電機
7.2%
ファーストソー
ラー(米)
7.3%
サンテックパ
ワー(中国)
7.2%
シャープ
6.8%
モーテッ
ク(台湾)
5.5%
京セラ
8.2%
ソーラー
ワールド サンパ
(独) ワー(比)
3.2%
3.4%
京セラ
JAソー 4.2%
ラー(中国) インリ(中国)
4.0%
4.1%
(出所)PVニュース
太陽電池のメーカー別シェアでは、2005 年まで日本企業が約 5 割を占めていたが、2005
年に導入の牽引役であった住宅補助制度が打ち切られたことにより成長が鈍化。その一方
で、欧州を中心とした市場の急拡大に伴い太陽電池の生産量が大幅に増加し、太陽電池の
原料であるシリコン需給がひっ迫した。日本のメーカーは原料の手当に遅れが生じ生産シ
ェアを大きく下げ、2006 年まで 7 年連続首位であったシャープが、2008 年には 4 位となっ
た。この間、シリコンの調達先を確保しつつ、グローバルな提携戦略で先端技術の迅速な
導入を図るなど、スピード感のある経営を行った新規参入企業が生産量を増やしシェアを
拡大している。
太陽電池の技術シェア
100%
90%
80%
70%
その他
a-Si
CIGS
CdTe
結晶
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2007
2010
2015
2020
2030
2030年に向けての太陽光発電システムの技術
技術開発項目
モジュール製造コスト
開発目標( 達成年)
100円/W(2010年)、75円/W(2020年)、<50円/W(2030年)
モジュール変換効率(結晶Si)
19%(2020年)、22%(2030年)
モジュール変換効率(薄膜Si)
14%(2020年)、18%(2030年)
モジュール変換効率(CIS)
18%(2020年)、22%(2030年)
モジュール変換効率(色素増感)
10%(2020年)、15%(2030年)
モジュール耐久性向上
寿命30年(2020年)
シリコン原単位
1g/W(2030年)
インバータ製造コスト
15,000円/kW(2020年)
蓄電装置製造コスト
10円/Wh(2020年)
出典:NEDO技術開発機構「2030年に向けた太陽光発電ロード マップ(PV2030)」(2004年6月)
著作権者:新エネルギー・産業技術総合開発機構
太陽電池技術は大きく、結晶型・薄膜型の 2 種類に分けられる。さらに、次世代技術と
して、有機系・量子ドット系の太陽電池が実用化に向けて開発を進められている。このう
ち、どの技術が主流になるかはまだ定かではない状況である。現在の主流はシリコンを用
いた結晶型で全体の約 9 割を占めている。原料コストは高いが変換効率が優れているとい
う特徴があり、主流の多結晶シリコン型の変換効率は 15~18%が目安である。薄膜型は、シ
リコンや化合物半導体などの原料をガラス基板に直接蒸着させて製造される。薄膜シリコ
ン型の変換効率は 6~12%と結晶型に比べて低いものの製造コストは安い。
2
Suntech
概要
サンテック・パワー(尚徳電力)は創業わずか 6 年で世界 3 位(2007 年、生産量ベース)
に大躍進した中国の太陽電池メーカーである。赤字企業だったのは設立翌年までで、その
後は驚異的な成長を続け、07 年 12 月期は売上高が約 13,4 億ドル、営業利益が 1,7 億ドル。
過去 5 年間で、売上高は 100 倍、営業利益
は 220 倍に成長した計算になる。さらに、米
国の調査会社アイサプライのアナリストは、
2009 年には業界最大手のドイツの Q セルズ
を抜いて世界最大シェアの太陽電池メーカ
ーに Suntech 社がなる見込みであると予想
している。1
現在の太陽電池業界は、欧米への輸出鈍化
が原因で供給過剰に陥っているため、歴史的
な淘汰期にあるといえる。このような状況に
おいても、同社がシェアを伸ばすことができ
たのはなぜか。その理由の一つとして、他社
に先駆けてシリコンの長期契約を結んでい
たことが挙げられる。同社は 2006 年に、複数のシリコンメーカーと 10 年間の長期の買い
入れ契約を結んでおり、これにより、シリコン不足の影響を受けずに生産を拡大すること
ができた。契約金額・数量は公表されていないが、業界関係者の推計では数百億円を超え
る巨額契約であったとされており、同社の大胆な戦略が見て取れる。
図2:サンテックのターゲット市場 ( SUNTECH
Q2 Earnings Presentation より)
同社はヨーロッパ以外の市場として、特に日本に注目しており、2009 年中に日本市場で
シェア 10%の獲得を目指している。進出の理由としては、原材料のシリコン価格の下落と、
自社の生産能力が1ギガワットを超えたことにより、ボリュームメリットが生かせるよう
1 http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-10482320090811
になったこと、さらに、日本政府による補助金という環境の良さに着目したためだ。施正
栄・会長兼 CEO は「我が社は研究開発から生産・販売まで、太陽電池のみに事業を集約し
たピュアプレーヤー。だからこそ産業の潮目を正確に読み、迅速に経営判断を下すことが
できる」と独自の強みを語っている。
また同社では、中国・米
国市場の可能性にも注目
している。米国市場は金融
危機の影響を考慮すると、
市場の回復までまだ時間
がかかると思われるもの
の、その実需は依然として
旺盛だ。米国の新政権が打
ち出したクリーンエネル
ギー支援策の影響も大き
なものであり、市場の様子
を見てシェアを伸ばす計
画だ。
図3:サンテックのカリフォルニアにおけるマーケットシェア
中国については、その政策環境が大きく好転している。科学技術部は今後 5 年間で、太
陽光発電による電力の価格を現状の 1 度(消費電力の最小単位)2.5 元から 1.5 元に引き下
げる大方針を示している。そのため、これから補助金のような支援策が打ち出されると予
測される。現在、同社の年商に占める中国の売り上げは 1~2%にすぎないが、2 年後には
少なくとも 10%に拡大させる計画だ。
Q セルズやサンパワー、BP ソーラーなどのメーカーが、減産あるいは拡張計画の調整を
行っているのとは対照的に、サンテックはリセッションなど無かったかのように生産拡大
を続けている。サンテックの他社とは異なる戦略が吉と出るか凶と出るか、注目が集まる。
3
Suntech 社の課題
以上のように太陽電池業界とその市場環境を鑑みて、新技術や新素材などにより、市
場が急変しないと仮定すると、Suntech 社には、以下の課題があると考えられる。
3.1
主要ターゲット市場であるヨーロッパ市場での売上げ急減
世界の太陽電池市場を牽引してきたのは、欧州諸国と言える。電力会社が市中
価格の3倍で 20 年間の買い取りを保障するなどの電力買い取り制度が、2004 年
にドイツで導入されたのを皮切りに、スペインやイタリアでも導入された。その
結果、欧州では、太陽電池に投資した際の効果を算出できるようになり、太陽電
池市場が急拡大したのである。2008 年の導入量はスペインが 2,460MW で首位、
ドイツが 1,860MW で 2 位、3位がアメリカであった。
太陽電池市場において、メーカー各社は量産によりコスト削減を達成する構造
であったことに加え、金融危機により欧州だけでなく各地で太陽光発電プロジェ
クトが頓挫したこと、スペインの補助政策見直しなどにより、市場は一気に供給
過剰となった。この状況は 2012 年まで続くと見込まれている。それに伴い欧州
では価格も 2008 年下半期に4割下がる結果となった2。アメリカで 2008 年7月
「グリーンニューディール政策」が発表されるなど、市場は回復が見込まれてい
るものの当面の売上げ急減の影響は避けられない。
3.2
多量の太陽電池在庫
メインターゲット市場のヨーロッパ需要の落ち込みにより、2009 年の生産量を削
減、工場の拡張計画を見直しするメーカーが多かった。だが、Suntech 社は 2009 年
1 月には無錫工場を 1GW の生産力へと拡大、5 月にはアメリカでの工場建設予定を
発表した。一方、米国の調査会社アイサプライによると、2009 年の世界の太陽電池
生産量は 7.5GW(前年+14.3%)となると報じられた3。前述の通り、メインのター
ゲット市場の需要が回復しておらず、また、今後 10 倍に成長すると見込まれている
中国国内需要の拡大が進んでいない現状4では、業界全体に多量の太陽電池が余剰す
る可能性がある。したがって、生産能力を大幅に増強している Suntech 社が多量の
太陽電池在庫をかかえる可能性は高いと思われる。
3.3
薄膜系技術の遅れ
太陽電池には、大きくはシリコン系と化合物系があり、現在の主流はシリコン系
である。シリコン系技術には、単結晶/多結晶系と薄膜系(CdTe など)の二つがあ
る。結晶系はシリコンをスライスした基盤を用いる技術で、薄膜系はガラスなどに
プラズマなどを利用して非常に薄いシリコン膜をつくる技術である。薄膜系は大き
な面積のものを大量に作ることができるが、現時点では変換効率や安定性で結晶系
に劣っている。
ただ、非シリコン系 CIGS 薄膜太陽電池は小面積において変換効率 20%、三洋電
機より薄膜系と結晶系のハイブリッドにより世界最高の変換効率 23%を記録した研
究成果が発表される5など、太陽電池開発は市場同様成長過程にある。
2 日経ビジネス 2009.6.8 号参照
3 http://jp.reuters.com/article/technologyNews/idJPJAPAN-10482320090811
4 http://www.bloomberg.co.jp/apps/news?pid=90003011&sid=ah0g8SJs8vJ8&refer=jp_asia
5 http://jp.sanyo.com/news/2009/05/22-1.html
Suntech 社の主だった太陽電池は、単結晶/多結晶のシリコン型技術に基づいて
いる。次世代太陽電池が結晶系でない場合、結晶系太陽電池の生産力を大幅に増強
しても競争優位を構築できない可能性が高い。したがって、太陽電池業界において
競争力を高めるためには、生産力のみならず、薄膜系の研究開発にも投資が必要と
考えられる。
3.4
太陽電池の発電コスト高
世界の発電量の内訳(2006 年 18,921TWh)は、石炭 41%、天然ガス 20.1%、
水力 16%、原子力 14.8%、石油 5.8%、その他 2.3%である。太陽光による発電
量の占める割合は、2008 年現在 0.08%である。成長市場とはいえ、普及するた
めにはまだまだ発電コストが高いことが障壁となっている。不況のため、既に市
場は供給過剰な状態であり、生産量の拡大や技術開発によるコスト削減で太陽光
発電コストの削減を短期的に実現することは難しいと思われる。
とはいえ、エネルギー安全保障の観点からも、自然エネルギーの活用は世界共
通の重要課題である。したがって、太陽電池がいかに水力を下回る 10 円/KW・
時を達成するかが当面の課題と考えられる。
■
電源別発電コスト(単位:1KW/時当たり)
電源
発電コスト
電源
発電コスト
原子力
5.3 円
水力
11.9 円
石炭火力
5.7 円
風力
9〜15 円
石油火力
10.7 円
太陽光
46 円
出典:日経ビジネス 2009.6.8(電気事業連合会などの資料を基に日経ビジネス作成)
3.5
シリコンメーカーの過剰利益
現状の太陽電池は結晶系、薄膜系ともに、シリコンが中心素材である。太陽電池
向けのシリコンは半導体程の品質精度を求められない。ただ、太陽電池は成長市場
であり、どこまで需要が伸びるか不透明であることから、シリコンメーカーの太陽
電池市場参入が遅れているため、シリコンを安定供給できる環境が整っていない。
そのため、太陽電池メーカーはシリコン調達量により太陽電池製造量が限定された
り、シリコン基盤を薄くするなどの研究開発や材料メーカーとの長期契約によりシ
リコンを確保する必要性に迫られている。安定供給体勢が整うまで、まだ数年かか
るとの見通しであり、少なくとも 2、3 年は供給を需要が上回る状態が続くと考えら
れる。従って、シリコン価格は下落傾向とはいえ、シリコンメーカーには過剰利益
がもたらされる業界構造にある。つまり、シリコンメーカーに対し太陽電池メーカ
ーがいかに対抗度を高めるかが課題の一つと考えられる。
3.6
他社との差別化戦略
太陽電池市場は成長段階にあるため、各メーカーは変換効率の向上や生産量の
拡大によるコスト削減競争に終始している。つまり、いかに早く、いかに多く投
資できるかが勝敗を決める状況と考えられる。しかしながら、今後世界の需要が
回復し、中長期的に市場が安定した際には、他社との商品差別化が主導権争いの
ポイントとなる。太陽電池メーカーの技術が標準化され、素材と部材の調達が容
易になると、どのような差別化が有効と考えられるであろうか。急成長する市場
だけに、より早く市場の動きを見極めた戦略立案が求められると考えられる。
4
質問&回答
(回答に関しては、時間的な制約があったため、回答いただいたものだけ記載。
)
4.1
競合他社が減産する中で御社は増産体制を継続されておりますが、今後、短期
的には、太陽電池市場は供給過剰な状況に陥ると予想されています。そのような
状況に対して、御社はどのような戦略を考えられていますか?
Although Suntech has increased its production, other competitors has
reduced their production level and it is predicted that oversupply of solar
panel in the market occur in the short run. How would Suntech deal with the
situation?
<Answer>
市場が供給過剰な状態であるかどうかについては現在調査中である。Suntech
としては、製品の品質を高めることに注力したいと考えている。
4.2
世界の太陽電池生産量は 2009 年に 14.3%増の 7.5 ギガワットとなる一方、同年
に設置されるパネルは 3.9 ギガワットと半分程度になるという記事がありました。
このことから、競合他社と同様、御社は過剰な在庫を抱えることになると思われ
ますが、それに対してどのような対策を考えられていらっしゃいますか?
According to news paper, though the world production of solar panels will
rise 14.3% to 7.5GW in 2009, only 3.9 GW panels would be sold in 2009. Because
of this situation, it is predicted that like other competitors, Suntech will
have excess stock. How would Suntech resolve the problem of the excess stock?
4.3
太陽光パネル製造のシャープは、シリコンなどの材料の安定供給のため、シリ
コン製造の垂直統合をしております。一方、御社は、材料メーカーとの長期契約
を締結し、シリコンの安定供給を実現しておられますが、それ以外で材料の安定
供給のために何か対策されていることがあれば教えてください。
Sharp Corporation, a solar panel company in Japan, vertically integrated
silicon production for stable supply of silicon. On the other hand, Suntech
concluded a long term silicon supply contract with a silicon vendor. Does
Suntech have any other countermeasures against short supply of silicon?
<Answer>
2007 年の状況と異なり、2008 年以降、シリコンは過剰供給状態となって価
格が下落した。そのため、現時点では、シリコンの調達に関して特に問題は発
生していない。
4.4
御社は、多結晶シリコンパネルの製造に特化しつつ、薄膜シリコンパネルの開
発もされていますが、今後、経営資源をどのように配分しようと考えていらっし
ゃいますか?
Suntech has focused on producing polycrystalline silicon solar panels and
is now developing silicon thin film solar panels. How would Suntech allocate
its available resources among those two types of the panels?
<Answer>
どちらが主流になるかは現時点では不明である。Suntech としては、多結晶型、
薄膜型の両技術の開発を並行して推進している。
4.5
現状では、石炭、石油、原子力などによる発電コストに対して、太陽光発電は
かなり高コストな状況にあります。御社では、グリッドパリティーはいつ頃達成
するとお考えですか?また、御社はどのような方法でそれを実現しようと考えて
おられますか?
Still now, the cost of solar power is much more expensive than that of coal,
oil and nuclear power. Does Suntech predict when grid parity would be
realized and how Suntech would reach grid parity?
<Answer>
従来のエネルギー資源は、必ず減少する。つまり、長期的にはコスト高にな
ると考えられる。一方で、太陽電池の技術進歩は加速している。従って、現在
は比較的高コストの太陽電池も 2015―2020 年には、コストが見合うエネルギー
になると考えられる。
4.6
グリッドパリティーが達成されると、太陽光発電は急激に普及することが予想
されます。その時点での戦略はどのように考えられていらっしゃいますか?
Once grid parity is realized, it is predicted that solar power spread
rapidly all over the world. What kinds of strategies would Suntech have
for that time?
4.7
太陽光パネルは効率とコスト以外の点で差別化が難しいといわれております.
長期的な観点から、御社は競合他社に対してどのような差別化戦略を考えていら
っしゃいますか?
Generally speaking, it is difficult to differentiate solar panels except
in terms of efficiency and cost. What kinds of differentiation strategies
would Suntech plan against competitors in the long run?
5. 最後に
最後に、本訪問をご快諾いただいたサンテックの皆様、訪問の実現にご尽力をいただ
いた関教授(一橋大学)、朱先生(江南大学)、蘇健氏(無錫市政府)に感謝申し上げます。
以上
HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト
企業訪問レポート
深圳テクノセンター・モリテックス香港有限公司 深圳工場
【研修概要】
担
当:鈴木裕一郎、杉田知世、平川俊輔
日
時:2009年9月7日(月曜日)9:00~14:30
訪問先:①深圳テクノセンター( 広東省深圳市宝安区 观澜
街道桂花 社区庙溪工業区)
② モリテックス香港有限公司 深圳工場(深圳テクノセンター内)
担当者:佐藤様、立石様、西村様、(深圳テクノセンター)
石井様(モリテックス香港有限公司、深圳テクノセンター創設者のお一人)
内
容:
9:00~11:30
深圳テクノセンター訪問(講義、概要説明、質疑応答)
11:30~13:00
施設見学、昼食
13:00~13:30
従業員とのふれあい(卓球、バドミントン)
13:30~14:30
モリテックス香港有限公司訪問(工場見学、質疑応答)
1.はじめに
今回、深圳テクノセンターに訪問させていただき、テクノセンターに対するヒアリングを行った。ま
た、中国に進出するものづくり企業の現場を知るために、深圳テクノセンター内のテナントであるモリ
テックス香港有限公司深圳工場を見学させていただいた。
2.事前研究:華南経済の発展と日本企業の進出状況
我々は、今回深圳テクノセンターの皆様ならびにモリテックス石井様にヒアリングさせて頂く事前の
リサーチとして、深圳テクノセンターの位置する中国華南経済の発展の経過と、それに伴う日本企業の
進出状況の簡単な研究を行った。
2-1
中国華南経済の概略
華南経済は珠江(河川)を中心とする地域であり、珠江デルタ経済圏と呼ばれている。この珠江デル
タは、総人口は約 5 億人、広さは 200 万平方キロ、域内総生産(GDP)はおよそ一兆ドルに達する。
総人口で全国の4割弱を擁し、面積では中国全土のおよそ 5 分の 1 を占める。その規模の大きさを
ASEAN(東南アジア諸国連合)と比べてみると、面積ではその半分近くに相当し、人口では約 9 割に匹
敵する。
華南地域は古くは、1978 年の対外開放政策により広東省の貿易と投資がいち早く海外に開かれたこ
とから、珠江デルタが先発組として発展を始めた。中国の対外開放は、80 年に設置された四つの経済
特区から始まり、中でも香港に隣接する深圳は外国企業の投資先として注目された。その後、より安い
労働力と土地やより緩い規制を求めて、外国投資が経済特区の境を越えて、北方に広がりをみせた。そ
の結果、珠江デルタを中心とする華南地域が世界の工場としての中国の一翼を担う一大経済圏として浮
上してきた。
<図:汎珠江デルタ経済圏>
華南経済は、中国経済において、海外からの直接投資の受け入れ先と輸出基地としての主要な成長エ
ンジンと位置づけられている。安い労働力と豊富な土地、そして経済特区等の税制面でのバックアップ
によって、改革開放路線以後、中国に世界からの巨額の投資を受け入れる窓口として華南地域は特に発
展してきた。また、直接投資は主に工場進出によるものであり、外国企業の華南地域での生産と輸出が
中国の経済成長の大きな原動力となっている。特に、中国経済の近年の発展は、輸出に依存する部分が
大きいため、この 30 年の中国の高度経済発展への華南地域の貢献は絶大なものであると考えられる。
<図:中国の経済成長率と構成別貢献度>
2-2
華南地域への日本企業の進出状況
華南地域への日本企業の進出が始まったのは、70 年代頃であり、香港のみの進出に留まるものであ
った。この頃は、中国の改革開放路線が始まった前後であり、進出の目的は中国市場への進出や輸出生
産基地としての進出ではなく、多くの場合では、香港のみをターゲットとした進出もしくはアジア進出
の足がかりとしての進出であった。
80~90 年代に入ると、改革開放路線が本格化し、徐々に日本企業の進出が加速していき、2001 年の
中国の WTO 加盟を機に、中国進出・華南地域への進出が最高潮を迎えている。
これまでの日本企業の進出する傾向として、ローテク製品の生産輸出基地としての中国への進出であ
り、競合企業に対する価格競争力の確保を主要な目的としていた。また、華南地域も豊富かつ低賃金の
労働力と土地を有しており、日本企業の進出が加速する背景となっていた。
しかし、中国の発展に伴い日本企業の中国への進出傾向は大きな変化が生じている。
一つ目は「生産基地としての中国から市場としての中国へ」の変化である。中国の急速な経済発展に
より、国民の中にも中間層が出現しており、そのような中間層をターゲットとした日本企業の進出が増
加している側面がある。これまでは、華南地域で製造し海外に販売するというモデル(来料加工等)で
あったが、中国本国市場を対象とした工場の進出が増加しており、それに伴い中国人のニーズを捉える
ため多くの日本企業が中国に R&D 拠点を置くようになってきている。また、これまで製造業中心であ
った進出が、例えば小売業であったり金融であったりと、サービス業の進出が増えているのも大きな変
化である。
二つ目は「ローテク製品生産からハイテク製品生産へ」の変化である。これまでは外資企業による輸
出をエンジンとした労働集約型産業の発展であったが、中国の発展と産業の進化に伴って、華南地域で
は産業の高度化が積極的に取り組まれている。これまでの安い労働力と土地によって、集積した産業と
人材は、産業高度化の下地となっているのである。東莞市では、IT・OA 機器関連の産業の集積が進め
られており、クラスターが既に形成されている。また、広州市では、外資系メーカーの参入による自動
車産業の発展が急速に進んでいる。日本企業でもトヨタ、日産、ホンダなど大手自動車メーカーが進出
しており、そのほか、韓国の現代、欧米メーカーなどの進出が相次いでいる。広州市花都地区を一体と
して、デトロイト市や豊田市のような自動車関連の産業クラスターが形成されつつある。このような、
華南地域への進出企業の高度化に伴い、多くの関連企業が大挙して中国に進出する状況が生まれている
といえる。例えば、トヨタの進出に伴いデンソーも進出する例に代表される状況が多く生まれている。
<図:日本からの対中直接投資の推移>
以上、このような華南経済の発展の歴史の中で、日本企業の華南進出に関して重要な役割を果たして
きた深圳テクノセンターの皆様、並びにモリテックス石井様に今回ヒアリングを行った。特に、今回の
金融危機後の華南経済の状況、それにかかる日本企業の現状をお聞きし、また、日本企業進出のボトル
ネックである「人材」のマネジメントに関するお話を中心にヒアリングを行った。
3.ヒアリングまとめ
3-1においては、今回ヒアリングさせて頂いた深圳テクノセンターのビジネスモデルを説明する。
3-2においては、金融危機後の華南経済の現状を、また、3-3においては、日本企業の中国進出に
関する問題、3-4については人材に関する問題、すなわち「如何にして人材マネジメントを行うのか」、
「どのような労働市場上の変化が起きているのか」ということを、ヒアリングと質問表の結果より説明
する。
3-1
深圳テクノセンターの概要
3-1-1
名
企業概要
称:日技城有限公司
設立:1991 年 11 月
資本金:HK$41,475,000(2006 年 3 月現在)
本社:香港
深圳テクノセンターは、1991 年に、香港、深圳で事業を営む日本人企業家達が核になり、日本の中
小企業の進出をサポートする事を目的に設立された。現在、A・B・C・D 地区合わせてテナント数 51
社、従業員数 3,400 名の規模に成長を遂げた。事業方針は、日本の中小企業の中国へのスムーズな企業
進出をサポートし、それに関わる安定したインフラストラクチャー(経営基盤)の提供である。また、
そこで働く人々の技術・生活水準向上に貢献し、長期的な見地で中国全土の技術水準の高度化と上質化
を目標としている。
3-1-2
日本企業への意味
深圳テクノセンターは、日本企業に以下の三つの役割を果たしている。一つ目は、工場施設や労働者
を深圳テクノセンターが用意することによって、企業の早期操業体制と低コストのインフラを提供して
いることである。二つ目は、現地において企業の将来的飛躍を約束する優秀な人材供給と研修を行って
いることである。三つ目は、仕入先や販売先の紹介、輸出入業務、会計業務、税務問題の代行など繁雑
な事務処理を請負い、現地における的確な情報力と豊富な労働力をつなぐ役割を担っていることである。
3-1-3
委託加工とは
香港特別行政区である深圳には、委託加工を行う上で二つの利点がある。一つ目は、無税での古い機
械の輸入が可能だという点である。(通常は 30%程度課税)また、機械の追加輸入の際に、三資企業で
は資本金の追加から手続きを始める必要があるが、委託加工は追加申請手続きのみで済む。二つ目は、
深圳は集中通関制度を採用しているため、輸出・輸入集中通関貨物申告表により、材料と製品の輸出入
が容易だという点である。また、香港から深圳の輸出入は土曜日・日曜日も含めて可能である。深圳テ
クノセンターでは、電子通関制度を適用しているため、さらに便利になっている。
<図:深圳テクノセンターのビジネスモデル>
深圳テクノ
深圳テクノ
センター
センター
日技城
委託加工中国工場
テナント A 中国工
テナント B 中国工
テナント
テナント
日本本社
香港本社
業務連絡
サポート
3-2
金融危機後の華南経済の現状
輸出入
前述したように、華南経済は世界の工場となっており、多くの外資系企業が進出し、これまで加工貿
易を梃子に経済発展を推進してきた。このような、輸出依存度の高い華南経済の構造に対して、今回の
金融危機は大きな打撃を与えている。華南経済の輸出は米国などの先進国向けが大きく、金融危機によ
る先進国の需要減退が、輸出依存度の高い華南経済の生産・輸出に大きな打撃を与えているのである。
実際に、日本企業も数多く進出している広州市や東莞市の位置する広東省では、2008 年 1-10 月に
操業停止、休業、倒産、移転した企業の数が 1 万 5661 社にも達している。1-9 月では 7148 社だった
ことから、10 月だけでそれを上回る 8513 社が操業停止、休業、倒産、移転したこととなる。ヒアリン
グの訪問先である深圳テクノセンターでも、昨年度と比べて従業員数は約 5000 人から 2000 人へと、
生産能力の削減を行っている。また、華南経済の輸出港である深圳港でも、2008 年 10 月には港湾のコ
ンテナ取扱量が前年同月比 4%減の 182 万TEUとなり、深圳港初のマイナス成長を記録している。現
地の方々の声では、華南経済に進出した外資系企業では、日本企業は生産規模の縮小等で乗り切ろうと
しているものの、台湾企業や韓国企業では撤退を選択している企業が多く見られるとのことであった。
ただし、このような状況は必ずしも金融危機のみが原因というわけではない。背景として、中国の巨
額の外貨準備・経済過熱の抑制と産業構造の高度化を目指す中国政府の政策がある。中国は 08 年度に
はドイツを抜いて世界最大の輸出大国となったように、外資・内資問わずに生産される財の輸出が中国
の大きな成長エンジンであり、その中でも華南経済は中国における輸出生産基地であった。このような
輸出は、為替相場を実質固定する中国にとって、大きな外貨準備を生む原因となっている。日本の約 1
兆ドルを超え、目先では 2 兆ドルに達する水準となっている。このような巨額の外貨準備をこれ以上増
やすことを中国政府は好んでいない。また、これまでのローテク製品の生産からより高度な生産へと産
業を転換し、経済の高度化を志向している。これらの要因により、輸出を引っ張っていた外資系企業に
よる委託加工貿易は、政府により一定の制限を設けるようになっている。以上のような背景も、華南経
済の減速に影響を与えており、中長期的には華南経済のトレンドとなる可能性がある。ただし、今回の
金融危機によって、政府も輸出抑制策を若干緩めているというのが現地の方からの声としてあった。
最後に、今回の金融危機による労働市場の変化について述べておく。金融危機により華南経済の多く
の企業が労働者を削減する中で、失業した従業員は地元へと戻り、現地で職を見つける傾向にあるそう
である。中国政府の景気刺激策の多くは内陸部に集中しており、その為、内陸部では数々の公共投資プ
ロジェクトが進行し華南経済で失業した労働者の受け皿となっている。今後、沿岸部の経済が好転し、
労働需要が回復する際に、労働力の確保が難しくなる可能性があり、また、これまでよりも高い労働コ
ストを負担しなければならない可能性が指摘されている。
3-3
日系企業の中国進出に関しての質問
我々が提出した日系企業の中国進出に関する事前質問に対し、石井様よりご回答を頂いた。
Q1:貴社は、どのような経緯で中国に進出されたのですか?
A:過去天津の企業と組んで中国に進出して失敗しており二度と中国へは進出しないということだ
ったが華南地区の工場を見学した社長が天津と同じ中国人が作業しているとは信じられないと
中国を見直して華南地区への進出を決定した。約 10 年前日系企業への委託生産から開始して7
年前現地法人設立工場建設となった。
Q2:貴社が中国に進出する際に、どのような困難に直面しましたか?
(日系企業が中国に進出する際のボトルネックは何ですか?)
A:困難は一度もない。
Q3:現在、貴社において中国事業・中国市場はどのような位置づけがなされていますか?
A:中国進出は中国の市場が狙いではなく、組み立て加工(加工貿易)が目標であり、何れ年月を
経て市場になるだろうくらいの気持ちで進出した。
Q4:進出当時と現在で、どのような中国におけるビジネス環境の変化がございますか?
A:最初から大きな期待をして進出したわけではなく、中国の変化に合わせた経営となっている。
Q5:日系企業にとって中国進出は、今後も魅力的であり続けますか?
(中国におけるビジネス環境の変化が今後、日系企業にどのような影響を与えるとお考えですか?)
A:改革開放から 30 年も経ており、人材も育ってきていることから、当面は加工生産基地として
近い将来は市場としての魅力が出てくるものと確信している。
今回の経済危機でも多くの日系企業は多少の人員整理はしたものの辛抱し、粘り強く景気回復
を待つことにした。
自社だけが賃金高騰や法的な締め付けを受けるのではなく、中国の国有企業から私企業まで中
国で操業する企業が同じ状況の中で仕事をするのだという意識を持ち続ければ、中国で生延びら
れるし成長も期待できると思っている。
目先の動きで右往左往しないことが海外に進出した企業が大切に守るべきことである。
3-4
人材に関して
我々は、中国に進出する日系企業が成功する鍵は「人材」であると考えた。そのための問題意識とし
ては二点あった。一点目は、
「如何に優秀な人材を獲得するか」
(人材採用)ということであり、二点目
は、
「如何に人材を良くマネジメントするか」
(人材マネジメント)ということだった。この二点につい
て、①市場・マクロ要因、②規制要因、③日本企業自体の要因(欧米・韓国・台湾企業との比較)の三
要因から事前に質問を行った。3-4-1においては、以上の事前質問に対して石井様より頂いたご回
答をまとめる。また、3-4-2において、今回、最も問題となった「労働契約法」の施行とその影響
についてヒアリングを行った結果をまとめる。
3-4-1
華南進出企業における人材マネジメントの現状
(1)市場・マクロ要因
我々は、以下の八つを市場・マクロ要因として考えた。
①
都市化による農民出稼ぎ労働者の供給不足(民工荒)
石井様コメント(以下I):内陸部の労働者が沿岸部で一時的に不足になったことが過去に何度もあり
労働力不足(民工潮)は恒久的なことではない。
② 経済発展・政府政策(内需拡大・社会保障制度)による賃金水準の上昇
I:経済環境が良くなれば賃金上昇は当然のことである。更に未整備の社会保障制度も徐々に法的な
整備がされるであろう。其れは当然のことと受け取っている。
③ 金融危機や国有企業改革による工場のリストラ増加
I:金融危機だからリストラするのか。元々が過剰ではなかったのか。国有企業に限らず多くの企業
が余裕人員を保有しない傾向にある。
④ 2008 年新労働契約法施行
I:特殊な国から普通の国への転換であろう。兎角日本企業の多くは新労働法に被害者意識を持って
いるようだが、中国全土の企業が同じ法律の下ですから問題はない。
⑤ 人間開発による大卒者の増加・就職難
I:中卒より高卒が徐々に増え、高卒から大学進学が増えるのは何処の国も同じである。
大卒=優秀な人材とはいえない。優秀な人材であれば学歴に関係なく企業は欲しがる。
⑥ 労働力のミスマッチ(高級管理者や技術労働者の供給不足)
I:高級管理者、技術労働者は採用するものではなく育成するものである。
⑦ 産業構造の変化(質より量へ・世界の工場から消費者市場へ)
I:成熟社会になれば当然の流れである。華南地区に関しては、サポートインダストリーはしっかり
根を張っており世界の工場は揺るがないと確信している。
⑧ 外国企業の現地法人化による人材獲得競争の激化
I:人材は採用するものとの考えであれば獲得競争になりますが人材は育成するものと割り切って社
内に教育制度を持ち常時人材育成に取り組むという考えが不可欠である。
因みに 2007 年の年間離職率は 140%だった。
<質問事項>
人材採用
人材マネジメント
●都市化・人口減少により現場作業者の確保の方 ●現在、現場作業者にとって日本企業は魅力的(環
が困難になっている状況で、如何にして雇用を
境・賃金)ですが、今後もそれを維持できるの
行い、かつ賃金を低く抑えているのでしょう
でしょうか?
か?
A:日系企業の製造現場は環境が良く魅力的であ
A:賃金は企業単独では決められない。地区で最
ろう。しかし、多くの日系企業においては、賃
低賃金が決められており、決められた最低賃金を
金が政府指導の最低賃金を守る程度で特別に厚
厳守すれば大丈夫であると考える。
遇していない企業が多い。其れが周辺の国有企
業や外資企業から嫌われないコツである。
●如何に研究開発拠点として現地で管理・監督者
を雇用するのでしょうか?
A:企業に合った人材育成しか方法ない。
●現場作業者のモチベーション維持の方法は何で
しょうか?
A:色々な工夫がある。従業員のアンケート調査
●日本企業進出の際、どのような人材が管理・監
督者として最適なのでしょうか?
やインタビューから分析して企業に求めている
ものを小出しに出したり、定期的な目標を持た
(求める人材像の明確化と選別)
せたりする方法など、工夫すれば金銭を使わな
A:業種によって明確な基準を持ち育成すること
い方法が沢山ある。
である。
●日本人の駐在員と現地人との役割の明確化はど
●管理・監督者として、日本人の中高年退職者の
再雇用は可能なのでしょうか?
のように行われているのでしょうか?(管理・
監督者)
A:現に華南地区では多くの日系・台湾系、香港
A:本社或いは日系客先との窓口と財務が日本
系の企業は定年退職した高齢日本人技術者を採
人の主な役割である。
用して活用されている。
可能な限り現地化をすべきだと考える。
●現地採用の管理・監督者に対して、日本企業の
経営理念の浸透を如何にして行うのでしょう
か?
A:管理・監督者を育てる課程で経営理念など何
気なく理解されるようにしているが、中国人の
持つ文化なのか浸透はしていない。
●労使信頼関係を如何にして構築するのでしょう
か?(教育制度の実際)
A:人材教育は社内に構築されており年間を通
して勉強の機会を作って自由に参加できるよう
になっている。其れに合わせて労使の信頼関係
の構築も心がけているというのが実態である。
(2)規制要因
我々は、以下の二つを規制要因として考えた。
①
最低賃金制度
I:地区毎に最低賃金は異なる。安い地区を狙えば僻地になり流通コストが高くなる。
②
戸籍制度(農村戸籍と都市戸籍)
I:農村戸籍の人達全てが都市戸籍を望むわけではない。都市戸籍に比べて農村戸籍の方が得だとか
有利な面が多々ある。
<質問事項>
人材採用
人材マネジメント
●現場作業者を採用する際、彼らに対してどの
●生産ライン自動化、生産拠点の移動(他国あ
ようなインセンティブを用意しているので
るいは他地域)が必要となるのは、現場作業
しょうか?
者の最低賃金がいくらまで上昇したときなの
(例)都市戸籍の取得試験の受験機会を与え
でしょうか?
る。⇒都市戸籍取得後に工場管理者に登用など
⇒2009 年の深圳経済特区外…900 元
A:機会平等、学歴や戸籍に関係なく努力した
人が高給を取れるシステムとか、適材適所を
(1992 年 245 元→2000 年 419 元)
A:賃金に合った仕事をすれば良い訳である。
見てあげて適所に配置してあげる等などが
最低賃金が上がったからと撤退する企業は
重要である。
ない。人材が育ち環境に慣れ、得意先に信
戸籍は一定の学歴のある人が欲しがる傾向
頼されれば生産拠点を変える必要はない。
にあるが、企業とは無関係だと考えている人
何よりも進出した地に愛着を感じるのが人
が多い。
間ではないだろうか。
機会平等の格差こそ活力の元であろう。
(3)日本企業自体の要因(欧米・韓国・台湾企業との比較)
我々は、以下の三つを日本企業自体の要因として考えた。
① 日本的経営をそのまま中国でも実践(年功的な人事制度)
I:何を基準に日本的経営と言うのか理解できないが、日本本社の文化を持ち込むのは当然であろ
う。だから日本的経営なのではないだろうか?現地に合わせた日本的な経営にすべきである。
② 日本本社の採算の中で現地経営を実施(現地法人を独立採算としない企業が多い)
I:大手企業の場合は日本の税法で合算してしまうので、中国での企業貢献度が分かり辛い点はあ
る。海外現地法人は独立採算にしたくても、本社事情でできない企業が多いようである。
③ 欧米・韓国・台湾企業と比較して、現地人の幹部登用が少ない(日本人の幹部派遣が多い)
I:優秀な人材を使い切れない日系企業の弱さである。駐在員は長くて 5 年、通常 3 年駐在程度で
は優秀さが判断できないであろう。ましてや評価する人より評価される幹部の方が優秀であれば
尚更評価できない、したくないのではないだろうか。
<質問事項>
人材採用
●中国の優秀な経営者人材の獲得において、海外
人材マネジメント
●現場作業者の定着率を上げる為に如何なる
企業や国内企業と比べ、如何なる点が日本企業
の有利な点となっているのでしょうか?
方策が有効なのでしょうか?
A:転職は中国人労働者の文化ですから定着率
A:日本企業は欧米企業のように外部からの
を上げるのは難しい、其れよりドンドン離職
スカウトでトップに据えるようなことは苦手
しても生産現場は全く混乱せず、品質問題も
でできない。
なく納期も守れる生産体制を構築すべきであ
従って、時間を掛けて経営者に育てるのを得意
る。海外に進出してまで日本のように従業員
としているが、育てる日本人が短い駐在期間で
は長期勤務が当たり前と考えるのが間違いで
帰国してしまうことである。
あろう。
●経営者人材にとって、日本企業で働くことの
●現場作業者の工場長などの現場監督役への
中国国内での位置づけはどうなのでしょうか?
登用のモチベーションや定着率への効果と、
その注意点は何でしょうか?
A:欧米企業と比べて日本企業の人気が高い
とはいえないが、一度日系企業に勤務すると何
A:任せること、信用すること。
回転職しても日系企業が転職先となる傾向に
但し、任せきらないこと。
ある。欧米系の企業に勤務して退職した人の多
信用しきらないことである。
くは、二度と欧米系企業には転職しない傾向に
ある。
●管理・監督者人材の現地法人経営幹部への
欧米企業はキャリアを採用基準にしている。
登用において、重要な点、注意すべき点は何
日系企業は入社後に長期間掛けて育成する。
でしょうか?
A:長期において一緒に仕事をする中で判断す
べきであるし、判断できると考える。
最終的には仕事ができるというより、人間
的な魅力が重要だと考える。
●日本本社から中国法人への意思決定の権限
移譲、採算性の重視化において、気をつけるべ
き
点は何でしょうか?
A:決定権を現地責任者に与えられるかが鍵で
ある。現地事情も分からない本社が指示した
り許可したり、稟議書の決済までするようで
は現地に責任がなくなる。
3-4-2
労働契約法の施行と問題点に関して
(1)労働契約法の概要(労働者保護色が相当に強い)
労働契約法は、連続 10 年勤務もしくは法施行後に数年単位の雇用契約を 2 回連続で更新した労働者
が契約を更新する場合などに、経営者は無期限の契約を結ばなければならなくなり、終身雇用に近い雇
用待遇になる。
また、労働契約を解除する場合、これまでは経営者の一存で労働者を解雇できたのだが、労働契約法
施行後は事前に「工会」(日本でいう労働組合)に通知せねばならなくなり、さらには補償金支払いの
義務が発生する場合もある。
その他、正社員になる前の試用期間が短縮されるなど労働者にとって有利となった。
1 年以内に書面による雇用契約書を締結しない場合、期間設定のない雇用関係とみなされることにな
るなど、経営者にとっては簡単には労働者を解雇できなくなる。
(2)労働契約法の施行理由(労働運動抑制)
中国はこれまで労働環境がひどく、低賃金、さらに女性、地方の差別もある。人民元が切り上がり、
原材料が高騰しているため、労働者の負担は増加傾向にある。その結果、低賃金と労働環境に不満を持
つ労働者のデモやストライキが頻繁に発生したため、中国政府はそれらの労働運動を抑制するために労
働契約法を施行した。
(3)労働契約法の施行による影響(賃金上昇と就職難)
中国の『労働契約法』施行の影響については、まだ施行直後であり、早々に判断はできないが、まず
顕著にあらわれた現象は賃金上昇である。中国国家統計局によると、2008 年 1-6 月の半年間の都市部
平均賃金収入は、1 万 2964 元(約 20 万 5000 円)と前年同時期比 18.0%増だった。しかし、米国発
の金融危機による世界的な不況のなかで、その後は企業の経営を下支えするために、人件費抑制の傾向
が強くなっている。
また、大学卒業生の就職状況が厳しくなっている。労働行政を担う人事社会保障省の調査によると、
2008 年の大学卒業生数(中国の大学は 9 月入学で 6 月卒業)は過去最高の 559 万人で、それまでで最
も就職が難しい状況だった。なぜなら、2007 年の大卒 495 万人のうち、同年 10 月の段階で全体の 28%
にあたる 140 万人が就職できず、2008 年になっても 15%前後の 70-80 万人が就職先を探していると
いう状況だったからである。この傾向はさらに強まっており、2009 年 6 月に卒業した大学生、610 万
人のうち、雇用契約を結べたのは 415 万人で、全体の 68%にとどまっている。
もちろん、米国発の金融危機による世界的な不況のなかでの生産縮小もその原因と言えるのだが、労
働者の長期雇用を促す労働契約法によって、企業側が採用に慎重になっていることも無縁ではない。実
際、中国の労働組合である中華全国総工会は、労働契約法について、コストが増えるなどの誤解があり、
多くの企業が消極的であるとして、企業に対する宣伝・監督活動を強める方針を示している。さらに、
20 人以上の人員削減をする企業に対しては、削減計画の事前報告が義務付けられた。人員削減を実行
する 30 日前に、まず労働組合や労働者と意見交換をしたうえで、地元政府に詳細な計画の提出をする
ように求められている。
4
謝意と訪問後の所感
この度は、深圳テクノセンターに訪問させて頂き、テクノセンターを始めモリテックス関係者の方々
に心より御礼申し上げたい。このように現場の状況を視察できるという機会は、とても有意義なもので
あった。同社を訪問し印象的であったのは、溌剌とした表情で働く工員たちの姿だった。食堂での工員
たちとの昼食や、休憩時間における卓球やバトミントンを通じた女子工員との触れ合いは、何事にも代
えがたい貴重な経験となった。中国人工員たちの勤勉さに大きな刺激を受け、「我々も負けてはいられ
ない!」と意欲を掻き立てられた。最後に、本訪問の実現にご尽力くださり、我々に勉強の機会を与え
ていただいた関満博教授に心より御礼申し上げる。
以上
企業訪問レポート
東亜銀行(BEA)
担当:スタンマウォン・王・角井
訪問日時:
2009 年 9 月 8 日(火)
10:30~12:00
訪問内容:
(1)中国・香港経済の見通しについて
(2)香港ローカルバンクの中国市場におけるビジネス展開について
1.企業概要
東亜銀行(The Bank of East Asia(“BEA”))は、1918 年に設立された香港のローカルバ
ンクである。香港のローカルバンクとしては最大規模の銀行であり、香港内に 130 を超え
る支店網を保有している。また、中国本土内にも 70 を超える支店を持ち、その数は外国銀
行としては最大である。さらに、以下の業務を中国本土で次々と外国銀行として初めて許
認可を得ており、 東亜銀行が中国本土から信頼を獲得してきたことがうかがえる。
1.2007 年、中国本土に人民元の取り扱いを行うことができる銀行の設立が認可される。
(銀行名は、The Bank of East Asia(China) Limited)
2.2008 年、中国本土にて人民元のデビットカードとクレジットカードの取り扱いが許
可される。
3.2009 年、香港内にて、人民元建て債券を発行することが認可される。
また、東亜銀行は中国以外にもグロバール展開を行っており、アメリカ・カナダ・イギ
リス・東南アジア等にも支店を保有し、その支店数は 240 を超え、従業員数は 1 万人を超
える。
【参考】(2008 年度決算時
諸項目データ)
総資産
415,254HK$Mn
貸出金
243,725HK$Mn
預金
323,802HK$Mn
純資産
自己資本比率
32,485HK$Mn
13.8%
2.業務内容
東亜銀行の業務内容は、日本の普通銀行とほぼ同様のものである。個人業務・法人業務・
資産運用業務・投資銀行業務・国際業務それぞれの部門から、金融サービスの提供を行っ
ている。
3.香港の経済状況
金融市場の混乱が引き起こした世界的な景気悪化は、香港の経済にも深刻な影響を与えてい
る。香港経済は、2008 年に 2.4%拡大した後、2009 年第1四半期には前年比実質 7.8%の減退と
なった。以下に内訳を見ていくと、個人消費は 2008 年に 1.5%増大したが、2009 年第 1 四半期に
は実質 5.5%減少した。固定資本投資は 2008 年に 0.5%の僅かな低減を示したが、2009 年第 1
四半期には 13%の低下を示した。対外部門では、2008 年に製品およびサービス輸出が前年同期
の 1.9%増および 5.7%増となったのに対して、2009 年第 1 四半期には実質で 23%減および 8%
減となった。香港政庁は 2009 年 5 月に、2009 年通年の GDP 成長率予測を 5.5~6.5%に下方修
正した。小売売上は 2008 年には 10.5%という堅調な増加を示したが、2009 年 1 月~5 月には、経
済状況の悪化を受けて、4.4%の低下となった。国内外の物価上昇傾向は世界的経済危機後に減
退した。消費価格は 2008 年の 4.3%に比べ、2009 年1月-5 月は前年同期比で 0.8%の上昇だっ
た。 今後の見通しとしては、世界的不況の影響が続き、経済活動を圧迫するため、域内では
2009 年を通してインフレが予想される。一方労働市場は、世界的経済危機によるビジネス縮小傾
向を悪化させ始めた。失業率はここ 2、3 ヶ月上昇しており、2008 年の 3.6%と比較すると、2009 年
6 月までの 3 ヶ月では 5.4%に上昇した。
a
2006 年
2007 年
2008 年
予測/最新
人口 (百万人)
6.86
6.93
6.98
7.01a
GDP (十億米ドル)
189.1
207.1
215.0
201.0-203.2b
実質 GDP 成長率 (%)
+7.0
+6.4
+2.4
-5.5-6.5%b
1 人当たり GDP (米ドル)
27,600
29,900
30,800
28,700-29,000b
インフレ率 (%)
+2.0
+2.0
+4.3
+0.8c
失業率 (%)
4.8
4.0
3.6
5.4d
2008 年末、
b
2009 年政府予測、
c
2009 年 1 月~6 月の前年同期比、
d
2009 年 2 月~6 月
4.投資先としての香港
香港は海外直接投資ではきわめて魅力的な市場である。 UNCTAD の 2008 年世界投資報告
書によれば、香港は、2007年にアジアで第 2 位、世界で第 6 位の海外直接投資(FDI)の投資先で
あり、FDI 流入額は前年比 33%増の 600 億米ドルとなった。また香港はアジア地域で第 2 位の FDI
投資元であり、FDI 流出額は前年比 33%増の 520 億米ドルと なった。
最近の政府調査によれば、2007 年末現在の香港の対内直接投資累積額は、同年の GDP の
5.7 倍に相当する 1 兆 1,780 億米ドルと推定される。香港の直接投資の特徴として、タックスヘイブ
ン経済圏の非営業会社からの迂回投資といった側面が挙げられる。そのため 2007 年には英領バ
ージン諸島、バミューダ、ケイマン諸島が対内直接投資総額のそれぞれ 36.6%、4.2%および
1.2%を占めた。タックスヘイブン経済圏を除くと、対香港直接投資の最も重要な投資元は中国本
土(40.7%)であ り、それにオランダ(5.8%)、米国(3%)、日本(1.8%)が続く。対香港直接海外投
資の大半は、投資持ち株会社、不動産、企業向けサービス;卸売、小売、貿易;バンキング、金融、
保険;輸送、通信等のサービス関連産業を対象に行われている。
## 香港経済貿易統計(http://www.hktdc.com/)を参照
5.東亜銀行を取り巻く環境の変化
①2つの金融センター
資本の閉鎖政策は、対外金融危機に対する最も有効な手段の一つであると言える。しか
し、中国が開いた金融システムからの利益を獲得するためには、金融システム自体が外的
衝撃を吸収する力を持つことが必要である。これを可能にすることを目的として、中国政
府は、「2 つの金融センター」モデル案を選出した。このモデル案では、2009 年1月に、香
港を国際的な金融センターとして位置づけるとともに、同年 3 月下旬に、上海が 2020 年ま
でに多機能国際的な金融センターとして育成する方針を決定している。二つの金融センタ
ーにおける役割の棲み分けがどのようになされるのかという点を見ることで、香港という
都市が中国においてどのようにその位置づけを変化させることになるかを推し量ることが
可能になる。
香港は、これからの中国の金融システムの変化に適応できる能力を十分持っていると考
えられる。これは香港という地域の歴史的な経緯からも明らかである。一方で、上海は、
国際的な金融センターとして定着するためには、次の 11 年間で中国の資本勘定の自由化と
人民元の国際化に対応して、大きな進化をしなければならない。そのことにより、中国本
土の金融市場に刺激を与え、香港金融機関の新しい機会を開けることが予想される。
②人民元建て貿易決済一部解禁
中国の対外決済通貨は、従来、国境貿易を除いては人民元建て決済が禁じられていた。
2009年7月1日より、貨物貿易取引に限定して、一部の地域と企業に対し人民元建て決済が
解禁された。
試験地区となっているのは、下記表にある通り、中国本土内が上海市、広東省の広州、
深圳、珠海、東莞の5都市、中国本土外が香港・マカオ及びアセアン諸国である。試験企業
は、中国本土側が政府の認定を受けた企業に限定される一方で、中国本土外はこれらの認
定企業と貿易取引のある試験地区所在企業とされている。ちなみに、現在約400 社の本土
企業が試験企業の認定を受けている。
人民元建て貿易決済の解禁は、2008年12月24日の国務院常務会議で決定したもので、世
界的な景気後退が続く中、2008年11月以降中国の輸出が前年比マイナスと大幅に落ち込ん
だことから、輸出企業支援策の一環として、人民元建て貿易決済を認めることで、本土の
輸出企業の人民元上昇に対する為替リスクの低減を図ろうとしている。(出所:9 月号 中
国ビジネスQ&A)
また、長期的には、対外決済における人民元利用の拡大、すなわち、人民元の国際化も
展望しているものと見られる。
③東亜銀行の対応について
中国が東南アジア諸国、香港、マカオとの貿易取引で人民元建ての決済を試験的に解禁
したことは、人民元がドルや円のように世界中で使える国際化に向けての第一歩とも言え
る。香港のローカルバンク最大手である東亜銀行は中国本土の70を超える拠点を生かし、
中国と取引を望む外国企業との提携関係を深める計画を持ち、人民元建て決済解禁が大き
なビジネスチャンスになると考えている。The Daily NNA(香港・華南版)にて、東亜銀行
副最高経営責任者の李民斌が、「本土における資産運用は急速に発展しており、需要が期待
できる」と述べていることからも、その事実が伺える。
東亜銀行は、現在、支店や営業所など中国本土に71カ所の拠点を展開しているが、2009
年の年末までに80カ所、来年には95~100カ所に増やす計画である。また、本土で
の株式上場については、来年後半の実現を目指していく考えを表明しており、グループ全
体である東亜銀行(中国)を分離上場するかは検討中としている。同行は 2009 年 7 月、香
港で40億元(約550億円)の人民元債券を発行しており、本土でも同規模の発行を予
定している。
6.企業訪問を終えて
セッションでは、中国経済の動向や今後の展望について、特に、金融再生の問題につい
て取り上げられた。この問題の解決策としては、2つのステップで、人民元を強い通貨に
促進する必要がある。第1のステップは、人民元を国際取引での決済増加を促進すること
である。第2のステップは、人民元を投資通貨に促進することである。これらは、2020 年
までに上海を国際金融センターと育成する促進策でもある。中国経済を考える上で、人民
元という通貨を注視して見ていくことが重要であることを認識した。
また、今回の企業訪問により、香港という地域の特殊性という点を非常に興味深く感じ
た。1997 年の香港返還から 12 年経過しており、香港は既に中国の一部であるという認識
を自然と持つようになっていたが、実際には、中国本土と香港は現在でも別の国であると
いう捉え方をする方がより現実に近いことを感じた。しかしながら、諸外国と比較すると、
香港は中国本土と地理的にも心理的にも当然近い。そのため、中国という巨大市場を見据
えるにあたり、中国本土の入り口として、東亜銀行のような香港の企業が担うべき役割は
大きいことを実感した。
最後に、ご講演をいただいた東亜銀行の皆様、東亜銀行の訪問にご尽力いただいた行天
様に心より御礼を申し上げます。
HMBA 上海・香港国際研修プロジェクト
企業訪問レポート
みずほセキュリティーズアジア(Mizuho Securities Asia Limited)
・御担当者:エクイティリサーチ部長
小原篤次様
・日時:2009 年 9 月 8 日(火)13:30-15:30
・担当者:今井裕介(CM090207)・村山二朗(CM090263)・多森麦穂(CM080233)
1.企業概要
資本金:HK$330,000,000
社員数:147 名(2009 年 6 月 30 日現在)
株主:みずほ証券、みずほコーポレート銀行
営業開始:1999 年 5 月
営業内容:証券取引・証券および企業財務アドバイザリー、M&A アドバイザリー(①クロスボーダー取引、
②企業提携およびジョイントベンチャー組成、③企業再編)、アセットマネジメント
2.小原様のご紹介
お話していただいた小原篤次様は極めて豊富なご経験をお持ちである。例えばキャリアにおいては、
みずほセキュリティーズアジアの他、チェースマンハッタン銀行(現JPモルガン・チェース銀行)な
どの金融機関や朝日新聞の記者をも経験されている。またキャリアだけではなく研究職歴においても、
中央大学で客員研究員を務められるなど豊富な経験をお持ちである。
3.プレゼン内容
今回、小原様から中国経済の成長とそのダイナミズムについてお話をいただいた。結論から述べると、
日本を中心とした金融業務には限界が訪れている。アジア金融市場を見てみると、世界と比べて取扱金
額が平均して小さい。野村証券のリーマンブラザーズ買収においても、アジアの金融機関での限界を感
じた行動であったことが考えられる。そうした中で注目すべきは、アジア経済を牽引する中国という存
在であり、その成長は著しい。以下、時価総額・市場・IPO という 3 つの観点から中国経済の成長につい
て説明する。
時価総額で見た中国企業のプレゼンスの大きさと日本の金融機関の競争環境の悪化
近年、中国企業のプレゼンスが向上している。下の表は、中国企業と日本企業の時価総額のランキン
グを表している。表から読み取れるように、時価総額トップ 10 に占める中国企業の数が日本企業の数を
上回っている。2004 年においてトップ 10 にランキングされた中国企業はペトロチャイナ・チャイナモバ
イル・中国石油化工の 3 社のみであったが、2009 年においてはトップ 10 の内 9 つが中国企業であり、日
本企業はトヨタ自動車しかランキングされていない。このように近年中国企業の存在感が大きくなって
いる。
これによって日本の金融機関は厳しい競争環境に置かれている。M&Aを例として日本の金融機関の
競争環境の悪化を考えてみる。M&Aのフィーは時価総額の何%というように決定されるので、どの金
融機関も時価総額の大きな企業を狙うことになる。そして、その時価総額の大きな企業は上述の通り中
国企業となっている。したがって自ずと中国の金融機関が競争上有利に立ち、日本の金融機関は厳しい
競争環境に置かれるのである。
香港市場における中国の台頭と日本の劣勢
投資家タイプ別の香港市場への投資比率について説明する。1990 年代より毎年拡大傾向にある中国機
関投資家および海外機関投資家の比率は、2008 年度では合計 6 割を超える。こうした点および前述の日
中企業の時価総額の逆転現象を含め、中国マネーが日本企業をも買収する時代の到来が予測される。
その一方で、大株主が国という国有企業(旧国営企業)のように、中国本土企業がそのまま香港に上
場した H 株の数も多い。そのような非流通株が多い中国市場においては、日本が積極的な投資を行うこ
とは難しい。実際に、香港市場に対する海外投資額のうち、日本の投資額は 90 年代には 10%弱を占めて
いたが、2008 年では数%まで落ち込んでいる。
※なお、中国株式は取引市場(本土市場と香港市場)別に分かれており、さらに本土市場株は取引通
貨および取引可能な投資家別に A 株・B 株、また香港市場は資本および経営別にレッドチップ株・H 株と
いうように、合計 4 つの株式に区分される。
<本土市場>
取引所
A株
B株
上海・シンセン
取引通貨
取引可能な投資家
人民元
国内投資家
米ドル・香港ドル
海外・国内投資家
<香港市場>
取引所
登記
資本
経営
レッドチップ
香港
本土以外
本土企業が大株主
本土企業の関与
H株
香港
本土
本土企業がそのまま香港に上場
出典:大和投資信託 HP
企業成長構図
ベンチャー企業から上場企業、成熟企業へと成長する企業変化の流れは全て新規株式の公開から始ま
る。新規株式公開をすることで、企業は上場を果たすことができ、保険が付与された様々な株式を個人
もしくは機関投資家に売買するといったように資金調達の手段が豊かになる。こうした一定の成長の後、
企業は成熟状態に入り、その脱却のために企業買収を行うようになるのである。したがって、企業成長
のきっかけとなる IPO の数は経済を見る上で非常に重要な指標となる。それらを踏まえて以下、世界の
IPO 数の表を示す。
IPO の 6,7 割がH株である。中国は最大のIPOマーケットになる。
日本を中心とした業務の限界
アジア金融市場を見てみると取扱金額が平均して小さい。その額は 300 億円から最大 500 億円程度で
ある。こうした額の小ささから見ても、日本人を中心とした国際金融業務は無理なのではないか。野村
証券のリーマンブラザーズ買収においても、アジアの金融機関での限界を感じた行動であったと考えら
れる。
4.質疑応答
小原様からは、アジア株式市場やアジア経済の動向についてのお話を主に伺った。つまりみずほセキ
ュリティーズアジアを中心としたお話ではなかった。他方で、企業訪問に向けて私たちが準備した質問
はみずほセキュリティーズアジアについてのものとなっていたため、質疑応答にずれを生じさせてしま
った。そのため十分な回答が得られた質問は少ない。しかし、ここではとりあえず私たちが準備した質
問事項を以下に載せたい。なぜなら来年度以降の参考資料としては機能すると考えられるからである。
また以下では、当日その場で出た質問のいくつかとそれに対する小原様のご回答の内容をまとめる。
リサーチグループが作成した質問事項
今後の金融および経済の見通しをどのように考えますか?
2010 年後半頃には世界の景気が回復すると一般的には言われていますが、アジアの金融市場の中心地香
港から見て、どのように考えますか。また、中長期的には(3 カ年・5 カ年くらい)どのように予測され
ますか。
世界金融危機によって生じた新たなビジネスチャンスはありますか。
世界金融危機は株価の下落を起こし、市場の流動性を低下させました。しかし、一部の金融機関は企業
価値を向上させました。たとえば、JP モルガンによるベアスターンズ救済、あるいは三菱東京 UFJ グル
ープによるモルガンスタンレーとの資本提携などが挙げられます。このように、金融危機によって登場
した割安なエクイティを活用した新たなビジネスチャンスは他にどのようなものがありますか。もし、
現在ではまだ起きていないとしても、今後発展すると見込まれる市場(業界)がありましたら是非教え
ていただきたいです。
貴社は、みずほ FG の海外戦略の中で今後どのような役割を果たしていきたいですか。
大手証券が相次いで海外業務の拡大に乗り出しています。また、海外の中でも、今後高い成長が見込め
るアジアの重要性は極めて高いと考えられます。実際に、例えば野村証券がリーマンブラザーズのアジ
ア部門を買収したり、三菱UFJ証券がシンガポール証券大手キムエンと包括提携で合意したりするな
ど、証券大手各社がアジア市場重視を明確にしています。このような状況の中で、みずほFGとしても
アジアの拠点拡大が不可欠であり、したがって貴社に期待される役割も大きいと思いますが、具体的に
今後どのような役割を果たしていきたいですか。
アジアの証券会社との提携における留意点は何でしょうか。
今後みずほ FG は、アジアの証券会社との業務・資本提携を模索していくと思いますが、提携と一言で言
ってもそれは容易ではないと思います。過去の例を見ても、大和証券SMBCとラザードは一度提携し
たものの、その後それは解消されました。このような難しい提携の効果を十分に得るためには、どのよ
うな点に留意すべきでしょうか。
アジア企業関連の M&A アドバイザリー業務における留意点は何でしょうか。
今後アジアにおいて、食品業界や化粧品業界を始めとしたM&Aが活発になると思います。しかし十分
にシナジー効果が得られるM&Aを行うのは容易ではないと考えます。貴社としては、アジア企業のM
&Aのアドバイザリー業務を行う際に、特にどのような点に留意されますか。
貴社の企業情報について教えてください。
・御社の中核業務は、「M&A アドバイザリー業務」「エクイティ業務」「投資顧問業務」と思います。差し
つかえなければ、各業務の売上・利益・業務に従事している社員数などについて教えてください。
・ また、それらのビジネスモデルの特徴やターゲット市場(顧客層)を教えてください。
貴社は人材育成のために、どのような教育・研修を行っていますか?
金融業務には理論と実践の両立が求められると思います。理論と実践のバランスがとれた人材を育成す
るために、どのような教育・研修などを行っていますか?
当日その場で出た質問とそれに対するご回答のまとめ
質問①
中国企業はその企業成長ゆえに PER が高い。その一方で、日本の企業の PER は一定の収益を出してい
る企業でも低いと考える。こうした差が生じるのはなぜか?これは投資家にとって日本市場に未来がな
いからであるのか、もしくは日本の金融市場が閉鎖的な市場であるからなのか?
ご回答①
もちろん、日本と香港では人種、国の規模、経済成長率など多くの違いが存在するが、一番の問題は、
日本が中国に抜かれる現状よりも国内に目が向いていることである。また、日本で株式投資経験ある人
の数が明らかに少ないというのが現状である。香港は日本と真逆であり、投資活動が盛んに行われてい
る。日本では株を買うという行為が行われてこなかったため、金融を戦略分野として捉えることが難し
い。そのため、多くの人々が定期預金しか使わない状態に陥っている。こうした状況で PER が伸びるこ
とは難しい。
質問②
米国では 80 年代に経済が凋落した後、アップル・MS を中心とするベンチャーが成功することによって
回復を成し遂げた。日本でも育成環境を整えればベンチャーが成功することは可能と思われるか?
ご回答②
日本は明治期から現在に至るまで、政府を批判しながらも政府に依存する(官がどうにかしてくれる)
というスタンスが続いており、ベンチャーの土壌・思想が育っていないため、たとえ税制や証券制度な
どを整えたとしても発展するとは考えにくい。それに対して、香港はアヘン戦争によって英国の手に渡
った等の歴史的背景から、個人で資産をどのように担保するのかという意識が強く芽生えてきた。相対
的に言えば、香港人はみんな「経営者」、日本人はみんな「公務員」である。
5.最後に
最後に、ご多忙の中ご講演くださった小原様(みずほ
セキュリティーズアジア
エクイティリサーチ部長)
に改めて深く御礼申し上げるとともに、本訪問の調整
をしてくださった佐藤様(みずほセキュリティーズア
ジア
コーポレートストラテジー部長)、みずほ証券株
式会社経営調査室の皆様に厚く御礼申し上げる。
以上
企業訪問報告
国際協力銀行(JBIC)
訪問日時:2009 年 9 月 8 日(火)16:00~
JBIC 出席者:行天健二様、井上幸一様、林姫子様
HMBA 担当
:李明、郡司亮、高橋秀成
1.国際協力銀行について
国際協力銀行( The Japan Bank for International Cooperation:JBIC)は、2008 年 10 月 1 日に設
立された株式会社日本政策金融公庫の国際部門である。JBIC の前身は、旧国際協力銀行の国際金融等業
務にあたる。国際的信用の維持等の観点から、株式会社日本政策金融公庫においても引き続き「国際協
力銀行(JBIC)」の名称を使用している。
JBIC はその使命である日本及び国際経済社会の健全な発展並びに国民生活の向上に寄与するため、
(1)日本にとって重要な資源の海外における開発及び取得の促進、
(2)日本の産業の国際競争力の維
持及び向上、
(3)国際金融秩序の混乱への対処といった三つの分野において業務を行っている。
(1)に
関しては、日本向けのエネルギー資源や金属資源を生み出すプロジェクトに対して融資・保証などを行
うことによって、日本経済の健全な発展のために不可欠な資源の安定的確保に貢献している。
(2)に関
しては、日本企業による開発途上国向けのプラント輸出等に対する輸出金融を活用した支援や、日本企
業の海外における生産・販売等の事業展開に対する海外投資金融を活用した支援等、さまざまな金融手
法を活用することにより、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献している。
(3)に関しては、例
えば国際金融危機の下で、途上国貿易金融支援や途上国銀行資本増強ファンドへの出・融資などを通し
て国際的な金融システムの安定化に貢献している。
2008 年の組織改編により、旧国際協力銀行の海外経済協力業務は国際協力機構(JICA)に統合された。
新たに発足した JBIC の業務は主に以下の 7 つである。
(1)輸出金融
日本企業による海外への設備の輸出並びに技術の提供に必要な資金を融資する。
(2)輸入金融
石油、LNG、鉄鉱石等、日本への重要物資の輸入に必要な資金を融資する。また、資源関係以外で
は、保証制度により対応する。
(3)投資金融
日本企業が、海外において現地生産や資源開発等の事業を行う際の資金を融資する。
(4)事業開発等金融
日本の貿易、投資等、海外経済活動のための事業環境整備を図るとともに、外国政府、外国政府機
関等が実施する事業に必要な資金を融資する。
(5)ブリッジローン
国際収支上の困難を抱えた開発途上国政府の外貨資金繰りを手当てするために必要な短期資金を
融資する。
(6)出資
海外において事業を行う日系合弁企業や日本企業が参加するファンド等に対して出資する。
(7)調査業務
上記の業務に関連して必要な調査を行う。
2.JBICの最近の取り組み
2007 年秋以降の米国におけるサブプライム問題を端緒とする昨今の国際金融危機に対して、JBIC は、
金融システムの安定化と日本企業の支援に向けた多面的なサービスを展開している。
JBIC の特例業務
日本政府は、日本の産業の国際競争力を維持するために、日本企業に対する緊急支援策を打ち出した。
それに伴い、2010 年 3 月までの時限的な特例業務として JBIC は、①国内大企業が行う途上国における
事業に対する貸付、②途上国向け輸出を行う日本企業へのサプライヤーズ・クレジット、③先進国での
事業に対する貸付および保証を行うことが認められた。これらの業務は、JBIC が日本政策金融公庫に統
合されてから、民業補完の観点から撤退していたものである。
アジア債券市場育成イニシアチブ(ABMI)
アジア債券市場育成イニシアチブ(以下 ABMI)とは、アジア通貨危機を受けて日本政府が提唱したも
のであり、比較的貯蓄率の高いアジアにおいて、効率的で流動性の高い債券市場を構築することで投資
をアジア域内で還流させることを目的とするものである。JBIC では ABMI の一環として、債権保証や日
本政府の保証が付された外貨建債券の発行により、債権市場に存在する債権の発行主体と投資家との情
報の非対称性の克服を行っている。2009 年 8 月には、インドネシア政府が 350 億円の円建て債権を発行
するにあたり、JBIC が保証を付けている。2009 年 8 月 3 日付の日経新聞によると、同様の枠組みでフ
ィリピンなども起債する方向としており、今後もアジアの債券市場育成に向けて JBIC は大きな役割を
担うことが期待される。
気候変動問題・環境ビジネスへの取り組み
JBIC では、「JBIC アジア・環境ファシリティ(FACE)」を設立し、出資・保証機能の活用により気候
変動緩和対策案件等への民間資金の動員を目指している。
環境汚染が進む中国において、JBIC では PE ファンドに対する初めての案件として、中国環境・省エ
ネ関連ファンド(CEFⅢ)への出資を行った。CEFⅢには、JBIC の他に三菱東京 UFJ 銀行・国際金融公社
(IFC)等の国際機関や他国の公的金融機関・輸出信用機関・民間金融機関・事業会社が参加を表明し
ている。
3.質疑応答
Ⅰ.金融危機後のアジア債券市場育成イニシアチブ(ABMI)について
(Q1)
アジアの国々における金融・資本システムの改善を目的として「アジア債券市場育成イニシアチブ
(ABMI)」が提唱された。JBIC では債券への保証の供与等を通じてアジア債券市場の活性化に向けて取
り組みを進めているとのことだが、実際の案件組成スキーム等はどのようになっているのか。
(A1)
JBIC による債券市場に関わる取り組みとしては、JBIC 自身が現地通貨建ての債券を発行して、現地
の機関投資家に買ってもらうことにより債券市場を大きくする方法と、他の日系企業やパーティが現地
通貨建てで債券を発行する際に JBIC が保証をつけることによって債券市場を活性化させるという2つ
がある。
前者の取り組みとして、2005 年 9 月にタイでバーツ建て債券を発行し、調達したタイバーツを現地の
日系企業に転貸した事例がある。これは機関投資家のお金をタイ国内で使うことが目的であり、為替リ
スクを介在させずに資金を地域内の投資に活用したものである。
後者は、タイ、マレーシア、インドネシアの 3 カ国で 6 件の案件がある。日系企業が資金を調達する
際に現地通貨建てで債券を発行し、その資金を自身の事業に充てるというスキームであり、JBIC では債
券を発行する際の保証の形でお手伝いしている。海外の投資家から見れば、日本の大企業であっても、
ローカルの発行体と比較すると見劣りするということがある。このため、JBIC が保証を付けることによ
って当該企業が良い発行体であることを海外の投資家にご理解いただくことをコンセプトとしている。
案件の評価基準として投資家の数などを見ているが、新興国では年金機関や銀行がほとんどであり、
投資家が限定的ということがある。また、JBIC が保証したから新しい投資家が増えたという必ずしもわ
かりやすい絵になるわけではない。既存の投資家に対して、JBIC が保証を付けることによって、新しい
発行体の紹介ができるということ、それから発行体が継続的に債券を発行することで、最終的には JBIC
の保証がなくても魅力的な発行体として債券を購入してもらえるということといった取り組みが続く
ことを通じて、債券市場が活性化していくということが最終的な着地点ではないかと思う。
なお、ABMI は、1997、1998 年におこったアジア通貨危機の反省に立って、地域内の預金を地域内の
投資に使用するというコンセプトのもとに進めている取り組みの1つである。ABMI の中にも債券の発行
体や発行量を増やすということだけではなく、いろいろな取り組みがあり、たとえば市場インフラの強
化があげられる。具体的には、保証を活用したり、格付機関を作ったり、決済システムを強化しようと
いうことがある。この取り組みはアジア開発銀行(ABB)の中にタスクフォースが作られており、取り
組み内容についてはホームページにおいて定期的にアップデートされている。
(Q2)
案件の組成はどのような経緯で始まるのか。
(A2)
案件については、例えばメガバンクなどの民間の銀行や企業から話をもらうことがほとんどである。
JBIC は公的機関に分類されるので、自分自身から案件を探して組成するというよりも、相談をいただく
というケースが多い。プロジェクトファイナンスのケースでいえば、非常に多額の資金が必要となるが、
民間では賄えないということがあり、公的なセクターとして JBIC が参加することによって案件を組成
するという流れが一般的である。
(Q3)
中国の債券市場は対 GDP 比で2%程度と未発達であり、中でも社債の割合が低く、途中売買せずに満
期保有目的が多い。このような中で JBIC では債券市場を活性化するために政府及び民間に対してどの
ようなアプローチを行っているのか。
(A3)
中国の債券市場では案件がほとんどない。発行体がいないと日系企業への保証といったような JBIC
の機能を活用することもできない。もうひとつの方法として、JBIC 自身が債券を発行するという考えも
あるが、それはまた別の問題がある。
中国債券市場が未発達である原因の1つとして、格付など情報開示や改定基準といった制度が他の地
域と比べて違うということがあり、なかなか発行体数が増えないということがある。また発行体自体に
おいても債券発行が目的ではなく、中国で行う事業に使うための資金をいかに安く調達するかがメイン
の問題であり、例えば銀行借り入れや株式上場を通じて調達した方が良いのではないかという意思決定
に至るということがある。
ただし、債券市場の活性化というのは中国国内でもホットイシューの1つである。発行体が増えるか
どうかは、中国当局の意向にも関連するが、足元の流れからいうと、当局からの規制は徐々に緩和され
るトレンドにある。
Ⅱ.金融危機後の日本企業に対する JBIC の取り組みについて
(Q4)
日本企業が円滑に資金調達できるよう、JBIC 業務の特例として「国内大企業を通じた開発途上国にお
ける事業に対する貸付」業務が時限措置として設けられた。これは、国内産業構造の高度化、効率的な
国際分業体制の構築等を目的に、中堅・中小企業を対象とした「投資金融」において実施されてきたも
のと思われるが、大企業にも開放することにより中堅・中小企業への取り組みが希薄化するようなこと
はないのか。
(A4)
2008 年 10 月に新組織が発足し、民間でできることは民間で行うというコンセプトに基づき、信用の
高い国内企業については公的資金を使う必要はない中で、国内大企業向けの貸付を中止した。今回の特
例業務は、この業務を再開することになったものである。大企業向けの貸付は中堅中小企業向けの貸出
と平行で行っていた業務であり、チャネルが異なることから特段の影響は受けない。
(Q5)
JBIC では、日中企業における第三国向け共同輸出案件の支援を目的として、中国輸出入銀行との間で
業務協力に関する覚書を締結している。同行とは覚書締結前にもベトナムの石炭火力発電所建設プロジ
ェクト(ハイフォン 2)において協調しているが、今回改めて覚書を締結したのは何か理由があるのか。
(A5)
覚書は、日中間で潜在的な案件を共同で進めていこうというトレンドをより強くしていくことを目的
として締結したものである。今日、中国のプレゼンスが非常に高くなっており、日中の企業が、日中以
外の第三国でビジネスを行っていくという機会が増加することが想定される。具体的にすぐにクローズ
する話があるわけではないが、潜在的な案件の発掘や、今後の協力について協議を進めている。
Ⅲ.その他
(Q6)
日系企業による中国進出を支援する中で、成功している企業にはどのような特徴があると考えている
か。
(A6)
成功に関する定義は様々だが、非常に多くの企業が中国に進出して成功している。ある企業について
いえば、その成功の要因としてローカライズを進めているということがある。当該企業は、地方の政府
と非常に良い関係を構築し、また、当該地域において外資系企業と言えば最初に名前がでてくる程の知
名度を獲得している。地元大学の卒業者を採用し続けることにより、地域内でのプレゼンスを安定的に
高めている。
中国の市場自体は非常に魅力的であるが、マーケットに入っていかないことには事業はうまくいかな
い。そのためには、コミュニケーションをしっかりととる必要がある。また、現地の投資制度の理解も
重要である。つまり、日本人の社員をどれだけ送り込んだとしても、コミュニケーションや現地の制度
に対する理解には限界がある。現地の人材で戦力をいかに作るかということが重要なのかもしれない。
(Q7)
中小企業による中国への進出をする場合に、会計、法律という制度に関する事項が経営上の大きな問
題になると考えられるが、JBIC における中小企業支援の取り組みとしてはどのようなものがあるのか。
(A7)
香港事務所では毎月「中国レポート」という投資環境に関する情報を提供している。投資関連制度の
変更内容についてとりまとめ、資料を送付したり HP にアップデートしたりすることを通じて、中堅中
小企業による対中投資のお手伝いをしている。JBIC の内部にも様々な部門があり、例えばコーポレート
ファイナンス部門に中堅中小企業支援室という組織がある。同室では、各商工会議所の要請に応じて海
外投資に関するセミナーを開催したり、資料を作成したりしている。
(Q8)
JBIC の駐在員事務所について、中国には北京と香港の2つの事務所がある。両事務所の業務内容につ
いて何か相違点はあるのか。
(A8)
北京は中国の首都であり、中国輸出入銀行のような政府系機関が存在している。このため北京事務所
のみで行っている業務としてソブリン関連の業務がある。対政府間のビジネスについては北京事務所が
管轄している業務であるといえる。その一方で、香港事務所ではソブリン関係の仕事はほとんどなく、
中国の投資関連の情報をとりまとめの上、外部に提供する役割を担っている。
なお、共通の業務としては、どちらの事務所でも日系企業が海外に進出する際のお手伝いをしている
というところがある。
4. 最後に
最後に、本訪問をご快諾頂き、また、ご多忙にもかかわらず、我々の理解を深めるべく、事前に資料を
作成・配布いただくなど様々なご配慮を頂きました JBIC 香港駐在員事務所の行天様、井上様、林様の
ご厚意に改めて深く感謝申し上げます。
以
上
上海・香港国際研修プロジェクト報告書
2009年11月発行
発行者: 一橋大学大学院商学研究科経営学修士コース
金融プログラム
〒186-8601 東京都国立市中2-1
マーキュリータワー3403室 TEL: 042-580-9105
* 本報告書の内容について、無断転用・転載を固くお断りいたします。