第3回 十勝小豆研究会報告: 小豆は「恋人作物」、紅白おはぎ

第3回 十勝小豆研究会報告:
小豆は「恋人作物」、紅白おはぎ
技術士(農業部門)・元北海道総括専門技術員 佐 藤 久 泰 第3回十勝小豆研究会は、2008年11月21
日に十勝川温泉ホテル大平原で開催されま
誉教授) 畑井朝子氏
⑵ 「米から豆へのラブコール」
した。遠くは兵庫県から3名、東京都から
北海道立十勝農業試験場 場長
3名、茨城県から1名など、道内外から昨
菊地治己氏
年とほぼ同数の70名余の参加を得て開催さ
⑶ 「十勝における小豆の集荷・販売の変
れました。 遷について」
今年は3回目で、小豆が好きで愛する人
株式会社山本忠信商店
たちが集まり、年々益々盛り上がりを見せ
ています。参加されなかった方々にも、そ
代表取締役社長 山本英明氏
2.休息 「紅白おはぎ」の試食
の内容の一部をお知らせし、機会を見て参
吉川食品株式会社提供(砂川市)
加されますよう、研究会の内容を報告させ
3.試験研究報告 (4題後述)
て頂きます。なお、懇親会は45名、宿泊者
4.懇親会
は34名でした。
研究会は、十勝小豆研究会の長岡事務局
これらの話題提供、研究報告の内容につ
長の司会進行で、沢田壮兵会長の「アズキ
いて、以下、概要を報告します。
に関わっている者が交流できる場で、第3
1.話題提供
回を迎えることを慶び、有意義な充実した
⑴ 「小豆との出会い」から「小豆あん粒
会にして頂きたい」との挨拶に始まりまし
子形成機構について」
た。
畑井氏の小豆との出会いから30数年にわ
今回のプログラムは、次ぎのように内容
たって、小豆の煮熟性を調理学的に検討し、
豊かなものでした。
その過程で品種、栽培条件、種皮の色調等
1.話題提供は、次の三氏から頂きました。
によって異なることに気づき、農学的、比
⑴ 「小豆との出会い」から「小豆あん粒
較生物学的な手法を加えて検討されました。
子形成機構について」
さらに、小豆のあん粒子形成にとって、小
函館短期大学教授(北海道教育大学名
豆種皮のフェノール成分、特にプロアント
- 57 -
シアニジンが重要であることに注目し、そ
の「恋人作物」であると呼ばれました。こ
の定量法に検討を加えています。 れまで稲を主に研究しておられた菊地場長
また、小豆あん粒子にはプロアントシア
には、小豆はあんパンとか、おしることか、
ニジンの蛋白質への吸着が重要であり、そ
赤飯といったものに使われるマメという位
の解明に生化学的検討を加えられました。
置づけであったかと思います。しかし、十
畑井氏のこれまで約30年間の研究は、小
勝に住み、小豆研究に係わるようになると、
豆の調理特性からあん粒子形成に関する研
小豆関係者の小豆にかける熱い思いや愛着
究まで、大きく次の4つに分けられます。
を感じとることが多くなり、思いがすっか
①小豆の調理特性に関する研究(1974~
り変わられたのです。稲の専門家から見る
1987年までに12報の研究報告)、②小豆種
と、小豆に限らず畑作物は副食品の一原料
皮可溶性成分に関する研究(1986~1991年
であり、稲のようにそのまま食するような
までに4報の研究報告)、③小豆のあん機能
ものではありません。
発現メカニズムに関する基礎研究(1994~ したがって、稲関係者には小豆を身近に
6報の研究報告)、④小豆あん粒子形成に関
感じることは少ないというのが一般的とい
する調理科学的研究(2001~6報の研究報
えましょう。ですが今回の研究会で菊地場
告)で、これらは北海道教育大学函館分校
長は、小豆は「恋人作物」であると申しま
紀要、調理科学、家政学雑誌、日本調理科
した。稲からみると、「恋人作物」と見え
学会、博士論文などにまとめられています。
る過程までには、少なからず時間を要した
ことだと思います。しかし、今ではすっか
⑵ 「米から豆へのラブコール」
り「恋人作物」になってしまったようです。
菊地場長がこれまで携わってきた水稲の
新品種育成について、スライドによって最
即ち、稲研究者から本物の十勝小豆研究会
の一員になったといえましょう。
近の成果を述べられました。これまでの良
これまで「十勝小豆研究会」で、数々の
食味品種育成プロジェクトの取組を詳しく
言葉が小豆に関わる方々から述べられてい
分析し、道立農試の育成担当者、関係団体
ます。御座候の山田社長は「精神作物」で
との協力体制、行政の協力など一致団結し
あると述べられましたし、昨年の大会では、
て取り組んだ成果であると多数の映像にま
池田農協の鈴木組合長は特別な「思い入れ
とめて示しておりました。菊地場長は、北
作物」であると述べられました。
海道立十勝農業試験場に赴任して3年を迎
このように十勝小豆研究会では、会を重
えたといいますが、小豆と関わってから
ねる毎に新しい言葉が生まれています。こ
は、豆類の中でも小豆は十勝農業にとって
れはそれぞれの立場で、小豆に対する特別
なくてはならない作物であり、十勝の特産
な向き合い、思い入れ、取組があるのだと
品として魅力ある作物であり、小豆は十勝
思います。回を重ねるたびに、小豆に対す
- 58 -
る新しい修飾語が生まれる楽しみも出てき
ました。
また、昭和2年には、今でも歌われてい
る「十勝小唄」ができ、盛んに歌われたと
いいます。これを讃えて残そうと、平成2
⑶ 「十勝における小豆の集荷・販売の変
年に「十勝小唄」保存会ができたそうです。
遷について」
以上のように、十勝における小豆のみに
山本社長の情熱的な十勝の集荷・販売の
ではなく、広く豆類に関して回顧し、豆類
足跡を数多くのスライドで示してくれまし
業界は報いのある業界であり、我々はとき
た。中でも明治16年に依田勉三が作付けし
には歴史を遡ることが大切であると結びま
た小豆は、夏小豆で大正3年に優良品種に
した。
なった「茶殻早生」でないかという新説を
述べられました。十勝の在来種で優良品種
2.休憩を利用した「紅白おはぎ」
になったのは「茶殻早生」のみであること
砂川市の吉川食品から提供された「紅白
からも、そのように考えても良いとおっ
おはぎ」の試食会がありました。「紅白お
しゃっていました。また、「開墾とはじめ
はぎ」の原料は、北竜町減農薬「はくちょ
は豚とひとつ鍋」は、「落ちぶれた極度の
うもち」米を使用し、表面を囲うあんを紅
豚とひとつ鍋」という渡邊勝の句を改めた
白に使い分け、紅あんは幕別町産の契約栽
という説も出され、山本社長の幅広い探求
培「エリモショウズ」の小倉あん、白あん
心を伺い知ることが出来ました。
はバイオテックの協力により仕入れた池田
十勝における雑穀の流通は、明治31年頃
町産「きたほたる」を用いた白つぶあんで、
から始まり、明治35年には雑穀商が大津港
「エリモショウズ」と「きたほたる」の共
から十勝川を船で米や雑貨を持ち込み、春
演おはぎです。従来おはぎは、あずき色の
には生産資材を開拓農民に貸付けを行い、
小豆を用いたものが普通です。小豆研究会
秋には雑穀で精算する方法をしていたとい
創立より欠かさず参加している和菓子製造
います。明治38年には、釧路、帯広間に鉄
の吉川食品株式会社(吉川幸宏社長)のア
道が開通し、主に大豆の取扱でしたが、取
イディアおはぎなのです。白つぶあんのお
扱量は14万俵と「豆王国」が出来上がった
はぎは、ほとんど見かけることがありませ
のだといいます。
んでしたが、今回初めてお目にかかりまし
第一次世界大戦が大正3年に始まり、豆
た。また、白つぶあんのおはぎには工夫が
類価格の高騰により特に十勝における作付
あり、白い餅米を色づけの赤飯にし、食べ
面積の拡大が進み、大正7年をピークに増
たときの切り口も紅白になるようにしてあ
加し、菜豆、えん豆の面積が10倍に、価格
りました。糖度を42度に設定して製品化し
も7~8倍となり、豆類ブローカーが出現
たとのことでしたが、日持ちがしないので、
したといいます。
保存料を使わず冷凍技術で出来たてを届け
- 59 -
ることが出来るようになったそうです。味
日本シルバーボランティアーズからの要
わってみましたが、小豆本来の美味しさが
請で、中国東北部の三江平原東部の虎林市
あり、従来のおはぎに優るとも劣らぬと感
にある八五四農場へ、「小豆機械収穫・品
じました。また、多くの参加者は美味しい
質向上・収穫コスト引き下げ」という支援
アイディア商品であるとの評価でした。
内容で出かけ、八五四農場の実態について
このほか吉川食品は、北海道産の砂糖・
の報告でした。水稲(籾885㎏ /10a)、大
上白糖・グラニュー糖を使用し、この「紅
麦(413㎏ /10a)、 大 豆(263㎏ /10a)、 と
白おはぎ」主原料は、100%北海道産を使
うもろこし(825㎏ /10a)の収量は、北海
用することをコンセプトとし、北海道で
道より大変レベルが高いのですが、小豆
育った自然の恵みを、北海道で形にするこ
(219㎏ /10a)については北海道よりも低
とを理念として考えているとのことでした。
収です。小豆の収穫は手刈りのあと、ピッ
クアップコンバインによる収穫をしている
のですが、土砂が混入して品質の低下が問
3.試験研究報告
次の4氏から報告がありました。
題となっているということで、今回の支援
① 中国黒竜江省八五四農場の実態につい
て 要請があったということです。
② 2008年の小豆生育概況について
元北海道総括専門技術員 佐藤久泰氏
② 2008年の小豆生育概況について 昨年の十勝の小豆の生育について、スラ
イドによりくわしく説明を加え、とくに生
道立十勝農試 育後半の気温が高かったことが、十勝小豆
小豆・菜豆科長 島田尚典氏
の作柄向上に結びついたということです。
③ アズキにおける開花・着莢障害耐冷性
③ アズキにおける開花・着莢障害耐冷性
遺伝資源の探索について
遺伝資源の探索について
道立十勝農試 小豆は耐冷性が大きな問題ですが、開
小豆・菜豆科研究職員 青山聡氏
花・着莢障害耐冷性遺伝資源の探索してい
④ 大納言小豆新品種「ほまれ大納言」の
た中で、これまでよりもより耐冷性がある
育成について
と思われる数品種(系統)が見つかったと
道立十勝農試 いい、今後それらの材料を用いて、従来よ
小豆・菜豆科研究職員 田澤暁子氏
りも開花・着莢障害抵抗性の品種育成を図
りたいとの、大変明るい話題提供でありま
4氏の報告は、それぞれ興味ある内容で
した。
した。
④ 大納言小豆新品種「ほまれ大納言」の
① 中国黒竜江省八五四農場の実態につい
て
育成について
昨年新品種として新しく認定された「ほ
- 60 -
まれ大納言」の育成経過と主要特性につい
る情報交換を密にする場で、皆さんが楽し
ての報告でした。「ほまれ大納言」は3つ
みに期待している場で、熱心な情報交換が
の土壌病害虫に抵抗性で、大納言規格収量
行われました。懇親会は当初19時30分まで
が高く、雨害粒の発生も少なく、加工適性
の予定でしたが20時頃までとなり、以後も
も従来品種と同等以上という評価の品種で
幹事さんのご配慮で二次会の席が別室に用
あるとの報告でした。
意され、深夜まで熱心に盛んな交流が行わ
れたそうです。
報告会終了後、コンベンションホールに
移動して盛大な懇親会が開催されました。
写真は、紅白おはぎに添付されていた小
小豆研究会の懇親会は、小豆関係者が話題
豆原料と紅白おはぎの写真を複写したもの
提供や報告に対する質問など、小豆に関す
です。
幕別町産「エリモショウズ」
池田町産「きたほたる」
- 61 -