工学部 機械工学科 形状記憶合金とマグネシウム合金の 結晶の変形理論を研究 形状記憶合金を活用する 伸びきった細いワイヤーをお湯に つけたら、たちまちぐるぐる巻き始 めて、きれいならせんバネになった ―、そんな実験を見たことはありま せんか。ある高い温度で形を覚えさ せた合金は、室温で力を加えると形 が崩れるが、一定の範囲内の高温状 態に戻すと元の形になる。合金(結 晶の集まり)にはそんな不思議な性質があることが発見されたのは、 今から 60 年ほど前です。それが「形状記憶効果」 で、その後、理論が明らかにされ、実用化研究が始まり、今ではスマートメタルと呼ばれてさまざまな分野で大活躍 しています。 代表的な形状記憶合金はチタンとニッケルの合金です。切断した 2 本の合金パイプを、それより口径が大きい形状 記憶パイプの中につないでおき、温度を上げると外側の形状記憶合金だけが縮んで小さいパイプをガチッと締め付け ますから、例えばジェット戦闘機の配管などに利用できます。温度を与えると一定の方向に曲がる性質を利用して、 ロボットアームや体内に入れた内視鏡の向きを変えることもできます。身近なところでは、水蒸気によるバネの形状 記憶効果で弁が開いて、コーヒーが流れ出すコーヒーメーカーがあります。温度は、回路に電気を流して暖めたりし ます。 私の研究の一つは、この形状記憶特性を応用してどのような働きをさせるかを考え、それをモーターのように動く 装置(アクチュエーター)に実用化することです。 マグネシウム合金の魅力 形状記憶合金の研究の中でも、金属変形の仕組みがミクロな原子配列レベルで次第に分かってきました。金属は結 晶内の原子が特定方向にずれて変形するのですが、鉄やアルミ類とマグネシウムでは、変形の仕方が大きく異なるこ とも分かっています。マグネシウムは軽くて丈夫、腐らない、加工しやすい、安価などから、省資源、省エネ、再利 用社会にうってつけの金属です。このマグネ シウムを使った合金に形状を記憶させること ができれば、産業界や暮らしへの恩恵は測り しれません。 しかし、マグネシウムとその合金の変形、 金属疲労に関する研究は問題だらけ。私の メーンの研究は、このマグネシウム合金づく りのモデル化のカギを握る特殊な原子構造 (最密六方構造)に注目し、正確な実験デー タを数多く提供することです。 【高校生の皆さんへ】 資源に乏しい日本の産業界が待望している新素材の一つがマグネシウム 合金です。地球環境にも優しいマグネシウム合金に関する技術開発を目 指して、日々基礎研究の繰り返しですが、胸躍る世界です。 教授 小野 長門
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