i 第 184 回山梨大学医学会例会 日時:平成 28 年 3 月 9 日(水)午後 3 時∼ 4 時 会場:基礎研究棟 6 階大会議室 教授就任講演 ヘビが教えてくれた血小板の話 井上 克枝 山梨大学大学院総合研究部医学域 臨床検査医学 山梨大学附属病院検査部,輸血細胞治療部 司会 武田 正之教授 【要旨】蛇毒にはヒト血小板を活性化する蛋白が含まれており,その研究により血栓止血学が発展 した。私たちはバーミンガム大学と共同で,血小板活性化蛇毒ロドサイチンの受容体が未知の血小 板活性化受容体,C-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)であることを突き止めた。また,私たち は CLEC-2 は生体内ではポドプラニンと呼ばれる膜蛋白に結合して血小板を活性化することを見出 した。 ポドプラニンはある種の癌細胞や正常のリンパ管内皮,I 型肺胞上皮,滑膜細胞などに発現するが, 血管内皮には発現しない。抗体で CLEC-2 欠損状態としたマウスでは,ポドプラニン発現メラノー マ細胞株 B16F10 の実験的血行性肺転移が抑制された。背部に B16F10 を移植すると,CLEC-2 欠 損状態マウスでは肺における血栓形成,炎症性サイトカインの産生,大 四頭筋重量の減少が抑制 され,生存が有意に延長した。これより CLEC-2 を標的とした薬剤は,血行性転移を抑制するとと もに,癌関連血栓症の発症,ひいては血栓による炎症性サイトカインの産生や悪液質を抑制し,生 存期間が延長する可能性がある。 胎生期に,静脈の血管内皮の一部がリンパ管内皮となり,リンパ管が派生する。CLEC-2 欠損 マウスはリンパ管と血管の分離が抑制され,血液の流入したリンパ管が認められた。私たちは, CLEC-2 がリンパ管内皮のポドプラニンと結合して血小板が活性化され,放出された TGFβ がリ ンパ管内皮の遊走や増殖を抑制することでリンパ管と血管の分離が促進されるという機序を提唱 した。 血小板は血栓を作るだけでなく,胎生期のリンパ管と血管の分離という思いもよらない役割があ ることを,いわばヘビから教わった。現在私たちは,CLEC-2 を標的とした抗転移薬,抗血栓薬を 開発すべく,低分子化合物リガンドや変異型ロドサイチンの作製を進めている。
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