STOCK LEAGUE レポート 378チーム 378チーム stockleague378 一橋大学3年 伊藤邦雄ゼミ 荒井典夫、荒島光一、谷川佳子、遠田将史 加賀谷 哲之先生 ファンドについて 今回のファンドのコンセプトは、3ヶ月間のクローズ型のファンドとして、できる限り安定した運用 を目指すものである。周知のとおり、今、日本経済は岐路にたたされている。相次ぐ金融不安や、 バブルの後遺症に苦しむゼネコンなどまだまだ日本経済は回復したとは言いがたい。またネット 関連企業も一昨年の後半から昨年の前半にかけて盛り上がったが、現在はネットバブルといわれ るように、息を潜めている。このような時期に、国内株式だけで資金を運用することは非常に困難 であると考える。そこで今回は、3 ヶ月間の限定のファンドで、できる限り安定した銘柄を組入れる ことにした。銘柄選定プロセスは以下の図のとおりである。 投資ユニバース コア銘柄 レーティング モデルポートフォリオ ファンド 最初に、投資ユニバースの中からトップダウンアプローチによるマクロ分析を行って、投資戦略 を考える。次に、投資戦略にのっとってコアとなる銘柄を選択。さらにコア銘柄を定性、定量の両 面から分析を行ってレーティングを行い、モデルポートフォリオに組みこむ。モデルポートフォリオ では、各組入れ銘柄のヒストリカルデータを用いて、コンピュ−ターシュミレーションによってオプテ ィマイズし、効率的フロンティアを導出するのである。運用はシュミレーションの結果を基本として 行うことにした。 それでは最初に、投資戦略について述べる事にする。前述のとおり、日本経済は非常に不安 1 定な状況にある。このことはマーケットからも言える。昨年は日経平均が一時 2 万円を回復したが、 昨年末には 1 万 4000 円を割り込んだ。また、下のグラフに示したように、ナスダックと日経平均 は非常に相関関係が高いことが見て取れる。これは、日経平均を構成する銘柄にハイテク関連株 が多いためである。 NASDAQ:NIKKEI225 1.8 1.2 NASDAQ 0.6 NIKKEI225 19 99 年 4月 19 99 年 8月 19 99 年 12 月 20 00 年 4月 20 00 年 8月 0 そこで、アメリカの景気について考えることにした。ここ数年ネット企業の集まるナスダックやダウ 工業株は未曾有の高値を付けていた。しかし、ナスダックは特に大幅な下落が起きている。今後 三ヶ月を考えた際、その動きは続くであろうと考えた。それはこれといった好材料が見当たらない からである。 もちろん長期的な視点に立ったならば、ビジネスモデルがしっかりしている企業であれば、ハイ テク企業でも、ローテク企業でも今後の成長に期待ができるはずである。しかし、向こう三ヶ月を 期限に投資をする場合には、ハイテク銘柄に投資するのは危険であると考える。そこで安定した 運用を目指した。安定したパフォーマンスを上げる産業として、公益事業、食品、薬品などが挙げ られる。以下は、インデックスと、個別銘柄の関係を表した、β値である。 日清食品 0.53 キリンビール 0.41 花王 0.03 JR東日本 0.30 藤沢薬品工業 0.14 東京電力 −0.05 大阪ガス −0.47 上から分かるとおり、これらの業界の銘柄はインデックスとは大きく異なる動きをすることが分かる。 すなわち、日経平均が下がる局面では、これらの銘柄は上がる、もしくはあまり変化しないのであ 2 る。日経平均が向こう三ヶ月下がることが予想され、なおかつ安定した運用を目指すため、公益 事業、食品、薬品セクターに投資する戦略を立てたのである。 上で述べたように、公益事業、食品、薬品セクターを中心に投資する戦略を立てた。ここでは、 個別銘柄の評価と、選定方法について述べる。個別銘柄の評価は、財務分析、産業構造分析、 キャッシュフローに基づく分析を行った。 財務分析は、ROE、連単倍率、営業利益率、自己資本比率等を用いて総合的に分析した。定 性分析では、当該セクターの産業構造についての定性分析を行った。たとえば、医薬品業界につ いて、生き残りのポイントは 3 つあると考える。1 つは新薬開発。2 つは基礎研究、3 つは海外展 開である。リスク要因は、新薬開発中止、訴訟リスク等である。 さらに、株主を意識した経営を行 っている企業を評価した。具体的には EVA または同様の価値評価を経営管理指標としている企 業である。花王、HOYA、大阪ガスなどである。EVA を導入した企業は概してマーケットでの評価 が高い。コカコーラ社なども EVA を導入することで高い株価維持している。 またキャッシュフローに基づく企業評価として EVA を用いた。以下に EVA によるバリュエーシ ョンの方法を述べる。 CAPM :期待収益率=リスクフリーレート+β× (マーケットリスク − リスクフリーレート) WACC=D÷(D+E )×利子率×(1−税率 )+E÷(D+E )×期待収益率 EVA=NOPAT−投下資本 × WACC (加重平均資本コスト) ここでリスクフリーレートは、10 年物国債の平均利回り、ベータは過去 60 ヶ月分の月次収益率 から算出して行った。さらに日経会社情報に基づいて、当該企業の予想利益から将来のキャッシ ュフローを予測し、加重平均資本コストで割り引き、企業価値を算出し理論株価を算出した。その 方法は以下に述べる。 MVA=将来のキャッシュフロー÷WACC 企業価値=MVA+投下資本 理論株価=企業価値÷株式発行数 これらを総合的に判断して、コア銘柄を導出し、レーティングを行った。ここで問題なのは、定性 分析と定量分析のどちらに重きをおくかという事である。我々は考えた挙句、定性分析に重きをお くことにした。なぜなら定量分析はあくまで仮定の上で行っているからである。 最後に、10 銘柄を選定し、ポートフォリオの組入れ比率をコンピューターで計算した。10 銘柄 は日清食品、明治製菓、キリンビール、HOYA、藤沢薬品工業、山之内製薬、大阪ガス、JR 東日 本、東京ガス、花王である。 組入れ比率の計算は、過去 1 年間の株価収益率(日本証券経済研究所のデータ)から、ボラ ティリティと期待収益率を求め、MPT のポートフォリオ理論に基づく、2 パラメーターアプローチで 3 ファンドを構築した。また、コンピュ−ターシュミレーションで、ポートフォリオをオプティマイズして効 率的フロンティアを導出した。それが以下のグラフである。 期待収益率 エフィシエントフロンティア 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 1 2 3 標準偏差 4 5 6 上のグラフの結果、効率的フロンティアが導出されて、そのライン上で投資を行った。今回は国 内株式のみで運用する関係上、赤いラインと青い曲線が交差する点での投資を行った。 期待収益率は 2.6 パーセント リスクは 1.9 パーセント また、組入れ比率は以下のようになった。 日清食品 明治製菓 キリンビール 花王 HOYA 藤沢薬品工業 山之内製薬 東京電力 大阪ガス JR 東日本 0.248 0.02 0.02 0.1 0.064 0.26 0.045 0.02 0.186 0.035 ファンドを作って動かしてみて感じたことをここで述べたいと思う。今回はトップダウンアプローチか ら投資戦略を考えて、投資セクターの中で組入れ銘柄を探したが、実際にはこの投資戦略にもれ てしまったエクセレントカンパニーも存在するはずである。また、個別銘柄で用いたデータがヒスト リカルデータのため、実際の動きとは異なる動きをすることが分かった。これは食品、医薬品銘柄 で特に感じた。公益事業に関しては、予想どおりのパフォーマンスを挙げたと思う。 4 個人投資家が増えることによる社会への影響 インターネットが普及し、我々の生活は大きく変わろうとしている。E-Mail は当然のこと、ネット で海外の情報を検索したり、買い物をすることも出来るようになった。ボーダーレス化、スピ−ド化 しているのである。このことは経済においても同様である。インターネットでの株式の売買が増え、 またミニ株、るいとうで個人投資家がマーケットに参加しやすくなったのである。ここでは個人投資 家が増えることによる社会への影響について述べる。 個人投資家の増加の影響は大きく 3 つに挙げられるだろう。第 1 に、コーポレートガバンナンス の観点、第 2 に、マーケットの動き、第 3 に日本人のリスクに対する考えかたに関する影響である。 従来日本は間接金融主体であった。銀行が社会から資金を集め、それを企業に提供するので ある。これは、高度経済成長には欠かせないシステムであり、メインバンクとしての銀行の権力を 絶大にするものであった。企業も、株主よりも、メインバンクの方を気にしていたといえる。IR など 考えられない状況であった。しかし、メインバンクは株主の代わりに企業の監視をしていたと考え ることができるだろう。 最近では、メインバンク制が少しずつ薄れ始める中、企業の中にも投資家を意識した活動をす るところが増え始めた。京セラはインターネットでアナリストミーティングの中継を始めた。持ち合い 株式が減り、個人投資家が増えることで、マーケットはますます IR を要求するであろう。その結果、 情報公開をしない会社は、マーケットから信頼されなくなり、ついには消えてしまうことになりかね ない。透明な経営が進むこと、これが個人投資家が増えることによる社会的な影響である。 第 1 点に、個人投資家が増ええることは、短期的なマーケットの変動が起きやすい、という事が 考えられる。アメリカではデイ・トレーダーが数多くいて、毎日キャピタルゲインを狙っているのであ る。このことを考えるとわが国においても同様のことが予想される。個人投資家が増えることで、マ ーケットの流動性が高まることは歓迎すべきことであるが、近視眼的な投資家が増加するとマー ケットが不必要な動きをすることが考えられる。IR によってある程度は防げるものの、それを超え ることもありえる。また企業も、近視眼的なパフォーマンスの向上を目的関数として行動してしまい がちである。これでは、真の価値創造とは言えないのである。 第 3 点に、日本人のリスクに対する意識が変わることである。日本人の多くが銀行預金をして いて、リスクに対する概念が全くといっていいほどなかった。これは、日々の生活に対してもいえる のかもしれない。今後、401K など、自己責任のもとに、リスクをとるという概念が浸透することだ ろう。これは社会に対しても重要なことで、ベンチャーに資金を投資する人もあれば、ジャンクボン ドなどのハイリスク・ハイリターンの商品に投資する人も現れる。つまり、より社会に多様性が生ま れるということである。社会が多様になることで、社会にダイナミズムが生まれるであろう。日本の 命運を握っているのは、やはり日本人なのである。 5
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