ドクターおぐちのつぶやき - おぐちこどもクリニック

こどもの城通信 vol.30
∼ わ ん だ ぁ ら ん ど
2007
April ∼
ドクターおぐちのつぶやき
∼子どもたちの成長の節目節目に会う時の小児科医の喜び∼
何度かこのコラムに書いていますが,私は NICU という重症新生児
療を受け入れ赤ちゃんは生まれました。私は、スタッフに皆で大
が次々と入院してくる病棟で長く主任をしていました。そこではい
切に育てようと声をかけ、障害を残さないように祈るような気持
つも生と死が隣り合わせのようになっていました。多くの赤ちゃん
ちで治療を開始しました。重症な赤ちゃんを治療するときは、い
たちが治療により死の淵から再生し、元気になって退院し、家庭で
つもこのような母親の最もシンプルかつ切実な医療への要求に
そして地域社会で育ってゆきました。開業していると,忘れた頃に
直面します。出生した時点で生と死の確率、生存し得た場合、障
昔 NICU で治療した子どもたちがヒョコッと私に会いにきたり,相
害の有無とその程度を明確に予期することは出来ないのです。統
談にみえます。桜が満開となった 4 月 5 日に、中学の入学式を終
計的に答えることは出来ても、赤ちゃんの状況は異なり、生きる
えた女の子が真新しい制服を身につけて来てくれました。まぶしい
か死ぬかさえもはっきり言えません。この子のお母さんは、退院
笑顔を浮かべたチャーミングな女の子は、小さな小さな未熟児であ
の前日に、受け持ちの看護師に素晴らしい手紙を寄せてくれまし
ったことが嘘のようです。その子は小学校に入学した時もランドセ
た。 退院の前日の今でさえ、不安な気持ちは残っています。け
ルを背負って会いに来てくれました。小児科医として治療した子供
れども、もう一度、この大切な小さな命を、腕に抱くことが出来
たちの成長の節目節目に会えるのは本当に嬉しいものであると同
たことを感謝して、みんなで力を合わせて育てていこうと思って
時に,月日の過ぎる早さを身にしみて感じます。この女の子は妊娠
います。・・・母親のような暖かい優しい心で接していただき、お
25 週、出生体重 710g で生まれた超未熟児です。今でこそ、もっ
世話をしてもらい、小さな身体に命を与えてくれた NICU スタッ
と小さな未熟児が助かっていますが,当時も今も、このように小さ
フにはとても感謝しています。ただもう一方で悩んでしまうこと
な赤ちゃんが助かり元気に育ってゆくには大変な家族の不安と医
は、ここまで本当に順調に育ったから、今のこういう言葉を言え
療側の努力と、葛藤があります。この子のストーリーを皆さんに聞
るのか、途中もっと違った道をしーちゃんが辿ってしまっていた
いてもらいたいと思います・・・
ら、素直にありがとうと言えただろうかと?これは最先端の医療
切迫早産のため母体搬送となり、妊娠わずか 25 週で生まれそうだ
に関わる医療スタッフの方々、そしてそれを受ける私達、決して
と言われた両親は、今生まれたら障害!という先入観で捕らわれパ
これと云った答えのでない永遠の課題ではないでしょうか? こ
ニックとなっていました。産科スタッフから 両親は産科的治療も、
の手紙は我々医療者にとっても本質に触れた貴重なものです。
生まれた後の未熟児の治療も拒否しているから説明して欲しい と
私は健やかに成長した輝くばかりの女の子を前にして、どんなに
依頼がありました。私は両親に治療を受け入れさせるにはどう説明
重症な赤ちゃんもこのように成長するのだから常に全力を尽く
したら良いか?と少し挑戦的な気持ちとなって病室に向かいまし
すべきだという思いを新たにすると同時に、亡くなっていった多
た。私は、今生まれた場合どんな問題があるか、どう治療をするの
くの赤ちゃんたちに思いを馳せます。そして 今流行っている 千
か,そして死亡する確率、生存しても障害を残す確率は---と矢継
の風になって という詩が胸に迫ってきます。皆さんどうか、亡
ぎ早に説明をしました。母親は眼に涙を浮かべながら真剣に聞いて
くなった人への、このレクイエム requiem(鎮魂曲)を味わっ
います。そして母親は私に次のように懇願するのです!『先生、障
て下さい(この有名な、そして不思議な詩は誰が詠んだのかも判
害を残さないって約束してください!4 人目の子が障害児となっ
っていないのです)。この世に生を受けたにも関わらず、生きる
たら、家庭は経済的にも破綻してしまいます。』私は、言葉につま
ことの素晴らしさを味わうことのなかった赤ちゃんたちも、 千
り、
『約束は出来ません。赤ちゃんの生命力を信じてください。我々
の風になって 、生き続け、家族を見守っているのではないでし
は最善を尽くします』とだけ答えました。翌日、両親はすべての治
ょうか?(裏ページにこの詩を掲載します)
∼ 千の風になって
亡くなったあの子のお墓参り
私のお墓の前で 泣かないでくださ
い。
そこに私はいません
私のお墓の前で 泣かないでくだ
眠ってなんかいません
さい。
千の風に 千の風になって
そこに私はいません
あの大きな空を 吹きわたっていま
死んでなんかいません
す
千の風に 千の風になって
あの大きな空を 吹きわたってい
秋には光になって 畑にふりそそぐ
ます
冬はダイヤのように きらめく雪にな
る
千の風に 千の風になって
あの大きな空を 吹きわた てい
に行いけていないことが気が
かりでしたが、春の風の中にあ
の子を思い出させてくれる、そ
んな詩です・・・
by
R
もっと知ろう!
バンビのぽれぽれの会春組には、たくさんの方にお申し込
バンビーノ!
みいただきありがとうございました。現在賑やかに開催中
です。次回夏組(6,7 月コース)の募集は 5 月 7 日からです。
お申し込みお待ちしています!
学習支援部門
♪ミュージックセラピー
その 2♪
先月号で紹介したミュージックセラピー。今回は、実際に行っている福井さんから、もう少し詳しく
ミュージックセラピーについて教えていただきました。
音楽療法は、さまざまな現場で多くの対象者の方々に対して、用いられています。その目標や方法は、それぞれの設定や領域によっ
て異なっています。
「音楽療法とは」とのご質問に即答できないのは、この多様性の所以です。教育的・医療的・癒し的・心理療法
的・レクリエーション的・生態学的と、大きく6つ領域に分けられます。さらに専門的なことになりますが、「音楽」と「療法」の
まわりにある多くの学問分野の混合種なのです。単一で独立したものではなく「学際的」性質をもっているのです。
では「バンビ教室」の音楽療法とは…♪音楽療法での経験が子どもの日常生活全体に波及して、毎日を楽しく充実して過せるように
なることを目指しています。コミュニケーション行動を身につけることで、子どもの社会参加の権利を守りたいと思っています。ま
た、音楽的スキルを得ることで余暇を充実させ、よい人生をおくれるようにと願っています。♪歌うこと・楽器演奏すること・音楽
にあわせて身体を動かすことで、自分自身の身体を意識することが出来ます。身体を意識することは心を意識することです。身体認
知(ボディイメージ)が形成され、やがて空間での位置関係・距離感が養われ、動きの発達が促されます。♪また、音楽の「メロデ
ィー」は時間経過の知るための基本になります。開始・終止が分かりやすく、終わりを予測することが出来ます。
「リズム」は、時
間を一定の規則で分割したもので、規則性を知る手がかりになります。
「ハーモニー」は感情の動きに働きかけます。不協和音で緊
張を高め、協和音で安心感を得て、情動の発散・情緒の安定をもたらします。
このように、「バンビ教室」の音楽療法では、音楽の特長と機能を利用して、音を楽しみながら、子どもたちがより良い発達を保障
されるようにサポートしています。
【HP のご案内】おぐちこどもクリニック:http://oguchi-ped.cside.com/
日本音楽療法学会認定音楽療法士
ふぁみりぃさぽぉと
福井友子
ばんびぃの: http://fs-bambino.com/