校長室の窓から 『木を植えた男』~お勧めの 1 冊~ 西遊佐小学校長 黒 木 佳 昭 西遊佐小の子どもたちはとても読書好きです。図書委員長のKH君の呼び掛けによ り、全校で年間 7000 冊読破を目標に掲げて取り組んでいますが、1 年の折り返し地点 を少し過ぎた今、4179 冊(10/28 現在)、個人レースのトップを走る 1 年のIS君は 139 冊、2 年のOR君は 138 冊を、すでに読了しています。読書の秋、子どもたちに は、ますます、本に親しんでほしいものです。 「木を植えた男」という絵本があります。図書室で見つけた 1 冊です。表紙の絵が 遠い記憶の扉を開きました。たしか、ずっとずっと前にアカデミー賞を受賞した短編 映画があったはず。映画館で見た予告編映像の美しさが頭の片隅に残っていました。 読んでみて、誰かに伝えたくなる感動を覚えました。物語は次のような話です。 20 世紀初頭、フランスはプロバンス地方の話。山の中を旅し ていた若者が道に迷い、水も食糧もつきた頃、一人の初老の男に 出会い、山小屋に泊めてもらうことになった。夕食がすむと、男 はたくさんのどんぐりをテーブルの上に広げ、真剣な表情で選び 始めた。丈夫で大きなどんぐりを百粒。 翌朝、羊の放牧の合い間をぬって、男はそのどんぐりを荒れ地 に植えるのだった。聞けばこの男、妻と息子に先立たれてからは 気ままな一人暮らし。ある日ふと考えた。待てよ、人生の後半、 何か一つくらい世の中のためになることをやって、それから死ん だらいいじゃないか…。そうだ、木を植えよう。木のない土地は、 発行:あすなろ書房 死んだ土地も同然。荒れ地に植えたどんぐりが、やがて芽を出し 枝を伸ばし、どんどん成長して一本の木になり、林になり、森になったとしたら、どんなにすてき だろう…。 若者が男と別れてから多くの歳月が流れた。その間に2つの大戦が始まり、そして、終わった。 芽が出るものは少なくても、育つものは少なくても、男は、ただ黙々とたった一人で木を植えつづ けた。そして、かつての荒れ地は、いつのまにか緑したたる美しい森に生まれ変わっていた。 出会いとは不思議なものです。絵本を読んでからほどなく、これまたたまたま巡り 合った新井満氏作の『死んだら風に生まれかわる』 (河出書房新社刊)という随筆集で、 原作者のジャン・ジオノはフランスではたいへん有名な作家だということを知りまし た。なんと、この芥川賞作家は、本を読んで感動すると、その作者に自分の思いを伝 えたくなり、実際に会いに行くのだそうです。でも、原作者のジオノは既に亡くなっ ていた。そこで、墓参りのために奥さんと一緒にフランスまで出かけてきたというよ うなことが書かれていました。新井氏の『千の風になって』の訳詞を思い出し、 「~♪ そこに~わたしは~いません~♪」と天上より歌うジオノの風に吹かれてきたのだな と面白く思いました。新井氏は遊佐町とも薄くないつながりを持つ人で、先の著書に は、彼にとって恩師のような存在だった同じく芥川賞作家の故森敦の小説『鳥海山』 を顕彰した文学碑の除幕式が大平山荘で行われた時のことなども書かれています。 話を戻しますが、この絵本にもう1つの命を吹き込んでいる画家のフレデリック・ バックは、絵本の著者紹介欄で、 「この物語は、献身的に働くすべての人びとに捧げら れるとともに自分の手でなにをしたらよいかわからない人や、絶望の淵にある人には 心強い激励となるでしょう」とコメントを記しています。絵本の中には無償の愛の世 界観が通奏低音のように流れており、木を植えた男の抱いていた深い悲しみを察して 想像は拡がります。しかしながら、それは別として、見返りを期待せず、1人の男が ただひたすら木を植えつづけ森を作ったというこの話は、まさしく佐藤藤蔵さんの姿 にも似て、わたしは心が洗われる思いになりました。 「木を植えた」といえば、宮沢賢治の『虔十公園林』もわたしの大好きなお話です。
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