実践研究助成 小学校 研究課題 コミュニケーション能力に関する小中一貫 カリキュラムの展開と評価 副題 国語科・算数科/数学科・英語(活動)科を柱として 学校名 府中市立上下北小学校 所在地 〒729-3431 広島県府中市上下町上下1881-1 7 児童・生徒数 167名 職員数/会員数 16名 学校長 佐々木 研究代表者 池岡 ホームページ アドレス http://www.edu.city.fuchu.hiroshima.jp/ ^jougekita-shou 小学校 学級数 妙子 妙子 1.はじめに 2.研究の目的 府中市は子どもたちに生きる力をつけていくために、小中 子どもたちの生きる力の基礎・基本を育てるためには、小 一貫教育を平成20年開始としている。本校校区内は、中学校 中一貫教育を進めていく必要がある。課題であるコミュニケ 1校、小学校2校の3校であり、実践の交流を通して、3校 ーション能力を育成するために小中一貫した系統的なカリキ とも徐々にではあるが、考える力や表現力が伸びている実態 ュラム開発を行い、実践していきたいと考えた。これらを達 がある。また、広島県基礎・基本定着状況調査や府中市学力 成するためには、これまでの取り組みである国語科・算数科 テスト(ベネッセテスト)においても着実に力をつけ一定の (数学)・英語(活動)科、そして児童・生徒の実態から道 成果がみられた。しかしながら、今日的な課題であるコミュ 徳を加えた教科・領域を中心に取り組む。また、情報機器を ニケーション能力については、会話が繋がらない、相手に伝 有効に活用した学習活動を展開するためにIT活用研修も充実 えるという意識の弱さ、TPOに応じたコミュニケーションに させる。 ならないなど共通課題が明らかになった。 そこで、課題であるコミュニケーション能力を育成してい 3.研究の方法 くためには、9年間を見通した系統的なカリキュラムの開発 と実践が必要であると感じ、昨年度から研究を始めた。移行 ○9年間を見通した指導のあり方について小中合同研修、授 期である小学校高学年と中学1年生の連続性を重視したカリ 業実践(効果的なIT活用)と評価活動を行っていく。校区 キュラム編成を行い実践していこうと、中学校教諭とT・T 内合同で行うので小中一貫教育研究テーマや校区内の部会 による英語活動(年間3分の2のT・T)や算数科授業(単 と本校の研究を連鎖させ、図のような研究組織で行う。 元によるT・T)で授業研修を行ってきた。また「架け橋の ○英語活動では小学校高学年と中学1年生の移行期の連続性 日」設定により小学校教諭は中学校へ、中学校教諭は小学校 を重視したコミュニケーションを楽しむ9年間の系統的な で一日職場体験をすることで、児童・生徒実態把握と校種間 カリキュラム作成と授業の充実(ITの効果的活用・教材開 の文化理解を図るなど、連携を強めているところである。 昨年度までの実践をさらに高めていくために、コミュニケ 発・中学校教諭とのTT授業) ○国語科ではつけたい力を明確にした指導(単元構想の工夫、 ーション能力の育成に関する小中一貫カリキュラムの展開を 言語技術を生かした授業展開、デジタルコンテンツ使用の 図り評価することにより、子どもたち一人ひとりのよさや可 効果的学習) 能性を最大限に伸ばしていきたい。 ○算数科では小中の系統性を意識したカリキュラムの見直し を生かした授業の工夫 第32回 実践研究助成───95 ○道徳では中学校区内で共通の重点項目(思いやり2-②、 ウ.カリキュラムによる授業実践(効果的なIT活用・小中 信頼・友情2-③)を定め、コミュニケーションのベース 連携授業)○○○○○ になるよりよい人間関係の育成をめざした資料選定と授業 ○本校のカリキュラムでは、単 元の初めにビデオ視聴(NHKえい 改善 ごりあん)をしセンテンスに慣れて いく形をとっている。児童は大変興 研究組織図 府中市小中一貫教育の基本原則 味関心をもちビデオ視聴し、次の活 動への意欲となっている。また「ビ 上下町小中一貫教育研究テーマ ッグボイス」「アイコンタクト」「ビ ッグスマイル」をめあてにコミュニ 上下北小学校研究テーマ ケーションを楽しむ活動を仕組んで いる。単元の導入時にはビデオを積 カリキュラム部会 極的に活用しトップイメージを持つ 道徳部会(生徒指導) 教科部会 英語部会(進路) ことができめあてに向かって活動で (単元「ラップ」) Thank you. Please. Excuse me. I’m sorry. It’s OK. That’s all right. Yes. No. Yes and no. Here you are. You’re welcome 10 きた。また活動後にビデオ視聴する 国算プロジェクト 道徳プロジェクト 英語プロジェクト ことで評価が明確となった。本校のカリキュラムの特色の 一つとして、高学年では「ラップを楽しもう」の単元を設 定している。この単元ではラップのリズムに合わせて自己 4.研究の内容 紹介など多様なセンテンスの日常会話を口ずさむことで、 コミュニケーションの土台を築くことができ中学校との関 (1) 小中一貫カリキュラムでの授業実践 連を図っている。 また今年度は1月に初めて小中合同授業を行った。カ ①英語活動の実践 ○本校は低学年35時間、高学年70時間の英語活動を行っ リキュラム・授業展開・中学校教諭乗り入れ等を統一した ている。英語活動と英語科のねらいは異なるが、小学校の 上でそれぞれの学校で授業実践を行ってきたので、大変ス 学びを生かしスムーズな移行が図れるように、次の3点の ムーズに授業を行うことができた。中学校入学後の授業の 実践を行った。 段差がかなり低くなると感じた。本時は学習したセンテン ア.小学校授業で中学校教諭が専門性を生かした授業の展開 スを使って2校の児童がインタビューゲームを通してコミ 小学校2校に中学校教諭が乗り入れ授業(T2)を行う。 ュニケーションを楽しむ活動で、2校の友だちが楽しくコ 小学校2校での授業展開の基本を確認して日々の授業実践 ミュニケーションできること をしていった。中学校教諭の専門性を生かして発音指導や を期待したが、恥ずかしさが スキットのデモンストレーション、ゲームや発音練習の少 大きく同じ学校の友だち同士 人数指導をしながら評価活動にあたることができた。合同 での関わりが多かった。そう 授業を行うことで児童は他校の友だちとコミュニケーショ いった面もスムーズに移行で ンがとれ中学入学へ向けて安心感を得ることができた。指 きるよう、来年度は今年度以 導者も中学校教諭と共に授業を行うことで指導方法工夫改 上の実践を図りたい。 (小中合同英語活動の様子〉 善が図られた。 イ.小中の系統性を図ったカリキュラムの作成 小学校から中学校へスムーズな移行が図られるように、 2校の小学校のカリキュラムを系統づけ見直しを図った。 下記の表が英語科・英語活動のカリキュラムの一部である。 6 話しかけよう 年 答えよう 中学1年 授業後の児童の感想 ・これから中学校で一緒になる友だちと英語活動が楽しくで きてよかった。 ・今まで話したこともない友だちとインタビューゲームがで きて自信がついた。 中学2年 中学3年 教室で使われる英語 What am!?ゲーム 受身の文(肯定文) 身の回りの英単語 Be動詞の過去形 受身の文(疑問文とその応答) アルファベット 過去進行形(肯定文・疑問文・否定文) make+(代)名詞+形容詞の文 Where are you from? 自己紹介と簡単な挨拶 look+形容詞 私の日本文化紹介 ・・・・・・・・・・ I am You are の肯定文、疑問文、否定文 英語で日記を書く Hello. My name is 4月 Nice to meet you. What’s your name? クエスチョンマーク、コンマの役割 96───第32回 実践研究助成 ②算数・数学科の実践 スト結果から説明文を正しく読み取る力に課題があること ○算数科において本校は昨年度から集団解決後のまとめ が分かった。そこで今年度は言いたいことを論理的に伝え の段階に教科書準拠型デジタルコンテンツ(デンカケ君) る力をつけていくためにも言語スキル学習と説明文の読み を使用することで、児童に興味を持たせながら理解につな 取りに重点を置き実践を図った。またデジタル教科書を活 げている。視覚的にやり方、考え方が捉えられることで子 用することで興味・関心を高め定着に繋げた。 どもたちは大変意欲的に授業に望み、定着率も高い。また 2年生「サンゴの 算数的コミュニケーションを図るために低学年では発表の 海の生きものたち」の 仕方スキルを活用しながら発表することでコミュニケーシ 単元では、導入時にデ ョンの広がりがみられる。 ジタル教科書を活用し、 動画で海の生き物たち に着目させ、どんな生 き物たちが、どんな生 き方をしているかの本 文の問いかけへの興味づけを図った。児童はクマノミとイ 関わりをしているかを読み取るきっかけづくりとなった。 また主語に着目した指導を行う際、本文を提示し全体で確 認しながら進めることで主述の関係を速やかに捉えること ができた。また進出漢字を学習する際、動画にあわせ繰り 返し書き順の確認をすることができ、正確な書き順の定着 につながった。 ④道徳の実践 ○上下校区の児童・生徒の実態として(府中市テスト・ 広島県基礎・基本定着状況調査より)、自己効力感が低い ことが明確になったので、今年度から道徳を研究に組み入 れた。校区で重点項目を「思いやり2-(2)」「信頼・友 情2-(3)」にしぼり、共通教材の選定を行い実践して いった。下の表は教材選定した一部である。 思いやり・親切2-(2) 資料名 ○校区の一つの組織である算数カリキュラム部会では 算数科5・6年生から中学1年生の関連を再度見直した。 中学1年生数学科への段差を低くしていくために小学校教 友情・信頼・助け合い2-(3) 出展 資料名 出展 6 積極的に話そう 書かれなかった遺書 日本標準 青葉出版 ロレンゾのともだち 日本標準 走れメロス 教育同人者 中1 夜のくだものや 小さな勇気 あかつき 正進社 七球め 正進社 諭が中学1年生の数学科「比例」の授業にT2として入り 小学校の学習から中学校の学習に授業を繋いだ。小学校で ○導入で自分たちが取り組んだ音楽祭をビデオ視聴した 学習した「きまった数」が「比例定数」と言い表され、 り、授業後は板書をデジカメで撮り授業を振り返ったりす 「ことばの式」が「y=ax」で表せるなど小学校の学習し るなど、道徳においても積極的にIT活用を行った。小中合 たこともとに中学校の 同授業研究会を重ねることで、授業改善につながり、児 内容へと繋いでいくこ 童・生徒は自分の思いを出し合い交流し合うことで価値葛 とで段差が低くなった。 藤できるようになってきている。また、自己効力感も少し 今後も、今年度の指導 ずつ高まってきた。 案やワークシートなど をポートフォリオする 5.研究の成果と今後の課題 など実践を広げ蓄積し ていきたい。 ③国語科の実践 ○国語科では、コミュニケーションに課題がある児童・ 生徒の実態から「話す」「聞く」の領域において系統表を 作成した。本校ではCRT(標準学力検査)や府中市学力テ (1) 研究の成果 ○カリキュラムの見直しを図り、校区内の3校で合同授業 研究会を重ねることで、小学校から中1への段差を低くする 授業実践ができた。 ○言語スキル学習を継続し授業の中での活用を図ることで、 第32回 実践研究助成───97 小学校 ソギンチャクを画像から捉え、それぞれの生き物がどんな 児童は結論先行やナンバリングを使って相手に分かりやすく ○今一度中学校と連携を図り、コミュニケーション能力の 伝えようとする意識が高まり、自分の考えを交流しあう中で 定義を明確に捉えなおし、「どこに」「何に」重点をおき授業 学び合いが広がってきた。 していくのかを明確にした上で実践していく必要がある。 ○分かる授業にむけて、デジタルコンテンツの使用などIT 活用を積極的に取り入れた授業実践が行われた。またDVD 6.おわりに カメラ等を活用し児童の思考過程や学び合いの様子、プリン ト類の記録の蓄積が簡単にできた。必要なデータを3校で次 ○研究を通じて、改めて小中一貫教育の大切さを感じ、校 年度以降も容易に活用できる。 区内の学校と連携を図りながら多様な実践を行うことの重要 (2) 今後の課題 性を認識した。研究助成をしていただいた松下教育研究財団 ○系統的なカリキュラム作成にとどまらず、授業展開、効 果的なIT活用等授業改善を図る。 98───第32回 実践研究助成 に厚くお礼を申し上げます。
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