目 次 財務管理[16] 16-1 配当政策とは 配当政策 16-2 配当政策に関するMM理論 16-3 配当政策が投資政策に 及ぼす影響 中村学園大学 吉川卓也 16-4 自己株式取得 1 16-1 配当政策とは(1) 2 16-1 配当政策とは(2) • 配当政策とは 企業があげた残余利益(会計上の純利益)の うち、どれだけを配当として株主に支払い、残 りを内部留保とするかを決めること。 • 企業が生産活動により得た収入から、さまざま な経営資源提供の見返りに支払った対価(原 材料費、販売費、給料、支払利子等)を引き、 さらに税金を払った残額は、残余利益として株 主に帰属する。 • この会計上の税引後純利益にあたる金額は、 その全額を株主に分配することもできるが、通 常、その一部は内部留保され、投資資金に使 われる。残余利益の分配をどのように決める かを配当政策という。 3 16-2 配当政策に関するMM理論(1) 4 16-2 配当政策に関するMM理論(2) • 配当政策に関するMM理論とは 「投資計画が決まっており、資本構成も変え ないとすれば、配当政策は株価に影響を与え ない」 • 配当政策が株主の利益にどのような影響を 及ぼすかを考える出発点として、配当政策に 関するMM理論を説明する。 5 • 必要な資金を内部留保でまかなう場合、企業 は、利益のうち、投資に必要な資金を内部留 保にまわすので、その分、配当を少なくしなけ ればならない。 • もし配当を増やすなら、内部留保は減るので、 その分を何らかの形で外部資金により調達す ることになる。 • この際、資本構成が変化しないためには、負 債ではなく株主資本での調達、すなわち増資 6 でおこなうことになる。 1 16-2 配当政策に関するMM理論(3) 16-2 配当政策に関するMM理論(4) • 総投資額 =減価償却費+内部留保額 (内部資金調達) +負債純増額+増資額 (外部資金調達) • 減価償却費の全額が、既存事業の更新投資にあて られたとすれば、 総投資額-減価償却費=純投資額 • したがって、 純投資額=負債純増額 (負債資本調達) +内部留保額+増資額 (株主資本調達) すなわち、企業がある投資計画(投資政策) を決めており、資本構成も変えないとすると、 • 配当と内部留保の割合を決めること(配当政 策) • 株主資本調達のうちの内部留保と増資の割 合を決めること は同じである。 7 8 16-2 配当政策に関するMM理論(5) 16-2 配当政策に関するMM理論(6) ①配当金額を増やすという配当政策をとった場合 ②配当金額を減らすという配当政策をとった場合 • 投資政策(投資計画)を変えないなら、投資に必 要な資金は、新たに株式を発行する増資でまか なわなければならない。 • 投資に必要な資金は、内部留保で十分まかな えるので、増資の必要はなくなり、株式数は変 わらない。 • 増資をすれば株式数が増える。投資により、将 来のキャッシュフローが拡大し、企業価値すな わち株式時価総額は増加するが、株式数が増 えているので、株式時価総額を株式数で割った 株価はあまり上昇しない。 • 投資により、将来のキャッシュフローが拡大し、 企業価値すなわち株式時価総額は増加するの で、増加した株式時価総額を株式数で割った株 価は、株式数が変わらない分、①のケースより 上昇する。 9 16-2 配当政策に関するMM理論(7) 10 16-2 配当政策に関するMM理論(8) • 株主が受け取る報酬は、配当だけではなくキャ ピタルゲインも含まれる。 ①のケース • キャピタルゲインは②のケースより少なくなる。 株主にとって、配当は増えるがキャピタルゲイ ンはあまり増えない。 ②のケース • 株主にとって、配当は減るが、より多くのキャピ タルゲインの受け取りが可能となる。 11 • ①と②のケースを考えると、配当金額を増やす という配当政策をとっても、配当金額を減らすと いう配当政策をとっても、配当とキャピタルゲイ ンの合計金額は変わらないということになる。 • したがって、株主の利益は、配当政策によって 影響を受けないことになる。すなわち、現在の 株価は、配当の大小によっては変わらないとい 12 う結論になる。 2 16-3 配当政策が投資政策に 及ぼす影響(1) 16-3 配当政策が投資政策に 及ぼす影響(2) • 配当政策に関するMM理論は、投資政策を含め、 企業の実際の生産活動に違いがなければ、配 当政策などの財務政策を変えても、企業価値を 高めることはできないということを意味している。 • もしMM理論(の仮定)が成立せず、配当政策が 異なる場合には企業の投資政策も異なる(投資 計画が変わる)のであれば、配当政策は企業価 値に大きな影響を及ぼすことになる。 13 (1)配当を押さえた方が望ましい場合-内部資金 の有利性 • MM理論は、配当を増やすことにより投資資金が 不足したら、適正な株価で増資することより、投 資資金を調達できることを仮定している。 • しかし、たとえば、増資などの外部資金調達コス トが割高である場合に、配当を増やすという配当 政策をとるために内部留保を減らすと、投資に必 要な資金が不足してしまい、有利な投資を行え ないという事態が発生する可能性がある。 14 16-3 配当政策が投資政策に 及ぼす影響(3) 16-3 配当政策が投資政策に 及ぼす影響(4) (2)配当を高めた方が望ましい場合-フリーキャッ シュフローの株主への分配 • (1)のケースでは、配当を押さえ内部留保とい う内部資金を確保した方がよい。 • 企業が生み出したキャッシュフローのうち、企業 内部でプラスの正味現在価値をもつすべての 投資を実行するのに必要な資金を上回る資金 を、フリーキャッシュフローという。 • (2)のケースでは、利益を配当してしまう方が 望ましい。 • 経営者が配当を抑えて内部資金を必要以上に 蓄積し、それを採算に合わないような投資や資 産の獲得に使えば、資本効率は低下し、非効率 的経営におちいってしまう可能性がある。 15 • 現実には、配当政策はこうした問題を考慮し て決定される。 16 16-4 自己株式取得(1) 16-4 自己株式取得(2) • 株主に対する利益分配の方法として、配当以外 に自己株式取得(自社株買い)という方法があ る。 • 自己株式取得と配当が同じ機能をもっている ことを、以下の数値例で考えてみよう。 • アメリカではさかんにおこなわれていたが、 1995年から日本でも可能になった。 • 株価が500円、発行済株式数が20万株の企 業がある。今期の利益1000万円を全額、配 当したとする。 • 配当を増やす形で利益を株主に分配すると、そ の配当を維持するように市場から要求されるこ とが多いので、一時的な利益増は、自己株式取 得の形で株主に分配することが多い。 17 (例題16.1) (1)1株当たりの配当はいくらか。 (2)配当を支払った後の株価はいくらか。 18 3 16-4 自己株式取得(4) 16-4 自己株式取得(3) (例題16.1の解答) • これに対して、企業が配当ではなく、利益 1000万円全額を自社株買いにあてたとする。 (1) 1000万円 ÷ 20万株 = 50円 (2)支払った配当分だけ株価総額は下がるので、 1株当たりの株価は、 (3)この企業は市場から何株買い戻すことがで きるか。 (500円× 20万株 − 1000万円) ÷ 20万株 = 450円 (4)自己株式取得後の株価はいくらになるか。 (5)1株保有している株主の利益は、2つのケー スで変わるか。 となる。 19 16-4 自己株式取得(5) 16-4 自己株式取得(6) (例題16.1の解答) (3) 20 • (5)1000万円を配当に当てた場合、1株保有し ている株主は、50円の配当と450円の株式を保 有している。 1000万円 ÷ 500円 = 2万株 (4)発行済株式数は、 20万株 − 2万株 = 18万株 となる。1000万円分が株価総額から差し引か れるので、1株当たりの株価は、 (500円× 20万株 − 1000万円) ÷ 18万株 = 500円 21 • 1000万円を自社株買いにあてた場合は、自社 株買いを実行する前と後では、株価は変わらな い。 • したがって、自社株買いに応じた1株保有株主 は、500円を受け取るし、自社株買いに応じな かった株主も500円の株式を保有することにな る。 22 16-4 自己株式取得(7) • つまり、配当にあてる場合も、自社株買いを おこなう場合も、株主の利益は変わらない。 • なお、企業が買い戻した自社株を保有し続け る場合、買い戻された株式を金庫株という。 • 金庫株は、企業に資金需要が発生すると売 却されたり、ストック・オプションとして従業員 がオプションを行使する際に使われたりする。 23 4
© Copyright 2024 Paperzz