- 7 - た場合には、より低温での溶融紡糸が可能となる。P CS−PVS

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Vol.16-2
矢島教授はポリカルボシラン(PCS)からの炭化ケイ
照射してセラミックス収率への影響を調べた結果で
素系長繊維の開発に成功し、不融化処理としては空
は、PCS単独繊維よりもより高い線量照射が必要で
気中熱酸化を行った。しかしこの方法では繊維内の
あった。
酸素が1573-1773Kの温度範囲でCOもしくはSiO
近年、電子線照射不融化過程を利用して前駆体
の形で脱離するため、質量減少、結晶化、繊維強度
繊維表面を優先的に強く架橋した後、中心部の溶媒
低下などの原因となった。その後、岡村−瀬口により、
抽出、焼成によりSi−C−O組成のセラミックスマイク
紡糸PCS繊維に対してγ線あるいは電子線照射を
ロチューブが合成出来ることが報告されている。また
利用した無酸素での不融化法の研究を行って、大幅
PCSとポリシロキサン系ポリマーをブレンドして溶融
に耐熱性を高めた炭化ケイ素繊維(過剰炭素含有)
紡糸を行った場合にも焼成後に類似のチューブ状
が開発され、市販されるようになった。続いて酸素を
形状が得られることが分かった。上述の繊維やマイク
含まない前駆体繊維を水素リッチ雰囲気で焼成する
ロチューブ以外にも基盤上へ前駆体のキャスト、プリ
と過剰な炭素がメタンの形で除去される現象が見つ
ント、焼成により耐熱性セラミックスの微細構造体を
作製する試みがなされている。一例として、常温では
粘性を持つ液体であるPVSを金属板の「型」にキャス
ト、放射線照射、焼成を経てSiC組成の歯車を作製
したものを図4に示す。この場合、体積収縮は激しい
ものの、基盤から自然剥離するので、独立の部材の
作製が可能である。
ここで一部紹介したような前駆体への放射線照射
技術は、新規のケイ素系セラミックス繊維の開発と超
耐熱性セラミックス基複合材料への応用という形で多
大の成果を収めつつある。今後高温、耐環境用途の
図4 放射線照射を応用した炭化ケイ素微小
構造体の作製例
開発にむけて将来への大いなる展開が期待される分
かり、化学量論組成に近い繊維が開発された。PCS
と広い範囲で相溶性を示す有機ケイ素ポリマーのポ
リビニルシラン(PVS)を、PCSとブレンドして溶解し
た場合には、より低温での溶融紡糸が可能となる。P
CS−PVSブレンド繊維に不活性雰囲気下で電子線
野である。
今回でエキゾチックビームシリーズも4回目となり、
改めて放射線が実に様々な分野で利用されているこ
とを再認識させられた。第5回にはどのような話題が
飛び出すか楽しみである。
(大嶋記)
第33回UV/EB研究会報告
今回は普段と少し趣を変え、毎年夏休み中に開催される「みんなのくらしと放射線展」に協賛する形で、その
会期初日の8月11日に、同展が開かれた扇町キッズプラザ3階のサイエンスサテライト・多目的ホールをお借り
して開催した。そのため、講演のタイトルも一般的な放射線利用に焦点を合わせたものに主体が置かれ、午前
中に内閣府原子力委員会の町末男委員に、イベントに相応しい「放射線利用の国際的な広がり」のタイトルで話
して頂き、さらに午後からは(財)環境科学技術研究所の小木曾洋一氏と大阪市立総合医療センターの福西康
修氏に、それぞれ下記の標題で話して頂いた。
1.放射線利用の国際的な広がり
①エネルギー:省エネを心がけるとともに化石エネ
内閣府原子力委員会委て員 町 末男
ルギーの効率的利用に努め、新エネルギーと原子力、
放射線利用の話に入る前に、まず、原子力委員会
それぞれの特徴を生かしたベストミックスを追及しつ
が昨年10月に定めた新しい原子力政策大綱(以前
つ、2030年以降も原子力を総発電電力量の30∼
の同長期計画)について話された。
40%以上の水準に保つ方向で進める。
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高速増殖炉は研究開発を着実に進め、2050年頃
量の殺虫剤が環境を汚染していた国々で、不妊虫に
から商業ベースの導入を目指す。そのために今後、
よる撲滅が成功している。ツエツエ蠅など病原菌を媒
人材を育成・確保する目的で、また、原子力と国民・
介する害虫の撲滅にも威力を発揮している。ジンバ
地域社会の共生をはかるためにさまざまな効果的取
ブエでは空気中の窒素を固定するバクテリアをアイソ
り組みをする。
トープを利用して選別し、効果的なバイオ肥料を製
②放射線利用:安全確保を前提に、より広汎な分
造して収穫量を増やしている例もある。
野における利用を推進し、かつ、その効用と安全性
先進国のアメリカでも食品照射が進んでおり、とくに
についての理解を進めるために、医・農・工学等の分
最近ではハンバーグ用ひき肉まで食中毒対策として許
野間連携、事業者・国民・研究者間で相互交流ネット
可され、スーパーに並んでいる。香辛料をはじめとして
ワークを整備すること、科学技術活動に効果の大き
食品照射はいまや世界中で利用されており、日本もそ
い先端的設備・施設を整備することなどの目標が示
の実情に早く目を開いて欲しいものである。
この後、世界のエネルギー事情に話が移った。周
された。
以上が要約で、この大綱作成に関わられた委員ご
知のように、CO2増加による地球温暖化がもたらす各
自身から、直接、説明を聞くことが出来た。奇しくも、
地の熱波や異常気象などの問題は現代社会に大き
筆者はこの講演会の前々日に香辛料の照射滅菌に
く影を落としつつあるが、世界的に著名な環境学者
ついて「ご意見を聞く会」に出席する機会を得たが、
が「幻想的な新エネルギーを実験している時間はな
この政策大綱が、これまで停滞して来た食品照射の
い」とし、原子力発電をその解決策として推奨し始め
進展にきっかけを与えたと聞いている。そうであれば、
るなど、世界は今、原子力ルネッサンスともいえる状
今回策定の意義は大きいと感じた。
況にある。中国、インド、インドネシア、ベトナム、そし
本題に入って、まず、国内の放射線利用は①新材
てアメリカでそれぞれの実情に応じて新しく開発また
料の開発、②環境にやさしい農業、③切らずにガン
は増設の動きが見られ、フランス、イギリス、フィンラン
を治す先進医療などが特に目立っている。①では放
ド、ベルギー、ポーランドなど、欧州でも同様の方向
射線架橋によって作られたハイドロゲルが傷や火傷
で進んでいる。今年7月のG8サミットでは原子力は
の治りを速くする新しい材料として話題になっており、
安全でクリーン、確実な電力源であるとし、核不拡散
すでに商品化もしている。②の一つは放射線によっ
と安全を前提に原子力を推進することを議長総括し
て不妊化された虫を放って薬品を使わずに害虫を根
ている。
こそぎ退治する方法で、沖縄のウリミバエ駆除により
本土で苦瓜が食べられるようになった話は有名だが、
その後、イモを食害するゾウムシなどにも試みられ、
すでに70∼80%まで成功している。また、梨でよく
知られる病気に強い植物品種の創生や食品包装材
の無菌化なども、いずれも農薬の使用を減らせる、環
境に優しい技術と言える。③は重イオンの特性を利
用した新しいピンポイント医療の技術である。最近は
さらにCTやPET診断が加わり、がん治療への放射
図1.国別IAEA職員数の比較(2005 年)
線技術が急速に進んできた。さまざまな医療用具の
殺菌・滅菌も今はほとんど放射線によっている。
発展途上国においても上記と同様な放射線の利
用はいまや不可欠であり、それぞれ大きな経済効果
をもたらしている。実際、地中海ミバエなどの害虫に
よる食糧の損失が30%にも達するメキシコ、チリ、カリ
フォルニア、ペルー、アルゼンチンなど、これまで多
最後に、これらの放射線利用を発展途上国で実
施したり、原子力の問題を国際的に論議する機関
はIAEAだが、こうした国際機関で活動する日本
人が極めて少ないと指摘され(図1)、この問題
の改善には、一つには英語教育の改革が必要であ
るが、さらに、今後の日本人社会では、これまで
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美徳とされて来た協調性に加えて個性の価値を
純な計算であてはめて見積もることが出来ない低線
高め、両者をバランスよく発揮できる社会を作っ
量域での実証的なデータを得ることによって理解を
て行くべきであると提言された。まさに国際人な
深めようとするのがこの研究の目的である。
具体的には表1を基にした線量・線量率の定義に
らではの心底からの訴えと受止められる。
したがって低線量率の範囲にはいる1日あたり①0.05
2.低線量放射線の影響
mGy、②1.0mGy、③20mGyの3通りの線量率を設
(財)環境科学技術研究所
生物影響研究部 小木曽洋一
放射線施設などで常に問題となる低線量の放射
線を持続的に受け続けた場合、寿命にどのような影
響が見られるか、マウスを使ってこれまでに得られた
データをもとに話して頂いた。
標記の研究所は青森県六ヶ所村の核燃料再処理
施設の近くにあり、低レベル放射線の生物影響につ
いては、正しい理解がまだ十分ではないとの観点か
ら、実証的な研究を通して安全性を調査する目的で
設立されており、現在、放射線の①分布と動態、②循
環、③生物影響のテーマで研究が進められている。
放射線の人に対する影響については歴史的に原
爆被爆者の高線量率、1回被ばくのデータが多量に
蓄積されている。それによれば白血病の発生が被ば
くの10年後にピークに達すること、それ以外の固形
定して、病原菌を持たない特殊なマウス500匹ずつ
に、それぞれのレベルで平均寿命の約半分にあたる
400日間連続で照射した後、その後の寿命に与える
影響を調べた。総線量で見ると、①は職業人の年限
度に相当し、低線量の範囲にあるが、②は原爆被爆
者の平均被ばく量で中線量、③は一時に浴びた場
合、30日以内に半数が死亡する高線量である。
図2はオスの結果で、メスではわずかに違いがある
が、まとめると、①の場合には影響が無く、②ではメス
のみ20日、③ではオス、メス平均して100∼120日
の寿命短縮が見られた。短命化の原因は悪性リンパ
腫と、一部、腎炎、肺炎などの早期化と見られ、腫瘍
の発生率には雌雄で差が見られた。一つ、興味深い
点は、メスに特異な現象として、②、③の場合に体重
の増加が見られ、ストレスによる肥満が原因ではない
ガンは200mSv以上で増加すること、遺伝的な影響
オス
は見られない、ガン以外にも高血圧、脳梗塞、心筋
梗塞、肝炎、白内障なども増加している、などの事実
表1.線量・線量率の区分
線量率
(mGy/分)
(mGy/日)
線量
(mGy)
低
中
高
< 0.1
0.1~99
100 ≦
< 144
< 200
日齢
図2.連続照射マウスの生存率曲線
144~144,000 144,000 ≦
200~2,000
2,000 ≦
かと考えられる。
ここで述べられた結果は平成7年から9年間にわた
(国連科学委員会1993年報告)
って行われた研究の成果で、それ以降も、子孫への
が認められている。
一方、米国科学アカデミーや仏・ガン国際研究所
影響、ガン発生の仕組みや対応する遺伝子の特定、
なども疫学的調査をもとに100mSvでガン死や白血
染色体異常など生物学的指標を用いた被ばく線量
病の増加があるとしているが、それが純粋に放射線
の評価法の開発などの研究を進めているということで
によるものかは不確定である。つまり、それらは線量
ある。それにしてもこれだけ多数の生き物を落ち度無
がどんなに少なくても、影響は被ばく線量に比例して
く飼育して、長期間にわたって信頼性のあるデータを
現れるとの根拠によっており、実際には影響が出るま
得る作業は大変なことだろうと思った。
でに一定の閾値があるとの説もある。したがって、単
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3.人と医療と放射線
どの技術革新とコンピュータ技術の急速な進歩によ
― レントゲン写真から三次元画像への発展 ―
って動きのある部分の造影も可能になり、体中どこを
福西康修
とっても10秒以内、分解能も0.3mmというレベルに
最後に、放射線の医療への応用が診断の分野で
至っている。それによって一つの断面だけでなく、た
どのように進んで来たか、について話してもらった。レ
て、横、斜めの断面観察が可能となり、立体的な血管
ントゲン博士がX線を発見し、その透過力に着目して
造影像の描出などへ応用が広がった。現在ではデー
奥さんの手を撮影したのが約110年前。指輪と一緒
タ取得のスピードアップにより心臓の動きを見ることも
にはっきりと映し出された指の骨の写真は印象的で
出来る。また、見る位置が選べるので外側からだけで
ある。その後、この技術は博士の特許放棄の決断も
なく血管などを内側から見る仮想内視鏡といわれる
寄与して、胸部写真など多くの医療分野に応用され、
手法が使えるようになって、さらに生々しい体内観察
技術の改良も経て来たが、その間、画像の記録は長
が可能になっている。
大阪市立総合医療センター
い間、当時と同じ銀塩写真のフィルムであった。しか
放射線が活躍するのは他にも核医薬品がある。
し、現在はそれがイメージングプレートに変わり、より
SPECTやPETなどがそれで、静脈から注入した放
精度の高い画像のデータがデジタル化されて取り出
射性物質がそれぞれの特性に応じていろいろな部位
せるため、濃淡の調整やスムージング、反転などコン
に集まり、そこから出す放射線をCTと逆の原理で観
ピュータによってさまざまな処理を施して観察すること
測することによって、部位の形を造影したり、動的な生
が出来るようになった。その上、最近ではネットワーク
体機能や血流、代謝の診断を行うことが出来る。
を通して多くの他の部署とデータを共有することも出
今回は治療までは触れられなかったが、そのうちで
来る。実際、メインサーバーには胸部、腹部などの一
も、X線透視で確認しながらカテーテルを使って行うイ
般撮影画像のほか、透視、アンジオ、CT、MRIなど
ンターベンション治療は切開手術を伴わないので患
の装置からのデータもすべて蓄積されており、当医
者の負担も軽く、医療経費も節約できる方法として注
療センターの場合、約600台の端末が繋がっていて、
目されている。
このように最近の医療の進歩を改めて見、聞きする
これらを共有している。
今、病院でX線がもっとも活躍しているのはCT装
と、今や切らずに見る技術の応用はとどまるところを
置である。周知のようにCTは体の回りを取り巻くドー
知らないように見える。データのデジタル化とコンピュ
ナツ状の円筒内で
線源が回り、体内を
ハウンズフィールドの医療用設計による最初のEMI製医療用CT
ータの進歩を考える
と当然と頷ける話で、
輪切りにした断面
実際に血管の中を
画像のデータを取り
見ながら自由自在に
出す装置で、1972
走り回る動画を見た
年に英国のハウン
りするのは実に壮観
スフィールド博士に
でインパクトがあっ
より開発された。博
同上を用いて撮られた
生きた人間の脳のCT像
80 x80 ピクセル
ロンドンの Atkinson-Morley
病院で J. Ambrose との共同
研究が行われた。
士はその功績で後
にノーベル賞を受
けたが、日本では
その装置が1975
ただ、こうした画像
はある意味作られた、
いわゆるヴァーチャ
ルなものなので、実
体との違いも常に意
年 に 始め て導 入 さ
れた。
た。
図3
初期のCT装置と開発者
最初は動きの無い脳の画像に応用されるだけであ
識しておくべきでは
ないかと感じるところもあった。
ったが、その後、測定時間の短縮やマルチスライスな
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(藤田記)