認知症の入院治療 北見赤十字病院 神経精神科 嶋田 進一郎 認知症の種類 • アルツハイマー病 見当識障害が強い 短期記憶の障害 • ピック病(前頭側頭型認知症) 反社会的性格変化 常同行動 • レヴィ小体病 幻覚 視覚野の障害 薬剤過敏性 パーキンソニズム • 脳血管性認知症 脳梗塞、脳出血による 老化 階段状に進行 • クロイツフェルト-ヤコブ病 急速に進行 不随意運動 孤発・遺伝・変異・医原 ①当科での入院治療 • • • • • • 普通来院(午前11時まで) 他院、施設等からの紹介(午前11時まで) 救急来院(興奮など、緊急の治療が必要) 家族のみの相談・来院→後日の入院予約 保健師、行政等からの相談→家族と面談 身寄りがなく単身→行政との協議 入院での治療経過 画像検査にて 認知症の所見がある→向知性薬投与、リハビリ ない→他の病気や環境の問題を疑う、治療 向知性薬投与にて 認知症の改善がある→自宅や施設へ退院 ない→身体状態も検討し、長期療養のできる病院へ ②入院から在宅に戻った症例 • 62歳女性。精神科通院歴なし。夫と二人暮らし。6ヶ 月前より「家の中に泥棒がはいる」と言い出し、次第 に夜も寝なくなり、北見市内の病院を受診。入院と なるが、症状改善せず、当院に転院となる。 • 受診時興奮、妄想著明、医療保護入院となる。 • 入院後の脳血流シンチにて両側頭頂葉、後頭葉、 後部帯状回の血流低下認められ、アルツハイマー 病の診断にてアリセプト投与開始。 • 入院後、興奮・幻覚は2週間ほどで消退、日常生活 も改善。外泊を経て、三ヶ月後退院となる。 ③在宅に戻れなかった事例 • 57歳男性。単身で生活。日常生活能力の低下から、 食事をとらなくなり、オホーツク管内の施設に入所。 • 入院後、せん妄状態となり、当院救急外来受診。 • 受診時せん妄、興奮状態著明、医療保護入院。 • 脳血流シンチにてアルツハイマー病の診断。向知性 薬投与。せん妄、興奮は一週間ほどで消退するが、 日常生活能力の改善は認められなかった。 • 嚥下機能障害が出現、胃チューブでの栄養となる。 • 寝たきりの状態が続き、5年間の入院後、肝細胞癌 にて永眠。 ④-1 統合失調症との併発.1 • 67歳女性。かなり以前から、人に見張られている、盗聴され ているといった被害妄想があったが、病院に行くと殺されると 訴えるため精神科は受診していなかった。 • 近所に姉弟が住んでいるが、関係は疎遠で放っていた。 • 無職、結婚歴なしで親の遺産で食べつないでいたが、昨年 の暮れに使いはたし、それでも本人は「億のお金が入って来 る」と話していた。 • 民生委員の介入により、物にくるまって動かない本人の状況 を知り、弟近医受診すすめ、本人も同意したが、食事を取る と元気になり、人の話を聞かなくなり、受診にはいたらな かった。 • 姉弟が、母の家が残っているため遺産の手続きがしたいと 持ちかけるが「姉弟にお金を貸している」など金銭に固執し ており、自宅に鍵をかけてしまい、声をかけても信用しない。 また詳細は不明だが、他人にも迷惑行為があるようだ。 ④-1 統合失調症との併発.2 • 包括センターに相談し、いろいろ滞納している事など話し合う 予定であったが、話にならず半ば強制的に来院した。車内で は、受診をいやがって暴れたため、家族に両足をしばられて 来院。受診時興奮状態著明、医療保護入院となる。 • 入院後の脳血流検査でアルツハイマー病の所見認められる が、経過から統合失調症の可能性も高く、合併症として治療 すすめていった。興奮状態は改善するが、日常生活能力が 低く、単独での生活が困難なためケアホーム入所となる。 • 母の家は既に処分されているが、未だに「(母の)家に帰る」 という発言があり、現状認識できていない。服薬・通院も やや拒否的であり、時折の入退院を繰り返す。 ④-2 アルコール依存症との併発.1 • 57歳男性。平成16年に北見で飲食店を開店。 18歳頃より飲 酒開始し30歳を過ぎてから飲酒量が増えていき40歳過ぎよ り連続飲酒をするようになった。 • 15年前より自分の店を始めて飲酒量が多くなった。 • ここ2~3年位は起きているときは常に飲酒している • 飲酒している時は性格がガラッと変わり、暴言や物にあたる • 本人に断酒の意志はないが、家族が昔の父親に戻って欲し いとの希望で、受診となった。 本人はあくまで入院拒否した ため、医療保護入院になる。 • しかし、途中で妻より任意入院への切り替えの希望あり、任 意入院となる。本人より退院の希望あり、退院となる。断酒 への意欲は認められない。当院通院も希望せず、治療終了 とする。 ④-2 アルコール依存症との併発.2 • その後、当院とは別の精神科病院にアルコール依 存症の治療で入院していた。その後は断酒も半年 間成功。 • しかし、半年後より連続飲酒始まり、糖尿病も悪化。 妻が身体合併症の治療を希望され、妻と救急外来 受診。本人は入院拒否したため、妻を保護者として 医療保護入院。入院当初は治療への拒否強かった が、酒が抜けてくると同時に治療への意欲見せ始め、 院内断酒例会にも参加するようになる。 • 妻は離婚の方向で考えており、自宅は借金の返済 のため売却、本人は単身で生活することとなる。外 泊も問題なく経過、退院。 ④-2 アルコール依存症との併発.3 • 単身での生活後も連続飲酒と入院を繰り返していた。 • ある日、連絡が途絶えたことを不審に思った別居の 娘が部屋を訪れると、意識を失っていた父を発見、救 急車にて受診。低血糖による意識障害との診断で当 院ICU入院。 • 次第に意識は回復するが、自分の年齢は20代であ ると思っており、ここ20年の記憶がない。脳血流シン チでもアルツハイマー病の所見はあるが、低血糖が 長く続いたことによる脳障害の可能性も考えられる。 • 連続飲酒時の記憶がなく、うまくいけば家庭再構築も 可能と思われたが、嚥下機能障害により食事摂取不 能、肺炎を繰り返しており、身体的には危険な状態。 ⑤せん妄の対処方法 1 原因別対処法 • 認知症性 必ずそれまで何らかの予兆があ る 早めの相談、服薬 • 薬剤性 ベンゾジアゼパム系薬剤等の中止 • 身体性 身体治療を優先 • 心理的 不安の除去 家に帰ることも選択 ⑤せん妄の対処方法 2 薬剤による対処 • 寝ない、しゃべり続けるなど軽めのせん妄 →対話、ロゼレムなど非ベンゾ系睡眠剤 • 動き回る、指示に従えない →外に出ないよう注意、ジプレキサ2.5mg・リスパダール0.5mg等向精神薬 を少量 ジプレキサは血糖に注意 • 大声、攻撃的、暴力的など興奮著明 →興奮してからでは内服して頂けないこと多い 内服できたらジプレキサ5 ~10mg、リスパダール1~2mg 日中は穏やかである場合多いので、 昼過ぎ~午後三時頃に内服→高齢者は代謝が遅いので夜になってちょ うどよく効くことが多い 認知症せん妄では急にはこの状態にはならない • 他者への暴力、刃物を持ち出す、放火 →すみやかに警察に通報 認知症自体の治療 向知性薬 • ドネペジル(アリセプト)‥1999年 最初の向知性薬 興奮作用強い • ガランタミン(レミニール)‥2011年 興奮作用はやや弱 作用時間短い • メマンチン(メマリー)‥2011年 併用が可能 鎮静作用あり • リバスチグミン(リバスタッチ)‥2011年 内服できない場合に使用 認知症周辺症状(BPSD) 周辺症状の治療 • せん妄、妄想 セレネース、リスパダール、ジプレキサなど向精神薬 • 攻撃性、徘徊、性的逸脱 抑肝散、メマリー、デパケン • 抑うつ状態 リフレックスなど弱めの抗うつ剤 • 不安、焦燥 抗不安剤は一種類、できるだけ少なく→せん妄予防 認知症との鑑別が必要 • • • • • 未治療の統合失調症 うつ病 心因反応 正常圧水頭症 薬剤性せん妄 認知症は「急激には発症しない」 ⑥関係者の皆様へ • 認知症は「急激に発症する病気」ではありま せん • 「困る前に早めの相談」 • 家族のみの相談受診も可能 • 援助に応じない場合は深入りせず「困るまで 待つ」 • 周囲に迷惑をかけている場合は行政の援助 が必要 【質問】受診に結びつけたい認知症の方が多数地域にいます が、本人の拒否などで、治療につなげられず困っています。 【回答】まずはご家族の方、それに関わっている方、ス タッフなどから病院にご相談ください。 ・本人が治療を拒否している場合 基本的に生命に関わらない場合、自傷他害の危険がない場 合、現在誰に対しての迷惑行為もない場合は、静観。 高血圧など、他の疾患で受診した場合に、一緒に向知性薬等 を処方していただくことも一考。
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