個人通報制度導入及び国内人権機関の設 置を求める

各人権条約に基づく個人通報制度の早期導入及び
パリ原則に準拠した政府から独立した国内人権機
関の設置を求める決議
当 弁 護 士 会 は ,わ が 国 に お け る 人 権 保 障 を 推 進 し ,国 際 人 権 基 準 の 実 施
を 確 保 す る た め ,2 0 0 8 年 の 国 際 人 権( 自 由 権 )規 約 委 員 会 の 総 括 所 見
を は じ め と す る 各 条 約 機 関 か ら の 相 次 ぐ 勧 告 を ふ ま え ,国 際 人 権( 自 由 権 )
規約をはじめとした各人権条約に定める個人通報制度の導入及び国連の
「 国 内 人 権 機 関 の 地 位 に 関 す る 原 則( パ リ 原 則 )」に 合 致 し た ,真 に 政 府
から独立した国内人権機関の設置を政府及び国会に対して強く求める。
以上のとおり決議する。
2011年(平成23年)2月26日
茨 城 県 弁 護 士 会
提案理由
1
個人通報制度について
個 人 通 報 制 度 と は ,人 権 条 約 の 人 権 保 障 条 項 に 規 定 さ れ た 人 権 が 侵 害
さ れ て い る に も 拘 わ ら ず ,国 内 で の 法 的 手 続 を 尽 く し て も な お 人 権 救 済
が 実 現 し な い 場 合 ,被 害 者 個 人 等 が 各 人 権 条 約 の 定 め る 国 際 機 関 に 通 報
し,救済を求める制度である。この個人通報制度を実現するためには,
各条約の人権保障条項について個人通報制度を定めている選択議定書
等を批准するなどの手続が必要である。
残 念 な が ら ,日 本 の 裁 判 所 は ,人 権 保 障 条 項 の 適 用 に つ い て 積 極 的 と
は い え ず ,民 事 訴 訟 法 の 定 め る 上 告 の 理 由 に は 国 際 条 約 違 反 が 含 ま れ ず ,
国 際 人 権 基 準 の 国 内 実 施 が 極 め て 不 十 分 と な っ て い る 。そ の た め ,各 人
権 条 約 に お け る 個 人 通 報 制 度 が 日 本 で 実 現 す れ ば ,被 害 者 個 人 が 各 人 権
条 約 上 の 委 員 会 に 見 解・勧 告 等 を 直 接 求 め る こ と が 可 能 と な り ,日 本 の
裁 判 所 も 国 際 的 な 条 約 解 釈 に 目 を 向 け ざ る を 得 ず ,そ の 結 果 と し て ,日
本 に お け る 人 権 保 障 水 準 が 国 際 基 準 に ま で 前 進 し ,ま た 憲 法 の 人 権 条 項
の解釈が前進するなどの著しい向上が期待される。
2
国内人権機関の設置について
国 連 決 議 及 び 人 権 諸 条 約 機 関 は ,国 際 人 権 条 約 及 び 憲 法 な ど で 保 障 さ
れ る 人 権 が 侵 害 さ れ ,そ の 回 復 が 求 め ら れ る 場 合 に は ,司 法 手 続 よ り も
簡便で迅速な救済を図ることができる国内人権機関を設置するよう求
めており,多数の国が既にこれを設けている。
国 内 人 権 機 関 を 設 置 す る 場 合 ,1 9 9 3 年 1 2 月 の 国 連 総 会 決 議「 国
内 人 権 機 関 の 地 位 に 関 す る 原 則 」( い わ ゆ る「 パ リ 原 則 」)に 沿 っ た も
の で あ る 必 要 が あ る 。具 体 的 に は ,法 律 に 基 づ い て 設 置 さ れ る こ と ,権
限 行 使 の 独 立 性 が 保 障 さ れ て い る こ と ,委 員 及 び 職 員 の 人 事 並 び に 財 政
等 に お い て も 独 立 性 を 保 障 さ れ て い る こ と ,調 査 権 限 及 び 政 策 提 言 機 能
を持つことが必要とされている。
日 本 に 対 し て は ,国 連 人 権 理 事 会 ,人 権 高 等 弁 務 官 等 の 国 連 人 権 諸 機
関 や 人 権 諸 条 約 機 関 の 各 政 府 報 告 書 審 査 の 際 に ,早 期 に パ リ 原 則 に 合 致
し た 国 内 人 権 機 関 を 設 置 す べ き と の 勧 告 が な さ れ て お り ,ま た ,国 内 の
人権NGOからも国内人権機関設置の要望が高まっている。
現 在 ,わ が 国 に は 法 務 省 人 権 擁 護 局 の 人 権 擁 護 委 員 制 度 が あ る が ,独
立性等の点からも極めて不十分な制度である。
こ の よ う な 状 況 の 中 で ,日 本 弁 護 士 連 合 会 は ,2 0 0 8 年 1 1 月 1 8
日 ,パ リ 原 則 を 基 準 と し た「 日 弁 連 の 提 案 す る 国 内 人 権 機 関 の 制 度 要 綱 」
を発表した。
さ ら に ,2 0 1 0 年 6 月 2 2 日 に は ,法 務 省 政 務 三 役 が「 新 た な 人 権
救 済 機 関 の 設 置 に 関 す る 中 間 報 告 」に お い て ,パ リ 原 則 に 則 っ た 国 内 人
権 機 関 の 設 置 に 向 け た 検 討 を 発 表 す る な ど ,国 内 人 権 機 関 設 置 に 向 け た
機運は高まってきている。
3
当弁護士会は,わが国における人権保障を推進し,また国際人権基
準を日本において完全実施するための人権保障システムを確立するた
め,国際人権(自由権)規約をはじめとした各人権条約に定める個人
通報制度を一日も早く採用し,パリ原則に合致した真に政府から独立
した国内人権機関をすみやかに設置することを政府及び国会に対して
強く求めるものである。