社団法人 電子情報通信学会 THE INSTITUTE OF ELECTRONICS, INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS 信学技報 TECHNICAL REPORT OF IEICE SWIM2003-20 (2004-01) 戦略的ネットサービスのビジネスモデル −ビジネス方法特許の分析より− 幡鎌 文教大学情報学部 E-mail: 博 〒253-8550 神奈川県茅ヶ崎市行谷 1100 [email protected] あらまし クリック&モルタルといわれる従来企業のネット活用において,従来のチャネルを有効活用したり変 容させて活かし続けるためのネット利用の工夫が見られる.特に,製造業のサービス産業化や,サービスのモジュ ール化のようなビジネス面の変化が,ネットでのサービスに表れている現象に着目する.具体的には,ASPによ り,企業が中間業者やユーザ企業にサービスを提供することが行われ始めている.それらのサービスでは,閉じた ネットワークではなく,価値を付加するサービスの提供による囲い込みが意図されている.次に,業界のシステム インフラの形成状況をサーベイし,情報インフラと取引インフラに分けて考察する.調査方法としては,本稿では, いくつかの業界での動向をビジネス方法特許の出願動向も含めて調査する. キーワード ビジネス方法特許,ASP,eマーケットプレイス Studies on strategic Net services from the viewpoint of business-method patents Hiroshi Hatakama Faculty of Information & Communications, Bunkyo University, 1100 Namegawa, Chigasaki-shi 253-8550, Japan E-mail: [email protected] Abstract Some non-Net companies, so called “clicks-and-mortal”, now use the Net effectively, so that they use traditional sales channels or transform those to survive. They use ASP effectively, sometimes strategically. In particular, lock-in strategies using ASP are found in BtoBtoC business environment. Those systems have begun to provide Web-service interface. Then, this paper focuses on common system-infrastructures of each industry, and clarifies the future issues to be addressed. In this paper, not only business trends but also business-method patents are studied. Keyword business-method patent, ASP, e-marketplace 1. は じ め に とする.なお,ビジネス方法特許(ビジネスモデル特 クリック&モルタルといわれる従来企業のネット 許,ビジネス関連発明とも呼ばれる)の公開件数は, 活用において,従来のリソース(チャネル等)を有効 2002 年 後 半 か ら 落 ち 着 い て き た が ,2003 年 後 半 か ら 再 活用したり変容させて活かし続けるためのネット利用 度 増 加 の 傾 向 が 見 ら れ る .そ れ は ,平 成 14 年 の 特 許 法 の 工 夫 が 見 ら れ る .本 稿 で は ,ASP (Application Service 改正で間接侵害の条項が改正され,システムの特許で Provider) の 提 供 状 況 や 業 界 シ ス テ ム イ ン フ ラ の 形 成 間接侵害を訴えやすくなったため,ビジネス方法特許 状況から,それらの動向をサーベイする. の権利がより強くなったことが大きく影響していると こ れ ま で 筆 者 は ,企 業 間 で 業 務 /技 術 ノ ウ ハ ウ を 知 識 考えられる. 共有するコラボレーションにより,新たなネットビジ 本 稿 で は ,ま ず は ,ASP や Web サ ー ビ ス に よ る サ ー ネスを創出することが行われている現状等を考察して ビ ス 提 供 の 動 向 と 可 能 性 を 分 析 す る .そ の 中 で も 特 に , き た [2].今 回 は ,特 に 製 造 業 の サ ー ビ ス 産 業 化 や ,サ ASP に よ る 付 加 価 値 提 供 や ,囲 い 込 み を 意 図 し た 中 間 ービスのモジュール化のようなビジネス面の変化が, 業 者 に 対 す る ASP 提 供 を 中 心 に サ ー ベ イ す る . ネ ッ ト で の サ ー ビ ス に 表 れ て い る 現 象 に 着 目 し , ASP そ の よ う な サ ー ベ イ の 狙 い と し て は ,ASP を 活 か す によるサービスや業界システムインフラによる産業モ ビジネスモデルを考察することで,将来的には有用な デルの形成を分析する. ASP シ ス テ ム 設 計 の 方 法 論 を 見 い だ す こ と を 目 指 す . 分析方法としては,ビジネス方法特許の分析を中心 その後,業界システムインフラに関して考察する. 考察のポイントとしては,本稿では,単独の企業のビ 企業と比較して,社員のスキルレベルの評価を行う仕 ジネスモデルでなく,産業モデルと言われているよう 組みが提案されている. な業界での企業間関係を重視した視点からとらえる. 業 界 シ ス テ ム イ ン フ ラ の 普 及 /浸 透 が ,産 業 モ デ ル の 形 2.2. ASP による付 加 価 値 成にとても重要であるとの認識から,業界システムイ 製 造 /販 売 に 加 え ,ASP に よ る 付 加 サ ー ビ ス を 提 供 す ンフラ(特に,情報インフラ)の普及のために,どの ることによる新たなビジネスモデルが意図されている. ような工夫がされているかをサーベイする. 機械情報産業において,機械には体化されず独立し そして,今後,各業界で業界システムインフラの浸 て機械の利用を効率化するために供給されるサービス 透による産業モデルの形成において,形成の見通しと やソフトウェアが強化される傾向にあることが報告さ ポイントとなる点を明確にする.特に,企業間での付 れ て い る [6].そ の よ う に ,製 造 業 の サ ー ビ ス 産 業 化 の 加 価 値 の 提 供 ( 特 に 価 値 フ ロ ー ), Web サ ー ビ ス 活 用 ト レ ン ド か ら ,メ ー カ ー が ASP サ ー ビ ス を 提 供 す る 場 によるアンバンドリング,の点から産業モデルの形成 合がよく見られる. を考察する. いくつかの例から,その狙いや仕組みを考察する. 一企業のビジネスモデル構築だけでなく,産業モデ ア ス ク ル は ,商 品 を サ ー ビ ス と 情 報 で く る む 方 針 [5] ル形成の動向をサーベイすることで,業種毎のインフ であり,月単位の経理をすべて代行して,顧客がスム ラが望まれるかや可能になるかを見いだしたい. ーズな予算管理や経費削減ができるように「アスクル アリーナ」を始めた.そのサービスのうち,顧客の購 2. ASP・ Web サ ー ビ ス に つ い て 買管理システムを代行する際,各顧客毎に勘定項目を 現 状 ,ASP が 進 み つ つ あ る .特 に ,戦 略 的 に ASP 機 カ ス タ マ イ ズ す る 仕 組 み が ,「 会 計 情 報 出 力 シ ス テ ム 、 能 を 提 供 す る 企 業 が 増 え て い る . ま た , Web サ ー ビ ス 会 計 情 報 出 力 方 法 」( 特 開 2002-259653)と し て 特 許 出 のインタフェースを提供するところも増えだしている. 願されている. サ ー ビ ス 業 で も ,ASP に よ り 本 業 に 付 加 価 値 を 提 供 する例が多く見られるようになってきた. 2.1. ASP の動 向 ア ー ト 引 越 セ ン タ ー は , ARTist2 と い う 法 人 向 け の ASP は , 広 く サ ー ビ ス さ れ 始 め て い る . ユ ー ザ 側 の 転 勤 業 務 支 援 の 無 料 の ASP サ ー ビ ス を 提 供 し て い る プラス面とマイナス面を上げると, [ユ ー ザ 企 業 側 の プ ラ ス 面 ] [11]. 顧 客 企 業 の 総 務 部 門 ( 転 勤 業 務 担 当 ) の 業 務 負 ・ IT の 初 期 投 資 が 少 な く て 済 む 荷を軽減する仕組みである.企業毎に,会社で負担す ・最新のサービスを利用できる る引越サービスの範囲や自己負担扱いとするサービス ・運用の手間が省ける の種類の定義もできる. また,そのように顧客企業の業務負荷を軽減する [ユ ー ザ 企 業 側 の マ イ ナ ス 面 ] ・自由にシステムの機能を変えられない ASP の 仕 組 み を 特 許 化 し て い る と こ ろ も あ る .例 え ば , ・サービス品質の問題がつきまとう NTT コ ム ウ ェ ア と ジ ョ ル ダ ン が 共 同 出 願 し て 成 立 し ま た ,サ ー ビ ス 提 供 会 社 側 に も ASP 固 有 の 利 点 が あ た 「 物 件 情 報 検 索 方 法 及 び シ ス テ ム 装 置 」 (特 許 第 る.多くのユーザ企業をサポートすることで,要求情 3187800 号 ) の 特 許 は , 企 業 向 け 社 宅 情 報 検 索 サ ー ビ 報や蓄えた情報を活用して,新たな付加サービスを行 ス の ASP( た だ し , サ ー ビ ス 自 体 は 終 了 し た も よ う ) うことができるのである.また,仲介などの他のサー の仕組みである. ビスともつなげやすい. 2.3. 中 間 業 者 向 け ASP サービス 例 え ば ,ジ ャ ス ト プ ラ ン ニ ン グ の 外 食 産 業 向 け ASP 特 に , 中 間 業 者 向 け ( BtoBtoC) の ASP サ ー ビ ス に サービス「まかせてネット」は,食材の受発注のみで おいて,囲い込みを意図したサービスが見られる. なく,小口の発注を集めて大口の発注にまとめている コ ク ヨ の 「 べ ん り ね っ と 」「 カ ウ ネ ッ ト 」 関 連 で , た め ,利 用 企 業 は 購 入 価 格 を 低 減 さ せ る こ と が で き る . な お ,そ の 機 能 を 含 む 構 成 は ,「 飲 食 店 用 デ ー タ 処 理 管 興味深い特許が成立している.中間業者を囲い込む仕 理 プ ロ セ ス 及 び シ ス テ ム 」( 特 開 2001-256296)と し て 組 み で あ り , そ の 基 本 的 な 仕 組 み は ,「 流 通 支 援 設 備 」 特許出願されている. ( 特 許 第 2956661 号 ) と し て 成 立 し て い る . そ の 検 討 コ ン ピ テ ン シ ー 管 理 の ASP サ ー ビ ス に お い て ,集 め の 過 程 が [12] に 示 さ れ て い る が , 中 抜 き と 反 発 さ れ た情報を有効に活用する仕組みが提案されている. な い た め に ,ネ ッ ト で 既 存 流 通 を 支 援 す る ASP の 仕 組 「 企 業 研 修 企 画 方 法 及 び 企 業 研 修 情 報 取 得 方 法 」( 特 みを作ったものである.エンドユーザから見ると,中 開 2002-157380) で は , 同 じ 規 模 ま た は 業 態 の ト ッ プ 間 業 者( デ ィ ー ラ ー )が Web で 販 売 し て い る よ う に 見 48 することで,初期投資を少なくすることができ,加え える仕組みである. e ビルダーモール」という て柔軟なシステム構築を行うことができる.それ以外 工務店とエンドユーザを仲介するサービスの発表リリ に,自社の最も得意とする能力を他社にサービスしや 松下電工の「すむすむ ー ス に よ る と ,10 件 の ビ ジ ネ ス 方 法 特 許 を 出 願 し て い すくなるため,アンバンドリングを促進する技術とし る.その中に含まれると思われる 2 件が,既に成立し て も 注 目 さ れ て い る [1].汎 用 サ ー ビ ス の 部 品 化 が 可 能 て い る .「 顧 客 紹 介 シ ス テ ム 」( 特 許 第 3280661 号 ) と になることで,外部からそのサービスを使うことでビ 「 商 品 情 報 提 供 シ ス テ ム 」( 特 許 第 3280662 号 )で あ る . ジネスの差別化に利用できるし,利用される側はイン それらの特許は,個別工務店支援ホームページを通し フラとしてその能力を広げることが可能となるのであ てエンドユーザと工務店とのインタラクションを支援 る. 例 え ば , 既 に Amazon や Google が Web サ ー ビ ス の す る ASP の 仕 組 み で あ る . 同 様 に , INAX も ネ ッ ト を 通 し て 工 務 店 コ ン サ ル タ インタフェースを公開していて,外部から利用されて ントサービスを提供しているが,関連すると思われる いる.日本でも事例が増えていて,東急観光は出張管 特 許 出 願 と し て 特 開 2002-207787 が あ る . 理 機 能 の ASP を 行 っ て い る が ,利 用 企 業 に 対 し て Web こ の よ う に ,コ ク ヨ /松 下 電 工 /INAX 等 は ,中 間 業 者 サービスを提供している.また,ヤマト運輸はトラッ への支援機能を提供することで,中間業者を囲い込も キ ン グ シ ス テ ム の イ ン タ フ ェ ー ス を Web サ ー ビ ス で うとしているのである.つまり,クローズなネットワ 提 供 し て い る [13]. な お , 東 急 観 光 の そ の ASP の 仕 組 ー ク で 囲 い 込 む の で な く ,IT に よ る 付 加 価 値 で 囲 い 込 み は 「 出 張 申 請 経 費 精 算 方 法 及 び シ ス テ ム 」( 特 開 もうとしているのである.さらに,競合他社に模倣さ 2001-350892) と し て 特 許 出 願 さ れ て い る . れないようにサービスを特許で守ろうとする意図を持 ま た ,情 報 イ ン フ ラ で Web サ ー ビ ス の イ ン タ フ ェ ー っていると感じられる.特許化できれば,囲い込みが ス を 提 供 し て い る サ ー ビ ス と し て ,「 青 果 ネ ッ ト カ タ より有効である. ロ グ SEICA」( http://seica.info/) が あ る . こ の サ ー ビ ス は ,野 菜 や 果 物 の ト レ ー サ ビ リ テ ィ 機 能 を Web サ ー 国 領 [7] や 根 来 ・ 桑 山 [9]が 指 摘 し て い る よ う に , イ ビスで提供している. ンターネットによって「オープンプラットホーム」や 「オープンパートナーシップ」が重要な時代になって 今 後 , Web サ ー ビ ス に よ り , 企 業 間 で 付 加 価 値 を 提 きている.しかし,メーカーにとって囲い込みは旨味 供し合うことが有望である.例えば,パートナー会社 が 大 き く ,IT を 活 用 し た 付 加 価 値 サ ー ビ ス( と そ れ を との価値フローを組み合わせることで,複合サービス 特許で守る)という新たな方法で,囲い込みが意図さ が可能になり,機会的にビジネスチャンスを狙うこと れているのである. も可能となる. また,中間業者にエンドユーザと対話する機能を ASP で 提 供 す る こ と で ,中 間 業 者 と エ ン ド ユ ー ザ と の 2.5. ASP サービス提 供 の戦 略 対話の内容を知ることができ,メーカーにとって重要 こ の よ う に ,Web サ ー ビ ス の 普 及 が 加 速 し つ つ あ り , なマーケティング情報収集ツールともなる. ASP が オ ー プ ン な サ ー ビ ス 提 供 の 手 段 と な り つ つ あ る 一 方 で ,BtoBtoC や ア ー ト コ ー ポ レ ー シ ョ ン の ASP の 事 例 で 見 ら れ る よ う に ,囲 い 込 み の 手 段 と し て ASP を PC 顧客 (購入) メーカー(ASP提供) ブラウザ 用いる企業もある. アプリケーシ 戦 略 の 観 点 か ら ま と め る と , 企 業 は , Web サ ー ビ ス ョン (顧客用) でオープンなコラボレーションが可能になることによ り,サービス提供を広げる戦略が可能であると共に, 顧客からは代理店の サイトにアクセスして 顧客情報 ブラウザ いるように見える 代理店 (顧客管理) 従 来 の チ ャ ネ ル に お い て は ASP を 用 い た 囲 い 込 み を アプリケーショ 意図することもできるのである.つまり,その両面を ン(代理店用) 考 慮 し て ASP サ ー ビ ス 提 供 の 戦 略 を 策 定 す る べ き で ある. C ---------- B ---------------------------- B 図 1. BtoBtoC の ASP サ ー ビ ス の 仕 組 み 3. 業 界 シ ス テ ム イ ン フ ラ の 形 成 2.4. Web サービス 3.1. 産 業 モデルと業 界 システムインフラ Web サ ー ビ ス ア ー キ テ ク チ ャ に よ り , 機 能 を 部 品 化 現状,e マーケットプレイスは多くの場合うまくい 49 っていない.それは,1 つの企業だけが,自分の目指 見ると,販売情報のやり取りに加えて,その情報を元 すビジネスモデルを追求することは難しいことを示す に出版社から書店への報奨金を集約管理する仕組みも ものであろう.業界全体での位置付けを意識して,そ 提案されている.このようにして,報奨金を授受する の業界のパートナー等との関係において,成功を狙う 仕組みを加えることで,情報開示のための情報インフ 必要がある. ラが浸透する可能性もあるであろう. 根 来 ・ 箕 輪 [10] は , 産 業 の 構 造 を 表 現 す る モ デ ル こ の よ う な SEICA や ス ト ア コ ン ソ ー シ ア ム ジ ャ パ を「産業モデル」と呼んで,ある企業主体が意図して ンの例から,たとえ業界の課題を解決するための仕組 実 現 し よ う と す る「 ビ ジ ネ ス モ デ ル 」と 区 別 し て い る . みであっても,統一した情報インフラを浸透させるた 根来等は,付加価値モデル・分業モデル・誘因モデル めには,何らかの工夫が必要であることが分かる.業 から産業モデルを分析している.本稿では,視点を変 界のクリティカルマスに達することが必要なのである. えて,業界のシステムインフラを中心にして,産業モ デルを分析したい. 3.3. 業 界 システムインフラの課 題 本稿では,業界のシステムインフラを,情報インフ e マーケットプレイスや卸の仲介機能のような取引 ラ(情報のみを共有)と取引インフラ(売買を含む) インフラが多く提案されているが,取引インフラとし に分けて考えることにする. て確立する以前に,業界の情報インフラが機能してい るかを問う必要がある.やはり,情報の共有が基本で 3.2. 情 報 インフラの動 向 あり,それを伴わないと,売り手と買い手のどちらに まず,情報インフラの動向をいくつか紹介する. も魅力がない.また,取引中のパートナーとのリッチ 日 本 建 材 産 業 協 会 の 運 営 す る KISS シ ス テ ム な 情 報 を 交 換 す る イ ン フ ラ も 望 ま れ る . RosettaNet で ( http://www.jkiss.or.jp/)等 ,行 政 の て こ 入 れ で 業 界 の は PIP( Partner Interface Process) を 定 義 す る こ と で , 情報インフラが立ち上がっている分野は少なくない. リッチな情報を交換できるようになるため,情報イン しかし,そのようなインフラは,取引のインフラまで フラ構築にも役立ち,普及に役立っていると考えられ 発展しているものは少なく,情報(カタログ等)の共 る. 有を中心としたインフラとして使われているものが多 い. 前述の農産物トレーサビリティ情報インフラの SEICA に 関 し て は ,業 界 で 共 通 の 情 報 イ ン フ ラ に な る 取引インフラ べく特許を活用している.農業技術研究機構が農産物 業 種 横 断サービス ト レ ー サ ビ リ テ ィ シ ス テ ム の 特 許( 特 許 第 3355366 号 ) (決済・ 物流等) を 持 っ て い る が ,SEICA と 連 携 す る 団 体 に は 特 許 ラ イ セ ン ス 料 を 安 く す る 方 針 ( http://vips.nfri.affrc.go.jp/ patent/index.html)を 示 し て い て ,SEICA シ ス テ ム の 共 共通の情報インフラ 通情報インフラ化を推進しようとしている. なお,生鮮食品の e マーケットプレイスの中には, 取引インフラだけでなく,情報インフラの面でも強い 図 2. 情 報 イ ン フ ラ / 取 引 イ ン フ ラ の 関 係 機能を持ち,スーパーマーケットで販売する生鮮品の ト レ ー サ ビ リ テ ィ 情 報 を Web で 検 索 で き る 機 能 を 提 情報インフラと取引インフラの違いは次のように 供するところもある.現在はそのような機能で成功し 特徴付けることができる. て い る が ,今 後 は ,SEICA シ ス テ ム 以 上 の 機 能 を 提 供 [情 報 イ ン フ ラ ] す る か ,SEICA シ ス テ ム に 付 加 価 値 を 付 け る こ と が 必 ・ 要になるであろう. 情報インフラだけでは利益を生みにくいので, 活動を継続できる運営体制が必要. ストアコンソーシアムジャパンは,出版社や消費者 が各書店の販売・在庫情報をインターネットで見るこ とができるシステムを開発中とのことである.このよ ・ Web サ ー ビ ス や ASP で の サ ー ビ ス 提 供 が 重 要 . ・ 中立的な運営を行えば,利害の面で大きな衝突 にはならないため,参加企業を集めやすい. う な 情 報 イ ン フ ラ は ,書 店 /出 版 業 界 の 全 体 最 適 に つ な ・ がることが言われてきたが,なかなか進まなかった. 行政が推進する場合が多い. [取 引 イ ン フ ラ ] ストアコンソーシアムジャパンが出願中の特許「報奨 ・ 金 精 算 管 理 シ ス テ ム 及 び 方 法 」( 特 開 2003-122986)を 50 ユーザ企業に便益をもたらすとともに,自らが 利益を上げ,さらには関連企業(中間業者やメ 文 ーカー)にも有利になる仕組みが重要. ・ 情 報 イ ン フ ラ を 持 つ( か 結 び つ く こ と )が 重 要 . ・ 付加価値サービスが重要(在庫管理のアウトソ ー シ ン グ な ど ). ・ 献 [1] Hagel, John III & John Seely Brown, “ Your Next IT Strategy” , HBR 2001. 10, (西 訳 “ 所 有 か ら 利 用 へ の IT マ ネ ジ メ ン ト ,”ダ イ ヤ モ ン ド・ハ ー バ ー ド・ ビ ジ ネ ス・レ ビ ュ ー , 2001 年 12 月 号 ,P.115-127) [2] 幡 鎌“ ビ ジ ネ ス 方 法 特 許 創 出 に お け る 企 業 間 知 識 共 有 − 特 許 共 同 出 願 の 分 析 よ り − ,”経 営 情 報 学 会 2002 年 度 秋 期 全 国 研 究 発 表 大 会 予 稿 集 , P.284-287. [3] 幡 鎌 “ 戦 略 的 ネ ッ ト サ ー ビ ス に お け る IT 活 用 手 法 の 考 察 ,”経 営 情 報 学 会 2003 年 度 秋 期 全 国 研 究 発表大会予稿集. [4] 幡 鎌“ ビ ジ ネ ス 方 法 特 許 か ら 見 た ビ ジ ネ ス モ デ ル / 産 業 モ デ ル の 動 向 ,” ビ ジ ネ ス モ デ ル 学 会 2003 年 度 年 次 大 会 予 稿 集 , 2003 年 11 月 . [5] 井 関 ・ 緒 方 , 顧 客 と 共 に 新 刊 す る 企 業 ア ス ク ル , PHP 研 究 所 , 2001. [6] 機 械 振 興 協 会 経 済 研 究 所 ,機 械 情 報 産 業 に お け る ハ ー ド ・ ソ フ ト ・ サ ー ビ ス の 統 合 ( 報 告 書 No. H14-5), 2003 年 5 月 [7] 国 領 , オ ー プ ン ・ ア ー キ テ ク チ ャ 戦 略 ,ダ イ ヤ モ ン ド 社 , 1999. [8] 松 本 正 雄“ 情 報 革 命 に お け る ビ ジ ネ ス 変 革 の 考 え 方 と 方 法 論 ,”FIT( 情 報 科 学 技 術 フ ォ ー ラ ム )2002 CP-1 招 待 講 演 , P.125-134 [9] 根 来 ・ 桑 山 , オ ー プ ン プ ラ ッ ト ホ ー ム 戦 略 , PHP 出 版 , 2002. [10] 根 来・箕 輪 ,産 業 モ デ ル と ビ ジ ネ ス モ デ ル の 関 係 , 経 営 情 報 学 会 誌 2001 年 12 月 号 , P.21-52. [11] 日 経 コ ン ピ ュ ー タ“ ア ー ト コ ー ポ レ ー シ ョ ン IT で 引 っ 越 し 業 界 の 構 造 を 変 革 ,” 日 経 コ ン ピ ュ ー タ 2002 年 10 月 21 日 号 , P.66-70 [12] 日 経 ネ ッ ト ビ ジ ネ ス“ ネ ッ ト 戦 略 マ ネ ジ ャ ー 誕 生 Part1 コ ク ヨ の 極 秘 プ ロ ジ ェ ク ト を 動 か し た 男 ,” 日 経 ネ ッ ト ビ ジ ネ ス 2002 年 7 月 10 日 号 ,P.12-13. [13] 日 経 情 報 ス ト ラ テ ジ ー“ ウ ェ ブ ・ サ ー ビ ス を 理 解 す る 簡 単・手 軽 な シ ス テ ム 連 携 の ツ ー ル ,”2003 年 3 月 号 , P.76-80 業界横断サービス(与信決済や物流など)との 連携が必要. 情報インフラとともに取引インフラを提案してい る例として,アスクルが提案している「大アスクル」 (パートナー企業と連携して社会最適をもたらす仕組 み)の考え方を上げることができる.この考え方は, パートナーとの間で価値フローを表現しているため, 業界の産業モデルとして関連企業にアピールしている と考えられる. なお,取引インフラの核となる仕組みをビジネス方 法 特 許 化 で き れ せ ば ,取 引 イ ン フ ラ の 独 占 に つ な が る . 貿 易 金 融 EDI の Bolero は ,そ の 取 引 の 仕 組 み を 全 世 界 的に特許化することを狙っている. 価 値 フ ロ ー を 分 析 す る 手 法 と し て ,[8]で 価 値 提 起 改 革が提案されている.そのような手法を,企業内だけ でなく,企業間での分析に用いることで,1社だけの ビジネスモデルでなく,ある業界内の関係する企業間 で価値を共有できる産業モデルを形成するための条件 を考察できると考えられる. 業 界 横 断 サ ー ビ ス( 与 信 /決 済 や 物 流 な ど )の 関 連 で い う と ,ネ ッ ト 関 連 の 与 信 /決 済 や 物 流 の サ ー ビ ス な ど でもビジネス方法特許が成立し出しており(例えば, 日 通 の 特 許 第 3411257 号 ),そ の よ う な サ ー ビ ス 企 業 が , 高 付 加 価 値 の サ ー ビ ス を Web サ ー ビ ス で 提 供 す る こ とで,連携やアンバンドリングが進むと考えられる. 4. お わ り に ASP や Web サ ー ビ ス に よ る サ ー ビ ス 提 供 の 動 向 と , 業界システムインフラの動向に関して考察した. 今 後 ,戦 略 的 な ASP サ ー ビ ス が 増 加 す る と 予 想 さ れ るが,その中の一部は,業界での共通な情報インフラ となるべく意図されたものになると予想される.しか し,共通な情報インフラとなるためにクリティカルマ スまで達するためには,様々な戦略的なサービス提携 や促進手段を用いる必要がある.そのため,今後の情 報化戦略においては,そのような対外的な戦略がより 重要になると予想される. 今後の研究方向としては,いくつかの業種で,どの ように産業モデルが形成されつつあるかを詳しく考察 して,価値フローを分析し,形成状況をパターン化す ることを試みたい. 51
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