導電性接着剤の LCA (独)産業技術総合研究所ライフサイクル

環境社会報告書 2007、P16「LCAの取組み」に寄稿いただいた全文です。
―(独)産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センター
山口博司博士―
導電性接着剤の LCA
(独)産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センター
環境問題が大きな課題となっている今日人間社会が作り出す有効な製品とそれにより
生じる自然生態系への影響を定量化してさまざまな製品のライフサイクルにおける有効性
を評価することは大変重要である。原料入手から素材製造、組立て、使用、リサイクル・
廃棄までのライフサイクルにわたって環境からの資源採取・環境への排出を集計し、これ
らの地球や生態系への環境影響を定量的に評価する手法がライフサイクルアセスメント
(LCA)である。
欧州の RoHs 指令により鉛、6 価クロムなどの有害物質の使用が禁止されたが、半導体
実装や自動車エンジンの制御装置などに用いられている高融点 SnPb はんだに対しては当
面代替技術がなく、2010 年まで適用が除外されている。適用除外がなくなった場合のため
導電性接着剤の低温実装、高温耐熱使用技術を検討中である。このため高融点鉛はんだか
ら銀接着剤への代替の環境に及ぼす影響を LCA により評価した。LCA の調査範囲は銀・鉛
などの資源採掘から接着剤・はんだの製造、輸送、接着、リサイクル・廃棄とし、接着剤・
はんだの製造プロセス、輸送・接着については現場からの聞き取りデータ、その他は文献
情報等によるバックグラウンドデータとした。また、最終製品への組立てや使用は調査範
囲外とした(図1)。
さらに毒性や資源消費などのトレードオフを見るため日本版被害算定型環境影響評価
手法(LIME)を用いた(図 2)。この手法では鉛や CO2、SOx、廃棄物、石油などのイン
ベントリは環境中の濃度を算出し、これによる暴露評価と特性化を行い、これを影響カテ
ゴリーごとに集計する。暴露量に対する生物学・医学・疫学情報を用いて発癌、感染症、
水域生態系、などのカテゴリエンドポイントごとの被害評価をおこない、人間健康・一次
生産・社会資産・生物多様性などの保護対象別に集約する。最後にこれをコンジョイント
法を用いた環境価値調査の結果にもとづき重み付けし単一の指標(円)に導く(1)。
特性化の結果では人間毒性・生態毒性・富栄養化・廃棄物では銀系接着剤が有利である
が、地球温暖化、大気汚染、資源消費などでは高融点 SnPb はんだが有利であることがわか
った。これは鉛は人間毒性、生態毒性への影響という問題が大きく、一方導電性接着剤に
は銀を大量に使用することにより資源消費、採掘精錬のための化石燃料消費、地球温暖化、
大気汚染などの影響が大きくこの間にトレードオフが存在するためである。
最終的な統合評価結果(図 3)では、Pb の人間健康への影響が大きく Ag 系接着剤は高
融点鉛はんだの 6 分の1の環境影響であり有害性削減効果に大きく寄与することがわかっ
た。課題としては銀の精錬による CO2 排出や資源枯渇の影響に注意し銀のリサイクル推進
による消費量削減を進めるべきことがあげられる。また鉛については使用済みの製品から
の鉛の排出の回避が重要な課題として挙げられる。
以上のように LCA 手法は多様な価値観の差を考慮しつつ異なるカテゴリーの環境影響を
比較し、課題を明確にするのに有効な手段であり、今後各種製品の環境影響評価に活用し
ていくことが重要である。
参考(1)伊坪・稲葉:ライフサイクル環境影響評価手法、
(社)産業環境管理協会(2005.9)
調査範囲
資源採掘
(Ag, Pb等)
原材料生産
(化学物質、
ポリマー等)
輸送
(空輸:日→中)
接着剤
はんだ
資源採掘
(Ag, Pb等)
接着
処理・処分
組立
原材料生産
(合金、粒子等)
使用
リサイクル
評価に含めたプロセス(聞き取りデータ)
評価に含めたプロセス(バックグラウンドデータ)
評価に含めないプロセス
図1
導電性接着剤・高融点鉛はんだの LCA の調査範囲
LIME (Life-cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling)
インベントリ
Benzene
TCDD
環境中濃度
インパクトカテゴリ
有害物質の大気濃度
都市域大気汚染
有害物質の水中濃度
有害化学物質
有害物質の土壌濃度
オゾン層破壊
カテゴリエンドポイント
呼吸器疾患
成層圏ODS濃度
CO2
SOx
NOx
人間社会
Total N
溶存酸素の消費
地球温暖化
災害被害
社会資産
白内障
Yen
皮膚癌
酸性化
単一指標
木材生産
富栄養化
生物多様性
土地損失
光化学オゾン
EINES
漁業生産
Land
土地利用
エネルギー消費
廃棄物
特性化
Copper
ユーザコスト
廃棄物
陸域生態系
資源消費
Oil
運命分析
暴露評価 / 特性化
Eco-index
Yen
生態系
農業生産
オキシダント濃度
NMVOC
DALY
栄養不足
生態毒性
Total P
人間の健康
感染症
温室効果ガスの濃度
酸性化寄与物質の濃
度と沈着量
単一指標
熱/寒冷ストレス
Lead
HCFCs
保護対象
癌(皮膚癌以外)
一次生産量
NPP
被害評価
統合化
水域生態系
被害評価
影響集約化
単一指標化
図 2 日本版被害算定型環境影響評価手法(LIME)
環境影響統合評価結果
円
円 (人間健康、社会資産、一次生産、生物多様性)
18
16
14
生物多様性
12
Pb
10
一次生産
8
6
4
社会資産
Ag
人間健康
2
0
高融点SnPb
Ag接着剤
接合材料
図3
環境影響の統合評価結果