学校における生徒指導・教育相談の進め方

調査研究紀要
学校における生徒指導・教育相談の進め方
~カウンセリングの考え方を生かして~
平成12年3月
県立南教育センター
指導相談部
この調査研究紀要の使い方
○研究報告書の別冊としての調査研究紀要
この調査研究紀要は、「研究報告書第 270 号」の内容に具体例、事例、資料編を加え
て作成したものである。なお、添付のフロッピーディスクには、紀要の資料編の内容が
収めらているので、各学校において適宜、取り出して活用できる。
○全体のねらい
生徒指導と教育相談は対立するものではないこと、教育相談やカウンセリングの理論、
技法、態度を日常の教育活動に生かすことが大切であるとの考えのもとで、南教育セン
ターで行っているカウンセリング研修の中から基礎的な内容をまとめ、各学校で活用し
てもらうことで生徒指導・教育相談の一層の普及・推進を図ろうとするものである。
○各章のねらい
第Ⅰ章
生徒指導と教育相談
……
生徒指導・教育相談の重要性、両者の関係、ねら
い、機能、特徴などこの調査研究紀要としての基
本的な考え方を述べる。
第Ⅱ章
面接相談の進め方
……
カウンセリングの理論や技法はすべての教育活動
に生かせるものであり、これを十分に活用するた
めにも基本となる一対一の面接相談の進め方や留
意点について述べる。
第Ⅲ章
日常の教育活動に生
かすカウンセリング
カウンセリングが学級経営・ホームルーム経営、
……
授業、日常の会話、人間関係づくり、保護者との
対応など、日常の教育活動にどのように生かせる
かについて述べる。
第Ⅳ章
身近な問題行動とそ
の対応例
身近な問題行動が起こった場面、ありがちな対応、
……
教育相談的な考え方・対応例・対応の基本について、
14 の具体例について1Pずつでまとめている。
第Ⅴ章
組織的対応の在り方
と教師の姿勢
生徒指導・教育相談の組織的な進め方及びカウン
……
セリングの理論や考え方を生かした教師の姿勢に
ついて述べる。
<資料編>
Ⅰ
学校教育に生かすカウンセリン
グの理論と技法
Ⅱ
学級経営・ホームルーム経営等
における活用例
Ⅲ
校内研修会の実際
学級活動・ホームルーム活動、校内研修
………
会等で、そのまま印刷して使える展開例
や資料等をまとめたもの。
目
第Ⅰ章
生徒指導と教育相談
次
………………………………………………………
1
生徒指導の重要性と教育相談との関係
2
生徒指導とは
3
学校教育相談(学校カウンセリング)とは
第Ⅱ章
…………………………………
4
………………………………………………………………
5
面接相談の進め方
……………………………
6
…………………………………………………………
10
1
コミュニケーションの在り方
2
面接相談の基本的な流れ
3
基本的な指導・援助について
第Ⅲ章
4
……………………………………………
10
…………………………………………………
11
……………………………………………
日常の教育活動に生かすカウンセリング
12
………………………………
19
…………………………………
19
………………………………………………………………
21
1
学級経営・ホームルーム経営に生かす
2
授業に生かす
3
日常会話に生かす
4
児童生徒相互の人間関係づくりに生かす
………………………………
25
5
保護者(地域の人々)との対応に生かす
………………………………
27
……………………………………………
30
………………………………………………………
30
第Ⅳ章
…………………………………………………………
身近な問題行動とその対応例
1
問題行動のとらえ方
2
身近な問題行動への具体的な対応例
……………………………………
【おはようと声をかけたが返事をしない場合】
31
…………………………………
32
………………………………………
33
……………………………………………
34
………………………………………………
35
【遅刻が突然目立ってきた場合】
【学習に集中できない場合】
【たびたび忘れ物をする場合】
【朝自習をやらない場合】
…………………………………………
36
………………………………………………
37
【進路決定がなかなかできない場合】
【朝になると体調が悪くなる場合】
…………………………………
38
……………………………………
39
【精神的な理由で体調が悪く欠席した場合】
【友人関係で問題があった場合】
…………………………
40
………………………………………
41
【学級の大半から無視や暴力を受けた場合】
…………………………
42
………………………………………
43
……………………………………………
44
【特定の子どもをいじめる場合】
【タバコを吸っていた場合】
31
………………………
【自転車に二人乗りをしている場合】
【集団活動を嫌がる場合】
24
第Ⅴ章
組織的対応の在り方と教師の姿勢
………………………………………
45
1
学校における組織的対応の在り方
………………………………………
45
2
機能する生徒指導・教育相談の組織
……………………………………
48
3
教師の姿勢
…………………………………………………………………
50
<資料編>
Ⅰ
学校教育に生かすカウンセリングの理論と方法
………………………
52
Ⅱ
学級経営・ホームルーム経営等における活用例
………………………
58
…………………………………………
58
・児童生徒相互の人間関係づくり
~構成的グループエンカウンターを活用して~
・話し合い活動による集団決定
……………………………………………
63
~グループワーク・無人島SOSを活用して~
・自己理解を深める
…………………………………………………………
66
~エゴグラムを活用して~
・保護者会における信頼関係づくり
………………………………………
71
~構成的グループエンカウンターを活用して~
Ⅲ
校内研修会の実際
・面接演習
…………………………………………………………
73
……………………………………………………………………
73
・ロールプレイング
・事例研究
…………………………………………………………
76
~南教育センターA、B、S方式を用いて~……………
86
○不登校・いじめ・児童虐待の早期発見のためのチェックリスト
…………
94
○引用・参考文献
…………………………………………………………………
97
○関係機関の概要
…………………………………………………………………
98
○スーパーバイザー・研究委員
………………………………………………
100
第Ⅰ章
生徒指導と教育相談
生徒指導の目指すところは、児童生徒の自己実現に向けて指導・援助していくことであり、
教育相談は生徒指導の一環で中心的な役割を担うものである。したがって、両者は対立する
ものではない。また、学校教育相談は教育相談の考え方、理論、技法を日常の教育活動に活
用していくことである。そこで本章では、生徒指導、教育相談、学校教育相談の関係を明ら
かにしていくために、それぞれのねらい、機能、特徴などについて概説していく。
1
生徒指導の重要性と教育相談との関係
(1) 生徒指導の重要性
文部省は新学習指導要領の中で、総則の指導計画の作成等に当たって配慮すべき事
項を次のように明記し、生徒指導を一層充実することの重要性を強調している。
< 小
学
校 >
○日ごろから学級経営の充実を図り、教師と児童の信頼関係及び児童相互の好ましい人間
関係を育てるとともに児童理解を深め、生徒指導の充実を図ること。
○各教科等の指導に当たっては、児童が学習課題や活動を選択したり、自らの将来につい
て考えたりする機会を設けるなど工夫すること。
< 中
学
校 >
○教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てるとともに生徒理解を深
め、生徒が自主的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよう、生徒
指導の充実を図ること。
○生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動
全体を通じ、計画的、組織的な進路指導を行うこと。
○生徒が学校や学級での生活によりよく適応するとともに、現在及び将来の生き方を考え
行動する態度や能力を育成することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、ガイダ
ンスの機能の充実を 図ること。
< 高
等
学
校 >
○学校の教育活動全体を通じて、個々の生徒の特性等の的確な把握に努め、その伸長を図
ること。また、生徒が適切な各教科・科目の類型を選択し学校やホームルームでの生活
によりよく適応するとともに、現在及び将来の生き方を考え行動する態度や能力を育成
することができるよう、ガイダンスの機能の充実を図ること。
○教師と生徒の信頼関係及び生徒相互の好ましい人間関係を育てるとともに生徒理解を深
め、生徒が主体的に判断、行動し積極的に自己を生かしていくことができるよ う、生徒
指導の充実を図ること。
○生徒が自己の在り方生き方を考え、主体的に進路を選択することができるよう、学校の
教育活動全体を通じ、計画的、組織的な進路指導を行うこと。
※ガイダンスとは生徒指導の一形態であり、学校生活への適応、学業や進路などにおけ
る選択、さらに、自己の生き方などについて、生徒がよりよく適応し、主体的な選択
やよりよい自己決定ができるようにするために、学校としての情報提供、案内、説明
などに関して指導助言をすることである。
4
(2) 生 徒 指 導 と 教 育 相 談 と の 関 係
生徒指導と教育相談については、どちらも問題の解決のみでなく、広く児童生徒の
自己実現に向けて指導・援助していくことを目指している。したがって、生徒指導も
教育相談も学校教育のすべての場で機能するものであり、すべての教師が、いつでも
どこでも行うものである。しかし、学校においては、今なお対立の関係が払拭されて
いるとは言えない現状がある。それは次のような誤解から生まれていると思われる。
【生徒指導に対する誤解】
【教育相談に対する誤解】
生徒指導は指示、命令、説諭など
教育相談は相手の話を受容的共感
訓育的な指導が中心で、反社会的
的に聴き、非社会的な問題が起き
な問題が起こったときや、しつけ
たときに、専門家が個室で一対一
の指導、ルールを守るなど秩序あ
の面接相談という形で行うもの。
る集団をつくるために行うもの。
【生徒指導と教育相談の関係に対する誤解】
生徒指導は厳しく教育相談は甘やかすものであり、2つは
車の両輪のような関係にある。一人の教師が両方を行うこ
とは難しい面があり、役割分担をして行うものである。
これらの誤解は、生徒指導や教育相談を特定の領域や指導方法に限定して考えるこ
とが一般化してしまった結果、生まれたものであると考えられる。そこで、これらの
誤解を払拭するために、次節で生徒指導、教育相談、学校教育相談の意味や機能につ
いて明らかにしていく。
2
生徒指導とは
(1) 生 徒 指 導 の ね ら い
ア
生徒指導は、学校がその教育目標を達成するための重要な機能の一つである。
(生徒指導の手引より)
イ
生徒指導とは、一人一人の生徒の個性の伸長を図りながら、同時に社会的な資質
や能力・態度を育成し、さらに将来において社会的に自己実現できるような資質・
態 度 を 形 成 し て い く た め の 指 導 ・ 援 助 で あ る 。 ( 生 徒 指 導 資 料 第 20集 よ り )
(2) 生 徒 指 導 の 2 つ の 側 面
ア
積極的な生徒指導 …… 子どもの人格あるいは精神をより望ましい方向に推し
進めようとする指導で、あらゆる教育活動をとおして
行われる。
イ
消極的な生徒指導 …… 適応上の問題や心理面の問題などをもつ生徒に対する
指導。
( 生 徒 指 導 資 料 第 20集 よ り )
5
(3) 自 己 指 導 能 力 の 育 成
生徒指導のねらいは先に述べたとおりであるが、その究極の目標の一つが個々の
児童生徒の自己指導能力を育成することである。
自己指導能力とは……
自己を認め、自己を理解し、さらに自らの目標を明確にし、
自発的、自律的に自らの行動を決断し、実行できる能力
☆☆自己指導能力育成のための3つの留意点とその意義☆☆
①自己存在感を与える
人間は他者とのかかわりの中で自己の存在感を感じたとき、生き生きと活動でき、
自己実現を図っていくことができる。
②共感的な人間関係を育成する
相互に人間として無条件に尊重し合う態度で、ありのままに自分を語り、共感的
に理解し合う人間関係の中にあってこそ自己受容は一層促進される。
③自己決定の場を与える
選択決定をせまられることで自己理解が進められるとともに、決断した行動に対
して責任をとることも学んでいく。
3
学校教育相談(学校カウンセリング)とは
(1) 生 徒 指 導 の 一 環 と し て の 教 育 相 談
「教育相談は、生徒指導の一環として位置づけられるものであり、しかもその中心
的 な 役 割 を 担 う も の で あ る 。 ( 生 徒 指 導 資 料 第 21集 よ り ) 」 と あ る こ と か ら も 、 教 育
相談は生徒指導を支える重要な機能である。
また、教育相談は「一人一人の子どもの教育上の諸問題を取り上げ、本人又はその
親、教師などがその望ましい在り方を見い出すことができるよう指導・援助すること
(同上)」とあるように個別的な指導・援助である。
(2) カ ウ ン セ リ ン グ と は
カウンセリングは、一般に「相談」「助言」という意味をもち、定義も様々である
が、本報告書においては次のように定める。これは、南教育センターにおける学校カ
ウンセリングに関する研修会で用いているものである。
カウンセリングとは……
言語的及び非言語的コミュニケーションを活用して相
手の行動の変容を試みる人間関係である。
このうち、「非言語的コミュニケーション」とは、表情、視線、声の調子、ジェス
チ ャ ー な ど 言 葉 以 外 の 表 現 に よ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン で あ る 。 ( P 10参 照 )
また、「行動の変容」とは、児童生徒が「頭や心でわかる」だけでは行動が変わら
ない場合もあるため、実際によりよい行動がとれるようになることを目指していこう
とするものである。
6
(3) 学 校 教 育 相 談 ( 学 校 カ ウ ン セ リ ン グ ) と は
教育相談に「学校」という冠をつけることで、単に問題をもつ児童生徒の個別の指
導・援助ということにとどまらず、カウンセリングや教育相談の考え方、理論、技法
を日常の学校教育に活用していくという広義の意味でとらえる。
したがって、いわゆる教育相談所が行うカウンセリングとは異なった学校ならでは
の特徴や展開の仕方があり、学校教育の目標を達成するために欠くことのできない重
要な機能の一つである。
なお、本報告書においては、学校教育相談を学校カウンセリングと同義に用いる。
(4) 学 校 教 育 相 談 ( 学 校 カ ウ ン セ リ ン グ ) の 対 象 ・ 場 ・ 機 会
学校教育相談は個人及び集団のすべての児童生徒を対象に行われるものであり、す
べての教師が、いつでもどこでも行うものである。したがって、各教科・科目、道徳
(小・中)、特別活動、総合的な学習の時間といった教育課程の領域内及び休み時間
や放課後などに行われる指導・援助といった教育課程の領域外の両者において行うも
のである。
また、学校教育相談は学校の教育活動の一環として行うものであり、保護者や地域、
専門機関、各種相談員と連携して、組織的・計画的に取り組むものである。
(5) 学 校 教 育 相 談 ( 学 校 カ ウ ン セ リ ン グ ) の 3 つ の 機 能
ア
治療的な機能 …
非行など反社会的な問題行動や不登校など非社会的問題行動を起
こした児童生徒に対して、心理的なメカニズムを 理解し、問題の
解決に向けての指導・援助を個別またはグループカウンセリング
などの方法を用いて行う。したがって、特定の児童生徒が対象と
なる。
イ
予防的な機能…
児童生徒が問題を起こしたり、不適応に陥ったりしないように、
あるいは教師が気になる子どものサインをキャッチしたときに、
問題行動につながったり、問題が深刻化したりるすることを事前
に防ぐように指導・援助することである。したがって、すべての
児童生徒が対象となる。例えば、薬物乱用に陥らないために、保
健だよりで啓発活動を行うことや、いじめにあっても、いやなこ
とはいやと言えるように自己主張の練習をすることはその一例で
ある。
ウ
開発的な機能 …
どの子どもも学業、進路、性格、友人など年齢に応じた発達課題
をもっている。それを達成して自己実現に向けて成長していくよ
う指導・援助することであり、すべての児童生徒を対象としてい
る。進路相談をしたり自己成長を目指して人間関係づくりの体験
学習をしたりすることはその一つである。
7
なお、学校教育相談における治療的な機能を発揮するためには、関係機関との連携
が必要な場合がある。学級担任や学校は問題を抱え込むことなく、連携を組織的、積
極 的 、 効 果 的 に 行 う こ と で 、 問 題 の 解 決 に 結 び つ く の で あ る 。 ( P 45~ 50及 び 『 資 料
編 』 P 98、 99参 照 )
関係機関と連携をするときには、学校としてできうる最大限のことを行うことが前
提である。そのためにも、教師一人一人が面接相談の流れや方法を知り、それを身に
つけること、問題行動について基本的な理解と対応ができるようになることが求めら
れ る 。 ( P 10~ 14及 び 『 資 料 編 』 P 73~ 75参 照 )
次に、生徒指導の2つの側面と学校教育相談の3つの機能の関係を示す。
< 生
消
積
極
極
的
的
徒
な
な
指
生
生
導 >
徒
徒
< 学 校 教 育 相 談 >
指
指
導
導
治
療
的
な
機
能
予
防
的
な
機
能
開
発
的
な
機
能
(6) 学 校 教 育 相 談 ( 学 校 カ ウ ン セ リ ン グ ) の 基 本 的 な 考 え ・ 姿 勢
カ ウ ン セ リ ン グ に は 主 な も の だ け で 40以 上 の 理 論 が あ り 、 そ れ ぞ れ の 理 論 の 考 え 方
や技法には相違点がある。それらを総合的にとらえ、日常の教育活動において必要な
教師の態度として基本的であると思われるものについてまとめたものが以下のとおり
である。
基本的な考え方
○人は誰でもよくなろうとする力と意欲をもっている存在として尊重する。
→→→したがって、この子どもは変わらないと決めつけたり、裏切られたと落胆
して指導をやめたりすることなく、根気強く継続してかかわる。
○人は信頼している人の言うことはきくものである。
→→→したがって、日常の信頼関係づくりを重視する。信頼関係ができていない
ところで、何か問題が起きたときだけ指導しても効果があがりにくいし、
自分から相談しに行こうとはしない。信頼関係があれば、素直に指導や助
言を受け入れるようになるし、頼りにしようという気持にもなる。
○人は気持をわかってもらうことで心理的変容があり、それが行動変容の原動力
になる。
→→→したがって、まずは子どもの気持をわかろうとすることが大切である。も
ちろん、場面によっては、指示や禁止を行うこともあるが、それで行動が
改まらず、個別指導を行うときには、なおそうとするよりも気持をわかろ
うとすることから始めることで、子どもが自分を見つめ、なおすべきとこ
ろに目を向け、行動変容へとつながる。
8
○自分で決めたことは、行動に移しやすい。
→→→したがって、教師は、目の前の子どもがどのくらい自己決定できる力があ
るかを見極め、それに応じて自己決定できるような活動場面や役割をつく
ったり、自己決定のために考えるヒントを与えたりするなどの援助を行う。
教師がすべてを決めるのでもなく、何でも自分で決めなさいと放任するの
でもない。
基本的な姿勢
○児童生徒の発達、置かれている状況、内面の気持など多面的に理解する。
→→→したがって、児童生徒の発達段階に応じた特徴や問題行動に対する一般的
理解を行うとともに、資料を集める、観察をする、心理テストを行う、本
人と面談する、保護者や関係する教師、友人などから情報収集するなどに
より個別的な理解を行う。安易に決めつけたり、思い込みをもったままで
指導したりすることは、問題解決に結びつかないばかりか、時には問題を
こじれさせることにもなる。
○少しの我慢を意図的に設定する。そして、少しの変化を認める。
→→→したがって、児童生徒と話し合いながら、その子どもができることを目標
として決めさせ実行させる。目標があると張り合いをもつことができ、や
り遂げることで達成感、有用感、存在感をもつことができる。目標を決め
るときは、簡単すぎるものや子どもが内心できそうにないと思っているも
のではなく、尐し努力すればできそうなものを設定するのがポイントであ
る。子どもは、「できて、ほめられて、その行動が身につき、次の意欲が
わ く 」 の で あ る 。 で き た こ と を 当 た り 前 と 思 わ ず 、子 ど も と 共 に 喜 び た い 。
○温かさの中にも厳しさをもつ。
→→→温かさにより、子どもの心は安定し意欲的になれる。ただし、過保護や甘
やかしになってはならないことは言うまでもない。温かさの基盤の上に立
って、しつけをしたり、ルールを守らせたり、間違ったことに対しては毅
然とした態度をとることで、子どもの社会化を図ることができ る。
9
第Ⅱ章
面接相談の進め方
面接相談とは、児童生徒のよりよい学校生活の実現を目指し、教師が児童生徒や保護者
と共に、学業や進路、自己の生き方や学校生活への適応などの問題について考え、適切な
指導・援助を行うことで、問題解決を図っていくものである。そこで最初に、面接相談の
中心となる「ことば」と「動作や表情などの非言語」によるコミュニケーションのはたら
きについて概説し、次に面接相談の基本的な流れと主な技法等について述べる。
1
コミュニケーションの在り方
(1) こ と ば と 動 作 や 表 情 な ど の 果 た す 役 割
相手と面接を進め、コミュニケーションを図る手段と
しては、「ことば」(言語)と「ことば以外の動作や表
情など」(非言語)の2つがあげられる。この2つの手
段のコミュニケーションに占める割合は、「ことば」が
35% で 、 残 り の 65% が 「 動 作 や 表 情 な ど の 非 言 語 」 に よ
る(「異文化コミュニケーション」古田暁監修)と言わ
れている。また、この2つの手段のコミュニケーション
に お け る 役 割 を 考 え る と 、 「こ と ば 」が 主 と し て 事 実 や 思 考 の 伝 達 に 能 率 的 に 機 能 す
るのに対して、「動作や表情などの非言語」は主とし
て 感 情 な ど の 伝 達 に 機 能 し て い く 。 「こ と ば 」に よ る 事
コミュニケーションにおける
言語と非言語の占める割合
言語
35%
実などの伝達は意識的に行われるものであるが、感情
などはその時、その場の気分や状況によっても異なる
ため、無意識のうちに動作や音声、表情などに表れる
言語
非言語
65%
非言語
ものである。
そこでまず、「動作や表情などの非言語」について概説し、「ことば」(言語)
については、第3節の「基本的な指導・援助について」で具体的に述べていく。
(2) 動 作 や 表 情 な ど の 大 切 さ
動作や表情などに代表される非言語の種類は実に多様で
ある。また同時に極めて日常的なものでもある。しかも、
これらの中には、自分で意識せずとも自分の癖で自然と出
てしまうものもある。そこで、面接相談において教師は、
相手の思考や感情などを的確に把握するためにも、相手の
「ことば」に耳を傾けると同時に、無意識のうちに表れる
「動作や表情などの非言語」にも着目しながら面接を進め
ていく必要がある。非言語は相手の感情を的確に把握するための判断材料として効
果的に活用できるものである。
また、教師自身が無意識のうちに非言語に表れる自分の癖等について周知しておく
ことで、相手から誤解されたり、よくない印象を与えたりすることを事前に防ぐこと
にもつながる。すなわち、非言語は相手との信頼関係を築いていく上でも欠かせない
要素の一つと言える。
10
<面接相談における非言語に関する留意事項>
○視線:目は感情の出るチャンネルであるから、相手の心理をつかむためには、原則と
して目を見るが、過度の凝視に留意する。
○表情:感情の起伏は目と同時に表情に出る。眉間のしわは困惑・怒り・焦り等を表す。
○姿勢:腕組や足組は、時には相手に対する威圧となる。また前傾姿
勢も度を過ぎると威圧的になる。
○動作:不要に手足が動く場合は、焦り・困惑・嫌悪等の感情の表わ
れでもある。保護者が来たとき、立ち上がってあいさつをす
れば相手をねぎらう気持や関心があることを示すことになる。
○距離:空間的距離は心理的距離を表す。相手との距離が近すぎると相手に圧迫感を与
え、一方、離れすぎていると疎遠な感じを与えてしまう。
○服装:相手に敬意を表す服装を心がける。清潔で整った服装は相手に安心感を与える。
○声の調子・質・量:話す速さ、声の大きさ、調子等によっても相手に安心感を与える。
○ジェスチャー:あった方がよいものの、過度にならないようにする。
<面接相談において感情が無意識のうちに非言語に表れている例>
[例1]教
師:「……で悩んでいるんだ。そのことについてもう尐し話してくれる?」
○音声:穏やか
○表情:真剣
◎動作:貧乏ゆすり……教師自身の面接に対する苛立ち
[例2]生
徒:「友達のことは、別に気にしていないし、平気だよ。」
○音声:普通
○表情:笑顔
◎動作:こぶしをぎゅっと握り締める……友達に対する怒りや悔しさ等
*上記の2つの例は、無意識のうちに感情が非言語に表れたものを示している。しかし、
面接の状況や場面等によっても感情は微妙に異なってくるため、一概に非言語が肯定
的または否定的な感情を表していると断定できるものではない。
2
面接相談の基本的な流れ
面接相談の基本的な流れについて、面接の3段階を用いて説明していく。
面接の3段階
<第1段階:面接初期>信頼関係をつくる
○お互いに構えがなく、ざっくば
<第1段階>
らんな雰囲気をつくる。
<第2段階:面接中期>問題の核心をつかむ
<第3段階>
面接初期
面接後期
(信頼関係づくり)
(適切な指導・援助)
○相手の取り組むべき問題の核心
が何であるかをつかむ。
<第2段階>
<第3段階:面接後期>適切な指導・援助をする
○問題の解決を図るための適切な
面接中期
(問題の核心の把握)
指導・援助をする。
*曲線の深さは問題の複雑さ・深刻さを表す
11
<第1段階:面接初期>
○個別面接において大切なことは、まず相手との信頼関係を築くために、相手の話を傾
聴することである。受容したり、相手の気持に沿いながら聴いたりしていくことで、
相手は自分の心を開くようになる。
<第2段階:面接中期>
○相手の話を傾聴しながら問題の核心をつかんでいく。話の内容によっては、問題の核
心がすぐに把握できる場合もあれば、なかなか把握できない場合もある。
第1段階と第2段階でよく活用される基本的な技法が、「受容」「支持」
「繰り返し」「質問」「明確化」の5つである。
<第3段階:面接後期>
○問題の核心をつかんだならば、次はその問題の解決に向けて適切な指導・援助を行い、
相手に行動の変容を求めていく。
○具体的な指導・援助としてよく活用される技法が、「助言」「示唆」「解釈」「情
報提供」「指示」「説得」等であり、教師側からの積極的かつ具体的なはたらきかけ
が鍵となる。
○留意すべきことは、問題解決に向けて相手が具体的な行動をとれるように自己決定さ
せていくことである。自分の意志で決めたことであれば、行動変容の意識も高まり、
具体的な行動にも結びつきやすい。また、その行動がとれなかった場合でも、自分で
決めたことであれば自らの責任において行動を振り返り、反省する機会ともなりうる。
したがって、第3段階では、教師は、子どもが自分で考え、決断で
きるように具体的に指導・援助していくのである。なお、面接終了
後は、自己決定したことを実行しているかどうかを見守り、見届け
るとともに、実行できた場合は十分に認め、できなかった場合は再
度、行動化に向けて面接を繰り返していく。
個別面接は一般的に上記のような3段階の過程を経て進行していく。したがって、傾
聴するということは、まず相手との信頼関係を築き、第3段階での指導・援助が適切に行
われるようにするためのものである。このような面接の過程が正しく理解されず、第1段
階の傾聴のみが過度に強調され、また一人歩きをしたために、教育相談は「聴くだけ」
「指示をしない」などという誤解が生じたのである。
3
基本的な指導・援助について
(1) 面 接 相 談 の 3 段 階 の す べ て に 活 用 す る 指 導 ・ 援 助 (基 本 的 な 5 つ の 技 法 を 中 心 に )
面接相談を効果的に進めるためには、まず相手との信頼関係をつくる(面接相談の
第1段階)ことである。信頼関係づくりに効果的な技法として、ここでは「受容」
「支持」「繰り返し」「質問」「明確化」の5つの基本的な技法について概説する。
この5つの基本的な技法は、面接相談の第1段階ばかりでなく、問題の核心をつかむ
第2段階、適切な指導・援助をする第3段階においても活用されるものである。
12
○受容
受容とは、相手の話を「うん、うん」とあいづちを打ちながら聴くことである。非審
判的・許容的な雰囲気をつくり、あるがままの相手を受け入れることである。話し手は
構えがとれて語るようになり、聞き手との間に信頼関係が生まれる。ただし、受容は相
手の気持をわかろうとするが、迎合とは異なり、その行為を認めることではない。
[例]生徒:「勉強が手につかないんです。」
教師:「うん、うん(あいづちを打ちながら)。」
○支持
支持とは、「それはそうだ」「それは大変だったなあ」「よくまあ、今まで我慢して
いたものだ」と相手の言動を認めることである。支持されることをとおして、相手は自
分に対する自信をつけたり、自分自身を素直に受け入れられるようになってくる。
[例]生徒:「ずっといじめられて……でも、なんとかがまんして学校にだけは来てい
たんです。でも、本当に恐いんです。」
教師:「よく、今まで我慢してきたねー。本当に辛かったんだね。」
○繰り返し
相手の話した語尾を軽く繰り返したり、内容や感情のポイントをつかまえて、それを
相手に繰り返して伝える。聞き手の理解に間違いないか確認する気持を込めて行う。話
し手は、自分の話がきちんと聞いてもらえたという満足感があり、信頼感が出てくる。
また、自分の気持や受け取り方を離れて眺めることができ(聞き手が鏡になる)、自問
自答が促進される。それによって、自分がはっきりしてくる。
[例]生徒:「……だから、A男とはもうしゃべりたくないんだ。
顔を見るのもいやだよ。あんなやつ……。」
教師:「もう顔も見たくないんだ。」
○質問
聞き手は質問をとおして相手から情報収集ができる。一方、相手は聞き手が自分に関
心をもっていると感じることができる。質問には、「はい」「いいえ」で答えにくいよ
うな「開かれた質問」と、答えやすい「閉ざされた質問」がある。開かれた質問の方が
多くの情報が得られるが、口の重い相手には、閉ざされた質問の方が効果的である。
<留意点>
○話題があちこちに飛んでいくような聞き方にならず、一つの話題からそれに関連し
たことを聞いていく。
○相手が聞かれたくないと思ったことは後回しにする(信頼関係ができてから)。
○好奇心で聞かない。
[例]
開かれた質問
生徒:「A男とはもうしゃべりたくないんだ。」
教師:「そう、しゃべりたくないんだ。でもどうして?」
生徒:「A男が僕のことをばかにするから。」
教師:「ばかにする、どんなふうに?」
生徒:「僕が何もしていないのに、『バカ』とか『アホ』とか言うんだ。」
教師:「そうかー、A男はどんなときにそういったことを言うんだい?」
13
○明確化
話し手が心の中で思っていてもまだ言葉にしていないこと、または、話し手が薄々気
づいているがまだはっきりとは意識していないことを聞き手が先取りして言う方法であ
る。明確化がぴったりと決まったときは、相手は聞き手のことを自分の気持がわかって
くれる人だと感じ、信頼関係が深まる。
[例 ]生 徒 : 「 い つ も 、 お 母 さ ん は 僕 ば か り 怒 る ん だ 。 」
教師:「自分ばかり怒られて面白くないんだ。
兄弟を平等に扱ってほしいんだね。」
<技法を活用する上での受容的態度に関する留意点>
相手との信頼関係をはぐくむ上では、受容・支持・繰り返し・質問・明確化の5つの
技法を効果的に使いながら、受容的態度で接していくことが重要である。しかし、技法
の使い方によっては、放任や甘やかしになったり、または相手の行為そのものを認めて
しまうことになったりして、かえって事態を悪化させる原因となる場合もある。
次の例1と例2の面接相談の一部を比較して考えてみたい。
[例 1 ]迎 合 的 対 応
生徒:「タバコにどうしても手が出てしまうんだ。」
教師:「うん、うん(うなずきながら)。」
生徒:「家でも認めてるし…、自分でもしょうがないと思ってんだ。」
教師:「うん、うん(うなずきながら)。」
生徒:「でも…、俺も尐しは学校ではまずいと思ってんだ。」
教師:「ふーん(うなずきながら)、A
確かに学校じゃまずいよな。」
生徒:「そうなんだ。だからこれからは学校ではできるだけやめるよ。」
教師:「B
うん、うん(うなずきながら)。なるほどー。」
[例 2 ] 受 容 的 対 応
生徒:「タバコにどうしても手が出てしまうんだ。」
教師:「うん、うん(うなずきながら)。」
生徒:「家でも認めてるし…、自分でもしょうがないと思ってんだ。」
教師:「うん、うん(うなずきながら)。」
生徒:「でも…、俺も尐しは学校ではまずいと思ってんだ。」
教師:「ふーん(うなずきながら)、C
学校ではまずいと思っているんだ。」
生徒:「そりゃ…、まずいよ、俺だって。」
教師:「D
うん、うん(うなずきながら)。なるほどー。E
でもどうして?」
*例1では、教師は受容的態度で生徒に接しているつもりであるが、下線部Aで生徒の喫
煙自体を認めてしまっている。そのため、下線部Bのうなずきは、生徒の喫煙を認めた
うなずきになっている。それに対し例2では、下線部Cで繰り返しの技法を使い、相手
の気持や考えのみに焦点を当てている。これは、喫煙行為そのものを認めているわけで
はない。そのため、下線部Dのうなずきは、生徒の喫煙そのものを認めるうなずきでは
なく、気持や考えに対するうなずきとなっている。そして、下線部Eで開かれた質問を
14
使い、生徒の気持や考えにさらにせまっていっている。この点が例1との大きな違いで
ある。このように、同じ「うん、うん」といううなずきであっても、例1のようなうな
ずきは受容とは言えず、事態をかえって混乱させる原因ともなる。この点を押さえなが
ら、受容的態度で接していくことである。
*例1に関しても、その場の生徒の感情や教師と生徒との信頼関係の程度などによっては
微妙に状況が異なってくる。そのため、下線部Aのような教師の発言が、すべての場合
において生徒の喫煙を認めたことになるとは一概に断定できるものではない。
(2) 面 接 相 談 の 第 3 段 階 で 活 用 す る 主 な 指 導 ・ 援 助
面接相談の第3段階では、相手の行動変容を促すために教師からの具体的なはたら
きかけが必要となる。この具体的なはたらきかけとしてよく使われる指導・援助につ
いて概説する。
ア
相談者に対するはたらきかけ
○助言
助言とは、「~をしてみたら」「~はどう」などと、相手の行動を促したり、また、
「~かもしれないよ」などと、将来起こりうることを予測して言ったりすることであ
る。大事なことは本人に行動の自己決定をさせることである。
[例]生徒:「……………行きたい高校が見つからないんです……。」
教師:「そうか、それじゃ、高校説明会や体験入学に参加してみたらどう。」
○示唆
示唆とは、「私だったら~するけど」「その場合は、~と考えられるかな」などと、
相手のとるべき言動をそれとなく教えることである。
[例]生徒:「お風呂に入った後はすっきりして、勉
強もやる気が出るんです。でも、家は
お風呂の時間が遅いんです。」
教師:「そうか、先生なら、お母さんに頼んで、
家に帰ったらすぐにお風呂に入れるよ
うにしておいてもらうけどなー。」
○解釈
解釈とは、相手が自分の言動や考え方に気づいていないことを気づかせる発言であ
る。例えば「言い方がきつい人には何も言えなくなってしまうんだね」「失敗すると
すぐに投げ出してしまうんだね」などである。解釈は一つとは限らないので決めつけ
た言い方をしないようにする。
[例]生徒:「…………実は、もう学校をやめようと思っているんですけど。」
教師:「学校に来るのが苦痛で、その苦痛から逃れて楽になりたいんだね。」
○情報提供
情報提供とは、相手が必要と感じている情報を与えることである。例えば、「公立
高校の入試日程は…となっています」などである。留意すべきことは、相手の求めて
いる情報内容かどうかを確認するとともに、情報提供する時期を逃さない、量が多す
15
ぎないことである。こうした情報提供は、相手の主体的選択や自己決定を促すことに
もなるため、ガイダンスの機能が効果的に生かされることにもつながっていく。
[ 例 ] 親 :「 引 っ 越 し て 来 た ば か り で 、 付 近 の 高 校 の 様 子 が 全 く わ か ら な い も の で
すから…、子どもの進路を考えると不安なんです。」
教 師 : 「そ れ な ら ○ ○ と い う 本 と △ △ と い う 本 が あ り ま す よ 。 そ れ を 参 考 に す
るとよいと思いますが。」
○指示
指示とは、「~するんだよ」「~な行動をとりなさい」「~と言いなさい」「~を
考えなさい」などと、相手のとるべき行動や言うべきことについて明示する。留意点
は、指示内容をできる限り具体的にし、相手が理解できたかを確認することである。
[例]
親
:「やはり、子どもとのふれあいが大切なんですね。」
教師A:抽象的な指示
「だから毎日、子どもさんとかかわる
時間をつくってください。」
教師B:具体的な指示
「だから毎日、寝る前に5分間子ども
さんに本を読んであげてください。」
*教師Aの指示は抽象的なため、親はどのような行動をとってよいかわからない。
一方、教師Bの指示は具体的なため、親は自分がとるべき行動がよく理解できる。
○説得
説得とは、「~と考えられないかい」「その考えは勝手すぎないかい」などと、相
手に聞き手の考えをぶつけることである。説得の場合は、聞き手の考えが強くなるの
で、十分に信頼関係ができてから行うことを原則とする。
[例]生徒:「………勉強はいやなんです。でも、A高校には行きたいんです。」
教師:「でも、努力もしないで自分の都合だけっていうのはちょっと虫がよす
ぎないかい。」
イ
環境へのはたらきかけ
環境へのはたらきかけとは、相手に対する直接的なはたらきかけでなく、相手を取
り巻く環境にはたらきかけて個人を変えていくことである。例えば、不登校児童生徒
の対応に当たって、クラスの児童生徒の受け入れ体制を整えたり、保護者の接し方に
ついてはたらきかけたりすることである。また、自信を失っている児童生徒に対して、
教師全員が同じように声かけするなどして、自己存在感を与えたりすることである。
ウ
関 係 機 関 と の 連 携 ( 連 絡 先 等 は 『 資 料 編 』 P 98~ 99 参 照 )
相談内容や相手の状況によっては、学校での対応より他の専門機関が担当した方が
よい場合がある。こうした場合は、まず教育研究所(相談室)や教育センターに相談
してみることである。相談した結果、病的傾向などが見られる場合ならば専門医、家
庭の経済的援助にかかわるものならば児童相談所や福祉事務所などのように、さらに
他の関係機関とも連携を取り合っていくことになる。
16
エ
具体的活用方法
①段階的指導の方法
段階的指導とは、児童生徒の実態を十分に把握し、目標達成にいたるまでの過程を
細分化し、やさしい段階から順序立てて取り組ませていくようにする指導法である。
細分化した段階を達成できるたびに教師がほめ、認めるとともに、児童生徒に自己評
価させ、自信をもたせながら取り組ませていく。
<段階的指導の在り方>
1
活用場面
○同じような行動を繰り返す児童生徒への指導
[例]忘れ物が多い・係活動ができない・規則を守らない(遅刻等)等
2
面接相談の流れ
1
目標設定
〇児童生徒の学校での学習面や生活面を振り返らせ、その中でしてよいこと、必ず守
らなければならないことを理解させ、目標を設定させる。
[例]授業をきちんと受けるようにする・宿題は必ずやる・時間を守る
など
*留意事項:目標設定段階では信頼関係づくりを重視するために、まず傾聴する。
2
行動目標の決定
〇1の目標に沿って1週間単位の細かい具体的行動目標を決定させる。ポイントは現
在の実態からほんのわずかレベルを上げた程度の行動目標にすることである。
[例]宿題を忘れがちな児童生徒へは、「漢字を毎日2行書く」など行動目標の結
果が一目で確認できるような具体的な目標にする(「宿題を毎日やる」など
のような抽象的な行動目標にならないこと。)。
*留意事項:必ず児童生徒に行動目標を自己決定させる。
3
行動目標の実行
○児童生徒が行動目標を達成した場合はその都度ほめ、ほめることを積み重ねていく。
達成できない場合は、叱責するのではなく目標達成を促すようにはたらきかける。
[例]「A君、今週の君の目標が終わるまで先生はここで待っているよ」と待つ。
4
行動目標の達成確認とレベルアップ
○1週間の終わりに15分程度、本人の行動目標の達成状況について話し合う。
○行動目標の達成状況を確認し、しっかりできたことをほめ、その
ときの児童生徒の気持などを話させる。
○児童生徒の意志を優先しながら、来週の行動目標を具体的に決め
させる。ただし目標を一気に上げすぎないように配慮する。
3
留意点
○クラスの児童生徒に、次の2点について日ごろから説明しておく。
4
ア
人間は皆平等であるが、一人一人の特性・能力は一様ではないこと。
イ
学校で生活していくためには最低限のルールが必要であること。
その他の活用場面
○不登校児童生徒を段階的に登校させていく際に活用する。
[例]着替える→玄関まで→公園まで→学校の正門まで→保健室まで→教室へ
17
②成功例を活用する方法
基本的生活習慣が定着していなかったり、同じ失敗を何度も繰り返したりする児童
生徒にも、ときには失敗せずにうまくいった日もあるはずである。例えば、提出物を
毎回のように忘れる児童生徒でも、忘れずに持って来た日もあるだろうし、また集合
時間にいつも遅れる児童生徒が、時間どおりに集合できたときもあるだろう。こうし
たことは、本人が意識的に行った場合もあるだろうし、意識せずに行ったことが偶然
によい結果となった場合もあるであろう。いずれの場合も本人によい結果をもたらし
たことには変わらないし、また、ある意味での成功体験になっているとも言える。
そこで、いつも問題となる行動をとりがちな児童生徒の指導に際しては、その成功
体験のときを思い出させ、そのうまくいった場合に着目して、その行動を常に意図的
にとらせるようにしていく。そして、尐しでも改善される姿勢や努力が見えた場合に
は、本人を認め、自信をもたせていくことで解決状況に導いていくようにする。
<成功例を活用する指導の在り方>
1
活用場面:「段階的指導の在り方」と同じ
2
面接相談の流れ
1
目標設定 :「段階的指導の在り方」と同じ
2
成功例を探す
○生活を振り返らせ、失敗せずにうまくできたときの行動を本人に思い出させる。
[例1]忘れ物の多い児童生徒
・好きなTV番組を見る前に明日の準備をしたときは忘れ物をしなかった。
[例2]いつも遅刻する児童生徒
・朝、犬の散歩をしたときは、時間どおりに登校できた。
[例3]友達と気楽に話ができない児童生徒
・自分から先に「おはよう」とあいさつしたときは、友達と気楽に話がで
きた。
3
成功したときの気持を考えさせる
○どんな小さな成功例にも肯定的反応を返す。
*肯定的反応により、うまくいったことが偶然の結果であっても自分の自信とな
り、自己の意識を高めることとなる。その結果、解決への意欲を高めることに
つながる。
*「他には」と繰り返し、気づいていなかった成功例を意識化させ、たくさんの
解決状況が語れるようにしていく。
4
課題の提示
○自分で意識してうまくできた場合は、続けるように指示する。
○自分が意識せず、偶然うまくいった場合は、自分から意図的にそれをやるように
指示する。
○具体的成功例が見つからない場合は、うまくいった場合のことを想像させ、その
イメージをもとに行動するように指示する。
*成功例を発展させ、積み上げさせていくようにする。
18
第Ⅲ章
日常の教育活動に生かすカウンセリング
教師と児童生徒の信頼関係及び児童生徒相互の好ましい人間関係を育てることが、生徒
指導の充実とともに、学校教育活動全体の充実にもつながっていく。また一方では、教師
の学習指導や学級経営・ホームルーム経営(以下学級経営と略す)等の指導力の向上が教
師と児童生徒の信頼関係を築くことにもつながっていく。
そこで、本章では、授業や学級経営及び児童生徒や保護者との日常的なかかわりの中で、
カウンセリングの考え方や技法をどのように生かして信頼関係づくりや人間関係づくりを
進めていくか、またどのように指導の充実を図っていくかについて概説する。
1
学級経営・ホームルーム経営に生かす
児童生徒の学校における生活の中心はクラス(学年)である。したがって、児童生徒
にとっては、自分のクラス(学年)が親和感に満ちた楽しく温かな場であると同時に、
自らを高め、互いに切磋琢磨できる場であることが必要である。こうした場にするため
にも、まず、教師と児童生徒の心の交流を大切にしなければならない。教師が児童生徒
と心の交流をしていくために必要とされる態度としては、次の3点があげられる。
ア
かかわり態度(児童生徒とのふれあい・対話を大切にする、など)
イ
誠実な態度(親身になる、一人一人の児童生徒を気にかける、など)
ウ
受容的態度(うなずいたり、最後まで話を聴く、など)
教師がこのような態度で児童生徒と接するとき、児童生徒は温かな人間関係をとおし
て自己の生き方を冷静に見つめることができ、自由な雰囲気のもとで自ら設定した目標
に向けて活動しようとする意欲が喚起されてくる。また、教師のこのようなかかわり方
が、児童生徒相互の関係にまで波及し、クラス(学年)全体に温かな人間関係が形成さ
れてくる。ただし、この前提として必要なことは、児童生徒に対する深い愛情や情熱、
厳しさ、信頼する姿勢など、教師としての基本的な姿勢が確立されていることである。
そうでないと、単なる形だけの態度となり、決して心の交流にはつながらない。
<進路で悩んでいる生徒に対する対応例>
[例1]実務中心の一方的な対応
教師:「今日は進路希望調査票を持って来たかい。」
生徒:「まだはっきりしていないので……。」
教師:「それで持ってきたのかい。」
生徒:「だからまだなんです……。」
教 師 : 「 え ー !?、 今 日 が 最 終 提 出 日 っ て 何 回 も 言 っ
ていただろう。何やってるんだよ……。そ
れで親は何て言っていたんだい。」
生徒:「親と意見が合わないんです。」
教師:「意見が合わない。だから早めに話し合っておくように言っただろう。とにかく
今日中に何とかしなさい。いいね。」
19
[例 2 ]心 情 を ま ず 受 け と め る 対 応
教師:「今日は進路希望調査票を持って来たかい。」
生徒:「まだはっきりしていないので………。」
教師:「まだはっきりしていないってどういうこと?」
生徒:「実は、親と意見が合わないんです。」
教師:「親と意見が合わないのかー。どういうことなの
か話を聞かせてくれるかな?」
生徒:「実は…………。」
*例1では、教師の実務面のみが強調されているため、生徒の進路に対する不安や迷い
が解消できない。また、生徒に対する一方的な教師の態度により、生徒の心の中には
不満も残ることになる。それに対し例2では、教師は生徒の気持をまず受けとめてい
る。そして、進路に対する不安や迷いや葛藤などについて、生徒が心を開くよい機会
であるととらえながら対応している。こうした教師の日常的な温かな対応が、教師と
生徒の心の交流を深めることになり、信頼関係に満ちた学級経営にもつながっていく。
*例2においても、生徒の話を傾聴した後、進路に関する適切な指導・助言をするとと
もに、生徒が提出期限に間に合わなかったことについては、当然指導しなければなら
ない。心情は受容しても「いけない行為・間違った行為」は指導することが大切であ
る。
<声かけに関する留意事項>
ア
「あいさつ」などの声かけは、教師の方からも積極的に行うこと
○声かけは、受け身ではなく、積極的に行うことで児童生徒との人間関係を深めてい
くきっかけとなる。
あ:明るく
イ
い:いつも
さ:先に
つ:続けて
声かけはすべての児童生徒に公平にすること
○声かけをする児童生徒に偏りがでないようにする。
ウ
すべての児童生徒に積極的に関心をもつこと
○その場、その時点での児童生徒の言動に関心をもち、
変化したことや頑張っている点を具体的に認め、ほめ
る。
エ
児童生徒の特徴や努力している点などの情報を収集し
ておくこと
○児童生徒の情報を幅広く収集しておくことで、声かけが具体的なものとなる。
オ
声かけは人間関係づくりの視点で行うこと
○児童生徒を注意したり、とがめたりする姿勢ではなく、相手に関心を示す態度で行
う。
20
2
授業に生かす
学校生活の中心は授業である。教師は授業の中で、各教科等のねらいに沿って、児童
生徒が新たな課題解決に向かって追求する過程で、思考を深めたり適切に判断したり、
表現したりできるように指導・援助していく。この指導・援助が円滑に進められるため
の基盤は、教師と児童生徒の信頼関係及び指導の充実である。そこで、授業における信
頼関係づくりや指導の充実を図っていくために、どのようにカウンセリングの考えや技
法を生かしていくかについて以下に述べる。
(1) 自 己 指 導 能 力 育 成 の た め の 3 つ の 留 意 点 を 重 視 す る
自己指導能力は、全教育活動をとおして育成するものであるが、ここでは、授業時
に視点をあてて、その育成のための留意点について述べる。
○自己存在感を与える
児童生徒は誰もが認められたいという欲求をもっている。この欲求が満たされるこ
とで、自分は大切にされているということが実感できる。授業の中でも、教師や友人
から自分が認められ、自己存在感が得られたとき、活動意欲は増し、生き生きと活動
できる。そこで、授業においても一人一人の考え方や感じ方を尊重したり、できる喜
びやわかる楽しさを味わわせたりして、自己存在感を与えるようにしていく。また、
児童生徒一人一人の長所や得意な面なども十分に把握しておき、活動場面や活動の機
会を意図的に設定するなどの工夫をしていくことも必要である。
○共感的人間関係を重視する
児童生徒が安心した気持で伸び伸びと活動するためには、温かく受容的な雰囲気づ
くりが欠かせない。この雰囲気をつくるためには、教師の共感的なかかわりが基盤と
なる。例えば、児童生徒が間違ったり失敗したりしたときは、まず児童生徒が今どの
ような気持になっているのか、どのような感情にとらわれているのかなど、あたかも
教師が児童生徒になったようなつもりで受けとめてやることである。教師がその児童
生徒の緊張感や不安を自分のこととして受けとめたとき、相手は自分の気持がわかっ
てもらえたと安心できる。こうした教師の共感する姿勢が周りの児童生徒にも伝わり、
クラスが温かく受容的な集団に成長していく。さらに児童生徒相互の心と心の交流も
育まれ、多くの自己理解と他者理解のチャンスを提供することとなる。
○自己決定の場を与える
児童生徒に自分の取り組むべき課題を選択させたり、設
定させたりして、自ら学ぶ方向を自己決定させていく。自
分で課題を選択・決定するということは、自分の知識や経
験に基づいて「現在地」を確認し、自分自身で「目的地」
を決めることである。そして「目的地」までの実現に向け
て計画を立て、実行していく。実行後は自分の行動を自分
で評価し、次の目標と行動に向けて改善していく。こうし
た自己決定の体験をとおして、行動の主体は自分であると
の意識が高められるようになる。
21
(2) 一 人 一 人 の 児 童 生 徒 を 大 切 に す る
○聴く
児童生徒の言葉を最後まできちんと聴くことである。発言の機会を与えたら、途中
でさえぎることなく最後まできちんと聴くことが、児童生徒を尊重することにつなが
る。児童生徒は、教師が自分の発言に耳を傾けて聴いてくれたことにより、安心でき
るのであり、自分が大切にされていることが実感できる。
○待つ
教師が発問した場合、児童生徒に考える時間を十分に与えることである。教師は児
童生徒に対して「………についてよく考えてください」と言いながらも、すぐに「こ
ういうことだよ」「こんなふうに考えられるよ」などと言ってしまう場合が見られる。
こうした言葉により、児童生徒はかえって思考を中断されることになる。特に授業の
ねらいにせまる発問については、考える時間を十分に与えることが大切である。こう
した時間を保証するためにも、授業を計画的に行う必要がある。
○支持する
児童生徒の取組や作業を十分に認め、支持することである。支持されることによ
り、児童生徒は自分の言動に自信がつき、意欲も増してくる。ただし、支持する場合
は、児童生徒の取組や内容について具体的に支持することである。例えば、発言した
児童生徒を支持する場合、「それはよい発言だ」とするよりは、「君の発言からは、
…なことがわかり…なふうに感じたということがよくわかった」と具体的に支持する
方がよい。
○要約する・言い換える
児童生徒の発言内容が、教師には理解できても、聞いている他の児童生徒にとって
わかりにくいときや、発言している児童生徒自身が、自分の発言にまとまりがつかな
くなってしまったときなど、「つまり、…ということだね」「まとめると、…なふう
に言えるのかな」と要約したり、言い換えたりする。そのことにより、発言した児童
生徒は自分が大切にされていると実感できるようになる。
○認める材料を探す
レポートやノート、提出物、作品などからよい点を認
め、ほめる材料を入手しておく。また、机間指導の際、さり気ない児童生徒のつぶや
きや疑問を授業に生かすことで、児童生徒の思いを達成させることも重要である。こ
うした教師の姿勢により児童生徒は自分が認められたということが実感できる。
○教材を工夫する
児童生徒の一人一人の考え方や見方を引き出せるような教材を工夫することである。
児童生徒は友達の考えにふれることにより、一つの事象からでも、様々な考え方や見
方があることがわかるとともに、友達からも自分の意見が認められる体験をとおして、
自己理解や他者理解を深めていくことになる。
○評価を工夫する
評価の大きなねらいの一つとして、児童生徒の活動意欲の向上を図ることがあげら
れる。したがって、評価は教師が一方的にするだけでなく、児童生徒の自己評価や相
互評価も生かしていく必要がある。なぜならば、自分の学習状況をもっともよく知っ
22
ているのは児童生徒自身だからである。児童生徒が自らの学習状況を振り返り、反省
してこそ次の課題や目標が明確になる。そこで、評価するに当たっては、児童生徒の
自己評価をもとに、努力した点や成果の上がった点並びに改善すべき点等を具体的に
示し、次の課題や目標にせまれるようにしていく。こうした教師の姿勢が、学習の主
体は児童生徒自身であることの自覚を深めることになる。
(3) 対 話 の あ る 授 業 を 目 指 す
児童生徒の主体的な態度を育成していくためには、対話のある授業を目指すことで
ある。対話のある授業とは、教師と児童生徒及び児童生徒相互に思考や感情交流のあ
る授業のことである。すなわち、教師が一人一人の児童生徒の実態や学習状況に応じ
た展開を工夫し、教師と児童生徒でつくりあげていく授業のことである。そのための
手だてを以下に述べる。
○教師の発問を工夫する。常に一問一答式の「閉ざされた質問」だけでは対話のある
授業には発展しない。「どのように考える?」「いまの~君の発言をどう思う?」
などの「開かれた質問」をしていく。
○「開かれた質問」をしても児童生徒は発言しにくい場合もある。その場合には、発
言しやすいようにグループで話し合わせ、その結果を発表させたり、考えを書かせ
た後で発表させたりする。
○討議やディベート形式等の授業形態を工夫し、児童生徒同士で意見交換ができるよ
うにする。このことにより自己主張・自己表現しようとする意欲が高められる。
○日ごろから相互にスピーチする機会を設定し、人前で意見や感想を言えるクラスの
雰囲気をつくっておく。
○実験や観察、作業などの活動後に「ペア学習」を取り入れることも、対話のある授
業には有効な手だてとなる。
<「ペア学習」を授業に活用した例>
1
活用場面:実験や作業後の活動
2
方法(5分程度)
(1)2 人 組 に な り 本 時 の 活 動 に つ い て 感 じ た こ と や 気 づ い た こ と な ど を 語 り 合 う 。
○2人が交互に聞き手、話し手となる。
(2)聞 い た 内 容 を 互 い に 確 か め 合 う 。
○聞き手は話し手が語った内容の要点を簡単にまとめ、話し手に伝える。
○話し手は聞き手のまとめた内容が自分の話した内容と合っているかを確認し、
聞き手に伝える。もし、足りない点や異なっている点があれば聞き手に伝える。
(3)2 人 の 考 え を 全 体 に 発 表 す る 。
○発表者は2人の考えをミックスして、「僕たちは…なことがわかり、…なこと
を感じました」としてもよい。また、2人組の一方が、相手の了解を得て「A
君は…なことがわかり、…な感想をもっていました」と発表してもよい。
3
長所
○相手の考えを聞くことにより、他者理解が深まる。
○自分でまとめたり発表したりすることで要点を整理する力や表現力が身につく。
23
3
日常会話に生かす
教師は児童生徒と個別に話をする機会が多い。この場合の個別の会話とは相談室のよ
うな特定の場所ではなく、下記のような日常の学校生活において行われることが中心と
なる。
○給食時間や清掃時間で児童生徒に接する場合
○休み時間や放課後の時間を利用して児童生徒と話をする場合
○遅刻や早退などを申し出た児童生徒に対応する場合
○欠席した児童生徒に電話で対応する場合
等
このような様々な日常会話の場合においても、カウンセリングの技法や考え方を生か
すことが、信頼関係づくりに効果をあげることとなる。
<日常会話に生かすカウンセリングの例>
[例1]除草作業の場面での会話
教師:「最近部活に燃えているようだねー。顧問の
A先生が粘りが出てきたとほめていたよ。」
生徒:「そうですかー。」
教師:「そうだよ、以前と違って自分から率先して
声を出しているって言ってたぞ。」
生徒:「そうですかー。」
教師:「なんかいいことでもあったのかい。」
生徒:「うーん、特にこれってないけど、最近なんかやる気が出てきたんです。」
教師:「ふーん、やる気が出てきたんだー。」
生徒:「うーん、実はね、………。」
*作業などをしながら話をする場合は、児童生徒の緊張感も尐なく、本音が出ること
が多い。そこで、会話に入る際には、まず、身近な話題からさり気なく入っていく
ことである。そのためにも、日ごろからその生徒のよい点や目立った点などの情報
を収集しておくようにする。そして、まず話しやすい雰囲気を築き、徐々に核心に
せまっていくことである。
[ 例 2 ]放 課 後 の 教 室 で の 会 話
教師:「あれ、一人で何やっているんだい。」
児童:「○○係の仕事です(元気なく小さな声で)。」
教師:「えらいねー、一人でやっているとは。ところで、他の子は?」
児童:「皆帰っちゃいました(元気なく小さな声で)。」
教師:「皆帰っちゃたのかい。」
児童:「うん………(うなずくのみ)。」
教師:「一人じゃ辛いね。」
生徒:「うん………(うなずくのみ)。」
教師:「どういうことなのか、わけを話してくれる?」
*教師が児童生徒に声をかけたとき、様子が普段と変わっていた場合は、児童生徒
の感情を言葉や動作、表情等から読み取りながら話を進めていく。こうした教師
の姿勢が児童生徒の心を開き、その子どもが本音を語るようになっていく。
24
4
児童生徒相互の人間関係づくりに生かす
(1) 構 成 的 グ ル ー プ エ ン カ ウ ン タ ー
ア
構成的グループエンカウンターとは
エンカウンターとは「出会い」という意味である。あるがままの自分を互いに語
り合って感情交流を図り、一つの世界を共有し合うような関係そのものをいう。こ
うした人間関係の深まりを、集団の中で意図的に進めていこうとするのが構成的グ
ループエンカウンターである。すなわち、教師が学級や児童生徒の実態に応じてプ
ログラムを意図的かつ計画的に進めながら心と心の交流を深め、人間的な成長を図
ろうとするグループ体験学習のことである。
イ
構成的グループエンカウンターの活用のねらい
児童生徒が、教師の指示のもとに、ねらい(自己理解・自己受容・他者理解・自
己主張・感受性の促進・信頼体験)に応じた各種のグループ活動を体験しながら、
好ましい人間関係を築いていく。
ウ
構成的グループエンカウンターの長所
○児童生徒はこの活動をとおして、豊かな人間関係を体験するとともに、自尊感情
や充実感が増してくる。
○教師のリーダーシップのもとで集団としてのルールが徹底されるため、自律意識
や規範意識が育まれる。
○短時間で児童生徒相互の信頼関係をつくることができる。
○グループのレベルや状態に応じてプログラムを組むことができる。
○教師が専門的な訓練を積んでいなくても実施できる。
エ
活用場面
各教科・科目、道徳、学級活動・ホームルーム活動(以下学級活動と略す)の授
業から宿泊行事、学年行事、朝の会や帰りの会等にいたるまで様々である。
○学級活動や学年集会等で、人間関係を豊かにするために実施する。
○毎月の学年朝会で、教師が輪番でリーダーとなって実施する。
○帰りの会で簡単なプログラムを1週間単位で継続実施する。
○保護者会の際に、保護者と児童生徒が一緒になって実施する。
○校外学習や修学旅行の事前・事後指導の一環として実施する。
○授業開始の際になごやかな雰囲気をつくったり、またグループで話し合ったりす
る際に活用する、など。
オ
児童生徒に活動させる際の留意点
○活動後の振り返り(シェアリング)を重視する。プログラムの終了時に必ず振り
返りを行わせ、プログラムの実施体験をとおして気づいたこと、感じたこと、学
んだことを相互に語り合わせることで、自己理解や他者理解を深める。この際、
相手の行動を変えようとしたり、自分の考えを押しつけたりしないようにさせる。
○教師の指示のもとに、プログラムの開始・終了時間を守らせる。
○活動相手が同一人物にならないようにする。
○活動に抵抗を示す児童生徒がいる場合は、無理に参加させず、他の児童生徒の言
動を観察させたり別の役割を与えたりして、徐々に活動に慣れさせていく、など。
25
<構成的グループエンカウンター活用例>
1
演習名:ブラインドウォーク
2
ねらい:信頼体験
○相手を信頼することによって生じる安心感や喜びを体験する。
○相手に対する優しさやいたわりの大切さ並びに相手から信頼される喜びを体験し、
友達同士の信頼関係を深める。
3
方法
○2人1組になり、目を閉じる人、誘導する人の順番を決める。
○声を出さずに部屋の中を誘導しながら自由に歩きまわる。
○目を閉じた相手が不安をもたなくていいように、気持を察しながら案内する。
○目を閉じた人は相手に自分をできるだけ任せるようにする。
○役割を交替して実施する。
○2人で感想を述べ合う。
○頼れる気持が出てきたら階段上りや広い範囲(校庭など)に挑戦する。
* 活 用 例 の 詳 細 は 『 資 料 編 』 P 56参 照
(2) ロ ー ル プ レ イ ン グ
ア
ロールプレイングとは
ロールプレイングとは、役割演技法のことで、特定場面でのできごとを想定して、
登場人物になりきり、言葉と身振りをとおしてその役割を演じていくことである。
その役割を演じることで、参加者は相手の気持や考えを自分のこととして感じとり、
他者の気持が体験的に理解できるようになる。こうした役割体験をとおして、人間
関係の在り方を見直したり、よりよい人間関係を築くための態度や技能を修得した
りしていこうとするものである。
イ
ロールプレイングの活用のねらい
○教師と児童生徒及び児童生徒相互の望ましい人間関係の在
り方について、ロールプレイングをとおして体験的に学ぶ。
○クラスで生かせるロールプレイングを体験し、児童生徒の
望ましい仲間意識をはぐくむ手だてを学ぶ。
ウ
ロールプレイングの長所
○役割を演じることにより、その時、その場において、どのような気持になるかを
具体的に感じとれるため、心情面の理解が深まる。
○自らの言動の改善点について、役割を演じることをとおして具体的に理解できる。
○相手の立場を考えて行動する意識が育つ。
○観衆として参加したり、観察者として演技を見たりすることにより、自らの言動
を客観的に振り返る手がかりとなる。
エ
活用場面
道徳、学級活動、朝の会・帰りの会、学年集会、宿泊行事等での活用が考えられ
る。活用に際しては、授業や行事等のねらいを明確にし、目標との関連を十分に吟
味した上で、ロールプレイングを指導過程に位置づけていく。
26
オ
児童生徒に活動させる際の留意点
○役になりきり本気で演技させる。
○演技する者以外は観衆・観察者として参加させ、
その場の状況を客観的に観察させる。
○振り返りを重視する。演技終了後、ロールプレイングで気づいたこと、感じたこ
と、学んだこと、よかった点などについて率直に話し合わせる。
○開始と終了の合図をしっかりすることで、演技と現実世界の区別をつけさせる。
○演技終了後は、しこりを残さないように握手またはあいさつをさせる。
○身体への接触はさせない。(例:いじめ等のロールプレイングの場合)
<ロールプレイング活用例>
1
演習名:あいさつ
2
ねらい:あいさつのロールプレイングを体験し、好ましい人間関係の在り方につ
いて考える。
3
場
面:児童生徒が登校中、正門のところで友達にあいさつする場面
4
役割設定(シナリオ)
児童生徒A :自分からクラスの友達Bに明るく「おはよう」とあいさつをしていく。
児童生徒B :クラスの友達Aからあいさつをされた児童生徒役を3パターン演じる。
①のパターン…黙って無視して通り過ぎる。
②のパターン…目を見ずに機械的にただ「おはよう」と言葉を返して通り過ぎる。
③のパターン…友達の目を見ながら「おはよう」と微笑みながらあいさつをかわ
す。その後、アドリブで言葉をいれていってもよい。
5
方
法:3人グループになり、全員が児童生徒A・B役と監督役を順番で行う。
役割設定(シナリオ)に沿って、ロールプレイングを演じる。
児童生徒Bの3パターンを演じたら役割を交替する。
ロールプレイングの開始と終了の合図は監督役が行う。
6
振り返り:児 童 生 徒 A は 児 童 生 徒 B の 3 つ の 対 応 を ど の よ う に 感 じ た か 。
自らの言動を振り返り、今後の生活にどのように生かしていくか。
*児童生徒Bを教師に変えることで、教師と児童生徒との信頼関係づくりにも
活用できる。
* 活 用 例 の 詳 細 は 『 資 料 編 』 P 76~ 85参 照
5
保護者(地域の人々)との対応に生かす
教師が保護者などと話をする場合は、下記のように実に多様である。
○保護者が自分の子どものことで教師に相談しに来る場合
○問題行動等への対応で保護者や地域の人々に話を聞いたり、依頼したりする場合
○クラスや学年の行事等で仕事などを依頼したり了解を得たりする場合
○保護者や地域の人々がクラスや学校に対する苦情や要望、情報提供などをする場合
○保護者会で話をする場合
等
こうした場合、直接保護者などが学校に来る場合もあれば電話での場合もある。また、
教師が家庭訪問したり別の場に出向いて話をしたりする場合もある。さらに、保護者な
27
どの感情面から考えると、不安・怒り・不信・嫌悪・喜びなどと、その感情も場面によ
って様々である。こうした多様な場合や感情を踏まえながら話を進めていく中で、教師
は家庭や地域との信頼関係を築いていかなければならない。このような日常的な保護者
などとのかかわりに際しても、カウンセリングの理論や技法は効果的に機能する。以下
にその留意事項をあげる。
(1) 保 護 者 の 話 を 傾 聴 す る
保護者の話にまず耳を傾け、相手の言いたいことを十分に聴いていくとともに、保
護者の辛い気持や不安などを自分のこととして受けとめ、その感情を受け入れていく。
相手は言いたいことがすべて言えたとき、気持がすっきりすると同時に自分の気持が
わかってもらえたことで安心できる。逆に、相手の話を十分に聴かないうちに、教師
側の意見を言ったり、推測で物事を判断したりすると、信頼関係が損なわれたり、解
決できる問題もかえってこじれたりすることがあるので留意しなければならない。
<教師に対する不満>
[例 1 ]非 傾 聴 的 対 応
保護者:「うちの子にも原因があると思いますが…、実は、A先生の授業になると、ど
うもうちの子は苦手なようで、とても嫌がるんです。」
教
師:「そうですかー、でもA先生はとても熱心ですし、子ども
のことに体当たりでぶつかっていく先生なんですよ。」
保護者:「でも、うちの子はどうも苦手なようで…、自分だけよく
叱られると言って、それでとっても恐がるんですよ。」
教
師:「でもA先生は、けじめをきちんとつける方で、我々からみても筋のとおった
信頼できる先生ですよ。理由なく叱ったりということはないはずですが。」
保護者:「………。」
[例 2 ]傾 聴 的 対 応
保護者:「うちの子にも原因があると思いますが…、実は、
A先生の授業になると、どうもうちの子は苦手な
ようで、とても嫌がるんです。」
教
師:「苦手と言いますと、どのようにですか?」
保護者:「A先生は生活面では厳しいので、その点はよいと思うのですが…、ただ、自
分だけよく叱られるって言うんです。それでいやだと言うんです。」
教
師:「自分だけ叱られると言っているんですね。」
保護者:「そうなんです。理由を聞いてみるとよくわからないって言うんです。理由な
く叱るってことはないはずだよ、と言ってもわからないって言うんです。」
教
師:「叱られる理由がわからないから、いやなんですね。」
保護者:「どうもそうなんです。理由がわかれば本人も納得すると思うのですが…。」
*例1では、保護者がA教師に対する不満を言うと、すぐにA教師をかばう言葉が出て
くる。そのため、保護者は話す気持が薄らいできている。一方、例2では、保護者の
不満に対して「質問」や「繰り返し」を使って応じているため、保護者が話しやすい
雰囲気になっている。このように、まずは技法を活用して保護者の話を傾聴し、相手
との信頼関係を築いていくことである。
28
(2) 具 体 的 な 指 示 を 出 す
問題解決のための対応を保護者に協力して行ってもらうには、保護者としてできる
ことを具体的に助言し、保護者自身が自己決定できるようにしていく。保護者が帰る
ときに相談に来てよかったと思えるような具体的な対応の仕方を助言する。
<具体的な指示の例>
保護者:「雨が降ると思うと、心配でつい本人の鞄にカサを入れてあげるんですよ。
6年生なんだからとわかってはいるんですが、だ
めなんですよねー。でも私が鞄に入れてやらない
とあの子は持っていきませんから……。このよう
なときはどうしたらいいんでしょうか。」
教師A:抽象的な指示
「そうですねー、カサなどは、自分で持たせるようにしたらどうですか。」
教師B:具体的な指示
「そうですねー、最初は本人が出かけるときに『カサは持った』と言ってあ
げるようにしたらどうですか。そして、しばらくしたら『今日は天気予報
で午後になると雨が降るって言っていたよ』って本人に情報を与えるだけ
にして、後は本人に判断させたらどうですか。」
*保護者は、子どもが自分からカサを持って行くようになるにはどうしたらよいかとい
うことを聞いているのであるが、教師Aの指示では具体的な回答となっていない。一
方、教師Bは、段階的にカサを持って行かせるようにしているため、指示が具体的で
あり、保護者としても自己決定しやすい。
(3) 保 護 者 の 行 為 を 十 分 に 認 め る
自分の子どものことで悩んでいる保護者に共通していることは、大半の保護者がす
でに自分の子育ての在り方に責任を感じているということである。したがって、保護
者の子育ての在り方を責めるのではなく、むしろ今までの苦労を十分に認めた上で、
これからの対応を考えていくようにする。こうしたことが、保護者に行動変容をもた
らす上では効果的である。ただし、自己の行為を反省せず、責任転嫁したり、言動不
一致で無責任な態度をとったりする保護者に対しては、その行為を認めてはならない
のは言うまでもない。
(4) 十 分 な 誠 意 を も っ て 対 応 す る
保護者や地域の人々が学校に相談に来てよかったと言えるような配慮を心がけるこ
とが、信頼関係づくりには欠かせない要素である。
ア
時間を守る。
イ
言葉遣いや服装等に留意する。
ウ
相談場所の環境を整備する(整理整頓・照明・
机の配置・室温・スリッパの用意等)。
エ
ねぎらいの言葉をかける(笑顔や温かな対応)。
オ
事前に電話連絡等で対応する職員を具体的に知らせておく。
29
第Ⅳ章
身近な問題行動とその対応例
最近は、以前にも増して、「児童生徒の気持がわからない」「どう対応したらよいのかわから
ない」という言葉をよく聞く。さらに、今まででは信じられないような事件が相次いで発生して
いる。普通の子が「ムカつく」「キレる」とも言われ、どの子どもがいつ問題行動を起こすか教
師には予想できないこともある。そして、最も安定していたはずの小学校でも、通常の授業が困
難な学級の存在が話題になっている。このような状況を踏まえ、本章では、児童生徒の身近な問
題行動への対応の在り方を事例をとおして考える。
1
問題行動のとらえ方
問題行動とは、生徒指導資料第13集の中で「学校における生徒の学業を阻害する行為や行動、
換言すれば、いわゆる非行にとどまらず、学校において教育的な立場から特に指導が必要であ
ると判断される行為や行動を問題行動という」としている。したがって、特定の子どもだけが
問題行動の児童生徒ではないということになる。
児童生徒は心身の発達が著しく、また、好ましくない社会的な影響も受けやすい。そのため、
いつ、どのようなきっかけで問題行動を起こすとも限らない。した がって、すべての子どもた
ちが問題行動の要因をもつと考えられる。特に最近の傾向としては、教師にとってどの子ども
が問題行動を起こすか予想しにくい現状になっており、社会的にも問題となる事件も起きてい
る。
しかし、これらの問題行動も、突発的に生じるものではない。何らかの理由で意欲や自信が
失われたり、また不満や不安や焦燥感などから軽度の不適応状態に陥ったりするなど、児童生
徒の心の中で尐しずつ変化が起きている場合がある。こうした心の変化は、児童生徒の日常生
活における態度や行動に現れることがある。例えば、忘れ物が増えたり、学習に集中できなく
なったりするなどである。これらの日常的な変化を教師が見逃したり、または、教師が気づい
た場合でも、その場、その時点での適切な指導をせずに、ただ叱責や禁止したりするなどの通
り一遍の対応をしていると、さらに大きな問題に発展していくこともある。したがって、まず、
児童生徒の気になる行動や変化を見逃さず、心情に
せまる対応をしていくことである。その結果、教師
【○○○○○】
と児童生徒の信頼関係が深まり、気になる行動が改
(1) 場 面 ○ ○ ○ ○ ○
善されるとともに、問題行動が深刻化するのを未然
(2) あ り が ち な 対 応 の 例
・問答形式の対応例
に防ぐことにもなる。
以上のことから、一人一人の教師が、児童生徒の
(3) 教 育 相 談 的 な 考 え 方
身近な問題行動に適切に対応していくことが、大き
・子どもの行動の背景
な問題行動に発展することを防ぐための鍵と言える。
・考え方
そこで、本章では、すべての子どもが、何らかの
・具体的な指導・援助
問題行動の要因をもつという観点に立ち、身近な問
(4) 教 育 相 談 的 な 対 応 の 例
題行動に対する対応の在り方について、具体例をも
とに提示していく。なお、対応例は一つの問題行動
について1ページずつ、右の要領でまとめた。
・教育相談の手法を生かした
問答形式の対応例
(5) 対 応 の 基 本
・対応の要点
30
2 身近な問題行動への具体的な対応例
【 おはようと声をかけたが返事をしない場合 】
(1) ≪場面≫
朝、学校へ行く途中に自分の学校の児童に会い、「おはよう」 と声をかけた。
しかし、児童からは何の返事もなかった。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「おはよう。」
児
童:「………。」
教
師:「おい待て!」
「先生が、おはようと言っているのに返事をしないでいいのか。」
「あいさつは基本だ。」
「しっかりあいさつをするんだ!」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
「おはよう」と声をかけたが返事をしない場合は、主に次のような理由が考えられる。
○体調が悪い ○考え事をしている ○親子関係がよくない ○友人関係がよくない
○しつけが不十分 ○内向的な性格 ○教師との関係がよくない
等
あいさつをしない児童生徒は、あいさつをすることの大切さを知っているが、あい
さつをしにくい状態であると考えると、対応の仕方にも幅が出てくる。あいさつをし
ないことの非を正すだけの指導から、「何かあったのだろうか」と児童生徒を肯定的
にとらえた言葉をかけることができるようになる。その際、視線・表情・顔色・態
度・声の調子等で子どもの体調や心理状態を判断し、子どもの心をつかんだ言葉がけ
をしていくことである。
また、教師の方から子どもに明るくあいさつすることを心がけていると、子どもは、あい
さつの大切さを感じ、自然にあいさつができるようになるのである。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「おはよう。」
児
童:「………。」
教
師: 「どうした?今日は元気がないな。何かいやなことでもあったのかい?」
児
童: 「何でもないです。」
教
師: 「そうか、それならいいけど、ちょっと心配だな。」
(5) ≪対応の基本≫
あいさつをしない児童生徒の気持をとらえた言葉をかける。
1
あいさつの仕方の違いで、児童生徒の体調や心理状態を判断する。
2
「何かあったのだろうか」と子どもの立場になって考える。
3
あいさつをさせるのではなく、する気持になるように対応する。
31
【 自転車に二人乗りをしている場合 】
(1) ≪ 場 面 ≫
自転車に二人乗りをして帰宅する生徒を見かけた。
(2) ≪ あ り が ち な 対 応 の 例 ≫
教
師:「こらぁ、止まれ。ちょっと、こっちへ来い。」
生
徒:「すみません。」
教
師:「何がすみませんだ。ふざけるな!」
「二人乗りしていいのか。」
(3) ≪ 教 育 相 談 的 な 考 え 方 ≫
自転車に二人乗りをしている場合は、主に次のような理由が考えられる。
○規範意識が低い
○後ろの子どもが無理やり乗っている
○周囲の注目を集めようとしている
○調子にのっている
等
二人乗りをしている児童生徒を見かけた場合は、即座に指導する。よく知っている
児童生徒かどうかではなく生命そのものが危ないので、命を守る視点から即座にきち
んと注意をする必要がある。ただし、一律に強い指導がよいわけではない。叱責の仕
方によっては、人格までが否定されたと感じ、恨みをもつこともあるので、信頼関係
を大切にした対応をすることである。
注意をし、素直に応じるときは、反省を促す程度にとどめる。反省をしているのに
声を荒立てて指導をすると、反省をしていた気持が、薄らいでしまうからである。ま
た、弱い立場にいる子は、乗せなければならない状況もあるので、その場の指導の際
に配慮をしたり、その後の指導に生かしたりしていく。さらに、注意に素直に応じな
い児童生徒の中には、命の大切さを意識していないと思われる子がいる。このような
場合でも、その子の命を大切に思っていることを心から訴えていく。そして、学級で
の存在感や学習意欲等、様々な面から考え、どうしてそのような行動になっているの
か、その背景に応じた指導をしいく。
子どもたちに基本的な交通ルールを徹底させることで、子どもたちの意識が向上し
その場の指導をスムーズにすることにもつながるので、普段から保護者と連携をした
安全教育等を継続的に行うことが重要である。
(4) ≪ 教 育 相 談 的 な 対 応 の 例 ≫
教
師:「こらぁ、止まれ。ちょっと、こっちへ来なさい。」
生
徒:「すみません。」
教
師:「二人乗りは危険なんだ。わかっている?」
生
徒:「はい………。」
教
師:「ふらついて、ひかれたらどうする?」(落ち着いた口調で)
(5) ≪ 対 応 の 基 本 ≫
自転車の二人乗りに対する指導は、生命を第一に考えて行う。
1
普段から安全教育を継続して行い、見かけたら即座にやめさせる。
2
感情的にならずに、個に応じて根気強く指導する。
32
【 遅刻が突然目立ってきた場合 】
(1) ≪場面≫
今まであまり遅刻をしていなかったのに、この2、3日突然遅刻をするよう
になった。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「どうしたんだ。最近遅刻が多いぞ。」
「気が緩んでいるぞ。昨日、約束したじゃないか!」
生
徒:「はぁ………。」
教
師:「あと20分早起きすればいいんだ。」「約束だぞ、いいな!」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
突然遅刻が目立ってきた場合は、主に次のような理由が考えられる。
○学校生活への意欲がわかない
○遅くまで起きている
○家庭生活に変化があった
○生活が乱れてきた
○友人関係が変化した
等
このように、何らかの変化が児童生徒に起きたと考えられるが、「どうしたの」と聞いて
も、何も応えられないことがある。友人関係や家庭内に問題があるときなどは、他の児童生
徒の視線が気になり話せないことがある。このような場合は、他の児童生徒がいない場所で
ゆっくりと話を聴く必要がある。しかし、子どもは、場を設定してもなかなか本音を言わな
いので、「先生は君を信じているからね。約束をしよう」と、一方的に約束をせまることが
ある。すると、次に遅刻した場合は、約束を破ったことに対する指導も必要となり、本来の
遅刻に対する指導から視点がずれていくとともに、信頼関係が崩れる場合もある。
そこで、遅刻をすることを心配している気持を伝えるために、「お母さんが具合が悪いの」
「夜寝られないの」のように子どもの気持を気遣った具体的な場面を想定した言葉をかけ、
児童生徒が理由を話しやすいようにする。それでも話さないときは、深刻の度合いも大きい
と考え、必要以上に追求はしない。そして、遅刻の原因を推察するために、学級での様子や
成績の変化、家庭生活の変化等の情報を得るようにし、数日後には情報をもとに「休み時間
一人でいることが多いねえ」というような質問をする。事情を話せなかった子どもも、「こ
の先生は、真剣に僕のことを心配してくれている。この先生なら相談できそうだ」と感じ、
心を開いていくのである。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「最近、遅刻が多くなったね。」「どうかしたのかい?」
生
徒:「別に、何でもないです。」
教
師:「そうか。でも、何かあったんじゃないかって、気になっているんだけど。
後で、ゆっくり話そうか。」
(5) ≪対応の基本≫
突然遅刻が目立ってきたら、何らかのシグナルととらえる。
1
「遅刻を絶対するな」や「明日は大丈夫だな」と一方的な約束をしない。
2
学校や家庭での生活の変化をもとに、子どもの立場にたった言葉がけをする。
3
表情、態度、服装、行動、成績等の変化の情報を保護者や他の教師から得る。
33
【 学習に集中できない場合 】
(1) ≪場面≫
授業中、教科書などを出さずに他の子どもにいたずらをしている児童がいた。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「○○、何をしているの。今、何の時間だかわかっているの。」
児
童:「………。」
教
師:「教科書も出していないの。早く教科書を出しなさい。」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
学習に集中できず勝手なことをしている場合は、主に次のような理由が考えられる。
○授業がわからない
○養育が不適切である
○教師との関係がよくない
○知的発達が遅れている
○身体的な疾患(注意欠陥・多動性障害、学習障害等)
等
学習に集中できない場合は、学習面や生活面での存在感や成就感を味わわせ、授業に意欲
的に臨む態度を育成する。学習面では、その子の能力に応じた質問や課題を用意し、発表さ
せたり、自ら解決できるようにしたりする。また、放課後等の時間を利用し、つまずいてい
る内容をゆっくりと個別指導して、わかる喜びやできる喜びを味わわせることで学習意欲を
高めていく。生活面では、その子の興味・関心を生かした係の仕事や作業等を与える。はじ
めは教師も協力しながら行い、次に仲間と一緒に、そして一人で行えるようにし、できたこ
とをその都度ほめ、自信をもたせていく。留意することは、他の児童生徒の前で感情的に叱
責しないことである。その子どもの自尊心を傷つけ、意欲を阻害するだけでなく、他の子ど
ものやる気や落ち着きをなくしたりする場合もあるからである。
子どもの状態によっては、他の職員と協力して指導をしたり、関係機関に相談をしたりし
た方が、より適切な指導ができることもあるので、教育相談主任等と連絡をとりながら対応
方法を検討することである。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「何をしているの。教科書とノートはどうしたの。」
児
童:「………。」
教
師:「教科書とノートは、持っているの。」
児
童:「はい。」
教
師:「教科書を出して。今、○○ページを勉強しているのよ。」
「用意はできた?」「それでは、一緒に勉強しようね。」
(5) ≪対応の基本≫
学習に集中できない子どもには、学習面と生活面での存在感や成就感
を味わわせる。
1
能力に応じた質問や課題等を用意し、できる喜びやわかる喜びを味わわせる。
2
興味・関心を生かした係の仕事や作業などに取り組ませ、できる自信をもたせる。
3
子どもの状態によっては、保護者や関係機関と連携する。
34
【 集団活動を嫌がる場合 】
(1) ≪場面≫
昼休み、児童が一人でぽつんと教室にいた。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「何をやっているんだ。」
児
童:「本を読んでいるんです。」
教
師:「休み時間は、校庭に出てみんなと遊びなさい。」
児
童:「でも、………。」
教
師:「みんなと遊んだ方が楽しいじゃないか。早く外に出なさい。」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
集団活動を嫌がる場合は、主に次のような理由が考えられる。
○仲間と自由な遊びができない
○読書などが好きで体を動かすのが嫌いである
○自信がなく引っ込み思案である
○友人関係がよくない 等
集団活動を嫌がる子どもは、孤独であったり、友人が固定化していたりするため、他の友
達と一緒に行動することが苦手な傾向にある。そこで、まず教師がその子どもの性格を認め、
声かけをして共にできることを行いながら、信頼関係をつくっていく。
次に、その子どももできる係活動をさせたり、レクリエーションやエンカウンターなどを
実施したりする中で、ほめることをとおして、友人関係に自信をもたせていく。
また、面倒見のよい子を座席の近くにし、他の子どもと一緒に活動し やすい環境をつくる。
ただし、無理な行動を強いると、教師を嫌ったり、意固地になったりすることもある。ま
た、教師が、「みんなと遊べなくてはだめだ」など、その子の性格を否定するようなことを
言うと、他の子どもたちもその子を認めなくなり、「何やってんの」「勝手なんだから」と、
白い目で見るようになることもあるので留意する。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「何をしているの。」
児
童:「本を読んでいるんです。」
教
師:「何を読んでいるの。」
児
童:「○○です。」
教
師:「私も読んだがことあるな。」
児
童:「先生も本が好きだったんですか。」
教
師: 「そうだよ。」 「でも、外に出て遊ぶのも好きだったな。」
児
童:「そうですか
教
師:「そうか、今度、先生と一緒に外で遊ぼうね。」
(5) ≪対応の基本≫
………。」
活発でない子どもの性格を教師が理解する。
1
教師から声かけなどを行い、一緒に活動していくことで信頼関係をつくる。
2
係活動、レクリエーション、エンカウンター等の集団活動を工夫する。
3
本人が無理なくできる活動に取り組ませ、ほめることをとおして、友人関係に自信を
もたせる。
35
【 たびたび忘れ物をする場合 】
(1) ≪場面≫
忘れ物が多く何度言っても繰り返す。今日も算数の道具を忘れて平気でいる。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「また、定規を忘れたの?」
児
童:「はい。」
教
師:「いつもなんだから、授業はどうするの!」
児
童:「………。」
教
師:「定規がなければ、困るでしょ。だらしがないんだから!」
(3) ≪教育相談的な対応≫
忘れ物が多い児童生徒は、主に次のような理由が考えられる。
○学習習慣が身についていない
○無気力である
○教師との人間関係がよくない
○落ち着きがない
○家庭でのしつけに問題がある
等
忘れ物をよくする子どもは、学習に対して関心が薄く家庭学習や学習道具を準備する習
慣が身についていないことが多い。
小学校の低・中学年では、しつけにかかわる部分が多いので保護者と協力しながら、家
庭でできること、学校でできることを具体的に確認し、ほめることを基本とした取組をし
ていく。その際、保護者に実行してもらうことについては、例えば「寝る 20分前に準備は
できたのか確認し、できたときはほめていただけますか」のように具体的に指示していく。
また、学校では、例えば、子どもに忘れ物をしなかったときの行動を思い出させ、それと
同じ行動を意図的にさせてみて、尐しでもできたら教師が本人を認め、自信をもたせてい
くといった取組をしていく。
小学校の高学年以上になると、学習意欲に欠け、忘れても罪悪感がないことがある。こ
の場合は、忘れることを問題にするより、そのような状況になってしまった要因が何であ
るかを探り、その解消に努める必要がある。家庭、進路、学力などとその要因は様々であ
り、不登校、怠学、高校では中退につながる場合もあるので留意する。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「定規を忘れたの?」
児
童:「ええ、ちょっと。」
教
師:「何か理由があったの。連絡帳の持ち物に定規と書いてあったよね。」
児
童:「はい。」
教
師:「それでも忘れたの。友達に定規を貸してくれるか聞いてごらん。」
「放課後、忘れない方法をゆっくりと考えよう。」
児
童:「はい。」
(5) ≪対応の基本≫
忘れ物をよくする子どもは、家庭での学習習慣も含めて指導する。
1
小学校の低・中学年では、保護者に具体的な内容を指示する。
2
忘れ物をしなかった成功体験を思い出させ、そのことを実行させ、自信をもたせる。
3
小学校の高学年以上では、忘れ物をする要因の解消に努める。
36
【 朝自習をやらない場合 】
(1) ≪ 場 面 ≫
多くの児童が、朝自習を真面目にやらなくなった。
(2) ≪ あ り が ち な 対 応 の 例 ≫
教
師:「何でやらないんだ。」
全
員:「………。」
教
師:「やりたくない理由があるのか。」
児童A:「わからないし、つまらない。」
教
師 : 「 わ か ら な く た っ て や る ん だ 。 し っ か り や る こ と は あ た り ま え だ ろ う 。」
全
員:「………。」
教
師:「やらない者は、放課後残って勉強だ。いいか!」
(3) ≪ 教 育 相 談 的 な 考 え 方 ≫
朝自習をやらない場合は、主に次のような理由が考えられる。
○やり方がわからない ○落ち着きがない ○無気力である ○やる意義を感じない
○学級の雰囲気が意欲的でない ○教師との人間関係がよくない
等
朝自習は、子どもたちが自主的に取り組めるようにすることが大切である。そのた
めには、児童生徒が意欲をもって取り組めるような内容や、努力が認められる評価の
工夫が必要になる。このことが、朝自習に対して意欲的な学級の雰囲気をつくること
につながる。
子どもにとって意欲のわかない内容を無理やりやらせていると、次第に気力がなく
なり全くやらなくなることもある。したがって、意欲をもって取り組んでいるかどう
かを、子どもの表情や課題のでき具合を把握しながら、内容や方法を改善していく必
要がある。また、個々の能力に応じた課題を用意したり、グループ学習を取り入れた
り、子どもの意見を学習方法などに反映させたりする。
さらに、子どもの努力を毎日見届けて、頑張っていることをほめたり、一人一人が意欲をも
てるような評価の方法を工夫したりし、子どもがやり甲斐をもって取り組めるようにする。
(4) ≪ 教 育 相 談 的 な 対 応 の 例 ≫
教
師:「最近、朝自習を真剣にやらない人が増えているようだが。」
児童A:「わからないし、つまらないです。」
教
師:「そうか。どうしたらいいと思う。」
児童B:「やり方を工夫したらいいと思います。」
教
師:「では、どのようにしたらいいかみんなで考えてみるか。」
全
員:「はい。」
(5) ≪ 対 応 の 基 本 ≫
朝自習は、意欲をもって取り組める内容や評価等を工夫する。
1 すべての子どもができる内容や個々の能力に応じた内容を工夫する。
2 児童生徒の実態に応じた学習形態を工夫する。
3 子どもの努力を見届け、やり甲斐がもてるような言葉がけや評価を工夫する。
37
【 進路決定がなかなかできない場合 】
(1) ≪ 場 面 ≫
進路希望先をなかなか決定できない生徒がいる。
(2) ≪ あ り が ち な 対 応 の 例 ≫
教
師:「希望進路先は決定したかい。」
生
徒:「まだ、決まっていません。」
教
師:「何を言ってんだ。今日までに決めろと言っていただろう。」
生
徒:「はぁ………。」
教
師:「何をしていたんだ。」
(3) ≪ 教 育 相 談 的 な 考 え 方 ≫
進路決定がなかなかできない場合は、主に次のような理由が考えられる。
○本人が決めかねている
○緊迫感がない
○親子で意見が合わない
○無気力である
○進路に対する意欲がない
等
進路決定というのは、成績がよくても悪くても悩むものである。適切な進路決定が
なされないと、進路先においてやる気をなくし、不登校、中途退学、退職などの事態
が生じることがある。子どもが自信をもって進路を決定できるよう、子どもの能力・
適性、興味・関心や将来の進路希望など多角的に見たきめ細かい援助をすることが重
要である。そこで、日ごろから子どもの相談にのり、子どもとの信頼関係を築いてお
き、面談をする中で、何が課題で何を悩んでいるかを明確にする。例えば、自信をな
くしてあきらめていたり、保護者と意見が対立していたりと千差万別である。
さらに、個々の課題や悩みを子どもが自ら解決できるよう、進路情報を提供すると
ともに将来を見通した適切な援助をする。また、進路決定が遅れているような場合に
は、教師の方から積極的に子どもや保護者に声をかけて、相談にのることも大切であ
る。
進路指導においては、保護者の希望や経済状況等が複雑に絡み合うため、子どもは
本音を出しにくいことがあるので、よく話を聴くとともに、担任以外の教師にも気軽
に相談できる体制をつくるようにする。
(4) ≪ 教 育 相 談 的 な 対 応 の 例 ≫
教
師:「希望進路先は、決定したかい。」
生
徒:「まだ、決まっていません。」
教
師:「まだ、はっきりしないのかい。どんなことで決まらないんだい。」
生
徒:「僕は、A高校へ行きたいんですが、親はB高校へ行けと言うんです。」
教
師:「そうか、それじゃ困ったねえ。相談してくれればよかったのに。」
生
徒:「はい、すみません。」
教
師:「それじゃ、後でゆっくり相談しよう。」
(5) ≪ 対 応 の 基 本 ≫
進路決定ができない生徒の気持を理解して対応する。
1
日ごろから信頼関係を築いておき、面談をとおして課題や悩みを明確にする。
2
進路情報を提供するとともに将来を見通した適切な援助をする。
3
担任以外の教師にも気軽に相談できる体制をつくる。
38
【 朝になると体調が悪くなる場合 】
(1) ≪場面≫
朝、腹痛を訴えることが多く遅刻をしがちになった。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「よく来たね。最近おなかが痛くなることが多いのか。」
児
童:「はい。」
教
師:「何か変な物を食べたのかな。」
児
童:「そんなことないです。」
教
師:「それじゃ、気のせいだよ。お母さんに心配かけんな。頑張れよ。」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
朝になると体調が悪くなる場合は、主に次のような理由が考えられる。
○身体的な疾患
○友人関係がよくない
○親子関係がよくない
○苦手な教科がある
○宿題などが終わっていない
○無気力である
○教師との関係がよくない 等
朝になると体調が悪くなる児童生徒は、何らかの原因で学校へ行くことに拒絶反応を示して
いる場合が多い。腹痛、下痢、頭痛、微熱などの症状を訴えたときは、悩みが深刻な状況であ
ると考えることもできる。このようなときは、子どもからの訴えをよく聴き、学校での様子を
観察するとともに、家庭での様子を早めに情報収集し、対応する。保護者には、日々の行動、
休みの日の行動、食生活、睡眠時間等の生活での変化を聞く。学校生活では、友人関係などに
注意しながらいろいろな場面での表情や態度に変化がないか情報を得る。特に、体調不良を理
由にする子どもについては、養護教諭から最近の様子について情報を得る。また、クラスや部
活動などの仲間から話を聞くこともあるが、その仲間との関係が原因であったり、他の子ども
に知られたくないことがあったりするので留意する必要がある。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「よく来たね。最近よくおなかが痛くなるね。」
児
童:「はい。」
教
師: 「何か気になっていることはないかい。」
児
童: 「尐し。」
教
師: 「そうか。先生でよければ、話を聞かせてくれる?」
(5) ≪対応の基本≫
朝になると体調が悪くなる子どもは、悩みがあると考えて対応する。
1
体調を心配し、何か悩んでいることがあるかよく聴く。
2
他の職員からも情報を得ながら、学校生活での変化を把握する。
3
保護者からの情報をもとに、家庭生活での変化を把握する。
39
【 精神的な理由で体調が悪く欠席した場合 】
(1) ≪場面≫
微熱を理由に3日欠席したので、家庭訪問をした。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「………ところで、お医者さんは、何と言っていたかい。」
生
徒:「特に悪いところはないと言われました。」
教
師:「それじゃ、明日から学校へ来れるな。頑張って来るんだよ。」
生
徒:「はい。」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
精神的なことで体調不良になり、欠席が続く場合は、主に次のような理由が考えられる。
○何らかの悩みがある
○学校に行きづらい
○教師との関係がよくない
○精神的に弱い
○友人関係がよくない
○親子関係がよくない
等
本人は体調不良を訴えるが、医師に診てもらっても特に身体的に悪いところはなく、精神的
なことではないかと診断されることがある。こうした場合は、学校生活や家庭生活での変化に
ついて情報を得るとともに、本人からゆっくり話を聴く。その際、子どもが話しやすい教師が
面談をすることが重要で、担任不信がある場合などは配慮を要する。面談では、基本的な5つ
の技法(受容、支持、繰り返し、質問、明確化)などを活用して、まず、子どもの話を傾聴し、
辛い気持を受容していく。悩みの内容や精神的な状況によっては、無理な登校刺激を控えた方
がよい場合もある。休み始めたときに、何としても登校させようと強く促すと、その後、本人
と会うこともできなくなったり、信頼関係さえも崩れたりする。その結果、長期の不登校にな
ってしまうなど、状況がかえって深刻化する場合もある。
また、保護者も精神的に不安定になっていることもあるので、保護者の心情をねぎらい、相
談の技法を生かしながら話を聴くことが大切である。さらに、教育相談主任等と相談しながら
組織的な対応を行う中で、相談機関等との連携の必要性についても検討していく。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「お医者さんは、何と言っていた?」
生
徒:「特に体は悪くないと言われました。」
教
師:「そう。だけど熱があるんだよね。何か辛いこととかはないかい?」
生
徒:「………。」
教
師:「そうか、話しにくいのかな。いつでも相談にのるよ。」
生
徒:「………。」
(5) ≪対応の基本≫
精神的な理由で体調が悪く欠席したときは無理な登校刺激をしない。
1
子どもにとって、話しやすい者が対応する。
2
相談の技法などを活用し、子どもを受容することに心がける。
3
組織的な対応をし、場合によっては相談機関等と連携する。
40
【 友人関係で問題があった場合 】
(1) ≪場面≫
女子5人の仲間内で問題があり、一方的に一人が言われているところを教師
が通りかかった。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「何をしているんだい。」
生
徒:「大丈夫です。自分たちで解決しますから。」
教
師:「ふーん。じゃあ大丈夫だな。仲よくするんだよ。」
次の日から、一人が欠席し出した。
(3) ≪教育相談的な考え方≫
友人関係で問題があり欠席をする場合は、主に次のような理由が考えられる。
○特に仲のよい子との間にトラブルがあった
○辛いことを言われていた
○友人関係が固定しており他に友人がいない
○精神的に強くない
等
友人同士でも、感情的に衝突すると、相手を傷つける言葉を言ってしまうことがある。
特に仲のよかった者から文句を言われたとか、いざこざがあった仲間以外に友達がいなか
ったりすると、言われた者は、精神的に打撃を受けることがある。仲間内での言い合いく
らいなら自分たちで解決できるであろうと考えてしまうのではなく、それがきっかけで不
登校になることもあるので慎重に対応する。すなわち、言い合いの様子をよく見て事のい
きさつを確認し、場合によっては、中に入り修復することも必要である。
欠席をした場合は、本人から事情をよく聴き、登校については、その子の精神的な状況
に応じる。互いに誤解があったり、感情の行き違いでいざこざが生じたりしていることも
あるので、まず相手の子ども一人一人に事情を聴き、次にその子どもたちの中で最も中立
的な子への対応から始める。このとき片方の言い分だけを正当化せず、両方の言い分をよ
く聴いた上で、互いの立場を正当化できる部分とできない部分を明確にし、感情の行き違
いを埋めるようにする。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「何をしているんだい。」
生
徒:「大丈夫。自分たちで解決しますから。」
教
師:「そうか。でも心配なんだよ。どんなことで言い合っているんだい。」
生
徒:「ほっといて下さい。」
教
師:「そうは言っても気になるよ。後で話を聞かせてくれるかい。」
生
徒:「はい、わかりました。」
(5) ≪対応の基本≫
友人同士の問題であっても、教師が人間関係の調整に努める。
1
どのようなことで話をしているのか確認をする。
2
言われている者の表情・態度などから状況を判断する。
3
言われていた者を呼んで、状況をよく聴き対処する。
4
一人一人個別に事情を聴き、それぞれの感情をとらえた指導をする。
41
【 学級の大半から無視や暴力を受けた場合 】
(1) ≪場面≫
男子からは蹴跳ばされ、女子には無視されている女子生徒が相談に来た。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「そうか、大変だったなあ。みんなに注意しておこう。」
生
徒:「お願いします。」
教
師:「ところで、あなた自身にも問題があるんじゃないかな。」
「身勝手な部分を直さないといけないな。」
(3) ≪教育相談的な考え方≫
いじめられる場合は、主に次のような理由が考えられる。
○人がよすぎる
○言いなりになりやすい
○友達と共通の話題がない
○はっきり物が言えない
○劣等感がある
○清潔感に欠ける
○潔癖である
○融通性がない 等
いじめられている子どもは、そのことを人に言えずに一人で悩んでいることが多いので、
教師は、平素から子どもたちの様子をよく観察しておく。いじめられているのではないかと
感じたときは、本人に確かめるとともに、保護者や他の職員からも情報を得るなど組織的に
対応をする。また、訴えがあったときは、その子ども自身に問題があったとしても、それに
は触れずに聴くことに徹し、辛かったことをねぎらい、状況によっては登校についても無理
をさせない。
次に、いじめの中心になっている子どもへの対応、その取り巻きの子どもへの対応、傍観
者への対応をそれぞれ生徒指導部会等で決め、組織的に対応する。事実確認をするとともに
言い分を聴きながら、いじめられた子どもの気持になれるように指導する。子どもたちの良
心にはたらきかけ、自らの非に気づかせる。時には、いじめをするその子の要因を解消する
ための援助も必要である。頭ごなしの叱責は反感をまねき、陰でいじめが継続したり、エス
カレートしたりしてしまうこともある。
指導後は、いじめられた子どもの様子をよく観察するとともに、本人はもとより保護者や
職員からの情報を得ながら適宜対応をしていく。また、いじめの原因が清潔感の欠如などに
よる場合は、保護者に協力を求めることも必要である。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「そうだったの。大変だったねえ。」
生
徒:「はい。」
教
師:「男子の中で中心的なのはだれで、女子の中で中心的な子はだれだい。」
生
徒:「男子では、○○君○○君。女子では、○○さん○○さんです。」
教
師:「○○君と○○さんに話を聴いてもいいかい。」
生
徒:「お願いします。」
(5) ≪対応の基本≫
いじめられている子どもの立場になり受容する。
1
いじめの発見は、日ごろの教師の観察が大切である。
2
いじめられている子どもに問題があると思っても、まずは気持を受容する。
3
いじめている子どもの言い分を聴いた上で、あやまちに気づかせる。
42
【 特定の子どもをいじめる場合 】
(1) ≪ 場 面 ≫
特定の子どもの机を蹴ったり、悪口を言ったりする生徒がいる。
(2) ≪ あ り が ち な 対 応 の 例 ≫
教
師 : 「おまえは○○の机を蹴ったり悪口を言ったりしているのか?」
生
徒:「………。」
教
師 : 「黙っていたってわからないだろう、何とか言ったらどうだ。」
「いじめは悪いんだ。わかってんのか。」
(3) ≪ 教 育 相 談 的 な 考 え 方 ≫
いじめる場合は、主に次のような理由が考えられる。
○友人関係がよくない
○いらいらしている
○身勝手である
○調子にのりやすい
○粗暴である
○親子関係が悪い
○学習に対して不安がある
等
いじめる子は、いじめをすることによって親子関係や学習などのストレスを発散
していることがある。いじめる子への指導は、まず事実を確認し、理由を聴き、そし
ていじめた相手の立場に立たせ、相手の心情を理解させる。その指導の中で、いかに
いじめが悪いかを理解させていく。そこで、その子がストレスをもっているか、また
そのストレスの原因は何かを、把握するようにする。
例えば、母親が過干渉でありそうな場合は、その状況をよく聴く中で、ストレスの
原因を明確にしていく。そして、その心情に共感し、ストレスを軽減するように努め
ながら、心情にせまる指導をしていく。すなわち、いじめをする気持になっている背
景を見抜き、いじめる子の立場に立った指導をしていく。いじめをする心情に応じた
指導をしないと、「今後いじめをしない」と約束しても、かえっていじめが陰湿にな
ることがあるので留意する必要がある。一連の指導後、いじめられた子やいじめた子
への観察や援助は、継続的に行う。保護者や他の教職員と連携し、いじめが二度と行
われないよう組織を生かした取組をする。また、学級でロールプレイングを行い、い
じめられた子の気持を体験的に理解させることも効果的である。
(4) ≪ 教 育 相 談 的 な 対 応 の 例 ≫
教
師:「君は、○○君の机を蹴ったり悪口を言うらしいけど………。」
生
徒:「………。」
教
師:「じゃぁ。机をちょっと蹴ったことは、なかったかい。」
生
徒:「ちょっとだけなら。」
教
師:「ちょっとだけか。どんなとき、ちょっと○○君の机を蹴ったのかな。」
生
徒:「だって○○が、約束を破ったんだもん。」
(5) ≪ 対 応 の 基 本 ≫
いじめる子は、何らかのストレスをもっていると考え指導する。
1
いじめる事実をいじめられている子どもの訴えに基づき確認する。
2
いじめる理由を聴き、相手の立場に立たせ、相手の心情を理解させる。
3
いじめる子のストレスを軽減するようにしながら、反省する気持を育てる。
43
【 タバコを吸っていた場合 】
(1) ≪場面≫
トイレで、タバコを吸っていると思われる生徒を発見した。
(2) ≪ありがちな対応の例≫
教
師:「何をしているんだ!」
生
徒:「別に。」
教
師:「嘘をつくんじゃない。」「これは何だ。」
生
徒:「タバコじゃん!」
教
師:「お前が吸ったんだろう。」
(3) ≪教育相談的な対応≫
タバコを吸う場合は、主に次のような理由が考えられる。
○いらいらの解消
○好奇心がある
○憂さ晴らしや気分転換
○強がりや格好よさを求める
○保護者や教師などへの反発
○家庭に問題がある
○教師との関係がよくない
○先輩や友人に勧められる
等
喫煙をしていたと思われる児童生徒を発見した場合は、そのことを確認し、吸わないよ
うに指導する必要がある。しかし、はっきりとした証拠があってもなかなか事実を認めな
いことが多い。その場合でも落ち着いた口調と態度で接し、感情的にならないことである。
タバコを「吸う」場合は、何らかに対しての反発や不満があり、正義感を失いかけている
ときが多い。そこで、まずタバコを吸うことを禁じるとともに、その心情をよく聴き原因
を把握し、反発や不満の解消のために援助をしていく。例えば、個別学習や進路相談など
に親身にかかわり、信頼関係をつくりながら意欲が出てくるまで粘り強くはたらきかける
ことが大切である。また「タバコの害」についての認識を深めるために、学級活動、学年
集会、保護者会、学校だより等により組織的・計画的な啓発活動をしていくことが重要で
ある。
(4) ≪教育相談的な対応の例≫
教
師:「何をしているんだ。」
生
徒:「別に。」
教
師:「だけど、タバコの臭いがするよ。」
生
徒:「………。」
教
師:「これは、だれのだい。」
生
徒:「………。」
教
師:「そうか。」「ゆっくり相談室で話を聞こうか。」
(5) ≪対応の基本≫
タバコを吸っている場合は、その背景にある心情を理解する。
1
タバコを吸うことに対しては、きちんと「やめなさい」と指導する。
2
感情的にならずに、言い分や心情を聴くとともに吸う背景を理解し対応する。
3
家庭との連携も含め早めの対応を心がける。
4
タバコの害に対する生徒や保護者の意識の啓発活動を行う。
44
第Ⅴ章
組織的対応の在り方と教師の姿勢
生徒指導・教育相談を効果的に進めていくには、児童生徒の指導にあたる教師を支える
校内の組織体制が重要な役割を果たす。本章では、日ごろの教育活動がより一層機能する
ための組織の在り方と教師の姿勢について述べる。
1
学校における組織的対応の在り方
教師がいじめなどの問題行動に気づいても、個人の判断で対応してしまったり、担任
が一人で問題を抱え込んでしまったりする場合がある。また、生徒指導主任等に報告を
したものの、その後、十分な連携がとれずに対応が遅れてしまうことも少なくない。問
題行動への対応の鍵は、組織のチームワークにあるといえる。チームワークのよい組織
の条件を満たした上で、教師同士が指導・援助の方法を共通理解し、協力して対応する
のである。チームワークのよい組織の条件は次の2点にまとめられる。
○役割に応じて、それぞれの権限と責任が明確になっていること。
○指示や報告・連絡・相談の系統が明確になっていること。
学校は実態に応じて、管理職や生徒指導主任等を中心に、問題行動等の様々な課題に
ついての全校的な対応方法や指導体制を整備し、組織的に進めていく必要がある。
(1) 問 題 行 動 へ の 具 体 的 対 応 の 流 れ
問題行動への対応において、情報の入手から問題の解決に至るまでの組織的対応の
在り方について、その流れの一例を次に示す。
【 問題行動への具体的な対応の流れ 】
学校・家庭・地域からの児童生徒の気になる情報
↓
①情報を入手した教職員(担任など)
↓
②管理職、生徒指導主任、教育相談主任、学年主任、担任等の間の報告・連絡・相談
↓
③指導方針会議(生徒指導委員会、職員会議、学年会議など)の開催
↓
④問題行動対策支援チームの立ち上げ(必要に応じて)
↓
問題が解決されない
⑤家庭との連携
↓
場合、再度開催する
経過観察
⑥関係機関との連携
↓
児童生徒への指導・援助
(平成8・9年度調査研究報告書
45
第 264号 よ り )
(2) 対応の流れにおける留意点
①
※説明は、(1)の流れ図の中の①~⑥に対応している
情報を入手した教師の対応
重要なことは、入手した情報にどのように対応するかである。情報を入手した教師は「し
ばらく様子を見よう」などと個人的な判断をせず、特定の教師(ここでは生徒指導主任とす
る)に報告する。学校での情報は私的なものではなく公のものだからである。報告を受けた
生徒指導主任は、管理職と連絡をとりながら、その役割と責任のもとにとるべき対応への判
断を下す。
なお、報告は各学校で決めた様式にしたがって簡潔な文書で行う方がよい。これにより情
報伝達の際の微妙な認識のずれを防ぐことができる。また、教師は問題を発見する目や感性
を磨き、気になる情報をいち早くキャッチすることに努めることが大切である。
②
情報の窓口「生徒指導主任」
報告を受けた生徒指導主任は、管理職の指示を仰ぎ適切に対応する。
ア
入手した情報について、事実確認が必要かどうかを判断する。
イ
調査の必要性の有無とその内容と方法について確認する。
ウ
緊急対応の必要性について判断する。
エ
指導方針会議を招集する必要があるかどうかを判断する。
会議を開く場合は、学年主任と連絡を取り合いながら資料等の準備をする。
○問題行動の内容(情報を入手した教師が作成した報告文書)
○関係児童生徒に関する資料(家庭環境調査、指導要録、実施した諸検査など)
○各学校の実態に即して作成された問題行動対応マニュアルなど
③
指導方針会議の開催
指導方針会議において検討する内容は次のとおりである。
ア
問題行動の内容の分析をする。解決すべき課題を明らかにし、どのような指導を行って
いったらよいのか、指導方針を立てる。
イ
指導方針に基づいて、課題解決に向けての具体的な指導・援助の内容を検討し、役割分
担を決定する。これが問題行動対策支援チームの立ち上げである。
ウ
④
保護者への連絡方法と内容を検討する。
問題行動対策支援チームの立ち上げ
実際の指導は担任まかせになっていることが多く、担任の負担が大きくなり過ぎてしまう
ことも少なくない。こうしたことを防ぐためにも、指導はチームを組織して行う。また、そ
うした方が指導の効果が上がることが多い。
支援チームは、組織的かつ具体的に指導・援助するためのものである。問題の状況に応じ
て適材適所を心がけ、素早くかつ効果的に対応できるように工夫する。なお、指導・援助は
経過を観察し、問題の解決が図られるまで諸会議をとおして連絡調整を行いながら継続的に
実施していく。また、効果が表れない場合には、指導・援助内容の再検討の必要も出てくる。
46
⑤
家庭との連携
学校の指導方針に理解を求め、家庭と学校が同一歩調で該当の児童生徒への指導・援助を
行うため、家庭との連携を密にし、信頼関係を築くように努める。
ア
保護者の不安やあせりから学校批判が出ることも予想される。感情的に対応せずに保護
者の気持を受けとめ、心理的な支えになるよう心がける。
イ
共通の観点に立ち、児童生徒への共同の援助者になるために、学校側が独走することな
く保護者の訴えを傾聴し、話し合いをしながら保護者にも協力を求める。
ウ
学校側が取り組むべきことや保護者が取り組むべきこと、学校と保護者相互の要望と学
校ができること・できないこと、保護者ができること・できないことなどを明確にし、該
当の児童生徒への指導・援助の方向性を探る。
⑥
関係機関との連携
問題の内容によっては関係機関との連携も必要になってくる。その際には、関係機関に学
校としての指導方針を報告したり要望を伝えたりするなど連絡を密にし、役割分担を明確に
しながら協力して指導・援助にあたる。
ア
学校で利用可能な関係機関の情報収集と各機関の特質を把握し、日ごろからかかわりを
もっておく。また、連絡の窓口は管理職、生徒指導主任、教育相談主任等が望ましい。
イ
児童生徒へは、学校としてできうる最大限の指導・援助に努める。十分な指導・援助をし
ないで、外部の関係機関に依頼しても十分な効果は期待できない。
ウ
学校内で十分に連絡調整を行った上で、当該児童生徒の状況、学校としての指導方針や
取組の内容を文書で報告し、関係機関への相談内容や要望を伝える。
エ
学校が関係機関に治療・相談を依頼した場合、定期的に連絡をとり、専門的な指導・助
言を受けながら、学校としてやるべきこと・できることを行う態度を保持する。そして、
常に当該児童生徒に愛情と関心をもって接し、外部の機関に任せ放しにならないようにす
る。
(3) 埼玉県内の関係諸機関(連絡先等は『資料編』P98~99参照)
埼玉県内には生徒指導・教育相談に関する多くの専門機関があるので、所在地・電話番号・
受付時間・専門は何か・期待できる援助は何か・スタッフはどうか、などをまとめておくと役
に立つ。大切なのは、どのような目的で誰を対象とした援助をする機関なのかを明確にしてお
くことである。図は、県内の主な専門機関である。
県立南教育センター、北教育センター
各市町村教育相談所
県立の児童相談所
学校
家庭
埼玉県警察少年サポートセンター
浦和少年鑑別所教育相談センター
県立精神保健総合センター
埼玉県PTA教育研究所
47
など
また、問題によっては他県の関係機関との連絡も必要になってくる場合もあるので、各県の
教育委員会や教育センター等の連絡先などのリストを作成しておくと、万一の場合に迅速な対
応が可能になる。
(4) 埼玉県の生徒指導・教育相談関連事業
本県は、いじめ・不登校問題対策として「心のオアシスづくり事業」によるさわやか相談員
等の配置を行っている。平成11年度の概要は次のとおりである。
ア
さわやか相談員の配置(全公立中学校422校に配置)
悩みを抱えた児童生徒等の相談に応じるとともに、学校・家庭・地域社会が連携を図りな
がら、いじめや不登校問題等の解決を目指す。
イ
ボランティア相談員の配置(全公立中学校422校に配置)
児童生徒とのふれあいや地域の情報活動をとおして、地域におけるいじめや不登校問題の
解決を目指す。
ウ
学校カウンセラーの活用(各教育事務所に計9名配置)
高度に専門的な知識・経験を有する学校カウンセラーを配置
し、いじめや不登校問題等の解決を図る。また、各学校からの
要請に応じて学校を訪問し、面接相談等を行っている。
エ
スクールカウンセラーの活用調査研究
(文部省調査研究委託:高等学校12名、市町村18名)
高度に専門的な知識・経験を有するスクールカウンセラー
の活用、効果等に関する実践的研究を推進し、児童生徒の問題行動等の解決を図る。
オ
高校カウンセラーの配置(県立南教育センター、北教育センターに各1名配置)
高度に専門的な知識・経験を有する高校カウンセラーを配置し、高等学校におけるいじめ・
不登校・中途退学などの問題の解決を図る。また、学校カウンセラーと同じように、各学校
からの要請に応じて学校を訪問し、面接相談等を行っている。
2
機能する生徒指導・教育相談の組織
学校の組織は、全教職員に関係するとともに児童生徒や保護者、さらには地域の人々との協働
を必要としている組織でもある。したがって、機能する組織にしていくためには、特に組織の中
心の立場にある教師が、次の(1)~(5)のような点を念頭において日々の教育活動にあたることが
大切である。そうすることで、メンバーである他の教師からの協力も得られ、大きな成果をあげ
ることにもなる。また、組織の中では一メンバーであっても、教育活動の場面ではリーダーシッ
プを発揮しなければならない場合がある。立場は常に動いていることを教師自身が自覚しておく
ことが大切である。
(1) 実態に即した組織
学校の体面や体裁にこだわったり、実態とかけ離れた過大で高度な成果をあげたりしようと
せず、現実に合った実践を積んでいく。そのためには、共通理解のもとに長期にわたる計画を
立て、見通しをもって着実に前進する姿勢が大切である。また、教育効果や指導の成果を問題
発生件数などの外面的な数字のみで判断することは、教師の児童生徒への指導に対する姿勢を
ゆがめる危険性があることを認識し、学校の実態に合った適切な評価を行う。
48
(2) 教師集団の士気の高揚
教師の仕事は創造的であり、その取組にも個性が生かされなければならないが、同時に学校
という組織の一員としての協働体制に基づき、一定のルールに従ったり、定型化された仕事に
も責任をもって確実に処理したりすることも大切である。このような組織の一員としての二面
性をいかに調和させ、調整していくかが重要である。そのために、画一的な行動を児童生徒に
安易に求めることを互いに戒めるとともに、組織の目標達成にとって有意義な創造的・個性的
な活動を尊重し促進することが望まれる。また、目標達成に向けて積極的に協力しようとする
ように教師集団の士気を高める工夫をする。
(3) 情報伝達のシステムの確立
各教師は的確な状況判断のもとに指導を行うことが大切である。的確な判断ができるよう援
助するため、情報の収集・分析・伝達のシステムを確立する必要がある。情報の流れについて
の共通理解を図り、情報を個人のものにしないようにする。
例えば、児童生徒や保護者あるいは地域の人々からの情報提供は、学校に対する信頼が根底
にあってのことなので、その気持に十分な配慮をする必要がある。校内では、学校という組織
の一教師であっても、保護者や地域の人々にとっては学校の代表であることを自覚し、誠意を
もって対応することが大切である。
(4) 校内組織どうしの連携
生徒指導・教育相談組織は、学校における生徒指導全体の仕事の推進力にならなければなら
ないが、このことは教師集団を監督し、指示や命令を与えることではない。組織全体の仕事が
円滑かつ有効・適切に行われるよう、連絡や調整を行ったり必要な援助を行ったりすることが
最も大切である。言うならば、サービス的機能が大切であることを忘れてはならない。このよ
うな機能が発揮されるときに生徒指導・教育相談組織に対する教師全体の積極的な協力が期待
できるのである。学校が抱える生徒指導上の様々な課題を進んで収集し、その解決のための支
援を検討するとともに、必要に応じて管理職に情報提供や意見の具申を行っていくことが大切
である。また、「さわやか相談員」との連携を密にすることは大きな効果をあげる場合が多い
ので、日ごろから信頼関係を築いておくことが必要である。
(5) 根気強く指導を続ける必要性
生徒指導・教育相談の目的は、児童生徒の健全な人格を
はぐくみ、自己実現の資質や態度を養うことにある。その
ため、十分な成果を短い期間で望むことには無理がある。
時には教師の熱心な指導を児童生徒が裏切ってしまう場合
も少なくない。このような児童生徒の行動があっても、挫
折したり失望したりすることなく根気強く対応していくこ
とが、生徒指導・教育相談の基本である。
49
3
教 師の 姿 勢
教 師の 仕 事の 一 つは、 児 童 生徒 の 自己 実 現に向 け て 行動 変 容さ せ るきっ か け をつ く るこ
と で ある 。 児童 生 徒を心 身 と もに 望 まし い 方向に 成 長 させ る ため に は、全 て の 教育 活 動に
お い て、 教 師が 教 育相談 的 な 考え に 基づ い た態度 を 示 すこ と が必 要 である 。
(1) 範 を 示 す
学校 に おけ る 基本的 生 活 習慣 や 人間 関 係の在 り 方 につ い ては 、 教師の 日 常 の言 動 が児
童 生徒 に 大き な 影 響を 与 え てい る 。教 師 が意識 し な くて も 、児 童 生徒は 教 師 を模 倣 の対
象 とし て 成長 し ていく 。 し たが っ て、 教 師は「 時 間 を守 る 」「 有 言実行 す る 」な ど 、児
童 生徒 に 対し て 望まし い 行 動の モ デル を 示すこ と が 大切 で ある 。 同時に 無 意 識の う ちに
現 れる 自 分の 癖 や行動 パ タ ーン な どに も 気づき 、 改 善す べ き点 は 意識し て 変 えて い くこ
と も必 要 であ る 。また 、 模 倣は 教 師と 児 童生徒 と の 温か な 人間 関 係によ っ て その 効 果が
よ り顕 著 に表 わ れるの で 、 教師 の 言動 が 適切な も の であ っ ても 信 頼関係 が な けれ ば 、児
童 生徒 に とっ て 、その 教 師 は模 倣 の対 象 とはな ら な い。 児 童生 徒 は、教 師 の 言葉 や 態度
が 自分 の 気持 に 触れた と き 、自 分 から や ろうと す る 態度 を 示す こ とが多 く 見 られ る 。
(2) 自 己 を 語る
教師 は 児童 生 徒の前 で 自 分を 語 るこ と も必要 で あ る。 教 師が 自 分を語 る こ とに よ り、
児 童生 徒 も自 分 を語る よ う にな り 、教 師 と児童 生 徒 、児 童 生徒 相 互の理 解 が 深ま り 、豊
か な人 間 関係 が つくら れ る 。自 己 を語 る 意義と し て は次 の 3点 が 考えら れ る 。
○ 教師 が 自己 を 語るこ と に より 、 児童 生 徒が自 分 の 考え 方 や行 動 などに 対 す るヒ ン トを
得る こ とが で きる 。
○ 自己 を 語る 教 師を見 て 児 童生 徒 も自 ら を語る よ う にな る 。自 己 を語り 合 う こと で 児童
生徒 同 士の 交 流が促 進 さ れ、 学 級の 和 やかな 雰 囲 気が 深 まっ て いく。
○ 教師 が 自己 を 語るこ と で 児童 生 徒の 教 師に対 す る 親し み が増 す ととも に 、 さら に 身近
な存 在 とし て 感じる よ う にな る 。親 し みが増 す こ とに よ り、 児 童生徒 と 教 師の 心 理面
の交 流 がで き 、様々 な 指 導が 行 いや す くなる 。
(3) 温 か さ と厳 し さ
学校 は 児童 生 徒の社 会 化 を図 る 場で あ るため 、 教 師が 児 童
生 徒に 指 示し た り、禁 止 し たり 、 叱責 し たり す る こ とも 少 な
く ない 。 社会 規 範を教 え る こと は 児童 生 徒の自 律 心 をは ぐ く
む 上で 欠 かせ な い こと で あ り、 教 師の 重 要 な役 割 で もあ る 。こ の 役 割の 自 覚 に欠 け 、指
示 す べ きこ と や禁 止 す べき こ と をせ ず 、た だ 受 容し 共 感 的に 受 けと め て いる だ け では 、
教師の責任を十分に果たしているとは言えない。「生徒に悪く思われたくない」とか
「 い い 先生 と 思わ れ た い」 な ど とい う 意識 が 強 過ぎ る と 、自 分 の思 い を 率直 に 話 せな く
な る 。 時に 摩 擦を 生 じ るこ と も ある だ ろう が 、 これ は 避 けて 通 れな い も ので あ り 、児 童
生 徒 の ため に は明 確 に 教師 自 身 の考 え を主 張 し な け れ ば なら な い。 温 か な愛 情 を 基盤 と
す る 厳 しさ こ そ児 童 生 徒の 心 を 動か す もの で あ り、 こ の 温か さ と厳 し さ を併 せ も つ教 師
が 信 頼 され る ので あ る。
50
資
料
編
資 料 編 の P 56~ P 83に は 、 学 級 経 営 ・ ホ ー ム ル ー ム 経 営 ・ 学 年 経 営 、 保 護 者 会 、 校 内
研修会などで活用できる「構成的グループエンカウンター」「グループワーク」「面接
演習」「ロールプレイング」について述べてあるが、いずれも多くの演習や展開の例の
中から、学校においてより活用しやすいと思われるものを選んでまとめたものである。
したがって、さらに多くの展開例やその背景となる考え方などについて知りたい場合
は 、 P 97の 引 用 ・ 参 考 文 献 を 参 照 し て い た だ け れ ば と 思 う 。
なお、資料編の内容については、添付のフロッピーに収められているので、ご活用い
ただければと思います。
51
Ⅰ
学校教育に生かす
カウンセリングの理論と方法
教師は、毎日が教育実践の積み重ねである。
豊かな経験により指導力が向上し自信にもつ
ながる。しかし、経験に頼り過ぎると、時に
は独り善がりになって、自己盲点に気づかな
技法
いまま自分のやり方に固執して過信してしま
ったり、逆にこの方法でいいのだろうかと自
理
論
信がもてなくなったりする。そこに、カウン
セリングの理論や技法を学ぶことの意義があ
哲
学
る。つまり、理論や技法を知ることで、日ご
ろ何気なく行っていた指導法の意味がわかり、
人
間
性
裏付けのあることがわかれば、余裕をもって
子どもにかかわることができる。他の教師に紹介する時にも説得力が増す。もちろん、理
論が先行して頭でっかちになったり、小手先の技法にとらわれてしまったりすることのな
いよう、あくまでも実践あっての理論であり技法であること、そして、理論や技法を支え
る哲学をもつこと、さらにそれらを支える人間性(パーソナリティ)をみがくことが重要
であるのは言うまでもない。
1
学校教育に生かすカウンセリングの理論
(1) 理 論 を 学 ぶ 意 味
ア
事例から一般原理を読み取ることができる
事実を見て原因や理由、なぜそうなっているのかが説明できる。成功事例を聞い
ても、なぜそういう援助が功を奏したのかという説明がつかなければ、応用の仕方
がわからないからである。
イ
推論の手がかりになる
例えば、不登校についての理論を知っていれば、「親や周囲の人間からよく見ら
れたい、いい子でいなくてはと無理をし、ストレスがたまった結果疲れきって休ん
でいるのかもしれない」と行動の意味や原因が推論できる。そうすることで、先が
読め、指導・援助の方法を考える手がかりとなる。つまり、教師がどうしていいか
わからず、無力感におそわれたり、自信喪失になったりするのを防ぐことができる
ことになる。
(2) 教 育 活 動 に 生 か せ る カ ウ ン セ リ ン グ の 各 理 論
カ ウ ン セ リ ン グ の 理 論 は 4 0 以 上 あ り 、 主 な も の だ け で も 1 0く ら い あ る が 、 教 師 は 、
学校で活用するのに必要な範囲で学べばよいのである。まず、次にあげる理論の最初
の3つになじんでおくとよい。さらに、学びたい場合は後半の3つへと広げていく。
ここでは、特に教育場面で活用しやすいと思われる点について簡単に触れる形で、
各理論の骨子を紹介していく。
52
<来談者中心カウンセリング>
このカウンセリングは、「人は誰でも成長しようという意欲と力をもっている」と
考える自己理論に基づいている。自己理論は、目に見える世界をどう受け取っている
かという受け取り方の世界、認知の世界こそ本当の世界であるという現象学に立って
おり、その受けとめ方が行動の源泉になっていると考える。その中でも、自分に対す
る受けとめ方(自己概念)は、他者の評価を取り入れてつくられる。この自己概念を
変えるためには、あるがままの自分を認め(自己受容)、自己一致することである。
そのために、カウンセラーは非審判的・許容的な雰囲気で、受容、支持、繰り返し、
質 問 、 明 確 化 の 5 つ の 技 法 ( P 12~ P 15参 照 ) を 活 用 し て 、 相 手 の 話 を 聴 く の で あ る 。
この理論が学校教育相談に与えた最大の効用は、教育活動における信頼関係づくり
の大切さを強調したことである。心の触れ合いを重視して信頼関係をつくることによ
り役割関係が促進され、教師が自分の考え、感情、事実を語ること(自己開示)で感
情交流が促進される。そして、信頼関係が児童生徒の心の居場所をつくり、自己洞察
や自己成長をもたらすのである。また、学級が互いを認め合える、温かな雰囲気にな
るという点でも影響力がある。
<精神分析的カウンセリング>
精神分析理論の骨子は、幼尐期の体験が性格を形成すること、無意識があらゆる行
動の原動力であると考えることの2つである。そこで、無意識下に抑圧されているも
のを意識化し、その体験を克服していくことが目標となる。
また、人間の性格は、3つの部分から構成されていると考える。本能的欲求である
エスと、良心の働きをする超自我と、現実能力である自我であり、この3つのバラン
スがとれていることが健全であると考える。
さらに、性格の片寄りや癖が何に起因するかというコンプレックスの理論がある。
例えば、カイン・コンプレックスは、親の愛情を巡ってその争奪戦に負けたものが他
の兄弟に対してもつ敵愾心、务等感、競争心である。親から「お兄ちゃんに比べて、
あなたは勉強しないんだから」といつも比較されていると、「親は自分よりも兄が可
愛いいんだ」と無意識に思うようになり、無気力になったり反抗的になったりするこ
とがある。
したがって精神分析は、子どもや保護者の言動からその背後に潜む感情を読み取り、
内面を理解し、なぜこんな行動をとるのかを推測し、原因の仮説を立て対応策を考え
るのに役立つ。すなわち、子どもの行動のパターン、行動の意味、行動の原因を考え、
対策を立てるのである。
精神分析を知っていると、絵、作文、服装、表情、話し方、ジェスチャー、座り方、
沈黙などからも児童生徒理解を深めることができる。さらに、診断的理解を行うこと
ができるので、保護者に状況を説明したり助言したりするときにも役立つ。
53
<行動カウンセリング>
この理論では、相談者の問題は、望ましい行動の獲得に失敗しているか(例:しつ
け不足のためにルールが守れない)、または過剰学習(例:すべてを完璧にしようと
して限度を越えて頑張る)のために生じていると考える。そこで、未学習のものを学
習し直すか、過剰学習を解除することになる。相談者と話し合って、目標になる行動
を決め、その達成に向けてカウンセリングをしていく。
この理論が教育活動に生かせる大きな理由は、不登校、暴力、万引き、多動など、
問題に応じた技法をもつことである。行動療法の中でも、目標を明らかにし、そこに
近づくために小目標を設定し、一つずつクリアしていくという「強化法を活用した段
階的な指導法」が学校で活用しやすい方法である。達成可能な小目標を子どもに考え
させ自己決定できるように、具体的に指示したり計画を立てさせたりしていく。そし
て、子どもが「尐し努力して→できて→ほめて→強化されて→次の行動への意欲がわ
く 」 と い う こ と を 繰 り 返 す こ と で 目 標 に 近 づ い て い く の で あ る 。 ( P 17参 照 )
<交
流
分
析>
交流分析では、「過去と他人のせいにしない」で、自律性・自主性を大切にする。
そして、自分や他の人の行動・思考・感情に気づき、必要に応じて自分の行動を変え
るという方法である。
この理論には、①構造分析:個人の中で起きていることを理解する方法
析:2人の間に起きていることを理解する方法
定の交流の型を理解する方法
する方法
②交流分
③ゲーム分析:不快感をもたらす特
④脚本分析:個人が推し進めている人生プランを理解
の4つの柱がある。
これらの中で、構造分析の方法としての心の状態を示す「エゴグラム」が学校にお
い て 活 用 し や す い ( 展 開 例 : P 66参 照 ) 。 人 は 誰 で も 親 心 ( P ) 、 大 人 心 ( A ) 、 子
ども心(C)の3つの心(自我状態)をもっており、健全な人間とは状況に応じてP
ACを自由に出し入れできる人であるという考えに基づいている。この心の状態を知
るための質問紙法がエゴグラムである。一対一の面接、学級活動・ホームルーム活動、
保護者会、教師の自己理解を深めるためなど活用の範囲は広い。教師が集団を観察 す
ることで、児童生徒の行動のパターンがわかるので、指導・援助の手がかりにするこ
ともできる。
54
<論
理
療
法>
論理療法は、人間の悩みは、ある出来事そのものが原因ではなく、その出来事をど
う受けとめたかが原因であると考える。受けとめ方(ビリーフ)に論理性が乏しく、
事実に基づかないとき、それをイラショナルビリーフ(不合理な思い込み)という。
それに気づかせ、自分を幸福にする現実的で論理的なラショナルビリーフに変えさせ
るのが論理療法である。
子どもが「ねばならない」「べきである」「…でなくてはならない」「…して当然
である」という考えに縛られているときに、それに気づかせ、「…にこしたことはな
い 」 等 と 書 き 換 え さ せ て い く 。 「 The
Best」 か ら 「 My
Best」 の 人 生 へ と 考 え 方 を
変えることにもなる。
論 理 療 法 は 、 1 回 の 面 接 時 間 が 20分 か ら 40分 と 短 時 間 で あ る こ と も 、 多 忙 な 教 師 に
とって、活用しやすい点である。
さらに、教師が自己分析したり、メンタルヘルスを保ったりするのにも役立つ。教師
自身が不快な気分になったり、怒りや落ち込むなどの不適切な感情にとらわれたりした
とき、自分に対して、あるいは子ども、保護者、同僚に対して「………とあるべき」と
いう思い込みをもっていないかを振り返ることで、肩の力を抜いて柔軟な生き方ができ
るようになり、指導に幅がでてくるようになる。
<家族カウンセリング・短期療法>
家族カウンセリングの中心になっているのが、システム理論と呼ばれものである。
この考え方では、個人が示している症状は、家族全体がうまく機能していないサイン
だととらえ、その個人だけでなく家族全体を変えようとする。悪いのは問題を起こし
ている子どもであるから、変化すべきはこの子どもであるという考え方を変えて、家
族全員が協力して尐しずつ変化していくことで、問題を解決していこうとするもので、
そのための技法が数多くある。
このカウンセリングから、さらに、早期に相談者の問題を解決することに焦点を当
てようとして生まれたのが短期療法である。
家族療法・短期療法の考え方や方法の中で、教師が児童生徒の指導や保護者とのか
かわりの中で生かせるものをいくつか紹介する。①誰も悪くないと考え、犯人捜しや
責任転嫁をし合うのでなく、今後それぞれの立場でできることを考える(原因志向か
ら解決志向へ)。②変化はどこからでも生じるし、小さな変化でも、家族など全体に
影響を及ぼしていくと考える。③うまくいっていることを続け、うまくいかないこと
は繰り返さず違うことをする。④何かをやめるより何かを始める方が実行しやすい。
例えば、問題行動をやめさせることが難しいときに、その子どもが活躍する場をつく
る。子どもは、活動をとおして、成就感や存在感を感じることができれば、結果的に
問題行動を起こさなくなるのである。⑤健康度の低い人より、健康度の高い人の方が
変化しやすい。⑥よいところ探しをする。⑦例外的にうまくいったことを活用する。
などである。
55
2
学校教育に生かすカウンセリングの方法
(1) 技 法 を 学 ぶ 意 味
カ ウ ン セ リ ン グ の 知 識 体 系 に 加えて技 法 を も つ こ と で 、 実践家を育てることができる。
もちろん、いくら技法を学んでも、人間性に問題があると技法が身につかないし、操
作的で欺瞞的になる。一方、技法がないと教育評論家でおわってしまうのである。
(2) カ ウ ン セ リ ン グ の 技 法 の 体 系
カウンセリングの理論には多様なものがあり、どの理論に立脚するかによって、そ
のカウンセリングの手段、方法などは異なったものとなる。しかし、学校のように多
種多様の問題解決をせまられているところでは、複数の理論・技法について知ってお
く方が心強い。それも、学校において役立たせることができる程度に学習すればよい
のであり、その意味でも折衷主義が学校にはなじみやすいと思われる。
折衷主義は、主要な理論の優れたところを取捨選択して、それらを再構成したもの
である。目の前の子どもの問題や面接段階に応じて、最も適した方法をとる立場で、
既存の各理論から活用できるものは何でも使うという立場のことである。特定の理論
に偏ることなく状況に応じて柔軟に対応できるという特徴がある。折衷主義に基づく
3つの主要なカウンセリング技法を簡単に紹介する。
<面
接
の
3
段
階>
信頼関係をつくり、問題の核心をつかみ、適切な処置をするという面接の3段階と5つの
技 法 か ら な る 。 ( P 11~ P 18参 照 )
南教育センターで実施している「学校カウンセリング初級研修会」では、面接演習をこの
技法を用いて行っている。
<マイクロカウンセリング>
カウンセリングの個々の技法を細かく分け「マイクロ技法」と呼び、これを階層状 に一覧
表として示した。受け身的な基本的なかかわり技法から学びはじめ、能動的な積極技法、対
決技法、そして技法の統合へ進んでいく。また、相手に影響を与える強さによって技法を一
列に並べ、連続表を示した。
南教育センターで実施している「学校カウンセリング中級研修会」では、面接演習をこの
技法を用いて行っている。
<ヘ
ル
ピ
ン
グ>
この方法は4段階になっているが、行動を起こす最後の段階に重点があるので、学校にお
いて「いかに子どもの行動変容を促していくか」に生かせる方法である。人は、自分で決め
たことは行動に移しやすい。そこで、面接の後半では、問題や課題を環境や周囲の人の責任
にしないで、自分の責任においてどうなりたいのか、何ができるようになればよいのかとせ
まっていく。そして、児童生徒がなりたい自分に向けて行動に移せるよう、教師が手ほどき
していくのである。この方法は、改まった面接場面だけでなく、教師と生徒、教師と教師な
どの日常生活の中での人間関係にも役立つ援助法である。
南教育センターで実施している「学校カウンセリング上級研修会」では、面接演習をこの
技法を用いて行っている。
56
4
集団を対象とした予防・開発的なカウンセリングの方法
カウンセリングには一対一の治療的な面接の他に、集団を対象とした予防・開発的なカウ
ンセリングがあり、学校においては各教科・科目、道徳、特別活動(特に学級活動、ホーム
ルーム活動)、総合的な学習の時間などにおいて活用できる。ここでは、代表的なもの3つ
を簡単に紹介する。
<人間関係づくり~構成的グループエンカウンターを活用して~ >
(P58及び展開例:P59~P62参照)
<
グ
ル
ー
プ
面
談
>
グループカウンセリングというのは、問題を抱えた人を集めて小集団 で行う。グループの
作り方には3つあり、喫煙がやめられない子ども、進路が決まらない生徒、不登校の子ども
をもつ保護者など、共通の問題や課題をもつ人を集めてグループを作る方法、何かしら違う
問題をもっていてお互いに助け合いながら、信頼関係を体験したり個々の問題の解決をめざ
す方法、自己成長を目的として行う方法の3つである。
学校においては、すべての児童生徒を対象に行う定期面接相談においてグループ面談とい
う形で、より開発的な目的で行うこともできる。学級内のグループ(仲のよい子ども同士、
生活班など)、進路希望別のグループなどである。
グループ面談には個別の面接相談を補うものとして次のような特徴がある。①一対一の面
談の時より話しやすい。②皆の話を聞いて、こんな思いや悩みは自分だけではないと、ホッ
として気が楽になる。③教師や友人に対する親近感が増し人間関係がつくられる。④個人面
談に比べて短時間でできる。
グループ面談を行うときの教師の役割は、話が抽象的になっていないか、発言が均等化し
ているか、話題が脱線していないかを観察し、それを指摘したり、話題を提供したり、話題
を拡大したりしてより多くの人が話に参加できるようにする。教師自身の思いを語る時間を
とってもよい。
<
グ
ル
ー
プ
ワ
ー
ク
>
集団で集団の課題を達成することである。例えば、文化祭の準備、立案など行うことであ
る。話し合いをとおして、自分の意見を言ったり人の考えを聞いて一つにまとめ上げたりす
る体験や、協力して仕事を行うことで、仲間意識が育ち集団としてのまとまりができる。ま
た、役割を持つことで集団の中での存在感を感じることもできるようになる。
構成的グループエンカウンターのエクササイズとして行う方法もある。その場合は、最後
に、自分が話し合いにどのような態度で参加したか、また、課題解決に向けてどのように振
る舞ったかを振り返る時間を持つことで自己理解を深めることができる。
グルーワークを行うときには、その課題が子どもたちにとって意味があること、達成可能
であること、課題を達成するまでの過程の中で一人一人を育てていくことなどに留意する。
また、教師はその集団のメンバーの様子を見て、教師主導のスタイルから子ども中心のス
タイルまでを自由に動くとよい。動くときには、子どもたちの興味や能力はどうか、時間は
あるか、1年のうちのどの時期か、教師の得意なスタイルな何かなどを基準にする。
57
Ⅱ
学級経営・ホームルーム経営等
における活用例
児童生徒相互の人間関係づくり
~
構成的グループエンカウンターを活用して
~
1 構成的グループエンカウンターの基本的な流れ
1
はじめに………………本活動のねらいと流れを説明する。
2
ウォーミングアップ…児童生徒をリラックスさせるために簡単な活動を実施する。
3
インストラクション…エクササイズの説明やデモンストレーションをする。
4
エクササイズの実施…ルールが守られているか確認しながら援助を行う。
5
振り返り………………エクササイズを実施し、気づいたことや感じたことを語り合う。
6 まとめ………………… 児童生徒の参加の状況をもとに、教師の感想を述べる。
2
学級活動等での活用の仕方
○ねらいに応じたエクササイズの実施
エクササイズとは、教師の考えるねらいを達成するために用意された課題のことである。
そこで、まず子どもたちの様子をよく観察して学級の実態を把握する。次に、ねらいを明
確にし、そのねらいに応じたエクササイズを選択し、実施する。
○ 構成的グループエンカウンターの実施方法の工夫
進行は教師が行うが、実施する前に教師が体験しておくとよい。また、対象児童生徒の
年齢に応じて言葉がけなどを工夫したり、実態に応じて時間配分を弾力的に行ったり、エ
クササイズを組み合わせたりするなど、適宜工夫して実施する。
○ ウォーミングアップ
児童生徒が、構成的グループエンカウンターに参加しやすくなるよう、まず気持をリラ
ックスさせることが重要である。そこで、数分で行える簡単な活動(例:「握手」「あい
さつ」「肩もみ」など)を実施し、雰囲気を盛り上げる。
○ インストラクション
エクササイズのねらい、内容やルールを児童生徒に説明したり、エクササイズのデモン
ストレーションを行ったりすると、児童生徒の理解が深まるともに、参加意欲を高めるこ
とができる。
○ 振り返り
エクササイズを振り返ることで、体験して気づいたことや感じたことなどを明確化する
とともに、ねらいにせまることができる。さらに、一人の気づきや感情を全員が共有する
ことができる。振り返り中に行われる自己開示によって、学級などの集団が、共通の感情
や気づきをわかちあうことができる。
○ 実施後の観察
実施後の児童生徒の様子を観察し、以後の学級・ホームルーム経営や構成的グループエ
ンカンターの実施に生かすようにする。
58
1
フリーウォーキング
1
目的:ア
友達とのいろいろな出会いを体験することにより、友達同士の人間関係を
円滑にしていく。
イ
あいさつの仕方で大切なことに気づき、互いに尊重する気持をもつ。
2
準備:ストップウォッチ
3
対象:小・中・高
4
時期:年度当初
5
手順
ア
ウォーミングアップ
①「近くの人と二人組になってください。その二人組でジャンケンをします。」
②「勝った人はそのままで、負けた人は勝った人の周りを一回りします。」
③「また、ジャンケンをします。同じ人が負けたら、負けが2回目ですので、2回ま
わります。負けた回数分相手の周りを回ります。」
④「こちらが合図をするまで、ジャンケンを続けます。」
⑤「では、はじめてください。」
イ
フリーウォーキング
①「これから、声を出さないで、友達と出会っても相手を見ないし、あいさつもしな
いで、ぶつからないように注意しながら、自分の好きなようにこの場所を、歩き
回ります。」
② 「 で は 、 ○ ○ 君 と 先 生 で 実 際 に や っ て み ま す か ら 、 見 て て く だ さ い 。」
③「やり方はわかりましたか。これから始めますが、約束があります。ふざけないこ
とです。では、はじめてください。」
④「やめてください。では、今度は、友達とすれちがう時に、互いに目を見て、にっ
こりと微笑んでください。では、はじめてください。」
⑤「やめてください。最後に、友達とすれちがったら、立ち止まり、相手の目を見て
握手をし、自分の名前を紹介してください。」
⑥ 「で は 、 で き る だ け 多 く の 友 達 と 握 手 を す る よ う に し ま し ょ う 。 で は 、 は じ め ま し
ょう。」
ウ
振り返り
①「3つのパターンをやりましたが、それぞれどんな気持がしましたか。グループで
気づいたこと、感じたことを出し合いましょう。」
② 「 で は 、グ ル ー プ 内 で 出 た 感 想 を ク ラ ス の み ん な に 聞 か せ て く だ さ い 。」
≪留意点≫
○集団活動を嫌う児童生徒がいる場合は、簡単な役(時計係など)を与え、徐々に参
加できるようにする。
○他の児童生徒から嫌われていると思われる子がいる場合は、教師がその子に積極的
にかかわるなど、適宜対応をする。
59
2
名前紹介ゲーム
1
目的:ア
イ
友達の名前を自然に覚えることにより、人間関係を円滑にしていく。
友達の趣味や好きなものを知ることにより、互いに関心をもつ。
2
準備:ストップウォッチ
3
対象:小・中・高
4
時期:年度当初
5
手順
ア
ウォーミングアップ
①「これからみんなで体を軽く動かしてみましょう。では、先生と同じようにしてくだ
さい。」(例
イ
首を横や縦に振る、両手を上げて降ろすなど)
名前紹介ゲーム
①「では、座席に並んでいる列ごとに順番に並んでください。」
②「その列で輪をつくり、座ってください。」
③「グループ内でじゃんけんをして勝ち残りの人を決めてください。」
④「一番勝った人からはじめます。まず、名前を言ってください。」
⑤「その右隣の人は、前の人の名前を言ってから、自分の名前を言います。例えば『A
さんの隣の○○です。』というように言います。」
⑥「次の人は『Aさんの隣の○○さんの隣の△△です。』と言います。」
⑦「このように順番に言っていきます。」
⑧「そして、最後の人は全員の人の名前を言ってから自分の名前を言います。」
⑨「では、はじめましょう。」
⑩「一回りしましたか。次に1回目とは逆回りで、最後だった人から言っていきます。
ただし、今度は、名前の前に好きな食べ物をつけてください。例えば『○○の好き
な○○です。』というように言います。」
⑪「では、はじめてください。」
ウ
振り返り
①「では、グループ内で感想を出し合ってください。言う順番は自由です。言いたい人
から言ってください。」
②「では、グループ内で出た感想をクラスのみんなに聞かせててください。」
≪留意点≫
○ウォーミングアップは、子どもの実態に応じて工夫して行う。
○暗記力の競争にならないように、グループの人数を配慮する。
○転校生などがいる場合などは、配慮しながら行う。
○子どもの実態に応じて、グループの人数を増やしてもよい。
○教師も仲間に入ると子どもとの親近感が増すので、積極的に参加するようにする。
○名前の前につける言葉は、児童生徒の実態に応じて好きな食べ物や動物などいろいろな
種類を取り上げてみるとよい。
60
3
すごろくトーキング
1
目的:ア
友達の前で自分の考えを話すことにより、自己表現をする力を養う。
イ
友達の考えを聞くことにより、話の聞き方と他者理解を深める。
2
準備:ストップウォッチ、サイコロ、すごろくトーキング表
3
対象:小・中・高
4
時期:年度末や学期末
5
手順
ア
ウォーミングアップ
①「これから先生の言うことを、心の中に思い描いてみましょう。」
②「まず、目を閉じてください。好きな動物を思い出してください。」
③ 「思い出しましたか。次は、○○のときの楽しい思い出です。」
④「次は、○○のときに感動したことです。」
⑤「目を開けてください。今先生が言ったことを思い出せましたか。」
イ
すごろくトーキング
①「今、目を閉じていろいろと思い出しましたね。これから各班ですごろくを行いま
す。」
②「各班で机を寄せて、真ん中にすごろくトーキング表を置きます。」
③「各自がサイコロを振り、出した目の数だけすごろく表のマスを進みます。」
④「そのマスに書かれているテーマの話を、他の班員にします。例えば、マス目に
『好きな動物』と書いてあったら『私の好きな動物は○○です。』と言います。
どうしても、その話ができないときは、それ以前のどこか話せるマス目まで引き
返します。ただし、同じマスへ2度は返れません。」
⑤「はじめる前に、一つ約束があります。友達が話しているときは、静かに聞いてく
ださい。」
⑥「では、○○分間行います。はじめてください。」
ウ
振り返り
①「先生が知らない話がたくさんあったようです。友達の話を聞いて気づいたことや
感じたりしたことを各班で出し合ってください。」
②「では、各班の話し合いの中で出た、心に残ったことや感動したことなど、クラス
のみんなに発表してください。」
≪留意点≫
○下記のようなテーマ約30個ぐらいを、マス目に書いたすごろくトーキング表を用意
する。
好きな動物、楽しい思い出、よく頑張ったこと、感動したこと、行ってみたい所、
ほめられたこと、こわい体験、この前の日曜日にしたこと、など。
○友達の話が終わったときは、拍手をするようにする。
○友達の話は、じっくり聞くようにする。
61
4
二者択一
1
目的:ア
イ
友達に自分の考えを表明することにより、自己主張する力を養う。
自他の価値観を認識するとともに、価値観の違いに気づく。
2
準備:対照的な言葉を書いた用紙、袋、数種類の色カード
3
対象:小・中・高
4
時期:学期の途中
5
手順
ア
ウォーミングアップ
①「これからこの袋の中にあるカードを選んでもらいます。同じ色になった人が、同
じグループになります。」
②「では、同じグループになった人は互いに握手をして『よろしくお願いします。』
と言います。」
イ
二者択一
①「これから、対照的な言葉を印刷したプリントを配布します。この対照的な言葉か
ら、自分のより好きな物、なりたいもの、大切なものなどに○をつけます。理由
もよく考えながら選んでください。」
②「次に、一つ一つについて、選んだ理由を他の班の人に話します。」
③「では、はじめの対照的な言葉、社長と副社長について、どちらを選んだか。どう
して選んだのかを他の班員に、一人ずつ順番に話してください。例えば、『私は
○○です。なぜならば、~だからです。』と言います。」
④「このとき一つ約束があります。人の意見には、反対意見など口をはさまないこと
です。」
⑤「一つの項目ごとに全員が話してください。」
⑥「では、はじめてください。」
ウ
振り返り
①「では、各グループで友達の選んだ理由を聞いて感じたことや気づいたことを出し
合ってみましょう。」
②「では、各グループで話し合って感じたことや気づいたことを、みんなに発表して
ください。」
≪留意点≫
○二者択一の言葉は、児童生徒の年齢など実態に応じ、下記のようなどちらを選んでも
支障のないものにする。
山か海か、男か女か、社長か副社長か、都会か田舎か、犬か猫か、消費か貯蓄か、
夏か冬か、春か秋か、野球かサッカーか、海外旅行か国内旅行か、洋室か和室かなど
○10個ぐらい言葉を印刷したプリントを用意しておく。
○相手の意見を否定したり批判したりしないようにする。
62
話 し 合 い 活 動 に よ る 集 団 決 定
~グループワーク・無人島SOSを活用して~
1
ねらい
自分や他者のいろいろな考え方を知り、伝え合う表現力を養う。
多様な考え方に気づき、お互いを認め合える人間関係を築く。
2
実施上の留意点
(1) 最 初 に ウ ォ ー ミ ン グ ア ッ プ と し て 、 肩 も み や ブ レ ー ン ス ト ー
ミングなどを行い、雰囲気づくりをしてもよい。
(2) あ る 程 度 学 級 の 人 間 関 係 が で き て き た 2 学 期 か ら 3 学 期 に 実 施 す る の が よ い 。
3
展開例
活
動
の
内
容
○活動のねらいと流れの説明を聞
く。
(5分)
指導上の留意点
資料等
・自分やグループのメンバーの
考え方を大切にしながら、グ
ループとしての考えを一つに
まとめていくことを説明する。
○個人で順位づけをする。(7分)
・話の内容で質問があれば答え
ワークシート
・4~5人のグループを作る。
る。教師が読んでもよい。
( P 64参 照 )
・配布された資料の話を読む。
・周りの人と相談しないで、自
・各自で順位をつける。
分の考えを記入させる。
◎グループで話し合い、順位づけ
を行う。
(20分~25分)
・話し合いのルールを説明する。
①納得するまで話し合い、安
・話し合いの方法についての説
明を聞く。
易に妥協しない。
②多数決や平均値を用いない。
・各自がつけた順位を発表し合
い、ワークシートに記入する。
・グループで話し合って、グル
ープとしての順位をつける。
③尐数意見も大切にする。
・話し合う時間を言い、黒板に
「○時○分まで」と書く。
・答えは一つではないことを確
認する。
・ルールを守って話し合いを進
めているかどうか見て回る。
・残り5分になったら、「あと
5分です」と告げる。
○グループ発表を行う。
(5分)
・黒板に一覧表を書いておく。
・結果を黒板の一覧表に記入し、
(模造紙に書いて貼ってもよ
代表が発表する。
○振り返りをする。
い。)
(5分)
・配布された振り返り票に記入
・自分が感じたことなどについ
て、率直に語らせる。
し、感想を述べ合う。
○本時のまとめを聞く。
(3分)
・ねらいを確認し、よい人間関
係をつくっていこうと話す。
63
振り返り票
( P 65参 照 )
無 人 島 S O S
ワ ー ク シ ー ト
あなたは、大きな船で旅を楽しんでいました。ところが、ひどい嵐がやってき
て、船は粉々に壊れてしまいました。あなたは、壊れた船のかけらにつかまって
海を漂いました。ようやく嵐が過ぎ去り、小さな無人島にたどり着きました。果
てしない海と青い空。島には食べ物と水はありますが、他には何もありません。
そこで、救助が来るまで島で生き抜く生活をするため、また、島から脱出する
ためには、一体どのようなものが必要でしょうか。次の物の中から、あなたが最
も大切だと思うものを8つ選んで、必要と思う順番に番号をつけてください。
マッチ
なべ
ウイスキー
ラジオ
順位
自
望遠鏡
ロープ
裁縫道具
おの
ナイフとフォーク
海図
テント
毛布
カメラ
タオル
鉛筆と紙
分
時計
薬
班の決定
1
2
3
4
5
6
7
8
64
無 人 島 S O S
振 り 返 り 票
全
と
思く
そて
わそ
うも
なう
思
い
う
1
グループの雰囲気は活気がありましたか。
1
2
3
4
5
2
あなたは、自分の意見を十分主張できま
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
したか。
3
あなたは、他のメンバーの意見をよく聞
けましたか。
4
あなたは、他のメンバーの意見を十分引
き出すように努力しましたか。
5
あなたは、グループとしての順位をつけ
る際、納得して決定に加わりましたか。
6
あなたは、グループがまとまるように努
力しましたか。
感想:グループワークを体験して、気づいたこと、感じたこと、疑問に思った
ことなどを書いてください。
65
自己理解を深める
~エゴグラムを活用して~
1
ねらい
心理検査の一つであるエゴグラムの実習をとおして自己理解を深める。
2
実施上の留意点
(1) 学 級 ・ ホ ー ム ル ー ム 経 営 の 中 で 、 生 徒 指 導 、 進 路 指 導 の 一 環 と し て 、 組 織 的 ・ 計 画
的に行う。
(2) 自 分 を 知 る 手 が か り の 一 つ で あ る こ と を 伝 え る 。
3
展開例
活
動
の
内
容
指導上の留意点
資料等
○活動のねらいと流れの説明を聞く。
・心理検査の一つであるエゴグラ
(3分)
ムを実施し、自分を知る手がか
りの一つとすることを伝える。
・すべてがわかるのではないこと、
成長とともに変化するものであ
ることを伝える。
○親心、大人心、子ども心の3つの心
・3つの心(自我状態)について、
(自我状態)のそれぞれの特徴を理
具体例を交えてわかりやすく説
解する。
明する。
(10分)
一覧表
(P68参照)
・人の心には親心(Parent)、大人心(Adult)、
子ども心(Child )の3つの心(自我状態)
P
があり、ある状況においてそのうちの1つが
親
CP
NP
主導権を握り、その人の反応として現れる。
○親の自我状態(P)
・批判的なP(CP:父的)
A
・養育的なP(NP:母的)
大
A
人
○大人の自我状態(A)
○子どもの自我状態(C)
・自由な子ども(FC)
C
・順応した子ども(AC)
◎エゴグラムの実習(15~20分)
・配布されたチェックリストの質問
になるべく○か×をつけていく。
・○が2点、△が1点として、5つ
の枠ごとに計算し、合計点をそれ
ぞれの枠の左側に記入する。
FC
AC
子ども
・エゴグラムチェックリストは複
製可である。
・どうしても迷ったときは、△に
してもよいと言う。
・質問の言葉の意味がわからない
場合は説明する。
66
エゴグラム
チェックリ
スト
(P69・70
参照)
活
動
の
内
容
指導上の留意点
資料等
・合計点にしたがって、右下の表に
5つの点を打ち、線で結んでグラ
フを書く。
◎エゴグラムから自分を知る。
・全体的にグラフが高いほどエネ
(10分)
ルギーが高いことを説明する。
・一番高い所に注目して、どの自我
・基本的な4つの構えを含めて7
状態が優位かを知る。
つのパターンを紹介する。
・エゴグラムのパターンによる特徴
から、自己理解を深める。
・どれがよいとか、悪いというも
のではないことを強調する。
・基本的構え
①自他肯定
(I am OK,You are OK. ):へ型(平均)
②自己否定・他者肯定 (I am not OK,You are OK. ):N型
「献身パターン」
③自己肯定・他者否定 (I am OK,You are not OK. ):逆N型
④自他否定
「円満パターン」
「自己主張パターン」
(I am not OK,You are not OK. ):V型
「葛藤パターン」
その他:⑤W型:「苦悩パターン」、⑥M型:「明朗パターン」(Aが平均以上)
⑦右下がり型:「頑固パターン」
等
①円満パターン
②献身パターン
③自己主張パターン
⑤苦悩パターン
⑥明朗パターン
⑦頑固パターン
・なりたい自分について考える。
・最初のグラフになりたい自分のグ
ラフを重ねて書いてみる。(色違
いで書く。)
④葛藤パターン
・今の自分となりたい自分の2枚
のエゴグラムを作成してもよい。
・グラフの高い所を下げるより、
低い所を上げる方が実行しやす
いことを伝える。
○振り返りをする。
(5分)
・エゴグラムをお互いに見せ合っ
・4~5人のグループになって、感
てもよい。(強制はしない。)
想を述べ合う。
○本時のまとめを聞く。
(2分)
・自分を知ることの大切さを話す。
67
各自我状態の行動パターンにおける肯定的側面と否定的側面
肯
CP
NP
A
FC
AC
※
定
的
側
面
否
定
的
側
面
理想を追求する
偏見をもちがちである
良心に従う
何事にも批判的である
秩序を維持する
支配的である
道徳を尊ぶ
排他的である
責任をもつ
独断的である
相手を認める
過度に保護する
共感する
過度に干渉する
保護・育成する
押しつける
同情する
他人の自主性を損なう
受容する
甘やかす
理性的である
機械的である
合理性を尊ぶ
打算的である
沈着冷静である
無味乾燥である
事実に従う
無表情である
客観的に判断する
冷徹である
天真爛漫である
自己中心である
好奇心が強い
わがままである
直感を尊ぶ
傍若無人である
活発である
動物的である
創造性に富む
感情的である
協調性に富む
遠慮しがちである
妥協性が強い
依存心が強い
イイ子である
我慢してしまう
従順である
自主性に乏しい
慎重である
敵意を隠す
C P : Critical Parent
N P : Nurturing Parent
A : Adult
F C : Free Child
A C : Adapted Child
68
エゴグラム・チェックリスト(児童生徒用)
以 下 の 質 問 に 、 は い ( ○ ) 、 ど ち ら と も つ か な い ( △ ) 、 い い え ( ×) の よ う に お 答 え く だ さ い 。
た だ し 、 で き る だ け ○ か ×で 答 え る よ う に し て く だ さ い 。
○
C
P
点
N
P
点
1
あなたは、何ごともきちっとしないと気がすまないほうですか。
2
人が間違ったことをしたとき、なかなか許しませんか。
3
自分を責任感の強い人間だと思いますか。
4
自分の考えをゆずらないで、最後まで押し通しますか。
5
あなたは、礼儀・作法について、厳しいしつけを受けましたか。
6
何事も、やりだしたら最後までやらないと気がすみませんか。
7
親から何か言われたら、そのとおりにしますか。
8
「ダメじゃないか」「…しなくてはいけない」という言い方をしますか。
9
あなたは、時間やお金にルーズなことが嫌いですか。
10
あなたが親になったときは、子どもを厳しく育てると思いますか。
1
人から道を聞かれたら、親切に教えてあげますか。
2
友達や年下の子どもをほめることがよくありますか。
3
他人の世話をするのが好きですか。
4
人の悪いところよりも、良いところを見るようにしますか。
5
がっかりしている人がいたら、なぐさめたり、元気づけたりしますか。
6
友達に何か買ってやるのが好きですか。
7
助けを求められると、私に任せなさい、と引き受けますか。
8
誰かが失敗したとき、責めないで許してあげますか。
9
弟や妹、又は年下の子をかわいがるほうですか。
10
食べ物や着る物のない人がいたら、助けてあげますか。
1
あなたは、いろいろな本をよく読むほうですか。
2
何かうまく行かなくても、あまりカッとなりませんか。
3
何か決めるとき、いろいろな人の意見を聞いて参考にしますか。
4
はじめてのことをする場合、よく調べてからしますか。
5
何かする場合、自分にとって損か得かよく考えますか。
6
何かわからないことがあると、人に聞いたり、相談したりしますか。
7
体の調子が悪いとき、自重して無理しないようにしますか。
8
お父さんやお母さんと、冷静に、よく話し合いますか。
9
勉強や仕事をテキパキと片付けていくほうですか。
10
迷信や占いなどは、絶対に信じないほうですか。
A
点
69
△
×
F
C
点
A
C
点
1
あなたは、おしゃれが好きなほうですか。
2
皆とさわいだり、はしゃいだりするのが好きですか。
3
「わぁ」「すげぇ」「かっこいい!」などの感嘆詞をよくつかいますか。
4
あなたは、言いたいことを遠慮なく言うことができますか。
5
うれしいときや悲しいときに、顔や動作に自由に表すことができますか。
6
ほしい物は、手に入れないと気がすまないほうですか。
7
異性の友人に自由に話しかけることができますか。
8
人に冗談を言ったり、からかったりするのが好きですか。
9
絵を描いたり、歌を歌ったりするのが好きですか。
10
あなたは、イヤなことを、イヤと言いますか。
1
あなたは、人の顔色を見て、行動をとるようなくせがありますか。
2
イヤなことはイヤと言わず、おさえてしまうことが多いですか。
3
あなたは劣等感が強いほうですか。
4
何か頼まれると、すぐにやらないでぐずぐず引き延ばすくせがありますか。
5
いつも無理をして、人からよく思われようと努めていますか。
6
本当の自分の考えよりも、親や人の言うことに影響されやすいほうですか。
7
悲しみや憂うつな気持になることがよくありますか。
8
あなたは、遠慮がちで消極的ですか。
9
親のごきげんをとるような面がありますか。
10
内心では不満だが、表面では満足しているように振る舞いますか。
この表に得点を書き込んでください。
20
採点方法
18
○=2点
△=1点
16
×= 0 点
14
12
10
8
6
4
2
0
CP
NP
A
FC
70
AC
保護者会における信頼関係づくり
~構成的グループエンカウンターを活用して~
1
保護者会で実施する意義
保護者会の始めの時間に、構成的グループエンカウンターを活用することで、保護者は担
任に親近感と信頼感をもち、保護者同士の間にも温かな人間関係ができる。また、その後の
話し合いや情報交換等も和やな雰囲気の中で活発に進めることができる。
保護者が担任に信頼感を抱くことは、担任と子どもとの信頼関係をつくったり、強化した
りすることにもつながる。また、信頼関係ができていると、保護者が子どものことで気にな
ることがあったときに、早い時期に担任に相談することができ、解決に向けて担任と保護者
が協力して対応することができる。以下、簡単に実施できるものをいくつか紹介する 。状況
に応じて組み合わせたりアレンジしたりして活用するとよい。
2
展開例
(1) 年 度 当 初 の 保 護 者 会 で の 活 用
ア
全員で(5分)
教室内を歩き回り、すれ違う人と「○○の母親です。」「△△の父親です」と言いながら
相手の目を見て握手をする。担任も積極的に歩き回り、一段落したところで全員が担任と
握手したかを確認する。
イ
2人1組で(10分)
なるべく顔見知りでない保護者同士で2人組を作り、話しやすい角度で向き合って座って
もらう。ジャンケンで負けた方の人から、相手に聞きたいことを質問する。例えば、子ど
もに関することであれば、テレビを見る時間・お小遣い・しつけの仕方・教育方針など、
または保護者自身に関することであれば、趣味・住んでいる場所・家族構成などである。
また、答えたくないことは無理に答えなくてよいと伝えておく。3分たったら、聞き手と
話し手を交替して行う。
ウ
4人1組で(10分)
隣同士のペアが合流して4人組を作り、順番に自分の子どもはどんな人間になってほし
いかを1人2分で述べ合う。最初に教師が、学級の子どもにどんな人間になってほしいか
を語ってもよい。
エ
8人1組で(15分)
隣のグループと合流して8人組を作り、担任や学校生活について聞きたいことを語り合っ
て、配られた用紙に書く。担任はそれを集めて、各グループから出された質問に対して率
直に答えていく。最後に、担任から1年間こんな方針でやっていきたいということを話す。
71
(2) 通 常 の 保 護 者 会 で の 活 用
ア
我が子のいいところさがし
①ねらい
保護者は、子どもの欠点や直して欲しいことに目が行き、注意することが多くなりがち
であるが、長所に目を向けることで、子どもを肯定的に見られるようになる。
②方
法
・自分の子どものよいところを思い浮かべてもらう。性格でもいいし、「昨日、洗濯物
を取り込んでくれた」などの具体的な行動でもいいことを説明する。
・2人1組になり、一人が自分の子どものよいところを2分で語り、もう一人は相手の
話を傾聴する。その後、役割を交替して行う。
・隣のペアと一緒になり4人1組を作り、一人ずつ順番に自分のパートナーの子どもの
よいところを新しい2人に紹介する。1人1分で行う。
・最後に担任から、「今日、家に帰られたら、ここでお話しされたことについて、子ど
もさんをほめてあげてください。ほめられることで、うれしくなり、頑張ろうという
元気がでてきます」と話す。
イ
3人よれば文殊の知恵
①ねらい
家庭の教育問題を話し合うことで、自分の家庭を客観的に見たり、自分の家だけではな
いと安心したりすることができる。また、保護者同士の連帯感も高まる。
②方法
・3人1組になり、問題を提起する順番を決める。
・最初の人が、自分の子どものことで「何とかならないかな」と思っていることなど、
子どもの教育について困っていることを述べる。「勉強をしない」、「反抗的」など
例をあげて説明する。話題をいくつか決めておいてもよい。
・語られた問題について、他の2人が感じたことや自分の経験、やっていること、解決
策、意見等を述べる。その後、問題を提起した人が感想を言う。
・役割を交替して行う。
・各グループで話題になったことや、それに対して話し合われたことなどを発表しても
らい、最後に担任の感想や考えを述べる。
3
実施上の留意点
(1) こ の 方 法 を 、 担 任 自 身 が 楽 し ん で 進 め る こ と で 、 保 護 者 も 緊 張 し な い で 参 加 す る こ と が
できる。笑顔でゆったりとした表情で行うとよい。
(2) 保 護 者 会 の 参 加 者 は 母 親 で あ る こ と が 多 い の で 、 父 親 が 遠 慮 が ち に な る こ と が あ る 。 ペ
アを作るときには、そういう方にも声をかけて手助けをする。
(3) 通 常 の 保 護 者 会 で 実 施 す る と き に は 、 最 初 に 、 ウ ォ ー ミ ン グ ア ッ プ を 兼 ね て 、 前 後 左 右
の人と握手・あいさつと簡単な自己紹介をすると和やかな雰囲気になる。
72
Ⅲ
校内研修会の実際
面
1
接
演
習
ねらい
面接において、相手の話を傾聴し、問題の核心にせまっていく過程を演習をとおして体験
的に理解し身につけることで、児童生徒や保護者との対応に生かせるようにする 。
2
進め方
(1) 面 接 の 3 段 階 と 5 つ の 技 法 を 説 明 ( P 11~ P 18) し 、 そ の 間 に 演 習 を 入 れ る 。
3
面接演習の実際
<演習1>~非言語的表現を用いた無視される体験~
・ね ら い:傾聴の大切さを体験的に理解する。
・方
法:2人組を作り、話し手、聞き手の順番を決める。(ジャンケン等で)
話し手は「今、力を入れていること」について2分で話す。
聞き手は、聞きたくない態度(無視)を非言語的表現のみを使って示す。
2分後、感じたことを1分で語り合う。
役割を交替して行う。
最初に、指導者が聞き手(無視する役)でデモンストレー
ションを行う。
・留 意 点:演習なので笑わずに真剣に行い、話す方は最後まで話す。
その後、時間があれば1分~2分で傾聴する面接を行うとよい。
<演習2>~受容・支持・質問の練習~
・ね ら い:受容・支持・質問の練習をとおして、信頼関係づくりの大切さを理解する。
・方
法:先程の2人組で、話し手、聞き手の順番を決める。
話し手は、「父(または父代理等)」について、質問に答えて簡潔に語る。
聞き手は、3分間話し手の父親について質問し、話し手の答えには受容・支持で
応じ、次の質問をしていく。
・留 意 点:話し手は、一つの質問に対して長々と話さないで、聞き手が5つくらいは質問で
きるように配慮する。
・振り返り:話し手→聞き手の順に振り返りの視点により、よかった点と改善点(もっとこう
してほしかった)を率直に語り合う。(2分間)
<振り返りの視点>
①聞き手の非言語的表現はどうであったか
②話し手は「もっと話したい、わかってもらえた」と感じたか
③「よくぞ聞いてくれました」という質問はあったか
④話し手は語ることで自分の気持がはっきりしたところはあったか
・役割を交替して行う。
73
<演習3>~繰り返しの練習~
・ね ら い:繰り返しをとおして、信頼関係をつくりながら核心にせまる練習をする。
・方
法:新しい2人組を作り、話し手、聞き手の順番を決める。
話し手は、「今、仕事で力を入れて取り組んでいることで、工夫したり苦労してい
ること」について語る。
聞き手は、受容、支持、質問、繰り返しを用いて、話し手をわかろうとして傾聴す
る。
3分たったところで、指導者の合図で、話し手の伝えたかった事柄と感情を簡潔に
繰り返す。
・振り返り:話し手→聞き手の順に、振り返りの視点により、よかった点と改善点(もっと、こ
うしてほしかった)を率直に語り合う。(3分)
< 振り返りの視点>
①聞き手の非言語的表現はどうであったか
②話し手は、「もっと話したい、わかってもらえた」と感じたか
③話し手は、自分の語りたいことがはっきりしてきたか
④聞き手のそれぞれの技法は適切であったか
・役割を交替して行う。
<演習4>~明確化の練習~
・ね ら い:明確化とはどういうことかを理解する。
・方
法:用紙を配布して、子どもの発言に対して明確化するとどうなるかを記入する。
2人組で、どうなったかを話し合う。解答を発表してもらう。
・明確化の練習問題と解答例(アンダーライン)
①学級担任とクラスの子どもとの会話
・子ども:「先生、今度いつ席替えするの」(語尾を下げて言う)
→担
任:「今の席に何かあるの?
不満とか……」
・子ども:「数学(算数)なんて何で勉強するの。世の中に出てから役に立たないのに」
→担
任:「数学(算数)、あまり勉強したくない…?」
「数学(算数)、好きじゃないの?」
②不登校(情緒的混乱の型)で学校を休んでいる子どもと担任との会話
・子ども:「父親に、理由をはっきり言わないで学校を休んで、家でだらだらしているよう
じゃ、社会にでてもやっていけない。いつから学校に行くのか早く決めろと、
毎日言われて………」
→担
任:「なかなか決められないでいる気持をお父さんにわかって欲しい?」
74
<演習5>~総合練習~
・ねらい:話し手の話を傾聴しない面接①と傾聴する面接②の両方を行うことにより、信頼関係
をつくりながら問題の核心にせまるために傾聴が大切であることを理解する。
①デモンストレーション
・状況設定
小学校5年生(中学校2年生、高等学校1年生)の女子と教科担任との面接。
最近、授業中におしゃべりをするなど落ち着きがない。教師の話を聞かず、集中力に
欠ける。成績も下がってきている。本人は明るく、人なつっこい性格であるが、けじ
めがついていないところもある。注意すると、その場は従うが長続きしない。そこで、
本人を相談室に呼んで、話をすることになった。
・話し手:呼び出されて「授業がわからない、つまらない、先生は自分ばかり注意する」と
不満な気持でいっぱいな児童生徒になりきって本気で演じる。
○傾聴してもらえないと、ますます他者批判になり、大きな声で文句を言い続け興奮して
くる。
○傾聴してもらえたら、徐々に落ち着いてきて、自分を振り返り、自分にも直すところが
あること、これからどうしたらいいのかを考えて行こうという姿勢を示す。
・聞き手:教科については、各自で考える。
○本人の話を聴こうとせず、「授業はきちんと聞かなくてはならない、これから勉強も段
々難しくなる、将来の進路も関係してくる、親も心配している」等について、教師の考
えを一方的に述べ、説教をする。
○5つの技法をフルに活用して、本人の話を傾聴する。
②2人組でロールプレイング
・先程の2人組で、話し手(児童生徒役)と聞き手(教科担任役)の順番を決める。
・デモンストレーションと同じ方法で行う。
・面接後、振り返りを行う。「傾聴しない面接」では、話し手(児童生徒役)がどんな気持
になったかを語る。「傾聴する面接」では、話し手→聞き手の順に、振り返りの視点によ
り、よかった点と改善点を率直に語り合う。
<振り返りの視点>
①聞き手の非言語的表現はどうであったか
②話し手は、「もっと話したい、来てよかった」と思えたか
③話し手は、語ることにより気持が落ち着いてきたか
④話し手は、聞き手に「わかってもらえた」と感じたか
⑤聞き手の早すぎる助言や説得はなかったか
⑥聞き手は話し手に気合い負けしていなかったか
・役割を交替して行う。
75
ロールプレイング
1
ロールプレイングの基本的な流れ
1
はじめに………………本活動のねらいと流れを説明する。
2
ウォーミングアップ…参加者をリラックスさせるための簡単な活動を実施する。
3
ロールプレイング……ねらいに沿ったロールプレイングを実施する。
4
振り返り………………参加者同士でロールプレイングを実施して感じたことや
学んだことを語り合う。
5
2
まとめ…………………ねらいに沿ってまとめる。
校内研修会等での活用の仕方
(1) 研 修 会 の ね ら い に 応 じ た ロ ー ル プ レ イ ン グ の 実 施
教師が児童生徒と日常的に接する際の心がけなどについて体験的に学ぶものか、問題
行動への対応の仕方について学ぶものか、あるいは児童生徒を対象とする学級活動での
活用の仕方を学ぶものかなど、そのねらいに応じたロールプレイングを実施する。
(2) ロ ー ル プ レ イ ン グ の 実 施 方 法 の 工 夫
研修会の実施時間や参加者の経験に応じて、ロールプレイングの数を調整したり、ロ
ールプレイングの実施方法などを工夫したりする。例えば、参加者は用意されたシナリ
オどおりに演じるだけでなく、即興で演じたり、またその場面に応じた適切なシナリオ
を作成したりする。
(3) ロ ー ル プ レ イ ン グ の 説 明
「活用のねらい」「長所」「活用場面」「実施上の留意点」(本編参照)などについ
て参加者に説明する。特に「実施上の留意点」については、参加者にきちんと理解させ
ておくことがロ-ルプレイングの効果をあげることにつながる。
(4) ウ ォ ー ミ ン グ ア ッ プ
参加者がロールプレイングに参加しやすくなるよう、まず気持をリラックスさせるこ
と が 重 要 で あ る 。 そ こ で 、 数 分 で 行 え る 簡 単 な 活 動 ( 例 : 「肩 も み 」「二 者 択 一 」な ど ) を
実施する。
*「 二 者 択 一 」 :5 ~ 6 人 の グ ル ー プ に な り 、 「 山 」 と 「 海 」 な ど の よ う な 対 称 的 な 事 柄
について、どちらが好きかを簡単な理由とともに順番に発表していく。
(5) デ モ ン ス ト レ ー シ ョ ン
参加者がロールプレイングを実施する前に、指導者が参加者の前でシナリオに沿って
実際にロールプレイングを演じてみる。指導者が一度演じることにより、参加者は演じ
方などについて具体的に理解できるため、その後の演習が円滑に進んでいく。
(6) 振 り 返 り
1つのロールプレイングを実施したら、参加者同士で感じたことや気づいたことを互
いに語り合う。この振り返りをとおして、よりよい対応の在り方や指導の仕方について
の理解を深める。
76
3
学級活動(ホームルーム活動)等で活用する場合の留意事項
〇児童生徒に活動させる前に、必ず教師自身が授業で扱うロールプレイングを実際に演
じてみる。
〇役割になりきって演じることをしっかりと指導する。
〇ロールプレイングの開始と終 了 は 必 ず 合 図 で 行 い 、 役 割 解 除 を き ち ん と 行 う 。 特 に
「いじめ」などのロールプレイングを実施した場合は、いやな気持が残らないように
互いに握手させる等の配慮をする。
<学級活動(ホームルーム活動)指導案例>
〇対象:小学校高学年以上
〇 時 間 : 45~ 50分 ( 本 指 導 案 例 は 50分 扱 い )
学級活動(ホームルーム活動)指導案
(1) 題 材 「 望 ま し い 人 間 関 係 」
(2) 題 材 設 定 の 理 由
児童生徒相互の日常的なかかわりの中で、無意識のうちに出た言葉や態度が、相
手に不快な感情を与えてしまう場合がある。また、自分の感情や考えを上手に相手
に伝えることができないために、相手にいやな思いをさせてしまう場合もある。逆
に相手のことを考え過ぎて、自分の考えや感情をはっきりと言えず、後悔したり落
ち込んでしまったりという場合もある。
そこで本時は、友達と接する際の言葉がけや姿勢・態度
並びに適切な表現の仕方等について、ロールプレイングを
とおして体験的に学ばせていく。そして自らの日常の言動
を振り返らせ、今後の生活に具体的に生かせるようにして
いきたいと考え、本題材を設定した。
(3) 展 開 の 過 程
①本時の活動のテーマ
「友達との接し方」
②事前の指導と児童生徒の活動
・学級活動委員会で、友達との接し方で気をつけていることについて話し合う。
・友達の何気ない言葉や態度でいやな思いをしたことに関する実態調査を行う。
・学級活動委員会で、実態調査の結果をもとに活動テーマを決定する。
③本時のねらい
・友達と接する際の言葉かけや姿勢・態度等に関する非言語の大切さについて、
ロールプレイングをとおして体験的に学ぶ。
・ 相手の気持を大事にしながらも自分自身の気持や考えをしっかりと相手に伝える。
表現の仕方について、ロールプレイングをとおして体験的に学ぶ。
④ 本 時 の 展 開 ( 50分 扱 い )
活
動
の
内
容
指導上の留意点
○活動のねらいと流れの説明を聞く。
・よりよい友人関係を築いてい
(2分)
くために必要な話し方や接し
資 料 等
方について学んでいくことを
説明する。
・ロールプレイングを行うため、
役になりきって真剣に行うこ
とを説明する。
○学級活動委員が実態調査について発
表する。
(3分)
・友達と接する際、言葉がけや
言い方等に気をつける必要が
あることを押さえる。
77
実態調査
(略)
○ウォーミングアップ<肩もみ>を行
う。
(5分)
・2人組を作る。
・2人組で肩もみをする。
・リラックスした雰囲気をつく
る。
・相手の要望を聞きながら肩も
みをすることが、思いやりに
つながることを説明する。
◎ロールプレイング<あいさつ>を行 ・教師の合図で始める。
シナリオ
う。
( 10分 ) ・ 目 を 見 ず に 通 り 過 ぎ て 行 く 場
(P 84参 照 )
・同じ2人組で役割(順番)を決め
合と視線を合わせて言葉を交
める。
わす場合とでは、感情の交流
・シナリオに沿って、ロールプレイ
に大きな違いがあることを確
ングを行う。
認する。
・ABCの3通りの児童生徒役を演 ・円滑なコミュニケーションに
じたら役割を交替する。
は、視線などの言葉以外のも
・3通りの児童生徒の対応について
のが欠かせない要素となるこ
感じたことを互いに語り合う。
とを押さえる。
・2人に握手させる。
◎ロールプレイング<本>を行う。
・各自が役に徹することを再確
シナリオ
( 20分 )
認する。
(P 85参 照 )
・3人組になる。
・児童生徒Aの3つの対応につ
・ 3 人 で 役 割 ( 児 童 生 徒 A・ B ・ 監
いて説明する。
督)と順番を決める。
・監督の合図で始めるが、役割
・児童生徒Aの①~③の3つの対応
を終了するごとに、児童生徒
を行ったら、役割を交替する。
AとBには必ず握手をさせ、
・3人が3通りの役割を順番に行う。 役割を解除させるようにする。
・開始と終了の合図は監督が行う。 ・児童生徒A・Bはどのような
・3人で気づいたことや感じたこと
気持になったか、率直に語り
を話し合う。
合わせる。
○振り返りをする。
(5分) ・自分が感じたことなどについ
振り返り票
・新しい4人組になる。
て率直に意見を語らせる。
(略)
・振り返り票に記入する。
・何人かに感想を発表させる。
・本時の活動をとおして気づいたこ
とや感じたことを語り合う。
○本時のまとめを聞く。
(5分) ・本時の学習で学んだことをも
とに自分の生活を振り返り、
友達との接し方について考え
るきっかけとしてほしいこと
を伝える。
⑤事後の指導と児童生徒の活動
・生活ノートをとおして、友達との接し方で気をつけている
ことや言動の変化を確認しながら、相手の立場を考えた行
動ができるようにしていく。
・本時の活動について家庭でも話し合い、保護者からも社会
人として留意している言動について語ってもらう。
(4) 評 価
・友達と接する際、自分の言葉や態度、姿勢などに気をつけようとしているか。
・相手の立場を尊重しながらも、自分の考えを適切に表現したり、主張したりしよう
としているか。
78
4
ロールプレイングシナリオ例
(1) 教 師 対 象 ロ ー ル プ レ イ ン グ
ア
傾聴の重要さに視点を当てた例
①ねらい
○相手の話を傾聴することが、信頼関係を築く上で欠かせないことを体験をとお
して学ぶ。
○面接相談が効果的に機能するためには、非 言語の果たす役割がいか
に重要であるかを体験をとおして学ぶ。
②活用方法
○教師が1対1で「児童生徒役」と「先生役」を演じる。
○「先生役」の対応の仕方によって、「児童生徒役」がどのような気持になった
かを話し合う。
○話し合いをとおして、教師の姿勢について考える。
*児童生徒同士の日常のふれあいの在り方について考えさせる場合にも応用して
活用できる。
③シナリオ
ロールプレイング1
<いじめ>
1
場
面
○友達からいじめられ、悩み抜いた末、担任の先生のところに相談しに来た場面
2
役割設定
児童生徒役
①いじめで悩み苦しみ、恐怖と不安から学校に来るのもやっとの思いという児童生
徒を演じる。
②先生のところに相談に来る際も、いじめる児童生徒に気づかれやしないかと不安
でいっぱいの気持で演じる。
③具体的ないじめの内容については、児童生徒役の人が考える。
④「先生、実はいじめのことで相談があるんですが」という言葉で演技を始める。
⑤先生の対応によっては、その気持を変えていく。
先生役
○先生はいじめの事実についてまったく知らなかったものとする。
○「うん、じゃあそこに座って話してごらん。」という言葉で続けていく。
<A先生(一方的態度)>
①いじめ問題はすぐに対応しなければならないという思いから、児童生徒に次々に
質問をしていったり、話が途切れたりするとじれったいという気持で演じる。
②いじめられているからといって、相手の言いなりになってはいけないと説得する。
③いじめられているのは「君にも原因があるからじゃないのか」という気持を表す。
④今は仕事で忙しいため、できるだけ早く相談を終わらせたい気持を非言語で表現
する。[例] 時計をちらちら見る
ものを書く振りをする
体を横にする など
⑤その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
79
<B先生(傾聴的態度)>
①児童生徒の話を親身に受けとめて聞いていくという気持で演じる。
②児童生徒のつらい気持を受けとめ、「よく我慢してきたな」
と努力を認める気持で演じる。
③児童生徒の努力の方向が間違っていても、それを否定せず「どうしてそうしたの」
「その時どんな気持だった」と、児童生徒の気持に沿いながら面接を進める。
④聞く態度を非言語で表現する。
⑤その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
イ
日常の信頼関係づくりに視点を当てた例
①ねらい
○カウンセリングの理論や技法は、教師と児童生徒の日常の信頼関係づくりに生
かせることを体験をとおして理解する。
②活用方法
○教師が1対1で「児童生徒役」と「先生役」を演じる。
○「先生役」の対応の仕方によって、「児童生徒役」がどのような気持になった
か話し合う。
○話し合いをとおして、教師の姿勢について考える。
③シナリオ
ロールプレイング2
<学級日誌>
1
場
面
○学級日誌を書いた児童生徒が、放課後、職員室
にいる担任の先生のところへ提出に来た場面
2
役割設定
児童生徒役
①普段は誰もが手抜きをしがちな学級日誌を、いつ
になく一生懸命書いた児童生徒を演じる。
②今日は一生懸命に学級日誌を書いたため、担任の先生に認めてもらいたいという
気持で職員室に持って行く。
③「先生、学級日誌を持ってきました」という言葉で始める。
④先生の対応に応じて、自分の気持を表現していく。
先生役
〇職員室で、自分の机に向かって急ぎの仕事に取り組んでいる先生を演じる。
<A先生>
① 学 級 日 誌 を 持 っ て き た 児 童 生 徒 の 顔 を 見 ず に 、 「そ こ に 置 い と い て 」と 指 で 指 示 す る
のみ。
②仕事で忙しくて、今は学級日誌どころではないという感じを出す。
③その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
80
<B先生>
①学級日誌を持ってきた児童生徒に対して、顔を見ながら日誌の内容を見ずにただ
「ご苦労様」と形だけの労をねぎらう先生を演じる。
②「ご苦労様」と言った後はすぐにまた忙しそうに仕事に取りかかる。
③その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
<C先生>
①学級日誌を持ってきた児童生徒に対して、顔を見ながら「ありがとう、よく書い
てくれたねー」とほめる先生を演じる。
②ほめる内容については具体的に考える。
③その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
ロール・プレイング3
<作品>
1
場
面
○授業中、児童生徒が自分の作品を先生のところに見せに来た場面
2
役割設定
児童生徒役
○「先生、これできました」と明るい声で先生に見せるところから始める。
①今回の作品は自分でも丁寧に仕上げ、様々な工夫をしたつもりだったので、意気
揚々と先生に作品を見せに行く。
②工夫した点を先生に「ほめてもらえたらいいなー」という期待をもっている。
③自分から工夫した点を先生に話していく。
④先生の対応によっては、その気持を変えていく。
⑤作品の種類や工夫した点は児童生徒役が考える。
先生役
<A先生>
①児童生徒のよい点には触れず、改善点やよくない点だけを指摘する。
②次から次へと「ここがだめ」「ここはおかしい」「ここが乱暴」と、すべて否定
的にとらえる先生を演じる。
③児童生徒が「ここをちょっと工夫したんですが」と言っても、「これは工夫した
うちには入らない。もっと…なふうにしなくちゃだめだ!」と逆に叱責していく。
④欠点を指摘しながらだんだんと声を荒げていく。最後は、「もう一度やってきな
さい。もっと丁寧に、もっと工夫して」と児童生徒を突き放す感じで席に戻す。
<B先生>
①作品には目もやらず、ただ「はい、じゃ、そこ置いといて」全く関心を示さない
先生を演じる。
②児童生徒が「ここを工夫したんですが」と言っても、「あ、そう」とただ受け流
し、「後で見ておくから」と無関心に突き放す先生を演じる。
③児童生徒を無視する態度で演じる。
④その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
81
<C先生>
① 児 童 生 徒 の 作 品 の よ い 点 を ま ず 認 め 、 「よ く 努 力 し た な ー 」と ほ め る こ と か ら 始 め
る。
②児童生徒の工夫した点にも触れ、本人の努力の跡や上達した点を十分に認める。
③作品がもっとよくなるようにという視点から、改善した方がよいという点をアド
バイスする。
④その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
ロールプレイング4
<授業場面>
1
場
面
○小5(中2)の教室で算数(数学)の答え合わせをしている場面
2
役割設定
児童生徒役
○算数(数学)があまり得意でなく、自信のない児童生徒役を演じる。
先生役
○基本的な問題なので、一人ずつ確認をとるために全員を順番に指名している。
<A先生>
○叱責タイプで児童生徒の気持を考えない姿勢で演じる。
<B先生>
○児童生徒の気持を共感的に受けとめようとする姿勢で演じる。
3
シナリオ
<A先生の場合(叱責タイプ)>
先生1:○○君、第3問を答えて
生徒1:ハイ(自信なさそうに)……ええと、ええと……。
先生2:どうした、早く答えなさい。
生徒2:……ええと。
先生3:時間がもったいない。簡単なんだから、さっさと答えなさい 。
生徒3:ええと、1/3(X+Y)……だと思います。
先生4:うん、声が小さいな、もう一度、自信をもって!
生徒4:……1/3(X+Y)。
先生5:1/3(X+Y)、違うな。何やってんだ!
生徒5:……(下を向いたまま)
先生6:こんなことができないのかー。これは基本中の基本だぞ。説明をちゃんと
聞いていたのか。
生徒6:……(黙ってうなずく)
先生7:本当にやる気あるのかー。このままじゃ、6年(3年)になれないぞ。
もっとしっかりやれよ。はい、座っていいよ。
82
<B先生の場合(共感的タイプ)>
先生1:○○君、第3問を答えて。
生徒1:ハイ(自信なさそうに)……ええと、ええと……。
先生2:慌てなくていいよ、気持を楽にさせてな。
生徒2:……ええと。
先生3:うん、うん。(うなずきながら)
生徒3:ええと、1/3(X+Y)……だと思います。
先生4:うーん、よく言えたなー。でもちょっと惜しいなー。もういちど確かめて
ごらん、尐し待つから。
生徒4:……2/3(X-Y)ですか。
先生5:2/3(X-Y)、そう、正解。よくできたねー。
生徒5:うん。(うなずきながら)
先生6:よく考えればいいんだよね。誰にでもミスはあるもんな。次もこの調子で
頑張ってな。はい、座っていいよ。
生徒7:はい。(嬉しそうに)
[留意点]〇A先生・B先生で声の調子や声量、表情を変える。
〇 先 生 役 は 男 性 ・女 性 に よ っ て 言 葉 の 使 い 方 を 変 え る 。
〇アドリブで台詞を変えてもよい。
ウ
指示や制止等の重要性に視点を当てた例
①ねらい
○児童生徒の問題行動等に対応する場合は、聞くだけでなく、その行為を禁止し
たり 、 制止 し たりす る な どの 指 導の 大 切さに つ い て体 験 をと お して確 認 す る。
②活用方法
○教師が「児童生徒役」と「先生役」を演じる。
○ 「 先 生 役 」 の 対 応 の 仕 方 に よ っ て 、 「児 童 生 徒 役 」が ど の よ う な 気 持 に な っ た か
話し合う。
○話し合いをとおして、教師の姿勢について考える。
③シナリオ
ロールプレイング5
<全校朝会>
1
場
面
○全校朝会時、態度の悪い児童生徒に対する指導場面
2
役割設定
生徒役
<態度の悪い児童生徒>
①全校朝会の時、じっとしていられず、体を動かしたり、横を向いたり、友達にち
ょっかいを出したりするなど態度の悪い児童生徒を演じる。
②先生から注意されたことには「うるさい」と思いながらもまだ素直に受け入れる
姿勢をもっている児童生徒の気持で演じる。
83
③先生の対応によっては、その気持を変えていく。
<きちんと整列している児童生徒>
①きちんと整列し、話に耳を傾けている児童生徒を演じる。
②態度の悪い児童生徒からちょっかいを出されて 迷惑している気持を出す。
先生役
<A先生(受容的態度)>
①児童生徒の態度をきちんとさせることよりも、まず気持を大事にしながらじっく
り聞いていくという態度で演じる。
②友達にちょっかいを出すなどの行為を制止することよりも、まず言い分を聞くこ
とが大事であるという姿勢を演じる。
③その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
<B先生(指示的態度)>
①児童生徒を、まずきちんとさせることが第一であるという態度で演じる。
②じっとしていられない児童生徒に対して、悪い態度・行為は認めない、許さないという気
持で演じる。
③行為を制止した後で、児童生徒の話を聞いていくという姿勢で演じる。
④その後は、児童生徒の言動に応じて続けられる限り演技を続ける。
(2) 児 童 生 徒 対 象 ロ ー ル プ レ イ ン グ
ア
学級経営・ホームルーム経営・学年経営に生かすことに視点を当てた例
①ねらい
○ロールプレイングをとおして、好ましい人間関係の在り方を考える。
②活用方法
○児童生徒がシナリオに沿って、ロールプレイングを実施 する。
○ロールプレイングによって感じたことを互いに話し合う。
○話し合いをとおして自らの言動を振り返り、実践できるようにする。
○道徳や特別活動等のねらいに即して実施する。
③シナリオ
ロールプレイング6
<あいさつ>
1
場
面
○児童生徒Aが登校中、正門のところで出会った友達BCDEにあいさつする場面
2
役割設定
児童生徒A役(無視される児童生徒)
○明るく友達に「おはよう」とあいさつをする児童生徒を演じる。
児童生徒BCDE役(無視する児童生徒)
○Aのあいさつに気づいたため、一瞬会話をやめて横目でちらっと見るが、何も言
わずにすぐに背を向けて、また4人で楽しそうにおしゃべりを続けていく。
3
振り返り
○無視されたときの気持を中心に感じたことを互いに話し合う。
84
ロールプレイング7
<本>
1 場 面
○昼休み、児童生徒Aが読んでいる本を、児童生徒Bが貸して欲しいと頼む場面
2
役割設定
児童生徒役A
①昼休み、夢中になって本を読んでいる。
② 昨 日 か ら 読 み 始 め た 本 で あ る が 残 り 20ペ ー ジ ほ ど に な り 、 内 容 は ク ラ イ マ ッ ク ス
に入ってきたところである。この昼休みに一気に読み終えてしまいたいと思い、
本に没頭している。
③児童生徒Bが話しかけ、本を貸して欲しいと頼むが、今は読み終えてしまいたい
気持でいっぱいである。
児童生徒役B
①Aが読んでいる本に自分も関心をもち、読みたくなってきている。
②軽い気持でAに本を貸してくれるように頼む。
3
流
れ
児童生徒Aの①から③の応答を順に進める。
①の応答:自分の考えや気持のみで、相手のことを考えない。
②の応答:自分の考えや気持を示さず、相手のことだけを気にする。
③の応答:自分の考えや気持を示すとともに、相手のことも考える。
4
シナリオ
児童生徒B:A君、何の本読んでいるんだい。
児童生徒A:○○だよ。
児童生徒B:面白い?
児童生徒A:抜群だよ。
児童生徒B:じゃ、僕にも読ませて。
児童生徒A
①の応答:やだよ、今読んでいるんだから(つっけんどんに)。
②の応答:うーん、どうしようかなー……。まっ、いいか。じゃ貸すよ(ためら
いながら、本当は今は貸したくないという気持で)
③の応答:悪いけど後尐しで読み終わるんだ。今ちょうどいいところまできてる
から、読み終わったら貸すよ。だからもう尐し待ってて。
5
振り返り
○児童生徒役Aの①~③の応答に対して、Bはどのような気持になったか。
○児童生徒役Aは①~③の応答をしてみてどのような気持になったか。
85
事 例 研 究
~南教育センターA、B、S方式を用いて~
1
事例研究について
(1 ) ね ら い
事例研究をとおして、いじめ・不登校等各種
問題行動についての理解を深め、適切な指導・
援助の在り方を探る。
(2 ) 事 例 研 究 に つ い て
ア
事例研究とは
実事例(事例提供者が実際に起きた事例を提供する)または、架空事例(事
例研究のねらいに基づいて作成した架空の事例)をもとに、個人研究、グルー
プ研究、全体研究などにより、適切な指導・援助の在り方を研究するためのも
ので、期待される成果は次のとおりである。
①問題行動の要因・背景を明らかにし、児童生徒理解の目を養う。
②効果的な指導・援助の在り方を研修し、指導力向上の場とする。
③教職員相互の連携と指導・援助の在り方に対する共通理解を図る。
イ
事例研究の方法とその特徴
南教育センターでは主にA、B、Sの3つの事例研究法を用いている。3つ
の方法に共通しているのは、参加者が積極的、主体的に参加できる研修形態と
なっていることである。
なお、それぞれの特徴と主な相違点については、下表及び次ページの比較表
にまとめてある。
<問題解決までの流れからみたA、B、S方式の特徴>
①情報収集による児童生徒理解
及び役割分担の決定
⑤観察・フォロー
→
→
→
②仮説の設定
→
③指導・援助策
④指導・援助(状況によって①に戻る)
→
⑥問題の解決へ
・A方式:事例の一部が提示され、情報収集と指導・援助策の確立を中心に行う。
(①~③について研究する)
・B方式:指導・援助を含めて事例の経過が提示され、より望ましい指導・援助
策を考えていく。(③、④について研究する)
・S方式:事例が提示され、学校全体の動き及び組織的対応に視点を当てて、時
間系列に沿って流れを考えていく。(③~⑥について研究する)
86
南教育センターA・B・S方式の主な相違点
内容\方式
主な目的
A方式
B方式
S方式
・情報収集力を高める
・指導上の問題点を発
・解決すべき課題を発
・児童生徒理解の力を
高める
見する力を養う
見する力を養う
・具体的で実行可能な
・限られた情報をもと
改善策を立案する力
に組織的対応や時間
を養う
的経過を念頭に置き
・指導・援助法を確立
する
ながら、より実践的
な指導・援助策を考
える力を養う
対象者
初歩的な段階で使用
A方式経験者が望まし
A、B方式経験者が望
い
ましい
所要時間
90~120分
60~90分
60~120分
扱う内容
・現在・過去の各種問
・現在・過去の各種問
・架空事例(実事例で
題
事例の内容
題
も可)
・事例提供者が必要
・架空事例でも可
・事例提供者が不要
・事例の一部分を書く
・問題行動と、指導方
・教師が児童生徒の気
・質問の余地を残し、
針、指導方法、指導
になる情報を得たと
指導内容は書かない
結果と本人の変容を
ころまでを書く
中心に書く
・児童生徒の状況につ
・児童生徒の状況につ
いても触れる
いても触れる
事例の分量
・A4判
1/3 ~ 1/2
程度
その他
・インシデント(出来
事)・プロセス方式
・ A 4 判 1/2~ 2/3 程
度
・シカゴ方式を改良し
たもの
を改良したもの
・ A 4 判 1/2~ 2/3 程
度
・「いじめ」に関する
調査研究の過程で生
まれたもので、南教
・事例提供者は、質問
育センターで開発し
に答えられるように
たもの
準備しておく
87
「南教育センターA方式」による事例研究の進め方
活 動 項 目
① 進め方の説明、
事例の提示と黙読
② 情報の収集
時間
(目安)
5分
20分
全 体 の 活 動
グ ル ー プ の 活 動
個 人 の 活 動
① 目的、時間配分、進め方の説明をし、記録用紙を配布する。
① 事例を黙読し、質問内容を考える。
主 ・研修会への主体的な参加をとおして、参加者の相互理解を深める。
・インシデント(事例の一部分を記し
な ・情緒不安定要因や発達課題達成状況に基づいた情報収集と児童生徒
たもの)を読み、情報収集に必要な
目
理解を行う。
内容を記録用紙にメモする。
的 ・児童生徒の自己指導能力の育成を目指した指導・援助法を確立する。
② 本人及び問題行動理解のために参加者は事例提供者に質問する。
児童生徒の情緒不安定要因
・質問項目例:本人に関する生育歴、家庭環境、性格、能力、適性、
諸検査結果、興味、交友関係、健康状況、学習状況、
・愛情の欲求はどうか
学校生活、校外生活、心境、問題行動に関するもの等
・成就の欲求はどうか
・質問形式は、一人ずつ一問一答形式とする、一度出た情報は再度繰り返して質
・集団帰属の欲求はどうか
問せず、参加者全員が時間の許す限り幾度でも質問する。
・社会的承認の欲求はどうか
・事例提供者は、質問されたことだけに簡潔に答える。
・独立の欲求はどうか
事例研究の指導法を考える人格の発達課題の視点例
(青尐年問題審議会 平成3年)
③ 個人研究
④ グループ研究
⑤ 全体研究
⑥ 事例提供者から
の結果説明と参加
者の自己評価
⑦ 質疑応答
⑧ 指導者のまとめ
と指導助言
10分
25分
1 乳児期( 1才半まで)=保護者との1対1のふれ合いを通じて基本的
信頼感の達成
2 幼児期(5,6 才まで)=成功・失敗経験を通じた自立感の達成
3 尐年期(小学生)
=遊びの体験、仲間とのふれ合いを通じた活動
性の獲得
4 青年前期(中学生) =自らの責任による行動を通じて自発性の獲得
5 青年後期(高校生) =社会への参画を通じて自己同一性の確立
④ グループとしての指導法を立案する。
・各自の指導法の発表と相互検討により、
より実行可能で効果が期待できる指導
法を考える。
・ノリ付き付箋紙や模造紙を活用する。
15分
5分
10分
⑤ 各グループから発表する。
・全体へ討議した問題点と指導法を発表する。
・発表を聞き、児童生徒理解、指導法について共通理解を図る。
⑥ 実際に実施した指導法とその結果を説明する。
・事例報告者がどのような意思決定をし対処したかを聞く。
・参加者は、その方法と各自・各班の方法とを比較検討する。
・事例提供者、参加者が学び合う。
⑦ 事例提供者の説明に対して質問を行う。
・問題行動の解釈や指導法についての理解を深める。
⑧ 研究に関する内容、事例に直接関係する内容、一般的な内容について行
う。
児童生徒の自己指導能力育成の
3留意点
・自己存在感を与える
・共感的人間関係を育成する
・多くの自己決定の場を与える
③ 解決すべき問題点と対策を決める。
・問題行動等を解釈し、解決すべき問
題点とその指導法を明確にする。
・必要な指導方針や指導手順を具体的に
説明できるようにする。
【指導法のまとめ方の例 1】
問 題 点 指 導 法
(要因・背景 )
(理由)
本 人
家 庭
学 校
その他
【指導法のまとめ方の例 2】
問題点
要因・背景
指導法
本人に関すること
ア
a
イ
b
家庭に関すること
ア
a
イ
b
学校に関すること
ア
a
イ
b
88
留 意 事 項(丸数字は、活動項目の丸数字に対応)
○ 実施目的を明確にし、時間については実態に応じて工夫し設
定する。
① インシデントは、児童生徒の問題行動、個人票に記載された内
容、学業成績、出席状況等とし、指導内容は含めない。
A4判 1/3~ 1/2程度とする。
・事例提供者は質問に回答できるよう準備しておく。
・質問者は問題の原因などの予想を立てながら、質問のポイント
を絞っておく。
・問題点を考えるに当たっては、問題解決に責任をもって進めよ
うとしている人と同じ立場に立って行う。
② 児童生徒の情緒不安定の要因、発達課題の達成状況については
必ず触れるようにする
・一つの部分(例:生育歴)を集中的に質問し、出そろったら次
の情報収集に移る方法もある。
・司会が指名していく方法もある。
・他者の質問をよく聞き、共通の情報とする。
③ ノリ付き付箋紙(カード)を使用し、問題点を 3項目、それを
もとに対策を3項目考える。一枚のカードに 1項目をそれぞれ記
入する。
・自由な発想のもとで、問題点とその解決策を考える。
・研修の積み重ねに応じて、発達課題の達成に留意したり、自己
指導能力育成の3留意点(自己存在感、共感的人間関係、自己
決定の場)に留意する。また、この観点に立った具体案を示す
必要がある。
④ 全員が均等に発言できるように配慮する
・カードは読みながら提示する。内容の類似しているカードをま
とめる。
・他者の意見を批判したり、自分の意見を押しつけないようにし
相互に耳を傾ける。
・憶測で発言せず、情報収集で得た事実に基づいて話し合う。
・具体的で実行可能な案を考える。
・自己指導能力育成の観点と、発達課題の達成目標とを結びつけ
る。
・発表者、記録者を決めておく。
⑤ グループでなぜそのような決定をしたのか、理由や根拠も発表
する。
・全体会では、参加者全体としての解決策を導く必要はない。
⑥ 積極的な生徒指導の推進に向けて、実践事項を明確にする。
・自分との相違点を明確にし、感じたこと、やってみようと思う
ことの要点を整理する。
A方式
情報収集のための記録用紙
○事例を読んで、本人及び問題解決のために不足している情報を聞き出す質問項目を考える。
○一問一答形式で情報を集める。他者の質問をよく聞き、自分の情報に加える。
聞きたい情報
得
本
人
家
庭
学
校
・
他
98
ら
れ
た
情
報
「南教育センターB方式」による事例研究の進め方」
活 動 項 目
時間
全 体 の 活 動
グ ル ー プ の 活 動
個 人 の 活 動
(目安)
10分
① 目的、時間配分、進め方の説明をし、事例と記録用紙を配布する。
① 事例を読み、教師の指導・援助に関
目 的 ・指導上の問題点を発見する力を養う。
する質問事項を考える。
・具体的で実行可能な改善策を立案する力を養う。
・実践的問題解決能力の向上を図る。
進め方 ・事例の中で発見できる「活用したい指導・援助」「改善を加え
れば効果の期待できる教員の指導・援助、指導体制等」の指摘
を参加者が行い、グループでの討議と全体発表をとおして改善
策の研究を行う。
② 情報の収集
5分
③ 個人研究 1
10分
④ グループ研究 1
15分
⑤ 個人研究 2
10分
⑥ グループ研究 2
15分
② 指導・援助を中心とした質問を参加者が事例提供者に行う。
② 簡潔に質問を行う。
・質問は、一人ずつ一問一答形式とする。一度出た情報は、再度質問しな
い。質問時間は、A方式に比べて短くする。
③ 事例の中から、次のA、Bの部分に
・事例提供者は、質問されたことだけに簡潔に答える。
該当する教師の指導・援助等を表して
いる文章を3箇所程度決め、その部分
にアンダーラインを引き、A、Bの記
号で書く。
A:自分で活用したい指導・援助方法
B:改善を加えれば、効果の期待でき
る指導・援助方法
④ グループとしてのA、Bをそれぞれ、
3箇所程度決め、記録用紙に記入する。
⑤ グループで決めたBの各々について
次の要素を含めた改善策を考え、記録
用紙に記入する。
⑥ 個人研究 2に基づき、グループとして
・「誰が(組織を含む)、誰に対して
の意見をまとめる。
いつ、どこで(教育活動を含む)」
・一人ずつ個人研究を読み上げる。
ただし、「誰が(組織を含む)」は
・メンバーの発表を記録する。
教師・学校とする
・出された改善策に基づき、グループと
・「何を、どのようにするか」
しての改善策をまとめる。
・改善策は、積極的な生徒指導を目指し
た内容とする。
⑦ 全体研究
15分
① 進め方の説明、
事例の提示と黙読
⑧ 質疑応答
⑨ 事例提供者の感
想発表
⑩ 指導助言
5分
5分
⑦ 各グループが、研究した内容を発表する。
⑧ 各グループの発表内容に対する意見交換を行う。
⑨ 各グループの発表内容に関して、事例提供者が感想を述べる。参加者か
ら質問を受ける。
⑩ 研究方法に関する内容、事例に直接関係する内容、一般的な内容につい
て指導助言を行う。
留 意 事 項(丸数字は、活動項目の丸数字に対応)
① 時間配分は、研修時間に応じて工夫し、設定する。
事例を作成する上では、次の点に留意する。
・児童生徒・家庭・学校の概要、児童生徒の非行・問題行動等、問題に対
処するために教師が行った実態把握や指導・援助の内容、校内の組織等
を記す。ただし、中心的な問題や指導・援助以外は箇条書き等にして簡
潔に記す。
・問題行動だけでなく、教科指導等における児童生徒の様子や教師の対応
も記す。
・児童生徒、保護者、教師が、「いつ、どこで、誰が、何を、どうしたか」
について、事実を記す。
・特に中心になる問題行動については、どのような問題に対してどんな
指導・援助をしたか、その結果、児童生徒がどのように変容したか(し
なかったか)等を、教師の指導・援助内容とその過程及び児童生徒の変
容過程をとおして記す。
・時期を明確にし、態様の表現は修飾語を尐なくして簡潔に記す。
③ A、Bの箇所を尐なくして、時間短縮を図ることもできる。
・Bについては、「改善の見通しがもてる」指導・援助の方法を選ぶと
よい。
④ 各自が、A、Bを決めた根拠をグループ内で発表し、共通理解のもとで
グループの考えをまとめる。
・メンバーの発表の部分にアンダーラインを引く。
・他者の意見を批判したり、自分の意見を押しつけたりせず、相互に耳を
傾ける。
⑤ 改善策の立案では、次の点に留意する。
・与えられた情報の範囲で状況を把握し、該当校の教師の立場から、実行
可能な改善策を立案する。
・改善策が必要な要因・背景を考える。
・自己指導能力の育成の留意点に基づき、発達課題を踏まえ、積極的な生
徒指導を目指した改善策を考える。
・改善策を考える視点の例
時間的な展望、緊急・重要性、個人と集団、校内の指導体制、
分掌組織、各種教育活動、他機関との連携、指導対象の明確化
教師の指導能力等
⑥ 他者を批判することなく、全員が均等に発言できるように協力する。また
「自分ならこうする」の視点で討議する。
⑦ 各グループ 3分程度で発表する。発表にはA、Bに決めた根拠を必ず含
める。全体会では、参加者全体としての改善策を導く必要はない。
⑩ 指導助言は、各活動の中でも適宜行う。
98
B方式
A 活用したい
班
記録用紙(個人研究・グループ研究)
A1
指導・援助法
A2
A3
B 改善を加えれば効果
改
善
策
の期待できる指導・援
誰が、誰に対して、いつ、どこで
助法
B1
個
人
メンバー
グループ
B2
個
人
メンバー
グループ
B3
個
人
メンバー
グループ
98
何を、どのようにするか
「南教育センターS方式」による事例研究の進め方
活動項目
時間
全体の活動
①事例研究法
10分
①事例研究法S方式の目的、進め方、時間配分を
の目的と進
程度
め方の説明
グループの活動
個人の活動
留
意
事
項
①時間配分は、研
説明する。
修時間に応じて
<目的>
工夫し、設定す
・解決すべき課題を発見する力を養う。
る。
・限られた情報(事例)をもとに、組織的対
応や時間的経過を念頭に置きながら、具体
的かつより実践的な指導・援助策を考える
力を養う。
②事例の提示
5分
程度
②事例と記録用紙を配布する。
②参加者にどのよ
事例についての質問はできない。
うなことを中心
事例の内容のみから判断する。
に研究してほし
いかという目的
によって事例の
内容は変わって
くる。
③解決すべき
10分
③事例の中で、何が課題であり、その中で解決が
③参加者に取り組
課題の決定
程度
最優先されるべきものは何かを、「個人→グル
むべき課題を焦
ープ→全体」の順で考え、本研修会で研究する
点化させる。
課題を決定する。
なお、研修会を主催する側の目的によって、あ
らかじめ取り組むべき課題を決定しておく場合
もある。その際は、この課題決定の時間を省略
することができる。
④個人研究
10分
程度
④事例の課題解決に向けて対応策を考え、優先順
位などを決定し、記録用紙に記入する。
④対応の手順を考
え る と き 、 P 45
~ P 50の 組 織 的
対応の流れを参
考にするとよい。
⑤グループ
研究
30分
⑤どのような順で、誰に対して、どのような対応
⑤事例の実態に即
程度
策をどんな配慮事項のもとに、いつ、どこで、
した、具体的な
誰がやるのかを検討し、その結果を記録用紙と
対応策を練る。
同じ形式で模造紙に書く。
⑥全体研究
20分
⑥自グループ案を発表する。
程度
他グループ案を傾聴する。
⑥理由や根拠を明
確にする。
質疑応答を行い、全体で協議し深める。
ただし、全体で一つの案としてまとめることは
しない。
⑦まとめと
15分
指導助言
程度
⑦まとめと指導助言を聞く。
98
S
方
式
記
録
用
紙
『取り組むべき課題』
優先
対
象
順位
(誰に対して)
対
応
策
い つ
何をするのか
98
配慮事項
どこで
(場と機会)
誰 が
不登校
早期発見のためのチェックリスト
<学校での変化>
○
身体的
□身体の不調を訴え、保健室に行くことが多くなる。
□遅刻、早退が多くなる。
○
学校生活
□成績が下がる。
□授業に集中しなくなる。
□忘れ物が多くなる。
□活気がなくなり無気力になる。
□グループ編成のとき仲間がいない。
□友人と遊ばなくなる。一人でいることが多くなる。
□放課後の活動(部活動など)に参加しなくなる。
□物がなくなったり、隠されたりする。
□授業での発表回数や普段の言葉が減る。
□教師の側から離れようとしなくなる。
○欠席の様子
□休日の次の日などの欠席が多くなる。
□特定の教科や学校行事のある日などの欠席が多くなる。
<家庭での変化>
○朝の様子
□起きるのが遅く、遅刻したり欠席したりすることが多くなる。
□身体の不調を訴える事が多くなる。(微熱、腹痛、頭痛、下痢等)
□登校時間によくトイレに行くようになる。
○家庭生活
□食欲がなくなる。
□あまり口をきかなくなり、明るさがなくなる。
□家の中だけで遊ぶことが多くなり、外に出なくなる。
□休日に友人と遊ばなくなる。
□友人からの電話が減る。
□何事にもやる気がなくなり、無気力になる。
□感情の起伏が激しくなる。
□夜、寝られなくなる。
□兄弟とのトラブルが多くなる。
□物を壊したり、叩いたりするようになる。
98
いじめ
早期発見のためのチェックリス ト
~一日の生活の流れをとおして~
<朝の会>
<帰りの会>
□担任が来るまで廊下で待っている。
□持ち物がなくなったと、よく訴えにくる。
□みんなより早く登校する。
□服が泥だらけになっている。
□ぎりぎりに登校する。
□泣いていたり、机に伏せたままでいる。
□理由のはっきりしない遅刻や欠席が多くなる。
□自分の持ち物でないものを机やロッカーに入れられる。
<朝の会>
□担任のあいさつや出席確認のときに返事がない。
<帰りの会>
□教室にいないので、探すとすでに帰ってしまっている。
□沈んだ表情や緊張した様子をしている。
<授業>
<放課後から下校時>
□一人遅れて教室に入ってくる。
□机がひっくり返されたり、ロッカーが荒らされたりするなどの状況が
□授業の始めに用具が散乱している。
ある。
□忘れ物が多くなる。
□いつも教師に相談したそうに寄ってくる。
□班決めなどのとき、輪に入れない。
□鞄や持ち物がなくなっている。
□係などを選ぶとき、特定の子どもの名前があがったりふざけ半分に
□校舎内の柱や壁などに、悪口や傷つく内容の落書きをされている。
推薦されたりする。
□みんなの荷物を持たされている。
□その子どもをほめると、嘲笑や揶揄が起こる。
□遠回りして帰る。
□正しい意見なのに野次、奇声、笑い声などが出て支持されない。
□下校が早い。
□発表回数が尐なくなり、活発さがなくなる。
□いつまでも学校に残っている。
□教室の掲示物や作品、机に落書きやいたずらがされている。
□一人で帰る。
□特定の子どもに配布することを嫌がる雰囲気がある。
□ゴミの中に財布や服などが捨ててある。
□理科の実験などで後片付けをやらされている。
□道具や器具にさわらせてもらえなかったり、順番がなかなか回って
こなかったりする。
<クラブ・部活動>
□音楽の授業で歌えなくなる。
□参加しないことが多く、表情も暗い。
□周りを気にしている。
□一人だけで大変な仕事(準備や後片付け)をやらされている。
□内緒話をされている。
□練習のふりをしてボールを当てられたりぶつけられたりする。
□不自然に机や椅子が離されている。
□他の部員から強い口調で注意される。
□身体の不調を訴え、保健室にいくことが増える。
□他の部員の使い走りにされている。
□特に午後の授業で早退が多い。
□差別的なあだ名をつけられている。
□放課後が近づくと、そわそわしたり元気がなくなったりする。
□陰口を多く言われる。
□辞めたいなどの訴えがある。
<休み時間>
□道具を隠される。
□孤立している。
□いつも一人でポツンとしている。
□笑顔が見られずおどおどしている。
<クラブ・部活動>
□用もないのに職員室にくる。
□移動教室のとき、いつも荷物を持たされている。
□残りの仕事を押しつけられる。
□保健室にくる回数が多くなる。
□皆の嫌がる仕事や大変な仕事を一人でやっていることが多い。
□授業が始まっても教室に戻りたがらない。
□一人で離れて仕事をしている。
□昼休みに、図書館で一人でポツンとしている。
□無理に役員を押しつけられる。
□昼休みに、図書館で一人ポツンとしている。
<給食・清掃指導>
□給食を食べない、食欲がない。
□配膳をいやがられている。
□デザートなど、好きなものを人にあげることが多い。
□いつも一人黙々と清掃しているが、表情が暗い。
□皆の嫌がる仕事をしている。
□机や椅子が運ばれず、いつも放置されている。
98
児童虐待
早期発見のためのチェックリスト
<登校時や朝の会などの場面で>
□不自然な外傷(打撲、火傷など)が見られる。
□表情が乏しく、教師に対する受け答えが尐ない。
□過度に緊張し、教師と視線が合わせられない。
□季節にそぐわない着衣、薄汚れた着衣をしている。他のきょうだいとの服装に差が
見られる。
□連絡もなく登校してこない。担任が訪問すると、親は不在で、まだ寝ていたり食事
も与えられていなかったりすることがある。
<授業中や給食時などの生活場面で>
□教師の顔色をうかがったり、接触を避けようとしたりする。
□些細なことでもすぐカッとなり、友人への乱暴な言動がある。
□自分より年下の子どもと遊ぶことが多く、ときに威圧的である。
□他人を執拗に責めたり、動物をいじめたりする。
□用がなくても教師のそばへ近づいてこようとする。
□集団から離れていることが多い。
□何事にも意欲が乏しく、集中できない。
□机のまわりが散らかっている。忘れ物が多い。
□教室を抜け出したり、攻撃的な行動が目立ったりする。
□食欲がすすまない。
□給食のおかわりを何度も要求する。
□給食時間が近づくと登校してくる。
□なにかと理由をつけて、なかなか下校したがらない。
「子どもの虐待防止マニュアル」(東京都)より
98
引
用
・
参
考
文
献
<文部省作成のもの>
<カウンセリングの理論・技法に関するもの>
○生徒指導の手引(改訂版)
○「カウンセリングの技法」
○生徒指導資料
○「ヘルピングの心理学」
國分康孝
著(誠信書房)
ロバート・カーカフ
著(講談社現代新書)
第2集
「生徒指導の実践上の諸問題とその解明」
○「マイクロカウンセリング」
第6集
「学級担任の教師による生徒指導」
○「異文化コミュニケーション」
第7集
「中学校におけるカウンセリングの考え方」
○「こころの相談~誰もが使える、短期療法での解決策~」
第8集
「中学校におけるカウンセリングの進め方」
第13集
「問題行動をもつ生徒の指導」
○「交流分析とエゴグラム」
第14集
「生徒の問題行動に関する基礎資料」
○「教師と生徒の人間づくり1~4」
第20集
「生活体験や人間関係を豊かなものとする生徒指導」
○「エンカウンターで学級が変わる1、2」
第21集
「学校における教育相談の考え方・進め方」
○「スクールカウンセリング事典」
第22集
「登校拒否問題への取組について」
○「カウンセリング辞典」
小野
アレン・アイビイ
古田暁
直広
監修(有斐閣)
著(日総研)
新里・水野・桂・杉田
國分康孝
<ロールプレイングに関するもの>
○「登校拒否問題への適切な指導の在り方」(埼玉県教育委員会)
○「ロールプレイング」
○南教育センター研究報告書
○「ロールプレイングの手引き」
古利夫
著(チーム医療)
監修(瀝々社)
國分康孝
國分康孝
國分康孝
<埼玉県教育委員会・南教育センター作成のもの>
第 247号
著(川島書店)
監修(図書文化)
監修(東京書籍)
編(誠信書房)
著(日本文化科学社)
千葉ロールプレイング研究会
「自己指導能力の育成を図る生徒指導の実践に関する
調査研究」
第 258号
「学校教育相談の効果的な推進に関する調査研究」
第 264号
「すべての教師が行う『いじめ』問題解決のための
○「ロールプレイング~集団による問題解決法~」
シャフテル
著
(ミネルヴァ書房)
指導法に関する調査研究」
○「教育相談ガイドブック
(誠信書房)
1~10」
<問題行動に関するもの>
○「登校拒否指導マニュアル」
○「高等学校教育相談ガイドブック1、2,3 」
坂本昇一
監修(教育開発研究所)
○「教師のためのカウンセリングゼミナール」
菅野純
著
(実務教育出版)
<生徒指導・学校カウンセリング全般に関するもの>
○「生徒指導の研究」
高橋哲夫
○「学校カウンセリング」
○「学校カウンセリング
○「小・中学校生徒指導ハンドブック」
編集代表(教育出版)
國分康孝
松原達哉
○「学校教育相談の理論・実践事例集」
○「教師の使えるカウンセリング」
○「学級の育て方・生かし方」
國分・河村
○「子どもの心を育てるカウンセリング」
○「学校カウンセリング」
真仁田昭
著(金子書房)
○「実践・問題行動教育体系第4巻
問題行動の見方・考え方」
内山喜久雄・坂野雄二
○「実践・問題行動教育体系第25巻
共著(開隆堂)
問題行動への対応マニュアル」
共著(金子書房)
國分康孝
編集代表
(第一法規)
著(ぎょうせい)
國分康孝
小泉英二・高橋哲夫
編著
(学事出版)
今井五郎
編
(第一法規)
編集(日本評論社)
援助と指導の基礎・基本」
○「生徒指導と学校教育相談」
生徒指導実務研究会
原野広太郎
編著(学事出版) ○「学校カウンセリング実践講座
編著(金子書房)
著(開隆堂)
第4巻
問題行動の発見・予防と指導・援助」
日野宜千
編(学研)
○「学校現場で使えるカウンセリングテクニック」(上)(下)
諸富祥彦
○「キーワード生徒指導」
菱村幸彦
編集(教育開発研究所)
○「学級担任のための育てるカウンセリング全書
國分康孝
○「月刊
学校教育相談
1998
4、5、12月号
○「子どもの虐待防止マニュアル」
著(誠信書房)
1999
全10巻」
代表編集(図書文化)
<リーダーシップに関するもの>
○「リーダーシップの心理学」
○「リーダーになる33の鉄則」
國分康孝
鎌田勝
著(講談社現代新書)
著(サン・マーク出版)
○「リーダーシップが面白いほど身につく本」
守谷雄司
10月号(ほんの森)
東京都福祉局
編(東京都)
著
(中経出版)
○「新生徒指導辞典」
98
飯田芳郎
他
編著(第一法規)
関係機関の概要
1 教育センター
名
面
接
相
談
称
所 在 地
埼玉県立南教育センター
指導相談部
埼玉県立北教育センター
指導相談部
〒336-8555 浦和市三室1305-1
〒366-0052 深谷市上柴町西4-2-7
埼玉県立南教育センター 指導相談部
電
よい子の電話相談
話
相
談
適
埼玉県立北教育センター 指導相談部
埼玉県立南教育センター 指導相談部
フリーダイヤルによる
いじめの電話相談
心の教育相談室
(埼玉県立南教育センター)
応
指
(埼玉県立北教育センター)
導
2 教育局関係(電話相談)
名
称
生涯学習部生徒指導室長
南部教育事務所
南部教育事務所大宮分室
西部教育事務所
西部教育事務所東松山分室
電
話
面接相談申し込み
048(874)8134
面接相談申し込み
048(571)4154
○直接ダイヤルする
(南教育センター)
048(874)2525
(北教育センター)
048(571)4153
埼玉県立北教育センター 指導相談部
○直接ダイヤルする
0120(86)3192
※地域で切り替えになります
埼玉県立越谷青年の家
越谷市増林3-4-1
埼玉県立入間青年の家
入間市小谷田1681-1
埼玉県立加須青年の家
加須市花崎456
埼玉県立深谷青年の家
深谷市仲町20-2
(越谷青年の家)
0489(64)1766
(入間青年の家)
0429(65)8034
(加須青年の家)
0480(65)1791
(深谷青年の家)
048(574)4232
電
話
048(822)5566
048(822)1860
048(642)1116
0492(42)1805
0493(23)8512
名
称
秩父教育事務所
北部教育事務所
北部教育事務所本庄分室
東部教育事務所
東部教育事務所行田分室
電
話
0494(23)2116
048(523)2818
0495(22)6428
048(737)2727
048(556)5195
3 児童相談所
児童相談所は、児童福祉法に定められ、各都道府県に数ヶ所設置されている。単なる相談指導を行うだけでなく、法に基づく措
置を必要とする児童の保護など、児童の福祉に関することがらに積極的な役割を果たしている。なお、ここでいう児童とは、0歳
~18歳未満の乳児、児童、生徒である。
名
称
所 在 地
電
話
048(775)4411
よい子の電話相談048(775)4152
埼玉県中央児童相談所
〒362-0013 上尾市上尾村1242-1
埼玉県浦和児童相談所
〒336-0003 浦和市元町2-30-20
048(886)3341
埼玉県熊谷児童相談所
〒360-0014 熊谷市箱田5-12-1
048(523)0967
埼玉県川越児童相談所
〒350-0838 川越市宮元町33-1
0492(24)5631
埼玉県所沢児童相談所
〒359-0042 所沢市並木1-9-2
042(992)4152
埼玉県越谷児童相談所
〒343-0033 越谷市恩間402
0489(75)7507
4 児童自立支援施設
不良行為をなし、または、なすおそれのある児童、及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童に対して、
個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い自立を支援する。
名
称
所 在 地
電
話
国立武蔵野学院
〒337-0963 浦和市大門1030
048(878)1260
埼玉学園
〒362-0012 上尾市上尾宿2069
048(771)0056
98
5 少年鑑別所
本来、家庭裁判所から送致された尐年の心身鑑別を業務としているが、家庭や子どものことで困っている場合、非行問題に限ら
ず相談に応じている。
名
称
所 在 地
電
話
浦和尐年鑑別所
〒336-0011 浦和市高砂3-16-36
048(864)5858
6 家庭裁判所
各都道府県に設置され、家事事件と尐年事件を扱っている。尐年事件で大切なのは、早期発見、早期治療であるということから、
尐年の非行問題についての相談もおこなっている。
名
称
所 在 地
電
話
浦和家庭裁判所 尐年係調査官
〒336-0011 浦和市高砂3-16-45
048(863)4111(内線351)
浦和家庭裁判所川越支部 尐年係調査官
〒350-0052 川越市宮下町2-1-3
0492(25)3500(内線35~36)
浦和家庭裁判所熊谷支部 尐年係調査官
〒360-0041 熊谷市宮町1-68
048(521)2474(内線231)
7 警察本部生活安全部少年課
名
称
所 在 地
電
話
尐年相談・保護者等の相談電話
048(865)4152
ヤングテレホン・尐年からの相談電話
048(861)1152
埼玉県警察尐年
サポートセンター
ラムザタワー3F
(武蔵浦和駅前)
西部尐年サポートセンター
(開設場所) 川越警察署
(相 談 室) 川越市役所2F
0492(26)6598
北部尐年サポートセンター
(開設場所) 熊谷警察署
(相 談 室) 熊谷市立婦人児童館2F
048(524)4016
東部尐年サポートセンター
(開設場所) 草加警察署
(相 談 室) 越谷市中央市民会館2F
0489(62)8437
8 少年補導センター等
尐年の非行防止活動に関係のある行政機関や団体、民間有志等が、軽い非行は警察による尐年法上の措置前に補導しようという
考え方から、尐年補導に関する諸活動を総合的、計画的に実践する共同活動の拠点としてつくられた機関である。
名
称
所 在 地
電
話
川越市尐年指導センター
〒350-0062 川越市元町1-3-1
0492(24)8811(内線2593)
蕨市福祉・児童センター
上尾市尐年愛護センター
〒335-0004 蕨市中央5-9-22
〒362-0014 上尾市上町2-14-19
048(431)3449
048(772)5201
熊谷市尐年補導センター
〒360-0041 熊谷市宮町2-47-1
048(525)3709
新座市尐年教育相談室
〒352-0011 新座市野火止1-9-11
048(477)4152
吉川市尐年センター
〒342-0056 吉川市平沼1835
0489(81)3864
9 埼玉県立精神保健総合センター
原則として、保健所並びに関係機関が取り扱った指導事例のうち、複雑または困難なものを扱うことになっているが、本人、家
族、知人などからの直接の相談にも応じている。
名
称
所 在 地
電
話
〒362-0806
埼玉県立精神保健総合センター
048(723)1111
北足立郡伊奈町小室818-2
10 埼玉県PTA教育研究所
子ども・親に関するどんな悩みについても相談に応じている。
名
称
所 在 地
埼玉県PTA教教育研究所
〒336-0007
「子どもと家庭の来所教育相談」
浦和市仲町4-2-20 三井海上ビル4F
98
電
話
048(864)1321
スーパーバイザー・研究委員
所
属
職
名
氏
名
スーパーバイザー
研究協力委員
備
文教大学
教
授
高橋
哲夫
*3
桶川市立加納小学校
教
諭
谷口
治子
*2
大宮市立大宮南小学校
教
諭
別所
靖子
*2
北本市立東中学校
教
諭
宮尾
孝
*2
新座市立第五中学校
教
諭
小林
良昭
*2
川越市立寺尾中学校
教
諭
田中
晃
*2
県立杉戸高等学校
教
諭
越智
典子
*2
県立久喜北陽高等学校
教
諭
坪内
俊輔
*2
川口市立幸並中学校
教
諭
隠塚
輝明
*1
北本市立東中学校
教
諭
宮尾
孝
*1
大宮市立日進中学校
教
諭
深山
清隆
*1
越生町立越生中学校
教
諭
飯島
正康
*1
蓮田市立蓮田南中学校
教
諭
千葉
和博
*1
白岡町立白岡東小学校
教
諭
朝武
紀雄
*1
県立三郷高等学校
教
諭
川俣
邦彦
*1
伊奈町立小針小学校
教
諭
吉田
泰宏
*2
桶川市立加納中学校
教
諭
家徳
丈夫
*2
三郷市立彦成小学校
教
諭
高橋
英樹
*2
八潮市立松之木小学校
教
諭
一関
一
*2
南教育センター指導相談部
部
長
田部
真一
*1
南教育センター指導相談部
部
長
宮嶋
俊幸
*2
南教育センター指導相談部
主任指導主事
神谷
恵次
*3
南教育センター指導相談部
主任指導主事
野中真紀子
*3
南教育センター指導相談部
主任指導主事
藤原
一夫
*2
南教育センター指導相談部
指導主事
荒井
一郎
*1
南教育センター指導相談部
指導主事
内田
興作
*1
南教育センター指導相談部
指導主事
工藤
倫郎
*2
考
カット
生徒指導長期研修教員
担当所員
※
表 中 の *1は 平 成 10年 度 、 *2は 平 成 11年 度 、 *3は 平 成 10・ 11年 度 の 担 当
98
主担当