人材マネジメントポリシーから見た内的整合性

Japanese Journal of Administrative Science
Volume 21, No.3, 2008, 215-228.
経営行動科学第21巻第3号, 2008, 215−228.
Research Note
研究ノート
人材マネジメントポリシーから見た内的整合性
*
-「成果主義に関するアンケート」の再分析-
徳島大学 総合科学部
西 村 孝 史
Research on internal fit from the view of human resource policies:
Performance based pay survey re-analysis
Takashi NISHIMURA
(Faculty of Integrated Arts and Science, Tokushima University)
This article discusses internal fit amongst human resource polices using a survey about
performance-based pay in Japan. Four human resource policies derived from human resource
practices named after human resource functions were used: wage policy suited for performance-based pay, promotion policy suited for performance-based pay, justice policy, and
human resource development policy. In addition, this article investigates the effects of wage
and promotion policies on performance-based pay to the firm’s performance using justice
policy and human resource development policy as contingent factors.
The results showed that even if both justice and human resource development policies
were secured at a high level, both wage and promotion polices had no beneficial effect on the
firm’s performance.
Keywords: human resource management, human resource polices, internal fit,
performance-based pay
(守島, 1999a, 1999b; 玄田・神林・篠崎, 1999, 2001; 佐藤,
1.問題意識
2001)。
我が国では90年代後半から人事制度改革として成果
しかし,本稿は既存の成果主義研究と異なり,個別
主義が導入されはじめた。成果主義の定義は数多くある
の人事施策から帰納的に導出したポリシー(Human
が,同じ年次や職位,役割でも賃金に格差をつける制度
Resource Policies:以下 HR ポリシー)の視点から機能
として全企業の約半数(57.8%, 2004年)(労働政策研
要件を検討する。HR ポリシー(policy)とは,企業の人材
究・研修機構, 2005)で管理職を中心に導入されている。
に対する見方や価値観を示し,人事施策(HR practices)
成果主義導入からおよそ10年経過した現在,学術・実務
の選択に影響を与える概念である。この価値観にしたが
を問わず成果主義に関して様々な議論がなされている
っ て 下 位 概 念 で あ る 計 画 (programs/plans) や 施 策
(柳下, 2003; 高橋, 2004; 城, 2004; 守島, 2006a, 2006b)
。
(practices) が 運 用 さ れ る (Schuler, 1992; Koch &
多くの成果主義研究は,成果主義が上手く作用する
McGrath, 1996; Lepak, Liao, Chung et al, 2006)1。過去検
ための要件,いわゆる機能要件に集中している。すなわ
討されてきた個々の人事施策のインパクトは,働く人に
ち,どのような人事施策とセットで成果主義を導入する
とって実際問題としてさほど大きな影響を与えない可能
と成果主義が上手く機能するのかという研究であり,主
性がある。なぜなら人事施策が変更されても,施策を運
に公正性の確保と能力開発の重要性が指摘されている
用(実行)する上で基準となる考え方・方針である HR
ポリシーが変更されない限り,施策変更の効果は限定的
* この論文は,一橋大学大学院商学研究科を中核拠点
とした21世紀 COE プログラム(
『知識・企業・イノ
ベーションのダイナミクス』
)から,若手研究者・研
究活動支援経費の支給を受けて進められた研究成果
の一部である。同プログラムからの経済的な支援に
この場を借りて感謝したい。さらに,本稿を執筆す
るきっかけとなるデータを提供頂いた社団法人 日
本能率協会にも,この場を借りて感謝したい。
か相殺されてしまうからである。例えば,年功的な評価
を実施してきた企業が,短期的な成果に基づく評価制度
に変更したとしても,もし HR ポリシーが引き続き年功
的であり続けたとしたら,この企業の施策変更は実質的
に意味を持たないからである。
そこで本稿は,各人事施策からそれらの実行を規定
する設計思想である HR ポリシーを潜在変数として抽出
−215−
研究ノート
経営行動科学第21巻第3号
し,設計思想間の整合性を議論し,HR ポリシーの束と
2.1 成果主義と機能要件
しての HRM が,成果主義の効果に与える影響を検討す
一般に成果主義は,顕在化した成果に基づいて従業
る。特に,人材マネジメントで内的整合性(Huselid,
員を評価し,賃金や昇進・昇格に格差をつける制度であ
1995; Becker & Gerhart, 1996; Delaney & Huselid, 1996;
る。奥西(2001)は,成果主義を,①賃金決定要因とし
Delery & Doty, 1996; Guest, 1997)と呼ばれる概念を手
て成果を左右する原因となる諸変数(技能・知識・努力
がかりに,成果主義の機能要件である公正性と能力開発
など)よりも結果としての成果をより重視すること,②
ポリシーを条件要因として扱い,成果主義的賃金ポリシ
長期的な成果よりも短期的な成果を重視すること,③実
ー(以下:賃金ポリシー)
,成果主義的昇進昇格ポリシ
際の賃金により大きな格差をつけることといった3つの
ー(以下:昇進昇格ポリシー)が成果主義の効果に与え
特徴を具備している,と定義する。他の先行研究でも同
る影響を検討する(図1)
。
様の定義がなされている(守島, 1999a)
。
成果主義的賃金ポリシー
仮説3
成果主義的昇進昇格ポリシー
成果主義は,もともとは適切な資源配分によって従
仮説1a
仮説2a
業員のやる気の向上やモラールアップを引き出し,企業
公正性ポリシー
能力開発ポリシー
成果主義の効果
業績の向上を目的に導入されている(UFJ 総研, 2004)
。
そのため既存研究は,働く人のモティベーションやモラ
仮説1b
仮説2b
ールに与える影響(守島, 1999b; 玄田他, 2001; 大竹・唐
図1 分析のフレームワーク
渡, 2003; 木村, 2006)の他にも,チームへの影響(守島,
成果主義の定義や機能要件の議論は,何らかの形で
格差を大きくする賃金制度を想定している(都留・阿
1999b)や企業の総合的なパフォーマンスまでを射程に
含めた研究(小林, 2001; ; 高橋, 2006)まで様々である2。
部・久保, 2003)
。しかし,実際の企業活動に目を転じる
機能要件とは,成果主義が機能するための補完的な
と従業員の賃金格差は,賃金による格差と昇進昇格によ
人事施策を指す。機能要件の議論は,大きく2つあり,
る格差に分けられる。賃金施策と昇進昇格施策は,従業
1つは,公正性を中心とした研究である。分配の公正性
員に与えるインパクトが異なるにもかかわらず,格差を
のみならず過程の公正性の必要性を説くもの(守島,
つける賃金施策として一緒に論じると誤解を招く恐れが
1999a; 高橋, 1998)や,過程の公正性と分配の公正性の
ある。なぜなら賃金施策は,外的報酬であり賃金という
相互作用に注目し,分配の公正性の重要性を主張するも
センシティブな情報ゆえに本人および上司以外の他者へ
の(尹, 2008)
,過程の公正性を担保するための目標管理
の影響は一般的に小さいと予想されるからである。対し
の実施の必要性を強調した研究(守島, 1999b)
,考課者
て昇進昇格施策は,同じ外的報酬であっても賃金格差に
訓練の回数を増やすことで過程の公正性の向上を目指す
比べて他者に与える影響が大きい。役職の変更は可視的
研究(佐藤, 1999)
,評価者に対する信頼(開本, 2005)
なイベントであり,昇進昇格のパターンが組織風土や従
などがある。
業員の役割行動を規定する研究(関本・花田, 1985, 1986;
もう1つは,従業員の労働意欲と関連して労働者の
花田, 1987)や人事施策が組織に与える正当性(Galang,
働き方に注目した研究である。例えば,能力開発の機会
Elsik & Russ, 1999)も踏まえると,賃金と昇進昇格を
の提供(玄田他, 1999, 2001)
,働き方の裁量の程度(佐
分割して検討することが妥当であると考えられるが,こ
藤, 2001)
,情報提供元の違い・仕事分担の明確化(大
れまで一部の研究を除いてほとんど検討されていない
竹・唐渡, 2003)などが挙げられよう。
(木村, 2006)。したがって,本稿は内的整合性の研究の一
機能要件の議論は,特定の人事施策と従属変数の関
部でありながらも,賃金と昇進昇格ポリシーに分割して
係を明らかにしているものの,複数の人事施策との適合
検討する点では成果主義研究の一つであるとも言える。
性や他の人事機能との関連性についてほとんど議論して
2.先行研究
いない。また,成果主義研究は,賃金格差をつけること
について賃金と昇進昇格を分割して議論していないため
HR ポリシーの内的整合性を検討するにあたって3つ
の研究領域を概観する。1つは機能要件を中心とした成
に,実際の企業で起こっている現象を描ききれていない
と考えられる。
果主義研究である。2つ目は戦略人材マネジメント
(Strategic Human Resource Management)における整
2.2 戦略人材マネジメント
成果主義に留まらず,人事施策や人事機能の関連性,
合性の議論である。3つ目は,HR ポリシーの研究であ
る。
あるいは企業戦略や組織構造と人事機能の関連を研究す
る分野として戦略人材マネジメント(以下 SHRM)が
−216−
人材マネジメントポリシーから見た内的整合性
ある。わが国では90年代後半に紹介されはじめ(守島,
HRM が異なると考える。戦略類型として Porter や
1996a, 1996b; 蔡, 1998)
,研究が蓄積されつつある(岩
Miles & Snow が用いられていたが,Schuler & Jack-
出, 2001, 2002; 須田, 2005; 木村, 2006, 2007)
。成果主義
son(1987)が提出した役割行動の概念によって,戦略類型
導入に伴い企業の経営戦略を意識した制度改訂を行う必
に対応した HRM という考え方に理論的な基盤が与えら
要があることから,SHRM 論は,近年注目が集まって
れた。第3は,戦略と HRM の整合性だけなく,HRM
いる。
内の整合性も必要であるという考え方である。戦略との
SHRM 論は,①企業の最終的な従属変数(生産性・
整合性を外的適合/垂直適合と言い,HRM 内の適合を
財務的成果・成長性・品質・イノベーションなど)に人
内的整適合/水平適合と区別される。SHRM 論は,2つ
事施策の開発と利用が及ぼす影響すること,②チームや
の整合性が企業の持続的競争優位の源泉になりうるとし,
部門単位を主な分析対象として組織が戦略的な目標を遂
様々な実証研究が試みられてきた(Huselid, 1995;
行するために,人事施策がどのような役割を果たすのか,
Becker & Gerhart, 1996; 竹内, 2005)
。また,高業績を
ということを研究する領域である(守島, 1996a)
。
生む HRM 施策群(人的資源の束:Human Resource
海外では戦略論研究と並行して理論蓄積が進んでお
Bundles)も 高業績ワーク・システム(Huselid, 1995)
,
り,大きく2つの潮流がある。1つは,Porter(1980),
高関与(小林, 2001),高コミットメント(Arthur,
Miles & Snow(1978)が提示した戦略類型と対応する形で
1994)
,洗練された(Koch & McGrath, 1996),革新的人
人事施策が戦略によって異なると考える SHRM 論と,
的資源プラクティス(MacDuffie, 1995)と様々である。
もう1つは Barney(1995)を中心とする資源ベース観
高業績ワーク・システムは,従業員参加型のチーム,ジ
(Resource Based View:以下 RBV)に基づいて,企業の
ョブローテーション,QC サークル,ライン外での問題
歴史や経路依存性から影響を受けて形成される独自の
解決集団,品質改善管理の総称であるとされる(Cappelli
HRM の組み合わせ方を検討する SHRM 論である4
& Neumark, 2001)。
(Schuler & Jackson, 1987)
。しかし,多くの研究者が指
実証研究は,内的整合性を支持する結果が得られて
摘するように,人的資源が持続的競争優位の1つである
いるものの(Huselid, 1995; 竹内, 2005),明確な結論が出
という主張は,必ずしも理論的に後付けられていない
ていない。第1の原因として,従属変数が研究者によっ
( Lengnick-Hall & Lengnick-Hall, 1988; Wright &
て異なっていること(Osterman, 2006; Way & Johnson &
3
Diane, 2005)が挙げられる。第2の原因として,戦略と
McMahan, 1992; Arthur & Boyles, 2007)
。
SHRM 論は RBV と親和性が高く,近年 RBV に基づ
の適合を考える時,暗黙裡に Porter や Miles & Snow
いた理論展開がされている。なぜなら人的資源はそれ自
の戦略類型を用いており,これらの類型に基づいた形で
体が稀少であり,且つ人的資源の形成には HR ポリシー
限定的に内的整合性を検討しているからである。Porter
や人事施策を含む企業の歴史や経路依存性,因果関係の
や Miles & Snow の戦略類型に基づいた人事施策が,過
不明瞭さなど企業独自の要素が関わるからである
度に単純化しており,変数省略の問題を引き起こしてい
(Barney, 1995)。RBV に基づく SHRM 論は,KSAs(人
るという批判(Chadwick & Cappeli, 1999)や,戦略に
的資源の持つ知識,スキル,能力)に注目し,彼らの資
適合的な人事施策は理想形に過ぎないという批判
源を最大限に引き出す特定の人事施策(群)とパフォー
(Ferris, Hochwarter, Buckley et al, 1999)を踏まえると,
マンスとの関連性を追求する。
戦略類型を起点として内的整合性を扱うことには限界が
特定の人事施策の組み合わせに関する研究は,
ある。そこで別のアプローチから内的整合性を検討する
Delery & Doty(1996)が指摘するように,ユニバーサリ
必要がある。それが HR ポリシーによる内的整合性の議
スティック,コンティンジェンシー,コンフィギュレー
論である。
ショナルの3つアプローチに類型化される4。第1のユ
ニバーサリスティックアプローチは,ベストプラクティ
2.3 HR ポリシー
スアプローチとも呼ばれ,企業戦略や目的に依存せず普
人材マネジメントの実証研究において測定次元を施
遍的(最良の)人材マネジメント(Human Resource
策とするか上位概念であるポリシーとするのかは,
Management:以下 HRM)が存在することを主張し,
SHRM 論の当初から言われている議論の1つである
人事施策の数は,7から16施策まで様々である(Pfeffer,
(Schuler, 1992; Becker & Gerhart, 1996; Colbert, 2004)
。
1994; Huselid, 1995; Delery & Doty, 1996)。第2のコンテ
HR ポリシーは,組織の中で行われる HR プログラム,
ィンジェンシー・アプローチは,戦略と適合的な HRM
プロセス,技術といったことについて企業や事業単位で
を研究するものであり,企業の戦略によって求められる
の意図をあらわしたものである(Wright & Boswell,
−217−
研究ノート
経営行動科学第21巻第3号
2002)。それに対して人事施策は,ユニット内で行われ
ない。
以上のことから本稿は,人事施策や機能の組み合わ
る実際のプログラムやプロセス,技術を指す(Gerhart,
Wright, McMahan et al, 2000; Huselid & Becker, 2000)。
せを検討するのではなく,人事施策や機能の考え方や方
つまり HR ポリシーは,人事施策の設計思想であり,人
針を規定する HR ポリシー間の一貫性に注目する。
事施策の抽象度を上げた概念である。あるいは人事施策
3.仮説の導出
は,ポリシーを現場のマネージャーが実行可能な行動レ
ベルにまで落としこまれたものとも言い換えることがで
きる。
先行研究を踏まえ,HR ポリシーが成果主義の効果に
与える影響を考えてみたい。まず,成果主義の機能要件
内的整合性を HR ポリシーのレベルから検討するメリ
の中でも公正性の議論から,企業が成果主義の導入と共
ットは2つある。第1に,各企業の人事施策は,具体的
に納得性を高める施策を導入することが重要であるとい
な考え方や方針に基づいて設計されるからである。例え
う主張(守島, 1997, 1999a; 高橋, 1998)から考えよう。
ば,即戦力となる人材を企業が志向する場合,企業は新
公正性の確保により,評価の納得性が高まるので,賃金
卒採用よりも中途採用による人材の確保を行うだろう。
格差を付ける賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーが成果主
また,いわゆる「2・6・2」の議論の中で,企業がど
義の効果を高めることが予想される。そこで仮説1a,
の層をコア従業員として捉えるかによっても,人事施策
仮説1b が導出される。
は異なるだろう。
第2に,Morishima(1996, 1999)が述べているように,
個別の人事施策が,完全に HR ポリシーを反映するとは
仮説1a:公正性ポリシーが充実していると,賃金ポリシ
ーは成果主義の効果を高める
限らないからである。企業は,歴史や経路依存性
(Barney, 1995),それに伴う慣性(Leana & Van Buren,
仮説1b:公正性ポリシーが充実していると,昇進昇格
1999),制度的要因(Morishima, 1999),従業員の情報
ポリシーは成果主義の効果を高める
を引き出す企業組織のあり方や労使関係(Morishima,
1999)など様々な要因によって HR ポリシーをそのまま
次に,能力開発機会の提供をはじめとする能力開発
具体的施策に反映することは難しい。そのため具体的施
施策の充実が成果主義の機能要件として挙げられている
策の組合せで内的整合性を議論しても,議論の収斂は困
ことを踏まえると(玄田他, 1999, 2001)
,仮説1a 仮説
難である。したがって,内的整合性を HR ポリシーのレ
1b と同様に,能力開発ポリシーが充実していれば,賃
ベルから議論する方がより一般性のある結論を得やすい。
金格差を埋める手段が能力開発によって提供されるので,
HR ポリシーの研究は,例えば Morishima(1996, 1999)
賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーは,成果主義の効果を
や Lepak & Snell(1999, 2002)の人材アーキテクチャ論
高めることが予想される。以下仮説2a,仮説2b が導出
のように,人材を外部から調達するのか内部で育成をし
される。
ていくのかという「採用・育成」軸と,顕在化した結果
の評価か潜在的な能力の評価という「評価・処遇」軸を
5
用いることが多い 。先行研究は,HR ポリシーを人材
仮説2a:能力開発ポリシーが充実していると,賃金ポリ
シーは成果主義の効果を高める
マネジメント機能と対応させており,本稿も先行研究に
仮説2b:能力開発ポリシーが充実していると,昇進昇
ならい各機能に対応させて HR ポリシーを検討する。
SHRM 論の文脈からわが国の成果主義を見ると,機
格ポリシーは成果主義の効果を高める
能要件の問題は,整合性の問題と言い換えることができ
る。なぜなら守島(2006a, 2006b)が指摘するように,
賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーが共に賃金に格差
わが国の成果主義の議論は,人材マネジメント全体の改
をつけることを志向しているのであれば,ポリシーに一
革ではなく,賃金・評価に格差をつけることに焦点が集
貫性が見られるので,両者の交互作用は,成果主義の効
まったあまり,能力開発・配置や動機付けまで含めた改
果を高めることが予想される。
革ではないからである。そのため賃金ポリシーと公正性
ポリシー,能力開発ポリシー,配置のポリシーと整合性
仮説3:賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーの交互作用は,
が取れていない場合が多い。国内でも整合性に関連した
成果主義の効果を高める
実証研究(小林, 2001; 竹内, 2005)はあるが,ポリシー
に注目したものではなく,成果主義に関連したものでも
−218−
人材マネジメントポリシーから見た内的整合性
「計画的に後継者が育成されている」
「上司と部下の間で
4.分析データと方法
能力開発について話し合う機会がある」
「社員個々人の
4.1 分析データ
特性に応じた OJT が行われている」
「社員の教育や研修
分析に用いたデータは,社団法人日本能率協会が
ニーズに応えている」であり,いずれも5点から1点の
2004年11月から12月にかけて実施した「成果主義に関す
5点尺度である。能力開発ポリシー尺度の数値が大きい
るアンケート」を,同協会の許諾を得て再分析したもの
ほど,会社が能力開発に熱心であり,会社が主体となっ
である6。アンケートは, 1社あたり部門トップ用調査
て適性を判断しながら選抜的に人材育成を行っていると
票(1通)
,人事部用調査票(1通)
,従業員用調査票(50
解釈できる(α=0.816, 中央値=3.167, 標準偏差=
通)の3部から構成されており,質問紙法(郵送配布・
0.653)
。
郵送回答)によって1,325社に配布された。有効回答数
次に,作成された公正性ポリシー尺度と能力開発ポ
は,部門トップ216社(回収率16.3%)
,人事部227社(回
リシー尺度をクラスター分析にかけた結果,4つのタイ
収率17.1%)
,従業員7,413人(回収率15.6%)である。本
プが抽出された(図2)
。全体サンプル数値と比較して,
稿は,3者から回収されたマッチングデータを用いてい
平均値の高低によって充実・非充実群に分けると,タイ
る。以下で示す4つの HR ポリシーの導出には人事部か
プ1(公正性:充実,能力開発:充実)が2,081人(全
らの回答が用いられており,従属変数や個人属性は従業
体の31.5%),タイプ2(充実−非充実)が1,439人(全
員調査票の回答が用いられている。またダミー変数に用
体の21.8%),タイプ3(非充実−充実)が1,499人
いた従業員規模や企業変数は部門トップからの回答を用
(24.1 %),タイプ4(非充実−非充実)が1,593 人
いることでマッチングデータの利点が活かされている7。 (24.1%)とややタイプ1が多いがほぼ4等分されてい
従業員の属性は,男性が84.6%,女性が15.4%であり,
ると言える。
全サンプルのうち42.6%が管理職であった。新卒採用と
4.50
中途採用の割合は,79.9%と20.1%とおよそ8対2である。
4.00
年齢は,30代(全従業員中36.4%)と40代(全従業員中
3.50
3.49
33.3%)が最も多い。
3.00
3.04
4.13
3.70
3.64
3.29
設問上の制約に加え機能要件の先行研究の多くが,
2.00
全体
公正性と能力開発の確保を問題にしていることから,公
タイプ1
タイプ2
公正性ポリシー
正性ポリシーと能力開発ポリシー尺度を作成した上でク
タイプ3
タイプ4
能力開発ポリシー
図2 4つのタイプ
ラスター分析を行った8。
公正性ポリシー尺度は,6項目の質問を集約し,平
2.67
2.41
2.53
2.50
4.2 4つのタイプ
3.34
4.3 従属変数
均を算出することで作成された9。6項目の質問は,
「評
従属変数は,成果主義の効果である。成果主義に関
価者から被評価者に評価結果をフィードバックしてい
する質問のうち,次の3項目を集約し,従業員認知に基
る」「業績評価ではプロセス的な要素も考慮している」
づく成果主義の効果尺度を作成した。3つの質問は,
「評価結果を下す前に,本人からの主張を十分に聞いて
「
(成果主義の導入が)ビジネスの競争力や業務効率の向
いる」
「本人からの評価結果に異議がある場合,何らか
上などに役立っている」
「
(成果主義の導入が)社員の意
の形で受け付けている」
「評価制度そのものや運用方法
欲向上につながっている」
「
(成果主義の導入が)組織力
を社内で公開している」
「評価者研修を通じて評価力の
やチーム力の向上につながっている」である。これらの
向上に取り組んでいる」である。いずれも5点(まった
3変数は,いずれも既存の成果主義研究でも扱われてい
くその通り)から1点(まったく違う)の5点尺度であ
る変数であるほか,成果主義の導入目的が企業の業績向
る。値が大きいほど,公正性を重視し,公正性の確保を
上を目指したもの(UFJ 総研, 2004)であるからである。
通じて納得性を高めようとしている企業であると定義で
また,従業員認知変数を用いているのは,HR ポリシー
きる(α=0.616, 中央値=3.500, 標準偏差=0.655)
。
や施策がいくら導入されても従業員がそれを認知しなけ
能力開発ポリシー尺度も公正性ポリシー尺度と同様
れば意味をなさないからである(大竹・唐渡, 2003; 社
の方法を用いて算出した。尺度構成に用いた6項目の質
会経済生産性本部, 2003; 西村, 2008)
。成果主義の効果
問は,
「ふさわしい人材を選抜して教育の機会を提供し
尺度が大きいほど,企業全般にわたって成果主義が好影
ている」「計画的なローテーションが実施されている」
響を与えていることを示す。また,仮説を検討するため
−219−
研究ノート
経営行動科学第21巻第3号
成果主義の効果尺度を構成する個別の尺度についても検
尺度の値が大きいほど,格差がつきやすい制度であるこ
討を行っている(α=0.862, 平均値=2.866, 標準偏差=
とを示す(α=0.734, 平均値=3.748, 標準偏差=0.469)
。
成果主義的昇進昇格ポリシー尺度は,3つの質問項
0.763)
。
目から構成されており,
「年功的な要素を廃するように
4.4 独立変数
している」
「抜擢人事を行っている」
「降格人事を行って
独立変数は,人材マネジメントの機能の中でも成果
いる」である(5点から1点の5点尺度)
。成果主義的
主義的賃金ポリシーと成果主義的昇進昇格ポリシーに注
昇進昇格ポリシー尺度が大きいほど,昇進に格差がつき
目する。なぜなら先行研究でも述べたように,成果主義
やすい制度であることを示す(α=0.599, 平均値=3.218,
概念の多くが,能力や成果に応じて賃金に格差をつける
標準偏差=0.793)
。
制度であると定義しており,いわゆる処遇に格差をつけ
他にもコントロール変数として,産業変数(9種の
ることが,成果主義の効果に影響を与えると考えられて
産業ダミー10),企業変数(従業員規模,仕事の自立性,
いるからである。本稿は処遇ポリシーを成果主義的賃金
職場の雰囲気)
,個人変数(従業員数,管理職,性別,
ポリシーと成果主義的昇進昇格ポリシーに分割し「賃金
中途採用,3つの職種ダミー11,年齢,年収)が投入さ
による成果主義」と「昇進昇格による成果主義」として
れた。このうち仕事の自立性と職場の雰囲気変数も質問
検討する。
項目12を集約し,平均を用いて作られた尺度である。仕
成果主義的賃金ポリシー尺度は,5項目(各5点か
事の自立性が大きいほど仕事の権限が与えられているこ
ら1点の5点尺度)の質問の平均を尺度とした。5項目
とを示し,職場の雰囲気は,職場で円滑な意思疎通が行
の質問は,
「年功的要素を極力廃止している」
「給与額に
われていることを示す。具体的な変数は巻末の記述統計
個人差が大きくつくよう運用している」
「成果や能力に
および相関分析に記載した通りである(付表1,付表2)
。
応じて,同じ人でも,毎年,年収差が大きく変わるよう
5.分析結果
に運用している」
「会社の部門や業績が個人の給与に反
映される」
「過去の貢献や経験なども考慮して給与額を
5.1 全体結果
決定している(R)」である。成果主義的賃金ポリシー
重回帰分析の結果は,表1の通りである。
表1 成果主義の効果と成果主義的賃金ポリシー・成果主義的昇進昇格ポリシーの関係
全体
β
(定数)
d食品
d繊維
d化学医療
dゴム鉄鋼
d機械製造
d小売商社
d建設物流
d情報通信出版
d証券・サービス
正規従業員数
仕事の自立性
職場の雰囲気
d_管理職
d_中途採用
d_性別
d_営業・販売
d_研究開発技術
d_企画・管理
年齢
年収
賃金ポリシー
昇進昇格ポリシー
調整済R2
F値
0.084
0.036
0.067
0.049
0.054
0.055
0.056
0.034
0.060
-0.012
0.120
0.234
0.042
-0.037
-0.045
-0.003
-0.068
-0.004
0.032
-0.025
-0.014
0.037
***
**
***
***
**
***
***
**
***
***
***
**
***
***
***
*
***
0.106
29.620 ***
タイプ1
タイプ2
タイプ3
タイプ4
β
β
β
β
0.037
0.045
0.151
0.094
0.125
0.138
0.083
0.067
0.124
0.063
0.125
0.242
0.107
0.026
0.006
0.063
0.018
0.068
0.030
-0.099
-0.005
-0.015
0.214
0.117
0.118
0.087
0.092
0.066
0.100
0.082
0.073
0.062
0.107
0.239
0.017
-0.008
-0.063
-0.048
-0.090
-0.074
0.115
-0.049
-0.052
0.046
0.152
0.025
0.151
0.063
0.132
0.162
0.139
0.110
0.096
-0.089
0.114
0.233
0.044
-0.018
-0.093
-0.082
-0.042
-0.007
0.010
0.015
-0.084
0.087
***
***
*
**
***
***
**
**
***
***
***
***
**
***
***
0.103
8.923 ***
***
*
*
*
*
*
***
***
***
*
**
0.119
8.261 ***
***
***
***
**
**
*
**
**
**
*
***
***
**
**
*
***
0.122
9.127 ***
-0.001
-0.037
0.032
-0.078
-0.053
-0.015
0.045
-0.074
0.125
0.232
0.025
-0.083
-0.062
0.025
-0.119
-0.028
0.024
-0.015
0.064
0.102
**
***
***
***
**
***
**
***
0.134
9.810 ***
1)
:*.05<p<.10;**.01<p<.05;***p<.01
2)タイプ4で繊維ダミーとゴム・情報通信出版ダミーが空白なのは,タイプ4にこれ
らの産業が存在しないため。
−220−
人材マネジメントポリシーから見た内的整合性
表2 成果主義の効果変数:個別項目の平均値
タイプ1
タイプ2
タイプ3
タイプ4
全体
「(成果主義の導入が)
ビジネスの競争力や業 「(成果主義の導入が) 「(成果主義の導入が)
公正性 能力開発 務効率の向上などに役 社員個々人の能力アッ 組織力やチーム力の
プにつながっている」
向上につながっている」 成果主義の効果
ポリシー ポリシー 立っている」
2.72
2.88
2.95
2.97
充実
充実
2.89
2.91
2.75
2.85
充実
非充実
2.94
2.96
2.80
2.90
非充実
充実
2.90
2.72
2.84
2.90
非充実 非充実
2.92
2.94
2.74
2.87
1)各項目で最も平均値の高いものに太字,低いものに斜体に下線を施してある。
2.90 (タイプ3)
2.90
2.89
2.88
(タイプ1)
2.88
2.87
2.86
2.85
2.85 (タイプ2)
2.84
2.84 (タイプ4)
2.83
能力開発充実群
能力開発非充実群
公正性ポリシー充実群
公正性ポリシー非充実群
図3 公正性ポリシーと能力開発ポリシー:交互作用
成果主義の効果を従属変数とした分析13(表1)で全
5.2 成果主義的賃金ポリシーと成果主義的昇進昇格ポリ
シーの交互作用
体サンプルを見ると,昇進昇格ポリシーが正の方向で有
意である。タイプ別では,賃金ポリシーが正の方向に有
次に賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーの交互作用項
意なのはタイプ4のみであり,タイプ1は,負の方向に
を投入した。なぜなら企業の人事制度改革を想定する場
有意であった。昇進昇格ポリシーは,タイプ1とタイプ
合,賃金ポリシーや昇進昇格ポリシーいずれか一方が成
4で正の方向に有意であった。
果主義を志向する場合よりも,賃金ポリシーと昇進昇格
タイプ別に成果主義の効果に与える影響をみると,
ポリシー双方が共に成果主義を志向する場合を想定する
タイプ3の平均値が高い(表2)
。それに対して,賃金
方が現実的だからである。なお,多重共線性を回避する
ポリシー,昇進昇格ポリシーで正の方向に有意であった
ための方法論(Jaccard, Turrisi & Wan, 1990)や先行
タイプ4は,4タイプ中もっとも平均値が低い。成果主
研究(竹内, 2005)に従い,交互作用項を投入する際に
義の効果の平均値を公正性ポリシー,能力開発ポリシー
2つのポリシー変数について平均値の修正手続き(mean
の充実群と非充実群でプロットしたのが図3である。成
centering)を行った上で分析を行っている。
果主義の効果に公正性ポリシーと能力開発ポリシーのい
賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーの交互作用項を投
ずれか一方,もしくは双方が補完的効果を有しているこ
入した分析(表3)と交互作用を想定しない表3を比較
とが分かる。
すると,交互作用を投入した場合,タイプ3を除き,賃
金ポリシー,昇進昇格ポリシーの効果を減じている14。
表3 成果主義的賃金ポリシー,成果主義的昇進昇格ポリシーの交互作用(従属変数:成果主義の効果)
全体
賃金ポリシー
昇進昇格ポリシー
交互作用賃金×昇進昇格
調整済R2
F値
β
-0.047
0.025
-0.058
0.108
28.856
タイプ1
***
*
***
***
β
-0.082 ***
0.068 **
-0.039
0.103
8.585 ***
タイプ2
β
-0.018
-0.013
-0.022
0.119
7.901 ***
1)
:*.05<p<.10;**.01<p<.05;***p<.01
2)この他にも表1で用いられた変数が全て投入されている。
−221−
タイプ3
β
-0.031
0.053
0.036
0.122
8.752 ***
タイプ4
β
-0.159
0.093
-0.266
0.146
10.296
**
***
***
***
研究ノート
経営行動科学第21巻第3号
表4 まとめ
全体
成果主義的賃金ポリシー
成果主義的昇進昇格ポリシー
賃金ポリシー×昇進昇格ポリシー
公正性ポリシー
能力開発ポリシー
正の方向に有意
負の方向に有意
タイプ1
負の方向に有意
正の方向に有意
タイプ2
タイプ3
充実
充実
充実
非充実
非充実
充実
タイプ4
正の方向に有意
正の方向に有意
負の方向に有意
非充実
非充実
される。過度の成果主義化は,従業員によい意味での
6.ディスカッション
「逃げ道」を奪い,結果として成果主義の効果に結びつ
これまでの分析をまとめてみよう(表4)
。
かなくなると考えられる。つまり,賃金面で処遇されな
全体サンプル(表1)を見ると昇進昇格ポリシーは,
くとも昇進や昇格の希望を持つことができる,昇進昇格
正の方向に有意であったことから,賃金ポリシーと昇進
の見込みは少ないが,賃金面で報われるということが完
昇格ポリシーでは,従属変数(成果主義の効果)に与え
全になくなることが,従業員に閉塞感を生むのかもしれ
る影響が異なることが分かる。賃金に格差をつけるより
ない。
も,他者の目に見える昇降格による格差の方が従業員に
とってインパクトが大きい。有意ではないものの賃金ポ
6.2 タイプ1とタイプ4の類似性
タイプ1とタイプ4は,賃金ポリシー,昇進・昇格
リシーが負の方向であることを考えると,成果主義を単
に賃金に差を生み出すことで従業員のやる気を引き出し,
ポリシーが成果主義の効果に影響を与える点で類似して
企業の業績とつなげる施策であると考えるのは早計であ
いる。これは一見すると内的整合性の先行研究と矛盾す
る。
る。なぜなら公正性ポリシーと能力開発ポリシーの充実
度が異なることを考えれば,タイプ4は,賃金ポリシー
6.1 仮説の検討
や昇進昇格ポリシーが,成果主義の効果に影響を与えな
1)仮説1a・仮説1b
いと予想されるからである。この点について2つの解釈
仮説1a は支持されなかった。タイプ1で賃金ポリシ
が考えられる。
第1に,タイプ1とタイプ4において賃金ポリシー
ーが負の方向で有意であり,タイプ2では賃金ポリシー
と昇進昇格ポリシーに込められている意味が異なるとい
が有意ではなかったからである。
仮説1b は,一部支持された。タイプ1では昇進昇格
うことである。つまり,公正性ポリシーと能力開発ポリ
ポリシーが有意であるのに対して,タイプ2は昇進昇格
シーが充実した状態での賃金ポリシー・昇進昇格ポリシ
ポリシーが有意ではなかったからである。タイプ1は,
ーと,公正性ポリシーと能力開発ポリシーが充実してい
能力開発の補完的効果と,誰の目にも明らかな昇進が公
ない状態での賃金ポリシー・昇進昇ポリシーは,解釈が
正性の担保によって納得性を高め,昇進昇格ポリシーが
異なる。表1で,タイプ1は賃金ポリシーが負の方向に
成果主義の効果に正の方向で影響を与えるのであろう。
有意であるのに対して,タイプ4は,賃金ポリシーが正
2)仮説2a・仮説2b
の方向に有意であること,さらに表2と図3でタイプ1
仮説2a は支持されず,仮説2b は一部支持であった。
とタイプ4の従属変数の平均値が大きく異なっており,
能力開発ポリシーが高いタイプ1とタイプ3では賃金ポ
これらがタイプ1とタイプ4の類似性を説く手がかりに
リシー,昇進昇格ポリシーともにタイプ1のみが有意で
なる。例えば,タイプ1は,内部育成型あるいは長期育
あったからである。タイプ2のように自らが成長する機
成型のため,比較的短期志向の成果主義的な賃金ポリシ
会が与えられないと,たとえ給与基準や昇進昇格の基準
ーとの相性が悪い可能性がある。逆に成果主義的な昇進
が明確になっても,賃金ポリシー,昇進昇格ポリシーと
昇格ポリシーは,長期的な評価やプロセス評価が公正性
連動しにくいのだろう。
ポリシーとして確保されていることで,従業員にとって
3)仮説3
昇進昇格が大きなイベントとして認識され,結果として
支持されなかった。交互作用項は,賃金ポリシー,
成果主義の効果に影響を与えると考えられる。
昇進・昇格ポリシーの効果を強めないどころか,タイプ
対してタイプ4は,極めて外部調達型の企業なのか
によっては弱める場合や打ち消す場合があることが示さ
もしれない。例えば,能力開発が自己責任である場合や
れた。タイプ1は,賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーが
部下の給与や賞与も含めた予算配分をマネージャーが掌
双方実施されると,賃金ポリシー,昇進昇格ポリシー双
握している場合,そこで働く従業員にとってのインセン
方ともに有意ではなくなり,寧ろ逆効果になることが示
ティブは,多くの賃金を獲得するか,あるいは若い段階
−222−
人材マネジメントポリシーから見た内的整合性
から高い職位に上がることで賃金と羨望を勝ち得ること
ティスアプローチに始まる一連の論争にも貢献が可能で
かもしれない。タイプ4の企業の従業員は,内部労働市
ある。多くの研究者(Becker & Gehart, 1996)が指摘する
場で地位を上がっていくことと同時に外部労働市場を意
ように,ベストプラクティスアプローチとコンフィギュ
識し,条件次第で転職をしてしまうのかもしれない15。
レーショナルアプローチは必ずしも対極的なものではな
まさに「up or out(昇進か退職か)
」という労働観であ
く,1つの企業の中に相互補完的に存在するもの,或い
るために,他のタイプと比べて賃金ポリシーと昇進昇格
は分析レベルの違いであることを明らかにできる。
が成果主義の効果に正の方向で有意(表1)となるもの
本稿は,成果主義に関するアンケートから2次分析
の,平均値で見ると,企業へ貢献しようとする意欲が低
を行うことで,内的整合性を検討した。しかし,2次分
くなり,タイプ1とタイプ4の平均値に差がつくのだろ
析の性質も含め,限界点も留意しておく必要がある。1
う(表2)
。
つは,データセットと変数の問題である。労働組合の有
もう1つは,HR ポリシーの一貫性である。HR ポリ
無や学歴の違いなど既存研究で扱われていたコントロー
シーは2重の意味で従業員に影響を与えている(西村,
ル変数が投入できなかったこと,さらに明確に満足度に
2008)
。1つは単純に個別の HR ポリシーが発信するメ
ついて尋ねた質問項目がないため,従業員の満足度を検
ッセージである。もう1つは,個別の HR ポリシーの組
討することができなかった。もう1つの限界点は,尺度
み合わせ,言い換えれば,HR ポリシーの一貫性の度合
構成の妥当性である。本稿は,既存の機能要件を参考に
いである。その意味でタイプ4は,公正性と能力開発ポ
しながら尺度構成を行ったが,この妥当性を今後の分析
リシーが充実していなくても,極めて成果主義的な HR
で証明していくと共に,別のデータセットを用いた実証
ポリシーを採用した企業として4つの HR ポリシーに一
研究から精度を高めていくことが求められる。また HR
貫性があるのかもしれない。それに対して,タイプ1は,
ポリシーも運用実態から背後にある潜在変数を抽出する
公正性や能力開発ポリシーと賃金ポリシーが不整合を起
形で導出している。本稿に用いた HR ポリシーが設計思
こしている可能性がある。
想と言えるのかそれとも HR の運用徹底度なのか概念の
7.まとめと今後の展望
切り分けが難しい。2次分析ではなくオリジナルのデー
タを用いた追試が必要であろう。
成果主義研究は,現在のところ成果主義がどのよう
にして上手くいくのかという機能要件の議論や成果主義
謝辞
の賃金格差を検討する研究がほとんどである。しかし,
本稿は,経営行動科学学会第9回年次大会(2006年11
SHRM 論の内的整合性という視点から成果主義を捉え
月)に行った発表を諸先生方からのコメントを踏まえ文
れば,他の人事機能との整合性を検討する必要がある。
章化したものである。先生方のコメントに感謝を述べる
HR ポリシーを考える場合には,個別の HR ポリシーの
と共に,内容の都合上コメントを反映できなかった部分
コンテンツだけではなく,他の HR ポリシーとの整合性
については全て筆者の負うところである。また,本稿の
も考慮する必要があろう。なぜなら従業員は,企業内に
作成にあたって守島基博先生(一橋大学)ならびに司会
存在する様々なベクトルを持つ HR ポリシーに込められ
の渡辺直登先生(慶應義塾大学)
,貴重なコメントを下
たメッセージに応じて自らの役割行動を遂行するからで
さった2名の匿名査読者と JJAS 編集委員長の大津誠先
ある。整合性の研究は,我が国でも研究蓄積がなされて
生(中部大学)に記して感謝申し上げます。
いる(竹内, 2005)が,近年蓄積されてきた数々の成果
主義研究を外的整合性,内的整合性の観点から再分析す
注
ることで我が国独自の SHRM 論研究が進展していく可
能性は十分に考えられる。
1
計画(programs/plans)は,組織内で用いられている公
式的な HR 活動の集合体を言い,施策(practices)は,
特定の成果を出すために組織のロワー・従業員によ
って実行される組織の管理方式であるという(Lepak,
Liao, Chung et al, 2006; Arthur & Boyles, 2007)
。
2
賃金改革が企業業績に与える影響を検討した海外の既
存研究(例:Gerhart & Milkovich, 1990など)も含める
と膨大である。彼らは,従業員の年収の中で,企業
や部門業績に応じて変動するボーナス部分が高いほ
ど,企業の ROA に正の方向に影響を与えることを指
摘する。
SHRM に関するレビューは,Jacson & Schular(1995),
本稿の今後の発展可能性として3点考えられる。第
1に,成果主義だけなく,企業戦略や組織構造と絡めた
様々な HR ポリシーの組み合わせによって,外的整合性,
内的整合性を検討してくことである。第2に,従属変数
を組織変数,グループ変数,従業員変数など様々なパタ
ーンで検討することで,同じ独立変数でも効果のパター
ンを見出せるかもしれない。第3に,内的整合性の議論
が進んでいけば,先行研究で言われているベストプラク
3
−223−
研究ノート
経営行動科学第21巻第3号
Wright & McMahan(1992) ,MacMahan, Vrick &
Wright (1999), Way & Johnson (2005), Lepak, Liao,
Chung, et. al. (2006)などが詳しい。
14
4
Youndt, Snell, Dean, et. al. (1996)は,コンフギュレーシ
ョナルアプローチをベストプラクティスアプローチ
の一種として考え,両者をベストプラクティスアプ
ローチとしてまとめている。
5
他にも Arthur(1994)の管理(control)とコミットメント
による HR システムの区分があるが,これも離職率と
関連させて能力開発や採用の機能が含まれている。
6
アンケート結果は,2005年2月に公表され,同協会の
ホ ー ム ペ ー ジ で 閲 覧 可 能 で あ る ( URL:
www.jma.or.jp/keikakusin/ )
。
7
「誰にデータを尋ねるか」という問題は,様々な主張
がなされている。一般的には回答者が複数いること
で評価の妥当性を向上することができると主張する
(Gerhart, Wright, McMahan, 2000; Gerhart, Wright,
McMahan et al, 2000; Wright, Gardner, Moynihan et
al, 2001)一方で,評価者の数よりも1人でもよいから
その設問に最適な人物に尋ねるべきだという主張が
ある(Huselid & Becker, 2000; Becker & Huselid,
2006)。
働き方の裁量の程度(佐藤, 2001),情報提供元の違
い・仕事分担の明確化(大竹・唐渡, 2003)も勿論機
能要件の研究であるが,これらは組織デザインや職
務設計の問題を考慮する必要があり,HRM と組織構
造という外的整合性の問題にもなることから,公正
性と能力開発という HRM の機能と直接的に関連する
項目を用いてクラスター分析を行った。また,重回
帰分析に4つのポリシー全てを投入した上で,交互
作用項で検討する方法もある。しかし従属変数を含
めた相関分析の結果,公正性ポリシーと能力開発ポ
リシーに相関が見られたことから,共線性の問題を
考慮しクラスター分析を行った。
8
9
因子分析を行ったところ,1つの因子になることが確
認された(主因子法)
。
10
食料品製造,繊維製造,化学・医薬品/卸製造,ゴ
ム・鉄鋼製品製造,機械製造,小売・商社,建設・
運輸,情報通信・出版,証券・サービス業。
営業・販売職,研究開発職,企画・管理(スタッ
フ)職
11
12
仕事の自立性は,
「仕事を行ううえで十分な権限を付
与されている」
「自分の考えや判断に基づいて自由に
仕事ができている」という2つの質問項目を用いて
いる(平均値=3.474, 標準偏差=0.835)
。職場の雰囲
気は,「直属上司との関係は良好である」「部下や後
輩(いない場合は周囲の若手社員)との関係は良好
である」
,
「職場には協調的な雰囲気がある」
「職場の
中で対人関係上の葛藤はない」
「職場の中では十分な
コミュニケーションが取られている」
「職場の中に,
皆で一緒に成長していこうとする雰囲気がある」
「同
僚との関係は良好である」の7項目が用いられている
(平均値=3.643, 標準偏差=0.608)
。
13
賃金ポリシーと昇進昇格ポリシーにわずかながら相
関があるため,2つの変数を同時投入せずに個別に
重回帰分析の中に投入することも実施したが,結果
は変わらなかった。
Mean centering 処理ではなく,賃金ポリシー尺度と
昇進昇格ポリシー尺度の中央値でサンプルを分割し
て高群と低群でダミー変数を作成し,交互作用項を
分析する方法もある。こちらの方法でも結果は同じ
であった。また,交互作用項の投入の際に,一方の
効 果 を 統 制 す る ,「 賃 金 ポ リ シ ー (centering) ×
dummy_昇進昇格ポリシー」と「dummy_賃金ポリシ
ー×昇進昇格ポリシー(centering)
」交互作用項もあ
り,結果は以下の通りあった。
全体
交互作用d_賃金×d_昇進昇格
交互作用賃金×d_昇進昇格
交互作用d_賃金×昇進昇格
15
タイプ1
タイプ2
β
-0.051 ***
-0.059 ***
β
-0.033
-0.095
β
0.019
0.007
-0.077 ***
-0.041
0.007 *
タイプ3
β
0.039
-0.055
0.014
タイプ4
β
-0.150 ***
-0.102 ***
-0.097 *
タイプ別に見た中途採用者の比率は,タイプ1が
16.5%,タイプ4が21.8%であった。
引用文献
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−224−
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(平成19年7月3日受稿,平成20年12月5日受理)
研究ノート
経営行動科学第21巻第3号
付表1 記述統計量
区分
従属変数
独立変数
変数名
成果主義の効果(3項目平均)
賃金ポリシー(5項目平均)
昇進昇格ポリシー(3項目平均)
公正性ポリシー(6項目平均)
能力開発ポリシー(6項目平均)
コントロール変数 d_食品
d_繊維
d_化学医療
d_ゴム鉄鋼
d_機械製造
d_小売商社
d_建設物流
d_情報通信出版
d_証券・サービス
正規従業員数
仕事の自立性(2項目平均)
職場の雰囲気(7項目平均)
管理職ダミー
中途採用ダミー
性別ダミー
営業・販売ダミー
研究開発技術ダミー
企画・管理ダミー
年齢
年収
尺度
①「(成果主義の導入が)ビジネスの競争力や業務効率の向上などに役立って
いる」
②「(成果主義の導入が)社員の意欲向上につながっている」
③「(成果主義の導入が)組織力やチーム力の向上につながっている」
①「年功的要素を極力廃止している」
②「給与額に個人差が大きくつくよう運用している」
③「成果や能力に応じて,同じ人でも,毎年,年収差が大きく変わるように運用し
ている」
④「会社の部門や業績が個人の給与に反映される」
⑤「過去の貢献や経験なども考慮して給与額を決定している(R)
①「年功的な要素を廃するようにしている」
②「抜擢人事を行っている」
③「降格人事を行っている」
①「評価者から被評価者に評価結果をフィードバックしている」
②「業績評価ではプロセス的な要素も考慮している」
③「評価結果を下す前に,本人からの主張を十分に聞いている」
④「本人からの評価結果に異議がある場合,何らかの形で受け付けている」
⑤「評価制度そのものや運用方法を社内で公開している」
⑥「評価者研修を通じて評価力の向上に取り組んでいる」
①「ふさわしい人材を選抜して教育の機会を提供している」
②「計画的なローテーションが実施されている」
③「計画的に後継者が育成されている」
④「上司と部下の間で能力開発について話し合う機会がある」
⑤「社員個々人の特性に応じたOJTが行われている」
⑥「社員の教育や研修ニーズに応えている」
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:100人未満,2:100-300人未満,3:300-1,000人未満,4:1,000-3,000人未満,5:
3,000人-10,000人未満,6:10,000人以上
①「仕事を行ううえで十分な権限を付与されている」
②「自分の考えや判断に基づいて自由に仕事ができている」
①「直属上司との関係は良好である」
②「部下や後輩(いない場合は周囲の若手社員)との関係は良好である」
③「職場には協調的な雰囲気がある」
④「職場の中で対人関係上の葛藤はない」
⑤「職場の中では十分なコミュニケーションが取られている」
⑥「職場の中に,皆で一緒に成長していこうとする雰囲気がある」
⑦「同僚との関係は良好である」
1:管理職,0:非管理職
1:中途採用者,0:新卒
1:男性,0:女性
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:該当,0:非該当
1:10歳代,2:20歳代,3:30歳代,4:40歳代,5:50歳代以上
1:400万円未満,2:400-800万円未満,3:800-1,200万円未満,4:1,200万円以上
度数
平均値 標準偏差
7,270
2.866
0.763
6,918
3.746
0.469
6,950
3.218
0.793
6,704
3.474
0.655
6,887
3.034
0.653
7,042
7,042
7,042
7,042
7,042
7,042
6,745
6,745
7,042
0.098
0.025
0.073
0.060
0.266
0.105
0.089
0.056
0.139
0.297
0.157
0.260
0.238
0.442
0.307
0.285
0.230
0.346
7,042
4.157
1.311
7,379
3.474
0.835
7,330
3.643
0.608
7,382
7,376
7,387
7,367
7,367
7,367
7,377
6,696
0.426
0.799
0.846
0.172
0.189
0.485
3.532
2.182
0.494
0.401
0.361
0.377
0.391
0.500
0.927
0.763
付表2 相関分析
成果主義
昇進
能力
α
平均 S.D. の効果
賃金P
昇格P
公正性P
開発P
0.86 2.87 0.76
1
成果主義 の効果
0.73 3.75 0.47
-0.03 *
1
賃金P
0.60 3.22 0.79
0.04 ***
0.13 ***
1
昇進昇格P
0.62 3.50 0.66
0.01
0.03 ***
0.39 ***
1
公正性P
0.82 3.17 0.65
0.05 ***
-0.12 ***
0.37 ***
0.49 ***
1
能力開発P
1)小数点第3位を四捨五入しているため,記述統計と数値が異なる部分がある
−228−