真核細胞の翻訳調節機構

[研究課題名] 真核細胞の翻訳調節機構
[研究担当者(分担者も含む)] 松本 健、辻本雅文
[研究室] 細胞生化学研究室
1. 研究目的(500 字程度)
真核細胞内では(pre-)mRNA は裸の状態では存在せず特定の蛋白質との複合体
である hnRNP や mRNP の形で存在すると考えられる。動物の卵母細胞のなか
では、転写は活発に行われているが翻訳は不活発で、核内で合成された mRNA
の多くは細胞質に運ばれて、貯蔵 mRNP として翻訳が抑制されている(RNA
マスキングとよばれる)。卵成熟後、初期発生においては逆に転写が抑制され、
蓄えられていた母性 mRNA の翻訳制御が遺伝子発現制御の重要なステップとな
る。本研究では、主としてアフリカツメガエル卵母細胞と卵を材料とし、翻訳
調節に関与する因子群について解析を進めることによって、RNA マスキングの
分子機構および、初期発生における翻訳制御機構を明らかにすることを目的と
する。卵母細胞でこれまでに明らかにされてきた翻訳調節因子のうちには、体
細胞でもホモログが見いだされ、体細胞での翻訳制御に関与することが示唆さ
れているものもあるので、卵母細胞での知見は、一般の体細胞にも応用できる
ものと考えられる。卵母細胞の貯蔵 mRNP は hnRNP と異なり、豊富に含まれ
る RNA 結合蛋白質が1あるいは2種類と少なく、体細胞 mRNP とちがってポ
リ A 結合蛋白質も少ないため、初期的な解析に向いていると考えられる。
2. 平成 13 年度の研究計画(500 字程度)
インビトロでの再構成系と、卵母細胞や初期胚での観察と機能同定を、並行
して進める。発生開始後の体軸形成や分化に必要な因子の mRNA のおおくは、
卵母細胞細胞質内で特定の領域に局在している。ショウジョウバエやカエルで
の研究からmRNAの局在化(特定の領域への移動および局在の維持)には、mRNP
のコンポーネントや、細胞骨格系が関与することが明らかになってきた。カエ
ル卵母細胞の細胞質 mRNP の主要コンポーネントである FRGY2 は主として細
胞質に存在するが、その細胞質内での分布はわかっていない。そこで、免疫染
色で卵母細胞中の FRGY2 の分布を調べることからはじめ、特定の mRNA と共
局在を示すかなどについて検討する。
我々がアフリカツメガエル卵母細胞から単離した RNA 結合蛋白質 xCIRP2
の機能を明らかにするため、酵母 two hybid screening をおこない、相互作用す
る因子の同定から xCIRP2 の機能に迫ることを目指す。
また、代表的なモザイク卵として古くから発生の研究で使われてきたホヤで
も、最近、FRGY2 や xCIRP2 のホモログが同定されたので、それらの局在と機
能についてあきらかにすることをめざす。
3. 平成 13 年度の研究成果(1000-2000 字程度)
アフリカツメガエル卵母細胞切片を用いて FRGY2 の局在を調べたところ、
そのほとんどが poly(A)+RNA と共局在を示し、また、ノコダゾールやサイト
カラシンBで処理した卵母細胞でその局在が変わることから、その分布は細胞
骨格依存的であることがわかった。卵母細胞の植物極側細胞質では、FRGY2
は顆粒状に存在し、この顆粒は植物極側に局在することが知られている mRNA
と共局在した。また、カタユウレイボヤの卵母細胞および初期胚に存在する Y
ボックス蛋白質 CiYB1 に対する抗体を作成し初期胚切片の免疫染色をおこな
うと、CiYB1 蛋白質は細胞質全体に存在するものの、胚後極側表層の領域に強
いシグナルが観察された。この領域には多くの mRNA が局在することが知ら
れている。これらの結果は、Y ボックス蛋白質が mRNA の局在化にも関与す
る可能性を示唆する。一方、試験管内で Y ボックス蛋白質-mRNA 複合体を再
構成し、その性状について解析、観察を継続しておこなった。FRGY2 とイン
ビトロで合成した mRNA との複合体は、塩化セシウム密度勾配中で比重約 1.4
g/ml で、これより、この複合体は細胞から単離された mRNP と同程度の蛋白
質/RNA 比であることがわかった。
酵母 two hybid screening をおこない、xCIRP2 と相互作用する因子としていく
つかの RNA 結合蛋白質と xCIRP2 を修飾する酵素を同定した。これらの蛋白質
の中には、初期発生時に特定の mRNA の翻訳調節に関与することが報告されて
いるものがあり、現在、xCIRP2 もその調節機構に関与するかどうか検討して
いる。
4. 目的と成果の要約(100-200 字程度.年報原稿用)
卵母細胞の細胞質 mRNP の主要コンポーネントである Y ボックス蛋白質の局
在をカエルやホヤの卵母細胞で調べたところ、ほとんどが poly(A)+RNA と共局
在を示し、その分布は細胞骨格依存的であった。また、Y ボックス蛋白質はmRNA
の貯蔵のみならず特定の mRNA の局在化にも関与する可能性が示唆された。
5. 平成 13 年度誌上発表(英文のみ)
(1) 原著論文
1) Hattori, A., Matsumoto, K., Mizutani, S. and Tsujimoto, M. (2001) Genomic
organization of the human adipocyte-derived leucine aminopeptidase gene and its
relationship to the placental leucine aminopeptidase/oxytocinase gene. J. Biochem.130:
235-241.
2) Okuwaki, M., Matsumoto, K., Tsujimoto, M. and Nagata, K. (2001) Function of
nucleophosmin/B23, a nucleolar acidic protein, as a histone chaperone. FEBS Lett. 506:
272-276.
(2) その他
Matsumoto, K. and Tsujimoto, M. (2001) Translational control during early
development. RIKEN Review 41: 19-20.
6. メンバー(日本語および英語で)(理研以外の方は所属機関の正式呼称を日
本語と英語で書いてください)
松本 健 Ken MATSUMOTO
辻本雅文 Masafumi TSUJIMOTO
7. 共同研究者(同上)(理研のデータベース登録に必要なので,誌上発表のみ
ならず,口頭発表でも名前を連ねている人をリストしてください)
青木一真 Kazuma AOKI
服部 明 Akira HATTORI
石井泰博 Yasuhiro ISHII(東京農工大学 Tokyo University of Agriculture and
Technology)
水谷栄彦 Shigehiko MIZUTANI (名古屋大学 Nagoya University )
永田恭介 Kyosuke NAGATA (筑波大学 University of Tsukuba)
西方敬人 Takahito NISHIKATA(甲南大学 Konan University)
鮫島正純 Masazumi SAMESHIIMA(東京都臨床医学総合研究所 The Tokyo
Metropolitan Institute of Medical Science)
田中仁夫 Kimio TANAKA