ワールドスタディ(中国 杭州・上海) 実践記録

関東学院大学文学部 紀要 第104号(2005)
ワールドスタディ(中国 杭州・上海)
実践記録
佐 藤 佑 治
要 旨:
『紀要』96号と『所報』27号で報告したワールドスタディの準備過程に続け
て、2004年度初めて実施した講義と海外研修の実践記録であり、今後の展開へ
の中間報告ともいうべきものである。
キーワード:
ワールドスタディ、海外研修、異文化理解
はじめに
私は先に『紀要』96号と『所報』27号にワールドスタディの準備過程に
ついて報告したが、昨年度(2004年度)春学期、初めての講義と 7 月30日
(金)
∼ 8 月 5 日(木)の現地研修を行なった。今回はこの第一回目の授業内
容について報告し、忌憚のない批評を受けたいと思う。
第 1 章 講義の部
今回の受講生は 2 年男子 5 人(中国語履修者 4 人、ドイツ語履修者 1 人)
、
いずれも中国旅行は初めてであった(海外旅行も初めてという学生 4 人)。
5 人は友人関係にあり、5 人揃っての受講となった。したがって最初から
まとまっていたので、色々の面でやりやすかった。さて講義は以下のよう
に進めた。
1 回目 ワールドスタディ入門 全体的な入門指導
2 回目 中国地理¸
この二回で中国地理の概要とりわけ江南
3 回目 中国地理¹
の地理概況について学習した。
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4 回目 中国歴史¸
この二回で中国歴史の概要とりわけ南宋
5 回目 中国歴史¹ (杭州)と近代(上海)について学習した。
6 ∼ 9 回目
村松伸『図説上海』
(河出書房新社)を教科書にして上
海の理解を深めた。教科書については、当初『所報』
でも述べたとおり、高橋・古厩『上海史』などを考え
ていたが、大部なので断念し、写真も多い本書を採用
することにした。
10∼13回目 村上哲見『蘇州杭州物語』
(集英社)を参考書にして杭
州の理解を深めた。
14回目 まとめ これまでの復習と現地研修の打ち合わせ
講義概要は以上の通りであるが、各人に現地での研究課題を一つずつ設
定してもらった。それを各自であらかじめ調べておき現地で検証してもら
おうとの趣旨である。研究課題は以下の通りである。
A 君 考古とりわけ上海博物館所蔵考古資料
B 君 中国仏教とりわけ仏像
C 君 中国茶とりわけ龍井緑茶
D君 中国人の習慣・歴史観
E 君 中国人の国民性
第 2 章 現地研修の部
取扱い旅行社
J T B 横須賀支店
徴収額 188, 000円(成田往復交通費・旅行保険・小遣い含まず)
日 程 7 月30日(金)∼ 8 月 5 日(木)
参加者 教員 1 人 学生(男子)5 人 計 6 人
7 月30日(金)曇り(杭州)
成田空港 8 時全員無事集合。直ちに手続きにはいる。大体順調。待合室
( E 30)に 9 時前に入れた。しかし現地の上空が混雑しているとのことで
10:05発の予定が50分遅れ、12:25着の予定が13:10となった。
(時差、中
国 1 時間遅れ)この春から開設されたばかりの全日空杭州直行便で機内は
がらがらであった。
(この直行便の開設により従来のように上海から入らな
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くても良くなりその分旅程に余裕が出来た)
「入国カード」にサインをして
いない学生がいたり、
「健康カード」の滞在先ホテルの電話番号が書いてい
ないとクレームもつけられ手間取り、最後に入国。出口で係りの殷さんが
迎えてくれていた。マイクロバスに乗り、14時過ぎに「ホリディイン杭州」
(中国名 杭州国際仮日酒店、四つ星)に到着。15時半まで部屋で荷物整
理。15時半ロビー集合。フロントで各自 1 万円ずつ両替。( 1 万円=733元
1 元はほぼ14円)まずはホテルのまわりを歩く。交通ルールのちがいを体
験。右側通行、赤信号でも右折車両が進入してくるなど、慣れるまでが大
変である。歩く途中で、まずスタンドで市街地図( 5 元)を各自購入。次
にコンビニに立ち寄り品揃えを見学。日本との商品の微妙な違いが興味深
い。西に200mほど歩いて糸綢城(シルク街 およそ半km)を北に散策。そ
こをぬけて東に1. 5kmで中心街の武林広場(武林は杭州の旧名)に到着。こ
こにはデパートが数軒あり、最初の夕食はその食堂でとることにする。こ
れ以後もそうだが、食事をどこでとるかは難しい問題である。おいしそう
な屋台などがでているが、夏場でもあり、衛生状態などを考慮して、そこ
そこの店に入ることにした。その標準になるのがデパートの食堂である。
最初「杭州百大」に入ったが、適当な店が無く、「銀泰百貨」7 F の食堂街
(屋台店がまわりにずらりと並んでおり、客は見本を見て注文し中央のテー
ブルで食べる)で夕食をとった。私は14元の丼ものを注文、これだけでか
なりのボリュームでお腹いっぱいになる。学生達もおもいおもいの品を注
文、互いに交換して味見、当たりあり外れありで楽しそう。食堂は金曜日
の夜で家族連れが多数見られた。その後「杭州百大」地下のスーパーで夜
食などの買い物を体験。
(入り口で荷物を預けさせられたり、レジ係りは着
席と日本とは勝手が違う)帰りは K 11( K は空調〔エアコン〕車、料金は倍
の 2 元、この11系統路線バスにはこの後何度も乗ることになる)の路線バ
スに乗り、20時前にホテル着。明朝 7:30ロビー集合として今夜は解散。学
生達は初物づくしで疲れたことであろう。
本日の出費(一人あたり、以下同じ)
地図 5 元、夕食20元前後、バス 2 元
7 月31日(土)晴れ 猛暑
7:30ロビー集合が早くも出来ず、全員揃ったのは 8 時、早速朝食(ヴ
ァイキング)
。9 時半出発。バスを二本乗り継いで、インド僧慧理により326
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(東晋の咸和元)年開山された禅宗の古刹霊隠寺に到着。土曜日とあって、
大変な混雑。天王殿の布袋の姿をした弥勒菩薩は金色に輝いており、日本
と同じ大乗仏教といっても感じの違いは大きい。また中国人の礼拝の作法
は日本人と違うので、B 君たちは興味深そうである。そこから出て学生達
は、背後の蔵経殿まであがるが、わたしは下のエアコンのきいた展示室(博
物館)で待つ。その後、寺の南側に石灰岩で出来た岩山に彫られた仏像も
拝観する。13時、境内の「翆薇園飯荘」で昼食。時間節約と体力消耗低減
のため、タクシーを使い、六和塔へ。( 2 台に分乗したが、1 台は17元、1
台は20元、20元組は遠回りされたらしい。これも勉強)元気に60mの塔に
登ったが、さすがにこのあたりで疲れてくる。しかし登った甲斐があって
塔上から銭塘江の雄大な姿を堪能した。見学が予定より早く終わったので、
茶処の龍井に行こうとしたが、地図のバス路線が違っていて乗り換えに失
敗。今日は断念してバスで町の中心部に。呉山広場で下車。清河坊歴史特
色街へ。最近中国の杭州のような伝統的歴史都市で整備の進む観光用の復
元街だ。休憩のため茶館を捜すも適当なものが見つからず、駅まで歩く途
中、週末の団地風景などを見ることができた。近代的で巨大な杭州駅に学
生達は驚いている。駅からK11のバスに乗って17時ホテル着。この日はこ
とのほか暑く、さすがにぐったりした。夕食は外に出ずホテル内の中華料
理店ですますことにした。
本日の出費
バス( 5 回)10元、霊隠寺拝観料25元、霊隠寺大雄宝殿拝観料20元、
昼食(三鮮麺)10元、タクシー( 1 回)6 元、六和塔拝観料20元、
六和塔登上料10元、夕食25元
8 月 1 日(日)晴れ 猛暑 夕立あり
7:30ロビー集合がやはり出来ず、少し遅れて朝食。A 君が油物が駄目で
だるそうだが、疲れたらホテルに帰るということにして、9:30出発。バス
を二本乗り継いで(途中バスが日曜日でコースを変えて走ったので間違っ
て乗ったのかと一瞬ひやりとした)
、昨日行けなかった龍井にある茶葉博物
館に行くも 9 月20日まで改修工事のため休館中。楽しみにしていた C 君が
っかり。周りの茶畑だけを見学し、バスで西湖畔にもどり、岳飛廟参観。
ここはナショナリズム教育の場となっていて、中国の生徒達が遠足で来て
いた。また多くの華僑らしい観光客も訪れていた。見学後、清末の日本留
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学生で女性革命家であった秋瑾の墓を見てから、杭州料理老舗「楼外楼」
で昼食。こちらに来て初めて本格的な中国料理を食べる。昼食後、近くの
浙江省博物館に行く。日曜日のためか入館料を取っていない。見応えのあ
る展示で感心しきり。敷地内には文瀾閣もあり、清朝の四庫全書におもい
をはせる。ここを出て、西湖の遊覧船に乗る。
「地上の天国」と呼ばれた景
観を堪能して下船。遊覧車で蘇堤を南下、章太炎記念館に行くも、17時で
終了。仕方なくバスで武林広場にもどり、例の「銀泰百貨」7 F 食堂街で夕
食をとり、例のスーパーで買い物をし、20時頃帰着。
本日の出費
バス( 5 回)11元、岳飛廟参観料25元、昼食55元、遊覧船45元、
遊覧車10元、夕食20元前後
8 月 2 日(月)晴れ時々曇り
今日は上海への移動日。7 時集合もまた揃わず、少し遅れ朝食。8 時過
ぎ、迎えのマイクロに乗って巨大な杭州駅へ。9 時発の「特快」
(特急)
「軟
座車」
(グリーン車、外国人は通常これに乗る。料金は50元と日本人には格
安。しかし中国人にとっては高額。ちなみにエリートである大卒の初任給
が月額1500元前後)に乗車、全車二階建て、途中の江南田園風景を見なが
ら、11:10上海着。ホームに迎えが来ている。広い駅構内を抜け車乗り場
までけっこう歩かされる。上海駅もとてつもなく大きな駅舎だが、ソフト
面に問題あり。駅から20分くらいで到着する都心部の王宝和大酒店(セン
トラルホテル、四つ星)に投宿後、近くの麺チェーン店「呉越人家」で各
自好みの麺を食べ、本のデパート「上海書城」へ。各人解散して買い物。
いったんホテルにもどる。ついに A 君ダウン。寝かせておくことにして、近
くの広東料理店「杏花楼」で夕食。20時前帰宿。
本日の出費
昼食15元前後、夕食43元
8 月 3 日(火)晴れ
8 時ロビー集合にするもやはり揃わず、皆どこかしら疲れてきている。
下痢を起こしている A 君、胃痛の D 君も行くというので、今日は体力の消
耗を少なくするために、移動にタクシーを使うことにする。10時過ぎ出発、
旧市街(旧上海県城内のこと、城壁は撤去され環状道路になっている)の
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豫園へ。典型的な江南庭園で、辺り一帯は、町の守り神の城隍廟を中心に
した繁華街で大変な人出である。それほど広くない庭園であるが、所々で
休憩しながらゆっくり見る。昼食は上海料理老舗「緑波廊」で点心セット
を注文するも、疲労のため全員食べきれず残す。午後はエアコンが利いた
上海博物館で 4 時間見学三昧。日本語ガイドホンを借りるが、これが重宝
であった。昨日来ダウンしていた A 君も充分に勉強できたようだ。売店の
品揃えが充実していて(東京国立博物館以上)学生達は喜んでいた。17:30
ホテルに帰り少し休む。B 君疲れから発熱でダウン。夕食は例の「呉越人
家」で簡単にすませ、早々に帰宿。疲れもピークに達しているが、若い人
たちは半日も休めば回復するようでうらやましい。
本日の出費
タクシー( 2 回)7 元、豫園入園料30元、城隍廟拝観料 5 元、昼食
65元、博物館入場料(日本語ガイドホン込み)60元、博物館ガイド
ブック15元、夕食10元前後
8 月 4 日(水)曇り 夕立
8 時ロビー集合も遅れ、来た者から食堂に行って朝食。B 君と C 君はホ
テルに残留。4 人でタクシーに乗り、魯迅公園に。魯迅記念館(閑散とし
ていて、今の魯迅の状況を示している。この後の 9 月に訪問した北京の魯
迅博物館も同様であった)を見学した後、近くの多倫路文化名人街で復元
された中華民国期上海の街並みの雰囲気をあじわう。バスでホテルに戻り
休息。14時、全員揃って、近くの中華レストランで昼食。C 君だけ調子戻
らず帰宿。5 人で地下鉄に乗り、東方明珠塔(テレビ塔)へ。263mの展望
台から上海市街を観察する。16時半、ホテル近くに帰り解散。最後の日な
ので土産物店などにいく。疲れた者は休息。19時ロビー全員集合。最後に
本格的中華料理ということで、近くの上海料理老舗「老正興菜館」で夕食。
その後、「上島コーヒー」でコーヒーを飲みながら雑談。22時帰宿。
本日の出費
タクシー( 1 回)4 元、魯迅公園入園料 2 元、魯迅記念館入館料 8 元、
バス( 1 回)2 元、昼食17元、地下鉄( 2 回)4 元、東方明珠塔50元、
夕食110元、 コーヒー28元
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8 月 5 日(木)晴れ
いよいよ帰国の日。朝食後、空港に行くまで少し間があるので、各自そ
れぞれに過ごす。昼前飛行場に。帰りの手続きはまずまず順調。学生達は
空港内の売店で最後の買い物にギリギリまで頑張った。13:10発、成田17
時到着。空港で解散する。
こうして一週間の旅行は無事終了した。
出費の合計
794元(11, 000円)前後
おわりに
今回の反省点の第一は、行程を欲張りすぎたことである。折角来たのだ
からというのでついつい無理な強行軍をしてしまった。やはり余裕をもっ
た行程にしないといけない。今回はお互い友達で気心の知れた男子のみと
いう、おそらくはもっとも楽なチームでこうなのだから尚更である。
(今年
05年は一転して二年女性 6 人、全員中国語履修生という陣容)せいぜい午
前午後一カ所ずつにしないといけない。したがって目的地の絞り込みが大
変難しくなる。このことと関連して、今回は病院まで行く事案は発生しな
かったが、健康管理により力を入れないといけない。学生達のレポートに
よると、少し甘く考えていたという反省が出ている。夜更かしになってい
る学生も多いので、行く前から早寝早起きに切り替えておくなど、睡眠の
確保が重要であることをあらためて実感した。
第二に事前学習のより高度化が必要である。学生達はそれぞれなんらか
の意味で中国に興味を持ったからこそこの科目を履修したのだから、その
興味をより深めるような工夫が必要で教員の力量が試される。今回の経験
をふまえて、今年度の講義ではよりよい授業になるよう頑張っているとこ
ろである。その中心は自己の研究課題をどう現地の研修と有機的につなげ
られるかという点である。経験を蓄積していきたい。
第三は料金と日程である。やはり料金も安くなり、気候もしのぎやすく
なる 9 月実施にしたい。現在来年度以降のカリキュラムを検討しているが、
そこでの解決を図りたい。
第四は教員の負担軽減である。毎年研修はさすがにきつい。また金銭的
にも、大幅な自己出費であり、国際センタ−扱い語学研修引率の水準にし
て欲しい。
(今年度から、規程通りの手当が可能となる動きがある)毎年研
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修については、これまた来年度以降のカリキュラム検討の結果、解消され
る見込みである。(中国コースに 3 人の先生の協力が得られることになり、
隔年担当が可能になった)
以上まだまだ改善すべき点は多いのだが、学生達の期待の大きいこの科
目の充実のために今後も頑張っていきたい。
(2005.5 .24)
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