講義ノート

講義ノート
~行政法Ⅰ(飯島教授)~
Written by ETO
注意事項
・多数の誤字脱字が見られると思うが、ご容赦願いたい。
・括弧書きで書かれているページ数は塩野教授の教科書『行政法Ⅰ』の該当ページ数。
行政法の基礎理論
“行政法学”では何を学ぶか
“行政法”という名の法律は無い(日本だけでなく世界的にも)。
“行政法学”は、行政に関わる無数の法律(ex.都市計画法、食品衛生法など約 1800 本)
を対象とする。ただ、その法律の全てを個別的に見ていくのではなく、無数の法律の基礎
にある共通の考え方や仕組みを抽出・抽象化していく。
基本構造
近代行政法
行政法学は比較的新しい学問であり、19 世紀末にドイツ・フランス・オーストリアなど
ヨーロッパで成立した。行政法の母国はフランス。“ドイツ行政法学の父”オットー・マ
イヤーが、行政法体系を定立した。
伝統的行政法(近代行政法)の基本構造
*藤田*
①法律による行政の原理
②行政行為中心主義
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①法律による行政の原理
・二面関係(国家と社会の対立、二元的思考)
行政(行政主体)
-
私人(名宛人)
・規制行政(私人の権利・自由を制限する行政作用を想定する)
行政(国家権力)を抑制することで、私人の権利・自由を守る、ということが最大の関
心とされてきた。
行政の古典的発想(基本的発想)
「行政は強い、国民は弱い。」
↓
強い行政を抑えることによって弱い国民を守る。
行政は強いから、客観的ルール(国民の代表である議会が定立した法律)に従わなけれ
ばならない(法治主義)。
こういった発想の背景
国家と社会を区別するいわゆる“二元論”がある。
社会に属する市民の自由な活動(私的自治)をできる限り尊重するために、行政(国家)
の干渉をできる限り尐なくする。
行政法学は、行政に対して、私人の権利・自由を守るために、行政が法に従っているか
どうかをチェックする学問として発展してきた。
法治主義の担保となるのが“行政訴訟”である(第三者的な裁判所が行政処分の適法性・
違法性を審査して、違法な行政処分を取り消すことによって私人を救済する仕組みが合わ
せて設けられている)。
ex.建築確認(建築基準法)
建築主事(行政)が建築確認をする or 確認の拒否をする。
ここでは、国家の介入はなるべく抑制すべきであるので、行政の基準は最低限のも
のに抑えられている(行政活動は縛られている)。もし行政が違法に確認を拒否し
た場合、私人は争うことができる。直接行政機関に対して不服申し立てをし、必要
であれば行政訴訟へ(不服申立前置主義)。
cf.許可
一般的には家を建ててはならないという禁止がされているが、要件を満たせば禁止
が解除され、建築が許可される。
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行政の介入をできるだけ尐なくするため、最低限必要な規制をすることに限られている。
行政は法律に従うことが要求される。
一方で、最低限の活動はきちんと行われなければならない。行政は公の秩序を維持し、
公共の福祉を実現するために、公権力が付され、保障されている。
私益と衝突しても尚、公益を実現しなければならない場合がある。それがどういう場合
かが法律で定められており、行政はそれに従って行動する。
ex.建築確認
行政は私人の意思に関わらず、自らの判断・責任で、建築確認や確認の拒否をする
権限を与えられているし、行使しなければならない。
以上より、法律は行政を抑制(規制)するためのもの、同時に行政を根拠づけるための
ものでもある、と言える。
②行政行為中心主義
行為形式論
行為の目的に着目した理論体系ではなく、行為の形式に着目して理論を構築していく。形
式の共通性を見いだすことによって行政活動を共通のカテゴリーに収めようとする考え方。
行為形式
・事実行為
・法行為
一方的処方(ex.土地収用)
契約処方
(ex.任意買収)
“行政行為”には公益の実現のために(私人には認められない)特殊な効力が認められる。
ex.公定力
三段階構造モデル*藤田*
法律-行政行為-強制行為
三段階を経て、伝統的行政は展開される、とする。
ex.建築基準法
建築基準法が最低基準を定めている(法律)。違法建築物が建てられた場合、その違
法行為に対して是正命令を出すことができる(行政行為)。ここで、根拠となる法律
が建築基準法。是正命令に従わない場合、代執行(行政が所有者に代わって建築物を
除却する)や罰則(ex.3 年以下の懲役)がとられる(強制行為)。
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現代行政法
①三面状況
第三者
侵益的
行政
私人
授益的(受益的)
規制行政
+
給付行政
第三者の利益を考慮に入れて、理論を考えなければならない。
私人間の問題が実質的な問題であると見ることができる。そのように見ると行政の役割は、
私人間の利益の調整であると考えることができる。
ex.建築確認
建築主に対して建築確認をすることは、建築主にとっては利益となることだが、第三
者(ex.付近住民)にとっては(ex.日照・通風の面)利益侵害となる可能性がある。
建築確認という行政行為は、名宛人にとっては授益的(受益的)行為だが、第三者に
とっては侵益的行為となり得る。これを、「二重効果的行政行為(複効的行政行為)」
つまり、利益(授益)と不利益(侵益)の二重効果が発生しうる行政行為と言える。
②行為形式の多様化
行政行為や契約だけではなく(不十分であり)、行政立法・行政計画・行政指導などの行
為形式もきちんと捉えていかなければならないと考えられるようになった。
ex.建築
多くの地方公共団体では開発指導要綱を定めている。これは、法的にはさほど重要で
はないが、現実には行政立法の一種・行政指導など重要な機能を果たす。
③事前の手続保障
伝統的には、法律による行政の原理によって、法律(国民の代表機関で制定した法律)に
よって行政活動を縛り、それが法律に違反した場合には事後的に裁判所が是正する、という
形で行政が行われてきた。しかし事後的な裁判だけでは足りない。
事前に自分の意見を表明する機会が与えられて然るべき。事前の手続自体を適正なものと
して、私人の権利義務を確保しようとすることが要請されるようになった。
最近の行政改革の大きな流れ(1990 年代以降)
行政手続法(1993 年) ←「公正」「透明」な行政を目指す。
情報公開法(1998 年)
個人情報保護法(2005 年)
地方自治法改正
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cf.行政共通制度法(全ての行政制度に共通する法)
ex.説明責任の概念
情報公開法など
伝統的な行政行為論も依然として重要だ(一定の役割を果たしうる)が、それだけでは足
りない。行政過程論・法的仕組み論など、様々な方法論が唱えられつつある。
行政とは何か(行政の観念)
why?なぜこういった議論をするのか。
“行政法”は一般的成文法典が存在しないから、また、“行政法”という独自の法分野が
存在するのか、という問題意識が根底にあるからである。行政法学は比較的新しい学問であ
るため、自らの独自性・アイデンティティーを確立することが課題となっている。
行政の定義(P.2)
①控除説
②積極説
①控除説*通説*
国家活動の内、立法及び司法を除いたものが行政である。
行政については内容的な定義をすることができないので、無理に定義することを放棄し、
立法と司法との消極的な区別によってのみ捉えようとする。
行政とは何かを確立することから行政法を確立することはできない。そのため、控除説に
たつ学説は、行政法の独自性を、行政の性質に求めることができず、法それ自体の性質を、
とりわけ民事法と対比することによって捉える傾向がある。
cf.各種定義
立法:法規を定立すること。
法規:国民の権利義務について一般的な定めをすること。
司法:法的な紛争を一定の手続を経て解決すること。
②積極説*田中二郎*
「近代的行政は、法のもとに法の規制を受けながら、現実具体的に国家目的の積極的実現
をめざして行なわれる、全体として統一性をもった継続的な形成的国家活動」である。
行政の概念を積極的に定義しようとする立場。行政それ自体の特質をなんとか掴みだして、
それを基本に行政を定義しようとする。
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批判
こういった定義は、感覚的・相対的であり、不明確なものになってしまうのではないか。
また、これはある種の行政を特徴付けているに過ぎないの(描写しただけ)ではないか。
③最近の学説Ⅰ*芝池*
行政とは何かを論じることや行政を定義することは無意味で・有害とする傾向もある。
④最近の学説Ⅱ
憲法学からのアプローチをする。
憲法 73 条 1 号の法律の執行が行政の基本部分を占めると言っても良い。
But!!2 号以下は国会と共に為す行為である。執政の概念で議論すべきである。
行政の分類
行政の分類(P.7)
①規制行政
②給付行政
③私経済的行政
④誘導行政
③私経済的行政
行政に特有の手法ではなく、私人の経済的活動と同様の手法(民事的な手法)を用いて行
う行政。基本的に私人と同質のものであるため、民法が適用されることになる。①や②と異
なり、それ自体を目的するものではなく、公共の福祉の実現を図るために必要な、準備的な
活動である。
ex.庁舎を建設すること、国有財産を管理すること
①規制行政と②給付行政
国家観の変化に連動した行政活動の変化に対応している。
19 世紀
夜警国家(警察国家)
①規制行政
↓
20 世紀
社会国家(福祉国家)
②給付行政
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①規制行政
私人の活動・権利・自由を制限することを通じて、秩序を維持したり危険を予め防止した
りすることによって、行政の目的を達成(公共の福祉を実現)しようとする作用。近代行政
法に対応し、また、国家と社会の二元論を前提としている。
ex.建築規制、交通規制、営業規制
近代以前(中世)
国家は存在せず、教会や封建領主など、様々な組織がそれぞれ権力を持って今日の国家の
役割に相当するものを担当していた。そこでは、公的なものと私的なものとの区分が必ずし
も明確ではなかった。
↓
近代市民革命
中間団体を徹底的に否認した。国家の中に様々な権力を集中させ単一主権国家を創出した。
他方で、それまで中間団体に守られていたものを自由且つ平等な個人として確立させた。
国家:他の個人・団体から超越して、公共性を追求する。
社会:自由且つ平等な個人が、自らの利益を追求(私的自治が通用)する。
↓
自由主義的思想の台頭
国家権力を抑制し、市民の自由を確保することが重要だとする思想が基本となる。
国家は、公共の安全と秩序を維持するために必要最小限の規制を行うことを任務とする(夜
警国家、警察作用にとどまる)。しかし、最低限の国家活動は必要不可欠であるため、国家
は私人の意思に反しても、一方的に義務を負わせたり、権利を制限したりすることができる
権限が認められなければならない。よって、権限の濫用を防ぐことによって、私人の権利利
益を保護することが近代行政法の重要な任務とされた。
国家と社会の二元論(「行政と私人との二元的思考」)*藤田*
あらゆる法主体を、行政主体とそれ以外の法主体(私人)とに二分して考察する、という
思考方法。この思考方法の帰結として最も基本的なものとして「行政の内部関係と外部関係
の区別」を挙げることができる。
行政の内部関係と外部関係の区別
外部関係:「行政主体」とその外にある「私人」との法関係
内部関係:「行政主体」の内部構成・内部組織などの関係
この「外部関係」と「内部関係」は、本質的に違った法源によって支配される。つまり、
外部関係を規律する法は「作用法」、内部関係を規律する法は「組織法」、である。
ちなみに従来は、行政を規制することによって私人の権利・自由を確保することが最大の
課題とされてきたため、行政-私人関係(外部関係)に関心を向けてきた。
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②給付行政(20 世紀以降)
近代法下では、私的自治の原則が大原則だったが、市民社会の自律性が低下して、様々な
社会問題(特に貧富の差)が起こるようになり、放置し得ない状態になった。個人が行政に
依存する現象が顕著になった。よって、国家は社会的弱者を保護するために、様々な社会政
策や経済政策を行うようになった。介入者としての行政でなく、給付を行う(サービスを提
供する)ものとしての行政が重要なものとして出てくるようになった(給付は国家の介入で
もある)。
行政国家現象(行政の肥大化)が見られるようになった。
↓
給付行政論(給付行政をいかに規律・制約するか)が盛んになった。
そこでは、コントロールが重大な課題となった。規制行政のようにコントロールできるわ
けではない。有限な資源を合理的・公平に配布しなければならない。放漫な給付も抑制しな
ければならない。
同時に、給付を求める国民の権利・自由をどう保護するかが問題となった。また、「権利」
の意味が問題とされた(手続的な申請権にとどまるのか、実体的な請求権までもを保護する
ものなのか)。
受給者の権利・自由の安定性や、平等に取り扱われることも問題とされた。
cf.さらに、法律関係の「決定の方式」が問題となる。すなわち、当事者間の契約とい
う方式をとるのか、それともそれ以外の方式(典型的には行政処分)をとるのか、と
いう問題がある。
ex.補助金
私人間での補助金支給はあり得る。同時に国が研究者などに補助金を支給しうる。
この 2 つの実体は変わらないのではないか。給付行政は、私人の活動と同様のもので
あると捉えて、契約方式が用いられていると推定することができる。
ただ、法律がどのような仕組みを設けているか(実際にどのような法律関係を構成し
ているのか)によって決定しなければならない(ex.補助金適正化法)。
現代国家においては三面関係がとられているが、そこでの第三者の地位をどう考えるのか
が、重要な課題である。
ex.事前の手続保障を認めるべきか、名宛人に対する処分の取消を求めることはでき
るとするべきか、第三者が行政に対して規制権限の行使を求めることができると解す
べきか(行政行政介入請求権が認められるか)。
現代国家においては、過剰規制だけではなく、過小規制が問題となり得る。
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ここでは、規制行政を第三者との関係で考えると、規制行政といっても実際は給付行政の
一種と考えることができる。従って、規制と給付の区分が相対化している、ということがで
きるのではないか。こういった問題状況が伝統的にも認識されてきたが、現代的にも課題と
なりうる。
④誘導行政
規制や給付が行われる場合であっても、規制や給付自体が目的ではなく、規制や給付を通
じて間接的に行政の望む方向に私人を誘導することを目的とする行政。補助的類型。
以下の 4 つの類型が考えられている。
a.金銭的ディスインセンティブ
b.金銭的インセンティブ
c.情報によるインセンティブ
d.規制緩和によるインセンティブ
a.金銭的ディスインセンティブ
公益上望ましくない行為を抑制・制御するために金銭を賦課・徴収する手法。
ex.ロード・プライシング(道路の混雑を防止するために通行車からお金を徴収。こ
れは規制行政ということもできる。)、ゴミ有料化(お金を取ることを通じて、ゴミ
を減らす。)
b.金銭的インセンティブ
公益上望ましい行為に対して補助金を公布することによって当該行為を促進する手法。
ex.低公害車(公害防止。環境にとって望ましい製品の生産・消費に対して補助金を
公布。)、ソーラーパネルの設置
c.情報によるインセンティブ
ex.エコマーク(環境に優しい製品にマークを付けることによって、消費者に製品の
購入を促し、企業に環境親和的製品の製造を促す。)、JIS マーク、品質等表示義務
(消費者の行動を誘導することを通じて、事業者にインセンティブを与える。)
d.規制緩和によるインセンティブ
ex.土地利用(行政上望ましい土地利用を促すために、一定の要件を満たせば規制緩
和をする。)
問題
行政法学の従来の体系に、誘導をどのように位置づけるか。
規制と目的など、共通している点もあるので、両者に共通の取り扱いが為されるべきでは
ないか。他方で、手段は間接的であるので、誘導には規制にはない問題点があるのではない
か。このような理論的課題が残されている。
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公私協働(公と共に働く私)
ex.NPO
現在進行中の行政改革(行政システムの構造変化)の結果、必然的に行政法学の構造変化
が余儀なくされる。*磯部力*
①行政の役割の見直し
規制緩和。近代の夜警国家から現代の社会国家へと役割が変化し、近時、行政の様々な規
制(規制行政だけでなく給付行政も)を緩和しようとしている。今までは、お節介行政(積
極国家・社会国家・福祉国家)をよしとする社会だったが、今後は市場原理・市民の自己責
任原理への信頼を基礎とした自己決定・自立行動型社会(裁判で決着をつける社会)へと変
化していくべき。
②国と地方の役割分担
地方分権改革。権限を移動させるだけでなく、さらに行政のやり方(スタイル、集権的・
一方的)を改め、地方自治体が行う地方ならではの行政スタイル(住民参加的なスタイル)
に変わっていくべき。
③行政と個人の役割の変化
今まで、私人は受動的・客体的な立場に過ぎない(参加型)と捉えられてきたが、これか
ら私人は、主体的・能動的になるべきであり、さらに行政の一部を担う行政のパートナーと
なるべき。
④行政のスリム化・効率化
今までは万能であり資源は無限のものであることを前提としてきたが、今後、資源は有限
であることを前提として、その全体をいかにスリム化し、経営的な観点から効率化するかを
考えなければならない。
cf.独立行政法人(独立行政法人通則法)
行政機能を企画・実施の 2 つの機能に分離し、そのうち実施について法人格を与えて
行政組織の外へ出すことによって、行政組織をスリム化・効率化する。
⑤公共性担保システムの相対化*磯部*
従来は、行政主体が公権力の行使という公的な手法を用いて公共の利益を実現することが
前提とされてきたが、近時、行政だけでなく様々な主体が出てきて公共性を実現することに
なってきている。ほとんどは市場における自立的企業や個人に任せた方がよく、仮に市場だ
けでは解決しがたいことについては、NPO などの市民の公益的活動に任せた方が良い、と
考えられる。市民の活動をいかに公益に組み込んでいくか・位置づけるかが重要な課題とな
ってきている。
cf.山本隆司『日本における公私協働論』
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行政法の観念
公法私法二元論(P.25)
私法体系と公法体系の区別をすることによって、行政法とは何かを明らかにする。
行政法の成立
~行政法が成立するための 2 つの条件~
*小早川*
①法治主義
②普通法の支配の制限
①法治主義
行政が法に服することが必要である。
絶対君主制の国家では、行政法は存在せず、絶対君主が法律に規制されることなく(自由
に)私人の自由・財産を侵害することができた。
警察国(行政が法によって制約されない段階の国家体制)
↓
法治国
行政法の観念
私人だけでなく行政もまた法に服することが前提条件である。
行政が法に服するということには 2 つの段階がある。
・私人だけでなく行政をも法が規律し得る(法の二面拘束性)
・行政の主要な部分が法によって規律される
②普通法の支配の制限
行政が服する法が、民事法とは異なった法であることが必要である。私人と行政との間に
は、私人間に妥当する民法とは異なった特別な法が通用していると言えなければならない。
2 つの行政法のモデル(裁判所の在り方によって区別される。)
a.英米型
b.大陸型(日本も含む)
a.英米型(P.20)
法の支配(rule of law)が原則となっており、そこでは、行政も私人と同様に司法裁判所
の統制を受け、普通法(common law)の規律に服する、とされている。
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ダイシー(Dicey、憲法学者)は、以下のように唱えた。フランスにおいては、行政官は
司法裁判所のコントロールを受けずに特別な裁判所によってコントロールされることになっ
ている。そこでは、行政は普通法に服していないため、法の支配に妥当していないというべ
きである。イギリスにおいては、行政官も通常の司法裁判所のコントロールを受けていて、
特権的な地位にはない。そのため行政の活動全てに対して、普通法の支配が及んでいる。
行政に特殊な法としての行政法の存在は否定して、行政を規制すべき法は市民社会の法と
基本的には同質のものであるべき、という考え方に市民の権利・自由の保障が見いだされて
いた。
しかし、英米において、行政は普通法に服するため行政法は存在しない、というわけでは
なく(普通法に制限されているだけ)、行政法を観念することはできる。
ex.主権免責(裁判権免除)
王が悪をなし得ず。国の行政組織は裁判権を免除される(国家無答責)という法理が
妥当している。行政の活動が普通法に服しているわけではないことを意味する。
ex.行政委員会制
準立法的・準司法的機能を持つ。
b.大陸型(P.14)
通常の司法裁判所とは別に、行政裁判所が設立され、行政裁判所が行政をコントロール(規
制)する。行政事件を民事事件と区別されている。この行政裁判所の存在自体が普通法であ
る民事法から区別された行政法の観念を成立・発展させることになる。
フランス(判例実務を中心とした行政法)
行政権と司法権を明確・厳格に区別する、という思想が伝統的に通用している。これには
政治的背景がある。アンシャン・レジーム下で司法裁判所が強大な権力を持ち、しばしば政治
に介入し、国王と対立・抗争していた。司法裁判官は特権・貴族階級の擁護者として働いて
おり、封建的制度の改革への障壁を為していた。革命を経て、司法裁判所の行政への干渉を
抑制しよう、という現在まで続く発想が生まれた。これによって、行政と司法の分離と行政
組織に対する司法裁判所の介入を排除する制度設計が為されるようになった。
cf.行政裁判所(Conseil d’Etat、コンセイユ・デタ)
裁判機関であると同時に諮問機関(日本の内閣法制局に相当する機能)でもある。こ
この判例法理によって様々な制度・独自の行政法(ex.行政賠償責任法・行政契約法)
が形成された。フランスでは行政裁判所が作る法を“公法”として私法と区別した。
ドイツ(ドグマティック、学説が行政法を形成していく)
確立がフランスに遅れ、行政法に果たした役割は比較的小さかった。これは、ドイツにお
いては列記主義がとられ、行政裁判所に訴えうる事項が限定列挙されており、また、それぞ
れのラント(領邦)で制度が設けられ、中央の統一的行政裁判所が欠如していたからである
と考えられる。第二次大戦後は、概括主義がとられるようになり、連邦行政裁判所が設置さ
れるようになった。
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日本
ドイツ法の大きな影響がある。
戦前、明治憲法下では、ドイツ型の行政裁判所制度(行政事件に関しては司法裁判権を排
除して行政裁判所がそれを管轄する)が採用されていた。
cf.百選Ⅱ“行政裁判法”
戦後は、英米型の司法国家制度(一切の法律上の争訟が司法裁判所の裁判権に服する、行
政裁判をも)が採用されている。
行政手続の面・レベルに関しては、行政訴訟という特別の種類の訴訟手続が存在する。
ex.抗告訴訟
民事訴訟とはかなり異なる公法上の訴訟である。公法の独自性が存続している。行政
国家型の一つのバージョンとも言える。
行政法とは何か
伝統的な見解
行政とは、行政に関する国内公法である。
公法と私法を区別するメルクマール(標識)
①主体説
②利益説
③権力説
④田中説
⑤公法私法一元論
①主体説
主体に着目する。
公法:国家(行政主体)に関する法
批判
行政が関わるものであっても通常の私人と同じ立場で活動する場合もあるため、主体によ
る区別には無理がある。
②利益説
公法:公益に関する法(公益の実現につかえる法)
私法:私益に関する法(私益の実現につかえる法)
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公益務概念(フランス)
公益務に準拠して行政法を確定しようとする学説。一般利益を目的として行われるもので
あり、普通法的手法ではなく、普通法外的手法を用いて行われる活動である。目的において
も手法においても、私人の活動とは異なる。行政法は公益務に関する法を指す。そして、公
益務に関する争訟は行政裁判所の管轄に属する。
批判
公益務の活動の全てが司法裁判所の管轄・民事法の適用から除外されるものではない。
③権力説(ドイツ、日本など)
公法:対等でない社会(不対等社会)の支配・服従の関係を規定する法
公権力
④田中説*田中*
公法私法二元論を基本的に維持しながら修正していく学説。二元論を基本としつつも、公
法における民事法の適用の余地を肯定する、という形で公法私法の相対化を進行させるもの
である。
a.公法関係
・支配関係(権力関係)
国または公共団体が優越的な意思の主体・公権力の主体として私人に対する場合。私法の
規定は完全に排除され、特殊・独自の公法原理が妥当する。
ex.警察作用、租税徴収、公務員の勤務関係
・管理関係
国または公共団体が公権力の主体としてではなく、公共の福祉のために財産を管理し、事
業を経営する管理作用の主体として私人に対する場合。原則として私法規定が適用される(特
別の定めがなく、法全体の構造からみて特別の取り扱いをすべき趣旨が明らかにされ得ない
限り、私法規定が適用される)。
それ自体・本来的性質は私人相互の関係と同質である。ただし、行政主体は私人と同様で
はなく公共の福祉・公益の実現のために事業経営・財産管理をするので、公益の目的の達成
という目的に照らして必要な限度においてのみ特殊な法的規律が認められる。
b.私法関係
国または公共団体が私人と同様の立場に立って活動をする場合。
批判
わざわざ中間領域的な管理関係という概念を設定することは不可能・無意味。
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背景として、行政上の私法関係の問題、給付行政の増加、という事情があった。給付行政
は基本的には私法関係だが、私法の規律だけでは十分ではないのではないか、という意識が
存在している。
そこで以下のことが問題とされる。
・公法的活動と私法的活動との間の線引き
通常、行政機関と関係者との契約は、私法契約ということになるが、行政に特有の規律が
存在しうるし、現に立法が契約の方式によることを前提としながら特別の規律を定めている。
ex.水道法 15 条 1 項
水道事業者の契約強制(契約の締結を強制されており、正当な理由がなければ拒むこ
とができない)があり、契約の自由が大幅に制限されており、また契約内容について
も大きく制限されている。
・給付行政において給付を違法に拒否された場合、行政にそれをどのように求めるのか
給付行政について、そこでの行政の決定は、行政処分(公権力の行使)にあたる、と解さ
れることがある。行政処分に対する取消訴訟によってそれを争うべき、と解釈される場合が
ある。
・管理関係論の意図
公益の見地から各種の取り扱いをすべき場合がある、という問題意識に立っている。純粋
な司法関係ではなく、解釈論上民法の規定を排除して、公法的な規律を行って、その関係に
実質的に適合的な結果を導き出そうとする意図がある。行政(公共性)の私法への逃避、と
いう安易な傾向や現象を許さない、という意図も持ち合わせている。また、原則として私法
が適用される、ということによって、悪しき公法一元論を打破する、という傾向を持ち合わ
せていた。従前の学説は、行政法学のアイデンティティーを確立するために、民事法からの
解放を強烈に意識していたが、それに対して、管理関係には原則として私法が適用される、
として公法一元論に固執することに対するリアクション。
⑤公法私法一元論
公法私法二元論を基本的・根本的に否定する説。統一的な公法体系なるものは実定法上存
在しない、と考える立場。
現行憲法による裁判制度の統一(ex.行政裁判所の廃止)により、単なる裁判組織の問題を
超え、法思想(法システム)の転換を示す、重要な意義を認めようとする立場。*今村*
cf.今村『行政法上の不当利得』
国の特殊的地位をより積極的に構成していくことと同時に、(私法に拘泥するのではなく)
私法への膠着からの開放をも意味する。
判例民法 177 条(登記)の適用に関する判例(最大判昭和 28・2・18、百選 8)
概要
X は、戦前、密かに A より農地を買い受け、代金支払い・引き渡しは済ませていたが、登
記移転だけは行っていなかった。農地改革の際、地区農地委員会は、登記を見て、A がその
土地の所有者であり、A は不在地主である、と認定し、本件土地の買収計画を進めた。それ
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に対して X は、代金も支払い引き渡しを受けていることより、県農地委員会の決定取消を求
めて訴えた。
論点・争点
登記手続を完了していない X が第三者 B(地区農地委員会)に対して対抗しうるのか。177
条が行政上の法律関係に適用されるか。
判旨
百選参照。
国家が権力的手段をもって行っており(公権力の行使)、私人相互の経済取引とは本質的
に異なるものであるため、177 条の適用を否定した。農地買収処分にかかる関係は権力関係
であり、権力関係なる公法関係には民法 177 条は適用されない、としており、公法私法二元
論に立っているとみることもできる。しかしそれだけではなく、法制定の趣旨や規定からも
理解できる。このような買収(本件の法律)は、“真実の農地所有者”について行うべきで
あり、登記簿その他に農地所有権の所在を求めるべきではない。つまり、公法と私法との区
別を出発点とするのではなく、法律の趣旨に即して解釈する、という基本的な立場をとった
と言うことができる。
判例租税滞納処分と民法 177 条(最判昭和 35・3・31、百選 9)
概要
X は、A 会社より土地を買い受け、代金を支払った。登記はされていなかったが、X は、
税務署長(Y’)に対して、本件土地を自己の所有とする財産税の申告をし、納入した。その
後、租税の滞納を理由に、Y’が A 所有の工場内の機械器具を差し押さえた。A’は、X に売り
渡した土地がなお A の名義になっていることを知ったので、Y’に対して、機械でなく土地を
差し押さえるように言い、Y’は土地を差し押さえた。公売処分を失効し、Y2 に対して登記手
続も完了した。X が、本件土地は自己所有の土地であることを主張し、公売処分の取消を求
め、訴えた。
論点・争点
国が租税滞納処分を行った時に、国は民法 177 条の第三者にあたるか否か。租税滞納処分
については、従来から民法 177 条の適用がある、と考えられてきた。本件においても 177 条
の適用の肯定が前提となる。国が背信的悪意者にあたるか否か、が論点となる。
判旨
百選参照。
私法上の債権の強制執行と、本件のような租税滞納処分が類似している。権力性という点
において、民事上の強制執行と同じだと言うことができるし、滞納処分における国の地位は、
民事上の強制執行における差押え債権者の地位とパラレルになっていると見ることができる。
この事案でも、公法関係だから、私法関係だから、という判断ではなく、ここでの法律関
係の実質を見極めた上で、判断している。
判例公法(会計法)上の金銭債権に関する事件(最判昭和 50・2・25、百選 35)
国を当事者とする金銭債権については、民法 167 条 1 項の 10 年という消滅時効を定めた
規定を解除して、会計法 30 条の定めにおいて 5 年の消滅時効がかかる。現行法は、金銭債
16
Written by ETO
権の消滅時効に関する取り扱いを、公法上の債権であるか、私法上の債権であるか、という
ことによって区別している。
概要
陸上自衛隊員 A は昭和 40 年 7 月に車両整備中に車両にひかれ即死。A の両親 X は、一定
の保証金を受領したが、その額が自賠法(自動車損害賠償請求法)に基づく保険金の額に比
べて低額であるということに不満を抱き、昭和 44 年 10 月になって国を相手に自賠法上の損
害賠償請求訴訟を提起した。
一審・二審は、724 条を適用し、3 年を経ての提訴である(消滅時効が完成している)こ
とを理由に、X らの請求を棄却した。それに対して X は、二審の段階で、安全配慮義務違反
を理由とした債務不履行責任について、10 年間の消滅時効は完成していない(167 条 1 項)
との主張を付加したが、公務員の関係は特別権力関係であることを理由に国は安全配慮義務
を負わないとした。
判旨
国が安全配慮義務を負っていることを述べた。その上で、安全配慮義務違反を理由とした
債務不履行責任について、167 条 1 項がかかるのか、会計法 30 条がかかるのか、が問題と
なった。
百選参照。
最高裁は、国の金銭上の債権債務であるから(金銭債務が公法上のものか私法上のものか
で区別をする)、という考え方をとらず、会計法の趣旨を探究した上で会計法 30 条の適用如
何を判断している。本件においては、行政上の便宜を考慮する必要はなく、私人相互間にお
ける損害賠償の関係とその目的・性質を異にするものではない、ということから民法を適用
すると判断した。
公権属性論(P.34)
公法私法二元論においては、公法関係における権利義務(公権・公義務)については、民
事法上の権利義務とは異なる性質があるとされてきた。つまり、公権は、公共的・国家的な
見地から認められるべきものであるから放棄・移転・譲渡できない、個人の利益のためにの
み認められるものではなく公務の適正な運営を確保するために公益上の見地から与えられて
いるものである、と考えられてきた(公権の不融通性)。
判例地方議会議員の報酬請求権の譲渡が可能か否か(最判昭和 53・2・23)
判旨
議員の報酬請求権が公法上の権利(公権)であることは認めているが、それが法律上特定
のものに専属する性質のものとされているのではなく、単なる経済的価値として移転性が予
定されている場合にはその譲渡性を否定する理由はない、と判示している。つまり、公法上
の権利(公権)であるから譲渡性を否定しているわけではなく、それぞれの権利や実定法の
目的や趣旨を解釈して判断している。
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Written by ETO
公物・営造物
a.公物:国または地方公共団体により一定の公の目的に供されている有体物
・公用物:国・地方公共団体の組織の活動の内容に供されているもの(ex.庁舎)
・公共用物:一般の人々(公衆)の使用に供されているもの(ex.道路、公園、河川)
b.営造物:行政上私人の利用の目的に供される、人的・物的手段の総合体(ex.学校、病院)
公物・営造物の利用関係については、本来私人が自ら所有・管理する施設を他者に利用さ
せることと同質であると考えることもできるが、公法関係であると伝統的に解されてきた。
そのため、民法上の規律とは、異なった規律がなされる。
特に問題となるのが時効取得の問題である。公法関係に属するので民法の規定が排除され、
公物の時効取得はあり得ないとされてきた。
But!!今日ではこのような考え方に異論(反対の趣旨の法律がなければ、時効取得が認めら
れる)が唱えられた。ただ、公物の場合には、公物として利用を開始する事にあたって様々
な制約が所有権に課されている(ex.所有者以外の市民が道路を利用することを認めなければ
ならない)。そこで、制限付きで時効取得するのか、制限無しの完全な所有権として取得す
るのか、が争われてきた。
判例公共用財産と取得時効(最判昭和 51・12・24、百選 36)
概要
百選参照。
判旨
百選参照。
公共用財産として維持すべき理由が無くなった場合、黙示的に公用が廃止されたものとし
て取得時効の成立を妨げない(認められる)ものと解するのが相当である、と判断した。
黙示的公用廃止説(←→制限的肯定説)、つまり、制約なく完全な所有権が認められる、
という立場をとった。
批判
黙示であれ、公用廃止、という国家の意思が必要である、としていることについて、批判
がある。国家意思の犠牲とする必要はなく、端的に公物についても取得時効の制度が適用さ
れると考えるべきではないか。
特別権力関係論
(P.35)
ex.公務員の勤務関係、国公立大学の学生の在学関係、国公立病院と患者の関係、刑
務所の受刑者の関係
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Written by ETO
一般権力関係:一般の国民と行政との関係については、人々の自由を確保するために、行
政に対して法治主義の原則が適用される。
特別権力関係:それとは異なった、特別の規律が適用される。
特別の規律とは
①管理者が包括的な命令・懲戒権(支配権)を有している
管理者は、目的を実現する上で必要なことを法的に命じることができる。また、その目的
に違反する行為に対して懲戒処分を科すことができる。
②相手方の権利・自由の制限を伴う場合であっても、必ずしも法律の根拠を必要としない
法律の留保が及ばない。法律の具体的な定め・受験無しに管理者は命令・懲戒できる。
③憲法上の保障(人権保障など)もここには及ばない
④司法審査も及ばない
本来的に、一般の国民について法律関係を裁断することを目的とするから。
批判
特別権力関係論を支えていたかつての憲法構造は失われた。特別権力関係論は、立憲君主
制の下で君主が自らの自由な支配領域(行政権の自由)をできるだけ確保しよう、という目
的の下で成立・形成された理論だったが、国民主権原理をうたう日本国憲法の下でこういっ
た理論が通用していいのだろうか。人権が形式的・内容的に制約されていいのだろうか。
こういった議論を受けて、最高裁は、特別権力関係の概念を用いることに慎重になった。
現在では、特別権力関係論に代わり、部分社会論が妥当してきた。
部分社会論
一般市民社会とは異なる、特殊の部分社会なるものが存在する、と考え、その部分社会に
おいては自律的な法規範が妥当し、根拠規範なしに当該部分社会の秩序を維持・運営するた
めの包括的な権能が承認される。それと同時に、部分社会内部の紛争については、その自主
的・自律的な解決に委ねられるのが適当であるから、原則として司法審査が及ばない(司法
審査の制約)。ただし、その紛争が一般市民法秩序と直接に関係する場合に限り、司法審査
は及ぶ、とされる。その射程は、公法関係(行政上の関係)に限られるものではない。もは
や公法私法二元論を前提としているものではなく、行政権の優越性を過度に強調するような
かつての理論を修正する意味も持っている。
判例地方議会における議員の懲罰
最高裁は、議員の出席停止処分(懲罰)は内部規律の問題であって、議会の自律的解決に
委ねるのが適当であるから、出席停止処分については司法審査の対象とはならない。
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Written by ETO
これに対して、除名処分については、部分社会から議員を排除するものであり、一般市民
法秩序に関連するものであるので、司法審査が及ぶ。
判例大学(学校)における単位認定・修了認定・退学処分の関係
単位認定については、大学内部の問題として大学の自主的・自律的な判断に委ねられるか
ら、司法審査の対象とはならない。
修了認定・退学処分については、人が一定の営造物を利用することがそもそも許されるか
どうか、という意味で一般社会の法秩序の問題を構成するので、司法審査が及ぶ。
国公立のみならず、私立についても同様。部分社会論においては、国公立も私立も特殊な
部分社会を構成している、という点で法的に同質、と考えられている。
行政法規違反の行為の民事上の効力の問題
ex.
行政
↓
A(業者)
-
B
ここでは行政法規を以下のように区別して考える。
①強行法規
②取締法規
①強行法規であれば、当該強行法規に違反する民事上の行為は“無効”である。
②取締法規であれば、当該取締法規に違反する民事上の行為は“有効”である。
判例強行法規に関する事例(最判昭和 30・9・30、百選 12)
概要
X と Y の間で煮干し鰯の取引があった。Y が代金を支払わないため X は訴えを提起した。
当時、煮干し鰯は配給が統制され、公認業者以外が売買することが禁止されており、X は公
認されてなかった。よって Y は、X が無資格者であるから XY 間の契約は無効である、と主
張した。
判旨
正規のルート以外の流通を排除しよう(無資格者による取引行為は認めない、国家の手で
その流通を全面的に管理する)という意図を持っている、強行法規だと判断した。強行法規
に違反した行為については、民事上の効力を否定してまでも、規程の趣旨を完結させるもの
だ、という立場がここでとられた。
ただ、実際には強行法規は例外的なものである。強行法規として認められるのは、法律が
違反行為の無効を明記している、あるいはそういった趣旨が明確に読みとれる、といった例
外的な場合に限られている。
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Written by ETO
判例取締法規に関する事例(最判昭和 35・3・18、百選 11)
概要
XY との間に、肉の売買があったが、Y(A 会社の代表取締役)が代金を支払わなかったた
め、X が訴訟を提起した。Y は無資格者(食肉販売業の許可を持っていない者)であった。
判旨
単なる取締法規に違反しているからといって民事法(私人間取引)の効力は否定されない。
取締法規は、ある行為(事実としての行為)が現実に為されることを妨げるということを目
的としているので、その法令違反が直ちに民法上の効力を否定することにはつながらない。
効力論
総合判断説*通説・末広*
取締法規違反について相反する 2 つの要請がある。
・取締法規の目的、あるいは違反行為に対する社会的な非難の程度に照らして、違反行為
を無効とすることが要請される。
・しかし、これだと取引の安全・当事者間の信義・公平が害される虞がある。
従って、違反行為の効力を無効とするか否かは、こういった要素を総合的に考慮して判断
するべきである。
総合判断説のような考え方の基礎には、公法私法二元論的な考え方が見いだされる。判例
上は、取締法規違反は原則として有効とされているが、取締法規違反という行政上の問題と、
民事取引の効力との問題が明確に分離されているため。
末広説以前の段階の判例は、取締法規違反の契約は原則として無効であると解されていた。
それに対し、司法機関の独自性・市民社会の自律性を確保することを目的として、末広説が
提唱された。
公法私法相互依存論
行政法規違反の民事行為を原則として無効とする解釈が出つつある。*大村・山本*
*大村*
消費者保護法などのような取引利益を保護することを目的とする法令については、違反行
為の効力を否定することは法令の保護目的に役立つものであるし、法令自体が信義・公平に
反する権利行使から一方当事者を保護することを目的とするということから、当事者間の信
義・公平にも役立つ。
公法も私法も当事者間の信義・公正を実現するという点において共通の目的を持っている
ため、行政法規違反については民事法上においても無効とするべき。
行政
↓
A
-
B(消費者)
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Written by ETO
ここで行政上の規制は、信義・公平に反する権利行使から B(消費者)を保護することを
目的としている。行政上規制する、ということと、民事上の効力を否定する、ということが、
消費者保護という共通の目的を達成する上で、共同の関係にある。
*山本*
憲法と民法の関係からこの問題を捉えようとしている。
憲法と民法(公法と私法)は、基本権の保護と支援、ということを共通の目的としている。
取締法規も基本権の保護と支援を目的としているのであるから、その目的を実現するために
必要であれば、違反行為の司法上の効力を否定すべき。
*大橋*
三面関係に照らしても依存関係(共同関係)の考え方が適切ではないか。
第三者 B は行政に対して適切に規制を行使するように請求できる権利を持ちうる地位に立
っている。同時に A に対しては、取締法規を援用することにより、当事者間の民事行為の無
効を請求する地位にも立っている。これは、三面関係において第三者の法的地位を確立する
という現代行政法学の課題にも適合的である。行政法関係と民事法関係が、取締法規の目的
(ex.消費者保護)の実現においては、協力保管的(?)な関係にあると見た方が良いのでは
ないか。
このように近時、民法学からも行政学からも相互依存的な関係・共同関係にある、といっ
た理論が力を得つつある。ただし、民法と行政法が異なる、という認識をする必要がある。
予防の側面の重視
行政上の規制によって、業者に対して適切に規制を行うことで消費者を害する行為をさせ
ない(予防)。実際に問題が起こってしまった場合に、民法上の効力の問題に入っていく。
ex.消費者保護
行政という国家機関が関わるという点
民事法関係(私人対私人の関係)では、個別の解決を適切・柔軟に図ることができる。公
の関係・世界における利益の実現については、より包括的・持続的な調整・制御が必要とな
ってくる。
公法私法二元論のまとめ
現在では、もはや公法私法二元論を伝統的な形で維持することは適切ではない。公法の独
自性・特殊性を強調することによって行政権の優越性を過度に認める傾向にある、というこ
とが強く批判されている。
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Written by ETO
しかし他方で、一元論に立つべきか、というとそれにも問題がある。一元論に立つと社会
的・経済的な強者の論理が通ってしまう、という根本的な問題が出てくる。
判例は二元論・一元論にたって結論を導くことはもはや行っておらず、個々の実定法規に
ついて、具体的な法律関係毎に法律の趣旨・目的に照らして解釈を行う、という立場をとっ
ている。
一般的に公法・私法を語ることはあまり意義がない。
しかし、考え方の方向性の違い、という点に鑑みると、公法私法論を論ずる意義はある。
公的なものと私的なものの区別(国家と社会の区別)を現在においても維持すべきかどう
か、ということが問題とされる。
私的な利益、相互間の調整原理が基本的には及ばない公の世界といった観念を採用し続け
る必要があるかどうか、といった問題に関わる。
私法規範だけでなく、公法的な規範・ものの考え方は必要だ、という考えが根強くとられ
ている。
cf.行政事件訴訟法改正(2004 年)
公法上の当事者訴訟をより活用していこう、という明確な方向性が打ち出された。公
法上の当事者訴訟は行政訴訟の一類型である。従来否定する動きが強かった(公法私
法二元論を表すものだから、実体的にも民事訴訟とあまり変わらないから)。しかし、
今日これを活用しようとする動きが見られる。
行政法の法源
行政に対する法がどのようにして成立し、どのような形式で存在するのか、という問題。
成文法源・不文法源
行政法の法源の中心は成文法である。
Why??行政法は基本的に、行政が私人の権利・自由を侵害する場合を規律するもので
あるので、法律によってその要件を明確に定めることが要請されるため。
成文法源
(P.53)
憲法
国家の基本法として、行政に関する基本的事項を定めているもの。行政法は憲法に定めら
れている理念を指針として定められており、憲法を具体化したものと言える。憲法が直接行
政法の法源として機能することもある。
23
Written by ETO
ex.憲法 29③、31、35、38
条約
国内行政に関する条約は行政法の法源として機能する。憲法や法律との優劣が論じられて
おり、通説では優位な順に憲法・条約・法律とされている。
法律
行政法の法源として、最も重要である。個別の行政作用ごとに制定され、存在している。
ただ近時、行政共通制度法が急速に整備されつつある。
基本法(ex.教育基本法、公害対策基本法)は、効力の面では一般の法律と同じだが、実際
には基本法を指針としてその理念を実現するために法律を制定することがあるので、実務上、
基本法の意義は大きい。
命令
行政権において定立される法。形式としては政令・内閣府令・省令・規則が存在する。
条例・規則
条例は(法令に違反しない限りにおいて)地方公共団体の議会が制定し、規則は地方公共
団体の長が制定する。地方公共団体は自主立法権を有している、といえる。
不文法源
(P.60)
慣習法
慣習のうち、人々の法的確信を得るに至ったもの。行政上の法律関係についても慣習法の
成立する余地はあるが、機能する余地は無い。
判例法
判例法を法源とするかどうかは議論があるが、最高裁の判決は不文法源としての機能を果
たしていると示している。
法の一般原則
法律による行政の原理
大陸型(特にドイツ)
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Written by ETO
法律による行政の原理(P.68)
行政の活動は、法律の定める所により、法律に従って行われなければならない。これは単
に行政が法律に違反してはならない、というだけではなく、もっと積極的に、行政が法律に
準拠して行うべきことを要求する原理である。
2 つの理念
1.行政活動に対する法的安定の要請
行政活動は、常に、前もって定められた抽象的・一般的な法規範に従って行われなければ
ならない。こうすることで、国民に対して行政活動に対する概観可能性・予測可能性を与え
る。同時に、一般的なルールを予め定めて公にしておくことで、それに基づいて行われる個
別の行政決定が一般的な準則に従ってなされることを保障しようとする。
2.行政活動に対する民主的コントロールの要請
行政は法律すなわち国民の代表である議会が制定したルールに従わなければならない。こ
うすることで、国民は議会を通して民主的に行政をコントロールする。
民主主義の原理に基づいていると言うことができるが、法律による行政の原理のもともと
のイデオロギーは、自由主義の原理にある。つまり、法律によって行政の侵害から私人の権
利・自由を守る、権力を抑制する、ということに重点を置くことにある。
cf.英米仏においては、国民主権原理に基づいて行政に関する基本的な事項は全て、
国民代表議会において制定されるべきである、とされた。行政は原則として法律の執
行のみを行う。
立憲君主制の下では、行政に関する立法については、行政機関の長である君主が行うとさ
れていた。立憲主義が進展するに伴い、君主が行政に関して法を定立するために、一定の部
分については、国民代表議会の協賛に基づく法律の制定、という形式によるべきものとされ
るようになるが、それでも行政の一定の事項については、相変わらず議会の関与なしに君主
の行政権に属して処理されるものとされている(君主の自由な活動領域が確保されている)。
そこで、行政権に属するものと、立法権が関わるものとをいかに区別するか、という問題
が生じた。ここから発展したのが法律による行政の原理である。19 世紀ドイツにおける議会
と絶対君主の対立の妥協の産物と考えられる。
ここでは、法律の留保がいかなる範囲に及ぶのか、行政権が法律無しに活動しうるのはい
かなる場合か、ということを論じる。
法律による行政の原理における三原則
1.法律の法規創造力
2.法律の優位
3.法律の留保
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Written by ETO
1.法律の法規創造力
法律が法規(私人の権利義務についての一般的な定め)を創造する力を持つ、かつ、法律
のみが法規を創造する力を持つ、とする原則。
このことは、法規の定立を法律の専管事項とする。法律以外の方法とりわけ行政機関限り
の行為による法規の定立を原則として認めない。同時に、法律を持ってすれば、その適用を
受ける者の同意無しに権利変動を定めることができる。
cf.かつて、日本では天皇の出す勅令により、法律に基づかない・根拠がない独立命令
として、人の権利義務について定めることができた。ところが、現行憲法 41 条では
国会が唯一の立法機関であると書かれ、独立命令の可能性を排除し、明示的に法律の
法規創造力の原則を承認・保障している。
2.法律の優位
法律があらゆる行政活動に優位する、という原則。行政活動は存在する法律に違反して行
われてはならない。これは、法律が存在する場合における原則である。法律の規定と行政の
活動(ex.命令)が抵触する場合は、法律が優位し、法律に違反する行政活動は取り消された
り無効にされたりする。
3.法律の留保(P.71)
一定の行政活動を行う場合に、事前に法律にその根拠が規定されてなければならない、と
する原則。これは、法律がいかなる場合に必要か、ということに関する原則である。
一方でこの原則は、国会・法律のみが規律することができる事項を確定し、同時に、行政
権の規律が許されない・禁止される範囲を確定する機能を持つものであり、立法権と行政権
の機能分担を明確にしようとするものである。権力分立の原則を基礎としている。
他方では、一定の行政活動について国民代表議会の事前の承認・正当化を要請・要求する
ことにより、国民の権利・自由を保護するという自由主義の思想に基づくものである。
cf.法律の留保の原則
憲法学においては、憲法が人の権利・自由を保障している中で、法律で権利・自由の
限界を定めることができる(制限しうる)場合を、法律の留保という(-)。
これに対して、行政法学においては、一定の行政作用が法律によって行われなければ
ならない、という意味合いにおいて法律の留保が論じられる(+)。
ここでいう法律は、いかなる意味の法律を指すのか、が問題となる。
cf.過去にテストに出したことがある。
1.組織規範
どのような行政機関を設け、各行政機関をいかに定めるか、各行政機関に様々な行政の事
業をいかに配分するかを定めた規範。ある自然人(公務員)の効果を行政主体に帰属させる
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Written by ETO
規範である。自然人が自然人としてではなく、行政機関として、かつ、自らに与えられた事
務・権限の範囲内において行動して初めて行政主体の行為として認められる。
ex.各省の設置法。
2.規制規範
ある行政活動をある行政機関が為し得ることを前提とした上で、その適性を図るために手
続の面で規律を設ける、というもの。
ex.行政手続法
行政活動を行う権限があることを前提とした上で、権限を行使する場合の手続を定め
たもの。
ex.補助金適正化法
補助金を支給する権限があることを前提とした上で、国が補助金を支給する場合に守
らなければならない手続等について定めたもの。
3.根拠規範(最重要!)
ある行政活動を行うのに組織規範が存在する場合に、組織規範が定める捨象事務の範囲内
において、行政機関の具体的な活動の根拠を定めるもの。行政機関の具体的な活動を議会が
事前に承認し、実体的な要件・効果を定めたもの。
法律の留保の原則の下に要求されるのは、この根拠規範である。法律の留保の原則は、組
織規範のみならず根拠規範が必要な行政活動の領域はいかなるものか、を問題とするもので
あり、逆に、組織規範さえあれば根拠規範無しに行いうる活動はいかなるものか、というこ
とを明らかにするものでもある。
ただ現実にある規範が、根拠規範の性質をもつものであるか、組織規範・規制規範にとど
まるものなのか、といった判別は必ずしも容易ではない。
判例自動車の一斉検問(最決昭和 55・9・22、百選 110)
概要
警察官が深夜に飲酒運転の多発地点とされている場所で自動車の一斉検問を行った。酒気
帯び運転の罪で X は検挙されたが、X は、上記検問は何ら法的根拠無く行われた違法なもの
であり検問でとられた証拠は証拠能力を欠く、と主張した。
論点・争点
自動車の一斉検問について定めた法律は存在していない。法律の根拠についてや、どうい
った場合に一斉検問が適法とされうるのか、といったことが決定されたのがこの裁判。
警察法 2 条 1 項は、警察の責務を定めたもので、組織規範として性格づけられる。組織規
範に過ぎない警察法 2 条 1 項を根拠規範として良いのか、という問題がある。
判旨
百選参照。
最高裁は、警察法 2 条 1 項を根拠としているが、それだけではなく、交通取締協力義務(「交
通の取締に協力すべき」)なるものを根拠として挙げていることに注意する必要がある。
27
Written by ETO
また一斉検問が許される場合の要件を、任意性や比例原則(「それが相手方の任意の協力
を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で
行われる限り、適法」)、と明確にしている。
判例ヨット係留施設の撤去(最判平成 3・3・8、百選 103)
概要
C によりヨットの係留施設として、鉄道レールが川に打ち込まれた。この結果、船舶の航
行可能な水路は水深の浅い左岸側だけになり、照明設備がないため特に夜間・干潮時に船舶
にとって非常に危険な状態になった。この係留施設は S 川に設置されており、県知事 A は不
法占用に対する原状回復命令などの権限を有している。漁港管理規定に従い U 町も漁港管理
者として維持・管理にあたるものとされていたが、同町では規程は未制定であった。U 町は
B 事務所に対して撤去を要請し、C から翌 5 日中に撤去する旨の回答を得た。しかし、同日
になっても撤去がなされないことから、U 町は B 事務所に対して強制撤去の実施を要求した
が、8 日以前の撤去はできないとの回答を得た。U 町は単独で撤去すべく、D 建設と撤去工
事請負契約を締結し、6 日に撤去した。
論点・争点
U 町は撤去をすることについてなんら権限を有していなかったが、撤去を行った。これが
緊急措置として、正当化されうるかどうかが問題となった。
緊急措置の場合にも根拠規範が必要なのか。国民の生命・健康等を保護するために、緊急
に行政機関が規制を行う必要があるが、根拠規範が存在しない場合があり得る。そういった
場合に、根拠規範がない以上法律の留保の原則に照らして行政機関は活動することができな
いと解すべきなのか、それとも緊急の場合であるのだから根拠規範無しに行政機関の活動を
認めるべきなのか。
判旨
百選参照。
「民法 720 条 2 項(緊急避難)の法意に照らして」とある。U 町は漁港管理規定を制定し
ていなかったので、町長は撤去措置を行う権限を有していなかった。そのため、いくら不法
な設置工作物であっても撤去を行うことはできない。「漁港法及び行政代執行法上適法と認
めることのできないものである」と述べながらも、本判決は、緊急の事態に対処するために
町長 Y が為した公金支出であるので、公金支出自体は適法である。町長 Y は損害賠償責任を
負うものではない、と結論づけた。
この判決が、もし、法律の根拠無く(何ら権限無く)鉄杭を撤去した町長 Y の行為を適法
であるとしたものであるとするならば、法律の留保の原則の例外を認めた、ということにな
る。法律の留保の原則の例外を認める、ということは、いかに緊急の場合であっても認めら
れるべきではない、ということで、この判決については別の解釈をすることになる。つまり、
本判決では、町長は損害賠償法上の不法行為をしたかどうか、鉄杭を撤去したことが町に損
害を与えたかどうか、を問題とする。そこで、不法行為法における相関関係説的な立場から
様々な事情を総合評価(侵害行為の結果・被侵害行為の種類・鉄杭を壊したわけではない)
した結果、損害賠償責任を負わせるほどの違法性は無い、と判断した。撤去行為自体の適法・
違法を論じたものと見るべきではない。撤去行為にかかる費用を支出したことについて緊急
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Written by ETO
事態に対処するためにやむを得ない措置であり、民法 720 条の法意に照らしても町が経費と
して支出したことは容認すべきだ、と判断した。
最近では、組織規範と根拠規範の区別が必ずしも明らかではない、という認識に立って、
場合によっては(非権力的な行政についてのみ)組織規範が法律の根拠となりうる、とする
見解も示されている。*芝池*
組織規範とされているものの中に、法律の授権にあたる、と解される規程が置かれること
がある。組織規範と根拠規範を峻別することは適切ではなく、法律の規定が問題となる行政
活動との関係で授権規程として十分なものかどうかを個別的・具体的に判断することで足り
るのではないか。
ex.児童福祉法 12
児童相談所は児童に関する問題について家庭からの相談に応じること、児童とその家
庭について必要な調査を行うことをその業務として掲げている(組織規範)。これは、
法律の授権としての性質も持っているのではないか。
今日では、根拠規範と同様に組織規範や規制規範も重要なのではないか、と指摘されるよ
うになってきた。
ex.行政手続法
国民の権利保護にとって重要。行政指導に多くを依存してきた日本型の行政スタイル
は、根拠規範でもって統制しようとしても難しく、手続を通じて統制しなければなら
ない。
ex.情報公開審査会
情報の開示請求を拒否された者が、不開示決定に対して不服申立を行った場合に第三
者機関として答申を行う。この答申が事実上は尊重されている、ということから、こ
ういった中立的な諮問機関を設置する組織規範が、国民の権利保護にとって大きな意
味を持っているといえる。
法律の留保の範囲
一定の活動のみが法律の根拠を要する、逆に言えば、法律の根拠に基づかずに行政が活動
することが認められている。そこで、いかなる範囲に法律の留保が及ぶのか・必要とされる
のか、法律に基づいて行われなければならない行政活動の範囲はいかなるものなのか、とい
う問題を扱っていく。
①立法事項説
②侵害留保説
③全部留保説
④社会留保説
⑤権力留保説
⑥重要事項留保説
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Written by ETO
①立法事項説
明治憲法下で唱えられていた学説。憲法が明示的に法律で定める旨を規定している事項に
ついてのみ法律の留保が及ぶとする。
ex.大日本帝国憲法 21 条
国民に納税義務を課す場合には、法律の留保が及んで根拠規範が必要である。
明示的に「法律に従う・服する」とされていた事項はかなり限定されており、その他の分
野においては、たとえ人の権利・自由を侵害するような場合でも行政は法律の根拠を必要と
することなく行動することができる、とされていた。つまり、行政の自由を広く認め、天皇
の行政権の地位の独立性を強調するものであった。
②侵害留保説*通説*
行政が私人の自由と財産を侵害するような行政活動についてのみ、法律の根拠が必要であ
るとする説。自由・財産の保護という限定的な観点から、行政機関の恣意・過度な干渉を抑
制しようとするものであり、かつ、それにとどまるものである。
これは逆に言えば、私人の自由・財産を侵害することを伴わないような行政活動は、法律
の根拠無く自由に行うことができる。行政の自由度を高める方が国民の利益に資するのでは
ないか、とも考えられていた。
ex.給付行政
補助金適正化法など、規制規範は存在するが、根拠規範は存在しない。
立憲君主制の下で形成された理論であるということが背景となっている。立憲君主制の下
において、君主は立法権から独立に自ら行動する固有の権限を持っていた。しかし、国民の
自由と財産を侵害するような行為を行うような場合についてのみ、法律の根拠が必要(国民
の代表である議会の同意を必要)とすることで、行政権をコントロールしようとした。
ex.内閣法
法律の委任がなければ、政令によって義務を課し、権利を制限することができない。
美濃部達吉博士が唱えて通説となり、現在でもなお通説として実務を支配している。
戦前と違う点は、根拠規範の中に法律のみならず地方公共団体の条例を含むという点。法
律の根拠に基づかない自主条例・固有条例であっても、住民代表機関であるので、条例によ
って住民に対して義務を課したり権利を制限したりすることができる。
批判
・憲法構造の変化
侵害留保説は、立憲君主制の下での理論であり、特定の事項で国民代表議会の関与(法律
の留保)が必要であることを除いて、君主が自由に活動することができる、ということが大
前提とされている。しかし、現在、立憲君主制が崩壊し、国民主権原理が可決されており、
もはや行政の自律性の観念(行政権が立法権から独立して固有の権限に基づいて活動しうる)
は妥当しないのではないか。
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Written by ETO
・国家像の変化、行政活動の複雑多様化
行政が単に社会の秩序を維持するだけではなく、より積極的な役割を果たすようになった。
消極国家・夜警国家から社会国家・福祉国家へと国家観が変化した。給付行政が重要な意味
を持つようになり、行政指導・行政計画といった手法(行為形式)も用いられるようになり、
行政が社会に対して様々な態様・手法で介入するようになり、非権力的な内容・手段を持っ
た行政が重要な意味を持つようになると、もはや権力的な信頼行政のみを主要な対象として
これも法律で縛る、といったことでは足りないのではないか。
③全部留保説
侵害的か否かを問わず、全ての行政活動に法律の根拠(国民の代表である国会の事前の承
認)が必要(全ての行政活動を法律に留保すべき)である。これは、国民主権原理や民主主
義の理念に基づき唱えられた。国会(国権の最高機関)の意思に全行政活動を従属させる。
批判
・行政の責任の観点から
現行憲法は、消極的な警察国家・夜警国家の権利に代えて、積極的な社会国家・福祉国家
の理念を掲げている。そうすると現代の行政は、国民の自由と財産を保護することのみを目
的とするのではなく、より積極的に社会に介入して国民の健康と福祉の維持・向上を図る役
割を担っていなければならない。そうであるなら、行政は、立法(法律)が不備である場合、
自らそれを補うことが要請されている。立法の不備を口実とする行政機関の怠慢を正当化す
ることになるのではないか。もしそれを避けようとして後発的な授権立法をすると、法律に
よる行政の原理を空洞化して(行政の原理の意義を失わせて)しまうのではないか。
・民主的なコントロールに関する批判
今日において、行政組織は国会を通じて国民に対して責任を負う、という体制が整えられ
ている(民主的コントロール下に置かれている)ため、民主主義の原理からして、当然に全
ての行政活動について議会の事前承認が必要である、ということにはならないのではないか。
・全て留保するということもおよそ現実的ではない。
④社会留保説
給付行政に着目した説。現在では国民の生存権・社会権の確保も行政の重要な任務となっ
ている。社会保障など給付行政の拡充・私人の生活の国家依存性の高まりからすると、適切
な配分を確保するためにこそ、給付行政にも法律の根拠が必要なのではないか、とする説。
批判
・あらゆる給付行政に法律の根拠が必要なのか。広範な給付行政を全て法律の留保に服さ
せることが現実に可能なのか。もし不可能ならば、どこに限界を置くのか。
・給付活動以外にも重要な行政活動が存在するが、それらを捨象して給付活動に限定して
法律の留保の拡大を図ることに合理性が存在するのか。
31
Written by ETO
⑤権力留保説*原田・金子・(藤田)*
権力的な行為については法律に留保する、という説。
行政庁が国民の同意の有無に関わらず、一方的・権力的に国民の権利義務を変動させる、
という際に、内容が侵害的(侵益的)か授益的かは問わずに、その手法(行為形式)に着目
して権力的な手法が用いられている活動について法律の根拠が必要である(法律の留保に服
せしめる)、と主張する。
行政が私人とは異なり権力的な手法を用いることができる、という点に着目したもの。近
代市民社会の原則において、人の権利義務の変動は本人の意思によらなければ生じ得ないが、
行政は一方的に人の権利義務を変動させることができる。近代市民社会の原則に照らして、
例外的な手法が用いられる場合には、それが法律によって根拠づけられなければならない。
批判
・権力とは何か。権力=行政者が一方的に国民の権利義務を変動させること。権力は、法
律以前に存在するものではない。法律によって初めて権力性が付与される。そうすると、法
律の定めがなければ権力的になり得ない、ということを意味するのにとどまるのではないか。
・ある行為に権力を付与するのは、根拠規範に限られるか。補助金は交付決定によるが、
ここで権力性を付与しているのは根拠規範でなく、規制規範としての補助金適正化法である。
権力的な行為形式を用いるかいなかは、根拠規範に限らず、規制規範についても存在する。
・権力留保説は、行政指導、計画、契約などに射程が及ばないため、侵害留保説に対する
正面からの批判になっていない。侵害留保説に代わるようなインパクトを持つ主張・見解で
はない。
⑥重要事項留保説(本質整理論)*大橋*
ドイツで 1970 年代に確立された判例理論に基づいている。行政に関する決定の内で、重
要事項、つまり国民にとって重要な結果を伴うものについては、法律の形式によらなければ
ならない(本質的な決定は議会自らが行わなければならない)。
侵害留保説を批判するのではなく、侵害留保説を中核としながら拡張を図っている。機能
の面から見て拡張しよう、という試みでもある。従来は侵害である、とは捉えられてこなか
った活動について、規制的な機能に着目して侵害留保説を拡張する。
ex.氏名の公表
従来は制裁ではなく、根拠規範は必要ではないとされてきたが、今日では、義務を履
行しなかったり行政指導に従わなかったりした場合に、事実や氏名を公表する、とい
う制裁的な機能をも帯びるようになってきた。これが国民に対して重大な不利益をも
たらすものであるから、法律の根拠が必要なのではないか。
考え方においては侵害留保説と共通しており、自由主義の理念に基づいている。侵害が機
能的に捉えられており、従来は侵害と考えることがなかったような事実上の行為(ex.氏名の
公表)についても実際としては制裁としての機能を持ちうるから、そういった場合には根拠
が必要。同時に、民主主義の観点をも追求しようとするものである。基本的・重要な行政施
策(ex.行政組織の基本的な枠組み、政策、計画、補助金)については、議会のコントロール
を及ぼすべきだ、とする。
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Written by ETO
批判
・重要事項とは何か。重要事項の基準は確定しがたいのではないか。
・法律の留保という議論が、出発点からして本質性留保という考え方に基づいたものであ
ったのではないか。今日における本質的事項(当初は自由と財産)とは何か。
法律の留保論争をどうしていくべきか
法律の留保の原則が、そもそも何を確保するための法理なのかを改めて問い直す必要があ
る、とも言われている。もともとは自由主義的な原理であった。しかし、より本質的には、
三段階構造、つまり、「強制行為」についてはそれに先行して「行政行為(個別的な法決定)」
が為されなければならないし、これに先行して「一般的なルール設定(法律策定)」が必要
である、とすることを通じて法の一般性・安定性・平等性といった価値を出現させようとし、
形式として法律(議会の討議を通じて民主的正当性・公開性が保障されている)が用いられ
るべきだ、という考え方に基づくもの。形式が確保されているだけでは十分ではなく、実質
を確保していく努力が必要。
法の一般原則
(P.82)
不文法源の一つ。法の一般原則については、法律による行政の原理と抵触が生じうる場合
がある。すなわち、違法な行政活動が為されて、しかし、それを信頼した市民が存在する場
合がしばしばあり得る。法律による行政の原理からすると、違法な行政活動は是正されるべ
きであるとされるが、市民の信頼を保護するという見地から、違法な行政活動であってもそ
れを維持することが要求される場合もある。
①信義誠実の原則
②権限濫用禁止の原則
③比例原則
④平等原則
①信義誠実の原則
信義誠実の原則は、もともと私人間の法律関係を規律する原則として成立した(民法 1 条
2 項)。これが行政にも適用される。
判例国家公務員に対する国の安全配慮義務(最判昭和 50・2・25、百選 28)
概要
百選参照。
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Written by ETO
Y(国)が使用者として A(公務員)に対して負っていた安全配慮義務を怠ったという主
張が認められるか否かが一つの論点とされた。
判旨
百選参照。
国と公務員との関係については、特別権力関係論である、とされてきた。
この最高裁判決では、国と公務員の関係における安全配慮義務は、信義則上負う義務とし
て一般的に認められるべきものである、とした。信義則は公法関係においても適用可能であ
るので、国は公務員に対して安全配慮義務を負う、と理論構成されている。すなわち、安全
配慮義務という概念を先行させた上で、一般的な法原理・法思想によって実定法を補充する、
という形が取られている。
公務員関係だけでなく、民法上の雇用契約・労働関係についても安全配慮義務が存在する
ことを明らかにしている。かつ、安全配慮義務違反は債務不履行であって、それに基づく損
害賠償請求は可能である、ということも明らかにした。これらの意味において民法において
も鮮明的な価値を持つと評されている。
判例法律による行政の原理との抵触が生じる場合(最判昭和 62・10・30、百選 26)
概要
45 年までは A の名義で青色申告をしていたが、46 年以降は青色申告の承認を受けていな
い X 自信の名義で青色申告を行った。それに対して Y 税務署長は承認を受けていない X の
青色申告を受理してしまった。また、47 年から 50 年分については青色申告用紙を X に送付
し、所得税額を収納し続けた。Y は A について承認を受けていないことを把握して、51 年 3
月になって白色申告であるので、更正決定をし過尐申告加算税の賦課決定を行った。これに
対して X が訴えを提起した。
論点・争点
信頼が保護されるべきか、ということが本件の論点となった。
判旨
百選参照(l.8~、
「制度のもとにおいては…不可欠のものであるといわなければならない。」
「税務署長が納税者の…ならない。」)。
一審・二審は、信義則を適用して違法であるとしたのに対し、最高裁は、信義則の適用は
認められないとした。
確かに、租税法律主義の支配する租税法の領域において、信義則の適用は慎重でなければ
ならない。合法性の原則が納税者の信頼の保護をいかなる場合においても排斥しうることを
意味するものと解すべきではないこともまた確か。
本判決自身も、租税法規に適合する課税処分について法の一般原則である信義則の法理の
適用により、右課税処分を不法なものとして取り消すことができる場合がある、ということ
は認めている。一定の場合には、合法性の原則を犠牲にしても、課税処分について信義則を
適用し、納税者の信頼を保護すべき場合がある、ということ。
信義則は、納税者間の平等・公正という要請を犠牲にしてもなお、納税者の信頼を保護し
なければ正義に反すると言えるような「特別の事情」がある場合に適用される。
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Written by ETO
尐なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる「公的見解を表示」したこと、納
税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、のちに右表示に反する課税処分
が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになった、また、納税者の責めに
帰すべき事由がないかどうか、という要件が必要。
本件については、公的見解の表示に反する処分であるということはできないので、要件を
満たさず、信義則の適用をすることができない、とされた。
判例法律による行政の原理との抵触が生じない場合(最判昭和 56・1・27、百選 27)
概要
百選参照。
判旨
百選参照。
村が政策を変更すること自体は当然である。前村長の政策に反対して、それを変更するこ
とを公約に掲げて当選した新村長が住民の意思に基づいて政策を変更することは当然である。
しかし、本件のような状況のもとでは、X の被った損害を填補する責任が信義則上生じる。
「特定の者に対して右政策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的・具体的な勧
告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提
としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場
合」(かなり限定されている)、信頼は保護される。「社会観念上看過することのできない
程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置
を講ずることなく施策を変更することは、やむをえない客観的事情によるのでない限り、当
事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不
法行為責任を生ぜしめる」。
政策の変更自体を問題としているのではなく、政策の変更に当たって村側が X のために果
たす義務を果たさなかったことを問題としている。よって、それに基づいて信義則上の責任
を認めるということは、法律による行政の原則との抵触を生じさせるものではないのであり、
こういった場合には、より柔軟に信義則の適用が認められる。
②権利濫用禁止の原則
権利濫用禁止の原則は、もともとは私人間の法律関係を規律する原則として成立した(民
法 1 条 3 項)。これが行政にも適用される。
判例行政権の濫用(最判昭和 53・5・26、百選 31)
概要
百選参照。
判旨
「…行政権の著しい濫用…損害賠償はこれを認容すべきである。」
本件で、児童遊園の認可は形式上適法に為されている。しかし、その目的が個室付浴場の
開業を阻止する、というものであり、法律上規制される状況を敢えて行政側が創り出した。
それが違法とされた。
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Written by ETO
③比例原則
行政が達成しようとしている「目的」とその目的達成のための「手段」との間には、合理
的な比例関係がなければならない。
もともとはドイツにおいて、警察(公共の秩序を維持するために、私人の自由と財産を制
限するような権力的な活動)権の限界に関する法理の一つ「警察比例の原則」として形成さ
れた。
この原則は 2 つの原則からなる。
1.必要性の原則
2.過剰規制の禁止の原則
1.必要性の原則
警察作用が為されるのは、必要な場合でなければならない。
2.過剰規制の禁止の原則
必要なものであっても、目的と手段が比例していなければならない。目的に対して過剰な
手段というものは、禁止される。
今日では、警察活動だけでなく、行政の権力的な作用一般について比例原則の適用がある
と言われている。
cf.過剰な規制を禁止するという点において、アメリカの違憲審査の際に用いられる
LRA の法理(より制限的でない代替手段、ある目的を達成するために制限的でない
代替手段が存在する場合は当該規制を違憲とする)に類似している。
批判
行政の相手方との関係において過剰な規制を禁止する、ということで、二面関係を念頭に
置いて形成されてきた原則である。しかし、今日では三面関係をも念頭に置いて比例原則を
考えていかなければならないのではないか、ということが言われている。
とりわけ、環境規制・安全規制などの領域においては、規制によって利益を受ける人がい
る。規制をされる人に対して比例原則を適用すること(規制に消極的になること)について
は、規制によって利益を受ける人の期待に反して第三者の利益を損なう恐れがある。規制に
よって利益を受けるものを含めた三面関係において、規制権限の発動の是非を考えていく必
要があるのではないか。
④平等原則
行政による平等な取り扱いを要請する原則。行政は同じ条件にあるものを不合理に差別し
てはならない、という原則。この原則は、権力的作用だけでなく非権力的な作用についても
要請されるし、行為形式の如何に関わらず適用されるもの。この原則は、法律による行政の
原理との抵触が生じ得る。
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判例スコッチライト事件(大阪高判昭和 44・9・30)
概要
スコッチライトを輸入しており、税関で 30%の関税をかけられていた。他の税関において
は税率 20%での取り扱いが一般的だった。その後、大蔵省の通達により 30%で統一された。
原告は自己に対する課税処分が違法であると主張できるか。
判旨
法定税率を軽減した取り扱いが全国で慣行となっており、法定税率との差額が追徴される
こともなく、追徴される見込みもない時は、原告に対する処分は違法である、とした。
法定税率に従っていた処分が平等原則違反を理由に違法とされた(租税法律主義よりも租
税平等主義が優先された)、ということである。ただし、これは例外。あくまで原則は租税
法律主義・法律による行政の原理が優先する。
現在では、現代型一般原則(説明責任の原則・透明性の原則・効率性の原則)が法の一般
原則としての地位を占めるに至ったと説明されはじめている。
法の一般原則について若干のまとめ
法の一般原則について、行政法においては法治主義・法律による行政の原理が問題となる。
これが民法とは違う(行政法の特色)。
このような状況の中で、一方で、法の一般原則を消極的に評価する見解も存在する。
法の一般原則は、もともと、民事・商事の法関係における具体的な適用形態を通して形成
されてきたものであるので、全く利益状況の異なる行政法関係においてこれを適用・援用す
ることは、ほとんど法論理を放棄するに等しいものである、とする。*藤田*
他方で、法の一般原則を積極的に評価する見解も存在する。
法の一般原則の適用によって、法治主義の形式的な適用をチェックすることができる。法
令の画一的・硬直的な適用が適切な結果をもたらさない場合に、法の一般原則が生きてくる、
とする。とりわけ信頼保護に関して、社会保障の場面において、給付が数年間行われた後に
その給付の違法性が明らかになり給付が取り消されたという場合に、法律による行政の原理
からすると、違法な給付は当然打ち切られるべきだが、相手方の生活・信頼の保護の見地か
らは、その取消の制限や救済手段が必要だと言われる。*芝池*
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