海外探訪紀 - Perugia

藤岡靖洋の
海外探訪紀
欧州ジャズフェス(後篇)
取材期間:2015年7月13日(月)~ 19日(日)
ペルージャのウンブリア・ジャズ2015
文:中野芳子、藤岡靖洋
写真:中野芳子、藤岡靖洋*
Text & Photos:Yoshiko Nakano, Yasuhiro Fujioka*
サンタ・ジュリアーナ(Santa Giuliana)
なかの・よしこ 外資系企業勤務。旅の
愉しさを伝えるジャーナリスト=ジャー
“ニ”リスト
http://journeylist-yoshiko.com/wp/ 写真&旅行記を順次公開予定。
ふじおか・やすひろ ジョン・コルトレ
ーン研究家。米NY《コルトレーン・ホ
ーム》保存役員。岩波新書『コルトレー
ン:ジャズの殉教者』(2011年)他
❸メイン会場「Arena Santa Giuliana」
❷歴史的な街並みのペルージャ
演奏している。
屋外ステージが設営されている。その先には
メイン会場の屋外スポーツスタジアム「サ
歌舞伎座のような伝統のある歌劇場「モルラ
ンタ・ジュリアーナ」❸は、東京でいえば、
ッキ歌劇場」❺がある。東京が10 ~ 15分の
何かと話題の国立競技場で、毎夜そこに大物
徒歩圏内にぎゅっと凝縮された感じなのだ。
アーティストが登場する。そこから人でごっ
た返すメインストリート、コルソ・ヴァンヌッ
トニー・ベネット&レディ・ガガ
チまでは5~ 10分ほどで行けちゃう近さ。宮
チーク・トゥ・チーク・ツアー
イタリア中部ペルージャのウンブリア・ジ
殿あり、国立美術館あり、銀座大通りのよう
ャズでは日本から参加の美女4名がプレスパ
にお店やオープンカフェも並んでいる。サン・
今回のフェスの中でも、一番の集客はこの
ス(取材許可証)を取得し、連日連夜取材し
ロレンツォ大聖堂や噴水フォンターナ マッジ
ふたり。5千人収容のメイン会場に、6千人
てくれました❶。
ョーレのある「11月4日広場」❹では、無料
の観客を入れた。この夜、セキュリティは段
前回の南フランス地中海、ジャズ・ア・ジ
違いに厳しかった。印籠のようなプレスパス
ュアンに引き続き、今回のウンブリア・ジャ
をもってしても、バックステージは立入禁止。
ズも、美女の一人中野芳子さんにレポートし
実はライヴ直前に開催関係者からバックステ
て頂きます。
ージに入れてあげようか? と言っていただ
❶日本から参加の美女4名*
いた。なのに遠慮してしまったら、よんどこ
ジャ大学で有名な学生の街でもあり、Baci
中野芳子レポート
ろない事情で客席エリア左側の地べたに座っ
チョコレートでも有名。10月にはヨーロッパ
最大級のユーロ・チョコレート・フェスティ
バルがあると聞き、この街に暮らしてみたく
ウンブリア・ジャズ =街中がライブ会場のよう
なってしまった。美術館も楽しめるし、なに
❹サン・ロレンツォ大聖堂*
よりもその歴史的な街並み自体が美しい❷。
中田英寿がA.C.ペルージャ(現ペルージ
ウンブリア・ジャズ開催中のペルージャは、
ャ・カルチョ)に在籍していたことで記憶し
街が音楽漬け。朝から晩まで歩けばストリー
ている人が多いだろうこの街は、こぢんまり
トミュージシャンにぶつかり、まるでテーマ
としている。中心部は2~3日歩けば、大体
パークにいるかのよう。
点在する屋内外の大・
どんな地理かわかってくるし、現地の人と一
小の会場で、いつもだったら半年前からチケ
緒だと、そこかしこに友達がいて手を振って
ットを購入して待ちに待って聴きに行くよう
くれるアットホームな雰囲気なのだ。ペルー
な、魅力的なアーティストたちがあちこちで
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❺オペラハウス「Teatro Morlacchi」
❻Tony Bennett & Lady Gaga
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てライヴを観ることになってしまった。ステ
ージ左3分の1は見切れるし、みんな煙草を
モルラッキ歌劇場とオーディエンス
プカプカ吸って、その吸殻は床にそのままポ
イ捨てするし。おかげで私はステージ演出の
1781年に開場したこの優雅な佇まいの歌
スモークではなく、煙草の煙に燻されこの豪
劇場で、真夜中にジャズを聴くのは、ユニー
華なライヴを観ていた。それはそれで面白が
クで素敵な体験だった。昨夏に、平成中村座
っていたら、終盤に幸運は訪れた。ステージ
がNYの「ローズシアター」
(ジャズ・アット・
真下に駆け寄ることができ、レディ・ガガは
リンカーン・センター)で歌舞伎公演をした
私の目の前にいたのだ!❻
が、その逆も然り?! 歌舞伎座でジャズを聴
一言でいうなら、ゴージャス。衣装がどう
けたら、どんなだろうか…
だからとかじゃなく、ゴージャス。透き通る
プレスパスで劇場の裏口から入り、ステー
ような美しいマインド、言うまでもない歌唱
ジ袖から息を潜めてパフォーマンスを観る。
力・パワフルさ。また、89歳であれだけ歌
(ジョバンニ・グイディ・トリオを観る機会
い上げられるトニー・ベネットの秘密は何だ
もあった❼)ステージから観客の様子を観る
ろう。彼の温かいハート・人柄も滲み出てい
のは毎回エキサイティングな体験だった❽。
こういう拍手喝采、熱気を感じて演奏してる
た。ジャズファン枠を超えて、会場にいた老
私は、何がきっかけか覚えていないくらい
のだなぁ…と、ちょっといい気分も味わって
若男女全ての心がつかまれているのを、盛り
昔から、ストリートパフォーマンスや舞台、
しまった(笑)
。
上がりから感じた。
ライヴ鑑賞中に、観客の表情を見るのが好き
そんな熱狂的なライヴの後、余韻に浸る間
で、後ろをよく振り向いてしまう。傍から見
もなく、人でごった返す街を通り抜けてモル
たら変な人に見えるだろうから、一瞬しか振
ラッキ歌劇場へ向かうと、ちょうどイギリス
り向けないけど(笑)
、だから今回自分がス
ウンブリア・ジャズ2015最終日の華を飾っ
のゴーゴー・ペンギンが演奏していた。思っ
テージ側から客席側をじっくり眺められて感
たのは、
アーロン・ディール(p)トリオだった。 終電が気になる23時頃。しかしウンブリア・
ていた以上にメンバーが若い! 演奏自体は
激だった。観客の笑顔、演奏に惹き込まれて
ジュリアードでジャズにクラシックに確かな
ジャズはまだまだ終わらない!
個人的に好きだが、スウェーデンのグラミー
いる非日常体験中の表情が素敵で、見ている
技術を叩き込んだピアニスト、アーロン・デ
「モルラッキ歌劇場」のライヴは深夜0時頃
賞受賞ピアノトリオe.s.t.とダブって仕方が
こちらも幸せな気分になる。その上、スタン
ィールの演奏は、安定した中に遊び心がある。 の開始。終了は、深夜2時過ぎ! 劇場の外に
なかった。ペンギンよ、これから何処へ行
ディングオベーションの時は、自分が演奏し
満面の笑みを浮かべながら、なんとも楽しそ
く? 頑張って!
たわけでもないのに、ミュージシャンたちは
❾Aaron Diehlと「Morlacchi」の舞台袖で*
❿Aaron Diehl Trioを舞台袖から鑑賞
うに演奏する姿が印象的だった❾❿。
深夜3時の喧騒と
サン・ロレンツォ大聖堂の静寂
アーロン・ディール・トリオ
毎日、メイン会場でその日の目玉イベント
開始が夜21時過ぎ。終了は、日本だったら
出ると、外にはまだ人人人の波。まるでサッ
カー日本代表戦の夜の渋
谷センター街のようだっ
た。真夜中の3時なのだ
けど、雰囲気に踊らされ、
ついつい地ビールとピザ
を頬張ってしまう⓫⓬。
朝、
「サン・ロレンツ
ォ大聖堂」⓭に入り、し
ばし街の喧騒から離れて
静かにたたずむ時間も貴
⓫深夜3時のビールとピザ*
❼Giovanni Guidiトリオを舞台裏から鑑賞するスリル
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❽「Morlacchi」の客席を俯瞰する特権
⓬深夜3時で、この賑わい! 普段は静かな
学生の街も、このお祭り騒ぎの間は、まるで
渋谷センター街のよう
重だった。教会の扉を開
くと、ストリートミュー
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ウンブリア・ジャズ2015
Robert Glasper と「Santa Giuliana」の楽屋で*
Herbie Hancock & Chick Coreaと「Santa Giuiana」で*
Funk Offのリーダー、Darioとメインストリ
ートのCorso Vannucciにて*
ペルージャ市長賞(baiocco d’oro)を受賞するジョバンニ・
グイディ*
Joshua Redman「Santa Giuliana」で
Ravi Coltrane(ss,ts)と「Morlacchi」の楽屋で*
Tony Bennett & Lady Gaga
Joshua Redman
Danilo Reaと「Morlacchi」のステージ上で*
Dado Moroni(p)と「Morlacchi」の舞台袖で*
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⓭サン・ロレンツォ大聖堂前の噴水
⓮丘のふもとに白く見える世界遺産アッシジ
ジシャンの演奏が聴こえてくる。
はどれもセ
静寂といえば、街から車でたった15分程
ンスがよい
走ると静かな森に入る。パリと同じような感
ので、私も
じがした。世界遺産のアッシジ、サンフラン
記念に一枚
チェスコ聖堂と関連修道施設群も山の中腹に
購入した。
見ることができる⓮日程に余裕があれば、足
観光客を
を伸ばすのもいいだろう。
誘致したい
という街に
ウンブリア・ジャズ 成功の鍵
とって、こ
のフェスは
ウンブリア・ジャズ最終日に出席した記者
よいモデル
会見で、このフェスのミッションのひとつは、 ケースだ。
「イタリア国内外の才能ある若者、アントレ
プレナーにチャンスの場を提供すること」だ
日本人にも
⓯ANSA(欧州版共同通信社)から「キ
モノ記者」の記事が発信されました
もっと知られることを願う⓯。
と知り感銘を受けた。スポンサーの食材会社
コナッドのジャズ・コンテストや、今年30
周年を迎えたバークリー・イン・ウンブリア・
中野芳子さんの欧州ジャズフェスレポート、
ジャズ・クリニックでは、バークリー音楽大
お楽しみいただけましたでしょうか? 藤岡
学から派遣された音楽家から12日間の指導
は、今夏の旅程を更に2週間延ばしてイタリ
を受ける機会が与えられる。
ア半島のつま先、カラブリア州ロッチェラ・
スポンサー企業が確保できて、このような
ジャズ・フェスティバルを取材いたしました
社会貢献に寄与することでこのフェスは成功
のでこちらはたっぷり次号でお伝えします。
している。10日間でこの小さな街に45万人
なお注目のロベルト・オルサー(p)トリ
が集い、3〜5千枚のチケットの売上は日本
オは澤野工房と契約、新録を9月にイタリア
円にして約2億円。Tシャツなど、オリジナ
で敢行。新作CD発売の話題も次号でお伝え
ルグッズの売れ行きも好調だった。デザイン
いたします。
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